説明

超音波計測方法および超音波計測装置

【課題】残響ノイズが低減されたS/N比の高いエコー信号を得ること。
【解決手段】超音波プローブ2から被検体に対して超音波を送信し、超音波プローブ2が該被検体からのエコー信号を含む計測信号を取得する計測信号取得部3と、超音波プローブ2が生成する超音波に起因する残響ノイズ信号に対応した参照ノイズ信号を取得するノイズ信号取得部9aと、前記計測信号の一部と前記参照ノイズ信号の一部とを比較し、超音波プローブ2による前記計測信号の受信状態での該計測信号内の残響ノイズ信号を生成するための、前記参照ノイズ信号の変調パラメータを決定し、該決定した変調パラメータを用いて該計測信号内の残響ノイズ信号に対応する適応参照ノイズ信号を生成するノイズ生成部4と、前記計測信号から前記適応参照ノイズ信号を除去するノイズ除去部5と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波を用いて被検体の欠陥または構造等を計測する超音波計測方法および超音波計測装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、超音波を用いて被検体の欠陥または構造等を非破壊計測する超音波計測方法が提案されている。この超音波計測方法では、一般に、鋼管または鋼板等の被検体に超音波探触子(超音波プローブ)を接触させた状態で被検体に対して超音波を送信し、被検体からのエコー信号を受信することによって、被検体の傷等の欠陥または被検体の肉厚等の構造を計測する。この被検体からのエコー信号には、ノイズが含まれるため、高いS/N比をもつエコー信号を得られることができず、精度の高い超音波計測を行うことができない場合があった。
【0003】
このため、特許文献1では、同一条件による超音波の送受信を被検体に対して複数回行い、被検体から得られた複数の各信号を、送信タイミングに同期させて加算する処理を行うようにしている。この場合、エコー信号は、送信タイミングに対して常に一定時間遅れたタイミングで取得されるため、ノイズが時間的にランダムである場合、高いS/N比をもつことになる。
【0004】
また、特許文献2には、予測されるエコー信号を参照信号として用意し、その参照信号と計測信号との相関演算を行うようにしている。この場合、参照信号と高い相関をもつ実際のエコー信号が強調され、参照信号との相関が低いノイズが低減されるため、高いS/N比をもつエコー信号を得ることができる。
【0005】
さらに、特許文献3では、エコー信号とノイズの周波数分布との違いを利用し、ノイズに多く含まれ、かつエコー信号には、あまり含まれない周波数帯域をカットするようにしている。この結果、エコー信号からノイズが有効に除去され、高いS/N比をもつエコー信号を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−294498号公報
【特許文献2】特開2005−221321号公報
【特許文献3】特開2004−333260号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献1に記載されたものは、同期加算によってノイズを低減する方法であり、電気ノイズなどの時間的にランダムに現れるノイズの低減には有効であるが、超音波プローブから被検体に送信した超音波の残響である残響ノイズは、被検体からのエコー信号と同期するノイズであるため、同期加算処理を行っても低減することができず、高いS/N比をもつエコー信号を得ることは困難である。
【0008】
また、特許文献2に記載されたものは、マッチドフィルタを用いてノイズを低減する方法であり、超音波を送信した被検体から得られるエコー信号の信号波形を予測して、このエコー信号と同等の参照信号を予め用意する必要があるとともに、後方散乱波計測等、得られるエコー信号の予測が難しい被検体に対しては適用が困難である。しかも、残響ノイズは、参照信号との相関が大きいため、特許文献1と同様に、残響ノイズが低減されたエコー信号を得ることは困難である。
【0009】
さらに、特許文献3に記載されたものは、周波数フィルタを用いてノイズを低減する方法であり、超音波を送信した被検体から得られるエコー信号の周波数帯域を予測して、フィルタリング処理のフィルタ特性を予め設定しなければならず、この周波数帯域の予測が困難な場合、特許文献2と同様に、たとえば、後方散乱波計測等には適用が困難である。しかも、残響ノイズの周波数帯域はエコー信号の周波数帯域に重なってしまうため、残響ノイズが低減されたエコー信号を得ることは困難である。
【0010】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、残響ノイズが低減されたS/N比の高いエコー信号を得ることができる超音波計測方法および超音波計測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかる超音波計測方法は、超音波プローブから被検体に対して超音波を送信し、前記超音波プローブが該被検体からのエコー信号を含む計測信号を取得する計測信号取得ステップと、前記超音波プローブが生成する超音波に起因する残響ノイズ信号に対応した参照ノイズ信号を取得するノイズ信号取得ステップと、前記計測信号の一部と前記参照ノイズ信号の一部とを比較し、前記超音波プローブによる前記計測信号の受信状態での該計測信号内の残響ノイズ信号を生成するための、前記参照ノイズ信号の変調パラメータを決定し、該決定した変調パラメータを用いて該計測信号内の残響ノイズ信号に対応する適応参照ノイズ信号を生成するノイズ生成ステップと、前記計測信号から前記適応参照ノイズ信号を除去するノイズ除去ステップと、を含むことを特徴とする。
【0012】
また、本発明にかかる超音波計測方法は、上記の発明において、前記ノイズ生成ステップは、前記エコー信号を含む計測信号に含まれる、前記被検体からの反射超音波及び散乱超音波を受信する前の時間領域の一部または全部、あるいは後の時間領域の一部または全部、あるいは前および後の時間領域の一部または全部の計測信号と前記参照ノイズ信号と比較して、前記適応参照ノイズ信号を生成することを特徴とする。
【0013】
また、本発明にかかる超音波計測方法は、上記の発明において、前記ノイズ信号取得ステップは、前記超音波プローブから超音波の送受信を行うことによって前記参照ノイズ信号を取得することを特徴とする。
【0014】
また、本発明にかかる超音波計測方法は、上記の発明において、前記ノイズ信号取得ステップは、前記被検体からの反射超音波および/または散乱超音波が観測されないように前記超音波プローブを配置して前記参照ノイズ信号を取得することを特徴とする。
【0015】
また、本発明にかかる超音波計測方法は、上記の発明において、前記ノイズ信号取得ステップは、被検体内部に欠陥のない被検体に超音波が送信されるように前記超音波プローブを配置して前記参照ノイズ信号を取得することを特徴とする。
【0016】
また、本発明にかかる超音波計測方法は、上記の発明において、前記ノイズ信号取得ステップは、前記超音波プローブを前記被検体に対して相対的に移動させながら計測し、前記被検体の複数の位置での計測結果を平均処理することによって前記参照ノイズ信号を取得することを特徴とする。
【0017】
また、本発明にかかる超音波計測方法は、上記の発明において、前記被検体からのエコー信号は、前記被検体内部の欠陥からの反射である後方散乱波であることを特徴とする。
【0018】
また、本発明にかかる超音波計測装置は、超音波プローブから被検体に対して超音波を送信し、前記超音波プローブが該被検体から反射したエコー信号を含む計測信号を取得する計測信号取得部と、前記超音波プローブが生成する超音波に起因する残響ノイズ信号に対応した参照ノイズ信号を取得するノイズ信号取得部と、前記計測信号の一部と前記参照ノイズ信号の一部とを比較し、前記超音波プローブによる前記計測信号の受信状態での該計測信号内の残響ノイズ信号を生成するための、前記参照ノイズ信号の変調パラメータを決定し、該決定した変調パラメータを用いて該計測信号内の残響ノイズ信号に対応する適応参照ノイズ信号を生成するノイズ生成部と、前記計測信号から前記適応参照ノイズ信号を除去するノイズ除去部と、を備えたことを特徴とする。
【0019】
また、本発明にかかる超音波計測装置は、上記の発明において、前記ノイズ生成部は、前記エコー信号に含まれる、前記被検体からの反射超音波及び散乱超音波を含む計測信号を受信する前の時間領域の一部または全部、あるいは後の時間領域の一部または全部、あるいは前および後の時間領域の一部または全部の計測信号と前記参照ノイズ信号と比較して、前記適応参照ノイズ信号を生成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、超音波プローブから被検体に対して超音波を送信し、前記超音波プローブが該被検体からのエコー信号を含む計測信号を受信するとともに、前記超音波プローブが生成する超音波に起因する残響ノイズ信号に対応した参照ノイズ信号を取得し、前記計測信号の一部と前記参照ノイズ信号の一部とを比較し、前記超音波プローブによる前記計測信号の受信状態での該計測信号内の残響ノイズ信号を生成するための、前記参照ノイズ信号の変調パラメータを決定し、該決定した変調パラメータを用いて該計測信号内の残響ノイズ信号に対応する適応参照ノイズ信号を生成し、前記計測信号から前記適応参照ノイズ信号を除去するようにしているので、残響ノイズが低減されたS/N比の高いエコー信号を得ることができ、この結果、従来、超音波計測が困難であった微小欠陥や微小構造などの計測が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、本発明の実施の形態1にかかる超音波計測装置の構成を模式的に示したブロック図である。
【図2】図2は、超音波計測装置による超音波計測処理手順を示すフローチャートである。
【図3】図3は、超音波の送受信によって計測される被検体の計測信号の一例を示す波形図である。
【図4】図4は、超音波の参照ノイズ信号の一例を示す波形図である。
【図5】図5は、適応参照ノイズ信号の一例を示す波形図である。
【図6】図6は、計測信号から適応参照ノイズ信号を除去して得られるエコー信号を示す波形図である。
【図7】図7は、超音波の送受信によって被検体の計測信号を取得する状態を示す模式図である。
【図8】図8は、被検体を配置しないで参照ノイズ信号を取得する状態を示す模式図である。
【図9】図9は、欠陥部のない基準被検体を用いて参照ノイズ信号を取得する状態を示す模式図である。
【図10】図10は、本発明の実施の形態2による超音波計測の状態を示す模式図である。
【図11】図11は、実施例による計測信号の一例を示す波形図である。
【図12】図12は、実施例による参照ノイズ信号の一例を示す波形図である。
【図13】図13は、実施例による、計測信号から適応参照ノイズ信号を除去したエコー信号の一例を示す波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して、本発明にかかる超音波計測方法および超音波計測装置の実施の形態について説明する。なお、この実施の形態により、本発明が限定されるものではない。
【0023】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1にかかる超音波計測装置の構成を模式的に示したブロック図である。図1に示すように、この超音波計測装置10は、被検体の欠陥または構造を非破壊計測するための超音波を送信し、この送信した超音波に起因する超音波信号(計測信号)を受信する計測信号取得部1と、この計測信号に含まれる残響ノイズに近似する適応参照ノイズ信号を生成するノイズ生成部4と、計測信号から適応参照ノイズ信号を除去するノイズ除去部5とを有する。また、超音波計測装置10は、各種情報を入力する入力部6と、被検体の計測データ等を記憶する記憶部7と、被検体の計測結果等を表示する表示部8と、超音波計測装置10の各構成部を制御する制御部9とを有する。
【0024】
計測信号取得部1は、送受信部3から送信された電気信号の超音波信号を、超音波プローブ2から、外部に超音波を送信し、この超音波プローブ2で受信した超音波を電気信号の超音波信号である計測信号として送受信部3に出力する。超音波プローブ2は、圧電振動子等を用いて実現され、送受信部3からのパルス信号の印加によって超音波を外部に送信し、外部からの超音波を受波して電気信号に変換する。送受信部3は、超音波プローブ2の共振周波数またはその近傍の周波数のパルス信号を超音波プローブ2に印加することによって超音波プローブ2から超音波を外部に出力する。
【0025】
ノイズ生成部4は、受信した計測信号に含まれ被検体に送信した超音波に同期する残響ノイズに近似する適応参照ノイズ信号を生成する。この適応参照ノイズ信号は、少なくともエコー信号を受信する時間領域での残響ノイズに近似する信号であり、制御部9内のノイズ信号取得部9aが別途取得した参照ノイズ信号と、計測信号におけるエコー信号を受信しない時間領域の信号とを用いて求められる。
【0026】
ノイズ除去部5は、計測信号取得部1が取得した計測信号から、ノイズ生成部4が生成した適応参照ノイズ信号を減算することによって、計測信号内の残響ノイズをほとんど除去し、高いS/N比をもつエコー信号を出力する。なお、ノイズ除去部5は、計測信号内に含まれる残響ノイズ以外のノイズを除去するために同期加算処理などの信号処理を施してノイズ除去を行うことが好ましい。
【0027】
入力部6は、電源スイッチおよび入力キー等の入力デバイスを用いて実現される。また、入力部6は、操作者による入力操作に対応して、制御部9に対して各種指示情報を入力する。例えば、入力部6は、被検体の計測開始または計測終了等の指示情報、被検体の計測データの表示または記憶を指示する指示情報等を制御部9に入力する。
【0028】
記憶部7は、ハードディスク等の記憶メディアを用いて実現され、制御部9によって指示された被検体の計測データ等の各種情報を記憶する。
【0029】
表示部8は、液晶ディスプレイ等の表示デバイスを用いて実現され、制御部9によって表示指示された各種情報を表示する。具体的には、表示部8は、超音波計測による被検体の計測データ(例えば、微小傷等の欠陥情報、肉厚等の構造情報等)を表示する。また、表示部8は、計測対象の被検体から得られたエコー信号の波形情報等を表示してもよい。
【0030】
制御部9は、参照ノイズ信号を取得するノイズ信号取得部9aを有するとともに、上述した超音波計測装置10の各構成部を制御する。具体的には、制御部9は、処理プログラム等を記憶したメモリおよび処理プログラムを実行するCPU等を用いて実現される。制御部9は、入力部6によって入力された指示情報に基づいて、上述した計測信号取得部1、ノイズ生成部4、ノイズ除去部5、記憶部7、および表示部8の各動作タイミング等を制御する。
【0031】
ここで、図2に示したフローチャートを参照して、超音波計測装置10による超音波計測処理手順について説明する。図2において、まず、制御部9は、被検体に対する超音波計測指示入力があったか否かを判断する(ステップS101)。
【0032】
制御部9は、超音波計測指示入力があった場合(ステップS101,Yes)のみ、超音波プローブ2を用いた超音波計測を開始する。すなわち、制御部9は、計測信号取得部1を制御して、被検体に対して超音波を照射し、この被検体からの超音波信号を含む計測信号を取得するとともに、制御部9内のノイズ信号取得部9aは、記憶部7に予め格納され、あるいは直前に計測された参照ノイズ信号を取得する(ステップS102)。
【0033】
その後、ノイズ生成部4は、エコー信号が含まれない時間領域の計測信号内の残響ノイズである計測信号と参照ノイズ信号とをもとに、少なくともエコー信号が含まれる時間領域内の残響ノイズの振幅、位相に近似する信号である適応参照ノイズ信号を生成する(ステップS103)。
【0034】
その後、ノイズ除去部5は、計測信号から、ノイズ生成部4が生成した適応参照ノイズ信号を減算し、計測信号内の残響ノイズをほぼ除去する(ステップS104)。
【0035】
その後、この残響ノイズがほぼ除去されたエコー信号を用いた計測処理を行う(ステップS105)。たとえば、被検体内に存在する欠陥の形状および大きさ等の欠陥情報、肉厚および内部形状等の構造情報を取得する処理を行う。その後、終了指示がない場合(ステップS106,No)、ステップS101に移行して上述した処理を繰り返し、終了指示があった場合(ステップS106,Yes)、本処理を終了する。
【0036】
ここで、さらに具体的な信号波形を参照して、上述した残響ノイズ除去処理について説明する。図3は、計測信号取得部1が取得した計測信号y(t)を示している。この計測信号y(t)は、任意の時間t1から時間t4までの期間に取得した信号であり、この計測信号y(t)の時間tから時間tの間の時間領域Δtに被検体からのエコー信号s(t)が含まれる。
【0037】
すなわち、計測信号y(t)は、エコー信号s(t)と、残響ノイズn(t)とを重ね合わせた信号であり、次式(1)で表される。なお、計測信号y(t)には、残響ノイズn(t)以外のノイズ信号が含まれるが、同期加算処理などの信号処理によって除去することができるため、このノイズ信号は含めていない。
y(t)=s(t)+n(t) (t1≦t≦t4) …(1)
【0038】
ところで、時間t1から時間t2までの時間領域△taおよび時間t3から時間t4までの時間領域△tcには、エコー信号s(t)が含まれていないため、計測信号y(t)は、次式(2)で表される。
y(t)=s(t)+n(t) (t≦t≦t
y(t)=n(t) (t≦t≦t,t≦t≦t
…(2)
【0039】
ここで、残響ノイズn(t)は、超音波の残響という現象、すなわち、超音波プローブ2の内外における音響的残響、送受信部3におけるインピーダンスミスマッチによる電気的残響等に基づいている。一方、振幅または位相等の残響ノイズn(t)の特性は、温度等の環境によって変化する。このため、残響ノイズn(t)は、経時的に再現性を有するが、完全には一定にはならず、経時的に相似した信号となる。
【0040】
残響ノイズn(t)は、超音波プローブ2から送信された超音波に起因するため、図4に示すように、この超音波の周波数等に同期する、残響ノイズn(t)の基準となる参照ノイズ信号nref(t)を予め取得しておく。この参照ノイズ信号nref(t)は、超音波プローブ2を用いた計測によって予め求めておいてもよいし、モデル化した波形を用いてもよいし、シミュレーションによって求めておいてもよい。ここで参照ノイズ信号nref(t)を計測で求めるとき、超音波プローブは実計測に用いるプローブと同じものを使うのが望ましい。
【0041】
ノイズ生成部4は、参照ノイズ信号nref(t)の時間を計測信号y(t)に対応させておき、計測信号y(t)の時間領域Δt,Δtの計測信号(残響ノイズn(t))と、時間領域Δt,Δtの参照ノイズ信号nref(t)とを比較し、時間領域Δt,Δtの計測信号y(t)が再現できるように、参照ノイズ信号nref(t)の変調パラメータ(振幅変調量A(t)と位相変調量d(t))とを次式(3)によって求める。
y(t)=n(t) (t1≦t≦t2、t3≦t≦t4
=A(t)×nref(t+d(t)) (t1≦t≦t2、t3≦t≦t4) …(3)
【0042】
そして、ノイズ生成部4は、この式(3)によって求められた時間領域Δt,Δtの計測信号y(t)を用いて、次式(4)に示すように、時間領域Δtをさらに補間した適応参照ノイズ信号nref(t)´を算出する(図5参照)。
ref(t)´=A(t)×nref(t+d(t)) (t1≦t≦t)…(4)
【0043】
その後、ノイズ除去部5は、式(1)に示した計測信号y(t)から式(4)に示した適応参照ノイズ信号nref(t)´を減算し(式(5)参照)、図6に示すように、エコー信号s(t)を高いS/N比で出力する。なお、残響ノイズn(t)と適応参照ノイズ信号nref(t)´とは位相と振幅とが近似するため、計測信号y(t)から残響ノイズn(t)が殆ど除去されることになる。
s(t)=y(t)−n(t)
≒y(t)−nref(t)´ (t1≦t≦t4) …(5)
【0044】
なお、上述した実施の形態1では、計測信号y(t)の時間領域Δt,Δtの信号(残響ノイズn(t))と、時間領域Δt,Δtの参照ノイズ信号nref(t)とを比較して適応参照ノイズ信号nref(t)´を求めていたが、これに限らず、時間領域Δt,Δtの全てではなく、時間領域Δtあるいは時間領域Δtの一方のみを比較して適応参照ノイズ信号nref(t)´を求めてもよいし、時間領域Δtあるいは時間領域Δtの一部のみを比較して適応参照ノイズ信号nref(t)´を求めてもよい。
【0045】
(参照ノイズ信号の取得例1)
ここで、計測による参照ノイズ信号nref(t)の具体的な取得処理について説明する。まず、図7に示すように、超音波計測装置10による超音波計測は、鋼材などの被検体15に対して水浸法を用いて行われる。超音波計測装置10は、計測に用いる超音波の参照ノイズ信号nref(t)と、被検体15に対する計測信号y(t)とを取得する。超音波プローブ2は、まず、被検体15との間で、水等の音響接触触媒に接触した状態にされ、その後、この状態で超音波計測が行われる。ここで、超音波プローブ2は、被検体15以外の外部に対しても超音波の送受信を行うため、上述したように、計測信号y(t)内に残響ノイズn(t)が含まれる。
【0046】
参照ノイズ信号nref(t)は、表面エコーや欠陥部15aからのエコー(反射超音波および/または散乱超音波)であるエコー信号s(t)がない状態で計測すればよく、この参照ノイズ信号の取得例1では、図8に示すように、被検体15を設けず、エコー信号s(t)のない状態で計測することによって、参照ノイズ信号nref(t)を得るようにしている。
【0047】
もちろん、この場合、超音波プローブ2が送受信する周波数や時間長は、エコー信号s(t)を取得する超音波計測時と同じ条件であることが好ましい。特に、音響接触媒体である水の温度などを超音波計測時と同じ条件とすることが好ましい。
【0048】
このようにして得られる参照ノイズ信号nref(t)は、超音波計測直前に超音波計測の一連の処理によって求めてもよいし、同一条件での超音波計測が繰り返し行われる場合には、記憶部7内に予め保持しておくようにしてもよい。
【0049】
(参照ノイズ信号の取得例2)
つぎに、参照ノイズ信号の取得例2について説明する。この取得例2では、図9に示すように、欠陥部15aのない正常な被検体である基準被検体16を専用の試験片として用い、この基準被検体16に対する超音波計測を行うことによって、参照ノイズ信号nref(t)を求めるようにしている。
【0050】
この場合、参照ノイズ信号nref(t)には、残響ノイズn(t)とともに表面エコーが含まれるが、この表面エコーは、超音波計測には不必要なノイズである。したがって、表面エコー成分を参照ノイズ信号nref(t)の成分として含めることによって、超音波計測時に、欠陥部15aからの所望のエコー信号s(t)を一層高いS/N比で得ることができる。
【0051】
また、この取得例2では、取得例1に比して、一層被検体15に対する実計測に近い条件で行うことができるという利点がある。
【0052】
この実施の形態1は、参照ノイズ信号を用いて、被検体からの計測信号に含まれる残響ノイズに対応した適応参照ノイズ信号を生成し、計測信号から適応参照ノイズ信号を除去することによって、高いS/N比をもつエコー信号を得ることができる。この結果、被検体の欠陥情報および構造情報等を一層高精度に非破壊計測することができる。
【0053】
(実施の形態2)
この実施の形態2では、参照ノイズ信号の取得を別途行わず、超音波計測内で参照ノイズ信号の取得を含めて欠陥部15aの検出を行うようにしている。
【0054】
まず、この実施の形態2では、図10に示すように、超音波プローブ2が超音波の送受信を行いつつ、被検体15を超音波プローブ2に対して相対的に移動させ、被検体15から複数の計測信号yi(t)(i=1,2,3,…,N)を実測し、得られた複数の計測信号yi(t)をもとに、被検体15の欠陥部検出に適応する適応参照ノイズ信号を取得している。
【0055】
図10において、欠陥部15aが存在する位置P2が、超音波プローブ2による合計N回の相対的走査(計測)のうちのk回目の位置である場合、計測信号yi(t)は、次式(5)、(6)によって表される。
i(t)=ss,i(t)+ni(t) (i≠k) …(6)
k(t)=ss,k(t)+sd(t)+nk(t) (i=k) …(7)
【0056】
なお、ss,i(t)は、i回目の計測時の表面エコー信号であり、ni(t)は、i回目の計測時の残響ノイズ信号である。また、sd(t)は、k回目の計測時のみに計測される欠陥エコー信号である。
【0057】
ここで、参照ノイズ信号nref(t)は、取得した合計N回分の計測信号y1(t),…,yi(t),…,yN(t)をもとに、次式(8)に基づいて、近似的に算出される。
【数1】

【0058】
なお、上式(8)において、ss(t)は、合計N回の計測分の表面エコー信号を平均化した平均の表面エコー信号であり、ns(t)は、合計N回の計測分の平均の残響ノイズ信号である。
【0059】
ノイズ生成部4は、上式(8)に基づいて算出した参照ノイズ信号nref(t)を用いて、i回目の計測信号yi(t)に適応した適応参照ノイズ信号n´ref,i(t)を実施の形態1と同様にして生成する。その後、ノイズ除去部5は、計測信号yi(t)から適応参照ノイズ信号n´ref,i(t)を減算し、次式(9)に示すエコー信号s´(t)を得る。
【数2】

【0060】
したがって、被検体15の計測回数の合計N回が3以上(N≧3)である場合、より一般的には、欠陥エコーが同位相で検出されている計測信号が全体の1/3以下である場合、エコー信号s´(t)の絶対値は、次式(10)のようになる。
|s´(t)|<|s´(t)| (i≠k) …(10)
このため、超音波計測装置10は、式(10)に基づいて、被検体15の欠陥エコーの有無を検出することができる。
【0061】
この実施の形態2では、被検体の計測信号とは別に参照ノイズ信号を実測する必要がなく、これによって、超音波の参照ノイズ信号を実測する手間および時間を省くことができ、この結果、一層短時間且つ容易に高S/N比のエコー信号を取得することができる。
【0062】
また、被検体内部に存在する欠陥部の位置の近傍を走査して計測信号を取得するので、参照ノイズ信号の経時変化および計測位置に応じた変化を低減することができ、これによって、時間または計測位置等の計測環境の要因に追従した参照ノイズ信号を取得することができる。
【0063】
(実施例)
つぎに、上述した実施の形態1に対応する実施例について説明する。この実施例における超音波プローブ2は、公称周波数を75MHzに設定している。また、超音波プローブ2の振動子直径は3mmであり、超音波プローブ2の焦点距離は10mmである。このような超音波プローブ2を備えた超音波計測装置10を用い、水浸法によって被検体15に超音波を斜角入射し、被検体15の超音波計測を6.0μ秒間行った。
【0064】
なお、この実施例における超音波計測方法では、被検体15として、厚さ2.6mmの鋼板を用いている。また、この被検体15である鋼板は、水等の音響接触触媒に全没または局部的に水没させた状態にしている。
【0065】
この実施例にかかる超音波計測方法によって、超音波計測装置10は、図11に示すような波形の計測信号y(t)を取得した。詳細には、超音波計測装置10は、時間t=1.1μ秒から時間t=2.0μ秒の間に、この鋼板の表面散乱波を計測した。また、超音波計測装置10は、時間t=2.0μ秒から時間t=3.2μ秒の間に、この鋼板の内部からの後方散乱波を計測した(図11に示す矩形枠内を参照)。
【0066】
一方、残響ノイズの基準信号である参照ノイズ信号nref(t)は、上述したように、実際に超音波を送受信することによって予め計測した。この結果、超音波計測装置10は、図12に示すような波形の参照ノイズ信号nref(t)を取得した。
【0067】
なお、この実施例における超音波計測方法では、超音波計測装置10は、被検体15である鋼板の計測信号y(t)および参照ノイズ信号nref(t)を取得した後、同期加算平均処理を行って、この計測信号y(t)および参照ノイズ信号nref(t)から電気ノイズ等の非残響ノイズ成分を除去した。
【0068】
その後、超音波計測装置10は、参照ノイズ信号nref(t)をもとに、この鋼板の計測信号y(t)のうち、エコー信号を受信しない時間領域の波形と、参照ノイズ信号nref(t)とを比較し、適応参照ノイズ信号n´ref(t)を生成し、計測信号y(t)から適応参照ノイズ信号n´ref(t)を減算して除去した。この結果は、図13に示すような波形となり、高いS/N比をもつエコー信号s(t)を取得することができた。
【0069】
ここで、鋼板の計測信号y(t)の波形(図11参照)とエコー信号s(t)の波形(図13参照)とを比較した場合、鋼板の表面散乱波と後方散乱波とが計測された時間領域(図11,13の矩形枠内の時間領域)では、残響ノイズ除去処理の前後において、ピークおよび振幅等の波形特性が略維持されている。一方、この時間領域以外(図11,13の矩形枠外の時間領域)では、振幅が低減している。このため、被検体15である鋼板の計測時間において、この鋼板からのエコー信号s(t)の信号レベルを維持しつつ、残響ノイズを除去できたことがわかる。
【0070】
なお、上述した実施の形態では、同期加算平均処理によって被検体の計測信号内の電気ノイズ等の非残響ノイズ成分を除去していたが、これに限らず、同期加算平均処理以外の方法、例えば、マッチドフィルタを用いた方法によって非残響ノイズ成分を除去してもよいし、周波数帯域のフィルタリング処理による方法によって非残響ノイズ成分を除去してもよい。
【0071】
さらに、上述した実施の形態では、被検体の計測に用いる実際の超音波に基づいてモデル化した波形の参照ノイズ信号を予め準備していたが、これに限らず、数値シミュレーションによってモデル化した波形の参照ノイズ信号を用いてもよいし、適切な論理式に基づいて導出した参照ノイズ信号を用いてもよい。
【符号の説明】
【0072】
1 計測信号取得部
2 超音波プローブ
3 送受信部
4 ノイズ生成部
5 ノイズ除去部
6 入力部
7 記憶部
8 表示部
9 制御部
9a ノイズ信号取得部
10 超音波計測装置
15 被検体
15a 欠陥部
16 基準被検体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波プローブから被検体に対して超音波を送信し、前記超音波プローブが該被検体からのエコー信号を含む計測信号を取得する計測信号取得ステップと、
前記超音波プローブが生成する超音波に起因する残響ノイズ信号に対応した参照ノイズ信号を取得するノイズ信号取得ステップと、
前記計測信号の一部と前記参照ノイズ信号の一部とを比較し、前記超音波プローブによる前記計測信号の受信状態での該計測信号内の残響ノイズ信号を生成するための、前記参照ノイズ信号の変調パラメータを決定し、該決定した変調パラメータを用いて該計測信号内の残響ノイズ信号に対応する適応参照ノイズ信号を生成するノイズ生成ステップと、
前記計測信号から前記適応参照ノイズ信号を除去するノイズ除去ステップと、
を含むことを特徴とする超音波計測方法。
【請求項2】
前記ノイズ生成ステップは、前記エコー信号を含む計測信号に含まれる、前記被検体からの反射超音波及び散乱超音波を受信する前の時間領域の一部または全部、あるいは後の時間領域の一部または全部、あるいは前および後の時間領域の一部または全部の計測信号と前記参照ノイズ信号と比較して、前記適応参照ノイズ信号を生成することを特徴とする請求項1に記載の超音波計測方法。
【請求項3】
前記ノイズ信号取得ステップは、前記超音波プローブから超音波の送受信を行うことによって前記参照ノイズ信号を取得することを特徴とする請求項1または2に記載の超音波計測方法。
【請求項4】
前記ノイズ信号取得ステップは、前記被検体からの反射超音波および/または散乱超音波が観測されないように前記超音波プローブを配置して前記参照ノイズ信号を取得することを特徴とする請求項3に記載の超音波計測方法。
【請求項5】
前記ノイズ信号取得ステップは、被検体内部に欠陥のない被検体に超音波が送信されるように前記超音波プローブを配置して前記参照ノイズ信号を取得することを特徴とする請求項3に記載の超音波計測方法。
【請求項6】
前記ノイズ信号取得ステップは、前記超音波プローブを前記被検体に対して相対的に移動させながら計測し、前記被検体の複数の位置での計測結果を平均処理することによって前記参照ノイズ信号を取得することを特徴とする請求項3に記載の超音波計測方法。
【請求項7】
前記被検体からのエコー信号は、前記被検体内部の欠陥からの反射である後方散乱波であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一つに記載の超音波計測方法。
【請求項8】
超音波プローブから被検体に対して超音波を送信し、前記超音波プローブが該被検体から反射したエコー信号を含む計測信号を取得する計測信号取得部と、
前記超音波プローブが生成する超音波に起因する残響ノイズ信号に対応した参照ノイズ信号を取得するノイズ信号取得部と、
前記計測信号の一部と前記参照ノイズ信号の一部とを比較し、前記超音波プローブによる前記計測信号の受信状態での該計測信号内の残響ノイズ信号を生成するための、前記参照ノイズ信号の変調パラメータを決定し、該決定した変調パラメータを用いて該計測信号内の残響ノイズ信号に対応する適応参照ノイズ信号を生成するノイズ生成部と、
前記計測信号から前記適応参照ノイズ信号を除去するノイズ除去部と、
を備えたことを特徴とする超音波計測装置。
【請求項9】
前記ノイズ生成部は、前記エコー信号に含まれる、前記被検体からの反射超音波及び散乱超音波を含む計測信号を受信する前の時間領域の一部または全部、あるいは後の時間領域の一部または全部、あるいは前および後の時間領域の一部または全部の計測信号と前記参照ノイズ信号と比較して、前記適応参照ノイズ信号を生成することを特徴とする請求項8に記載の超音波計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−196877(P2011−196877A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−65175(P2010−65175)
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】