説明

超音波診断装置および超音波画像生成方法

【課題】超音波プローブの内部温度の上昇を抑制することができる超音波診断装置を提供する。
【解決手段】温度センサが超音波プローブの内部温度を検出し、検出された超音波プローブの内部温度が設定値T1を超えると温度上昇抑制モードを選択して、1回の送受信に対して生成される音線数が増加するように画像生成部を制御すると共に、同時開口チャンネルの位置を1回の送受信に対して生成される音線数ずつ順次ずらしながら送受信するように送信駆動部および受信信号処理部を制御する。
前記超音波プローブの内部温度を検出すると、

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、超音波診断装置および超音波画像生成方法に係り、特に、超音波プローブの振動子アレイから超音波を送受信することにより生成された超音波画像に基づいて診断を行う超音波診断装置の超音波プローブ内における発熱量の抑制に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、医療分野において、超音波画像を利用した超音波診断装置が実用化されている。一般に、この種の超音波診断装置は、振動子アレイを内蔵した超音波プローブと、この超音波プローブに接続された装置本体とを有しており、超音波プローブから被検体に向けて超音波を送信し、被検体からの超音波エコーを超音波プローブで受信して、その受信信号を装置本体で電気的に処理することにより超音波画像が生成される。
【0003】
このような超音波診断装置では、振動子アレイから超音波を送信することで、振動子アレイから発熱が生じる。
ところが、通常、操作者が片手で超音波プローブを把持して振動子アレイの超音波送受信面を被検体の表面に当接しつつ診断を行うので、超音波プローブは操作者が片手で容易に把持し得る程度の小さな筺体内に収容されることが多い。このため、振動子アレイからの発熱により超音波プローブの筺体内が温度上昇することがある。
【0004】
また、近年、超音波プローブに信号処理のための回路基板を内蔵し、振動子アレイから出力された受信信号をデジタル処理した上で無線通信あるいは有線通信により装置本体に伝送することにより、ノイズの影響を低減して高画質の超音波画像を得るようにした超音波診断装置が提案されている。
この種のデジタル処理を行う超音波プローブでは、受信信号の処理時においても回路基板からの発熱が生じ、回路基板の各回路の安定した動作を保証するために筺体内の温度上昇を抑制する必要がある。
【0005】
超音波プローブの温度上昇対策については、例えば特許文献1に、超音波プローブの表面温度に応じて振動子アレイを駆動する条件を自動的に変化させる超音波診断装置が開示されている。表面温度が高くなるほど、超音波の送信時における振動子アレイの各トランスデューサの駆動電圧、送信開口数、送信パルスの繰り返し周波数、フレームレート等を低減することにより、超音波プローブの表面温度が適切な温度に維持される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−253776号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、送信時の振動子アレイの駆動条件を変化させる特許文献1の装置では、上述したようなデジタル処理を行う超音波プローブにおける受信時の発熱に対処することができない。
この発明は、このような従来の問題点を解消するためになされたもので、超音波プローブの送受信時の発熱に対処することでその内部温度の上昇を抑制することができる超音波診断装置および超音波画像生成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係る超音波診断装置は、送信駆動部から供給された駆動信号に基づいて超音波プローブの振動子アレイから被検体に向けて超音波ビームが送信されると共に被検体による超音波エコーを受信した前記超音波プローブの振動子アレイから出力された受信信号を受信信号処理部で処理することで得られる受信データに基づいて画像生成部で超音波画像を生成して表示部に表示する超音波診断装置であって、前記超音波プローブの内部温度を検出する温度センサと、前記温度センサにより検出された前記超音波プローブの内部温度が設定値を超えると温度上昇抑制モードを選択して、1回の送受信に対して生成される音線数が増加するように前記画像生成部を制御すると共に、同時開口チャンネルの位置を1回の送受信に対して生成される音線数ずつ順次ずらしながら送受信するように前記送信駆動部および前記受信信号処理部を制御する制御手段とを備えたものである。
【0009】
ここで、前記制御手段は、前記温度上昇抑制モードを選択した際に、オペレータの着目する所定の着目深度領域において1回の送受信に対して生成される音線数の音線領域にまたがる超音波ビームを送信することにより、生成された各音線の強度がほぼ一定となるように前記送信駆動部を制御するのが好ましい。
また、前記制御手段は、前記温度上昇抑制モードを選択した際に、超音波ビームのフォーカス深度が最大視野深度となるように前記送信駆動部を制御することができる。
【0010】
また、前記制御手段は、前記温度センサにより検出された前記超音波プローブの内部温度が前記設定値よりも大きなもう1つの設定値を超えると、1回の送受信に対して生成される音線数がさらに大きな音線数となるように前記画像生成部、前記送信駆動部および前記受信信号処理部を制御することができる。また、前記制御手段は、前記超音波プローブの内部温度が前記設定値以下の場合には1回の送受信に対して1つの音線を、前記設定値を超えると1回の送受信に対して3つの音線を、前記設定値よりも大きなもう1つの設定値を超えた場合には1回の送受信に対して5つの音線を段階的に生成するように前記画像生成部、前記送信駆動部および前記受信信号処理部を制御することもできる。
また、前記制御手段は、前記超音波プローブの内部温度が前記設定値以上となった場合には、前記表示部に警告表示を行うことができる。また、前記超音波プローブは、前記制御手段による警告を表示する警告表示部をさらに有するのが好ましい。
また、前記超音波プローブは、前記受信信号処理部と、前記受信信号処理部で得られたパラレルの受信データをシリアルの受信データに変換するパラレル/シリアル変換部と、前記パラレル/シリアル変換部で変換されたシリアルの受信データを無線通信により前記画像生成部を有する診断装置本体に送信する無線通信部とを有することが好ましい。
【0011】
この発明に係る超音波画像生成方法は、送信駆動部から供給された駆動信号に基づいて超音波プローブの振動子アレイから被検体に向けて超音波ビームが送信されると共に被検体による超音波エコーを受信した前記超音波プローブの振動子アレイから出力された受信信号を受信信号処理部で処理することで得られる受信データに基づいて画像生成部で超音波画像を生成して表示部に表示する超音波画像生成方法であって、前記超音波プローブの内部温度を検出し、検出された前記超音波プローブの内部温度が設定値を超えると温度上昇抑制モードを選択して、1回の送受信に対して生成される音線数が増加するように前記画像生成部を制御すると共に、同時開口チャンネルの位置を1回の送受信に対して生成される音線数ずつ順次ずらしながら送受信するように前記送信駆動部および前記受信信号処理部を制御するものである。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、1回の送受信に対して複数の音線を生成すると共にその生成された音線数ずつ順次ずらしながら送受信することで超音波プローブの送受信時の発熱に対処し、超音波プローブの内部温度の上昇を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】この発明の実施の形態1に係る超音波診断装置の構成を示すブロック図である。
【図2】通常モードで1回の超音波ビームの送受信に対して1本の音線が生成される様子を示し、(A)は送信ビームTX1の送受信により生成される音線、(B)は送信ビームTX2の送受信により生成される音線を示す図である。
【図3】温度上昇抑制モードで1回の超音波ビームの送受信に対して3本の音線が生成される様子を示し、(A)は送信ビームTX1の送受信により生成される音線、(B)は送信ビームTX2の送受信により生成される音線を示す図である。
【図4】実施の形態1の動作を示すフローチャートである。
【図5】実施の形態1における検査モードを示すフローチャートである。
【図6】通常モードで音線を生成する様子を示し、(A)は送信ビームの焦点位置を示し、(B)は生成された音線の強度分布を示す図である。
【図7】温度上昇抑制モードで音線を生成する様子を示し、(A)は送信ビームの焦点位置を示し、(B)は生成された音線の強度分布を示す図である。
【図8】実施の形態2における温度上昇抑制モードで1回の超音波ビームの送受信に対して5本の音線が生成される様子を示し、(A)は送信ビームTX1の送受信により生成される音線、(B)は送信ビームTX2の送受信により生成される音線を示す図である。
【図9】実施の形態3に係る超音波診断装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、この発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
実施の形態1
図1に、この発明の実施の形態1に係る超音波診断装置の構成を示す。超音波診断装置は、超音波プローブ1と、この超音波プローブ1と無線通信により接続された診断装置本体2とを備えている。
【0015】
超音波プローブ1は、1次元又は2次元の振動子アレイの複数チャンネルを構成する複数の超音波トランスデューサ3を有し、これらトランスデューサ3にそれぞれ対応して受信信号処理部4が接続され、さらに受信信号処理部4にパラレル/シリアル変換部5を介して無線通信部6が接続されている。また、複数のトランスデューサ3に送信駆動部7を介して送信制御部8が接続され、複数の受信信号処理部4に受信制御部9が接続され、無線通信部6に通信制御部10が接続されている。そして、パラレル/シリアル変換部5、送信制御部8、受信制御部9および通信制御部10にプローブ制御部11が接続されている。さらに、超音波プローブ1には、超音波プローブ1の内部温度を検知する温度センサ12が内蔵され、この温度センサ12がプローブ制御部11に接続されている。
なお、温度センサ12は、超音波診断装置の運転時に特に発熱が予想される受信信号処理部4の近傍に配置されることが好ましい。
【0016】
複数のトランスデューサ3は、それぞれ送信駆動部7から供給される駆動信号に従って超音波を送信すると共に被検体からの超音波エコーを受信して受信信号を出力する。各トランスデューサ3は、例えば、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)に代表される圧電セラミックや、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)に代表される高分子圧電素子、PMN−PT(マグネシウムニオブ酸・チタン酸鉛固溶体)に代表される圧電単結晶等からなる圧電体の両端に電極を形成した振動子によって構成される。
そのような振動子の電極に、パルス状又は連続波の電圧を印加すると、圧電体が伸縮し、それぞれの振動子からパルス状又は連続波の超音波が発生して、それらの超音波の合成により超音波ビームが形成される。また、それぞれの振動子は、伝搬する超音波を受信することにより伸縮して電気信号を発生し、それらの電気信号は、超音波の受信信号として出力される。
【0017】
送信駆動部7は、例えば、複数のパルサを含んでおり、送信制御部8によって選択された送信遅延パターンに基づいて、複数のトランスデューサ3から送信される超音波が超音波ビームを形成するようにそれぞれの駆動信号の遅延量を調節して複数のトランスデューサ3に供給する。
【0018】
各チャンネルの受信信号処理部4は、受信制御部9の制御の下で、対応するトランスデューサ3から出力される受信信号に対して直交検波処理又は直交サンプリング処理を施すことにより複素ベースバンド信号を生成し、複素ベースバンド信号をサンプリングすることにより、組織のエリアの情報を含むサンプルデータを生成して、サンプルデータをパラレル/シリアル変換部5に供給する。受信信号処理部4は、複素ベースバンド信号をサンプリングして得られるデータに高能率符号化のためのデータ圧縮処理を施すことによりサンプルデータを生成してもよい。
パラレル/シリアル変換部5は、複数チャンネルの受信信号処理部4によって生成されたパラレルのサンプルデータを、シリアルのサンプルデータに変換する。
【0019】
無線通信部6は、シリアルのサンプルデータに基づいてキャリアを変調して伝送信号を生成し、伝送信号をアンテナに供給してアンテナから電波を送信することにより、シリアルのサンプルデータを送信する。変調方式としては、例えば、ASK(Amplitude Shift Keying)、PSK(Phase Shift Keying)、QPSK(Quadrature Phase Shift Keying)、16QAM(16 Quadrature Amplitude Modulation)等が用いられる。
無線通信部6は、診断装置本体2との間で無線通信を行うことにより、サンプルデータを診断装置本体2に送信すると共に、診断装置本体2から各種の制御信号を受信して、受信された制御信号を通信制御部10に出力する。通信制御部10は、プローブ制御部11によって設定された送信電波強度でサンプルデータの送信が行われるように無線通信部6を制御すると共に、無線通信部6が受信した各種の制御信号をプローブ制御部11に出力する。
【0020】
温度センサ12は、超音波プローブ1の内部温度Tを検出してプローブ制御部11に出力する。
プローブ制御部11は、診断装置本体2から送信される各種の制御信号に基づいて、超音波プローブ1の各部の制御を行う。
超音波プローブ1には、図示しないバッテリが内蔵され、このバッテリから超音波プローブ1内の各回路に電源供給が行われる。
なお、超音波プローブ1は、リニアスキャン方式、コンベックススキャン方式、セクタスキャン方式等の体外式プローブでもよいし、ラジアルスキャン方式等の超音波内視鏡用プローブでもよい。
【0021】
一方、診断装置本体2は、無線通信部13を有し、この無線通信部13にシリアル/パラレル変換部14を介してデータ格納部15が接続され、データ格納部15に画像生成部16が接続されている。さらに、画像生成部16に表示制御部17を介して表示部18が接続されている。また、無線通信部13に通信制御部19が接続され、シリアル/パラレル変換部14、画像生成部16、表示制御部17および通信制御部19に本体制御部20が接続されている。さらに、本体制御部20には、オペレータが入力操作を行うための操作部22と、動作プログラムを格納する格納部23がそれぞれ接続されている。
【0022】
無線通信部13は、超音波プローブ1との間で無線通信を行うことにより、各種の制御信号を超音波プローブ1に送信する。また、無線通信部13は、アンテナによって受信される信号を復調することにより、シリアルのサンプルデータを出力する。
通信制御部19は、本体制御部20によって設定された送信電波強度で各種の制御信号の送信が行われるように無線通信部13を制御する。
シリアル/パラレル変換部14は、無線通信部13から出力されるシリアルのサンプルデータを、パラレルのサンプルデータに変換する。データ格納部15は、メモリまたはハードディスク等によって構成され、シリアル/パラレル変換部14によって変換された少なくとも1フレーム分のサンプルデータを格納する。
【0023】
画像生成部16は、データ格納部15から読み出される1フレーム毎のサンプルデータに受信フォーカス処理を施して、超音波診断画像を表す画像信号を生成する。画像生成部16は、整相加算部24と画像処理部25とを含んでいる。
整相加算部24は、超音波エコーの焦点が絞り込まれたベースバンド信号(音線信号)を生成する。各音線信号は、本体制御部20において設定された受信方向に応じて、予め記憶されている複数の受信遅延パターンの中から1つの受信遅延パターンを選択し、選択された受信遅延パターンに基づいて、サンプルデータによって表される複数の複素ベースバンド信号にそれぞれの遅延を与えて加算することにより、受信フォーカス処理を行うことで生成される。
【0024】
画像処理部25は、整相加算部24によって生成される音線信号に基づいて、被検体内の組織に関する断層画像情報であるBモード画像信号を生成する。画像処理部25は、STC(sensitivity time control)部と、DSC(digital scan converter:デジタル・スキャン・コンバータ)とを含んでいる。STC部は、音線信号に対して、超音波の反射位置の深度に応じて、距離による減衰の補正を施す。DSCは、STC部によって補正された音線信号を通常のテレビジョン信号の走査方式に従う画像信号に変換(ラスター変換)し、階調処理等の必要な画像処理を施すことにより、Bモード画像信号を生成する。
【0025】
表示制御部17は、画像生成部16によって生成される画像信号に基づいて、表示部18に超音波診断画像を表示させる。また、表示制御部17は、本体制御部20により後述する温度上昇抑制モードが選択された場合にはオペレータに対して警告を示す文字や色などを表示部18に表示させる。表示部18は、例えば、LCD等のディスプレイ装置を含んでおり、表示制御部17の制御の下で、超音波診断画像や警告画面を表示する。
【0026】
本体制御部20は、温度センサ12により検出された超音波プローブの内部温度が予め設定された設定値以下の場合には通常モードを選択し、温度センサ12により検出された超音波プローブ1の内部温度が予め設定された設定値を超える場合には温度上昇抑制モードを選択する。通常モードでは、1回の送受信に対して1本の音線を生成するように画像生成部が制御されると共に同時開口チャンネルの位置を1つずつ順次ずらしながら送受信するように送信駆動部および受信処理部が制御される。一方、温度抑制モードでは、1回の送受信に対して生成される音線数が通常モードで生成される音線数よりも増加して複数となるように画像生成部が制御されると共に同時開口チャンネルの位置を1回の送受信に対して生成される音線数ずつ順次ずらしながら送受信するように送信駆動部および受信処理部が制御される。
【0027】
このような診断装置本体2において、シリアル/パラレル変換部14、画像生成部16、表示制御部17、通信制御部19および本体制御部20は、CPUと、CPUに各種の処理を行わせるための動作プログラムから構成されるが、それらをデジタル回路で構成してもよい。上記の動作プログラムは、格納部23に格納される。格納部23における記録媒体としては、内蔵のハードディスクの他に、フレキシブルディスク、MO、MT、RAM、CD−ROMまたはDVD−ROM等を用いることができる。
【0028】
ここで、通常モードについて図2(A)および(B)を、温度上昇抑制モードについて図3(A)および(B)をそれぞれ参照して説明する。
通常モードでは、図2(A)に示すように、例えば振動子アレイの96個のチャンネルに対してch1からch32の32個のチャンネルを同時開口チャンネルとして送信ビームTX1を送信し、ch1からch32の同時開口チャンネルで受信された超音波エコーに基づいてch16とch17の間の位置に音線RX16が生成される。続いて、図2(B)に示すように、ch2からch33を同時開口チャンネルとして超音波ビームが送受信され、ch17とch18の間の位置に音線RX17が生成される。このようにして、同時開口チャンネルの位置を1チャンネルずつ順次ずらしながら超音波ビームが送受信される。
【0029】
一方、温度抑制モードでは、図3(A)に示すように、ch1からch32の32個のチャンネルを同時開口チャンネルとして送信ビームTX1を送信し、ch1からch32の同時開口チャンネルで受信された超音波エコーに基づいて音線RX15、RX16、およびRX17の3本の音線が生成される。ここで、音線RX15はch1からch30、音線RX16はch2からch31、音線RX17はch3からch32のチャンネルからそれぞれ受信された受信信号に基づいて生成されている。続いて、図3(B)に示すように、ch4からch35の32個のチャンネルを同時開口チャンネルとして送信ビームTX2を送信し、ch4からch35の同時開口チャンネルで受信された超音波エコーに基づいて音線RX18、RX19、およびRX20の3本の音線が生成される。このようにして、1回の送信に対して3本の音線を生成し、生成された音線数ずつ同時開口チャンネルの位置を順次ずらしながら超音波ビームが送受信される。
【0030】
次に、図4のフローチャートを参照して、実施の形態1の動作について説明する。
まず、ステップS1の検査情報入力モードで、診断装置本体2の操作部22から、患者情報および検査オーダーを含む検査情報が入力されると、診断装置本体2の本体制御部20は、ステップS2で、オペレータによる検査開始の指示を待つ。検査開始の指示が入力されると、本体制御部20は、ステップS3に進んで検査モードを実行した後、ステップS4で、オペレータによる検査終了の指示を待つ。検査を終了する旨の指示が入力されると、そのまま一連の検査処理を終了し、一方、検査を終了しないで続行する旨の指示が入力されると、ステップS1に戻って、再び検査情報の入力を受け付ける。
【0031】
なお、ステップS3の検査モードにおいては、例えば、図5に示すように、Bモード、CFモード、PWモード、Mモード等の予め設定された複数の検査モードのうちのいずれか1つ、あるいは2つ以上のモードを選択して超音波診断を実行することができる。すなわち、診断装置本体2の本体制御部20は、ステップS1で入力された検査情報によりいずれの検査モードが指定されたかを確認し、ステップS11で、Bモードが指定されたことを確認すると、ステップS12に進んでBモードの検査を実施し、ステップS13で、CFモードが指定されたことを確認すると、ステップS14に進んでCFモードの検査を実施し、ステップS15で、PWモードが指定されたことを確認すると、ステップS16に進んでPWモードを実施し、ステップS17で、Mモードが指定されたことを確認すると、ステップS18に進んでMモードの検査を実施する。そして、ステップS19で、今回の検査情報に基づく検査の終了を確認したところで、図4のステップS4へ進む。
【0032】
なお、ステップS19で、オペレータが再度の検査が必要と判断し、検査の終了が確認されない場合には、ステップS20に進んで本体制御部20により超音波プローブ1の内部温度が確認される。本体制御部20は、超音波プローブ1の温度センサ12により検出された温度をプローブ制御部11、通信制御部10、および無線通信部6を介して診断装置本体2へ無線伝送し、診断装置本体2の無線通信部13で受信された超音波プローブ1の内部温度を通信制御部19を介して入力する。続いて、本体制御部20は、入力された超音波プローブ1の内部温度と予めオペレータにより設定された設定値T1とを比較し、超音波プローブ1の内部温度が設定値T1を超えている場合には、ステップS21に進んでオペレータに対して超音波プローブ1の内部温度の上昇を警告する警告表示を表示制御部17を介して表示部18により行い、さらにステップS22に進んで温度上昇抑制モードを選択し、Bモード、Cモード、PWモード、Mモード等の超音波診断が温度上昇抑制モードで実行される。
【0033】
一方、ステップS20で、超音波プローブ1の内部温度が設定値T1以下である場合には、ステップS23へ進む。本体制御部20は、ステップS23で、表示部18に超音波プローブ1の内部温度の上昇を警告する警告表示が行われていればその表示を解除し、ステップS24に進んで通常モードを選択し、通常モードによる超音波診断が実行される。
【0034】
通常モードおよび温度上昇抑制モードによる超音波診断は、次のようにして実施される。
本体制御部20は、通常モードを選択すると、図6(A)に示すように、オペレータの着目する所定の着目深度領域L1に送信ビームTX1のフォーカスFを形成して超音波ビームの送受信が順次行われる。例えば、96個のチャンネルからなる超音波プローブ1において32個の同時開口チャンネルを1つずつ順次ずらしながら超音波ビームの送受信が行われると、超音波画像1フレームで超音波ビームの送受信が65回行われる。このようにして得られた受信信号は、超音波プローブ1から診断装置本体2へ無線伝送され、診断装置本体2の画像生成部16に供給されると、画像生成部16の整相加算部24が1回の送受信により得られた受信信号に対し1つの音線信号を生成する。例えば、ch1からch32の同時開口チャンネルから得られた受信信号からは、その同時開口チャンネルの中央位置(ch16とch17の間の位置)に音線RX16が1つ生成される。通常モードでは所定の着目深度領域L1に送信フォーカスFが形成されているため、所定の着目深度領域L1で方位方向に延びるx軸における音線信号の強度は、図6(B)に示すように、音線RX16で最大となる。このようにして、超音波画像1フレームで65回の超音波ビームの送受信が行われて65本の音線信号が生成される。
【0035】
一方、本体制御部20が温度抑制モードを選択すると、図7(A)に示すように、所定の着目深度領域L1より深い深度領域L2に送信ビームTX1のフォーカスFを形成して超音波ビームの送受信が順次行われる。例えば、96個のチャンネルからなる超音波プローブ1において32個の同時開口チャンネルを3つずつ順次ずらしながら超音波ビームの送受信が行われると、超音波画像1フレームで超音波ビームの送受信が22回行われる。このようにして得られた受信信号に基づき、診断装置本体2の画像生成部16が1回の送受信により得られた受信信号から3つの音線信号を生成する。
【0036】
例えば、ch1からch32の同時開口チャンネルから得られた受信信号に基づいて、ch2からch31のチャンネルから得られた受信信号から音線RX16がch16とch17の間の位置に生成され、これに隣接して、ch1からch30のチャンネルから得られた受信信号から音線RX15がch15とch16の間の位置に生成されると共にch3からch32のチャンネルから得られた受信信号から音線RX17がch17とch18の間の位置に生成される。
ここで、送信ビームTX1のフォーカスFが深度領域L2に形成されることで所定の着目深度領域L1では幅広の超音波ビームが形成され、図7(B)に示すように、所定の着目深度領域L1における音線信号の強度分布の最大値が均一化されて音線信号RX15、RX16、およびRX17の強度がほぼ一定となる。すなわち、1回の超音波ビームの送受信で3本の音線信号を生成する際に、通常モードと同じように所定の着目深度領域L1に送信フォーカスFを形成すると、図6(B)に示すように、音線信号RX16の強度(実線矢印)に対して音線信号RX15およびRX17の強度(破線矢印)にムラdが生じるのに対し、図7(B)に示すように、深度領域L2に送信フォーカスFを形成すると音線信号の強度分布の最大値が均一化され、生成される各音線間の強度ムラdが抑制される。このように、所定の着目深度領域L1において1回の送受信に対して生成される3本の音線の音線領域にまたがる超音波ビームを送信することにより、生成された各音線の強度をほぼ一定とすることができる。
【0037】
なお、深度領域L2は、その位置にフォーカスした超音波ビームが所定の着目深度領域L1において1回の送受信で生成される3本の音線の音線領域にまたがっていればよく、例えば、超音波ビームのフォーカス深度を最大とした最大視野深度に設定することで音線信号の強度分布の均一化を最大に広げることができ、所定の着目深度領域L1が2cmである場合にはその2倍にあたる4cmに深度領域L2を設定することで超音波ビームのフォーカス深度を最大視野深度に設定することができる。このようにして、1回の超音波ビームの送受信につき3本の音線信号が順次生成されるため、超音波画像1フレームで22回の超音波ビームの送受信が行われて66本の音線信号が生成される。
【0038】
このように、超音波画像1フレームにおいて、通常モードでは超音波ビームを65回送受信するのに対し、温度上昇抑制モードでは超音波ビームを22回送受信して通常モードとほぼ同数の音線信号が得られており、通常モードと比べてパルス繰り返し周波数(PRF)を約1/3に低減することができ、超音波プローブ1の内部温度の上昇を抑制することができる。また、深度領域L2に送信フォーカスFを形成した超音波ビームを送受信することにより、1回の送受信で複数の音線信号を生成することによる画質の低下を最小限に抑えることができる。
【0039】
実施の形態2
実施の形態1では、温度上昇抑制モードにおいて1回の超音波ビームの送受信で3本の音線信号を生成したが、これに限るものではなく、1回の超音波ビームの送受信で複数の音線信号を生成することで超音波プローブ1の内部温度の上昇を抑制することができる。
例えば、図8(A)に示すように、ch1からch32の32個のチャンネルを同時開口チャンネルとして送信ビームTX1を送信し、ch1からch32の同時開口チャンネルで受信された超音波エコーに基づいて音線RX14、RX15、RX16、RX17、およびRX18の5本の音線を生成することができる。ここで、音線RX14はch1からch28、音線RX15はch2からch29、音線RX16はch3からch30、音線RX17はch4からch31、音線RX18はch5からch32のチャンネルからそれぞれ受信された受信信号に基づいて生成されている。続いて、図8(B)に示すように、ch6からch37の32個のチャンネルを同時開口チャンネルとして超音波ビームを送受信して得られた受信信号に基づいて音線RX19、RX20、RX21、RX22、およびRX23の5本の音線が生成される。このようにして、1回の超音波ビームの送受信につき5本の音線信号が順次生成されるため、超音波画像1フレームで14回の超音波ビームの送受信を行うことで69本の音線信号を生成することができる。
【0040】
このように、通常モードと比べてPRFを約1/5に低減するなど、1回の超音波ビームの送受信で複数の音線信号を生成することでPRFを低減することができ、超音波プローブ1の内部温度の上昇を抑制することができる。
【0041】
また、超音波プローブ1の内部温度に応じて、1回の超音波ビームの送受信で生成される音線数を段階的に変更することもできる。予め設定された設定値T1に対し、これよりも大きなもう1つの設定値T2を設定し、温度センサ12により検出された超音波プローブ1の内部温度が設定値T2を超えると、設定値T1を超えた場合よりもさらに多くの音線が1回の超音波ビームの送受信で生成される。例えば、超音波プローブ1の内部温度が設定値T1を超えた場合には1回の超音波ビームの送受信で3本の音線を生成させ、超音波プローブ1の内部温度が設定値T2を超えた場合には1回の超音波ビームの送受信で5本の音線を生成させる。これにより、超音波プローブ1の内部温度の細かい変化に対応してその上昇を抑制することができる。
【0042】
実施の形態3
図9に、実施の形態3に係る超音波診断装置の構成を示す。この超音波診断装置で用いられる超音波プローブ31は、図1に示した実施の形態1における超音波プローブ1において、プローブ制御部11に警告表示部32を接続したものである。警告表示部32は、温度センサ12により検出された超音波プローブ1の内部温度が設定値T1を超えている場合に、プローブ制御部11の制御により、オペレータに対して超音波プローブ1の内部温度の上昇を警告する警告表示を行う。
【0043】
このような警告表示部32を超音波プローブ1に備えることにより、オペレータに対して確実に超音波プローブ1の内部温度の上昇を知らせることができる。
【符号の説明】
【0044】
1,31 超音波プローブ、2 診断装置本体、3 トランスデューサ、4 受信信号処理部、5 パラレル/シリアル変換部、6 無線通信部、7 送信駆動部、8 送信制御部、9 受信制御部、10 通信制御部、11 プローブ制御部、12 温度センサ、13 無線通信部、14 シリアル/パラレル変換部、15 データ格納部、16 画像生成部、17 表示制御部、18 表示部、19 通信制御部、20 本体制御部、22 操作部、23 格納部、24 整相加算部、25 画像処理部、32 警告表示部、F フォーカス、L1 所定の着目深度領域、L2 深度領域。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信駆動部から供給された駆動信号に基づいて超音波プローブの振動子アレイから被検体に向けて超音波ビームが送信されると共に被検体による超音波エコーを受信した前記超音波プローブの振動子アレイから出力された受信信号を受信信号処理部で処理することで得られる受信データに基づいて画像生成部で超音波画像を生成して表示部に表示する超音波診断装置であって、
前記超音波プローブの内部温度を検出する温度センサと、
前記温度センサにより検出された前記超音波プローブの内部温度が設定値を超えると温度上昇抑制モードを選択して、1回の送受信に対して生成される音線数が増加するように前記画像生成部を制御すると共に、同時開口チャンネルの位置を1回の送受信に対して生成される音線数ずつ順次ずらしながら送受信するように前記送信駆動部および前記受信信号処理部を制御する制御手段と
を備えたことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記温度上昇抑制モードを選択した際に、オペレータの着目する所定の着目深度領域において1回の送受信に対して生成される音線数の音線領域にまたがる超音波ビームを送信することにより、生成された各音線の強度がほぼ一定となるように前記送信駆動部を制御する請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記温度上昇抑制モードを選択した際に、超音波ビームのフォーカス深度が最大視野深度となるように前記送信駆動部を制御する請求項2に記載の超音波診断装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記温度センサにより検出された前記超音波プローブの内部温度が前記設定値よりも大きなもう1つの設定値を超えると、1回の送受信に対して生成される音線数がさらに大きな音線数となるように前記画像生成部、前記送信駆動部および前記受信信号処理部を制御する請求項1〜3のいずれか一項に記載の超音波診断装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記超音波プローブの内部温度が前記設定値以下の場合には1回の送受信に対して1つの音線を、前記設定値を超えると1回の送受信に対して3つの音線を、前記設定値よりも大きなもう1つの設定値を超えた場合には1回の送受信に対して5つの音線を段階的に生成するように前記画像生成部、前記送信駆動部および前記受信信号処理部を制御する請求項4に記載の超音波診断装置。
【請求項6】
前記制御手段は、前記超音波プローブの内部温度が前記設定値以上となった場合には、前記表示部に警告表示を行う請求項1〜5のいずれか一項に記載の超音波診断装置。
【請求項7】
前記超音波プローブは、前記制御手段による警告を表示する警告表示部をさらに有する請求項1〜6のいずれか一項に記載の超音波診断装置。
【請求項8】
前記超音波プローブは、前記受信信号処理部と、前記受信信号処理部で得られたパラレルの受信データをシリアルの受信データに変換するパラレル/シリアル変換部と、前記パラレル/シリアル変換部で変換されたシリアルの受信データを無線通信により前記画像生成部を有する診断装置本体に送信する無線通信部とを有する請求項1〜7のいずれか一項に記載の超音波診断装置。
【請求項9】
送信駆動部から供給された駆動信号に基づいて超音波プローブの振動子アレイから被検体に向けて超音波ビームが送信されると共に被検体による超音波エコーを受信した前記超音波プローブの振動子アレイから出力された受信信号を受信信号処理部で処理することで得られる受信データに基づいて画像生成部で超音波画像を生成して表示部に表示する超音波画像生成方法であって、
前記超音波プローブの内部温度を検出し、
検出された前記超音波プローブの内部温度が設定値を超えると温度上昇抑制モードを選択して、1回の送受信に対して生成される音線数が増加するように前記画像生成部を制御すると共に、同時開口チャンネルの位置を1回の送受信に対して生成される音線数ずつ順次ずらしながら送受信するように前記送信駆動部および前記受信信号処理部を制御する
ことを特徴とする超音波画像生成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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