説明

超音波液面計

【課題】 容器底部の板厚が変動した場合でも、超音波送受信部の反共振点近傍にスプリアス点が生じにくく、良好な液面検出感度を確保できる超音波液面計を提供する。
【解決手段】 音響整合層3の厚みtを、圧電セラミック素子2Pの反共振周波数における音響整合層内の波長λの1/2の整数倍と等しくなるように調整し、さらに、容器底部Wと音響整合層3との間に、音響整合層3よりも音響インピーダンスの低い柔軟高分子材料からなる共振結合抑制層4を挿入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超音波液面計に関する。
【背景技術】
【0002】
【特許文献1】特許3378231号公報
【特許文献2】特開2000−314651号公報
【0003】
従来、タンク底部下面に超音波トランスジューサ(超音波送受信部)を取り付け、容器底部を介して液面に向け測定用超音波を送出し、該測定用超音波が液面位置で反射して戻ってくるまでの時間を計測することにより液面高さを知ることができるようにした超音波液面計が知られている(特許文献1,2)。容器底部と超音波トランスジューサとの結合は、グリス等の液状の結合材(カプラント)を用いて行なわれている。この場合、超音波トランスジューサを容器底部に対し液状結合材を介して取り付ける場合、容器底部の材質や板厚に応じて超音波トランスジューサと容器底部とが音響結合して超音波トランスジューサの見かけの共振点(センサ共振点)がシフトするので、特許文献1に開示されているごとく、容器との結合によりシフト後の、超音波トランスジューサの共振点を用いて超音波送受信を行っている。
【0004】
また、超音波トランスジューサは、圧電セラミック素子と容器底部と間の、容器底部と圧電セラミック素子との音響的な整合を取るために、金属等で構成された音響整合層を有する。特許文献2には、音響整合層の挿入により圧電セラミック素子の共振点が分裂(スプリット)しないように、圧電セラミック素子における共振点波長の1/2を基準として、音響整合層の厚みをその整数倍に設定することが開示されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献1,2の構成では、音響整合層が液状カプラントを介して容器底部に結合されるので、圧電セラミック素子、音響整合層及び容器底部が一体不可分の音響振動系を構成する。従って、圧電セラミック素子の共振点波長を基準に音響整合層の厚さを調整しても、超音波トランスジューサの共振点の分裂防止は、特定の板厚を有する容器底部への取り付けを前提として初めて達成できる。その結果、取付対象となる容器の底部板厚が一定していない場合には、板厚によっては、超音波トランスジューサの共振点がシフトするだけでなく、新たな機械共振モードにより共振周波数特性にスプリアス点が発生し、検出感度の低下を招く惧れがある。具体的には、超音波トランスジューサの共振点近傍にスプリアス点が発生した場合、それらの間に超音波トランスジューサの駆動周波数が設定されると、容器底部と液体との境界反射による残響が著しくなり、液面反射信号の検出感度が不十分になる可能性がある。特に、板厚方向の縦波機械共振の固有周波数解が、狭い周波数間隔で密集しやすい大板厚の容器に適用する場合には、この問題が特に著しくなる。
【0006】
本発明の課題は、容器底部の板厚が変動した場合でも、超音波送受信部の共振点近傍にスプリアス点が生じにくく、良好な液面検出感度を確保できる超音波液面計を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の超音波液面計は、
液体を収容した容器からなる被測定系において鋼板からなる容器底部に取り付けられるとともに、該容器底部を介して液面に向け測定用超音波を送出し、測定用超音波の液面反射波を受信する圧電セラミック素子からなる超音波送受信部と、
超音波送受信部と容器底部との間に介在し、超音波送受信部に接して配置されるとともに、容器底部をなす鋼板と圧電セラミック素子との中間の音響インピーダンスを有する音響整合層と、
音響整合層と容器底部との間に介在し、音響整合層と容器底部との双方に接して配置されるとともに、音響整合層よりも音響インピーダンスの低い柔軟高分子材料からなり、超音波送受信部と容器底部との音響共振結合を抑制する共振結合抑制層と、
容器底部の板厚に固有の共振周波数である板厚固有周波数を特定する板厚固有周波数特定手段と、
特定された板厚固有周波数に超音波送受信部の駆動周波数を設定する駆動周波数設定手段と、
設定された駆動周波数にて超音波送受信部を駆動する素子駆動手段と、
超音波送受信部を駆動したときの、該超音波送受信部による液面反射波の受信信号に基づいて容器内の液面高さを算出する液面高さ算出手段と、
液面高さ情報を出力する液面高さ情報出力手段と、を備え、
音響整合層の厚みが、圧電セラミック素子の反共振周波数にて該音響整合層内を伝播する超音波の、該音響整合層内での波長の1/2の整数倍と等しくなるように調整されてなることを特徴とする。
【0008】
上記本発明の超音波液面計は、超音波送受信部の駆動周波数を容器底部の板厚に応じて、その固有周波数に駆動周波数を設定することで、容器底部に対する超音波透過効率を最適化することを構成上の前提とする。駆動周波数は、容器板厚に応じて変更する必要があるが、駆動周波数ひいては板厚固有周波数の近傍に、容器底部、音響整合層及び圧電セラミックの音響結合に起因した不要なスプリアス点が発生すると、容器底部と液体との境界反射による残響が著しくなり、液面反射信号の検出感度が劣化する。本発明においては、音響整合層の厚みを、圧電セラミック素子の反共振周波数における音響整合層内の波長λの1/2の整数倍と等しくなるように調整し、さらに、容器底部と音響整合層との間に、音響整合層よりも音響インピーダンスの低い柔軟高分子材料からなる共振結合抑制層を挿入することで、容器底部の板厚がどのような値に設定されていても、板厚固有周波数に合わせこんだ超音波送受信部の駆動周波数の近傍に、容器底部、音響整合層及び圧電セラミック素子の音響結合に起因した不要なスプリアス点が発生しにくくなる。板厚固有周波数に合わせこんだ駆動周波数の採用により、容器底部の測定用超音波の透過効率が板厚に応じて最大化され、さらに、板厚によらず駆動周波数の近傍にスプリアス点が発生しにくくなるので、容器底部と液体との境界反射による残響発生は抑制され、液面反射信号のS/N比が向上し、液面検出感度を高めることができる。
【0009】
共振結合抑制層を介在させることで、容器底部と音響整合層との音響結合の影響は大幅に減じられる。しかし、音響整合層の厚みを、圧電セラミック素子の共振周波数における圧電セラミック素子内の波長を基準に音響整合層の厚みを設定した場合は、容器底部の板厚によっては、容器底部と圧電セラミック素子との音響整合層を介した間接的な共振結合の影響が依然無視できず、スプリアス点の発生抑制は不十分となる。本発明においては、音響整合層の厚みを、圧電セラミック素子内の波長ではなく、圧電セラミック素子の反共振周波数における音響整合層内の波長を基準として、そのの1/2の整数倍と等しくなるように調整することで、容器底部と圧電セラミック素子との音響整合層を介した間接的な共振結合がより効果的に阻止され、容器底部の板厚によらず駆動周波数近傍に不要スプリアス点が生じにくくなる。
【0010】
なお、本発明において、「板厚固有周波数に超音波送受信部の駆動周波数を設定する」とは、超音波送受信部の駆動周波数設定値が、目標となる板厚固有周波数値に対し±10%以内に収まっていることをいう。また、「音響整合層の厚みが、圧電セラミック素子の反共振周波数にて該音響整合層内を伝播する超音波の、該音響整合層内での波長λの1/2の整数倍と等しくなる」とは、「波長λの1/2の整数倍」となる目標厚みに対し、実際の音響整合層の厚みが±10%以内に収まっていることをいう。音響整合層内の音速をCとし、反共振周波数をfpとすれば、上記波長λは、
λ=C/fp ‥(1)
であり、音響整合層の厚みtは、
t=N・λ/2=N・C/2fp (ただし、N=1,2,3,‥) ‥(2)
を充足するように設定される。
【0011】
共振結合抑制層は、例えばシリコーン樹脂(ゴム及びエラストマーを概念として含む)層が、超音波送受信部と容器底部との音響共振結合抑制効果に優れ、本発明に好適に採用できる。シリコーン樹脂はなるべく軟質のもの(例えば、タイプAデュロメータ硬度にて50以下のもの)を採用するのがよく、タイプAデュロメータ硬度にて17未満の樹脂にて構成することも可能である。例えばゲル状シリコーン樹脂は、タイプAデュロメータでは硬度測定不能であり、この場合は、別の方法により硬度が規定される。具体的には、JIS:K2220に規定の稠度試験法において、1/4コーン針を使用し、荷重9.38gにて測定した針入度を硬度の指標として使用できる。上記ゲル状シリコーン樹脂は、その針入度が例えば50以上80未満(この数値は、タイプAデュロメータ硬度17よりもはるかに低い硬度である)のものを採用できる。シリコーン樹脂の市販品としては、ゲル状シリコーン樹脂としてのKJR−9010(針入度:65)、KJR−9015(針入度:65)、KJR−9016(針入度:70)、KJR9017(針入度:65)(いずれも信越化学工業(株)の製品名)、シリコーンエラストマーとしてのKJR−9022(タイプAデュロメータ硬度:17)、KJR−9023(タイプAデュロメータ硬度:22)、KJR−9025(タイプAデュロメータ硬度:42)、KJR−9030及びX−35−233−2(いずれも信越化学工業(株)の製品名)を例示できる。全て、タイプAデュロメータ硬度では50以下の値を有する材料である。なお、上記と同様の硬度範囲を充足するものであれば、シリコーン樹脂以外の低硬度樹脂(例えばノルボルネンポリマー)を採用することも可能である。
【0012】
一方、音響整合層は、圧電セラミック素子(ペロブスカイト型酸化物:例えば、チタン酸バリウム、チタン酸鉛、チタン酸ジルコン酸鉛、チタン酸ジルコン酸ランタン鉛など)よりも大きい音響インピーダンス密度を有する材料で構成することが望ましい。音響インピーダンスは材料の密度ρと音速Cとの積に音波通過断面積Sを乗じた値S・ρ・Cとして定義され、特に密度ρと音速Cとの積ρ・Cを固有音響インピーダンスないし音響インピーダンス密度と称する。このような音響整合層の構成材料としては、アルミニウムないしその合金(例えばAl−Mg系合金、Al−Mg−Cu系合金、Al−Zn−Mg系、Al−Li系合金など)、マグネシウムないしその合金(例えば、Mg−Zn系合金、Mg−Al−Zn系合金、Mg−Zr系合金など)、チタンないしその合金、ベリリウム、ステンレス鋼などの金属系材料や、共振結合抑制層よりも硬質の樹脂材料、例えばABS樹脂等を採用するのが特に好適である。これらのうち、特に、音響インピーダンス密度の値において音速Cの寄与が大きい材料(具体的には、C/(ρ・C)1/2の値が1を超える材料)を採用することが望ましい。C/(ρ・C)1/2の値は、より望ましくは1.3以上であり、これに該当する材料としてアルミニウム(1.54)、マグネシウム(1.58)、ABS樹脂(1.46)、ガラス(1.46)、ベリリウム(2.62)を例示できる。
【0013】
また、隣接層間で音速(音響インピーダンス)が異なる複数の音響整合層を、液状カプラントを介して積層した形で使用することもできる。音響インピーダンスの異なる複数の音響整合層を重ね合わせることにより、超音波送受信部の周波数帯域を容易に調整でき、固有周波数解の列をカバーする駆動周波数帯域がタンク材料の相違等により変動する場合にも容易に対応できる。この場合、各音響整合層の厚さがそれぞれ、圧電セラミック素子の反共振周波数にて各層内を伝播する超音波の、個々の層内での波長の1/2の整数倍と等しくなるように調整することで、駆動周波数の近傍にスプリアス点が発生しにくくなり、液面検出感度を高めることができる。
【0014】
超音波送受信部は、例えば、予め定められた駆動周波数にて測定用超音波がバースト矩形波として送出されるように駆動することができ、液面高さ算出手段は、バースト矩形波の送出から反射波が受信されるまでの伝播時間を計測し、計測された該伝播時間に基づいて液面高さを算出するように構成できる。
【0015】
本発明の超音波液面計には、一連の板厚固有周波数のうち、超音波送受信部の素子共振周波数を挟む形でこれに隣接する1対の隣接板厚固有周波数を特定する隣接板厚固有周波数特定手段を設けることができる。駆動周波数設定手段は、超音波送受信部の駆動周波数を1対の隣接板厚固有周波数のいずれかに設定するものとして構成できる。上記1対の隣接板厚固有周波数の一方は、素子共振周波数に最も近い板厚固有周波数であり、超音波送受信部の駆動周波数が素子共振周波数からずれることによる、素子の超音波振動効率の悪化を最小限に抑えつつ、駆動周波数が板厚固有周波数と一致することで容器底部の超音波の透過効率が最大化されるので、液面検出の感度を非常に良好に確保することができる。
【0016】
また、駆動周波数設定手段は、容器底部の板厚が所定レベル未満の場合に、記超音波送受信部の駆動周波数を1対の隣接板厚固有周波数のいずれかに設定し、容器底部の板厚が所定レベルを超える場合に、対の隣接板厚固有周波数を両端とする帯域を駆動回避帯域として定め、該駆動回避帯域外に超音波送受信部の駆動周波数を設定するように構成することもできる。
【0017】
容器底部の板厚が大きくなれば、板厚固有周波数の隣接周波数間隔が縮小する結果、素子共振周波数(センサ共振点)を挟む1対の隣接板厚固有周波数の双方が、該素子共振周波数と関連して残響懸念帯域内に入り、液面反射信号が残響に埋もれて液面検知精度の低下につながる。しかし、上記の構成では、容器底部の板厚が大きい場合に、該残響懸念帯域内にすっぽり入る可能性のある、素子共振周波数を挟む隣接板厚固有周波数間の帯域を駆動回避帯域として定め、超音波送受信部の駆動周波数をその駆動回避帯域外に設定するようにしたから、残響レベルを低減でき、ひいては液面反射信号の残響信号に対するS/N比を向上できるので、液面検知精度を高めることができる。
【0018】
この場合、駆動周波数設定手段は、容器底部の板厚が所定レベルを超えるかどうかを、例えば外部からの入力や、あるいは、事前にメモリ登録された底部板厚を、前記所定レベルとして定められた閾値と直接比較することにより判定することができる。この場合、駆動周波数設定手段は、底部板厚が閾値未満の場合に、駆動回避帯域外に超音波送受信部の駆動周波数を設定するものとなる。また、上記1対の隣接板厚固有周波数と素子共振周波数との各差分のうち大きい方の値が(該差分の)閾値未満にあるかどうかにより判定するようにしてもよい。この場合は、駆動周波数設定手段は、1対の隣接板厚固有周波数と素子共振周波数との各差分のうち大きい方の値が閾値未満の場合に、駆動回避帯域外に超音波送受信部の駆動周波数を設定するものとなる。
【0019】
容器底部の板厚が大きくなり、残響懸念帯域の高域側及び低域側の端が対応する隣接板厚固有周波数に及ぶと、隣接板厚固有周波数のいずれかに位置するように駆動周波数を設定しても、残響による液面検出精度の低下は避けがたくなる。従って、残響の影響を低減するには、駆動周波数を隣接板厚固有周波数よりもなるべく遠ざけて設定することが有効となる。この場合、測定用超音波は、駆動回避帯域の外側にて各隣接板厚固有周波数の直近に位置する1対の第二隣接板厚固有周波数のいずれか近づくと、基本周波数成分の超音波は容器底部の透過条件を充足し、残響レベルを効果的に低減できる。従って、駆動周波数設定手段は、一連の板厚固有周波数のうち、駆動回避帯域の外側にて各隣接板厚固有周波数の直近に位置する1対の第二隣接板厚固有周波数のいずれかに対応する帯域に駆動周波数を設定することが望ましいといえる。なお、「第二隣接板厚固有周波数のいずれかに対応する帯域」とは、各第二隣接板厚固有周波数をそれぞれ中心として±10%以内に収まっている帯域のことをいう。
【0020】
駆動周波数設定手段により、実際に駆動周波数を決定するには、具体的には次のような仮測定を行なう方式を採用できる。まず、素子駆動手段により、1対の第二隣接板厚固有周波数のそれぞれに対応する帯域のうち高域側のものに設定される高域側仮駆動周波数と、同じく低域側のものに設定される低域側仮駆動周波数とにより超音波送受信部をそれぞれ仮駆動することにより仮測定用超音波を送出し、それら仮測定用超音波の受信波形に現れる液面反射波の受信信号レベルの高いほうの仮駆動周波数を本測定用の駆動周波数として設定する。この方式によれば、各第二隣接板厚固有周波数に対応する仮駆動周波数のうち、液面反射波の受信信号レベルの高いものが本測定用の駆動周波数として採用されるので、液面検出に直接使用する液面反射波の信号レベルを、ノイズレベルに対して引き上げることができ、S/N比の向上を図ることができる。
【0021】
他方、液面検出のS/N比を向上するためには、ノイズレベルすなわち、残響レベルの低減を図ることも有効である。この場合は、次のような方式を採用することもできる。すなわち、素子駆動手段により、1対の第二隣接板厚固有周波数のそれぞれに対応する帯域のうち高域側のものに設定される高域側仮駆動周波数と、同じく低域側のものに設定される低域側仮駆動周波数とのいずれかにて超音波送受信部を仮駆動することにより仮測定用超音波を送出する。その仮測定用超音波の受信波形にも液面反射波が現れるので、液面高さ算出手段により、該受信信号に基づき液面高さを仮算出する。そして、該仮算出された液面高さが予め定められた閾液面高さよりも大であれば低域側仮駆動周波数を本測定用の駆動周波数として設定し、小であれば高域側仮駆動周波数を本測定用の駆動周波数として設定する。すなわち、液面が比較的高い場合には超音波の減衰が少ない低域側仮駆動周波数を本測定用の駆動周波数とし、逆に液面が低い場合には共振周波数による板厚境界での反射残響の影響が多少残っても問題ないよう、超音波の減衰の大きい高域側仮駆動周波数を本測定用の駆動周波数とすることにより、液面検出の精度をより高めることができる。
【0022】
この場合、駆動周波数設定手段は、素子駆動手段により、1対の第二隣接板厚固有周波数のそれぞれに対応する帯域のうち高域側のものに設定される高域側仮駆動周波数と、同じく低域側のものに設定される低域側仮駆動周波数とのそれぞれにより超音波送受信部を仮駆動することにより仮測定用超音波を送出し、仮測定用超音波の受信波形に現れる残響信号のレベルを検出するとともに、低域側仮駆動周波数と高域側仮駆動周波数とのうち、受信波形に現れる残響信号のレベルの低いものを、液面高さを仮算出するための仮駆動周波数として設定するように構成することができる。すなわち、1対の第二隣接板厚固有周波数のそれぞれに対応した低域側仮駆動周波数と高域側仮駆動周波数とにより、超音波送受信部を交互に仮駆動し、その受信波形に現れる残響信号のレベルの低い方(例えば、素子共振周波数から遠い方の仮駆動周波数)を用いて再度仮駆動を行ない、液面高さを仮算出することで、本測定用の駆動周波数の決定をより妥当に行なうことができる。
【0023】
なお、駆動周波数設定手段は、容器底部の板厚が所定レベル未満の場合には、隣接板厚固有周波数のそれぞれに対応する帯域のうち素子共振周波数に近い側に位置するものに超音波送受信部の駆動周波数を設定するとよい。つまり、板厚が十分小さければ素子共振周波数を挟む隣接板厚固有周波数の間隔も広まり、隣接板厚固有周波数を残響懸念帯域の外に位置させることができるので、素子共振周波数に近い隣接板厚固有周波数の近傍に駆動周波数を設定することで、液面検出のS/N比を高めることができる。
【0024】
また、超音波送受信部に対して変更設定可能な駆動周波数の全帯域を複数の副帯域に分割し、超音波送受信部の受信側回路に、副帯域毎に当該副帯域に対応する通過帯域を有した複数の帯域通過フィルタが組み込んでおくこともできる。この場合、駆動周波数設定手段が設定する駆動周波数に応じて、複数の帯域通過フィルタのうち、設定された駆動周波数が属する通過帯域を有したものを切替選択するフィルタ切替手を設けておく。上記副帯域毎に帯域通過フィルタを設け、設定した駆動周波数に応じて帯域通過フィルタを対応するものに切り替え、受信信号を通過させることにより、不要な残響波や、多重反射干渉ないし倍音振動あるいは部材間の望まざる共振結合等に由来したスプリアスやノイズの影響を効果的に軽減でき、液面検知のS/N比をさらに高めることができる。
【0025】
板厚固有周波数の特定方法については、容器底部の板厚が比較的正確に知れている場合は、板厚固有周波数と容器の板厚との関係を記憶する板厚/周波数関係記憶手段(例えば、種々の板厚での一連の板厚固有周波数をテーブル化し、メモリに記憶したもの)を設け、与えられた板厚に対応する板厚固有周波数を随時読み出すことで特定するようにしてもよい。他方、駆動周波数をスイープしつつ液面に向け測定用超音波板を入射したとき、受信波形に現れる残響信号が個々の板厚固有周波数にて極小化されることを利用し、板厚固有周波数特定手段を次のように構成することができる。すなわち、一連の板厚固有周波数のうち、少なくとも隣接板厚固有周波数を包含しうるスイープ対象帯域を設定するとともに、駆動周波数をスイープ対象帯域内にてスイープしつつ超音波送受信部を仮駆動して種々の設定周波数の仮測定用超音波を送出し、それぞれ受信波形に現れる残響信号のレベルを検出するとともに、当該スイープ対象帯域内にて残響信号が極小化される複数の周波数を板厚固有周波数として特定する。これにより、容器底部の板厚が正確に知れていない場合にあっても、周波数スイープしたときの残響信号レベルに基づいて、素子共振周波数近傍の一連の板厚固有周波数を正確に特定することが可能となる。板厚が大きい場合には、スイープ対象帯域を、1対の第二隣接板厚固有周波数を包含する形で設定すればよい。
【0026】
また、容器底部の板厚の概略値が知れている場合、板厚固有周波数と容器の板厚との関係を記憶する前述の板厚/周波数関係記憶手段を設けておくことで、容器底部の上記概略板厚値に対応する一連の板厚固有周波数の記憶値を読み出すことで、複数の板厚固有周波数の概略位置を決定できる。この場合、板厚固有周波数特定手段は、読み出された板厚固有周波数に個々に対応する複数のスイープ実行帯域をスイープ対象帯域内に不連続に設定し、駆動周波数をそれらスイープ実行帯域毎に個別にスイープすることにより、残響信号が極小化される周波数をスイープ実行帯域毎に板厚固有周波数として特定するように構成すれば、変更設定可能な駆動周波数の全帯域をスイープせずとも一連の板厚固有周波数を正確に決定でき、測定時間の短縮を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明に係る超音波液面計の実施形態を、図面を参照しつつ説明する。図1は、容器30はLPGやLNG等の液化ガスや灯油等の液体を収容するものであり、超音波液面計1は、収容された液体の液面31の容器内底面からの高さ(ひいては、液体貯蔵量)を測定するためのものである。超音波液面計1は制御回路10と超音波送受信部2とを要部とし、超音波送受信部2は容器30の底部下面に図示しないマグネット等により設置され、ケーブルCを介して制御回路10に接続されている。超音波送受信部2は、容器底部を介して液面31に向け測定用超音波PWを送出し、該測定用超音波の液面反射波RWを受信する。
【0028】
容器30は鋼鉄製であり、その底面に圧電セラミック素子2P(ペロブスカイト型酸化物:例えば、チタン酸バリウム、チタン酸鉛、チタン酸ジルコン酸鉛、チタン酸ジルコン酸ランタン鉛など)にて構成された超音波送受信部2が、音響整合層3及び共振結合抑制層4を介して取り付けられている。超音波液面計1は、上記超音波送受信部2により、容器30内の液面31の高さを、タンク外から測定できるように構成されている。
【0029】
図2には、制御回路10の電気的構成をブロック図の形で示している。超音波送受信部2は、板厚方向に分極処理された板状の圧電セラミック素子2Pと、該圧電セラミック素子2Pの各主表面を覆う形で該圧電セラミック素子2Pを挟んで対向形成された電極対2e,2eとを備える。この電極対2e,2eは、測定用超音波ビームの送信駆動時には該圧電セラミック素子2Pを超音波振動させるための駆動電圧が印加される駆動電極となり、反射超音波の受信時には圧電セラミック素子2Pの振動に伴う電気信号を出力する出力電極となる。
【0030】
制御回路10はマイコン100を有し、超音波送受信部2の電極対2e,2eは、切替スイッチ104及び反射超音波計測部103を介してマイコン100の入出力部99に接続されている。マイコン100は、該入出力部99と、処理主体となるCPU98、その作業エリアとなるRAM96及び制御プログラム97(超音波送受信部2の駆動制御(切替スイッチ104によるモード切替処理を含む)及び液面高さの算出処理制御とを行なう)を格納したROM97とを有する。入出力部99には、測定された液面高さを表示出力するモニタ94と、容器底部の板厚値の入力等に使用するキーボード95(入力部)が接続されている。
【0031】
また、超音波送受信部2には、マイコン100からの指令により動作する切替スイッチ104を介して、駆動回路105と受信回路103とが接続されている。駆動回路105は、マイコン100からの制御パルス信号を受けてバーストパルス駆動信号を発生し、切替スイッチ104を介して超音波送受信部2へ出力する。駆動周波数は、マイコン100による制御パルス信号の周波数設定値に応じて変更可能である。
【0032】
また、受信回路103は、受信信号から不要残響波等をフィルタリングするフィルタ103a、フィルタリング後の受信信号を増幅するアンプ103b、受信振動波形を包絡線検波する検波回路103c、及び、検波後の受信信号を解析し、残響信号レベルや液面反射信号レベルを特定するとともに、超音波送受信部2へのバースト矩形波の出力タイミングに対応してマイコン100から出力されるトリガ信号を受けて起動し、液面反射信号を受信するまでの伝播時間を計測する信号処理部103dを有する。
【0033】
測定に際しては、マイコン100からのスイッチ制御信号により、切替スイッチ104が超音波送受信部2をバースト矩形波駆動回路105に接続し、予め定められた駆動周波数にて測定用超音波がバースト矩形波として送出されるように駆動される。駆動動作の詳細は、特許文献1,2により周知なので詳細な説明は省略する。測定用超音波の送出後は、マイコン100からのスイッチ制御信号により、切替スイッチ104が超音波送受信部2の接続状態を受信回路103側に切り替える。これにより、測定用超音波PWの液面での反射波が超音波送受信部2により受信される。
【0034】
受信回路103は、受信信号から不要残響波等をフィルタリングさせるフィルタ103a、フィルタリング後の受信信号を増幅するアンプ103b、受信振動波形を包絡線検波する検波回路103c、及び、検波後の受信信号を解析し、残響信号レベルや液面反射信号レベルを特定するとともに、超音波送受信部2へのバースト矩形波の出力タイミングに対応してマイコン100から出力されるトリガ信号を受けて起動し、液面反射信号を受信するまでの往復伝播時間を計測する信号処理部103dを有する。計測された往復伝播時間をts、液体中の音速をCとすれば、液面高さhは、
h=(ts/2)・C
としてマイコン100により算出される。
【0035】
図3は、受信回路103の構成例を示す回路図である。 超音波送受信部2に対して変更設定可能な駆動周波数の全帯域が複数、ここでは3つの副帯域に分割され、フィルタ103aは、それら各副帯域に対応する通過帯域を有した複数の帯域通過フィルタA,B,C(ここでは、各々LC型パッシブフィルタとして構成されている)を有する。そして、設定される駆動周波数に応じて、それら複数の帯域通過フィルタA,B,Cのうち、設定された駆動周波数が属する通過帯域を有したものが、マイコン98からの指令に基づき、切り替え部をなすスイッチS1,S2,S3及びトランジスタスイッチ(ここでは、フォトMOSPM1〜PM3)により切替選択されるようになっている。具体的には、フィルタ103aは、板厚約6mm〜20mmに対応した駆動周波数帯域が、550〜900kHz(フィルタC)、800〜1200kHz(フィルタB)、1100〜1500kHz(フィルタA)の3つの副帯域に割り振られ、適宜切り替えて使用される。また、増幅回路103bは、フィルタ103aを通過した周波数成分に応じた信号を所定の増幅率で増幅する。具体的には、入力信号の増幅率が、超音波送受信部2の駆動時を起点として時間に応じて大きくなるように変化させることにより、液面31の位置に応じて増幅率が調整されるように構成されている。該回路の詳細は特許文献2の図7に開示されているものとほぼ同じであるため、共通の回路素子には特許文献2と同一の符号を付与し、詳細な説明は略する。
【0036】
次に、図2において、共振結合抑制層4は、シリコーン樹脂、例えばシリコーンゴムシートにて構成されている。また、音響整合層3は、容器底部Wをなす鋼板と圧電セラミック素子2Pとの中間の音響インピーダンスを有する材料、具体的には、アルミニウムにて構成されている。なお、音響整合層3は、アルミニウム以外の金属材料、例えばSUS304等のステンレス鋼で構成してもよい。また、音響整合層3を、ABS樹脂等の高分子材料で構成してもよい。
【0037】
そして、音響整合層3の厚みtmは、圧電セラミック素子2Pの反共振周波数にて該音響整合層3内を伝播する超音波の、該音響整合層内での波長λの1/2の整数倍と等しくなるように調整されている。音響整合層内の音速をCとし、反共振周波数をfpとすれば、上記波長λは、
λ=C/fp ‥(1)
であり、音響整合層の厚みtは、
tm=N・λ/2=N・C/2fp (ただし、N=1,2,3,‥) ‥(2)
を充足するように設定される。
【0038】
圧電セラミック素子2Pがチタン酸ジルコン酸鉛で構成され、共振周波数が1000kHzであり、音響整合層3がアルミニウムで構成され、室温での音速が6400m/sであれば、(2)式の右辺にてC/2fpの値は約3.2mmとなる。従って、音響整合層3の厚みtmは、その整数倍である、3.2mm、6.4mm、9.6mm‥のいずれかの値に設定すればよい(ただし、これら各厚みに対し、±10%の公差は許容される)。
【0039】
超音波送受信部2を構成する圧電セラミック素子2Pは、駆動電圧が一定の場合、素子共振点(センサ共振点)に駆動周波数が一致しているとき、超音波送信出力が最大化されるので、超音波伝播経路上に音響インピーダンスの不連続面が存在しなければ、減衰の少ない高エネルギーの測定用超音波を発生させる観点においては、当該センサ共振点近傍にて超音波を駆動することが有効である。他方、本実施形態の超音波液面計においては、図2に示すように、超音波送受信部2がシリコーンシート等の共振結合抑制層4を介して、液体Lを収容する容器の外部に取り付けられるため、測定用超音波PWの容器底部Wの透過条件を考慮する必要がある。
【0040】
容器底部の固有周波数(板厚固有周波数)fは、容器底部を構成する板材(ここでは鋼板である)を最も効率良く超音波が透過する周波数であり、容器底部を透過する縦波音波の波長をλ、容器底部の板厚をtとすると、
t=m・λ/2 ‥(3)
あるいは、
λ=2t/m ‥(3)’
である。縦波の音速をCとすると、
=C/λ ‥(4)
なので、(3)’(4)より、
=m・C/2t ‥(5)
ここに、mは固有振動の次数を示す整数である。
【0041】
板厚固有周波数は振動の次数m=1(基本振動),2(2次振動),‥,N(N次振動)にそれぞれ対応して、f=1・C/2t,f=2・C/2t,‥,f=N・C/2tと周期的に出現する。従って、受信振幅の極大点も、これら板厚固有周波数に対応して周期的に出現する。板厚tが変化すれば、各次数の板厚固有周波数も(5)式に従って双曲線状に変化する。これを各次数mの値毎にt(板厚)−f(周波数)平面上に描画すれば図7のようになる。板厚固有周波数列は、(5)式に容器底部材質に応じた音速Cと次数mを代入して得られる曲線となる。板厚固有周波数のデータは、(5)式を充足する(t,f)の組のマップとして図2のROM97内に記憶されている((5)式そのものを関数として記憶しておいてもよい)。
【0042】
他方、圧電セラミック素子2Pにて構成された超音波送受信部(トランスジューサ)の出力は、センサ共振点(素子共振周波数)fで駆動されるとき出力が最大となる。センサ共振点fは超音波送受信部固有の既知定数であり、図2においてROM97に記憶しておくことができる。図7において、隣接する1対の板厚固有周波のちょうど中央に位置する周波数(つまり、容器底部の板厚方向の機械的反共振点:以下、板厚反共振点ともいう)に超音波の駆動周波数が一致するとき、容器底部と液体Lとの境界面での超音波反射が著しくなる。具体的には、測定用超音波の駆動周波数が板厚固有周波数と一致するとき超音波の反射率は最小となり、板厚反共振点と一致するときは逆に最大となる。
【0043】
この境界反射波は超音波送受信部2により残響信号として検出され、該残響信号のレベルが大きいと、検出するべき液面31(図1)の反射信号を埋没させることになり、液面検知のS/N比が低下する。残響レベルは、板厚反共振点のみで局所的に高くなるのではなく、例えば多重反射波の干渉状態、板厚の不均一や屈曲形状、塗装皮膜の形成状態、容器全体の共振特性などによって、高残響レベルとなりやすい周波数域(以下、残響懸念帯域という)が、図7中に破線で示すように、上記板厚反共振点の周囲に比較的大きく広がっている。
【0044】
センサ共振点fを挟んで隣接する1対の板厚固有周波数の組f,fk+1を隣接板厚固有周波数としたとき、センサ共振点fが、それら隣接板厚固有周波数f,fk+1の中央に位置する板厚反共振点に一致すると、当該周波数で超音波トランスジューサの出力と境界面での超音波反射率との双方が最大化されるので、残響により液面反射信号のS/N比が低下する。そこで、容器底部の板厚が比較的小さい場合(例えば、9mm以下)は、超音波送受信部2の駆動周波数を、上記隣接板厚固有周波数f,fk+1のいずれかに一致するように設定することで、この問題を解決することができる。特に、図6に示すように、隣接板厚固有周波数のうち、センサ反共振周波数に近い板厚固有周波数に超音波送受信部2の駆動周波数を一致させると、駆動周波数がセンサ反共振周波数からずれることによる、素子の超音波振動効率の悪化を最小限に抑えつつ、容器底部の超音波の透過効率は駆動周波数が板厚固有周波数と一致することで最大化され、液面検出の感度を非常に良好に確保することができる。
【0045】
(5)式からも明らかなように、容器底部Wの板厚tが変化すれば、隣接板厚固有周波数f,fk+1も異なる値となる。従って、駆動周波数の設定値も、板厚tによって変化させる必要が生ずる。既に説明したごとく、本発明においては、(2)式のごとく、音響整合層3の厚みtmを、圧電セラミック素子2Pの反共振周波数fpにおける音響整合層3内の波長λの1/2の整数倍と等しくなるように調整し、さらに、図2に示すごとく、容器底部Wと音響整合層3との間に、音響整合層3よりも音響インピーダンスの低い柔軟高分子材料からなる共振結合抑制層4を挿入することで、容器底部Wの板厚tがどのような値に設定されていても、板厚固有周波数に合わせこんだ超音波送受信部2の駆動周波数の近傍に、容器底部W、音響整合層3及び圧電セラミック素子2Pの音響結合に起因した不要なスプリアス点が発生しにくくなる。板厚固有周波数に合わせこんだ駆動周波数の採用により、容器底部の測定用超音波の透過効率が板厚に応じて最大化され、さらに、板厚によらず駆動周波数の近傍にスプリアス点が発生しにくくなるので、容器底部と液体との境界反射による残響発生は抑制され、液面反射信号のS/N比が向上し、液面検出感度を高めることができる。
【0046】
ところで、センサ共振点fが板厚反共振点から若干ずれていたとしても、前述の残響懸念帯域内では、センサ共振点fで超音波送受信部を駆動したときの残響レベルは依然高く、S/N比悪化の懸念は大きい。この場合、図4に示すように、センサ出力と超音波反射率との兼ね合いにより、センサ共振点fと板厚反共振点とのいずれとも異なる位置で残響レベルが最大化されることがあり、注意が必要である。
【0047】
(3)式からも明らかなごとく、板厚tが比較的小さい場合は、隣接板厚固有周波数f,fk+1の周波数間隔が比較的広く、いずれの隣接板厚固有周波数f,fk+1も残響懸念帯域の外に位置させることができる。従って、測定用超音波の駆動周波数を、隣接板厚固有周波数f,fk+1のどちらかに一致するように設定すれば残響レベルを低減でき、液面反射信号のS/N比を良好に確保できる。
【0048】
しかし、板厚tが大きくなると隣接板厚固有周波数f,fk+1が互いに接近し、残響懸念帯域内に位置するようになる。図7は、板厚tが13.3mm、センサ共振点が970kHzの場合を示しており、残響懸念帯域は、1対の隣接板厚固有周波数(f=880kHz,fk+1=1110kHz)の各々外側に大きく広がって現れている。この場合、駆動周波数を隣接板厚固有周波数f,fk+1のどちらかに一致させても、依然、残響懸念帯域内での駆動となるため残響レベルは十分低減されず、液面反射信号のS/N比を確保できなくなる。
【0049】
そこで、隣接板厚固有周波数f,fk+1に挟まれた周波数帯域を駆動回避帯域とし、板厚tが閾値t0を超える場合は、測定用超音波の駆動周波数を、この駆動回避帯域[f,fk+1]の外、望ましくは、隣接板厚固有周波数f,fk+1の外にはみ出した残響懸念帯域のさらに外側に設定することで、残響レベルの低減ひいては液面反射信号のS/N比向上を図るのである。この場合、図8に示すように、駆動回避帯域[f,fk+1]の外で超音波の反射率が再び極小化する第二隣接板厚固有周波数fk−1(≡f)及びfk+2(≡f)のいずれかに測定用超音波の駆動周波数を設定することが、面反射信号のS/N比向上を図る上でより有効である。
【0050】
図10は、図4に示す板厚t=13.3mm、センサ共振点が970kHzの場合の波形測定例を示しており、左は、測定用超音波の駆動周波数をfに設定したときの結果(上は横軸(時間)フルスケールが400μsでの表示であり、下は同じく200μsでの拡大表示である)を示す。残響レベルが大きく、液面反射信号が埋没していることがわかる。一方、図10の右は、測定用超音波の駆動周波数をfk−1に設定した場合の結果を示し、残響レベルが低減され、液面での第一反射及び第二反射の双方の信号が明確に波形に現れていることがわかる。
【0051】
以下、制御プログラム(図2)による具体的な液面測定の処理の流れを、フローチャートを用いて説明する。まず、図11のS1において容器底部の板厚tを取得する。板厚tの値が知れていれば、これを図2のキーボード95から入力することで取得できる。
【0052】
他方、板厚入力値から決定した板厚固有周波数解は、入力値が真の板厚値からずれていたり、あるいは板の屈曲や厚さ不均一の影響を受けたりして、真の板厚固有周波数解との間にずれを生じている可能性もある。そこで、駆動周波数をスイープしつつ液面に向け測定用超音波板を入射したとき、受信波形に現れる残響信号が個々の板厚固有周波数にて極小化されることを利用し、図15に示すような処理流れにより、必要な板厚固有周波数解をより精密に決定することができる。
【0053】
まず、S101にて、入力された板厚値tに対応する隣接板厚固有周波数f(t),fk+1(t)及び第二隣接板厚固有周波数fk−1(t),fk+2(t)を読み出し、図9に示すように、それらを仮固有周波数値として、周波数の高い側から順にf1,f2,f3,f4とする。そして、それら仮固有周波数値毎にスイープ範囲を、例えば個々の仮固有周波数値を中心として±10〜30kHz程度の幅に設定する。f1〜f4に至る広い周波数帯域がスイープ対象帯域であり、個々の仮固有周波数値を中心とする上記各範囲がスイープ実行帯域である。なお、周波数スイープによりf1,f2,f3,f4のいずれか1つを確定した後、残余のものを板厚固有周波数テーブルを参照して決定してもよい。
【0054】
そして、最初の仮固有周波数値を選択し、S102で駆動周波数を上記スイープ範囲の末端をなす初期値に設定し、S103で該駆動周波数により超音波送受信素子を駆動して残響レベルを測定する。S105で駆動周波数を1ステップ分(例えば1kHz)だけ変更し、S103に戻って残響レベルを測定する処理を繰り返す。S014で、駆動周波数の上記範囲でのスイープが干渉していればS106に進み、残響レベルが最小となる周波数を最終的な板厚固有周波数値として決定する。S108では次の仮固有周波数値を選択し、S102に戻って以下同様の処理を繰り返す。そして、S107にて、全ての板厚固有周波数値が決定されれば処理を終了する。なお、容器板厚が比較的小さいことが予め知れている場合は、第二隣接板厚固有周波数fk−1(t),fk+2(t)に対するスイープ及び周波数決定処理は不要となる。
【0055】
他方、板厚値が全く不明な場合は、センサ共振点近傍の複数(例えばセンサ共振点前後の2つないし4つ)の板厚固有周波数値を包含しうる適当な周波数範囲(例えば、スイープが可能な全周波数範囲でもよい)にて、第一の周波数幅(例えば10〜30kHz)にて第一の周波数スイープを行ない、残響レベルが極小となる周波数点を仮固有周波数値として決定し、個々の仮固有周波数値毎に図15と同様の方法により最終的な板厚固有周波数値決定するようにしてもよい。このとき、板厚固有周波数値の配列間隔と、音速値とから板厚値を逆算することも可能である。
【0056】
図11に戻り、S2では、センサ共振点fを取得する。S3では、取得した板厚tに対応する板厚固有周波数解f(t)、f(t)、f(t)、‥を板厚固有周波数テーブルから読み出すとともに、センサ共振点fを挟む板厚固有周波数解、すなわち、隣接板厚固有周波数f(t)、fk+1(t)を特定する。
【0057】
S5では、取得した板厚tが閾値t0(例えば9mm)よりも大きいかどうかを判定する。板厚tを閾値t0と直接比較して判定を行なう以外に、板厚tが大きくなるほど隣接板厚固有周波数f(t)、fk+1(t)がセンサ共振点fに接近することを利用し、図12のS51のごとく、センサ共振点fと各隣接板厚固有周波数f(t)、fk+1(t)との周波数差;
Δfa≡fk+1(t)−f
Δfa≡f−f(t)
のうち、値の小さいものΔfuが閾値Δf0よりも小さい場合に、板厚tが閾値t0よりも大きいと判定するようにしてもよい。
【0058】
板厚tが閾値t0よりも小さい場合はS7に進み、図6に示すように、隣接板厚固有周波数f(t)、fk+1(t)のうち、センサ共振点fに近いものを駆動周波数として選択する。このとき、フィルタ103aに含まれる複数の帯域通過型フィルタA〜Cのうち、設定した駆動周波数に対応するものがスイッチ切替により選択される。一方、板厚tが閾値t0よりも大きい場合はS6に進み、大板厚時駆動周波数決定処理となる。
【0059】
駆動周波数が設定されればS8に進み、図4ないし図5に示すように、その受信超音波の波形に基づいて、特許文献2等にて周知の手法により液面高さが算出される。超音波送受信素子2から送出された測定用超音波が、液面で反射されて超音波送受信部2に戻ってくる最初の受信波形ピークが第一反射エコーであり、その反射波が容器底面でもう一度反射され、さらに液面で反射されて戻ってくる2番目の受信波形ピークが第二反射エコーである。
【0060】
容器が傾いて設置されている場合や、超音波送受信部2が容器底部の中央からずれて取り付けられている場合、超音波は液体中を伝播する間に減衰するので、第二反射エコーは第一反射エコーよりもピーク高さは低い。従って、基本的には、超音波送受信部2を駆動してから第一反射エコーが検出されるまでの時間t1により液面高さを算出することが望ましいが、液面が低いと第一反射エコーが検出されるまでの時間t1が短く、残響の尾引きに埋没して検出が困難になる場合がある。
【0061】
図13は、大板厚時駆動周波数決定処理の一例を示すフローチャートである。まず、S61では、第二隣接板厚固有周波数fk−1(t),fk+2(t)のうち低域側のものを低域側仮駆動周波数fとして、高域側のものを高域側仮駆動周波数fとしてそれぞれ設定する(低域側仮駆動周波数fと高域側仮駆動周波数fとは、fk−1(t),fk+2(t)に対し、それぞれ±(f−f)×2%(kHz)の範囲内に収まっていれば、fk−1(t),fk+2(t)に必ずしも一致している必要はない)。S62では低域側仮駆動周波数fにて超音波送受信部を仮駆動し仮測定用超音波を送出するとともに、該仮測定用超音波の受信波形(検波後)に現れる液面反射波の受信信号レベル(信号高さ)Hを算定する。同様に、S63では高域側仮駆動周波数fにて超音波送受信部を仮駆動し、液面反射波の受信信号レベル(信号高さ)Hを算定する。S64,65で両者を比較し、液面反射波の受信信号レベルの高いほうの仮駆動周波数を本測定用の駆動周波数として設定する(S66,S67)。いずれのステップにおいても、受信時に選択する帯域阻止フィルタを、駆動周波数に対応するものにその都度切り替える。第二隣接板厚固有周波数fk−1(t),fk+2(t)のうちに対応する仮駆動周波数f,fのうち、液面反射波の受信信号レベルの高いものが本測定用の駆動周波数として採用されるので、液面検出に直接使用する液面反射波の信号レベルをノイズレベルに対して引き上げることができ、S/N比の向上を図ることができる。
【0062】
次に、別の方式について説明する。図4は容器内の液面が比較的低い場合の、図5は同じく液面が比較的高い場合の液面反射波の受信波形を示している。液面が低い場合は当然、超音波送受信部を駆動してから液面反射信号(反射エコー)が返ってくるまでの時間t1,t2が、液面が高い場合よりも短くなる。従って、低液面の場合は、残響減衰がそれほど進まないうちに液面反射信号が返ってくることになり、仮駆動時の液面反射信号高さを正確に特定できないこともありえる。一方、別の問題として、液面が高い場合は、液体中の超音波の伝播距離が長くなり、伝播中の超音波減衰により液面反射信号レベルが低くなる問題がある。他方、液体ないし容器底部中を伝播する超音波は、超音波の波長が短くなるほど、つまり、周波数が高くなるほど減衰率が高くなることが知られている。
【0063】
図14はこの問題に対応可能な大板厚時駆動周波数決定処理の一例を示すフローチャートである。S601では、低域側仮駆動周波数fと高域側仮駆動周波数fとを同様に設定する。そして、S602及びS603では、低域側仮駆動周波数fと高域側仮駆動周波数fとでそれぞれ第一の仮駆動を行ない、その受信波形から各残響レベルrVL及びrVUを特定するとともに、S604では、残響レベルの低いほうの仮駆動周波数を採用して第二の仮駆動を実施し、その受信波形に液面反射信号が検出されるまでの時間t1から仮液面レベルHtを算出する。S605では、該仮液面レベルHtを閾値Hと比較する。そして、仮液面レベルHtが閾値H未満の場合は、容器底部内での残響減衰を優先し、低域側仮駆動周波数fを本測定用の駆動周波数として設定する。他方、仮液面レベルHtが閾値Hを超える場合は、液体中での超音波の減衰がなるべく小さくなるよう、高域側仮駆動周波数fを本測定用の駆動周波数として設定する。
【0064】
最後に、音響整合層は、図16に示すように、隣接層間で音速(音響インピーダンス)が異なる複数の音響整合層3a,3b,3cを、液状カプラントを介して積層した形で使用することもできる。音響インピーダンスの異なる複数の音響整合層3a,3b,3cを重ね合わせることにより、超音波送受信部2の周波数帯域を容易に調整でき、固有周波数解の列をカバーする駆動周波数帯域がタンク材料の相違等により変動する場合にも容易に対応できる。そして、各音響整合層3a,3b,3cの厚さt1,t2、t3は、それぞれ、圧電セラミック素子の反共振周波数fpにて各層内を伝播する超音波の、個々の層内での波長の1/2の整数倍と等しくなるように調整することで、駆動周波数の近傍にスプリアス点が発生しにくくなり、同様に液面検出感度を高めることができる。
【0065】
図16において、第一音響整合層3aの材質はアルミニウム(室温での音速:6400m/s)、第二音響整合層3bの材質は銅(室温での音速:3000m/s)、第三音響整合層3cの材質はガラス(室温での音速:5000m/s)である。圧電セラミック素子の反共振周波数が1000kHzのときの、各層の厚さの計算例を図16中に示している。なお、第三音響整合層3cについては、ガラス以外に、ガラスやカーボンをフィラーとして配合した高分子材料(例えばエンジニアリングプラスチック材料)などを採用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の超音波液面計の取り付け形態を例示する模式図。
【図2】図1の超音波液面計の電気的構成を示すブロック図。
【図3】信号処理回路の具体的構成例を示す詳細回路図。
【図4】低液面レベル時の測定波形の一例を示す図。
【図5】高液面レベル時の測定波形の一例を示す図。
【図6】容器底部の板厚が比較的小さい場合の駆動周波数設定例を示す図。
【図7】板厚固有周波数解と板厚値との関係を示すダイアグラム。
【図8】第二隣接板厚固有周波数の概念を説明する図。
【図9】板厚固有周波数を精密に決定するための周波数スイープの概念図。
【図10】本発明の作用説明図。
【図11】本発明の超音波液面計の主制御処理の流れを示すフローチャート。
【図12】図11の一部を置き換える変形例ステップの内容を示す図。
【図13】図11の大板厚時駆動周波数決定処理の第一例を示すフローチャート。
【図14】同じく第二例を示すフローチャート。
【図15】板厚固有周波数解を精密決定する処理の流れを示すフローチャート。
【図16】音響整合層を複数設ける場合の模式図。
【符号の説明】
【0067】
1 超音波液面計
2 超音波送受信部
3,3a,3b,3c 音響整合層
4 共振結合抑制層
94 モニタ(液面高さ情報出力手段)
95 キーボード(板厚固有周波数特定手段)
97 ROM(板厚/周波数関係記憶手段)
100 マイコン(板厚固有周波数特定手段、隣接板厚固有周波数特定手段、駆動周波数設定手段、液面高さ算出手段)
103 モニタ(液面高さ情報出力手段)
105 駆動回路(素子駆動手段)
200 容器
L 液体
PM1,PM2,PM3 フォトMOS(フィルタ切替手段)
S1,S2,S3 スイッチ(フィルタ切替手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を収容した容器からなる被測定系において鋼板からなる容器底部に取り付けられるとともに、該容器底部を介して液面に向け測定用超音波を送出し、前記測定用超音波の液面反射波を受信する圧電セラミック素子からなる超音波送受信部と、
前記超音波送受信部と前記容器底部との間に介在し、前記超音波送受信部に接して配置されるとともに、前記容器底部をなす前記鋼板と前記圧電セラミック素子との中間の音響インピーダンスを有する音響整合層と、
前記音響整合層と前記容器底部との間に介在し、前記音響整合層と前記容器底部との双方に接して配置されるとともに、前記音響整合層よりも音響インピーダンスの低い柔軟高分子材料からなり、前記超音波送受信部と前記容器底部との音響共振結合を抑制する共振結合抑制層と、
前記容器底部の板厚に固有の共振周波数である板厚固有周波数を特定する板厚固有周波数特定手段と、
特定された前記板厚固有周波数に前記超音波送受信部の駆動周波数を設定する駆動周波数設定手段と、
設定された駆動周波数にて前記超音波送受信部を駆動する素子駆動手段と、
前記超音波送受信部を駆動したときの、該超音波送受信部による前記液面反射波の受信信号に基づいて前記容器内の液面高さを算出する液面高さ算出手段と、
液面高さ情報を出力する液面高さ情報出力手段と、を備え、
前記音響整合層の厚みが、前記圧電セラミック素子の反共振周波数にて該音響整合層内を伝播する超音波の、該音響整合層内での波長の1/2の整数倍と等しくなるように調整されてなることを特徴とする超音波液面計。
【請求項2】
前記共振結合抑制層がシリコーン樹脂層からなる請求項1記載の超音波液面計。
【請求項3】
前記音響整合層が前記共振結合抑制層よりも硬質の樹脂材料からなる請求項1又は請求項2に記載の超音波液面計。
【請求項4】
前記音響整合層がABS樹脂からなる請求項3記載の超音波液面計。
【請求項5】
前記音響整合層が鉄系金属材料からなる請求項1又は請求項2に記載の超音波液面計。
【請求項6】
前記音響整合層がステンレス鋼からなる請求項5記載の超音波液面計。
【請求項7】
隣接層間で音速が異なる複数の前記音響整合層が液状カプラントを介して積層されてなり、各音響整合層の厚さがそれぞれ、前記圧電セラミック素子の反共振周波数にて各層内を伝播する超音波の、個々の層内での波長の1/2の整数倍と等しくなるように調整されてなる請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の超音波液面計。
【請求項8】
一連の前記板厚固有周波数のうち、前記超音波送受信部の素子反共振周波数を挟む形でこれに隣接する1対の隣接板厚固有周波数を特定する隣接板厚固有周波数特定手段を備え、
前記駆動周波数設定手段は、前記超音波送受信部の駆動周波数を1対の前記隣接板厚固有周波数のいずれかに設定する請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の超音波液面計。
【請求項9】
前記駆動周波数設定手段は、前記容器底部の板厚が所定レベル未満の場合に、記超音波送受信部の駆動周波数を1対の前記隣接板厚固有周波数のいずれかに設定し、前記容器底部の板厚が所定レベルを超える場合に、対の前記隣接板厚固有周波数を両端とする帯域を駆動回避帯域として定め、該駆動回避帯域外に前記超音波送受信部の駆動周波数を設定する請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載の超音波液面計。
【請求項10】
前記駆動周波数設定手段は、前記容器底部の板厚が所定レベルを超える場合に、一連の前記板厚固有周波数のうち、前記駆動回避帯域の外側にて各前記隣接板厚固有周波数の直近に位置する1対の第二隣接板厚固有周波数のいずれかに対応する帯域に前記駆動周波数を設定するものである請求項9記載の超音波液面計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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