説明

超音波診断システム、超音波診断装置用ロボット、及びプログラム

【課題】超音波プローブの位置や姿勢が所望の超音波画像が得られる最適状態から変化したときに、当該最適状態に超音波プローブを迅速に戻すことを可能にする。
【解決手段】本発明の超音波診断システム10は、超音波プローブ14と、超音波プローブ14からの信号により超音波画像を生成する超音波画像生成手段15と、超音波プローブ14を動作させるロボットアーム17と、所定範囲内で予め超音波プローブ14を移動させた際に、当該移動中の各位置での超音波画像を記憶画像20Aとして記憶する記憶手段20と、現在得られている現画像Nと各記憶画像20Aとの対比により、目標画像Tが得られる超音波プローブ14の最適位置及び最適姿勢に対する変化量を求めるプローブ状態変化量検出手段21と、プローブ状態変化量検出手段21で求めた変化量がゼロになるようにロボットアーム17の動作制御を行う動作制御手段22とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波診断システム、超音波診断装置用ロボット、及びプログラムに係り、更に詳しくは、目標となる超音波画像が得られる最適状態にある超音波プローブが不意にずれたときに、得られる超音波画像の変化から、前記最適状態に対する超音波プローブの位置や姿勢の変化量を求めることのできる超音波診断システム、超音波診断装置用ロボット、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
被検者の頸動脈上の皮膚部位に超音波プローブを当てることで得られた血管の超音波断層画像に基づき、疾患の早期発見に寄与する指標を求める超音波診断装置が知られている。この超音波診断装置としては、受信信号から、経時的に変化する血圧及び血流速等の各種データを検出し、当該データから血管の性状や心臓の機能等を評価する指標であるWI(Wave Intensity)を求めるものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このような超音波診断装置にあっては、正確な測定を行うために、測定中は、血管の計測点がほぼ一定となるように、超音波プローブを測定者の手や所定の保持具でしっかりと保持しておく必要がある。
【0004】
ところで、特許文献2には、ロボットアームを使って超音波プローブを保持させ、当該超音波プローブが測定に最適となる血管上の位置に存在しない場合に、当該最適位置に前記超音波プローブを自動的に移動させるロボットシステムが開示されている。このロボットシステムは、超音波プローブを所定のピッチで自動的に移動させ、その際に得られるそれぞれの超音波画像について画像処理及び判定を行うことにより、前記最適位置の探索及び決定をし、当該最適位置に超音波プローブを導くようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−299752号公報
【特許文献2】特開2003−245280号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記ロボットシステムでは、最適位置に超音波プローブが保持された状態で被検者が動くこと等により、超音波プローブが最適位置からずれてしまうと、最適位置の探索のための前述の処理を再度行わなければならず、最適位置を見つけ出すのに時間がかかるという不都合がある。すなわち、超音波プローブが最適位置からずれてしまうと、再度、超音波プローブを所定の範囲内で段階的に動かし、各ポイントで取得した超音波画像それぞれに対して、画像処理を行って最適位置か否かの判定を行わなければならず、超音波プローブを1回の動作で前記最適位置に戻すことができない。
【0007】
本発明は、このような不都合に着目して案出されたものであり、その目的は、超音波プローブの位置や姿勢が、所望の超音波画像が得られる最適状態から変化したときに、当該最適状態に超音波プローブを迅速に戻すための超音波診断システム、超音波診断装置用ロボット、及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するため、本発明に係る超音波診断システムは、超音波パルスの送波及びエコーの受波を行う超音波プローブと、当該超音波プローブからの信号により超音波画像を生成する超音波画像生成手段と、前記超音波プローブを動作させるプローブ動作手段と、所定範囲内で予め前記超音波プローブを移動させた際に、当該移動中の各位置での超音波画像を記憶画像として記憶する記憶手段と、現在得られている超音波画像である現画像と前記各記憶画像との対比により、目標の超音波画像となる目標画像が得られる前記超音波プローブの最適位置及び最適姿勢に対する変化量を求めるプローブ状態変化量検出手段と、当該プローブ状態変化量検出手段で求めた前記変化量がゼロになるように前記プローブ動作手段の動作制御を行う動作制御手段とを備える、という構成を採っている。
【0009】
また、前記記憶手段には、前記記憶画像として、前記最適位置を挟む所定範囲内で前記超音波プローブを前記最適姿勢と同一姿勢で直線移動させた際に、一定の移動間隔毎に得られた複数の前記超音波画像である対比用画像と、前記目標画像とが前記超音波プローブの位置に対応して記憶され、
前記プローブ状態変化量検出手段では、前記現画像内の所定部分に一致する部分を有する前記記憶画像が得られる前記超音波プローブの位置と、前記目標画像が得られる前記超音波プローブの位置との離間距離に基づいて前記変化量を求める、という構成を採っている。
【0010】
ここで、前記プローブ状態変化量検出手段では、前記超音波画像の上下左右の4箇所の領域について、現画像を前記記憶画像と対比し、各領域それぞれについて前記離間距離を求めた上で、相互に直交する3本の座標軸のうちで前記超音波画像の画面を左右させる方向に延びるx軸回りの回転における前記変化量と、前記画面を上下させる方向に延びるy軸回りの回転における前記変化量と、前記画面を直交する方向に延びるz軸方向の並進における前記変化量とを求める、という構成を採ることが好ましい。
【0011】
更に、前記プローブ状態変化量検出手段では、前記x軸方向及びy軸方向の並進における前記変化量と、前記z軸方向の回転における前記変化量とを求める、という構成も採用するとよい。
【0012】
また、本発明は、超音波診断装置の超音波プローブを保持して所定の空間内を動作させる超音波診断装置用ロボットにおいて、
前記超音波プローブを動作させるプローブ動作手段と、所定範囲内で予め前記超音波プローブを移動させた際に、当該移動中の各位置での超音波画像を記憶画像として記憶する記憶手段と、現在得られている超音波画像と前記各記憶画像との対比により、目標の超音波画像が得られる前記超音波プローブの最適位置及び最適姿勢に対する変化量を求めるプローブ状態変化量検出手段と、当該プローブ状態変化量検出手段で求めた前記変化量がゼロになるように前記プローブ動作手段の動作制御を行う動作制御手段とを備える、という構成を採っている。
【0013】
更に、本発明は、所定の空間内で超音波診断装置の超音波プローブを移動させる超音波診断装置用ロボットの動作に関する処理を行うコンピュータを機能させるためのプログラムにおいて、
所定範囲内で予め前記超音波プローブを移動させた際に、当該移動中の各位置での超音波画像を記憶画像として記憶する記憶手段と、現在得られている超音波画像と前記各記憶画像との対比により、目標の超音波画像が得られる前記超音波プローブの最適位置及び最適姿勢に対する変化量を求めるプローブ状態変化量検出手段として前記コンピュータを機能させる、という構成を採っている。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、被検者の不意な動き等によって、超音波プローブの位置や姿勢が、所望の超音波画像が得られる最適状態からずれた場合に、現在得られている超音波画像と記憶手段に予め記憶された記憶画像とを対比することで、前記最適状態からの超音波プローブの位置や姿勢の変化量が求められ、当該変化量をゼロにするように超音波プローブを動かすことができる。従って、このように超音波プローブが最適状態からずれた場合に、超音波プローブを被検者の皮膚上を段階的に動かしながら、その都度、最適状態か否かを判定する必要がなく、前記変化量に基づいて最適状態となるように超音波プローブを直接動かすことができ、超音波プローブの最適状態への迅速な復帰が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施形態に係る超音波診断システムの概略構成図。
【図2】記憶手段に記憶される記憶画像を概念的に示した説明図。
【図3】マッチング対象領域及び探索領域を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0017】
図1には、本実施形態に係る超音波診断システムの概略構成図が示されている。この図において、超音波診断システム10は、被検者の体内の超音波画像を取得可能な超音波診断装置11と、超音波診断装置11に隣接して設けられた超音波診断装置用ロボット12(以下、単に「ロボット12」と称する)とからなる。
【0018】
前記超音波診断装置11は、超音波パルスの送波及びエコーの受波を行う超音波プローブ14(探触子)と、超音波プローブ14からの信号により超音波画像を生成する超音波画像生成手段15とを含む公知の構成となっており、ここでは、詳細な説明を省略する。
【0019】
前記ロボット12は、超音波プローブ14を保持して動作させるプローブ動作手段としてのロボットアーム17と、超音波画像生成手段15で生成された超音波画像に基づき各種処理を行う処理装置18とを備えて構成されている。
【0020】
前記ロボットアーム17は、図示省略したモータを含む各種部材によって6自由度の動作が可能となっており、所定空間内で超音波プローブ14を自動的に移動させるように動作する一方で、操作者の手で超音波プローブ14を動かせるようにもなっている。なお、このロボットアーム17は、公知の機構により構成されており、本発明の本質部分ではないため、詳細な説明を省略する。
【0021】
前記処理装置18は、CPU等の演算処理装置及びメモリやハードディスク等の記憶装置等からなるコンピュータによって構成され、当該コンピュータを以下の各手段として機能させるためのプログラムがインストールされている。
【0022】
すなわち、前記処理装置18は、予め取得した複数の超音波画像を記憶する記憶手段20と、記憶手段20で記憶された超音波画像から、最適状態にある超音波プローブ14に対する位置及び姿勢の変化量を求めるプローブ状態変化量検出手段21と、プローブ状態変化量検出手段21で求めた変化量がゼロになるようにロボットアーム17の動作制御を行う動作制御手段22とを備えている。
【0023】
前記記憶手段20には、図2に概念的に示されるように、超音波診断に最適となる体内断層部分が映る超音波画像である目標画像T(同図中網掛表示)と、当該目標画像Tが得られる最適位置の周囲の位置の体内断層部分の超音波画像である対比用画像Cとが、以下に説明する事前操作によって予め記憶される。なお、以下において、適宜、記憶手段20に記憶される目標画像T及び対比用画像Cを「記憶画像20A」と総称する。
【0024】
前記目標画像Tは、操作者が超音波プローブ14を動かしながら、得られた超音波画像を目視することによって、超音波診断に最適となる位置を見つけ、スイッチ、マウス、キーボード等、図示しない操作手段を操作することで設定及び記憶される。なお、ロボット12によって超音波プローブ14を動かしながら、逐次得られた超音波画像を画像処理することによって、超音波診断に適正な超音波画像であるか否かを自動判定し、最適であると判定された超音波画像を目標画像Tとして記憶手段20に記憶してもよい。
【0025】
前記対比用画像Cは、次の手順によって記憶手段20に記憶される。すなわち、目標画像Tが設定された後、当該目標画像Tが得られる最適位置を中心とした一定範囲につき、ロボット12若しくは操作者の手により、超音波プローブ14でスキャンする。ここでは、超音波プローブ14が、目標画像Tが得られた際の最適姿勢と同一の姿勢のまま被検者の皮膚上を接触しながら、一定速度で直線移動される。この際、当該直線移動時の両端地点は、最適位置を中心として相互に等距離になるように設定される。そして、超音波プローブ14の接触によって得られた皮下の超音波画像が、一定時間毎に対比用画像Cとして記憶手段20に記憶される。つまり、対比用画像Cは、目標画像Tが得られる超音波プローブ14の最適位置を中心として、超音波プローブ14の一定の移動間隔毎に得られる超音波画像となる。なお、ここでの超音波プローブ14の移動距離となるスキャン幅は、ロボット10の動作に関する誤差や、超音波プローブ14を静止しておく際に想定される被検者の意図しない動きの幅等を考慮して予め定められる。また、対比用画像Cのフレーム間距離、すなわち、対比用画像Cを取得する際の超音波プローブ14の位置間隔は、画像解像度に応じて適宜決定される。更に、各対比用画像Cは、目標画像Tからの離間方向(正負)及び離間距離を対応させた上で、記憶手段20に記憶される。
【0026】
前記プローブ状態変化量検出手段21では、目標画像Tが得られる最適状態となっている超音波プローブ14の位置及び姿勢に対し、現在の超音波プローブ14の位置及び姿勢が、どの程度ずれているかを表す変化量が以下の手順で求められる。
【0027】
具体的には、先ず、現在の超音波プローブ14の位置及び姿勢により得られた超音波画像(以下、「現画像N」と称する。)が、超音波画像生成手段15から送られ、この現画像Nが、記憶手段20に記憶された各記憶画像20Aと対比される。
【0028】
この際、現画像Nにおいては、当該現画像N中の上下左右4箇所に、図3中実線枠で仮想的に表した所定範囲のマッチング対象領域Mが設定される。本実施形態においては、現画像が300×400ピクセルのところ、各マッチング対象領域Mが50×50ピクセルに設定されているが、マッチング対象領域Mの大きさは、特に限定されるものではない。なお、説明の便宜上、現画像N中で図3中上側のマッチング対象領域Mを第1の領域M1と称し、同下側のマッチング対象領域Mを第2の領域M2と称し、同左側のマッチング対象領域Mを第3の領域M3と称し、同右側のマッチング対象領域Mを第4の領域M4と称する。
【0029】
そして、現画像N中の各領域M1〜M4に存在する画像をテンプレートとして、記憶手段20に記憶された記憶画像20Aにそれぞれに対し、テンプレートマッチングが行われる。
【0030】
すなわち、先ず、現画像N中の各領域M1〜M4の位置に対応するように、記憶画像20A中の上下左右4箇所に、図3中点線枠で仮想的に表した所定範囲の探索領域Sが設定される。この探索領域Sは、マッチング対象領域Mよりもやや広範囲に設定され、特に限定されるものではないが、本実施形態では60×60ピクセルの範囲内に設定されている。なお、説明の便宜上、記憶画像20A中で図3中上側の探索領域Sを第1の領域S1と称し、同下側の探索領域Sを第2の領域S2と称し、同左側の探索領域Sを第3の領域S3と称し、同右側の探索領域Sを第4の領域S4と称する。
【0031】
次いで、現画像N中の第1の領域M1と、各記憶画像20A中にそれぞれ存在する第1の領域S1とが対比され、現画像N中の第1の領域M1と同一の画像情報を有する部分が第1の領域S1内に存在する記憶画像20A(以下、「第1のマッチング記憶画像」と称する。)が探索される。同様に、現画像N中の第2の領域M2と同一の画像情報を有する部分が第2の領域S2内に存在する記憶画像20A(以下、「第2のマッチング記憶画像」と称する。)が探索される。また、現画像N中の第3の領域M3と同一の画像情報を有する部分が第3の領域S3内に存在する記憶画像20A(以下、「第3のマッチング記憶画像」と称する。)が探索される。更に、現画像N中の第4の領域M4と同一の画像情報を有する部分が第4の領域S4内に存在する記憶画像20A(以下、「第4のマッチング記憶画像」と称する。)が探索される。つまり、前記最適状態に対して超音波プローブ14の位置及び姿勢が変化しなければ、第1〜第4のマッチング記憶画像は、全て目標画像Tとなる。一方、前記最適状態に対して超音波プローブ14の位置及び姿勢が変化すると、各マッチング記憶画像は、少なくとも一部が対比用画像Cになる。
【0032】
次に、前述のマッチング結果により、前記最適状態に対する超音波プローブ14の6軸の変化量が求められる。
【0033】
なお、ここでは、図2及び図3に示されるように、相互に直交する3本の座標軸のうち、超音波画像の画面を左右させる方向に延びる軸をx軸とし、同画面を上下させる方向に延びる軸をy軸とし、同画面を直交する方向に延びる軸をz軸とする。
【0034】
前記最適状態に対する超音波プローブ14のx軸回りの回転変化量ψxは、次式で求められる。

ψx=k1(Z−Z) (1)

ここで、k1は、予め設定された定数であり、Zは、前記第1のマッチング記憶画像に対応して記憶された当該マッチング記憶画像における目標画像Tからの離間距離(z軸方向の並進距離)であり、Zは、前記第2のマッチング記憶画像に対応して記憶された当該マッチング記憶画像における目標画像Tからの離間距離(z軸方向の並進距離)である。
【0035】
また、前記最適状態に対する超音波プローブ14のy軸回りの回転変化量ψyは、次式で求められる。

ψy=k2(Z−Z) (2)

ここで、k2は、予め設定された定数であり、Zは、前記第3のマッチング記憶画像に対応して記憶された当該マッチング記憶画像における目標画像Tからの離間距離(z軸方向の並進距離)であり、Zは、前記第4のマッチング記憶画像に対応して記憶された当該マッチング記憶画像における目標画像Tからの離間距離(z軸方向の並進距離)である。
【0036】
更に、前記最適状態に対する超音波プローブ14のx軸方向の並進変化量xは、次式で求められる。

x=(X+X)/2 (3)

ここで、Xは、現画像Nの第1の領域M1内における画像情報の目標画像Tに対するx軸方向の移動量(x軸方向の並進距離)であり、Xは、現画像Nの第2の領域M2内における画像情報の目標画像Tに対するx軸方向の移動量(x軸方向の並進距離)である。ここでは、テンプレートマッチングにより、現画像Nの第1及び第2の領域M1,M2それぞれの画像情報が、目標画像Tの第1及び第2の領域S1,S2内のどの部分に存在するか特定し、当該各画像情報について、目標画像Tに対するx軸方向の位置の差分をそれぞれ求め、それら各差分の平均がx軸回りの並進変化量xとなる。
【0037】
また、前記最適状態に対する超音波プローブ14のy軸方向の並進変化量yは、

y=Y (4)

となる。ここで、Yは、現画像Nの第2の領域M2内における画像情報の目標画像Tに対するy軸方向の移動量(y軸方向の並進距離)である。ここでは、テンプレートマッチングにより、現画像Nの第2の領域M2の画像情報が、目標画像Tの第2の領域S2内のどの部分に存在するか特定した後、当該画像情報について、目標画像Tに対するy軸方向の位置の差分を移動量Yとし、当該移動量Yがy軸回りの並進変化量yとなる。なお、ここでは、以下の理由により、皮膚に近い第1の領域M1は使用していない。すなわち、超音波プローブ14のy軸方向の上下運動は、皮下組織の圧縮によって生ずるが、超音波プローブ14から近い上側の第1の領域M1に相当する体内部分は、超音波プローブ14を皮膚に押し込んだときに移動、変形し易く、超音波プローブ14に対して移動しにくい。このため、第1の領域M1の画像情報は、超音波プローブ14が上下に動いても、超音波画像内であまり動かないため、下側の第2の領域M2のみを使用している。
【0038】
更に、前記最適状態に対する超音波プローブのz軸回りの回転変化量ψzは、次式で求められる。

ψz=k3(X−X) (5)

ここで、k3は、予め設定された定数であり、X、Xは、上式(3)で用いた第1及び第2の領域M1,M2のx軸方向の移動量である。
なお、上式(5)に代え、以下の式(6)を用いてz軸回りの回転変化量ψzを求めることもできる。

ψz=k4(Y−Y) (6)

ここで、k4は、予め設定された定数であり、Yは、現画像Nの第3の領域M3における画像情報の目標画像Tに対するy軸方向の移動量(y軸方向の並進距離)であり、Yは、現画像Nの第4の領域M4における画像情報の目標画像Tに対するy軸方向の移動量(y軸方向の並進距離)である。ここでは、テンプレートマッチングにより、現画像Nの第3及び第4の領域M3,M4のそれぞれの画像情報が、目標画像Tの第3及び第4の領域S3,S4内のどの部分に存在するか特定し、当該各画像部分について、目標画像Tに対するy軸方向の位置の差分をそれぞれ求め、当該各差分の差に定数k4を乗じることで、z軸回りの回転変化量ψzが求められる。
【0039】
また、前記最適状態に対する超音波プローブのz軸方向の並進変化量zは、

z=Z (7)

となる。ここで、Zは、上式(1)で用いた第1の領域M1のz軸方向の移動量である。なお、ここでは、前記第1〜第4の領域M1〜M4のうち、回転の影響を最も受け難い超音波プローブ14から一番近い第1の領域M1のみを使用している。
【0040】
以上の各式により、超音波プローブ14の並進運動による前記最適状態からの位置の変化量である並進変化量x,y,zと、超音波プローブ14の回転運動による前記最適状態からの姿勢の変化量である回転変化量ψx,ψy,ψzとが6軸の変化量として求められる。
【0041】
前記動作制御手段22では、プローブ状態変化量検出手段21で求めた6軸の変化量がゼロになるように、フィードバック制御によりロボットアーム17を動作させるようになっている。
【0042】
従って、このような実施形態によれば、超音波プローブ14を被検者の皮膚に接触したまま、一定時間に亘って超音波プローブ14の静止状態を維持しながら所定の計測や診断を行う場合に、その途中で被検者が動いてしまい、超音波プローブ14の位置及び姿勢が最適状態からずれて目標画像Tが得られなくなっても、ロボット12を使って超音波プローブ14をダイレクトに最適状態に復帰させることができる。
【0043】
なお、前記実施形態では、直交3軸における全ての位置及び姿勢についての前記変化量を求めているが、本発明はこれに限らず、超音波プローブ14と被検者との相対移動範囲が所定の方向に限定されている等の場合には、前述した各式を選択的に用い、最適状態に対する超音波プローブ14の位置、姿勢の変化量を限定した方向のみで求めるようにしてもよい。
【0044】
また、超音波画像内の所定部分がその面内で動く変化(in−plane)をもたらす超音波プローブ14の状態変化による変化量は、x軸及びy軸方向の並進変化量x,yとz軸回りの回転変化量ψzになる。一方、超音波画像内の所定部分がその面から飛び出す方向に動く変化(out−of−plane)をもたらす超音波プローブ14の状態変化による変化量は、x軸及びy軸方向の回転変化量ψx,ψyとz軸回りの並進変化量zになる。従って、in−planeをもたらす前記変化量と、out−of−planeをもたらす前記変化量との何れか一方のみを求め、これらの変化の何れか一方に特化したロボット12の制御も可能である。
【0045】
更に、本実施形態では、マッチング対象領域M及び探索領域Sを各画像N,20Aの上下左右4箇所としたが、本発明はこれに限らず、マッチング対象領域M及び探索領域Sの数を更に増減してもよい。
【0046】
また、前記プローブ状態変化量検出手段21は、ロボット12に適用しなくてもよく、超音波プローブ14をロボット12に保持させずに、前記変化量を図示しないモニタや音声で操作者に知らせるようにしてもよい。
【0047】
更に、前記記憶手段20と前記プローブ状態変化量検出手段21は、ロボット12の処理装置18内に設けたが、超音波診断装置11内に設けてもよいし、超音波診断装置11やロボット12とは別の装置として設けることもできる。
【0048】
その他、本発明における装置各部の構成は図示構成例に限定されるものではなく、実質的に同様の作用を奏する限りにおいて、種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0049】
10 超音波診断システム
11 超音波診断装置
12 超音波診断装置用ロボット
14 超音波プローブ
15 超音波画像生成手段
17 ロボットアーム(プローブ動作手段)
20 記憶手段
20A 記憶画像
21 プローブ状態変化量検出手段
22 動作制御手段
C 対比用画像
N 現画像
T 目標画像

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波パルスの送波及びエコーの受波を行う超音波プローブと、当該超音波プローブからの信号により超音波画像を生成する超音波画像生成手段と、前記超音波プローブを動作させるプローブ動作手段と、所定範囲内で予め前記超音波プローブを移動させた際に、当該移動中の各位置での超音波画像を記憶画像として記憶する記憶手段と、現在得られている超音波画像である現画像と前記各記憶画像との対比により、目標の超音波画像となる目標画像が得られる前記超音波プローブの最適位置及び最適姿勢に対する変化量を求めるプローブ状態変化量検出手段と、当該プローブ状態変化量検出手段で求めた前記変化量がゼロになるように前記プローブ動作手段の動作制御を行う動作制御手段とを備えたことを特徴とする超音波診断システム。
【請求項2】
前記記憶手段には、前記記憶画像として、前記最適位置を挟む所定範囲内で前記超音波プローブを前記最適姿勢と同一姿勢で直線移動させた際に、一定の移動間隔毎に得られた複数の前記超音波画像である対比用画像と、前記目標画像とが前記超音波プローブの位置に対応して記憶され、
前記プローブ状態変化量検出手段では、前記現画像内の所定部分に一致する部分を有する前記記憶画像が得られる前記超音波プローブの位置と、前記目標画像が得られる前記超音波プローブの位置との離間距離に基づいて前記変化量を求めることを特徴とする請求項1記載の超音波診断システム。
【請求項3】
前記プローブ状態変化量検出手段では、前記超音波画像の上下左右の4箇所の領域について、現画像を前記記憶画像と対比し、各領域それぞれについて前記離間距離を求めた上で、相互に直交する3本の座標軸のうちで前記超音波画像の画面を左右させる方向に延びるx軸回りの回転における前記変化量と、前記画面を上下させる方向に延びるy軸回りの回転における前記変化量と、前記画面を直交する方向に延びるz軸方向の並進における前記変化量とを求めることを特徴とする請求項2記載の超音波診断システム。
【請求項4】
前記プローブ状態変化量検出手段では、前記x軸方向及びy軸方向の並進における前記変化量と、前記z軸方向の回転における前記変化量とを求めることを特徴とする請求項2又は3記載の超音波診断システム。
【請求項5】
超音波診断装置の超音波プローブを保持して所定の空間内を動作させる超音波診断装置用ロボットにおいて、
前記超音波プローブを動作させるプローブ動作手段と、所定範囲内で予め前記超音波プローブを移動させた際に、当該移動中の各位置での超音波画像を記憶画像として記憶する記憶手段と、現在得られている超音波画像と前記各記憶画像との対比により、目標の超音波画像が得られる前記超音波プローブの最適位置及び最適姿勢に対する変化量を求めるプローブ状態変化量検出手段と、当該プローブ状態変化量検出手段で求めた前記変化量がゼロになるように前記プローブ動作手段の動作制御を行う動作制御手段とを備えたことを特徴とする超音波診断装置用ロボット。
【請求項6】
所定の空間内で超音波診断装置の超音波プローブを移動させる超音波診断装置用ロボットの動作に関する処理を行うコンピュータを機能させるためのプログラムにおいて、
所定範囲内で予め前記超音波プローブを移動させた際に、当該移動中の各位置での超音波画像を記憶画像として記憶する記憶手段と、現在得られている超音波画像と前記各記憶画像との対比により、目標の超音波画像が得られる前記超音波プローブの最適位置及び最適姿勢に対する変化量を求めるプローブ状態変化量検出手段として前記コンピュータを機能させることを特徴とするプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−55346(P2012−55346A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−198404(P2010−198404)
【出願日】平成22年9月4日(2010.9.4)
【出願人】(899000068)学校法人早稲田大学 (602)
【出願人】(390029791)日立アロカメディカル株式会社 (899)
【Fターム(参考)】