説明

超音波癒着測定装置

【課題】 心臓手術後の癒着の程度について、定量的・客観的な指標を提供することが期待されている。これまでは心臓癒着の評価法が確立されておらず、術前に癒着による手術の危険性を評価する客観的な指標がなかった。測定手技・条件の標準化を可能にし、癒着評価により手術リスクを低減させ、医療の質の向上を図る。
【解決手段】 超音波診断装置によって得られる画像等の情報をもとに、TDI法、テクスチャ法、テンプレート・マッチング法により、非侵襲的に臓器およびその周囲組織の運動情報を獲得し、その運動情報を用いて対象臓器組織およびその周囲組織との癒着を評価する。本装置は、心臓手術後の癒着の程度について、定量的・客観的な指標を提供する。これにより、測定手技・条件の標準化が可能になる。本装置によって癒着が重度と評価されれば、心臓の手術は癒着剥離等による危険性をともない、より慎重な手術操作や他の手術方法の選択が要求される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、臓器およびその周囲組織の運動情報を超音波診断装置により獲得し、その運動情報を用いて対象臓器組織およびその周囲組織との癒着を評価し、手術時のリスクを回避することで医療の質の向上を図るものである。
【背景技術】
【0002】
対象臓器組織およびその周囲組織との癒着を評価は重要かつ困難である。具体的に,たとえば,近年,X線,CT,およびMRIを用いた心筋動作評価方法および心膜腔癒着評価方法が報告されている.また,超音波診断装置による方法の報告もみられるが,現在一般的に臨床応用されているものは存在しない.心臓手術前に心膜腔癒着評価が可能であれば,心臓再手術例において開胸時アプローチ法を検討する上で臨床の場に有意義な情報を提供し得る.生体吸収性素材を用いた心膜補填はMalmらによって報告されている。
【非特許文献1】 Malm T,Bowald S,Bylock A,Busch C.Prevention of postoperative pericardial adhesions by closure of the pericardium with absorbable polymer patches.An experimental study.J Thorac Cardiovasc Surg 1992;10:600−7
この術後癒着防止効果評価方法について、これまでCTおよびMRIでの画像診断法を用いて人での胸骨下、あるいは、心膜腔内癒着を評価した報告もみられる。
【非特許文献2】 Duvernoy O,Malm T,Ramstrom J,Bowald S.A biodegradable patch used as a pericardial substitute after cardiac surgery:6− and 24−month evaluation with CT.Thorac cardiovasc Surgeon 1995;43:271−4.
【非特許文献3】 Wigstrom L,Lindstrom L,Sjoqvist L,Thuomas KA,Wranne B.M−mode magnetic resonance imaging:a new modality for assessing cardiac function.Clin Physiol 1995,15:397−407.
しかしながら、上記の文献は静止画による検討であり、脂肪層の有無およびそれぞれの距離によって“癒着”の有無を評価しており、脂肪層を含めた胸骨後面から心外膜の空間の有無を評価したものにすぎない。本研究にて行っている超音波診断による癒着評価法は、リアルタイムの動作を捉えられており、静止画から得られる距離でなく、組織の体表面に対して水平/垂直な動作を定量化することにより評価する点が文献2,3と異なる点である。そのため、心臓手術時の再手術例における癒着の程度評価を行い、本法によって定量化された値との適合について検討し、これらの結果の臨床へのフィードバックを考慮した応用法につき検討を加える必要があると期待されている。
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
これまでは心臓癒着の評価法が確立されておらず、術前に、癒着による手術の危険性を評価する客観的な指標がなかった。上記のとおり,X線,CT,およびMRIを用いた心臓癒着評価方法では、現在一般的に臨床応用されているものは存在しない.上記と比較して、超音波検査法は簡便であり、低侵襲であり、ベッドサイドで施行可能である。さらに、リアルタイムで臓器の運動情報が取得可能である。
そこで、超音波診断装置および超音波画像処理装置を用いて術前に癒着の評価を行ない、その客観的な指標を提供し、手術の安全性を向上させることを目的とする。図1は,心臓癒着の評価において得られる典型的なBモード超音波診断画像である。
従来装置では、測定者による測定手技・条件の違いにより、手術後の心臓の癒着の程度を定量化して、客観的に評価することが困難であった。癒着の程度は心臓の手術の危険性を評価する上で重要である。本装置は、心臓手術後の癒着の程度について、定量的・客観的な指標を提供する。これにより、測定手技・条件の標準化が可能になる。本装置によって癒着が重度と評価されれば、心臓の手術は癒着剥離等による危険性をともない、より慎重な手術操作や他の手術方法の選択が要求される。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、上記目的を達成するため、つぎのような手段を講じている。
【0005】
上記の課題を解決するための手段として、請求項1に記載の発明である超音波癒着測定装置は、心臓などの癒着の程度を超音波画像から数値化するためのシステムであって、その評価結果を端末装置に提示する。
【0006】
上記の課題を解決するための手段として、請求項2に記載の発明であるTDI法は,従来血流を測定する方法であったドップラー法を心筋運動速度の計測に応用したものであり,たとえば,遠ざかる色を青色に,近づく色を赤色に表示することができる。この情報を利用して,特定の組織の相対的な運動速度を抽出し,癒着の有無を評価することができる。
【0007】
上記の課題を解決するための手段として、請求項2に記載の発明であるTDI法による心臓癒着評価において,その程度を収縮期に判断する。図2はTDI法を行なう際のサンプル取得位置を示した図である。図3、4は,TDI法によって得られる波形図である。図3は、心外膜レベルにおける波形であり,図4は,心膜レベルにおける波形である。一般に,収縮期においては,拡張期に比して癒着の有無により,上記の相対的な運動速度に大きな差異が生じる。
【0008】
上記の課題を解決するための手段として、請求項4に記載の発明であるテクスチャ解析法は,濃度や色の2次元的なパターン、すなわちテクスチャの解析であり,エネルギー,コントラスト,エントロピー等により,テクスチャの特徴を定量的に捉えることができる。この情報を利用して,特定の組織のテクスチャ情報から,組織癒着の程度を評価することができる。
【0009】
上記の課題を解決するための手段として、請求項4に記載の発明であるテクスチャ解析法による組織癒着評価において,組織癒着の程度を超音波画像のMモード画像において評価することができる。Mモードでは,断面上のある一直線上に着目し,そこでの音波反射の経時変化を時系列で画像化することができ,心臓の弁や,心筋の動きなど,動き情報から組織癒着の有無を評価することができる。
【0010】
上記の課題を解決するための手段として、具体的に,まず,体表から右室心筋レベルまでを含む深度1−10cmまでの超音波Mモード画像を取得する。つぎに,静止画像上で,テクスチャ解析を行なう。解析対象領域は,心膜,右室前面心外膜である。最後に,それぞれの解析対象領域においてテクスチャ解析を行い,動作の特性を定量化する.得られたデータの比較によって,癒着の程度について評価を行う。
【0011】
上記の課題を解決するための手段として、解析対象領域は,たとえば,心膜における拡張期(Pd),収縮期(Ps),右室前面心外膜における拡張期(Ed),収縮期(Es)の4ヶ所がある。テクスチャ解析によって,たとえば,解析対象領域における0度,45度,90度,135度方向のエネルギー,コントラスト,エントロピー等のテクスチャ・パラメータが算出される。このうち,特に,直交する2方向として,0度,90度方向を選択し,たとえば,上記パラメータの比(E0/E90)を計算することにより,解析対象領域での動作の特性が規格化・定量化される.図5は、テクスチャ法の原理を説明するための図である。図5は、Mモードで得られた画像を模式化したものであり,0度方向および90度方向のエントロピーの測定を行なう。図5Aにおけるエントロピーの比(E0/E90)は1である。他方、図5Bにおけるエントロピーの比(E0/E90)は0となる。
【0012】
Mモード画像では、心外膜や心膜など,動的・静的部位を時系列で表示することができる。本原理を利用して組織癒着の程度を複数の測定対象組織間のMモード超音波画像のテクスチャ(模様)解析によって規格化・定量化した係数の比に対応させることができる。
【0013】
請求項9における測定対象組織として,具体的に,心膜およびその近傍組織,右室前面心外膜およびその近傍組織を選択することで心臓癒着評価を行なうことができる。上記の両組織は,癒着がある場合には,類似運動を行ない,癒着が無い場合には,非類似運動を行なう。
【0014】
上記の課題を解決するための手段として、請求項4に記載の発明であるテクスチャ解析法による心臓癒着評価において,その程度の評価を特に,収縮期に行なう。一般に,収縮期においては,拡張期に比して癒着の有無により,上記の係数の比に大きな差異が生じる。
【0015】
上記の課題を解決するための手段として、複数の要素組織を、テンプレート・マッチング法等を利用して、超音波画像上で画像追跡し、要素組織間の相対運動データとして定量的に記録することで組織癒着の程度を評価することができる。図6、7はテンプレート・マッチング法による心臓癒着評価の流れ図およびブロック図である。
【0016】
具体的に、心臓癒着評価機能は以下の4つのサブ機能に分解される。
(サブ機能1)心膜外組織運動認識機能
(サブ機能2)心膜およびその近傍組織運動認識機能
(サブ機能3)心外膜およびその近傍組織運動認識機能
(サブ機能4)右室心筋運動認識機能
このうち、特に、サブ機能2およびサブ機能3の運動を認識し、2つの運動の相関度を評価することで、心臓癒着の程度を評価することができる。また、サブ機能1および4は心臓癒着の程度を評価するに際して、補助的に利用することができる。
【0017】
上記の課題を解決するための手段として、要素組織として心膜、心外膜組織のみをテンプレートとして抽出することで、心膜、心外膜組織のみを特異的に追跡することができる。図8は、要素組織の選択法を説明するための図である。
【0018】
上記の課題を解決するための手段として、心臓癒着の程度を要素組織群間の運動軌道の相関係数から定量化することができる。たとえば、要素組織2および3の運動データの相関係数は次式により求めることができる。

【0019】
要素組織は超音波画像上で輝度の高い曲線として表示される。これを利用して、要素組織に直交するように引いた半直線上のヒストグラムから、要素組織の位置を同定することができる。図9は心臓癒着の評価において得られる超音波画像のヒストグラムである。ヒストグラムとは、輝度値の分布をグラフ化したものである。このことにより、要素組織の選択が評価者の主観に依存することを防止し、評価者によらない普遍的な癒着の評価が可能になる。また、上記相関係数を心臓癒着の客観的かつ定量的な指標とすることができる。
【0020】
心電図波形は心臓の運動と同期しており、一般に、周期的な信号である。このことを利用して、心臓癒着の程度を精度よく、安定的に評価することができる。また、癒着の評価が評価者の主観に大きく依存することを防止し,上記相関係数を心臓癒着の客観的かつ定量的な指標とすることができる。
【0021】
心電図波形は心臓の運動と同期しており、一般に、周期的な信号である。そのため、心電図上で同位相の超音波画像であれば、超音波画像取得時刻が異なっても、同様の画像を得ることができる。このことを利用して、指定した位相で、テンプレート用の超音波画像を取得することができる。このことにより、癒着の評価が評価者の主観に大きく依存することを防止し,上記相関係数を心臓癒着の客観的かつ定量的な指標とすることができる。
【0022】
心電図波形は心臓の運動と同期しており、一般に、周期的な信号である。そのため、心電図上で同位相の超音波画像であれば、超音波画像取得時刻が異なっても、同様の画像を得ることができる。このことを利用して、過去の運動履歴から、指定した位相で、要素組織がどのあたりにあるかを推定することができ、これを利用して、追跡の精度を高めるとともに、上記相関係数を安定的に取得することができる。このことにより、癒着の評価が評価者の主観に大きく依存することを防止し,上記相関係数を心臓癒着の客観的かつ定量的な指標とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】心臓癒着の評価において得られるBモード超音波診断画像である。
【図2】TDI法を行なう際のサンプル取得位置を示した図である。
【図3】心外膜位置においてTDI法によって得られる波形図である。
【図4】心膜位置においてTDI法によって得られる波形図である。
【図5】テクスチャ法の原理を説明するための図である。
【図6】テンプレート・マッチング法による心臓癒着評価の流れ図である。
【図7】心臓癒着評価のブロック図である。
【図8】要素組織の選択法を説明するための図である。
【図9】心臓癒着の評価において得られる超音波画像のヒストグラムである。
【符号の説明】
【0024】
1…心膜外組織、2…心膜、3…心外膜、4…右室心筋、5…心内膜、6…右心室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組織癒着の程度を超音波画像から数値化する装置。外科領域における超音波診断(Ultrasonic Cardiography:UCG)において利用する。
【請求項2】
組織癒着の程度をTDI(Tissue Doppler Image)法を用いて特定の組織の相対的な運動速度に対応させることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項3】
心膜腔内癒着の程度を心臓収縮期で判断することを特徴とする請求項2に記載の装置。
【請求項4】
組織癒着の程度を超音波画像のテクスチャ情報から定量化することを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項5】
組織癒着の程度を超音波画像の体表から深度dまでのMモード画像により評価することを特徴とする請求項4に記載の装置。
【請求項6】
超音波Mモード画像中において,癒着の評価を行うために必要な複数の組織を獲得可能な深度dを定めることを特徴とする請求項5に記載の装置。
【請求項7】
対象が心臓癒着評価において,体表から右室心筋レベルまでを含む深度dが1−10cmまでの超音波Mモード画像を取得する請求項5に記載の装置。
【請求項8】
組織癒着の程度をMモード超音波画像の静止画におけるテクスチャ解析における複数組織間のテクスチャ・パラメータによって評価することを特徴とする請求項5に記載の装置。
【請求項9】
組織癒着の程度の解析において,測定対象組織の運動特性をMモード超音波画像のテクスチャ解析における解析領域のエネルギー,コントラスト,エントロピー等のテクスチャ・パラメータの0度,90度方向の値の比として規格化・定量化することを特徴とする請求項5に記載の装置。
【請求項10】
組織癒着の程度を複数の測定対象組織間のMモード超音波画像のテクスチャ(模様)解析における請求項9で規格化・定量化した係数の比に対応させることを特徴とする請求項5に記載の装置。
【請求項11】
心膜腔内癒着評価において,請求項9における測定対象組織が,心膜およびその周辺組織,右室前面心外膜およびその周辺組織であることを特徴とする請求項10に記載の装置。
【請求項12】
心膜腔内癒着評価において,請求項9における測定を収縮期に行なうことを特徴とする請求項4に記載の装置。
【請求項13】
複数の要素組織を超音波画像上で画像追跡し、相対運動データとして定量的に記録することで組織癒着の程度を評価することを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項14】
心臓癒着の程度を評価する目的で上記の要素組織を心膜およびその近傍組織、心外膜およびその近傍組織とすることを特徴とする請求項13に記載の装置。
【請求項15】
要素組織として心膜、心外膜組織のみを特異的に追跡することを特徴とする請求項14に記載の装置。
【請求項16】
心臓癒着の程度を要素組織群間の運動軌道の相関係数として定量化することを特徴とする請求項13に記載の装置。
【請求項17】
要素組織の選択にあたって,ヒストグラムを利用する請求項13に記載の装置。
【請求項18】
心臓癒着の程度を評価するにあたって,心電図信号を利用する請求項13に記載の装置。
【請求項19】
要素組織を選択するにあたって,心電図信号を利用する請求項18に記載の装置。
【請求項20】
要素組織間の相対運動を評価するにあたって,心電図信号を利用する請求項18に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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