説明

超音波探触子、超音波画像診断装置及び超音波探触子の製造方法

【課題】超音波の伝播損失が少なく、超音波の透過率が良好な超音波探触子及び超音波画像診断装置に関する技術を提供する。
【解決手段】圧電素子層5、音響整合層6、音響レンズ9を備えた超音波探触子1において、音響レンズ9は樹脂架橋組成物からなり、その音響レンズ9の中央側から、音響レンズ9の厚み方向と交差する方向に離間するにつれて、超音波の伝播速度が大きくなるように、樹脂架橋組成物の架橋密度を調整して形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波探触子、超音波画像診断装置及び超音波探触子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波画像診断装置は超音波パルス反射法により、体表から生体内の軟組織の断層画像を低侵襲に得る医療用画像機器である。この超音波画像診断装置は、他の医療用画像機器に比べ、小型で安価、X線などの被爆がなく安全性が高い、ドップラー効果を応用して血流イメージングが可能等の特長を有している。そのため、循環器系(心臓の冠動脈)、消化器系(胃腸)、内科系(肝臓、膵臓、脾臓)、泌尿科系(腎臓、膀胱)、及び産婦人科系などで広く利用されている。
【0003】
このような医療用超音波画像診断装置に使用される超音波探触子には、高感度、高解像度の超音波の送受信を行うために、ジルコン酸チタン酸鉛を材料とした圧電素子が一般的に用いられる。こうした超音波探触子としては、単一型探触子であるシングル型、又は複数の探触子を1次元配置または2次元配置したアレイ型探触子がよく使用される。アレイ型は精細な画像を得ることができるので、診断検査のための医療用画像として広く普及している。
【0004】
そして、高調波信号を用いたハーモニックイメージング診断は、従来のBモード診断では得られない鮮明な診断像が得られることから標準的な診断方法となりつつある。
ハーモニックイメージングを行うために十分な超音波信号を得るには、基本波よりも周波数が高く減衰しやすい高調波をいかに効率的に受信できる設計とするかが重要になる。
【0005】
そのため、超音波探触子には、超音波のビームを収束させて分解能を向上させる音響レンズが設けられている。音響レンズは被検体(生体)と密着させるので、被検体と密着させやすく、診断に使用する周波数において減衰率の小さい材料が求められている。
従来、このような材料としてシリコーンゴムが主に用いられている。シリコーンゴムは、被検体(生体)より音波の伝播速度(以下、音速ともいう)が小さい(遅い)ので、シリコーンゴム製の音響レンズは、その断面形状の中央部を凸状に形成し、超音波が中央の厚みの厚い部分を通過する時間を、厚みの薄い部分より長くして超音波を収束させるようにしている。
但し、シリコーンゴムは超音波の伝播損失が大きいため、超音波探触子の送信感度・受信感度を向上させるには難しい材料であった。伝播損失は周波数に依存し、高周波では特に伝播損失が大きくなるため、高周波である高調波信号を用いたハーモニックイメージングには不向きな材料であるといえる。
【0006】
そのシリコーンゴムと比較して伝播損失の少ない材料としては、例えばポリメチルペンテンが知られている。ポリメチルペンテンは被検体(生体)より音速が大きい(速い)ので、ポリメチルペンテン製の音響レンズは、その断面形状の中央部を凹状に形成して、超音波を収束させるようにする必要がある。
但し、音響レンズの断面形状が凹状である場合、被検体(生体)の表面との接触性が悪く、超音波ゼリーを使用した場合には、音響レンズと被検体(生体)の間に気泡が混入するなどして、鮮明な画像が得られないことがある。
こうした不具合を解消するため、ポリメチルペンテンを用いた凹状の音響レンズの平坦面側を生体接触側、凹面側を圧電素子側とし、その凹状の部分を音響媒体で埋めて空気層を介在させないようにした音響レンズが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0007】
また、圧電素子から離間するにつれて含有割合が変化するように添加物を添加し、圧電素子と音響レンズとの間の音響インピーダンスを徐々に変化させるようにして超音波の送受信感度を向上させた音響整合レンズを備えた超音波プローブに関する技術が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0008】
また、レンズの中央部の両側に、その中央部から離間するにつれて超音波の伝播速度が大きくなるように複数の層から構成された周辺部を備え、その断面形状を平面状とするように形成されてなる音響レンズに関する技術が知られている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平6−254100号公報
【特許文献2】特開2006−263385号公報
【特許文献3】特開2010−252065号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記特許文献1の場合、ポリメチルペンテン製の音響レンズの凹部を埋める音響媒体がシリコーンゴムであると、その分、伝播損失が大きくなってしまうという問題があった。
【0011】
また、上記特許文献2の場合、音響整合レンズは、圧電素子との間の音響インピーダンスが徐々に変化する音速分布を有しているが、この音響整合レンズはシリコーンを基材とする凸面形状を有しているので、依然として超音波の伝播損失が大きいという問題があった。また、この音響整合レンズはシリコーンを基材としているため、物理的強度の弱いシリコーンが摩耗するなど変形してしまい、そのレンズにおける焦点距離が変化して超音波の収束性が悪化してしまうという問題があった。
【0012】
また、上記特許文献3の場合、周辺部の複数の層に添加する微粒子状の添加剤の量を調整することで、超音波の伝播速度を異ならせているため、超音波が微粒子によって散乱してしまい、超音波の透過率が減少してしまうという問題があった。
【0013】
本発明の目的は、超音波の伝播損失が少なく、超音波の透過率が良好な超音波探触子及び超音波画像診断装置に関する技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
以上の課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、
超音波を送受信する圧電素子部と、
前記圧電素子部から送信された超音波をレンズ面から出射して所定の焦点距離に収束させる音響レンズと、
前記圧電素子部と前記音響レンズの間に配されて、前記圧電素子部と前記音響レンズの間での音響インピーダンスを整合させる音響整合層と、
を備えた超音波探触子において、
前記音響レンズと前記音響整合層の少なくとも一方は、樹脂架橋組成物を含み、
前記樹脂架橋組成物は、前記樹脂架橋組成物の中央側から、前記樹脂架橋組成物の厚み方向と交差する方向に離間するにつれて、超音波の伝播速度が大きくなるように、超音波の送信方向に垂直な面内で架橋密度が調整されて形成されていることを特徴とする。
【0015】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の超音波探触子において、
前記樹脂架橋組成物は、前記樹脂架橋組成物の中央側から、前記樹脂架橋組成物の厚み方向と交差する方向に離間するにつれて、架橋密度が高くなるように形成されていることを特徴とする。
【0016】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の超音波探触子において、
前記樹脂架橋組成物は、前記樹脂架橋組成物に照射した電子線強度に応じて架橋密度が調整されていることを特徴とする。
【0017】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3の何れか一項に記載の超音波探触子において、
前記樹脂架橋組成物は、前記樹脂架橋組成物に添加した架橋剤の添加量に応じて架橋密度が調整されていることを特徴とする。
【0018】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4の何れか一項に記載の超音波探触子において、
前記音響レンズは、前記樹脂架橋組成物を含み、
前記音響レンズは、前記音響レンズの中央側から、前記音響レンズの厚み方向と交差する方向に離間するにつれて、超音波の伝播速度が大きくなるように前記樹脂架橋組成物の架橋密度が調整されて形成されていることを特徴とする。
【0019】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の超音波探触子において、
前記レンズ面は平面状であることを特徴とする。
【0020】
請求項7に記載の発明は、請求項1〜4の何れか一項に記載の超音波探触子において、
前記音響整合層は、前記樹脂架橋組成物を含み、
前記音響整合層は、前記音響整合層の中央側から、前記音響整合層の厚み方向と交差する方向に離間するにつれて、超音波の伝播速度が大きくなるように前記樹脂架橋組成物の架橋密度が調整されて形成されていることを特徴とする。
【0021】
請求項8に記載の発明は、超音波を被検体に向けて送信し、その被検体から受信した超音波の反射波に応じて画像を形成する超音波画像診断装置において、
請求項1〜7の何れか一項に記載の超音波探触子を備えることを特徴とする。
【0022】
請求項9に記載の発明は、請求項1〜7の何れか一項に記載の超音波探触子の製造方法であって、
架橋剤を含有した樹脂材料を平板状に形成したプレート部材に対し、電子線を照射して前記樹脂架橋組成物を形成する電子線照射工程を含み、
前記電子線照射工程において、前記プレート部材の中央側よりも、その中央側から前記プレート部材の厚み方向と交差する方向に離間する程、前記プレート部材に照射する電子線強度を強くして、前記樹脂架橋組成物の架橋密度を調整することを特徴とする。
【0023】
請求項10に記載の発明は、請求項9に記載の超音波探触子の製造方法において、
前記電子線照射工程は、前記プレート部材の一部分にマスクを配した状態で電子線を照射することを、前記マスクの配置を切り替える度に繰り返して、前記樹脂架橋組成物の部分毎に架橋密度が異なるように調整することを特徴とする。
【0024】
請求項11に記載の発明は、請求項9に記載の超音波探触子の製造方法において、
前記電子線照射工程は、部分毎に電子線の透過率が異なるマスクを介して前記プレート部材に電子線を照射して、前記樹脂架橋組成物の部分毎に架橋密度が異なるように調整することを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、超音波の伝播損失が少なく、超音波の透過率が良好な超音波探触子及び超音波画像診断装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】超音波画像診断装置の外観構成を示す斜視図である。
【図2】超音波画像診断装置の内部構成を示すブロック図である。
【図3】超音波探触子を示す概略図である。
【図4】音響レンズを示す概略斜視図である。
【図5】音響レンズが超音波を収束させる原理を示す説明図である。
【図6】音響レンズの製造工程を示す説明図(a)(b)(c)(d)である。
【図7】音響レンズの送信感度に関する説明図である。
【図8】音響レンズの製造方法を示す説明図(a)(b)(c)(d)である。
【図9】超音波探触子の変形例を示す概略図である。
【図10】音響整合層の製造工程を示す説明図(a)(b)(c)(d)である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に、本発明を実施するための好ましい形態について図面を用いて説明する。但し、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、発明の範囲を以下の実施形態及び図示例に限定するものではない。
【0028】
(超音波画像診断装置)
超音波画像診断装置は、生体等の被検体に対して超音波(超音波信号)を送信し、被検体内で反射した超音波の反射波(エコー)を受信して、その受信波に基づき、被検体内の内部状態を超音波画像として画像化して表示する医療用の装置である。
図1は、本実施形態における超音波画像診断装置の外観構成を示す図である。図2は、本実施形態における超音波画像診断装置の電気的な構成を示すブロック図である。
【0029】
超音波画像診断装置100は、図1、図2に示すように、装置本体10と、装置本体10にケーブル17を介して接続された超音波探触子1(1a)を備えている。
装置本体10は、例えば、操作入力部11、送信回路12、受信回路13、画像処理部14、表示部15、制御部16等を備えている。
【0030】
超音波探触子1(1a)は、被検体に対して超音波(超音波信号)を送信し、被検体内で反射した超音波の反射波を受信する。超音波探触子1(1a)は、ケーブル17を介して装置本体10と接続されており、送信回路12、受信回路13と電気的に接続されている。
【0031】
送信回路12は、制御部16の指令により、ケーブル17を介して超音波探触子1(1a)に電気信号を送信し、超音波探触子1(1a)から被検体に向けて超音波を送信させる。
受信回路13は、超音波探触子1(1a)が受信した被検体内からの超音波の反射波に応じた電気信号を、制御部16の指令により、ケーブル17を介して超音波探触子1(1a)から受信する。
【0032】
画像処理部14は、制御部16の指令により、受信回路13が受信した電気信号に基づいて被検体内の内部状態を超音波画像として画像化する。
表示部15は、制御部16の指令により、画像処理部14が画像化した超音波画像を表示する。この表示部15は、例えば、液晶パネルなどから成る。
【0033】
操作入力部11は、スイッチやキーボードなどから構成されており、ユーザが診断開始を指示するコマンドや、被検体の個人情報等のデータを入力するために設けられている。
制御部16は、CPU、メモリなどから構成されており、操作入力部11から入力されたコマンド等に基づき、予めプログラムされた手順に従って超音波画像診断装置100(装置本体10)の各部の制御を行う。
【0034】
(超音波探触子)
次に、超音波画像診断装置100の超音波探触子について説明する。
【0035】
超音波画像診断装置100の超音波探触子の実施形態1について説明する。
なお、本実施形態では、単一の圧電素子で超音波の送受信を行う超音波探触子を例として説明するが、本発明はこれに限定されず、複数の圧電素子(例えば、送信用圧電素子と受信用圧電素子)を有する超音波探触子にも適用できる。
また、以降の説明では各種方向を、図中のX、Y、Zで示す座標軸に基づいて説明する。X軸方向はエレベーション方向、Y軸方向は圧電素子の配列方向(走査方向)、Z軸正方向は超音波を送信する方向である。
【0036】
超音波探触子1は、例えば、図3に示すように、圧電素子層5、音響整合層6、音響レンズ9等を備えている。
具体的に、超音波探触子1は、バッキング材2の上に第2電極25、圧電素子層5、第1電極56、音響整合層6、音響レンズ9が順に、Z軸方向に積層された構成を有している。
なお、第2電極25、第1電極56は、他の構成層に比べて極薄い部材(薄膜)であるため、図3中、界面における線状の部材として図示している。
【0037】
圧電素子層5は、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛などの無機圧電材料、ポリフッ化ビニリデンまたはフッ化ビニリデンの共重合体などの有機圧電材料、無機圧電材料と有機圧電材料を複合化させた材料、などの圧電材料から成る圧電素子であり、厚み方向の両面に対を成す第1電極56、第2電極25を備えている。
この圧電素子層5の厚さは要求される送受信周波数により異なるが、概ね10〜200μm程度である。なお、圧電素子層5は、例示した単層構造体に関わらず、2枚以上素子層を積層した積層構造体であってもよい。
【0038】
第1電極56、第2電極25は、図示しないフレキシブルプリント基板やコネクタによってケーブル17と接続されており、ケーブル17を介して送信回路12と接続している。そして、送信回路12から第1電極56と第2電極25に電気信号が入力されると圧電素子が振動し、圧電素子層5からZ軸正方向に超音波を送信するように構成されている。
また、第1電極56、第2電極25は、図示しないコネクタによってケーブル17と接続されており、ケーブル17を介して受信回路13と接続している。そして、圧電素子層5が被検体で反射した超音波の反射波を受信して圧電素子が振動すると、その振動に応じて圧電素子を挟んだ第1電極56と第2電極25の間に電気信号が発生する。第1電極56と第2電極25の間に発生した電気信号は、ケーブル17を介して受信回路13で受信され、画像処理部14で画像化される。
この第1電極56と第2電極25は、圧電素子層5の両面にそれぞれ、金、銀、アルミなどの金属材料の薄膜が、蒸着法やフォトリソグラフィー法により成膜されて形成された電極である。
なお、第1電極56、第2電極25、圧電素子層5が積層された部分が圧電素子部として機能する。
【0039】
音響整合層6は、例えば、被検体の一つである人体と圧電素子層5の音響インピーダンスの中間の音響インピーダンスを有し、圧電素子層5と音響レンズ9の間での音響インピーダンスの整合を図る機能を有する。音響整合層6は、例えば、樹脂材料を成型してなる部材である。
この音響整合層6に用いられる材料は、音響インピーダンスが1.7〜20程度で、音速が2000m/s以上、4000m/s以下の材料であることが好ましい。例えば、エポキシ樹脂やエポキシ樹脂と無機材料からなるフィラーを混合したもの、マシナブルセラミックなどを好適に用いることができる。
【0040】
上記した、第1電極56と第2電極25が形成された圧電素子層5と、音響整合層6が順に、バッキング材2の上に積層されて、それぞれが接着剤により接着されている。
そして、バッキング材2に圧電素子層5と音響整合層6を接着した後、音響整合層6側から超音波放射方向と反対の方向に向かってダイシングが行われて、各素子を電気的に絶縁する素子分割が行われている。そのダイシングによって形成された溝部(図示省略)に、シリコーン樹脂などから成る充填剤を充填した後、音響整合層6の上の最上層に音響レンズ9が接着されて積層される。
【0041】
音響レンズ9は、圧電素子層5から送信された超音波を所定の焦点距離に収束させる機能を有する。なお、音響レンズ9は、少なくとも一つの方向(本実施形態ではX軸方向)について超音波を集束させる機能を有していればよく、必ずしも全ての方向について超音波を1点に集束させるものでなくてもよい。また、被検体の一つである人体と圧電素子層5の音響インピーダンスの整合を図るという、音響整合層6と同様の機能も有している。
音響レンズ9は、図3、図4に示すように、中央部7と、中央部7の両側にそれぞれ配された周辺部8とから構成されている。
なお、以降の説明では各種方向を、図中のX、Y、Zで示す座標軸に基づいて説明する。X軸方向はエレベーション方向(ダイシング溝方向)であり、Z軸正方向は超音波を送信する方向である。
【0042】
音響レンズ9は、図4に示すように、X軸方向の幅がW、Y軸方向の長さはL、Z軸方向の厚さはHの直方体形状を呈している。Z軸と直交する配置で対を成す2面のうち、Z軸負方向の下面は、図示しない圧電素子から放射した超音波が入射させるレンズ面であり、Z軸正方向の上面は図示しない被検体に密着させ被検体の内部に超音波を出射させるレンズ面である。このZ軸方向の両面で対を成す2面のレンズ面はともにX−Y面に平行な平面状に形成されている。なお、超音波を出射させるレンズ面は凸面としてもよいが、超音波の伝播損失をできるだけ小さく抑える観点からは平面状とすることが好ましい。
【0043】
音響レンズ9は、樹脂架橋組成物から成り、比較的架橋密度が低い中央部7と、中央部7よりも架橋密度が高く、中央部7よりも超音波の伝播速度(音速ともいう)が速い周辺部8を備えている。
周辺部8は、中央部7から音響レンズ9の厚み方向と交差する方向に離間するにつれて、架橋密度が高くなるように形成されている。
この音響レンズ9の周辺部8は、レンズ面(X−Y面)と略直交する向きであって、Y−Z面に平行に区分された複数の領域(層)を備えている。本実施形態における周辺部8は、例えば、中央部7を挟んだ両側に配され、それぞれY−Z面に平行に区分された3層を有している。
具体的に、周辺部8は、図4に示すように、X軸方向に沿い中央部7側から離間する方向に同じ幅で形成され、Y−Z平面に平行に区分された層8a〜層8cの3層を有している。
【0044】
そして、周辺部8の層8a〜層8cは、中央部7からの距離が遠い層ほど超音波の伝播速度(音速)が大きくなるように、樹脂架橋組成物の架橋密度が調整されて形成されている。
例えば、中央部7が音速Vとなる架橋密度であるとすると、周辺部8の層8aは音速Vより速い音速Vaとなる架橋密度に調整されている。また、周辺部8の層8bは音速Vaより速い音速Vbとなる架橋密度に調整されている。同様に、周辺部8の層8cは音速Vbより速い音速Vcとなる架橋密度に調整されている。この最も外側の層8cは音響レンズ9の中で最も速い音速Vcとなる架橋密度に調整されて形成されている。このように、音響レンズ9は、超音波の送信方向に垂直な面内で超音波の伝搬速度に分布が形成されるように架橋密度が調整されている。
【0045】
ここで、図5に基づき、本発明の音響レンズ9が超音波を収束させる原理を説明する。図5では説明を簡単にするため、周辺部8が全て同じ材料で形成されている場合を例に説明する。
中央部7は音速Vの材料から成り、周辺部8は音速Vより速い音速Vの材料から成るものとする。また、音響レンズ9のZ軸正方向のレンズ面は図示しない容器に貯えられた音速Vの液体に接しているものとする。
【0046】
は、中央部7の中央から入射した超音波が、中央部7を通過し液体中を進行する状態を示している。Iは、図中左側の周辺部8の中央から入射した超音波が、周辺部8を通過し液体中を進行し、焦点距離fの位置(点q)でIと収束する状態を示している。xは音響レンズ7に入射したIとIとの距離である。
【0047】
周辺部8の音速Vは、中央部7の音速Vより大きいので、周辺部8から入射した超音波は、同時に中央部7から入射した超音波より早く液体に到達し、液体中を同心円状に波面が進行する。
周辺部8から入射した超音波と中央部7から入射した超音波の音響レンズ9を通過する時間差tは下記の式(1)で求めることができる。
【0048】
【数1】

【0049】
図5のmは時間差tの間に周辺部8から入射した超音波が液体中を進行する距離である。液体の音速をVとすると、距離mは下記の式(2)で求めることができる。
m=V×t ・・・(2)
図中左側の周辺部8の中央から入射した超音波は、距離mを進行した後、中央部7の中央から入射した超音波と同じ距離fを進行し点qに収束する。焦点距離fはピタゴラスの定理を用いて下記の式(3)で求めることができる。
f=(x−m)/2m ・・・(3)
この式(3)に式(1)、式(2)を代入すると、焦点距離fは下記の式(4)で求めることができる。
なお、Hは音響レンズ9のZ軸方向の幅(厚み)、Vは中央部7の音速、Vは周辺部8の音速、Vは液体の音速である。
【0050】
【数2】

【0051】
このように、中央部7と周辺部8の音速の差によって、中央部7から入射した超音波Iと周辺部8から入射した超音波Iを一点(点q)に収束させることができる。
例えば、V=1530m/sec、V=2500m/sec、H=2.5mm、x=3mm、V=2771m/secとすると、焦点距離fはf=30mmである。また、他の値は同じでH=5mmに変更すると、焦点距離fはf=14.9mmになる。
【0052】
そして、図4に示すように、周辺部8が中央部7を挟んだ両側の3層から構成される場合は、中央部7から入射した超音波と平行に周辺部8の各層(8a〜8c)に入射した超音波が一点に収束するよう各層(8a〜8c)の音速を設定する。
例えば、焦点距離fに収束する周辺部8を形成する樹脂架橋組成物の音速Vは、下記の式(5)で求めることができる。
【0053】
【数3】

【0054】
例えば、焦点距離f=30mm、V=1530m/sec、V=2500m/sec、H=2.5mm、x=3mmとすると、V=2771m/secである。
同様に式(5)を用いて、同じ焦点距離fに超音波を収束させる層8a〜層8cを形成するための樹脂架橋組成物の音速Va〜Vcを求めることができる。
なお、後述するように、音速の異なる周辺部8の各層(8a〜8c)は、樹脂架橋組成物の架橋密度を調整して、周辺部8の各層毎に樹脂架橋組成物の架橋密度を異ならせることにより得ることができる(表1参照)。
【0055】
次に、超音波探触子の製造方法に関し、音響レンズ9の製造方法について説明する。
【0056】
音響レンズ9を製造するにあたり、図6(a)に示すように、音響レンズ9となるレンズ用プレート部材9aを用意する。
このレンズ用プレート部材9aは、架橋剤を含有した樹脂材料を平板状に形成した板状部材である。レンズ用プレート部材9aには、例えば、樹脂材料として、ポリオレフィン系の樹脂材料、芳香族ポリアミド系の樹脂材料等を用いることができ、また、架橋剤として、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)、ジアリルモノグリシジルイソシアヌレート(DA−MGIC)等を用いることができる。
【0057】
ここで、レンズ用プレート部材9aについて説明する。
【0058】
【表1】

【0059】
例えば、表1に示すように、各種所定の樹脂材料(No.1〜8)に、架橋剤をそれぞれ0〜5wt%、フェノール系酸化防止剤(イルガノックス1010(チバ・スペシャリティーケミカルズ株式会社製)を1wt%配合し、射出成型によって厚さ1mm、50mm四方のプレート部材を成型した。そのプレート部材に、表1に記載した各条件で電子線を照射し、プレート部材の架橋反応を促進させて、樹脂架橋組成物を形成させた。冷却後、プレート部材を取り出し、DMA(動的粘弾性測定装置)にて貯蔵弾性率を測定した。また、音速測定装置にてプレート部材の音速を測定した。(表1参照)。
そして、表1に示すように、プレート部材に施した電子線条件の電子線強度(照射量、照射時間、照射温度)に応じて、樹脂架橋組成物の架橋密度を異ならせて、貯蔵弾性率を異ならせることができる。つまり、プレート部材(樹脂架橋組成物)に施した電子線強度に応じて、プレート部材(樹脂架橋組成物)の音速が変化することがわかった。
このように、レンズ用プレート部材9aに照射する電子線強度(照射量、照射時間、照射温度)によって、樹脂架橋組成物の架橋密度を調整することができ、所望する音速に設定することができる。
なお、樹脂架橋組成物の架橋密度に関し、貯蔵弾性率は1〜10GPa程度、音速は2000〜3000m/s程度の範囲に調整できれば、本発明の音響レンズ9に好ましく用いることができる。
【0060】
本実施形態では、ポリオレフィン系の樹脂材料であるTPX(三井化学株式会社製)と、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)3wt%と、フェノール系酸化防止剤(イルガノックス1010(チバ・スペシャリティーケミカルズ株式会社製)1wt%を配合して射出成型したプレート部材を、幅(W)5.6mm、長さ(L)42.5mm、厚さ(H)0.5mmのサイズに加工して、図6(a)に示すように、レンズ用プレート部材9aを得た。
【0061】
このレンズ用プレート部材9aに対し、電子線を照射して樹脂架橋組成物を形成する電子線照射処理を施す。
例えば、まず、図6(b)に示すように、レンズ用プレート部材9aの一部分を覆い、音響レンズ9の周辺部8の層8aに相当する部分に開口が設けられた第1マスクM1をレンズ用プレート部材9a上に配して、例えば、照射量400[kGy]、照射時間1[h]、照射温度40[℃]の電子線強度の電子線照射を行い、周辺部8の層8aを形成する。
次いで、図6(c)に示すように、レンズ用プレート部材9aの一部分を覆い、音響レンズ9の周辺部8の層8bに相当する部分に開口が設けられた第2マスクM2をレンズ用プレート部材9a上に配して、例えば、照射量600[kGy]、照射時間1[h]、照射温度40[℃]の電子線強度の電子線照射を行い、周辺部8の層8bを形成する。
次いで、図6(d)に示すように、レンズ用プレート部材9aの一部分を覆い、音響レンズ9の周辺部8の層8cに相当する部分に開口が設けられた第3マスクM3をレンズ用プレート部材9a上に配して、例えば、照射量800[kGy]、照射時間1[h]、照射温度40[℃]の電子線強度の電子線照射を行い、周辺部8の層8cを形成する。
【0062】
このような3段階の電子線照射工程によって、音響レンズ9を製造することができる。
【0063】
そして、バッキング材2上に、幅(W)5.6mm、長さ(L)42.5mm、厚さ(H)0.16mmのサイズに加工され、両面に電極が設けられた圧電素子層5と、音響整合層6を積層し、例えば、エポキシ系の接着剤で接着した。さらに、その接着された音響整合層6上に、上記した3段階の電子線照射工程によって製造した音響レンズ9を接着し、長軸方向(アジマス方向)に0.2mmピッチ(切り込み幅0.02mm)で素子化して、超音波探触子1を得た。
この超音波探触子1を3次元走査型音響強度測定システム(AMS)(SONORA社製)に適用して、1素子のビームプロファイルを測定した。その結果、深さ方向の送信感度は図7に示すようになり、約27mmの深さに焦点を持つことが判明した。
【0064】
このように、音響レンズ9の中央側から、その厚み方向と交差する方向に離間するにつれて、超音波の伝播速度が大きくなるように、樹脂架橋組成物の架橋密度が調整されて形成された音響レンズ9は、平板状のレンズ形状を有し、フラットなレンズ面を有する構造であっても、好適に超音波を所定の焦点に収束させることができる。
それにより、凸状レンズにおけるレンズ肉厚部による高周波減衰に関する問題を解消することができ、また、凹状レンズにおける測定時の気泡混入に関する問題を解消することができる。
【0065】
以上のように、本発明の音響レンズ9は、超音波の伝播損失が少なく、超音波の透過率が良好であるので、超音波探触子及び超音波画像診断装置に関する技術を向上させることができる。
【0066】
なお、音響レンズ9の製造方法は、上記実施形態に限られるものではない。
上記実施形態では、図6(a)〜(d)に示したように、音響レンズ9を製造する際、レンズ用プレート部材9aの一部分を覆うようにマスクを配した状態で電子線を照射することを、マスクの配置を切り替える度に繰り返した。具体的には、第1マスクM1、第2マスクM2、第3マスクM3の3つのマスクを用いて、電子線を照射する配置を切り替えた3段階の電子線照射工程によって、樹脂架橋組成物の部分毎に架橋密度が異なる音響レンズ9を製造したが、1つのマスクを用い、1回の電子線照射工程によって、樹脂架橋組成物の部分毎に架橋密度が異なる音響レンズ9を製造することもできる。
【0067】
例えば、図8(a)に示すように、音響レンズ9の中央部7に相当する最も厚みのある部分から、離間するにつれて段階的に薄くなるように、音響レンズ9の周辺部8の層8aに相当する部分、層8bに相当する部分、層8cに相当する部分が形成され、その断面が略階段状に形成されたマスクM4をレンズ用プレート部材9a上に配して、所定の電子線強度の電子線照射を行うことでも音響レンズ9を製造することができる。
この音響レンズ9を用いた超音波探触子1を3次元走査型音響強度測定システム(AMS)(SONORA社製)に適用して、1素子のビームプロファイルを測定した。その結果、深さ方向の送信感度(アジマス断面の音響強度)は、ほぼ図7と同様になり、約28mmの深さに焦点を持つことが判明した。
【0068】
また、図8(b)に示すように、音響レンズ9の中央部7に相当する部分が最も厚く、その中央側から離間するにつれて徐々に薄くなるように曲面を有し、その断面が略半円形状、略椀型形状に形成されたマスクM5をレンズ用プレート部材9a上に配して、所定の電子線強度の電子線照射を行うことでも音響レンズ9を製造することができる。
なお、この場合、音響レンズ9の周辺部8の層8a、層8b、層8cの境界ははっきりしたものでなく、樹脂架橋組成物の架橋密度は連続的に変化し、音響レンズ9の周辺部8の端ほど超音波の伝播速度が大きくなるように、架橋密度が高く形成されている。
【0069】
また、図8(c)に示すように、音響レンズ9の中央部7の中央に相当する部分が最も厚く、その中央側から離間するにつれて徐々に薄くなるように断面が三角形状に形成されたマスクM6をレンズ用プレート部材9a上に配して、所定の電子線強度の電子線照射を行うことでも音響レンズ9を製造することができる。
なお、この場合も、樹脂架橋組成物の架橋密度は連続的に変化し、音響レンズ9の周辺部8の端ほど超音波の伝播速度が大きくなるように、架橋密度が高く形成されている。
【0070】
また、図8(d)に示すように、音響レンズ9の中央部7の中央に相当する部分が最も厚く、その中央側から離間するにつれて徐々に薄くなるように断面が略釣鐘形状に形成されたマスクM7をレンズ用プレート部材9a上に配して、所定の電子線強度の電子線照射を行うことでも音響レンズ9を製造することができる。
なお、この場合も、樹脂架橋組成物の架橋密度は連続的に変化し、音響レンズ9の周辺部8の端ほど超音波の伝播速度が大きくなるように、架橋密度が高く形成されている。
【0071】
なお、本発明は上記実施形態に限られるものではない。
例えば、図9に示すように、超音波探触子における音響整合層についても音響レンズ9と同様の層構成とすることもできる。
【0072】
例えば、図9に示すように、超音波探触子1aは、圧電素子層5、音響整合層66、音響レンズ9等を備えている。
具体的に、超音波探触子1aは、バッキング材2の上に第2電極25、圧電素子層5、第1電極56、音響整合層66、音響レンズ9が順に、Z軸方向に積層された構成を有している。
【0073】
音響整合層66は、図9に示すように、中央部3と、中央部3の両側にそれぞれ配された周辺部4とから構成されている。
この音響整合層66は、樹脂架橋組成物から成り、比較的架橋密度が低い中央部3と、中央部3よりも架橋密度が高く、中央部3よりも超音波の伝播速度(音速ともいう)が大きい(速い)周辺部4を備えている。
周辺部4は、中央部3から音響整合層66の厚み方向と交差する方向に離間するにつれて、架橋密度が高くなるように形成されている。
この音響整合層66の周辺部4は、X−Y面と略直交する向きであって、Y−Z面に平行に区分された複数の領域(層)を備えている。本実施形態における周辺部4は、例えば、中央部3を挟んだ両側に配され、それぞれY−Z面に平行に区分された3層を有している。
具体的に、周辺部4は、図10(d)に示すように、X軸方向に沿い中央部3側から離間する方向に同じ幅で形成され、Y−Z平面に平行に区分された層4a〜層4cの3層を有している。この周辺部4の層4a〜層4cは、中央部3からの距離が遠い層ほど超音波の伝播速度(音速ともいう)が大きく(速く)なるように、樹脂架橋組成物の架橋密度が調整されて形成されている。
このように、音響整合層66の中央側から、その厚み方向と交差する方向に離間するにつれて、超音波の伝播速度が大きくなるように、樹脂架橋組成物の架橋密度を調整する(超音波の送信方向に垂直な面内で超音波の伝搬速度に分布が形成されるように架橋密度を調整する)ようにして、音響レンズ9に加えてさらに音響整合層66にも同様の音速差を設けることで、圧電素子層5から送信された超音波を所定の焦点距離に収束させる音響レンズ9と同様の機能を音響整合層66も備えることになり、音響レンズ9を薄くしても十分な時間差を面内で生じさせることができ、同じ焦点を薄い音響レンズで達成でき、音響レンズによる伝搬減衰を低減できる。
この音響整合層66と音響レンズ9とを組み合わせる技術(超音波探触子1a)は、伝播減衰の影響が大きい高周波では特に有用になる。なお、音響レンズ9として、通常の凸レンズを用いてもよい。この場合も、音響整合層66による収束効果の分だけ音響レンズの厚みを薄くすることができるため、超音波の伝播損失を抑制することができる。
【0074】
なお、音響整合層66を複数の層(3、4a〜4c)からなる積層構成とする場合には、全ての層について樹脂架橋組成物の架橋密度を調整してもよいし、一部の層のみについて架橋密度を調整してもよい。この際、必ずしも最表面の層について架橋密度を調整必要はなく、少なくとも1つの層について架橋密度を調整することで上記の効果が得られる。
【0075】
次に、超音波探触子の製造方法に関し、音響整合層66の製造方法について説明する。
【0076】
音響整合層66を製造するにあたり、図10(a)に示すように、音響整合層66となる音響整合用プレート部材6aを用意する。
この音響整合用プレート部材6aは、架橋剤を含有した樹脂材料を平板状に形成した板状部材である。音響整合用プレート部材6aには、例えば、樹脂材料として、エポキシ樹脂材料、芳香族ポリアミド系の樹脂材料、アクリル樹脂、メタクリル樹脂等を用いることができ、また、架橋剤として、エポキシアクリレートを基本骨格とした、DA−314、DA−721、DM−201(以上、ナガセケムテック社製)等を用いることができる。
【0077】
ここで、音響整合用プレート部材6aについて説明する。
【0078】
【表2】

【0079】
例えば、表2に示すように、各種所定の樹脂材料(No.1〜5)に、架橋剤をそれぞれ0〜3wt%、フェノール系酸化防止剤(イルガノックス1010(チバ・スペシャリティーケミカルズ株式会社製)を1wt%配合し、加熱硬化後、加工し、厚さ1mm、50mm四方のプレート部材を成型した。そのプレート部材に、表2に記載した各条件で電子線を照射し、プレート部材の架橋反応を促進させて、樹脂架橋組成物を形成させた。冷却後、プレート部材を取り出し、DMA(動的粘弾性測定装置)にて貯蔵弾性率を測定した。この貯蔵弾性率に基づきプレート部材(樹脂架橋組成物)の音速を定めることができる(表2参照)。
そして、表2に示すように、プレート部材に施した電子線条件の電子線強度(照射量、照射時間、照射温度)に応じて、樹脂架橋組成物の架橋密度を異ならせて、貯蔵弾性率を異ならせることができる。つまり、プレート部材(樹脂架橋組成物)に施した電子線強度に応じて、プレート部材(樹脂架橋組成物)の音速が変化することがわかった。
このように、音響整合用プレート部材6aに照射する電子線強度(照射量、照射時間、照射温度)によって、樹脂架橋組成物の架橋密度を調整することができ、所望する音速に設定することができる。
なお、樹脂架橋組成物の架橋密度に関し、貯蔵弾性率は1〜10GPa程度、音速は2000〜3000m/s程度の範囲に調整できれば、本発明の音響整合層66に好ましく用いることができる。
【0080】
本実施形態では、エポキシ樹脂材料であるC−1001A/B(株式会社テスク社製)と、DA−314を3wt%と、フェノール系酸化防止剤(イルガノックス1010(チバ・スペシャリティーケミカルズ株式会社製)1wt%を配合して加熱硬化後、加工したプレート部材を、幅(W)5.6mm、長さ(L)42.5mm、厚さ(H)0.5mmのサイズに加工して、図10(a)に示すように、音響整合用プレート部材6aを得た。
【0081】
この音響整合用プレート部材6aに対し、電子線を照射して樹脂架橋組成物を形成する電子線照射処理を施す。
例えば、まず、図10(b)に示すように、音響整合用プレート部材6aの一部分を覆い、音響整合層66の周辺部4の層4aに相当する部分に開口が設けられた第1マスクM1を音響整合用プレート部材6a上に配して、例えば、照射量400[kGy]、照射時間1[h]、照射温度40[℃]の電子線強度の電子線照射を行い、周辺部4の層4aを形成する。
次いで、図10(c)に示すように、音響整合用プレート部材6aの一部分を覆い、音響整合層66の周辺部4の層4bに相当する部分に開口が設けられた第2マスクM2を音響整合用プレート部材6a上に配して、例えば、照射量600[kGy]、照射時間1[h]、照射温度40[℃]の電子線強度の電子線照射を行い、周辺部4の層4bを形成する。
次いで、図10(d)に示すように、音響整合用プレート部材6aの一部分を覆い、音響整合層66の周辺部4の層4cに相当する部分に開口が設けられた第3マスクM3を音響整合用プレート部材6a上に配して、例えば、照射量800[kGy]、照射時間1[h]、照射温度40[℃]の電子線強度の電子線照射を行い、周辺部4の層4cを形成する。
このような3段階の電子線照射工程によって、音響整合層66を製造することができる。
【0082】
この音響整合層66の製造する際、音響整合用プレート部材6aの一部分を覆うようにマスクを配した状態で電子線を照射することを、マスクの配置を切り替える度に繰り返すように、第1マスクM1、第2マスクM2、第3マスクM3の3つのマスクを用いて行った。但し、樹脂架橋組成物の部分毎に架橋密度が異なる音響整合層66を製造する方法は、3つのマスク(第1マスクM1、第2マスクM2、第3マスクM3)を用いて、電子線を照射する配置を切り替えた3段階の電子線照射工程によって行うことに限らない。
例えば、音響レンズ9の製造と同様に、図8(a)〜(d)に示した1つのマスク(M4〜M7)を用い、1回の電子線照射工程によって、樹脂架橋組成物の部分毎に架橋密度が異なる音響整合層66を製造することもできる。
【0083】
このような音響整合層66は、音響レンズ9と同様に、超音波の伝播損失が少なく、超音波の透過率が良好であるので、超音波探触子及び超音波画像診断装置に関する技術を向上させることができる。
【0084】
なお、本実施形態では、音響整合層の中央側から、その厚み方向と交差する方向に離間するにつれて、超音波の伝播速度が大きくなるように、樹脂架橋組成物の架橋密度を調整した場合の音響整合層66について説明したが、これに限らない。
例えば、音響整合層の厚み方向であって、超音波の伝搬方向に樹脂架橋組成物の架橋密度を調整し、圧電素子層5側から音響レンズ9に近づくにつれ、音響インピーダンスが減少していく構成(音響レンズ9側から圧電素子層5に向かうにつれて超音波の伝播速度が大きくなる構成)としてもよい。
この場合、音響整合層の厚み方向と垂直な方向から電子線照射を行うことで、音響整合層の厚み方向(超音波の伝搬方向)に樹脂架橋組成物の架橋密度を調整することができる。具体的に、この場合の音響整合層は、Z軸方向(図9参照)に沿った音響整合層の厚み方向に所定の幅(例えば同じ幅)で形成され、X−Y平面に平行に区分された複数の層を有し、音響レンズ9側から圧電素子層5に向かうにつれて超音波の伝播速度が大きくなるように、樹脂架橋組成物の架橋密度が調整されて形成されている。
【0085】
なお、本発明の適用は上述した実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0086】
1 超音波探触子
1a 超音波探触子
5 圧電素子層(圧電素子部)
6 音響整合層
66 音響整合層
7 中央部
8 周辺部
8a〜8c 層
9 音響レンズ
9a レンズ用プレート部材
100 超音波画像診断装置
M1〜M7 マスク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波を送受信する圧電素子部と、
前記圧電素子部から送信された超音波をレンズ面から出射して所定の焦点距離に収束させる音響レンズと、
前記圧電素子部と前記音響レンズの間に配されて、前記圧電素子部と前記音響レンズの間での音響インピーダンスを整合させる音響整合層と、
を備えた超音波探触子において、
前記音響レンズと前記音響整合層の少なくとも一方は、樹脂架橋組成物を含み、
前記樹脂架橋組成物は、前記樹脂架橋組成物の中央側から、前記樹脂架橋組成物の厚み方向と交差する方向に離間するにつれて、超音波の伝播速度が大きくなるように、超音波の送信方向に垂直な面内で架橋密度が調整されて形成されていることを特徴とする超音波探触子。
【請求項2】
前記樹脂架橋組成物は、前記樹脂架橋組成物の中央側から、前記樹脂架橋組成物の厚み方向と交差する方向に離間するにつれて、架橋密度が高くなるように形成されていることを特徴とする請求項1に記載の超音波探触子。
【請求項3】
前記樹脂架橋組成物は、前記樹脂架橋組成物に照射した電子線強度に応じて架橋密度が調整されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の超音波探触子。
【請求項4】
前記樹脂架橋組成物は、前記樹脂架橋組成物に添加した架橋剤の添加量に応じて架橋密度が調整されていることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の超音波探触子。
【請求項5】
前記音響レンズは、前記樹脂架橋組成物を含み、
前記音響レンズは、前記音響レンズの中央側から、前記音響レンズの厚み方向と交差する方向に離間するにつれて、超音波の伝播速度が大きくなるように前記樹脂架橋組成物の架橋密度が調整されて形成されていることを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の超音波探触子。
【請求項6】
前記レンズ面は平面状であることを特徴とする請求項5に記載の超音波探触子。
【請求項7】
前記音響整合層は、前記樹脂架橋組成物を含み、
前記音響整合層は、前記音響整合層の中央側から、前記音響整合層の厚み方向と交差する方向に離間するにつれて、超音波の伝播速度が大きくなるように前記樹脂架橋組成物の架橋密度が調整されて形成されていることを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の超音波探触子。
【請求項8】
超音波を被検体に向けて送信し、その被検体から受信した超音波の反射波に応じて画像を形成する超音波画像診断装置において、
請求項1〜7の何れか一項に記載の超音波探触子を備えることを特徴とする超音波画像診断装置。
【請求項9】
請求項1〜7の何れか一項に記載の超音波探触子の製造方法であって、
架橋剤を含有した樹脂材料を平板状に形成したプレート部材に対し、電子線を照射して前記樹脂架橋組成物を形成する電子線照射工程を含み、
前記電子線照射工程において、前記プレート部材の中央側よりも、その中央側から前記プレート部材の厚み方向と交差する方向に離間する程、前記プレート部材に照射する電子線強度を強くして、前記樹脂架橋組成物の架橋密度を調整することを特徴とする超音波探触子の製造方法。
【請求項10】
前記電子線照射工程は、前記プレート部材の一部分にマスクを配した状態で電子線を照射することを、前記マスクの配置を切り替える度に繰り返して、前記樹脂架橋組成物の部分毎に架橋密度が異なるように調整することを特徴とする請求項9に記載の超音波探触子の製造方法。
【請求項11】
前記電子線照射工程は、部分毎に電子線の透過率が異なるマスクを介して前記プレート部材に電子線を照射して、前記樹脂架橋組成物の部分毎に架橋密度が異なるように調整することを特徴とする請求項9に記載の超音波探触子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−42248(P2013−42248A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−176462(P2011−176462)
【出願日】平成23年8月12日(2011.8.12)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【Fターム(参考)】