説明

超音波解析システム

【課題】複雑な表面形状をもつ検査対象物上の多点における超音波振動を取得することができる超音波解析システムを提供する。
【解決手段】超音波解析システム1は、レール3を検査対象物として超音波解析を行うシステムである。このシステム1は、レール3に検査用超音波を発信する超音波探触子5と、レール3表面の受信点Pにレーザ光を照射するレーザ投受光部7aを有し、当該受信点Pにおける超音波振動を測定するレーザドップラー振動計7と、レーザ投受光部7aを移動させるロボットアーム19とを備えている。コンピュータ17は、レーザ投受光部7aからのレーザ光がレール3表面に垂直に入射する位置関係を維持しながらレール3の表面に沿ってレーザ投受光部7aを移動させるようにロボットアームを制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、曲面を含む表面を有する検査対象物の超音波解析を行う超音波解析システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、超音波解析の分野の技術として、XYステージを用いて超音波探触子をXY方向に走査し、検査対象物の表面をスキャンすることで、表面上の多点における超音波振動を取得し、検査対象物内部の異常の平面的な分布を得る方法が知られていた(例えば、非特許文献1参照。)。
【非特許文献1】日本学術振興会製鋼第19委員会編,「超音波解析法」,改訂新版,日刊工業新聞社,1974年,p268−276.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記方法では、探触子が平面的に移動するので、検査対象物の表面において平面をスキャンする検査には適しているが、曲面を含む表面をスキャンすることはできなかった。従って、上記方法では、複雑な表面形状をもつ検査対象物上においては、多点の超音波振動に基づく超音波解析を行うことができなかった。
【0004】
そこで、本発明は、複雑な表面形状をもつ検査対象物上の多点における超音波振動を取得することができる超音波解析システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る超音波解析システムは、曲面を含む表面を有する検査対象物の超音波解析を行う超音波解析システムにおいて、検査対象物に検査用超音波を発信する超音波探触子と、検査対象物の表面上の測定スポットにレーザ光を照射するレーザ投受光部を有し、当該測定スポットにおける検査用超音波による振動を測定するレーザ振動計と、レーザ投受光部を移動させるロボットアームと、レーザ投受光部からのレーザ光が検査対象物の表面に垂直に入射する位置関係を維持しながら検査対象物の表面に沿ってレーザ投受光部を移動させるようにロボットアームを制御する制御部と、を備えたことを特徴とする。
【0006】
この超音波解析システムにおいては、超音波探触子から検査対象物に検査用超音波が入射され、この検査用超音波による検査対象物表面の測定スポットの振動が、レーザ振動計により測定される。このレーザ振動計のレーザ投受光部は、ロボットアームの駆動によって移動するので、制御部にロボットアームの動作をプログラミングすることで、レーザ投受光部を複雑な軌道で正確に移動させることが可能になる。従って、検査対象物の表面が複雑な曲面を含む場合であっても、その検査対象物の表面に沿ってレーザ投受光部を正確に移動させ、測定スポットに垂直にレーザ光を照射させながら表面を非接触状態で走査することができる。また、このシステムでは、検査対象物表面の振動をレーザ振動計によって測定するので、レーザ投受光部からのレーザ光のスポット径を小さくすることで、曲率半径が小さい曲面においても、曲面上の各スポットの振動を正確に測定することができる。その結果、検査対象物が複雑な形状をなす場合にも、表面上の多点における超音波振動を取得することができる。
【発明の効果】
【0007】
本発明の超音波解析システムによれば、複雑な表面形状をもつ検査対象物上の多点における超音波振動を取得することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る超音波解析システムの好適な一実施形態について詳細に説明する。
【0009】
図1に示す超音波解析システム1は、鉄道レール3を検査対象物として超音波解析を行い、レール3の損傷評価等の材料評価を行うためのシステムである。超音波解析システム1は、検査用超音波を発信する超音波探触子5と、その検査用超音波によるレール3表面の超音波振動を測定するレーザドップラー振動計7とを備えている。
【0010】
上記超音波探触子5は、レール3の表面に密着して設置され、信号発生器9及び信号増幅器11を経て入力された信号に基づく検査用超音波を発生させ、レール3に入射する。更に、レール3の他の位置における表面付近には、振動計7のレーザ投受光部7aが非接触で配置される。そして、上記検査用超音波によってレール3の表面に発生した超音波振動が、上記レーザ投受光部7aにより検出される。検出された超音波振動の情報は、電気信号に変換され、振動計7の本体7bからAD変換器15を経由して、オシロスコープ機能を有するコンピュータ17に入力され、コンピュータ17では上記振動の情報が表示/記録される。
【0011】
この振動計7のレーザ投受光部7aは、レーザ干渉計を構成しており、非接触状態でレール3表面にスポット径約20μmのレーザ光を投光し、その表面からの反射レーザ光を受光する。そして、振動計7では、レーザ投受光部7aで投受光した上記レーザ光の干渉に基づいて超音波振動が検出される。このレーザ投受光部7aは、6軸制御のロボットアーム19の先端19aに取り付けられている。このロボットアーム19は、上記コンピュータ(制御部)17で実行される制御プログラムに従って動作し、レーザ投受光部7aの3次元的な位置及び姿勢を制御する。このような制御により、レーザ投受光部7aを±0.02mmの精度で3次元的に位置決めすると共に、レーザ投受光部7aのレーザ光の照射方向を3次元的に調整して所望の位置及び方向からレール3にレーザ光を入射させることができる。
【0012】
超音波探触子5から検査用超音波が発信されている状態において、コンピュータ13の上記制御プログラムが実行されると、図2に示すように、レーザ投受光部7aは、照射するレーザ光がレール3表面上の各点で常に垂直に入射するように姿勢を変えながら、レール3の表面に沿った軌道上を移動する。そして、レール3表面上には、予め多数の受信点P(P1,P2,…,Pm,…,Pn)が設定されており、レーザ投受光部7aは、レール3表面を走査しながら、上記受信点(測定スポット)P1,P2,…,Pm,…,Pnにおける超音波振動を測定する。なお、各受信点P同士の間隔は、超音波探触子5から発信される超音波の波長よりも十分に小さい長さに設定される。
【0013】
また、レーザ投受光部7aの移動中、レーザ投受光部7aの先端とレール3表面との間には、約100〜200mmの間隙が維持され、各受信点Pの振動は非接触状態で測定される。この際、ロボットアーム19の駆動とレーザ振動計7による振動の測定とがコンピュータ17によって連動され、測定された各受信点Pの超音波振動の波形の情報が、上述の通りコンピュータ17に表示/記録される。
【0014】
以上のように、この超音波解析システム1によれば、レーザ投受光部7aがロボットアームの駆動によって移動するので、コンピュータ17にロボットアームの動作をプログラミングすることで、レーザ投受光部7aを複雑な軌道で正確に移動させることが可能である。従って、表面が複雑な曲面を含む鉄道レール3の解析においても、レール3表面に沿ってレーザ投受光部7aを正確に移動させ、このレール3表面の各受信点Pに垂直にレーザ光を照射させながら表面を走査することができる。
【0015】
また、このシステム1では、レール3表面の超音波振動を測定するためにレーザドップラー振動計7を採用しており、レーザ投受光部7aからは、約20μmといった小さなスポット径をもつレーザ光が照射される。従って、例えば、数mm〜数cmサイズをもつ垂直探触子、斜角探触子、焦点形探触子、又はアレイ探触子等が設置不可能であるような曲率半径が小さい曲面においても、レーザ光のスポット径やロボットアーム19の位置決め精度よりも大きい曲率半径の曲面であれば、レーザ光の投受光によって受信点の超音波振動を正確に測定することができる。その結果、複雑な形状をなすレール3にあっても、表面上の多数の受信点P1,P2,…,Pm,…Pnにおける超音波振動を正確に取得することができる。
【0016】
また、従来、超音波解析において曲面をスキャンする手法として、曲面形状に合わせて形成された治具を用いる手法が知られているが、この手法では解析可能な検査対象物の表面形状が限定されてしまう。これに対して、システム1においては、検査対象物の表面形状に応じてロボットアーム19の制御プログラムを変更することで、種々の検査対象物に対応することができる。
【0017】
また、このシステム1においては、レール3表面上の多数の受信点Pの各々において、様々な超音波モード(例えば、レール3表面を伝播するレイリー波等)による波形や、レール3内部の損傷3aで反射・散乱された縦波・横波等の波形等の波形が重畳して検出され、コンピュータ17に収集される。従って、コンピュータ17によるソフトウエア的な処理によって、重畳された波形から、音速と伝播距離とが既知である所望の超音波モードの波形を分別・抽出して得ることができる。
【0018】
従って、検出しようとする検査対象物の損傷形態や材料特性に応じて、最も効果的な受信形態(例えば、垂直受信、斜角受信、焦点形受信等)に係る超音波モードを分別・抽出し、その受信形態に基づいた検査対象物の超音波解析が可能になる。また、このような多数の受信点Pにおける波形を基にして様々な超音波モードの波形を再現できるので、得られた様々な超音波モードの波形に基づく総合的な判断によってレール3の損傷評価等を行うことができる。
【0019】
また、従来であれば、超音波振動を検出するための超音波探触子を、解析に用いようとする超音波モードごとに取り替える必要があったが、上記システム1では、斜角探触子法、フェイズドアレイ法等に対応するガイド波のモード抽出をソフトウエア処理により再現することが可能になるので、超音波振動の受信に係る超音波探触子を、超音波解析に用いようとする超音波モードごとに取り替える必要がなくなる。
【0020】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではない。例えば、上記超音波解析システム1は、レール3の解析に限らず、複雑な形状をもつ条鋼材(L形鋼、C形鋼等)又はパイプの超音波解析にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る超音波解析システムの一実施形態を示す図である。
【図2】レールの受信点付近における断面図である。
【符号の説明】
【0022】
1…超音波解析システム、3…鉄道レール(検査対象物)、5…超音波探触子、7…レーザ振動計、7a…レーザ投受光部、17…コンピュータ(制御部)、19…ロボットアーム、P…受信点(測定スポット)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
曲面を含む表面を有する検査対象物の超音波解析を行う超音波解析システムにおいて、
前記検査対象物に検査用超音波を発信する超音波探触子と、
前記検査対象物の前記表面上の測定スポットにレーザ光を照射するレーザ投受光部を有し、当該測定スポットにおける前記検査用超音波による振動を測定するレーザ振動計と、
前記レーザ投受光部を移動させるロボットアームと、
前記レーザ投受光部からの前記レーザ光が前記検査対象物の前記表面に垂直に入射する位置関係を維持しながら前記検査対象物の前記表面に沿って前記レーザ投受光部を移動させるように前記ロボットアームを制御する制御部と、を備えたことを特徴とする超音波解析システム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−58029(P2008−58029A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−232559(P2006−232559)
【出願日】平成18年8月29日(2006.8.29)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年3月1日 日本機械学会東海学生会発行の「日本機械学会 東海学生会 第37回学生員卒業研究発表講演会 講演前刷集」に発表
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)
【出願人】(000221616)東日本旅客鉄道株式会社 (833)
【Fターム(参考)】