説明

超音波検査ロボットシステムおよび超音波検査ロボットの制御方法

【課題】操作者に違和感を与えることなくその手の動きにロボットアームが追随し、操作者が超音波プローブから手を放したときにも、超音波プローブの位置を保持することを可能にする。
【解決手段】超音波プローブ12と、超音波プローブを保持するロボットアーム11と、超音波プローブに加わる三次元方向の力を検出する力センサ13と、この力センサの検出結果に基づき、操作者の手の動きにより超音波プローブに加えられる三次元方向の外力を認識し、前記外力に従ってロボットアームを動かすアクチュエータ制御部16と、所望の部位の画像を記憶する画像記憶部と、超音波プローブからの画像と前記記憶された画像とを比較する画像比較部とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波プローブによる人体表面の走査をロボットの支援により行う超音波検査ロボットシステムおよび超音波検査ロボットの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在我が国が抱える医療の問題には、超高齢化社会の到来による医師の局在化、患者の大病院集中などが挙げられ、これらの解決法として医師の負担を軽減する診断支援システムの開発が求められている。様々な画像診断の中でも超音波診断は低侵襲で、患者に対する負担が小さく、装置が小型・安価,画像取得の自由度が高いという利点がある。目的の断層像取得とそれからの情報抽出が検査者に依存するという問題がある。そのため、プローブ操作をロボットに代行させる研究が盛んに行われている。
【0003】
また、我々は、遠隔診断時における操作時間の短縮のため、ロボットによる断層像の自動取得を目指して、特に心臓の断層像に現れる特徴を検出して心臓の部位を自動認識させる画像処理の手法を開発してきた。画像情報を医療ロボットの制御に応用する研究はこれまでにも報告されているが、これらは特定の手術や治療を目的としたものであり、様々な状況に対応できる汎用性に優れているとは言えない。そこで、心臓の認識アルゴリズムを超音波検査ロボットの制御に反映させることで、ロボットが自律的に診断の際の基準断面を探索するシステムも提案している。
【0004】
【特許文献1】特開2007−167414号公報
【特許文献2】特開2008−6243号公報
【特許文献3】特開2008−136863号公報
【非特許文献1】金子健太、青木悠祐、今井崇雄、酒井太郎、桝田晃司「断層像のリアルタイム認識による超音波検査ロボットの臓器探索フィードバック制御」日本機械学会ロボティクス・メカトロニクス講演会論文集2008年
【非特許文献2】青木悠祐、大籠研介、小山田雅美、金子健太、桝田晃司「超音波検査ロボットによるプローブのなぞり走査のための体表面粘弾性特性解析法」第25回日本ロボット学会学術講演会(2007年9月13日〜15日)
【非特許文献3】青木悠祐、金子健太、大籠研介、桝田晃司「体表面粘弾性に基づいた超音波検査ロボットによるプローブのなぞり動作」日本機械学会ロボティクス・メカトロニクス講演会論文集2008年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、超音波プローブ検査において、操作者は、検査の間、棒状の超音波プローブを患者の体表面に適度な力で押しあてる必要がある。時に近年進歩の著しい造影剤を用いた検査では、目的の部位に造影剤がいきわたるまでの数十分間、プローブを保持し続ける場合も珍しくない。そこで、操作者の負担を軽減するため、患者のベッド横にプローブを保持する小型のロボットを備え、プローブ操作を補助することが必要となる。
【0006】
このようなシステムでは、いったん、所望の断層画像を得るように超音波プローブの位置を決定したとしても、診断を受ける患者が体を動かせば、操作者による検査部位の再度の探索が必要となる。
【0007】
また、腹部を対象とした場合、胸部と比べて肋骨がないため同一の押し込み力に対する沈み込みが深くなり、粘性の影響が大きくなるため、ロボットにより体表面上をプローブがなぞるように走査するには限界があった。すなわち、プローブのなぞり動作の実現のためには、診断部位に応じて異なる粘弾性特性を解析し、その特性に合わせたロボット制御が必要となることが分かった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の目的は、操作者に違和感を与えることなくその手の動きにロボットアームが追随し、操作者が超音波プローブから手を放したときにも、超音波プローブの位置を保持することを可能にする超音波検査ロボットシステムを提供することである。
本発明の第2の目的は、操作者が診断部位の断層画像を取得した後に、診断を受ける患者が体を動かした場合にも、その診断部位の画像を自動的に得ることが可能な超音波診断ロボットの制御方法を提供することである。
本発明の第3の目的は、腹部のような超音波プローブの沈み込みが大きくなる部位の診断の場合にも、体表に押し込んだ超音波プローブが受ける反力を一定にしながら体表面を走査することが可能な超音波診断ロボットの制御方法を提供することである。
【0009】
(1)本発明による超音波検査ロボットシステムは、超音波プローブと、超音波プローブを保持するロボットアームと、超音波プローブに加わる三次元方向の力を検出する力センサと、この力センサの検出結果に基づき、操作者の手の動きにより超音波プローブに加えられる三次元方向の外力を認識し、前記外力に従ってロボットアームを動かすアクチュエータ制御部と、所望の部位の画像を記憶する画像記憶部と、超音波プローブからの画像と記憶された画像とを比較する画像比較部とを有し、アクチュエータ制御部は、超音波プローブが所定位置に保持されている間に、力センサの出力から認識される体表面からの反力および画像比較部の出力から測定対象の移動を検出した場合、超音波プローブ先端部の測定対象表面への押しつけ力を保持しつつ測定対象表面をなぞりながら、超音波プローブからの画像が記憶された画像と一致するまで超音波プローブを移動させることを特徴とする。
【0010】
(2)本発明による超音波検査ロボットの制御方法は、超音波プローブに働く外力を力センサにより検出するステップと、検出された外力に応答してアクチュエータを制御し、ロボットアームの動きを前記外力に追随させるステップと、前記外力が所定時間加わらないことにより、超音波プローブの停止を判定して、その停止位置に超音波プローブを保持するステップと、操作者による入力に応答して、断層画像を記憶するステップとを有することを特徴とする。
【0011】
(3)本発明による超音波検査ロボットの制御方法は、あらかじめ記憶された検査対象部位の特徴に、超音波プローブからの断層画像の特徴が一致するまで、超音波プローブで検査対象を走査するステップと、これら特徴の一致により、超音波プローブを停止させ、その停止位置に超音波プローブを保持するステップと、超音波プローブ停止時の断層画像を記憶するステップとを有することを特徴とする。
【0012】
(4)本発明による超音波検査ロボットの制御方法は、(2)または(3)記載の超音波検査ロボットの制御方法において、超音波プローブの停止時に、力センサの出力から認識される体表面からの反力の変化に応答して、超音波プローブからの断層画像が停止時に記憶された画像に一致するようにアクチュエータを制御するステップをさらに有することを特徴とする。
【0013】
(5)本発明による超音波検査ロボットの制御方法は、(3)または(4)記載の超音波検査ロボットの制御方法において、体表面への超音波プローブの2回の押し込み動作を行い、1度目の除荷と2度目の荷重の切り替わり点を体表接触原点として決定するステップと、この決定された体表接触原点から、1回分の荷重―徐荷データをもとに、粘弾性パラメータを推定するステップと、推定された粘弾性パラメータに基づいて、体表に押し込んだ超音波プローブが受ける反力を一定にしながら、体表面を移動させるようアクチュエータを制御するステップとを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように、本発明によれば、操作者に違和感を与えることなくその手の動きにロボットアームが追随し、操作者が超音波プローブから手を放したときにも、超音波プローブの位置を保持することを可能にする超音波検査ロボットシステムを提供することができる。
また、操作者が診断部位の断層画像を取得した後に、診断を受ける患者が体を動かした場合にも、その診断部位の画像を自動的に得ることが可能な超音波診断ロボットの制御方法を提供することができる。
さらに、腹部のような超音波プローブの沈み込みが大きくなる部位の診断の場合にも、体表に押し込んだ超音波プローブが受ける反力を一定にしながら体表面を走査することが可能な超音波診断ロボットの制御方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1に、本発明の一実施形態による超音波検査ロボットシステムの概略構成を示す。図1において、超音波検査ロボット10は、ロボットアーム11、その先端部に取り付けられた超音波プローブ12および力センサ13からなる。超音波プローブ12は、超音波診断装置14に接続されて、超音波断層画像を表示装置15に表示する。アクチュエータ制御装置16は、力センサ13の出力に基づいてロボットアーム11のアクチュエータを制御する。画像処理装置17は、超音波診断装置14から画像データを受け取り、これを記憶、演算処理してアクチュエータ制御装置16に演算結果を出力する。
【0016】
図2に、本発明の一実施形態による超音波検査ロボットの具体的な構成を示す。 図2に示すように、超音波検査ロボット10は、3本のロボットアーム11(11A,11B,11C)が超音波プローブ12を保持する構成であり、アクチュエータ制御装置16により制御されて、検査対象18(人体または人体を模擬するファントム)の表面を走査できるようになっている。図2に示したパラレルリンク型ロボット(超音波検査ロボット10)は、3本のロボットアーム11のエンドエフェクタと3軸力センサ13(例えばPD3-32,ニッタ株式会社)を取り付けたプローブ固定部を接続することで超音波プローブ12に加わる反力の検出を、さらに超音波プローブ12に3次元位置センサ(例えばmicroBIRD, Ascension Technology Corp.)を取り付けることでロボットの変位測定を行い、位置/力制御を実現できる。
【0017】
図3は、図2の超音波検査ロボット10の円で囲まれた部分Aの拡大図である。図3において、3本のロボットアーム11(11A,11B,11C)のそれぞれは、3軸の回転軸を有するフリージョイント部を備え、超音波プローブの定位置での旋回、傾斜または人体の上面から両体側への移動を可能にしている。3本のロボットアーム11(11A,11B,11C)の先端部は、結合部材21により結合されており、力センサ(3軸力覚センサ)13を介してプローブフォルダ22に結合されている。プローブフォルダ22は、超音波プローブ12を保持する。
【0018】
超音波検査ロボット10は、1アームあたりにアーム固定部の軸、および2箇所の関節に合計3個のアクチュエータを取り付けた3本のアームから構成されており、その中心部分に保持部としてのプローブフォルダ22を介して超音波プローブ12を取り付けている。図2に示すように、アーム固定部の配置は検査対象18となる患者の体に対して片側に2箇所、反対側に1箇所となる。各アームに3自由度を持たせることで、プローブ保持部の複雑な3次元運動を実現している。なお、プローブの位置指令に対する各アームの軸回転角および関節角は、各アームを構成するリンクの長さから逆運動学を用いて導出する。さらに、患者に対し過度な圧迫力を与えないため、プローブ固定部に装着された3軸力センサにより体表面からの反力を計測する。
【0019】
アクチュエータ制御装置16は、力センサ13により検出される三次元方向の力を、操作者の手により超音波プローブ12に加えられる力と体表面からの反力とに区別して認識し、超音波検査ロボット10による制御を切り替える。患者の体が超音波プローブ12の固定中に動いた場合、力センサ13の出力と超音波断層象のリアルタイム認識処理結果により判断し、超音波プローブ12の位置を補正する。
【0020】
超音波診断装置14は、ロボット10が体表面上を走査して取得した断層像を入力する。そして、診断対象の臓器の認識アルゴリズムを適用し、その臓器の特徴部分の検出、認識を行う。これと並行してプローブの先端座標および角度を記憶する。そしてアルゴリズム適用結果から、基準断面の特徴に最も合致した断層像が得られた位置にプローブを再び移動させることで、検査者が行う操作量を軽減する。なお、ロボットの制御および画像処理を同一能力の演算処理装置で行いリアルタイム性を確保できる。
【0021】
超音波検査ロボットの制御と心臓認識アルゴリズムを一つのプログラムに集約し,対象臓器を自動的に探索するシステムを構築できる。ロボットの制御および駆動については、デバイスの初期化後、プローブを初期位置に移動させて一定のパターンに従い体表面上を一定の接触力を保つように走査させる。また走査を行うと同時に,画像処理を行い対象臓器の特徴部分が得られたと認識されたプローブの位置を記憶する。
【0022】
画像処理について述べる。たとえば、 Windows(登録商標) 用マルチメディア拡張API 群であるDirectX に含まれるAPI の一つであるDirectShowを用い、画像入力装置を初期化し、画像のピクセル数やフレームレートなどの出力フォーマットを設定し、画像データをグラブする。前述のアルゴリズムにより、対象臓器の特徴部分とその運動の空間的分布を取得し、その特徴部分を断層像の中央に配置するための体表面上の位置へプローブを移動させる。
【0023】
対象臓器が心臓である場合について、認識アルゴリズムを説明する。超音波断層像は通常グレースケールであり、心臓の診断にはその形状や運動から判断するが、それらを効率的に捉えるための基準断面がいくつか存在する。長軸断面(長軸像)は心室壁(PW : Posterior ventricular Wall)や僧帽弁(MV : Mitral Valve)など得られる情報が多いため最も基本的な断面と言われている。本実施形態では、これらの認識アルゴリズムを利用し、長軸像を得るためのロボットの制御へと反映させることができる。以下、このアルゴリズムの概要を述べる。
【0024】
被験者の体格から心室壁が存在する体表面からの深さを見積もり、断層領域に4つの関心領域を設定し、それらの相関関係からまず肋骨の存在する体表面の位置を判定する。
【0025】
さらに各領域内の輝度勾配を基に得られた閾値により、2値化処理を行う。その後、ラベリング処理によってノイズ除去を施し、最大面積の連結領域を抽出し、断層領域の横幅との比が60[%]以上を占めた領域を心室壁の候補とする。また、心臓の中心を通る断面で撮像した場合、運動方向は断面に対して平行に近くなるため心室壁の運動が比較的大きく観測されるという特徴がある。よって画像中の運動ベクトルを定量的に計測する方法であるオプティカルフロー法を用いて、心室壁の運動を計測する。長軸断面に対してこの方法によって心臓の運動ベクトルを抽出した結果をみると、心室壁で多くの運動ベクトルが観測されていることが分かる。よって,運動ベクトルがより多く観測された断層像を抽出し、さらに輝度変化率と相互相関係数を計測した結果から、僧帽弁の位置を認識させ、それが中央に配置されたものを最終的に長軸像と判定する。
【0026】
以上は、心臓についての認識アルゴリズムであるが、他の臓器についても、同様に、その特徴をとらえるべく認識アルゴリズムを準備することができる。
次に、図4を参照して本発明の一実施形態による超音波検査ロボットの制御方法を説明する。図4中のステップ401において、操作者が超音波プローブ12をつかんで人体の検査部位(たとえば腹部)に押し当てながら、所望の断層画像を得るべく腹部上をなぞる。このとき、力センサ13は、操作者によって超音波プローブに加えられる三次元方向の力を検出し、アクチュエータ制御装置16に出力する。ステップ402において、アクチュエータ制御装置16は、力センサ22の検出結果をもとに、超音波プローブ12の三次元の動きに追随するように、ロボットアーム11のアクチュエータを制御する。これにより、操作者は、ロボットアーム11からの抵抗を感じずに、自然な感覚で超音波プローブ12を動かすことができる。
【0027】
ステップ403において、操作者が、所望の断層画像を探し当てて、超音波プローブ12の動きを停止する。アクチュエータ制御装置16は、力センサ13の検出結果をもとに、超音波プローブ12の三次元の動きに追随するようにロボットアーム11を制御しているので、超音波プローブ12はその位置に固定される。たとえば、血管の検査(癌診察)において、造影剤を血管に注射するために操作者が超音波プローブ12から手を放しても、超音波プローブ12は、適度な圧力で腹部に押し当てられたまま保持される。したがって、著音波プローブ操作者と造影剤の注射をする人の2名を必要としていた作業を1名で行うことができる。
【0028】
ステップ404において、操作者が所望の断層画像を保存すると、超音波診断装置14にその断層画像が記憶される。その後、ステップ405において、患者が体を動かした場合、その三次元の動きが力センサ13に加わる三次元の圧力として検出される。
【0029】
そこで、ステップ405において、もとの位置を復元するようにアクチュエータ制御装置16によりロボットアーム11が制御される。一方、超音波診断装置14により得られた超音波プローブ12からのリアルタイムの断層画像が、超音波診断装置14に記憶された断層画像と、画像処理装置17により比較され、アクチュエータ制御装置16により超音波プローブ12が三次元的に位置制御される。ステップ406において、リアルタイムの断層画像が記憶された断層画像と一致することにより、画像処理装置17の処理結果およびこれを受けたアクチュエータ制御装置16により、超音波プローブ12の動きを停止させる。
【0030】
操作者が超音波プローブ12から手を放した状態での超音波プローブ12の動き制御は、熟練者による操作の特徴をプログラムすることによりアクチュエータ制御装置16に行わせることができる。また、腹部の検査においては、なぞり動作が必要となるが、これもアクチュエータ制御装置16により行うことができる。
【0031】
超音波プローブ12による自動走査を、図5に示す。図5中のステップ501において、操作者は、超音波プローブ12から手を放した状態であり、あらかじめ超音波診断装置14に記憶された検査対象部位の特徴に、超音波プローブ12からの断層画像の特徴が一致するまで、超音波プローブで検査対象を走査する。ステップ502において、特徴の一致により、画像処理装置17はアクチュエータ16に超音波プローブ12を停止させる信号を出力し、その停止位置に超音波プローブ12を保持する。ステップ503において、超音波診断装置14は、超音波プローブ停止時の断層画像を記憶する。
【0032】
このように、記憶された画像すなわち検査箇所を自動的に探索できるので、癌検査などにおいて、造影剤を血管に投与後、一定時間に定点観測を自動的に行うことが可能となる。複数個所を検査する場合にも、複数のプローブを必要とせず、1つのプローブによる検査が可能となる。また、熟練した操作者による体表面の走査をプログラムしておくことにより、検査のスピードアップを図ることができる。
【0033】
超音波検査ロボットを用いてプローブ走査をするには、体表に押し込んだプローブが検知する反力を一定にしながら体表面を移動させる倣い制御が望まれる。この場合、診断部位に応じて位置制御と力制御をハイブリッドに行うことが重要となる。倣い制御を行うためには、プローブの位置・姿勢を制御する位置制御系と、プローブと体表との間に発生する反力を制御する力制御系を同時に実現しなければならない。そこで、本実施形態では力制御に位置指令型インピーダンス制御を導入した。ロボットに取り付けられたプローブ先端に望ましいインピーダンス特性として次式を考える。
【0034】
【数1】

【0035】
ここでスイッチ行列Sの対角要素が0か1かを選択することにより、制御系の切り替えが可能となる。また、本実施形態では、加速度は制御の対象としないものとし、実慣性項を無視する。さらに、今回は体表面に対して押し付ける方向(垂直方向)に関して力制御を行うこととし、それ以外の軸については位置制御系とする。したがって,押し付け方向(z方向)の制御式は次式で表される。
【数2】

すなわち、体表面上におけるなぞり動作を実現するために押し付け方向に関して適切な制御を行うには、目標反力{ EMBED Equation.3 , },目標粘性{ EMBED Equation.3 , }が重要な要素となる。
【0036】
次に、体表接触判定方法を説明する。粘弾性特性推定は、プローブを体表面に最低1回押し込んだ際の変位と反力を用い、後述の推定法により解析可能である。しかし、測定開始点が体表面上でなければ正しい推定は行えない。つまり、プローブが体表面に接触した時点から粘弾性特性推定を行うためには、最低2回の押し込み動作が必要であるといえる。すなわち、1度目の押し込みで体表接触点原点を導出し、2度目の押し込みで粘弾性特性推定を行う。体表接触原点については、変位-反力曲線においてもおおよその判断は可能であるが、体表面粘弾性推定、ロボット制御パラメータへ反映、なぞり動作という一連の流れの自動化を目指す場合、定量的な数値データでの判別が望まれる。
【0037】
そこで、プローブの移動速度に着目し、変位から速度を求め、変位-速度曲線を得る。これにより、荷重-除荷の切り替わり点において、速度の符号が反転していることがわかる。すなわち、2回の押し込み動作を行い、1度目の除荷と2度目の荷重の切り替わり点を体表接触原点とし、そこから1回分の荷重-除荷データの測定を行う。なお、その際の変位のことを体表変位とする。なお、一定の押し込みを維持した場合、体表変位は時間と共に変化していくが、推定のために押し込みを行う際には荷重-除荷を連続的に行うので、時間変化は考慮しないものとする。
【0038】
したがって、ロボットによる粘弾性推定までの手順は、以下のようになる。
(i)ロボットを体表面の上部まで駆動し、推定を開始する。
(ii)反力がF1[gf]になるまで垂直にロボットを駆動し、プローブを体表面に押し込む。
(iii)F1[gf]に達したら、今度は反力がF2[gf]になるまでプローブが体表面から離れる方向にロボットを駆動する。
(iv) (ii)の動作を再び行う。
(v)反力が再びF1[gf]に達する時点までに取得した変位、反力および計算によって求められる速度を元に体表接触原点を導出する。
(vi) 導出した体表接触点から1回分の荷重-除荷データを元にパラメータ推定を行う。
【0039】
次に、接触部位の特性をロボット制御に反映させるために粘弾性の推定を行う。体表面は弾性と同時に粘性を持つ粘弾性体としてふるまうため、接触部位に一定の荷重が作用すると、接触面における変位が経時的に変化する。ここで、プローブ先端は終始体表面の1点に接触しつつ、垂直(z)方向にのみ動くと仮定すると、{ EMBED Equation.3 , }でのプローブ変位{ EMBED Equation.3 , }、反力{ EMBED Equation.3 , }および粘弾性パラメータPとの関係は次式で表現できる。
【数3】

ただしb,kは粘性係数、弾性係数である。
【0040】
プローブ先端点測定のサンプリング間隔を { EMBED Equation.3 , }[ms]として、先端の速度を変位から算出すると
【数4】

となり、この3×2の変換行列をTとすると、粘弾性パラメータPと測定値の関係は
【数5】

で与えられる。
【0041】
すなわち、パラメータPは次式で算出することができる。
【数6】

ただし、 (ZT)#はZTの擬似逆行列である。そして、算出したパラメータと、式(1)におけるBd,Kdの関係を次式にように定義する。ただし、α,βは定数である。
【数7】

【数8】

【0042】
推定した粘弾性パラメータを式(2)に代入し、ゼリーを塗布したファントムに対して、なぞり走査実験を行った。この結果、接触部位の粘性をもとにロボットを制御することで,プローブに対するなぞり方向の力を小さくすることができるが、押し付け方向の反力だけでなくなぞり方向の反力にも目標値を設け、その値に応じてプローブの押し付けを制御する必要性が生じた。そこで,式(2)になぞり方向の反力を反映させると、なぞり方向の反力fxに応じて押し付けの制御が行われ、その結果z軸方向の移動距離が細かく変化していることがわかった。
【0043】
超音波検査ロボットによる体表面のなぞり動作実現のための制御法は、まず、診断に用いるロボットそのものを使って粘弾性推定を行い、推定したパラメータをロボット制御へと反映、さらになぞり方向に加わる力も考慮する。これにより、押し付け方向目標反力一定のなぞり動作を実現できる。押し付け方向だけでなく、なぞる方向の粘弾性の推定も行い制御に反映させることで、より実際の診断に近いなぞり動作が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の一実施形態による超音波検査ロボットシステムの構成を示す模式図である。
【図2】本発明の一実施形態による超音波検査ロボットの具体的な構成を示す図である。
【図3】図2の超音波検査ロボット10の円で囲まれた部分Aの拡大図である。
【図4】本発明の一実施形態による超音波検査ロボットの制御方法を示すフローチャートである。
【図5】本発明の一実施形態による超音波検査ロボットの制御方法を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0045】
10 超音波検査ロボット
11 ロボットアーム
12 超音波プローブ
13 力センサ
14 超音波診断装置
15 表示装置
16 アクチュエータ制御装置
17 画像処理装置
18 検査対象
21 結合部材
22 プローブフォルダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波プローブと、
超音波プローブを保持するロボットアームと、
超音波プローブに加わる三次元方向の力を検出する力センサと、
この力センサの検出結果に基づき、操作者の手の動きにより超音波プローブに加えられる三次元方向の外力を認識し、前記外力に従ってロボットアームを動かすアクチュエータ制御部と、
所望の部位の画像を記憶する画像記憶部と、
超音波プローブからの画像と前記記憶された画像とを比較する画像比較部とを有し、
前記アクチュエータ制御部は、超音波プローブが所定位置に保持されている間に、前記力センサの出力から認識される体表面からの反力および前記画像比較部の出力から測定対象の移動を検出した場合、超音波プローブ先端部の測定対象表面への押しつけ力を保持しつつ測定対象表面をなぞりながら、超音波プローブからの画像が記憶された画像と一致するまで超音波プローブを移動させることを特徴とする超音波検査ロボットシステム。
【請求項2】
ロボットアーム先端に力センサを介して超音波プローブを保持する超音波検査ロボットの制御方法において、
超音波プローブに働く外力を検出するステップと、
検出された外力に応答してアクチュエータを制御し、ロボットアームの動きを前記外力に追随させるステップと、
前記外力が所定時間加わらないことにより、超音波プローブの停止を判定して、その停止位置に超音波プローブを保持するステップと、
操作者による入力に応答して、断層画像を記憶するステップとを有することを特徴とする超音波検査ロボットの制御方法。
【請求項3】
ロボットアーム先端に力センサを介して超音波プローブを保持する超音波検査ロボットの制御方法において、
あらかじめ記憶された検査対象部位の特徴に、超音波プローブからの断層画像の特徴が一致するまで、超音波プローブで検査対象を走査するステップと、
前記特徴の一致により、超音波プローブを停止させ、その停止位置に超音波プローブを保持するステップと、
超音波プローブ停止時の断層画像を記憶するステップとを有することを特徴とする超音波検査ロボットの制御方法。
【請求項4】
超音波プローブの停止時に、前記力センサの出力から認識される体表面からの反力の変化に応答して、超音波プローブからの断層画像が停止時に記憶された画像に一致するようにアクチュエータを制御するステップをさらに有することを特徴とする請求項2または3記載の超音波検査ロボットの制御方法。
【請求項5】
体表面への超音波プローブの2回の押し込み動作を行い、1度目の除荷と2度目の荷重の切り替わり点を体表接触原点として決定するステップと、
この決定された体表接触原点から、1回分の荷重―徐荷データをもとに、粘弾性パラメータを推定するステップと、
推定された粘弾性パラメータに基づいて、体表に押し込んだ超音波プローブが受ける反力を一定にしながら、体表面を移動させるようアクチュエータを制御するステップとを有することを特徴とする請求項3または4記載の超音波検査ロボットの制御方法。

【図1】
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【図4】
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【図5】
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【図2】
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【図3】
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