説明

超音波血流計

【課題】 同じ血流速度でも、使用するプローブに依存してプローブ音の音程が異なってしまう。
【解決手段】 超音波血流計では、接続されたプローブ4の送信信号の周波数が判別される。検波回路8は、接続されたプローブ4で受信された反射超音波からドプラシフト周波数成分信号を検波する。プローブ4の送信信号の周波数が第1の周波数である場合、検波回路で検波されたドプラシフト周波数成分信号が音響出力される。一方、プローブ4の送信信号の周波数が上記第1の周波数より低い第2の周波数である場合には、周波数逓倍回路で、検波されたドプラシフト周波数成分信号の周波数が逓倍され、その周波数逓倍されたドプラシフト周波数成分信号が音響出力される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波ドプラ法により血流計測を行う超音波血流計に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波ドプラ法により血流計測を行う超音波血流計は、簡便かつ非観血的に計測を行うことができるものとして、広く利用されている。被検体の表皮上に接触した超音波プローブ(以下、単に「プローブ」という。)から体内の血管に向けて超音波を照射すると、超音波は、血管内を流れる赤血球などに当たって反射してくる。その反射超音波の周波数は、プローブから照射した超音波の周波数に対して、赤血球などの移動速度に比例して偏移する(ドプラ効果)。超音波血流計は、その周波数の偏移分(ドプラシフト周波数)のみを検波によって取り出して周波数解析を行い、血流速度を計算する。この解析結果は通常、血流波モニタに画像表示されるようになっている。
【0003】
また、このような超音波血流計では一般に、ドプラシフト周波数を音響出力することにより、血流速度(脈)に応じた音を聴くことができるようにもなっている。このドプラシフト周波数で出力される音は「ドプラ音」とよばれるもので、この音を聴きながら血管位置の確認を行うことができる。
【0004】
ところで、超音波の身体への透過性は、周波数が低いほど深く、高いほど浅くなる性質があることが知られている。このため、目的測定部位の深度に応じて、超音波の発生源となる送信信号の周波数(以下、「送信周波数」という。)が相異なる複数のプローブを使い分けるのが通常である。
【0005】
しかし、プローブの送信周波数が異なれば、すなわち使用するプローブが異なれば、ドプラシフト周波数帯域も異なる。したがって、ドプラシフト周波数に特別な処理を加えることなくそのままドプラ音として音響出力する場合には、同じ血流速度でも、使用するプローブに依存してプローブ音の音程が異なってしまう。このため使用者は、使用するプローブごとに、血流速度とドプラ音の音程との関係を把握している必要があった。しかし、使い勝手の点では、使用するプローブを変更しても、同じ血流速度に対しては同じ音程のドプラ音が出力されることが望ましい。
【0006】
この問題に対処した従来例としては、特開平04−084950号公報(特許文献1)がある。同文献には、V/F変換器、V/V変換器、およびF/V変換器を用いて、プローブの送信周波数にかかわらず血流速度とドプラ音の音程との関係を一定に保つ技術が開示されている。
【0007】
【特許文献1】特開平04−084950号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、プローブの送信周波数の違いにかかわらず血流速度とドプラ音の音程との関係を一定に保つ技術の改良であり、とりわけ、これをより簡単な構成で実現することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一側面は、第1の周波数の送信信号を超音波の発生源として生成する第1の超音波プローブと、前記第1の周波数より低い第2の周波数の送信信号を超音波の発生源として生成する第2の超音波プローブとのうちのいずれかを接続可能に構成され、接続されたプローブで受信された超音波に基づき超音波ドプラ法により血流計測を行う超音波血流計に関する。この超音波血流計は、接続されたプローブの送信信号の周波数を判別する判別手段と、前記プローブで受信された前記反射超音波からドプラシフト周波数成分信号を検波する検波手段と、前記検波手段により検波された前記ドプラシフト周波数成分信号の周波数を逓倍する周波数逓倍手段と、前記判別手段により判別された周波数が前記第1の周波数である場合、前記検波手段により検波された前記ドプラシフト周波数成分信号を音響出力し、前記判別手段により判別された周波数が前記第2の周波数である場合には、前記周波数逓倍手段により周波数逓倍された前記ドプラシフト周波数成分信号を音響出力する音響出力手段とを有することを特徴とする。
【0010】
本発明の好適な実施形態によれば、前記周波数逓倍手段は、前記検波手段により検波された前記ドプラシフト周波数成分信号の周波数を実質的に2逓倍するための全波整流手段を含むことが望ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、プローブの送信周波数の違いにかかわらず血流速度とドプラ音の音程との関係を一定に保つことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の実施に有利な具体例を示すにすぎない。また、以下の実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが本発明の課題解決手段として必須のものであるとは限らない。
【0013】
図1は、本実施形態における超音波血流計としてのドプラ血流計の構成を示すブロック図である。
【0014】
このドプラ血流計は超音波ドプラ法により血流計測を行うもので、装置全体の制御を司るCPU1、制御プログラムや各種データ等を記憶するメモリ2、血流速の表示を行うモニタ30、血流速の波形表示などを印刷出力するプリンタ40をはじめ、以下の構成を備える。
【0015】
4は、被検体上に接触される探触子としてのプローブであり、超音波信号を被検体内に送信するとともに、その反射信号を受信するように構成されている。具体的には、プローブ4は、超音波振動子で構成される送信用素子4aおよび受信用素子4bを備える。
【0016】
3は、プローブ4を接続するためのインタフェース(I/F)であり、送信回路5からの送信信号をプローブ4に伝送するとともに、プローブ4より得られた電気信号をプリアンプ6に伝送する。また、このI/F3は、接続されているプローブ4の情報をCPU1に伝送することも行う。
【0017】
7は、プローブ4より得られた電気信号に対して位相検波を行う検波回路であり、これにより、ドプラシフト周波数成分信号が得られる。
【0018】
8は、検波回路7で得られたドプラシフト周波数を逓倍する周波数逓倍回路である。また、本実施形態では、検波回路7と周波数逓倍回路8との間に、CPU1によって制御される切替スイッチ9が設けられており、これにより、後述するように、接続されたプローブ4に応じて周波数逓倍回路9はバイパス可能とされている。
【0019】
10は、検波回路7からのドプラシフト周波数成分信号あるいはその信号が周波数逓倍回路8で周波数逓倍された信号を音響出力するために増幅するオーディオアンプ、11は、オーディオアンプ10の出力信号をドプラ音として放音するスピーカである。
【0020】
このドプラ血流計は、さらに、発振回路・90°移相回路12、位相分離回路13、周波数/電圧変換(F/V変換)回路14、A/D変換回路15を備えている。
【0021】
発振回路12は、I/F3に接続されたプローブ4に対応する周波数(4MHz/8MHz)の信号を発生し、送信回路5でドライブしてI/F3を介してプローブ4に送信する。これにより超音波信号が送信用素子4aから送信される。これに対して受信用素子4bで受信されたドプラシフトを受けた受信信号は、I/F3を介してプリアンプ6に送られて増幅される。検波回路7はこの信号に対して位相検波を行う。検波回路7の出力信号は位相分離回路13に送出される。
【0022】
位相分離回路13は、90°移相回路12によって位相が90°シフトした信号を検波回路7より入力して位相分離し、これにより血流方向を検出する。そして、位相分離された信号はF/V変換回路14で電圧に変換され、さらにA/D変換回路15でデジタル信号に変換されて、これがメモリ2に蓄積される。メモリ2に記憶された信号は、CPU1の処理により、順・逆の血流方向がプラス・マイナスの電圧に対応する形でモニタ30に表示され、あるいは、プリンタ40により印刷出力される。
【0023】
検波回路7の出力信号は位相分離回路13だけでなくスイッチ9の端子cにも送出される。I/F3に接続されたプローブ4が送信周波数4MHzのプローブであった場合には、検波回路7で得られたドプラシフト周波数成分信号は、周波数逓倍回路8に入力されて、その周波数が実質的に2逓倍された後、オーディオアンプ10を介してスピーカ11より音響出力される。一方、I/F3に接続されたプローブ4が送信周波数8MHzのプローブであった場合には、スイッチ9は端子b側に切り換えられるため、検波回路7で得られたドプラシフト周波数成分信号は、周波数逓倍回路8をバイパスして、そのままの周波数で、オーディオアンプ10を介してスピーカ11より音響出力される。
【0024】
図2は、周波数逓倍回路8の詳細な構成例を示すブロック図である。また、図3は、この周波数逓倍回路8の具体的な回路図の一例である。図示の如く、周波数逓倍回路8は、高域通過フィルタ(HPF)21、増幅回路22、全波整流回路23、および帯域通過フィルタ(BPF)24で構成される。このうちの全波整流回路23により、周波数が実質的に2逓倍される。その前段における、HPF21では、増幅回路22のオフセットを行い、増幅回路22で、HPF21の出力を所定の増幅率で増幅する。また、全波整流回路23の後段のBPF24は主にスムージングの効果によりピークを鈍らせることを目的としたものである。なお、BPF24の遮断周波数は、想定されるドプラシフト周波数帯域に合わせて設定されることはいうまでもない。
【0025】
さて、本実施形態におけるドプラ血流計は、送信周波数が相異なる複数種類のプローブに対応しており、ここでは一例として、送信周波数が4MHzと8MHzの2種類のプローブに対応すると仮定する。そこで、このドプラ血流計は、プローブ4がI/F3に接続されると、その接続されたプローブ4の識別情報をCPU1に伝送する。ここで、プローブ4の識別情報はたとえば、プローブの型式番号などである。ドプラ血流計は、たとえば、型式番号と、少なくとも送信周波数(4MHz/8MHz)の情報を含む定格情報との関係を記述したテーブルをメモリ2にあらかじめ記憶しており、このテーブルを参照することで、I/F3に接続されたプローブ4の送信周波数を判別することができる。
【0026】
I/F3に接続されたプローブ4が送信周波数4MHzのプローブであった場合、CPU1はスイッチ9を接点a側に切り換えて、周波数逓倍回路8の動作を有効にする。他方、I/F3に接続されたプローブ4が送信周波数8MHzのプローブであった場合には、CPU1は周波数逓倍回路8をバイパスすべくスイッチ9を接点b側に切り換える。
【0027】
したがって、I/F7に接続されたプローブ4が送信周波数4MHzのプローブであった場合には、検波回路8で得られたドプラシフト周波数成分信号は、上記したような構成の周波数逓倍回路10に入力されて、その周波数が実質的に2逓倍された後、増幅回路12を介してスピーカ13より音響出力される。
【0028】
これにより、I/F3に接続されたプローブ4が送信周波数4MHzのものと8MHzのものとでほぼ同じ音程でドプラ音を聴取することができる。このように、本実施形態によれば、非常に簡単な構成で、使用するプローブの送信周波数を変更しても同じ音程でドプラ音を聴取することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施形態におけるドプラ血流計の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施形態における周波数逓倍回路の詳細な構成例を示すブロック図である。
【図3】本発明の実施形態における周波数逓倍回路の具体例を示す回路図である。
【符号の説明】
【0030】
1:CPU
2:メモリ
3:インタフェース(I/F)
4:プローブ
5:送信回路
6:プリアンプ
7:検波回路
8:周波数逓倍回路
9:切替スイッチ
10:オーディオアンプ
11:スピーカ
12:発振回路・90°移相回路
13:位相分離回路
14:F/V変換回路
15:A/D変換回路
30:モニタ
40:プリンタ
21:高域通過フィルタ(HPF)
22:増幅回路
23:全波整流回路
24:帯域通過フィルタ(BPF)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の周波数の送信信号を超音波の発生源として生成する第1の超音波プローブと、前記第1の周波数より低い第2の周波数の送信信号を超音波の発生源として生成する第2の超音波プローブとのうちのいずれかを接続可能に構成され、接続されたプローブで受信された超音波に基づき超音波ドプラ法により血流計測を行う超音波血流計であって、
接続されたプローブの送信信号の周波数を判別する判別手段と、
前記プローブで受信された前記反射超音波からドプラシフト周波数成分信号を検波する検波手段と、
前記検波手段により検波された前記ドプラシフト周波数成分信号の周波数を逓倍する周波数逓倍手段と、
前記判別手段により判別された周波数が前記第1の周波数である場合、前記検波手段により検波された前記ドプラシフト周波数成分信号を音響出力し、前記判別手段により判別された周波数が前記第2の周波数である場合には、前記周波数逓倍手段により周波数逓倍された前記ドプラシフト周波数成分信号を音響出力する音響出力手段と、
を有することを特徴とする超音波血流計。
【請求項2】
前記周波数逓倍手段は、前記検波手段により検波された前記ドプラシフト周波数成分信号の周波数を実質的に2逓倍するための全波整流手段を含むことを特徴とする請求項1に記載の超音波血流計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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