説明

超音波殺菌装置、及び超音波殺菌方法

【課題】超音波エネルギーを利用した殺菌を効率よく行うことができる超音波殺菌装置を提供する。
【解決手段】ベルトコンベア11の搬送ベルト19には被殺菌物20が載置されている。駆動ローラ18が回転すると、搬送ベルト19により被殺菌物20が搬送される。放水ノズル13は、その後端に超音波振動子23が設けられている。放水ノズル13は、超音波振動子23が発生した超音波を洗浄水Wに伝播させ、被殺菌物20に向けて放水する。洗浄水W中には超音波のエネルギーによりキャビテーションが発生する。それにより生成されるフリーラジカルが酸化反応を引き起こすことで、被殺菌物20が殺菌される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体中に超音波を照射し、その超音波のエネルギーを利用して殺菌を行う超音波殺菌装置、及び超音波殺菌方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
所定周波数域の超音波を液体に照射すると、キャビテーションと呼ばれる気泡が発生することが知られている。近年では、その超音波のエネルギーを利用して殺菌を行う殺菌装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1には、所定温度に加熱した液体に低い周波数(具体的には、15kHz)の超音波を照射することで、液体の殺菌効率を向上させる超音波殺菌装置が開示されている。すなわち、この超音波殺菌装置では、低周波数で振幅の大きな超音波が作り出す圧力変動により液体中にキャビテーションを発生させ、細菌の殻を物理的に破壊することで、細菌を死滅させるようになっている。
【特許文献1】特開平9−276376号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記特許文献1の殺菌装置のように物理的作用で殺菌を行う場合、照射する超音波の周波数が低く大型の超音波振動子が必要となるため、装置サイズも大きくなってしまう。さらに、殺菌を確実に行うためには超音波の出力を高める必要がある。また、流水型の超音波殺菌装置に適用する場合、超音波振動子が大きくなることに加え、長い波長の超音波を放出するために放水ノズルの直径を大きくする必要がある。この場合、放水量が膨大な量となり、実用化するための障害となってしまう。
【0005】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、超音波エネルギーを利用した殺菌を効率よく行うことができる超音波殺菌装置、及び超音波殺菌方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、超音波を発生させるための超音波振動子を備え、前記超音波を液体に照射して殺菌を行う超音波殺菌装置であって、前記超音波の照射により前記液体中にキャビテーションを発生させて、それにより生成されるフリーラジカルが酸化反応を引き起こすことで殺菌を行う超音波殺菌装置をその要旨とする。
【0007】
従って、請求項1に記載の発明によれば、超音波の照射により物理的に殺菌する従来の殺菌装置とは異なり、酸化反応で殺菌が行われる。従って、出力が弱く物理的作用の少ない超音波であっても、化学的作用で殺菌を効率よく行うことができる。また、従来の殺菌装置と比較して、使用する超音波の周波数が高くなり、超音波振動子のサイズを小さくすることができ、殺菌装置の小型化が可能となる。さらに、超音波の波長が短くなることから殺菌ムラがなく殺菌効率が向上する。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1において、被殺菌物を搬送する搬送手段と、前記超音波振動子が設けられ、その超音波振動子が発生した超音波を流水に伝播させて前記被殺菌物に向けて放水する放水手段とを備えることをその要旨とする。
【0009】
従って、請求項2に記載の発明によれば、被殺菌物を流水で洗浄しつつ超音波の照射により被殺菌物の殺菌を行うことができる。またこの場合、死滅した細菌を被殺菌物の表面から洗い流すことができるため、被殺菌物の洗浄と殺菌を効率よく行うことができる。また、超音波振動子のサイズを小さくすることができ、放水手段の放水量を低減することができる。
【0010】
なお、本発明における被殺菌物としては特に限定されないが、例えば、肉、野菜、果物などの食材や、食器などを挙げることができる。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項1において、殺菌対象となる被処理液体が供給可能な殺菌槽を備え、前記殺菌槽は、その底部の外側に前記超音波振動子が設けられ、下方から超音波を照射して前記被処理液体の液面で反射させるものであることをその要旨とする。
【0012】
従って、請求項3に記載の発明によれば、殺菌槽の下方から超音波を照射して被処理液体の液面でその超音波を反射させることにより、液面近傍では定在波によってキャビテーションが盛んに起こるため、被処理液体の殺菌を効率よく行うことができる。
【0013】
この場合、前記殺菌槽には被処理液体を流通させるための通路を接続し、その殺菌槽に被処理液体を流しつつ殺菌処理を行うことが好ましい。このようにすると、被処理液体を大量に殺菌処理することができる。
なお、本発明における被処理液体としては、水耕栽培用の養液や浴槽水などを挙げることができる。
【0014】
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3のいずれか1項において、前記超音波振動子が発生する超音波の周波数は、80kHz〜800kHzであることをその要旨とする。
【0015】
従って、請求項4に記載の発明のように、超音波振動子が発生する超音波の周波数を80kHz〜800kHzの範囲とすると、液体中にフリーラジカルが多く生成されるため、殺菌効率を高めることができる。特に、超音波の周波数を200kHz〜500kHzの範囲とすると、殺菌効率をより高めることができる。
【0016】
請求項5に記載の発明は、液体中に80kHz〜800kHzの超音波を照射してキャビテーションを発生させ、それにより生成されるフリーラジカルが酸化反応を引き起こすことで殺菌を行うことを特徴とする超音波殺菌方法をその要旨とする。
【0017】
従って、請求項5に記載の発明のように、80kHz〜800kHzの超音波を液体中に照射すると、その液体中にフリーラジカルが多く生成されるため、酸化反応による殺菌を効率よく行うことができる。
【発明の効果】
【0018】
以上詳述したように請求項1乃至5に記載の発明によれば、超音波エネルギーを利用した殺菌を効率よく行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
[第1の実施の形態]
【0020】
以下、本発明を流水型の超音波殺菌装置に具体化した第1の実施の形態を図1〜図3に基づき説明する。
【0021】
図1に示すように、本実施の形態の超音波殺菌装置10は、搬送手段としてのベルトコンベア11、給水装置12、放水手段としての放水ノズル13、発振回路14、及び制御装置15を備える。
【0022】
ベルトコンベア11は、駆動ローラ18とその駆動ローラ18に掛け回された搬送ベルト19とを備え、その搬送ベルト19の上に複数の被殺菌物20が載置されている。なお、被殺菌物20の一例としては、肉、野菜、果物などの食材や食器を挙げることができる。
【0023】
給水装置12は開閉バルブ12aを備える。また、給水装置12は、水源(例えば、水道の蛇口や貯水タンクなど)に接続されており、開閉バルブ12aを開状態とすることにより、給水管21を介して洗浄水Wを放水ノズル13に供給する。
【0024】
放水ノズル13は略円柱形状をなし、その先端(下端)には洗浄水Wを放出するための放水口13aが設けられており、後端(上端)には超音波振動子23が設けられている。具体的には、放水ノズル13の先端は、放水口13aに向かって先細となっており、流水を収束させるよう内壁面がテーパー状に形成されている。なお、放水ノズル13の放水口13aの内径はφ5程度であり、その放水口13aから搬送ベルト19上の被殺菌物20に向けて洗浄水Wが放水される。
【0025】
本実施の形態の超音波振動子23は、平板状の圧電セラミックスからなり、発振回路14の発振信号に基づいて、周波数が500kHzの超音波を発生する。この超音波振動子23から発生された超音波は、放水ノズル13内において洗浄水Wに伝播し、その洗浄水Wとともに放水ノズル13の放水口13aから放出される。そして、その超音波が伝播された洗浄水Wは、搬送ベルト19上の被殺菌物20に放水される。
【0026】
制御装置15は、CPU31、ROM32、RAM33、入出力ポート(図示略)などからなる周知のマイクロコンピュータにより構成され、ベルトコンベア11、給水装置12、及び発振回路14と電気的に接続されている。制御装置15において、ROM32には制御プログラムが記憶されており、CPU31はRAM33を利用してその制御プログラムを実行する。その結果、制御装置15は、各種の制御信号を出力して、超音波殺菌装置10を統括的に制御する。
【0027】
具体的には、制御装置15は、ベルトコンベア11に制御信号を出力して駆動ローラ18を回転させ、搬送ベルト19による被殺菌物20の搬送を開始させる。その後、制御装置15は、給水装置12に制御信号を出力して開閉バルブ12aを開状態にすることにより放水ノズル13への洗浄水Wの供給を開始する。またこのとき、制御装置15は、発振回路14に制御信号を出力してその発振回路14から発振信号を出力させる。この発振信号に基づいて超音波振動子23が振動することにより放水ノズル13内の洗浄水Wに超音波が照射され、その洗浄水Wが放水ノズル13から搬送ベルト19上の被殺菌物20に放水される。これにより、被殺菌物20の洗浄と殺菌が同時に行われる。
【0028】
洗浄水W中に超音波が照射されると、キャビテーションが発生し、その圧縮、崩壊過程を経て数千度、数千気圧の反応場が形成される。そのキャビテーションによる高温の反応場において水分子が水素ラジカル(・H)やヒドロキシラジカル(・OH)のフリーラジカルに分解される。このフリーラジカルを含んだ状態の洗浄水Wが被殺菌物20に放水されることで、その被殺菌物20が酸化作用により殺菌される。
【0029】
本願発明者は、その殺菌効果を確認するために、所定数の大腸菌を含む溶液を実験用の殺菌槽に入れ、その溶液に500kHzの超音波(出力は12W)を照射して、照射時間に対する生菌数の割合を測定した。また、比較例として、大腸菌を含む溶液にラジカルスカベンジャー(具体的には、メタノール)を加えて500kHzの超音波(出力は12W)を照射した場合の生菌数の割合を測定した。
図2には、その測定結果である生菌数の割合log(N/N)が示されている。ここで、Nは照射開始前の大腸菌の数であり、Nは照射時間に対する生菌数である。
【0030】
図2に示すように、ラジカルスカベンジャーを加えない場合(トラップなしの場合)には、細菌が死滅しやすくなる。このため、照射時間に応じて生菌数の割合が大幅に低下する。一方、ラジカルスカベンジャーを入れた場合(トラップありの場合)には、超音波の照射時に生成されるフリーラジカルがそのラジカルスカベンジャーによってトラップされる。このため、生菌数の割合の低下の度合いは、ラジカルスカベンジャーを加えない場合に比べて小さくなる。
【0031】
このように、ラジカルスカベンジャーを入れてフリーラジカルをトラップすると殺菌効果がなくなるといった測定結果から、本実施形態の超音波殺菌装置10では、主としてフリーラジカルによる酸化反応で殺菌が行われることが確認された。
【0032】
また、本願発明者は、照射する超音波の周波数を変更し、その都度、フリーラジカルによる化学反応量を測定することで、その化学反応量の周波数依存性を確認した。
【0033】
図3に示されるように、200kHz〜500kHzの周波数範囲で化学反応量が最も多くなることが確認された。また、80kHz〜800kHzの周波数範囲内では、ピーク値の1/2程度の化学反応量があることが確認された。これに対して、従来の超音波洗浄器で使用される低周波数域(20kHz〜50kHz程度)では、上記ピーク値よりも化学反応量がワンオーダー低くなることがわかった。1000kHzを超える高周波数域についても同様に化学反応量がワンオーダー低かった。
従って、本実施形態の超音波殺菌装置10のように、500kHzの超音波を洗浄水Wに伝播させると、フリーラジカルによる酸化反応が盛んに起こり、殺菌効率を高めることが可能となる。なお、超音波の周波数は500kHzに限定されるものではなく、80kHz〜800kHzの範囲の周波数であれば、殺菌効率を十分に確保することが可能となる。
【0034】
本実施の形態の超音波殺菌装置10と同様に化学的な作用で殺菌するものとしては、紫外線を照射する殺菌装置や光触媒を用いた殺菌装置などが知られているが、紫外線は液体を伝播しにくく、透明な液体でないと紫外線が減衰して殺菌効果を得ることができない。これに対して、本発明の超音波殺菌装置10は、洗浄水Wの透明度にかかわらず超音波が効率よく伝播するため、十分な殺菌効果を得ることが可能である。
【0035】
さて、以上詳述した本実施形態によれば以下の効果を得ることができる。
【0036】
(1)本実施形態の超音波殺菌装置10では、500kHzの超音波を洗浄水W中に伝播させ、その洗浄水Wを被殺菌物20に放水するようにした。このようにすれば、洗浄水Wによって被殺菌物20が洗浄されるとともに、洗浄水W中に生成されるフリーラジカルが酸化反応を引き起こすことで被殺菌物20が殺菌される。この場合、死滅した細菌を被殺菌物20の表面から洗い流すことができるため、被殺菌物20の洗浄と殺菌を効率よく行うことができる。また、出力が弱く物理的作用の少ない超音波であっても、化学的作用で殺菌を行うことができるため、被殺菌物20の表面を傷つけることなく、殺菌を確実に行うことができる。
【0037】
(2)本実施形態の超音波殺菌装置10の場合、超音波振動子23によって発生される超音波の周波数が500kHzであるため、数十kHzという低周波域を使用した従来装置に比べて、超音波振動子23のサイズを小さくすることができ、放水ノズル13の小型化が可能となる。この場合、放水ノズル13の放水口13aの内径を小さくして放水量を低減することができるため、流水型の超音波殺菌装置10として実用化することができる。
【0038】
(3)本実施形態の超音波殺菌装置10の場合、超音波振動子23によって発生される超音波の周波数が500kHzであるため、洗浄水W中でフリーラジカルが効率よく発生して酸化反応が盛んに起こり、殺菌効率を高めることができる。また、超音波の波長が短くなることから、殺菌ムラがなく殺菌効率が向上する。さらに、500kHzの超音波では、可聴音が発生せず騒音の問題も生じることがない。
【0039】
(4)本実施形態の超音波殺菌装置10では、従来技術と比較して弱いパワーの超音波で被殺菌物20を殺菌できることから、超音波振動子23の耐久性を確保することができ、メンテナンス性も向上する。さらに、超音波殺菌装置10の省電力化も図ることができる。
【0040】
(5)本実施形態の超音波殺菌装置10では、殺菌用の薬剤を用いなくても被殺菌物20を殺菌できるので、その薬剤の廃液処理などを行う必要がない。勿論、洗浄水Wとしてエタノールなどの洗浄液を含んでもよく、その場合には洗浄力を向上させることができる。
【0041】
(6)本実施形態の超音波殺菌装置10では、制御装置15により給水装置12が制御されて洗浄水Wの供給が開始されるとともに発振回路14が制御されて超音波振動子23による超音波の照射が開始される。この構成によれば、洗浄水Wの供給を開始するタイミングに同期して超音波振動子23から超音波を照射させることができ、超音波エネルギーを利用した殺菌を効率よく行うことができる。また、制御装置15によってベルトコンベア11が制御されるので、ベルトコンベア11が被殺菌物20を搬送しているとき、その被殺菌物20に放水ノズル13から的確に放水することができる。
[第2の実施の形態]
【0042】
次に、本発明を流通型の超音波殺菌装置を備えた水耕栽培システムに具体化した第2の実施の形態を図4に基づき説明する。
【0043】
図4に示すように、本実施の形態の水耕栽培システム40は養液供給装置41と水耕栽培装置42と超音波殺菌装置43とを備える。この水耕栽培システム40において、各装置41〜43は配管44〜46を介して接続されており、養液供給装置41→水耕栽培装置42→超音波殺菌装置43→養液供給装置41の順に、被処理液体としての水耕栽培用の水(養液)W1が循環する。なお、この養液W1は、カリウム、カルシウム、マグネシウム、鉄などのミネラルを含む。
【0044】
水耕栽培システム40において、養液供給装置41は養液タンク48と循環ポンプ49とを備え、水耕栽培装置42は栽培ベッド51を備える。また、超音波殺菌装置43は殺菌槽53と発振回路54と制御装置55とを備える。
【0045】
養液供給装置41は、循環ポンプ49を駆動することにより、養液タンク48に蓄えられている養液W1を配管44を介して水耕栽培装置42に供給する。水耕栽培装置42では、養液W1が栽培ベッド51に供給されることで野菜などの栽培が行われる。また、水耕栽培装置42から排出された養液W1は配管45を介して超音波殺菌装置43の殺菌槽53に供給される。
【0046】
本実施の形態の殺菌槽53は長方形の箱状をなし、その底部の外側に複数の超音波振動子56が設けられている。殺菌槽53の上部には空気が入っており、養液W1の上部に空気層A1が形成されている。
【0047】
本実施の形態の超音波振動子56は、平板状の圧電セラミックスからなり、発振回路54の発振信号に基づいて、周波数が500kHzの超音波を発生する。この超音波は、殺菌槽53の下方から上方に向けて照射される。そして、その超音波は養液W1中を伝播してその液面(空気層A1と養液W1との界面)で反射する。
【0048】
殺菌槽53において超音波が照射されると、キャビテーションが発生し、その圧縮、崩壊過程を経て数千度、数千気圧の反応場が形成される。そして、そのキャビテーションによる高温の反応場において水分子が水素ラジカル(・H)やヒドロキシラジカル(・OH)のフリーラジカルに分解され、そのフリーラジカルが酸化反応を引き起こすことで養液W1の殺菌が行われる。殺菌槽53において殺菌された養液W1は配管46を介して養液供給装置41の養液タンク48に貯留される。
【0049】
制御装置55は、第1の実施の形態の制御装置15と同様の構成であり、CPU31、ROM32、RAM33を備える。制御装置55は、養液供給装置41及び発振回路54と電気的に接続されており、各種の制御信号を出力して養液供給装置41及び発振回路54を制御する。
【0050】
具体的には、制御装置55は、養液供給装置41に制御信号を出力して循環ポンプ49を駆動し水耕栽培装置42への養液W1の供給を開始させる。すると、水耕栽培システム40において養液W1の循環が始まり、水耕栽培装置42から超音波殺菌装置43の殺菌槽53に養液W1が供給される。またこのとき、制御装置55は発振回路54に制御信号を出力してその発振回路54から発振信号を出力させる。この発振信号に基づいて超音波振動子56が振動することにより殺菌槽53において超音波が養液W1に照射されその養液W1の殺菌が行われる。
【0051】
さて、以上詳述した本実施形態によれば以下の効果を得ることができる。
【0052】
(1)本実施形態の超音波殺菌装置43の場合、500kHzの超音波を殺菌槽53の下方から照射して養液W1の液面で反射させることにより、液面近傍では定在波によってキャビテーションが盛んに起こるため、酸化反応による養液W1の殺菌を効率よく行うことができる。
【0053】
(2)本実施形態の超音波殺菌装置43の場合、養液W1の液面は超音波の音圧によって波長程度(3mm程度)の大きさで脈動をするため、その液面の近傍では超音波の反射による定在波が均一に発生する。その結果、養液W1の液面近傍における反応場が平均化されて、再現性のある反応場を容易に形成することができる。ここで、液面を脈動させてその近傍で定在波を均一に発生させるためには、超音波の周波数を200kHz〜500kHzに設定することが好ましい。また、超音波の周波数を200kHz〜500kHzに設定すると、液面近傍でヒドロキシラジカルが多く発生するため、養液W1の殺菌を行うのに実用上好ましいものとなる。
【0054】
(3)本実施形態の超音波殺菌装置43では、養液W1を流しながらその殺菌が行われるので、養液W1を大量に殺菌処理することができる。
【0055】
(4)本実施形態の超音波殺菌装置43では、養液W1中に殺菌用の薬剤を添加しなくても養液W1を殺菌できるので、野菜の栽培方法として極めて好ましい。
【0056】
なお、本発明の実施形態は以下のように変更してもよい。
【0057】
・上記第1の実施の形態では、放水ノズル13は放水口13aから所定ポイントに放水を行うポイントタイプのノズルであるが、図5に示すように、被殺菌物20aの幅が広い場合、ライン状に放水を行うラインタイプの放水ノズル60を用いてもよい。具体的には、この放水ノズル60の先端にスリット状の放水口60aが設けられており、その後端に長方形の板状の超音波振動子61が設けられている。なおこの放水ノズル60の後端には、1つの超音波振動子61を設けているが、複数個の超音波振動子を設けてもよい。この放水ノズル60を用いることにより、幅が広い被殺菌物20aの洗浄及び殺菌を確実に行うことができる。
【0058】
・上記各実施の形態において、洗浄水Wや養液W1に殺菌用の薬剤を添加してその薬剤による殺菌と超音波の照射による殺菌とを併用してもよい。また、加熱装置を設け、超音波照射下で加熱を併用した殺菌を行ってもよい。このように構成すれば、殺菌効果をより高めることができる。
【0059】
・上記第2の実施の形態では、水耕栽培用の養液W1を殺菌するための超音波殺菌装置43に具体化したが、家庭用の浴槽水、温泉や銭湯の大型浴槽の浴槽水などを殺菌するための超音波殺菌装置に具体化してもよい。
【0060】
・上記第2の実施の形態では、流通型の超音波殺菌装置43に具体化したが、これ以外に、被処理液体を流通させるための配管を設けない密閉型の殺菌槽を備えた超音波殺菌装置、例えば、卓上型の超音波殺菌装置に具体化してもよい。
【0061】
・上記第2の実施の形態では、殺菌槽53の底部に超音波振動子56を設け、下方から上方に向けて超音波を照射する超音波殺菌装置43に具体化したが、これに限定されるものではない。例えば、超音波振動子を殺菌槽の上部や側壁部に設けた超音波殺菌装置に具体化してもよい。
【0062】
次に、特許請求の範囲に記載された技術的思想のほかに、前述した実施形態によって把握される技術的思想を以下に列挙する。
【0063】
(1)請求項1乃至3のいずれか1項において、前記超音波振動子が発生する超音波は、200kHz〜500kHzの周波数であることを特徴とする超音波殺菌装置。
【0064】
(2)請求項2において、前記被殺菌物は、食材または食器であることを特徴とする超音波殺菌装置。
【0065】
(3)請求項3において、前記殺菌槽には前記被処理液体を流通させるための通路が接続され、前記殺菌槽に被処理液体を流しつつ殺菌処理を行うことを特徴する超音波殺菌装置。
【0066】
(4)請求項3において、前記被処理液体は、水耕栽培用の養液であることを特徴とする記載の超音波殺菌装置。
【0067】
(5)請求項3において、前記被処理液体は、浴槽水であることを特徴とする超音波殺菌装置。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】第1の実施の形態の超音波殺菌装置を示す概略構成図。
【図2】超音波の照射時間に応じた生菌数の割合を示すグラフ。
【図3】化学反応量の周波数依存性を示すグラフ。
【図4】第2の実施の形態の水耕栽培システムを示す概略構成図。
【図5】別の実施形態の放水ノズルを示す正面図。
【符号の説明】
【0069】
10…超音波殺菌装置
11…搬送手段としてのベルトコンベア
13…放水手段としての放水ノズル
20…被殺菌物
23…超音波振動子
43…超音波殺菌装置
53…殺菌槽
56…超音波振動子
60…放水手段としての放水ノズル
W…流水としての洗浄水
W1…被処理液体としての養液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波を発生させるための超音波振動子を備え、前記超音波を液体に照射して殺菌を行う超音波殺菌装置であって、
前記超音波の照射により前記液体中にキャビテーションを発生させて、それにより生成されるフリーラジカルが酸化反応を引き起こすことで殺菌を行う超音波殺菌装置。
【請求項2】
被殺菌物を搬送する搬送手段と、
前記超音波振動子が設けられ、その超音波振動子が発生した超音波を流水に伝播させて前記被殺菌物に向けて放水する放水手段と
を備えることを特徴とする請求項1に記載の超音波殺菌装置。
【請求項3】
殺菌対象となる被処理液体が供給可能な殺菌槽を備え、
前記殺菌槽は、その底部の外側に前記超音波振動子が設けられ、下方から超音波を照射して前記被処理液体の液面で反射させるものであることを特徴とする請求項1に記載の超音波殺菌装置。
【請求項4】
前記超音波振動子が発生する超音波の周波数は、80kHz〜800kHzであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の超音波殺菌装置。
【請求項5】
液体中に80kHz〜800kHzの超音波を照射してキャビテーションを発生させ、それにより生成されるフリーラジカルが酸化反応を引き起こすことで殺菌を行うことを特徴とする超音波殺菌方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−136356(P2006−136356A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−325944(P2004−325944)
【出願日】平成16年11月10日(2004.11.10)
【出願人】(000243364)本多電子株式会社 (255)
【出願人】(504416138)
【Fターム(参考)】