説明

超音波探触子及びそれを備えた超音波診断装置

【課題】振動子ユニットが機械的に走査されるプローブにおいて、走査機構の大型化を回避しつつ所望の速度プロファイルを得られるようにする。特に、加減速を急峻にできるようにする。
【解決手段】振動子ユニット18の折り返し端部に対応して二つの電磁石ユニット32,34が設けられている。振動子ユニット18には二つのマグネット36,38が設けられている。このような構成により、折り返し端部において時期的な反発力あるいは吸着力を生じさせることができ、折り返し端部において減速及び加速のプロファイルを急峻にすることが可能である。マグネット36,38に換えて鉄板等の部材を配置することも可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超音波探触子及びそれを備えた超音波診断装置に関し、特に、プローブケース内で振動子ユニットを機械的に走査する場合における走査制御に関する。
【背景技術】
【0002】
単振動子が機械的に駆動されるメカニカルセクタ走査型超音波探触子、1Dアレイ振動子が機械的に駆動される三次元エコーデータ取り込み用超音波探触子(特許文献1)等においては、プローブケース内において超音波振動子を内蔵した振動子ユニットが機械的に走査される。例えば、1Dアレイ振動子を素子配列方向と直交する方向へ走査すれば、走査面を移動させて三次元エコーデータ取り込み空間を形成できる。振動子ユニットと生体表面との間において音響伝搬を良好にするために、あるいは、空気層の介在を排除するために、プローブケース内には音響媒体として水、生理食塩水やオイルなどが充填、封入されている。上記のような超音波探触子はケーブルを介して超音波診断装置の本体に接続されている。一般に、超音波診断装置の本体内には超音波探触子に対して機械的な走査を制御する機械走査制御部が設けられている。
【0003】
【特許文献1】特開平3−231649号公報
【特許文献2】特開平5−237111号公報
【特許文献3】特開平2−144046号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
機械走査の折り返しに際して振動子ユニットに対して十分な加減速を生じさせるには、慣性力に勝って十分な駆動力を生じさせる大型の駆動源をプローブケース内に設ける必要がある。しかし、そのような構成によれば超音波探触子が大型化し、また重くなってしまう可能性がある。なお、特許文献2及び特許文献3には磁力を使って振動子ユニットを駆動することが記載されているが、それは主駆動源に相当し、往復走査の折り返しの際に補助的な作用を発揮するものではない。
【0005】
本発明の目的は、機械走査機構自体の大型化あるいは重量化を回避しつつ折り返しの際に所望の速度変化を生じさせるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、超音波を送受波する振動子ユニットと、前記振動子ユニットを機械的に往復走査するための走査機構と、前記振動子ユニットの走査経路における折り返し端部において、前記振動子ユニットに対して補助的な作用を及ぼす補助手段と、を含むことを特徴とする超音波探触子に関する。
【0007】
上記構成によれば、走査機構によって振動子ユニットが走査経路に沿って往復走査される。その折り返し端部において、補助手段により、振動子ユニットに対して補助的な作用が及ぼされる。よって、そのような補助的作用を利用して振動子ユニットの速度プロファイルを所望のものにすることが容易となる。走査機構における駆動源の大型化等によっても所望の速度プロファイルを得ることが可能かも知れないが、機械走査の全工程においてそのような大きな駆動力が必要なわけではないので、そのような構成では合理性を欠く面がある。上記構成によれば必要な場所に必要な補助作用発生源を設けることになるので、合理的である。また、複数の駆動方式を組み合わせてそれぞれの利点を活用することができる。補助的作用は磁気力によるものを利用するのが好適であるが、発条等の機械的な弾性作用、電気的吸着反発作用、等を利用することもできる。
【0008】
望ましくは、前記補助手段は、前記振動子ユニットの走査経路における折り返し端部に対応した位置に設けられ、前記振動子ユニットに対して制動作用及びその後の加速作用の少なくとも一方を及ぼす補助駆動手段を含む。2つの折り返し端部に対応した2つの位置にそれぞれ補助駆動手段を設けるのが望ましい。
【0009】
望ましくは、前記補助駆動手段は、磁気的な吸引力及び反発力の少なくとも一方を生じさせる。望ましくは、それらの両者が発揮される。望ましくは、前記補助手段は、前記補助駆動手段としての電磁石ユニットと、前記振動子ユニットに設けられたマグネットと、を含み、前記電磁石機構は制動作用及び加速作用の両者を発揮する。
【0010】
望ましくは、前記折り返し端部において前記電磁石機構に駆動電流が供給され、それ以外の期間においては前記電磁石機構が前記休止状態におかれる。この構成によれば必要な場合にだけ電流供給を行って省電力を図れる。磁気的な作用を利用する場合、回転軸駆動のための機構部を大型化する必要がないという利点を得られる。
【0011】
本発明は、装置本体とそれに装着される超音波探触子とを含み、前記超音波探触子は、超音波を送受波する振動子ユニットと、前記振動子ユニットを機械的に往復走査するための走査機構と、前記振動子ユニットの走査経路における2つの折り返し端部に対応した2つの位置に設けられ、前記振動子ユニットに対して磁気的な作用を及ぼす一対の電磁石機構と、を含み、前記装置本体は、前記一対の電磁石機構に対して駆動電流を供給する手段を含む、ことを特徴とする超音波診断装置に関する。駆動電流を供給する手段は装置本体に設けられるのが望ましいが、超音波探触子側に設けることも可能である。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように、本発明によれば、機械走査機構自体の大型化あるいは重量化を回避しつつ折り返しの際に所望の速度変化を生じさせることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。
【0014】
図1には、本発明に係る超音波探触子の好適な実施形態が示されており、図1はその一部断面図である。この超音波探触子は、図示されていない超音波診断装置本体に対してケーブルを介して接続されるものである。図1に示される超音波探触子(プローブ)は体表面上に当接して用いられるものであるが、本発明はそれ以外のタイプの超音波探触子に対しても適用することができ、例えば体腔内に挿入される超音波探触子に適用することが可能である。
【0015】
図1において、プローブ10は、ケース12を有しており、ケース12の下端部にはカバー14が装着されている。カバー14の内部は音響伝搬媒体室16であり、そこには生理食塩水やオイルなどが充填、封入されている。実際には、カバー14は丸みをもったドーム状の形態を有し、その内部空間はしきり膜16Aによって区切られており、しきり膜16Aとカバー14の内面14Bとの間に音響伝搬媒体室16が形成されている。カバー14の外表面14Aは生体接触面である。このカバー14は音響窓として機能する。
【0016】
カバー14の内部には振動子ユニット18が配置されている。この振動子ユニット18は可動体であり、その先端面である送受波面18Aに沿って複数の振動素子が配列されており、それらはアレイ振動子を構成している。図においては、アレイ振動子によって形成される超音波ビームBが示されており、その超音波ビームBは電子走査されて走査面を構成し、その走査面はそれと直交する方向すなわちθ方向に揺動運動する。これによって三次元エコーデータ取込空間が形成される。
【0017】
振動子ユニット18を揺動運動させるために、走査機構20が設けられている。走査機構20は駆動モータ24及びギア機構26を有している。駆動モータ24は本実施形態において主駆動源であり、そこで発生した回転力がギア機構26を介して振動子ユニット18の揺動運動に転換される。その揺動運動の回転軸は軸22である。
【0018】
本実施形態に係るプローブ10は補助手段30を有している。補助手段30は上述した走査機構により生じる駆動力に加えて補助的な作用を振動子ユニット18へ与えるものである。補助手段30は具体的には二つの電磁石ユニット32,34と二つのマグネット(永久磁石)36,38とによって構成される。後に説明するように、マグネット36,38に代えて鉄板などの磁性体を設けるようにしてもよい。二つの電磁石ユニット32,34は、振動子ユニット18の揺動運動経路すなわち機械走査経路における両端に対応した位置に設けられており、すなわち機械走査における折り返し端部に対応した位置(カバー14内部における隅部分)に設けられている。振動子ユニット18が一方側へ揺動運動すると、マグネット36と電磁石ユニット32とが近接対向関係となり、同様に、振動子ユニット18が他方側へ揺動運動すると、マグネット38と電磁石ユニット34とが近接対向関係となる。したがって、電磁石ユニット32,34において生じる磁力の極性を制御することにより、及び、マグネット36,38に対して適正な極性を与えることにより、磁気的な吸引作用及び反発作用を生じさせて、折り返し端部において不足しがちな駆動力を補うことが可能となる。これについては後に詳述する。マグネット36,38は振動子ユニットの両側面(下部)に設けられている。
【0019】
ちなみに、駆動モータ24はフレーム23に取り付けられており、フレーム23の中央部には駆動モータ24から伸びるモータ軸が挿通されており、その軸の先端部には傘歯車等を有するギア機構26が設けられている。駆動モータ24を正方向及び負方向に回転運動させれば、上述した振動子ユニット18の往復運動を行わせることができる。その際において、往復運動の折り返し端部において本実施形態においては補助的な作用を及ぼして、加減速を所望のものにすることが可能である。
【0020】
図2には、超音波診断装置の要部構成がブロック図として示されている。プローブ10には、上述した走査機構20、電磁石ユニット32,34の他、上述したアレイ振動子40が設けられており、さらに回転角度を検出する検出器42が設けられている。検出器42からの検出信号は走査制御部44に送られている。この走査制御部44は本実施形態において超音波診断装置本体内に設けられるものである。ただし、走査制御部44の全体あるいはそこに含まれる補助制御ユニット46をプローブ10側に設けることも可能である。補助制御ユニット46は電磁石ユニット32,34に対して駆動電流を供給するユニットであり、予め設定された速度プロファイルが実現されるように各駆動電流を供給している。走査制御部44は走査機構20の制御も行っている。アレイ振動子40には送受信部48が接続されており、送受信部48から複数の送信信号がアレイ振動子40に供給されており、アレイ振動子40からの複数の受信信号は送受信部48に入力され、送受信部48においてそれらに対する整相加算処理が実行される。その整相加算後の受信信号(ビームデータ)は図示されていない画像形成部へ送られる。この送受信部48以降の各構成も装置本体内に設けられるものである。
【0021】
次に、図2に示した走査制御部44、特に補助制御ユニット46の制御方式について図3及び図4を用いて説明する。図3には速度プロファイルが示されている。横軸は時間軸であり、縦軸は速度軸である。この速度プロファイルは実際の駆動電流の大きさを表すものである。符号100は上述した補助的な力を用いない従来方式によるものを表しており、ここに示す例においては台形状の速度プロファイルが得られている。このような速度プロファイルにおいて折り返し端部において減速をより強め及び加速をより強めるためには、駆動源を大型化しなければならないという問題があったが、本実施形態においては上述した補助手段を使って加速をより急峻にでき、また減速をより急峻にすることができる。具体的には、例えば図1において振動子ユニット18が右方向へ運動する場合において電磁石ユニット32とマグネット36との間の関係において磁気的な反発力が生じるように電磁石ユニット32に対して駆動電流を供給すると、符号102で示すような速度プロファイルを得ることが可能である。すなわち、主駆動源における力をより折り返し端部側まで生じさせても、磁気的な反発力によって過剰な力を吸収して急峻な減速及び急峻な加速を実現することが可能である。その場合において、さらに反対側の電磁石ユニット34とマグネット38との関係において電磁石ユニット34で吸引力が生じるように駆動電流を制御すれば、符号104で示すようなより急峻な速度プロファイルを得ることが可能である。すなわち、往復走査の各端部において二つの磁気的な手段を両方とも極性を異ならせて作動させることにより、より急峻な特性を得るものである。なお、極性を両者とも同じにしても各電流向きの設定制御により上記同様の作用を得られる。
【0022】
上記においては図1において振動子ユニット18が右方向へ揺動運動した場合を説明したが、もちろん、振動子ユニット18が左方向へ運動した場合にも同様の制御が行なわれる。ただし、その場合においてはそれぞれの電磁石ユニットにおける極性が反転される。それが図3において符号110及び114で示されている。符号104は磁気的な反発力のみを利用した場合を示し、符号114は磁気的な反発力に加えて磁気的な吸引力も同時に作用させた場合を示している。また、図4の符号106に示されるように、駆動電流値の可変制御により加減速期間において所望のS字カーブを描かせることもでき、例えば減速開始点あるいは加速開始点において柔らかいカーブが得られるようにしてもよい。
【0023】
上述した実施形態においては振動子ユニットに二つのマグネットが配置されていたが、振動子ユニット18が例えば鉄板等の磁性部材を有するものとして構成してもよい。この場合においてはそれぞれの電磁石ユニットにおいて磁気的な吸引力のみが利用されることになる。いずれにしても、駆動モータという主駆動源の力をそのまま増大させるのではなく、機械走査の経路において部分的な補助的な作用を及ぼすことにより、合理的な走査駆動方式を実現することが可能である。二つの折り返し端部以外の期間においては電磁石ユニットに対して電流供給が停止されることになるので全体として省電力を図れるという利点もある。従来同様の速度プロファイルを得ることを前提とするのであれば、上述した補助手段を併用することにより結果として駆動モータ及び機械走査機構を小型化できるという利点があり、それはプローブ全体の小型化に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係る超音波探触子の好適な実施形態を示す一部断面図である。
【図2】超音波診断装置の要部構成を示すブロック図である。
【図3】速度プロファイルを示す図である。
【図4】速度プロファイルの一部を示す図である。
【符号の説明】
【0025】
10 超音波探触子(プローブ)、12 ケース、14 カバー、16 音響伝搬媒体室、18 振動子ユニット、20 走査機構、30 補助手段、32,34 電磁石ユニット、36,38 マグネット。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波を送受波する振動子ユニットと、
前記振動子ユニットを機械的に往復走査するための走査機構と、
前記振動子ユニットの走査経路における折り返し端部において、前記振動子ユニットに対して補助的な作用を及ぼす補助手段と、
を含むことを特徴とする超音波探触子。
【請求項2】
請求項1記載の超音波探触子において、
前記補助手段は、前記振動子ユニットの走査経路における折り返し端部に対応した位置に設けられ、前記振動子ユニットに対して制動作用及びその後の加速作用の少なくとも一方を及ぼす補助駆動手段を含む、ことを特徴とする超音波探触子。
【請求項3】
請求項2記載の超音波探触子において、
前記補助駆動手段は、磁気的な吸引力及び反発力の少なくとも一方を生じさせる、ことを特徴とする超音波探触子。
【請求項4】
請求項3記載の超音波探触子において、
前記補助手段は、
前記補助駆動手段としての電磁石ユニットと、
前記振動子ユニットに設けられたマグネットと、
を含み、
前記電磁石機構は制動作用及び加速作用の両者を発揮する、ことを特徴とする超音波探触子。
【請求項5】
請求項4記載の超音波探触子において、
前記折り返し端部において前記電磁石機構に駆動電流が供給され、それ以外の期間においては前記電磁石機構が前記休止状態におかれる、ことを特徴とする超音波探触子。
【請求項6】
装置本体とそれに装着される超音波探触子とを含み、
前記超音波探触子は、
超音波を送受波する振動子ユニットと、
前記振動子ユニットを機械的に往復走査するための走査機構と、
前記振動子ユニットの走査経路における2つの折り返し端部に対応した2つの位置に設けられ、前記振動子ユニットに対して磁気的な作用を及ぼす一対の電磁石機構と、
を含み、
前記装置本体は、前記一対の電磁石機構に対して駆動電流を供給する手段を含む、
ことを特徴とする超音波診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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