説明

超音波診断装置、および超音波診断方法

【課題】個体差に依らず、より正確且つ精緻な被観察部位の形状情報を取得する。
【解決手段】超音波診断装置2の検査部10は、ピンレリーフ15、ピンレリーフ駆動機構16、超音波トランスデューサ17、および超音波トランスデューサ駆動機構18を備える。ピンレリーフ15は、被検体の被観察部位に対面し、進退可能なピン19を複数マトリクス状に配列してなる。ピンレリーフ駆動機構16は、ピンレリーフ15を被観察部位に対して垂直方向に移動させ、被観察部位にピンレリーフ15を押し当てて被観察部位の形状をピンレリーフ15に型取らせる。超音波トランスデューサ駆動機構18は、ピンレリーフ15により取得された被観察部位の形状情報に基づいて、被観察部位に超音波が垂直且つ等距離で当たるよう、超音波トランスデューサ17を被観察部位に対して水平および垂直方向に移動させ、且つ各方位に首ふりさせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検体の被観察部位の形状情報を取得して、これに応じた超音波走査を行う超音波診断装置、および超音波診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、被検体の被観察部位、例えば乳房を超音波検査して乳がん検診に資する超音波診断装置が提案されている。この種の超音波診断装置では、高画質な超音波画像を取得するため、曲面形状を有する乳房に対して超音波が常に垂直且つ等距離で当たるよう、様々な工夫がなされている。
【0003】
特許文献1、2には、乳房と超音波プローブ、または超音波トランスデューサの間に温水等を介在させ、乳房に対して超音波プローブ、または超音波トランスデューサを機械的に走査する水浸法を用いた超音波診断装置が開示されている。
【0004】
特許文献1では、超音波プローブを乳房に対して上下移動、回転させ、さらに乳房の頂点から裾野方向に超音波プローブをシフト、また体表に平行な方向を軸にして超音波プローブをチルトさせている。特許文献2では、乳房の形状情報を得るため、乳房を超音波走査によりプレスキャンしている。そして、プレスキャン結果に基づいて、乳房に対して超音波が垂直且つ等距離で当たるよう、超音波トランスデューサを昇降、移動、または回動させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−090074号公報
【特許文献2】特開2007−301070号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
こうした超音波診断装置では、乳房の形状情報が正確でないと、それを元にした超音波走査にも誤差が生じ、結果的に高画質な超音波画像を取得することができなくなる。このため、より正確且つ精緻な乳房の形状情報を把握することが重要である。また、乳房の形状にはおわん型、釣り鐘型、下垂型等の種類(個人差)があるので、種類に依らない乳房の形状情報の把握も重要である。さらに、乳がんのスクリーニングには、乳房そのものだけでなく、その周囲の腋窩部位や鎖骨下も含む領域まで走査することが望ましいが、特許文献1、2ではこれらの点について考慮していない。
【0007】
被検体の形状情報を取得する方法として、特開平11−192215号公報には、クッション体に針を多数刺しておき、被検者がクッション体に横たわることで支持体の下に押し下げられた針の変位から、クッション体の沈み込み変位を測定することが開示されている。しかしながら、こうした方法ではクッション体から被検者が離れた場合は沈み込み変位は元に戻ってしまい、正確な被検者の形状を維持することはできない。
【0008】
本発明は、上記背景を鑑みてなされたものであり、その目的は、個体差に依らず、より正確且つ精緻な被観察部位の形状情報を取得することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の超音波診断装置は、被検体の被観察部位に対面し、進退可能な接触部材を複数並べてなる型取り部材と、前記型取り部材を被観察部位に対して垂直方向に移動させ、被観察部位に前記型取り部材を押し当てて被観察部位の形状を前記型取り部材に型取らせる型取り部材駆動機構と、被観察部位に超音波を送信するとともに被観察部位からの反射波を受信し、反射波に応じた検出信号を出力する超音波トランスデューサと、前記型取り部材により取得された被観察部位の形状情報に基づいて、被観察部位に超音波が垂直且つ等距離で当たるよう、前記超音波トランスデューサを被観察部位に対して水平および垂直方向に移動させ、且つ各方位に首ふりさせる超音波トランスデューサ駆動機構と、を備えることを特徴とする。
【0010】
被観察部位に前記型取り部材を押し当てたときの各接触部材の移動量を検出する検出手段を備えることが好ましい。この場合、前記超音波トランスデューサ駆動機構は、前記検出手段の検出結果に基づいて駆動する。前記検出手段の検出結果を被検体毎に記憶する記憶手段を備えてもよい。
【0011】
前記型取り部材駆動機構は、被観察部位に押し当てられて引っ込んだ状態で接触部材の進退を規制する規制手段を有していてもよい。この場合、前記超音波トランスデューサ駆動機構は、前記規制手段で接触部材の進退が規制され、引っ込んだ状態の各接触部材上を滑らせるように前記超音波トランスデューサを移動させる。また、前記検出手段の検出結果から隣り合う各接触部材の段差を求め、求めた段差が閾値以上であった場合、該当する接触部材の移動量、または前記超音波トランスデューサ駆動機構による前記超音波トランスデューサの垂直方向の移動量を調節し、各接触部材上を滑らせたときに前記超音波トランスデューサが円滑に走査されるようにしてもよい。
【0012】
全接触部材が被観察部位と接触して引っ込んだか否かを判断する判断手段を備えることが好ましい。前記判断手段は、前記検出手段の出力を監視し、全ての前記検出手段から出力があったときに、全接触部材が引っ込んだと判断する。あるいは、前記判断手段は、被観察部位に最後に接触すると推測される箇所の接触部材に設けられた接触センサの出力に応じて、全接触部材が引っ込んだと判断する。前記接触センサに前記超音波トランスデューサを用いてもよい。
【0013】
被観察部位と前記型取り部材および前記超音波トランスデューサの間に超音波伝達媒体のカバーを介在させることが好ましい。また、被観察部位は、例えば乳房、腹部、甲状腺、頸動脈、関節(肘、膝等)といった軟部組織を含むことが好ましい。
【0014】
本発明の超音波診断方法は、被検体の被観察部位に対面し、進退可能な接触部材を複数並べてなる型取り部材を被観察部位に対して垂直方向に移動させ、被観察部位に前記型取り部材を押し当てて被観察部位の形状を前記型取り部材に型取らせる工程と、前記型取り部材により取得された被観察部位の形状情報に基づいて、被観察部位に超音波が垂直且つ等距離で当たるよう、超音波トランスデューサを被観察部位に対して水平および垂直方向に移動させ、且つ各方位に首ふりさせながら、超音波トランスデューサに超音波および反射波の送受信を行わせる工程と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、型取り部材を用いて被観察部位の形状を型取るので、個体差に依らず、より正確且つ精緻な被観察部位の形状情報を取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】超音波診断装置の概略を示す構成図である。
【図2】検査部の外観斜視図である。
【図3】保持プレート内の構造を示す平面図である。
【図4】アクチュエータでピンの進退を規制した状態を示す平面図である。
【図5】超音波トランスデューサ駆動機構を示す平面図である。
【図6】超音波診断装置の電気的構成を示すブロック図である。
【図7】超音波診断の手順を示す説明図である。
【図8】超音波診断の手順を示す説明図である。
【図9】超音波トランスデューサを案内溝に導入する際の動作を示す説明図である。
【図10】超音波診断の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1において、超音波診断装置2は、被検体Hの乳房C1およびその周囲の腋窩部位C2、鎖骨下C3(以下、まとめて被観察部位Cという)といった乳がんの発生箇所の超音波画像を取得するものであり、検査部10とプロセッサ部11とからなる。被検体Hはベッド(図示せず)にうつ伏せに寝かされ、ベッド内部に配置された検査部10に片方の乳房C1を対面させて安静な状態を保っている。以下の説明では、ベッドの長手方向をX方向、これに直交する方向をY方向(ともに水平方向に相当)、鉛直方向をZ方向(垂直方向に相当)とする。
【0018】
検査部10は、超音波伝達媒体、例えば温水12が満たされた水槽13と、水槽13の上面開口全体を覆う弾性シート14とを有する。水槽13は、被観察部位Cをカバーするに十分なサイズをもつ。弾性シート14は超音波伝達可能な材料からなり、被観察部位Cが載せられるとその重みにより被観察部位Cの形状に倣うように変形する。
【0019】
図2にも示すように、水槽13内には、ピンレリーフ(型取り部材)15、ピンレリーフ駆動機構16、超音波トランスデューサ17、および超音波トランスデューサ駆動機構18等が設けられている。これら各部材の電気系統は、温水12が入り込んで故障しないよう、水密性が確保された空間に配置されており、水槽13に穿たれたシール孔を通した配線ケーブル(ともに図示せず)により、外部のプロセッサ部11と電気的に接続されている。
【0020】
ピンレリーフ15は、被観察部位Cの形状を正確且つ精緻に型取るためのもので、複数の円柱状のピン(接触部材)19を矩形板状の保持プレート20のXY方向に同ピッチでマトリクス状に配列してなる(図2では1行1列のみ図示)。保持プレート20は、被観察部位Cよりも若干大きいサイズを有し、ピン19は被観察部位Cと略同等のサイズの領域に配されている。
【0021】
ピン19の先端部21は、弾性シート14を介して被観察部位Cに当接したときの接触性を高めるとともに、超音波トランスデューサ17を走査したときに超音波トランスデューサ17が円滑に移動可能とするために丸まっている。ピン19は、保持プレート20の上面22に穿たれた穴23に貫通した状態で保持プレート20に保持され、保持プレート20に対してZ方向に進退可能である。
【0022】
図3において、保持プレート20に形成されている穴23は、ピン19と略同径の小径部40と、小径部40よりも若干径が大きい大径部41とに分れる。小径部40の上端(保持プレート20の上面22直下)には、ピン19の進退を制御するためのアクチュエータ42が取り付けられている。アクチュエータ42は円環袋状であり、弾性体、例えばゴムからなる。X方向の各アクチュエータ42は連通路43で互いに繋がっており(図2も参照)、空気や水等の流体の出入りに応じて、同時に膨張・収縮する。アクチュエータ42の収縮時は、ピン19はZ方向に進退可能である。アクチュエータ42が膨張すると、ピン19の外周面がアクチュエータ42によって締め付けられ、ピン19の進退が規制される。
【0023】
小径部40の中程には、ピン19の移動量を検出するセンサ44が設けられている。センサ44は、ローラ45とロータリーエンコーダ46とからなる。ローラ45は、ピン19の外周面に当接し、ピン19のZ方向の進退に応じて連れ回る。ロータリーエンコーダ46は、ローラ45の回転量に対応したパルスを出力する。
【0024】
大径部41には、バネ47が収容されている。バネ47の一端はピン19の下端部48に、他端は保持プレート20の下面24の裏側にそれぞれ係合されている。ピン19は、バネ47によってZ方向上側に付勢されている。ピン19の下端部48には、バネ47の付勢によりピン19が穴23から抜けることを防止する鍔状のストッパ49が形成されている。
【0025】
アクチュエータ42が収縮していて、ピン19にZ方向下側の押圧力が掛かっていない場合、ピン19は、ストッパ49が小径部40と大径部41の段差に突き当たるまで、バネ47の付勢力によってZ方向上側に突出する(図3参照)。以下、この状態を初期状態と呼ぶ。
【0026】
一方、図4に示すように、アクチュエータ42が収縮していて、ピン19にZ方向下側の押圧力が掛かった場合、ピン19はバネ47の付勢に抗してZ方向下側に引っ込む。このとき、アクチュエータ42を膨張させてピン19の進退を規制すれば、ピン19が引っ込んだ状態が維持される。従って、初期状態のピンレリーフ15に被観察部位Cを押し当てて、押し当てた状態でアクチュエータ42を作動させれば、被観察部位Cの正確且つ精緻な形状をピンレリーフ15に型取ることができる。
【0027】
なお、バネ47の付勢力は、被観察部位Cが押し当てられたときのピン19の被観察部位Cへの接触圧を考慮して、ピン19が容易に引っ込むことができる程度の弱い力に設定されている。また、アクチュエータ42によるピン19の外周面への締め付け力は、バネ47の付勢によりピン19が初期状態に戻ってしまうことがないよう、バネ47の付勢力よりも高く設定されている。さらに、バネ47は、ピン19の先端部21が穴23に没入しない長さに設定されている。
【0028】
図2に戻って、保持プレート20は、その下面24の四隅に取り付けられたZ方向に平行な支柱25によって、水槽13に固定された下側の固定プレート26と連結されている。支柱25は、固定プレート26側の固定筒27と、保持プレート20側の可動筒28とからなる。可動筒28は固定筒27の内筒であり、モータ29によりZ方向に上下動する。つまり、ピンレリーフ15および保持プレート20が固定プレート26に対してZ方向に上下動する。なお、上述の保持プレート20、支柱25、固定プレート26、モータ29、アクチュエータ42、バネ47等でピンレリーフ駆動機構16が構成されている。
【0029】
固定プレート26の下側の水槽13の下面両端には、X方向に平行な2本の第一レール30aが敷設されている。第一レール30aには、Y方向に平行な第二レール30bが取り付けられている。第二レール30bには、支柱25と同じく固定筒31と可動筒32とからなる支柱33が取り付けられ、さらに支柱33の先端に超音波トランスデューサ17が取り付けられている。
【0030】
図5において、第一、第二レール30a、30bは、長手方向に溝55a、55bが形成された断面略コの字の形状を有する。第一レール30aの溝55aには第二レール30bの下面に設けられた車輪56aが、第二レール30bの溝55bには支柱33の下端に設けられた車輪56bがそれぞれ嵌められている。各車輪56a、56bは、モータ57a、57bによって正逆回転駆動される。従って、第二レール30bは第一レール30aに沿ってX方向に、支柱33は第二レール30bに沿ってY方向にそれぞれ移動可能であり、ひいては支柱33上の超音波トランスデューサ17がXY両方向に移動可能である。また、支柱33の可動筒32、つまり超音波トランスデューサ17は、モータ58によりZ方向に上下動する。
【0031】
支柱33の可動筒32は、その先端に球状突起59が形成されている。球状突起59は、超音波トランスデューサ17の下面中心に形成された球状穴60に嵌め込まれる。球状穴60は、球状突起59が抜けないよう、球状突起59の1/2以上が嵌め込まれるサイズをもつ。また、球状穴60は、2点鎖線で囲って示すように、超音波トランスデューサ17が全方位で自由に角度を変えられるよう、球状突起59よりも若干径が大きくなっている。
【0032】
再び図2に戻って、保持プレート20と固定プレート26には、超音波トランスデューサ17の走査用のスリット状の案内溝34が形成されている。案内溝34は各プレート20、26のXY平面の同じ位置に設けられている。案内溝34は、支柱33の出入口35、X方向溝部36、およびY方向溝部37からなる。X方向溝部36は、Y方向に隣り合うピン19の列間を縫うようにX方向に沿って設けられている。X方向溝部36の端は、ピン19の列の端よりもX方向に短く延設されている。Y方向溝部37は、Y方向に沿って設けられ、Y方向に隣り合うX方向溝部36の端同士を繋いでいる。X方向溝部36は、Y方向溝部37により、X方向のピン19の列の端とその一つ内側の間で折り返している。
【0033】
超音波トランスデューサ17で被観察部位Cを超音波走査する際には、出入口35から支柱33を導入し、案内溝34に沿って超音波トランスデューサ17をピン19の先端部21に接触させながら移動させる。超音波トランスデューサ17は、例えば、隣り合う4本のピン19が内接するXY平面の正方領域Dと同じサイズを有している。このため、超音波走査の際、超音波トランスデューサ17は、常にY方向に隣り合う2本のピン19に接触しており、X方向に隣り合う2本のピン19間を滑りながらX方向に移動する。超音波トランスデューサ17は、球状突起59と球状穴60の作用により、接触するピン19の段差に応じてその角度が変わる。なお、上述の第一、第二レール30a、30b、支柱33、案内溝34、モータ57a、57b、モータ58等で超音波トランスデューサ駆動機構18が構成されている。
【0034】
図6において、主制御部70は、プロセッサ部11全体の動作を統括的に制御する。主制御部70は、図示しないデータバスやアドレスバス、制御線を介して各部と接続している。ROM71には、プロセッサ部11の動作を制御するための各種プログラム(OS、アプリケーションプログラム等)やデータ(グラフィックデータ等)が記憶されている。主制御部70は、ROM71から必要なプログラムやデータを読み出して、作業用メモリであるRAM72に展開し、読み出したプログラムを逐次処理する。また、主制御部70は、操作部73から操作入力信号を受け、これに応じた動作を各部に実行させる。
【0035】
主制御部70には、センサ44が接続されている。主制御部70は、センサ44のロータリーエンコーダ46から出力されるパルスの数を元にローラ45の回転量を算出し、これをピン19の移動量に換算する。主制御部70は、各ピン19の移動量をRAM72に記憶させる。
【0036】
送受信部74はパルサおよびレシーバからなり、主制御部70の制御の下、超音波トランスデューサ駆動機構18による超音波トランスデューサ17の移動と同期した所定のタイミングで、超音波トランスデューサ17に超音波および反射波の送受信を複数回繰り返し行わせる。送受信部74は、主制御部70から送信される駆動信号に基づいて、超音波トランスデューサ17に超音波を発生させるための励振パルスを送信する。また、送受信部74は、被観察部位Cからの反射波を受信して超音波トランスデューサ17から出力された検出信号を増幅してA/D変換し、A/D変換でデジタル化した検出信号を画像処理部75に出力する。
【0037】
画像処理部75は、送受信部74からの検出信号に対して直交検波処理を施し、検出信号を複素ベースバンド化する。そして、複数回の超音波および反射波の送受信で得られた検出信号に対して、整相加算により受信フォーカス処理を施す。表示制御部76は、画像処理部75で各種処理が施された検出信号を元に、被観察部位Cの超音波断層画像を生成し、これをモニタ77に表示させる。
【0038】
ピンレリーフ駆動機構制御部78、超音波トランスデューサ駆動機構制御部79は、主制御部70の制御の下、各駆動機構78、79の駆動源であるモータ29、57a、57b、58、およびアクチュエータ42に流体を供給およびアクチュエータ42から流体を排出するポンプ80の駆動制御を行う。
【0039】
次に、図7〜図10を参照して、上記構成の超音波診断装置2で被観察部位Cの超音波診断を行う手順を説明する。まず、被検体Hをベッドにうつ伏せに寝かせ、被観察部位Cを検査部10の弾性シート14に押し当てた状態で安静にさせる(図10のS10)。そして、操作部73を操作して、被検体Hの情報や検査日の日付等を入力した後、検査開始を指示する操作入力信号を入力する。このときアクチュエータ42は収縮しており、従ってピン19は初期状態にある。また、超音波トランスデューサ17は案内溝34の出入口35の手前に退避している。なお、図7、図8では便宜上、X方向の1列のピン19のみ図示している。
【0040】
操作部73からの操作入力信号を受けると、主制御部70は、ピンレリーフ駆動機構制御部78を介してモータ29を駆動させる。これにより支柱25の可動筒28がZ方向上側に移動し、保持プレート20、ピンレリーフ15が被観察部位Cに向けて上昇する(図7(A)および図10のS11)。
【0041】
ピン19が弾性シート14を介して被観察部位Cに接触すると、ピン19がバネ47の付勢に抗してZ方向下側に引っ込む。このときの各ピン19の移動量は、センサ44で出力されたパルスを元に主制御部70で求められ、RAM72に記憶される。
【0042】
主制御部70は、全ピン19が被観察部位Cと接触して引っ込むまで、ピンレリーフ駆動機構制御部78を介してモータ29の駆動を続ける(図10のS12でNO)。主制御部70は、全センサ44からのパルス出力の有無を監視して、全センサ44からパルスが出力されたときに、全ピン19が被観察部位Cと接触して引っ込んだと判断する(図10のS12でYES)。
【0043】
全ピン19が引っ込んだと判断すると、主制御部70は、ブザーや警告灯で術者にその旨を報せ、モータ29の駆動を停止させてピンレリーフ15の上昇を止めさせる(図10のS13)。そして、ピンレリーフ15を被観察部位Cに押し当てた状態でピンレリーフ駆動機構制御部78を介してポンプ80を作動させ、アクチュエータ42に流体を供給させる。これによりアクチュエータ42が膨張してピン19の外周面を締め付け、ピン19の進退を規制する(図7(B)および図10のS14)。ピンレリーフ15に被観察部位Cの形状が正確に型取られて、且つその状態が維持される。
【0044】
次いで、超音波トランスデューサ17を走査する余地を確保するため、主制御部70は、再びピンレリーフ駆動機構制御部78を介してモータ29を駆動させて、今度は保持プレート20、ピンレリーフ15を下降させ、ピンレリーフ15と被観察部位Cの間に超音波トランスデューサ17が入り込む程度の間隔を空ける(図8(A)および図10のS15)。その後、主制御部70は、モータ57aを駆動させて第二レール30bを第一レール30aに沿ってX方向に移動させて、案内溝34の出入口35に支柱33(超音波トランスデューサ17)を導入する。
【0045】
超音波トランスデューサ17は、図5の2点鎖線で示すように、球状突起59および球状穴60の作用によりいずれかの方向に傾いて静止している。このため、図9(A)に示すように、超音波トランスデューサ17を出入口35に導入したときに、超音波トランスデューサ17の縁が出入口35付近のピン19に引っ掛かるおそれがある。このため、主制御部70は、図9(B)の矢印左側に示すように、超音波トランスデューサ17の導入に際して、RAM72に記憶されたピン19の移動量を参照し、出入口35付近のピン19の高さよりも超音波トランスデューサ17の高さが高く、且つ被観察部位Cに接触しない高さとなるよう、モータ58を駆動させて支柱33の可動筒32をZ方向上側に移動させる。そして、超音波トランスデューサ17の導入後、主制御部70は、モータ58を逆転駆動させて可動筒32を今度はZ方向下側に移動させる。こうすることで、(B)の矢印右側に示すように、超音波トランスデューサ17の裏面が出入口35付近のピン19の先端部21で押されて超音波トランスデューサ17の傾きが解消され、超音波トランスデューサ17が出入口35付近のピン19上に着座する。
【0046】
超音波トランスデューサ17の導入後、主制御部70は、RAM72に記憶されたピン19の移動量に基づいて、モータ58により超音波トランスデューサ17の高さを調節しつつ、モータ57a、57bを駆動させて超音波トランスデューサ17を案内溝34に沿って移動させる。より詳しくは、超音波トランスデューサ17が載るY方向に隣り合う2本のピン19のうち、高いほうのピン19に合わせて超音波トランスデューサ17の高さを調節する。また、この超音波トランスデューサ17の移動と同期して、主制御部70は、送受信部74を駆動制御して超音波トランスデューサ17に超音波および反射波の送受信を行わせる(図8の(B)および図10のS16)。これによりピン19の高さに倣って超音波トランスデューサ17の角度が変えられながら被観察部位Cに超音波走査が行われる。ピンレリーフ15によって型取られた形状は、すなわち被観察部位Cの形状であるため、常に被観察部位Cに対して等距離且つ垂直に超音波および反射波の送受信を行うことができる。
【0047】
超音波走査により超音波トランスデューサ17から出力される検出信号は、送受信部74で増幅、A/D変換された後、画像処理部75で直交検波、受信フォーカス処理等が施される。そして、表示制御部76により超音波断層画像としてモニタ77に表示される(図10のS17)。
【0048】
術者は、モニタ77の超音波断層画像を観察したり、超音波断層画像をプリントアウト、またはリムーバブルメディアに記憶させたりして、被観察部位Cの超音波診断を行う。超音波診断終了後、操作部73を操作して検査終了を指示する操作入力信号を入力する。
【0049】
操作部73からの操作入力信号を受けると、主制御部70は、モータ29を駆動させてピンレリーフ15を下降させてピンレリーフ15と被観察部位Cを所定間隔離した後、ポンプ80を作動させてアクチュエータ42から流体を排出し、アクチュエータ42によるピン19の進退規制を解いてピン19を初期状態に戻す。また、主制御部70は、モータ57a、57bを駆動させて、超音波走査時とは逆の経路を辿らせて超音波トランスデューサ17を案内溝34から出し、検査前の位置に退避させる。
【0050】
以上説明したように、ピンレリーフ15で被観察部位Cの形状を型取り、ピン19の移動量に基づいて超音波トランスデューサ17の高さを調節しながら超音波走査をするので、正確且つ精緻な被観察部位Cの形状情報を得ることができ、より高画質な超音波画像を取得することができる。
【0051】
乳房の形状は比較的滑らかで凹凸が少ないが、乳頭やアンダーバスト、乳房と腋窩部位、鎖骨下の境界部分は他の部分との凹凸差があるので、隣接するピン19間の段差が他の部分よりも大きくなる。このため、図9(A)で例示したように、超音波トランスデューサ17の縁が段差のあるピン19によって円滑な走査を妨げられるおそれがある。
【0052】
隣接するピン19間の段差が大きい場合も超音波トランスデューサ17を円滑に走査するため、センサ44の出力から得られた各ピン19の移動量から隣り合う各ピン19の段差を求め、求めた段差が閾値以上であった場合、超音波トランスデューサ17のZ方向の移動量を調節してもよい。例えば、移動量が大きい(より引っ込んでいる)ピン19から移動量が小さいピン19に移動するとき、超音波トランスデューサ17のZ方向の上昇量を大きくする。
【0053】
あるいは、アクチュエータ42をピン19毎に設け、移動量が大きいピン19のアクチュエータ42による進退規制を一時的に解除して、該ピン19の高さを周囲と同じに均してもよい。さらには、上記実施形態の超音波トランスデューサ17と同様に、ピン19をZ方向に上下動させる駆動源(モータ等)を設け、段差があるピン19の駆動源を駆動させて段差を解消してもよい。
【0054】
万が一超音波トランスデューサ17がピン19に引っ掛かった場合は、これをY方向レール30bの移動状況等から検出して、ブザーや警告灯で術者に報せてもよい。そのうえで、図9(B)で説明したように、超音波トランスデューサ17を一旦Z方向に上昇させた後下降させて、ピン19上に超音波トランスデューサ17を再度着座させ、超音波トランスデューサ17とピン19の引っ掛かりを解消してもよい。
【0055】
ピン19を例えば電動でZ方向に上下動させる場合、上記実施形態のアクチュエータ42は必要ない。また、この場合、ピン19の移動量を被検体H毎にROM71に記憶させておけば、次回の超音波検査のときに該当する被検体Hの移動量をROM71から読み出して用いることができ、ピンレリーフ15で被観察部位Cの形状を型取る手間を省くことができる。型取りした情報を保存しておけば、過去の型取りの情報と比較することもできる。
【0056】
上記実施形態では、球状突起59と球状穴60の作用により、超音波トランスデューサ17を各方位に首ふり可能としているが、モータ等の駆動源を用いて、超音波トランスデューサ17の首ふりを電動制御してもよい。この場合はピン19上を滑らせるように超音波トランスデューサ17を走査する必要はなく、ピンレリーフ15で被観察部位Cの形状情報(ピン19の移動量)を取得した後、ピンレリーフ15を十分離れた位置に退避させ、ピン19の移動量に応じて超音波トランスデューサ17の上下動および首ふりを電動制御すればよい。隣接するピン19間の段差の大きさを気にしなくて済む。
【0057】
上記実施形態では、センサ44の出力に基づいてピン19の移動量を算出し、さらに移動量を参照してモータ58を駆動し、超音波トランスデューサ17の高さを調節しているが、本発明はこれに限定されない。モータ58で超音波トランスデューサ17を上下動させるのをやめて、超音波トランスデューサ17の上下動をフリーにし、ピン19の段差に合わせて自然に超音波トランスデューサ17を上下動させてもよい。
【0058】
上記実施形態では、全センサ44からのパルス出力の有無を監視することで、全ピン19が被観察部位Cと接触して引っ込んだか否かの判断を行っているが、他の方法を用いてもよい。例えば超音波トランスデューサ17からの検出信号を元に上記判断を行ってもよい。この場合、被観察部位Cの形状を型取る前のピン19が初期状態のときに、超音波トランスデューサ17を案内溝34の出入口35付近のピン19に着座させておく。そして、ピンレリーフ15とともに超音波トランスデューサ17を被観察部位Cに向けて上昇させながら、超音波トランスデューサ17で超音波を空打ちする。
【0059】
超音波トランスデューサ17が被観察部位Cに接触していないときと接触したときでは、空打ちによる検出信号が異なるので、この検出信号の違いを主制御部70で監視する。出入口35付近のピン19は、丁度乳房C1の隆起領域より外側に当たるため(図1等参照)、被観察部位Cと接触するタイミングが最後のほうになる。従って、出入口35付近のピン19に着座させた超音波トランスデューサ17の検出信号を監視すれば、上記実施形態と同様に全ピン19が被観察部位Cと接触して引っ込んだか否かを判断することが可能である。
【0060】
もしくは、被観察部位Cと接触するタイミングが最後のほうになるピン19、例えばピンレリーフ15の四隅のピン19の先端部21に超音波走査用とは別の超音波トランスデューサを取り付けてもよいし、超音波トランスデューサの代わりに接触センサを取り付け、この接触センサの出力に基づいて判断してもよい。
【0061】
被検体Hの姿勢は特に限定されない。被検体Hをうつ伏せではなく仰向けにしてもよい。被検体Hを仰向けにした場合は、水槽13は使用せず被観察部位Cに超音波伝達媒体からなるシートを被せる。またこの場合、ピン19は自重で初期状態に戻るためバネ47は必要ない。但し、超音波トランスデューサ17の首ふりをフリーにすると自重で水平面に向いてしまうため、超音波トランスデューサ17の首ふりを電動制御する。
【0062】
なお、超音波走査の再現性を高めるため、被検体Hと検査部10の位置決めを行ってもよい。例えば、ベッドに被検体Hを拘束する拘束具を設けたり、仰向けの場合は、保持プレートからポールを突設させ、このポールを被検体Hの腋の下に挟ませてもよい。
【0063】
上記実施形態で示したアクチュエータ(ポンプ)、モータ等の各種駆動源は一例であり、他の駆動源を用いてもよい。例えば、上記実施形態のアクチュエータの代わりに、ピンに合わせた孔を形成した板を2分した首かせ状の規制部材を設け、板同士をソレノイド等で突き当てたり離したりし、板同士を突き当てたときにピンの進退を規制する。
【0064】
ピンの太さ、長さ、本数、配列ピッチ等は、超音波診断装置2の仕様に応じて適宜変更可能である。ピンの本数が多ければ多い程、より精緻な型取りが可能になり、長さが長い程、乳房の形状の個体差を吸収することが可能になる。
【0065】
また、腋窩部位C2、鎖骨下C3等、被検体Hの形状変化の少ない部位に接触する箇所では、隣接するピン19を結合したり、ピン19の代わりに板状部材を用いる等して、複数のピン19に相当する部分が一体的に移動するようにし、ピンレリーフ駆動機構16の部品点数を削減することも可能である。
【0066】
同様に超音波トランスデューサの大きさや個数も上記実施形態の例に限らない。例えば、ピンの列間と同数の超音波トランスデューサ、支柱、および昇降用のモータを用意し、各列同時に超音波走査してもよい。超音波トランスデューサは、隣り合う列の超音波トランスデューサが接触しないようなサイズにする。この場合は案内溝のY方向溝部は必要なくなるうえ、超音波走査を短時間で行うことができる。
【0067】
また、超音波トランスデューサ、モータ等とプロセッサ部間の信号の遣り取りを無線化してもよい。
【0068】
なお、被観察部位は乳房に限らず、軟部組織を含めばよく、例えば腹部、甲状腺、頸動脈、関節(肘、膝等)でもよい。
【符号の説明】
【0069】
2 超音波診断装置
10 検査部
11 プロセッサ部
15 ピンレリーフ
16 ピンレリーフ駆動機構
17 超音波トランスデューサ
18 超音波トランスデューサ駆動機構
19 ピン
20 保持プレート
25、33 支柱
29、57a、57b、58 モータ
30a、30b 第一レール、第二レール
34 案内溝
42 アクチュエータ
44 センサ
47 バネ
59 球状突起
60 球状穴
70 主制御部
71 ROM
78 ピンレリーフ駆動機構制御部
79 超音波トランスデューサ駆動機構制御部
80 ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体の被観察部位に対面し、進退可能な接触部材を複数並べてなる型取り部材と、
前記型取り部材を被観察部位に対して垂直方向に移動させ、被観察部位に前記型取り部材を押し当てて被観察部位の形状を前記型取り部材に型取らせる型取り部材駆動機構と、
被観察部位に超音波を送信するとともに被観察部位からの反射波を受信し、反射波に応じた検出信号を出力する超音波トランスデューサと、
前記型取り部材により取得された被観察部位の形状情報に基づいて、被観察部位に超音波が垂直且つ等距離で当たるよう、前記超音波トランスデューサを被観察部位に対して水平および垂直方向に移動させ、且つ各方位に首ふりさせる超音波トランスデューサ駆動機構と、を備えることを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
被観察部位に前記型取り部材を押し当てたときの各接触部材の移動量を検出する検出手段を備え、
前記超音波トランスデューサ駆動機構は、前記検出手段の検出結果に基づいて駆動することを特徴とする請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項3】
前記検出手段の検出結果を被検体毎に記憶する記憶手段を備えることを特徴とする請求項2に記載の超音波診断装置。
【請求項4】
前記型取り部材駆動機構は、被観察部位に押し当てられて引っ込んだ状態で接触部材の進退を規制する規制手段を有することを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の超音波診断装置。
【請求項5】
前記超音波トランスデューサ駆動機構は、前記規制手段で接触部材の進退が規制され、引っ込んだ状態の各接触部材上を滑らせるように前記超音波トランスデューサを移動させることを特徴とする請求項4に記載の超音波診断装置。
【請求項6】
被観察部位に前記型取り部材を押し当てたときの各接触部材の移動量を検出する検出手段を備え、
前記検出手段の検出結果から隣り合う各接触部材の段差を求め、求めた段差が閾値以上であった場合、該当する接触部材の移動量、または前記超音波トランスデューサ駆動機構による前記超音波トランスデューサの垂直方向の移動量を調節することを特徴とする請求項5に記載の超音波診断装置。
【請求項7】
全接触部材が被観察部位と接触して引っ込んだか否かを判断する判断手段を備えることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の超音波診断装置。
【請求項8】
被観察部位に前記型取り部材を押し当てたときの各接触部材の移動量を検出する検出手段を備え、
前記判断手段は、前記検出手段の出力を監視し、全ての前記検出手段から出力があったときに、全接触部材が引っ込んだと判断することを特徴とする請求項7に記載の超音波診断装置。
【請求項9】
前記判断手段は、被観察部位に最後に接触すると推測される箇所の接触部材に設けられた接触センサの出力に応じて、全接触部材が引っ込んだと判断することを特徴とする請求項7に記載の超音波診断装置。
【請求項10】
前記接触センサは前記超音波トランスデューサであることを特徴とする請求項9に記載の超音波診断装置。
【請求項11】
被観察部位と前記型取り部材および前記超音波トランスデューサの間に超音波伝達媒体のカバーを介在させることを特徴とする請求項1ないし10のいずれかに記載の超音波診断装置。
【請求項12】
被観察部位は軟部組織を含むことを特徴とする請求項1ないし11のいずれかに記載の超音波診断装置。
【請求項13】
被検体の被観察部位に対面し、進退可能な接触部材を複数並べてなる型取り部材を被観察部位に対して垂直方向に移動させ、被観察部位に前記型取り部材を押し当てて被観察部位の形状を前記型取り部材に型取らせる工程と、
前記型取り部材により取得された被観察部位の形状情報に基づいて、被観察部位に超音波が垂直且つ等距離で当たるよう、超音波トランスデューサを被観察部位に対して水平および垂直方向に移動させ、且つ各方位に首ふりさせながら、超音波トランスデューサに超音波および反射波の送受信を行わせる工程と、を備えることを特徴とする超音波診断方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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