説明

超音波診断装置および超音波画像生成方法

【課題】簡単な構成且つ低消費電力でありながらも高画質の超音波画像の生成を図ることができる超音波診断装置を提供する。
【解決手段】浅い測定深度領域に対しては、送信ビーム軸に対して対称なチャンネルch(n)とチャンネルch(−n)を互いに接続しないように切替スイッチ45が設定され、各チャンネルの受信信号は、対応する受信信号処理部4Aで独立してA/D変換され、サンプルデータとして出力される。一方、深い測定深度領域に対しては、送信ビーム軸に対して対称なチャンネルch(n)とチャンネルch(−n)を互いに接続するように切替スイッチ45が設定され、チャンネルch(n)とチャンネルch(−n)における受信信号は互いに加算された後にA/D変換され、チャンネルch(n)とチャンネルch(−n)の双方におけるそれぞれのサンプルデータとして出力される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、超音波診断装置および超音波画像生成方法に係り、特に、被検体による超音波エコーを受信したアレイトランスデューサから出力される受信信号を受信信号処理部で増幅した後にA/D変換することで得られる受信データに基づいて超音波画像を生成する超音波診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、医療分野において、超音波画像を利用した超音波診断装置が実用化されている。一般に、この種の超音波診断装置は、超音波プローブのアレイトランスデューサから被検体内に向けて超音波ビームを送信し、被検体からの超音波エコーをアレイトランスデューサで受信して、その受信信号を装置本体で電気的に処理することにより超音波画像が生成される。
【0003】
例えば、特許文献1には、超音波エコーを受信したアレイトランスデューサから出力された受信信号が、それぞれ、プリアンプで増幅され、A/DコンバータでA/D変換されてデジタルの受信データとされた後、適切な遅延を与えられることで互いに位相が合致した状態で加算され、これにより受信フォーカス処理を行う超音波診断装置が開示されている。
この受信フォーカス処理によって超音波エコーの焦点が絞り込まれた音線信号が生成され、このようにして生成された診断領域内の複数の音線信号に基づいて、被検体内の断層画像情報であるBモード画像信号が生成される。
【0004】
このような超音波診断においては、超音波ビームが被検体内を進行するに従って減衰するので、深度が深くなるほど到達する超音波ビームの強度は小さくなる。また、被検体内の各部で反射されて超音波プローブに戻ってくる超音波エコーも、同様に進行するに従って減衰する。さらに、周波数依存減衰により中心周波数が低周波数側に移動する。その結果、アレイトランスデューサから出力される受信信号の振幅は、測定深度に応じて変化することとなる。
【0005】
そこで、測定領域内の深度の浅い領域に対応する比較的大きな振幅の受信信号から深度の深い領域に対応する比較的小さな振幅の受信信号まで全域にわたる受信信号を良好な分解能でA/D変換するために、A/Dコンバータは大きなダイナミックレンジを有することが望まれるが、現存の超音波診断装置用のA/Dコンバータのダイナミックレンジは十分なものではない。
このため、例えば、特許文献2には、1つの超音波トランスデューサに互いに利得の異なる一対の増幅器を並列に接続し、これらの増幅器で増幅された受信信号をそれぞれ別個にA/DコンバータでA/D変換した後、互いに結合する超音波診断装置が開示されている。このような構成とすることにより、広範囲の振幅の受信信号を良好にA/D変換して高画質の超音波画像を生成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平4−232888号公報
【特許文献2】特開平2−004346号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、アレイトランスデューサにより構成される多数のチャンネルのそれぞれに、一対の増幅器と一対のA/Dコンバータを配設しなければならず、その分、部品点数および消費電力が増大すると共に装置の構成が複雑になるという問題がある。
【0008】
この発明は、このような従来の問題点を解消するためになされたもので、簡単な構成且つ低消費電力でありながらも高画質の超音波画像の生成を図ることができる超音波診断装置および超音波画像生成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明に係る超音波診断装置は、アレイトランスデューサから被検体に向けて超音波ビームが送信されると共に被検体による超音波エコーを受信したアレイトランスデューサから出力された受信信号を処理し、処理された受信信号に基づいて超音波画像を生成する超音波診断装置であって、受信時に使用される同時開口チャンネルのうち送信ビーム軸に対して対称な位置に配置された一対の開口チャンネルにおける一対の受信信号を処理することにより1つの受信データを生成すると共に生成された受信データをこれら一対の開口チャンネルにおけるそれぞれの受信データとして出力する受信回路を備えたものである。
【0010】
受信回路は、一対の開口チャンネルにおける一対の受信信号を互いに加算した後にA/D変換することにより1つの受信データを生成することができる。その際、受信回路は、所定の測定深度より浅い領域に対しては、一対の開口チャンネルにおける一対の受信信号をそれぞれ独立してA/D変換することによりこれら一対の開口チャンネルにおける受信データを生成することが好ましい。
なお、受信回路は、それぞれアレイトランスデューサから出力された受信信号を増幅する複数のプリアンプと、それぞれ受信信号をA/D変換する複数のA/Dコンバータと、複数のプリアンプと複数のA/Dコンバータとを互いに選択的に接続するクロスポイントスイッチとを含むように構成することができる。
【0011】
また、受信回路は、一対の開口チャンネルにおける一対の受信信号のうち一方の受信信号を第1のダイナミックレンジでA/D変換すると共に他方の受信信号を第1のダイナミックレンジと異なる第2のダイナミックレンジでA/D変換した後、互いに結合することにより1つの受信データを生成してもよい。
この場合、受信回路は、それぞれ対応するチャンネルにおける受信信号を増幅する複数のプリアンプと、複数のプリアンプで増幅された受信信号をそれぞれA/D変換する複数のA/Dコンバータと、一対の開口チャンネルに対応する一対のプリアンプの利得を互いに異なるように変更する利得変更手段と、一対の開口チャンネルに対応する一対のA/DコンバータでA/D変換された一対のデータを互いに結合して1つの受信データを生成するデータ結合手段とを含むように構成することができる。
なお、受信回路は、受信時に使用される同時開口チャンネルにおいて、受信信号が第1のダイナミックレンジでA/D変換されるチャンネルと受信信号が第2のダイナミックレンジでA/D変換されるチャンネルとを送信ビーム軸の両側に分散して配置させることが好ましい。
【0012】
この発明に係る超音波画像生成方法は、アレイトランスデューサから被検体に向けて超音波ビームが送信されると共に被検体による超音波エコーを受信したアレイトランスデューサから出力された受信信号を処理し、処理された受信信号に基づいて超音波画像を生成する超音波画像生成方法であって、受信時に使用される同時開口チャンネルのうち送信ビーム軸に対して対称な位置に配置された一対の開口チャンネルにおける一対の受信信号を処理することにより1つの受信データを生成すると共に生成された受信データをこれら一対の開口チャンネルにおけるそれぞれの受信データとする方法である。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、受信時の同時開口チャンネルのうち送信ビーム軸に対して対称な位置に配置された一対の開口チャンネルにおける一対の受信信号を処理することにより1つの受信データを生成し、これら一対の開口チャンネルにおけるそれぞれの受信データとして出力するので、簡単な構成且つ低消費電力でありながらも高画質の超音波画像の生成を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】この発明の実施の形態1に係る超音波診断装置の構成を示すブロック図である。
【図2】実施の形態1で用いられた受信回路の内部構成を示し、(A)は浅い測定深度領域に対する状態、(B)は深い測定深度領域に対する状態をそれぞれ示すブロック図である。
【図3】送信ビーム軸上の反射源から各チャンネルの超音波トランスデューサに到達する超音波エコーの遅延時間を示す図である。
【図4】実施の形態2で用いられた受信回路の内部構成を示すブロック図である。
【図5】実施の形態3で用いられた受信回路の内部構成を示すブロック図である。
【図6】実施の形態3において使用される一対のA/DコンバータのA/D変換可能範囲を示す図である。
【図7】参考例における各開口チャンネルの状態を示す図である。
【図8】実施の形態3における各開口チャンネルの状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、この発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
実施の形態1
図1に、実施の形態1に係る超音波診断装置の構成を示す。超音波診断装置は、超音波プローブ1と、この超音波プローブ1と無線通信により接続された診断装置本体2とを備えている。
【0016】
超音波プローブ1は、1次元又は2次元のアレイ状に配列された複数の超音波トランスデューサ3を有し、これら超音波トランスデューサ3に受信回路4が接続され、さらに受信回路4にパラレル/シリアル変換部5を介して無線通信部6が接続されている。受信回路4は、複数の超音波トランスデューサ3にそれぞれ対応して接続された複数の受信信号処理部4Aを含んでいる。また、複数の超音波トランスデューサ3に送信駆動部7を介して送信制御部8が接続され、受信回路4内の複数の受信信号処理部4Aに受信制御部9が接続され、無線通信部6に通信制御部10が接続されている。そして、パラレル/シリアル変換部5、送信制御部8、受信制御部9および通信制御部10にプローブ制御部11が接続されている。
【0017】
複数の超音波トランスデューサ3は、それぞれ送信駆動部7から供給される駆動信号に従って超音波を送信すると共に被検体からの超音波エコーを受信して受信信号を出力する。各超音波トランスデューサ3は、例えば、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)に代表される圧電セラミックや、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)に代表される高分子圧電素子、PMN−PT(マグネシウムニオブ酸・チタン酸鉛固溶体)に代表される圧電単結晶等からなる圧電体の両端に電極を形成した振動子によって構成される。
そのような振動子の電極に、パルス状又は連続波の電圧を印加すると、圧電体が伸縮し、それぞれの振動子からパルス状又は連続波の超音波が発生して、それらの超音波の合成により超音波ビームが形成される。また、それぞれの振動子は、伝搬する超音波を受信することにより伸縮して電気信号を発生し、それらの電気信号は、超音波の受信信号として出力される。
【0018】
送信駆動部7は、例えば、複数のパルサを含んでおり、送信制御部8によって選択された送信遅延パターンに基づいて、複数の超音波トランスデューサ3から送信される超音波が被検体内の組織のエリアをカバーする幅広の超音波ビームを形成するようにそれぞれの駆動信号の遅延量を調節して複数の超音波トランスデューサ3に供給する。
受信回路4の各受信信号処理部4Aは、受信制御部9の制御の下で、対応する超音波トランスデューサ3から出力される受信信号に対して直交検波処理又は直交サンプリング処理を施すことにより複素ベースバンド信号を生成し、複素ベースバンド信号をサンプリングすることにより、組織のエリアの情報を含むサンプルデータを生成して、サンプルデータをパラレル/シリアル変換部5に供給する。受信信号処理部4Aは、複素ベースバンド信号をサンプリングして得られるデータに高能率符号化のためのデータ圧縮処理を施すことによりサンプルデータを生成してもよい。
パラレル/シリアル変換部5は、複数の受信信号処理部4Aによって生成されたパラレルのサンプルデータを、シリアルのサンプルデータに変換する。
【0019】
無線通信部6は、シリアルのサンプルデータに基づいてキャリアを変調して伝送信号を生成し、伝送信号をアンテナに供給してアンテナから電波を送信することにより、シリアルのサンプルデータを送信する。変調方式としては、例えば、ASK(Amplitude Shift Keying)、PSK(Phase Shift Keying)、QPSK(Quadrature Phase Shift Keying)、16QAM(16 Quadrature Amplitude Modulation)等が用いられる。
無線通信部6は、診断装置本体2との間で無線通信を行うことにより、サンプルデータを診断装置本体2に送信すると共に、診断装置本体2から各種の制御信号を受信して、受信された制御信号を通信制御部10に出力する。通信制御部10は、プローブ制御部11によって設定された送信電波強度でサンプルデータの送信が行われるように無線通信部6を制御すると共に、無線通信部6が受信した各種の制御信号をプローブ制御部11に出力する。
【0020】
プローブ制御部11は、診断装置本体2から送信される各種の制御信号に基づいて、超音波プローブ1の各部の制御を行う。
超音波プローブ1には、図示しないバッテリが内蔵され、このバッテリから超音波プローブ1内の各回路に電源供給が行われる。
なお、超音波プローブ1は、リニアスキャン方式、コンベックススキャン方式、セクタスキャン方式等の体外式プローブでもよいし、ラジアルスキャン方式等の超音波内視鏡用プローブでもよい。
【0021】
一方、診断装置本体2は、無線通信部21を有し、この無線通信部21にシリアル/パラレル変換部22を介してデータ格納部23が接続され、データ格納部23に画像生成部24が接続されている。さらに、画像生成部24に表示制御部25を介して表示部26が接続されている。また、無線通信部21に通信制御部27が接続され、シリアル/パラレル変換部22、データ格納部23、画像生成部24、表示制御部25および通信制御部27に本体制御部28が接続されている。さらに、本体制御部28には、オペレータが入力操作を行うための操作部29と、動作プログラムを格納する格納部30がそれぞれ接続されている。
【0022】
無線通信部21は、超音波プローブ1との間で無線通信を行うことにより、各種の制御信号を超音波プローブ1に送信する。また、無線通信部21は、アンテナによって受信される信号を復調することにより、シリアルのサンプルデータを出力する。
通信制御部27は、本体制御部28によって設定された送信電波強度で各種の制御信号の送信が行われるように無線通信部21を制御する。
シリアル/パラレル変換部22は、無線通信部21から出力されるシリアルのサンプルデータを、パラレルのサンプルデータに変換する。データ格納部23は、メモリまたはハードディスク等によって構成され、シリアル/パラレル変換部22によって変換された少なくとも1フレーム分のサンプルデータを格納する。
画像生成部24は、データ格納部23から読み出される1フレーム毎のサンプルデータに受信フォーカス処理を施して、超音波診断画像を表す画像信号を生成する。画像生成部24は、整相加算部31と画像処理部32とを含んでいる。
【0023】
整相加算部31は、本体制御部28において設定された受信方向に応じて、予め記憶されている複数の受信遅延パターンの中から1つの受信遅延パターンを選択し、選択された受信遅延パターンに基づいて、サンプルデータによって表される複数の複素ベースバンド信号にそれぞれの遅延を与えて加算することにより、受信フォーカス処理を行う。この受信フォーカス処理により、超音波エコーの焦点が絞り込まれたベースバンド信号(音線信号)が生成される。
【0024】
画像処理部32は、整相加算部31によって生成される音線信号に基づいて、被検体内の組織に関する断層画像情報であるBモード画像信号を生成する。画像処理部32は、STC(sensitivity time control)部と、DSC(digital scan converter:デジタル・スキャン・コンバータ)とを含んでいる。STC部は、音線信号に対して、超音波の反射位置の深度に応じて、距離による減衰の補正を施す。DSCは、STC部によって補正された音線信号を通常のテレビジョン信号の走査方式に従う画像信号に変換(ラスター変換)し、階調処理等の必要な画像処理を施すことにより、Bモード画像信号を生成する。
表示制御部25は、画像生成部24によって生成される画像信号に基づいて、表示部26に超音波診断画像を表示させる。表示部26は、例えば、LCD等のディスプレイ装置を含んでおり、表示制御部25の制御の下で、超音波診断画像を表示する。
本体制御部28は、操作者により操作部29から入力された各種の指令信号等に基づいて、診断装置本体2内の各部の制御を行うものである。
【0025】
このような診断装置本体2において、シリアル/パラレル変換部22、画像生成部24、表示制御部25、通信制御部27および本体制御部28は、CPUと、CPUに各種の処理を行わせるための動作プログラムから構成されるが、それらをデジタル回路で構成してもよい。上記の動作プログラムは、格納部30に格納される。格納部30における記録媒体としては、内蔵のハードディスクの他に、フレキシブルディスク、MO、MT、RAM、CD−ROM、DVD−ROM、SDカード、CFカード、USBメモリ等の記録メディア、またはサーバ等を用いることができる。
【0026】
ここで、超音波プローブ1内の受信回路4の内部構成を図2(A)に示す。受信回路4は、複数の超音波トランスデューサ3に対応した複数の受信信号処理部4Aを含んでおり、各受信信号処理部4Aは、対応する超音波トランスデューサ3から出力される受信信号を増幅するプリアンプ41および可変利得アンプ42と、受信信号から信号検出に用いられない高周波成分を除去するローパスフィルタ43と、受信信号をA/D変換するA/Dコンバータ44とが順次直列に接続された構成を有している。
【0027】
複数の超音波トランスデューサ3からなる複数チャンネルのうち、送信ビーム軸を中心として所定数のチャンネルが超音波エコーの受信時に同時開口されるが、送信ビーム軸に対して対称な位置に配置された一対の開口チャンネルでそれぞれ得られた受信信号を互いに加算することができるように構成されている。例えば、図2(A)において、チャンネルch(0)を送信ビーム軸とした場合、チャンネルch(n)におけるプリアンプ41の出力側に切替スイッチ45を接続すると共に、チャンネルch(0)に対してチャンネルch(n)と対称な位置に配置されたチャンネルch(−n)におけるプリアンプ41の出力側に加算器46を接続し、切替スイッチ45の切り換えに応じて、チャンネルch(n)とチャンネルch(−n)の超音波トランスデューサ3でそれぞれ得られた受信信号を、それぞれ対応するプリアンプ41で増幅した後、互いに加算するか否かを選択可能とする。
【0028】
そして、超音波診断の測定深度が所定の測定深度D0より浅い領域に対しては、図2(A)に示されるように、チャンネルch(n)とチャンネルch(−n)を互いに接続しないように切替スイッチ45を設定し、測定深度が所定の測定深度D0以上に深い領域に対しては、図2(B)に示されるように、チャンネルch(n)とチャンネルch(−n)を互いに接続するように切替スイッチ45を切り換える。
【0029】
これは、浅い測定深度領域では、各超音波トランスデューサ3で得られる受信信号の強度が比較的大きいため、各チャンネルの受信信号をそのまま対応する受信信号処理部4Aで独立して処理しても良好な分解能でA/D変換することができるが、深い測定深度領域では、各超音波トランスデューサ3で得られる受信信号の強度が小さくなるため、送信ビーム軸に対して対称な位置関係にあるチャンネルch(n)とチャンネルch(−n)における受信信号を互いに加算した上でA/D変換しようとするものである。
【0030】
このとき、図3に示されるように、送信ビーム軸C上に位置する反射源Pからの超音波エコーの強度は、送信ビーム軸Cに関して概ね軸対称となり、各チャンネルの超音波トランスデューサ3への超音波エコーの到達時間も送信ビーム軸Cに関して軸対称となる。このため、送信ビーム軸Cに対して対称な位置に配置された一対のチャンネルにおける受信信号を互いに同一タイミングで加算するだけで、強度が2倍になった受信信号を作成することができ、この受信信号をA/Dコンバータ44に入力させて良好な分解能でA/D変換することが可能となる。
なお、「n」は、任意の自然数を表している。
【0031】
次に、この実施の形態1の動作について説明する。
予め、超音波プローブ1のプローブ制御部11に所定の測定深度D0が格納されているものとする。
まず、超音波プローブ1の送信駆動部7から供給される駆動信号に従って複数の超音波トランスデューサ3から超音波が送信され、被検体からの超音波エコーを受信した各超音波トランスデューサ3から出力された受信信号が受信回路4のそれぞれ対応する受信信号処理部4Aに供給される。
【0032】
ここで、プローブ制御部11の制御の下、受信制御部9は、所定の測定深度D0より浅い領域に対しては、すなわち、超音波の送信から所定の測定深度D0に対応する時間が経過するまでは、図2(A)に示されるように、送信ビーム軸に対して対称なチャンネルch(n)とチャンネルch(−n)を互いに接続しないように切替スイッチ45を設定する。これにより、受信時に同時開口した各チャンネルの受信信号は、対応する受信信号処理部4Aで独立してA/D変換され、サンプルデータとして出力される。
【0033】
一方、受信制御部9は、所定の測定深度D0以上に深い領域に対しては、すなわち、超音波の送信から所定の測定深度D0に対応する時間が経過した後は、図2(B)に示されるように、送信ビーム軸に対して対称なチャンネルch(n)とチャンネルch(−n)を互いに接続するように切替スイッチ45を設定する。これにより、チャンネルch(n)とチャンネルch(−n)における受信信号は互いに加算されて、強度が2倍になった受信信号が作成される。この受信信号が例えばチャンネルch(−n)のA/Dコンバータ44でA/D変換され、チャンネルch(n)とチャンネルch(−n)の双方におけるそれぞれのサンプルデータとして出力される。
同様にして、受信時の同時開口チャンネルのうち、送信ビーム軸に対して対称な位置に配置されたそれぞれの開口チャンネル対において、受信信号が互いに加算された上でA/D変換され、これら開口チャンネル対のサンプルデータとして出力される。
【0034】
このようにして生成されたサンプルデータがパラレル/シリアル変換部5でシリアル化された後に無線通信部6から診断装置本体2へ無線伝送される。診断装置本体2の無線通信部21で受信されたサンプルデータは、シリアル/パラレル変換部22でパラレルのデータに変換され、データ格納部23に格納される。さらに、データ格納部23から1フレーム毎のサンプルデータが読み出され、画像生成部24で画像信号が生成され、この画像信号に基づいて表示制御部25により超音波診断画像が表示部26に表示される。
【0035】
以上のように、深い測定深度領域では、送信ビーム軸に対して対称な位置関係にあるチャンネルch(n)とチャンネルch(−n)における受信信号を互いに加算した上でA/D変換して1つの受信データを生成し、この受信データを双方のチャンネルch(n)とチャンネルch(−n)におけるそれぞれの受信データとして出力するので、超音波エコー強度の小さい深い測定深度領域に対しても、良好な分解能で受信信号のA/D変換を行うことができる。また、各チャンネルに配設されるプリアンプ41およびA/Dコンバータ44は1つずつで済むので、簡単な構成且つ低消費電力でありながら、高画質の超音波画像の生成を図ることが可能となる。
【0036】
実施の形態2
図4に、実施の形態2に係る超音波診断装置における受信回路51の構成を示す。この受信回路51は、例えば128チャンネル構成のアレイトランスデューサに接続されたマルチプレクサ52を有しており、このマルチプレクサ52に64個のプリアンプ41が接続されている。64個のプリアンプ41は、クロスポイントスイッチ53を介して64個の可変利得アンプ42に接続され、各可変利得アンプ42にローパスフィルタ43とA/Dコンバータ44とが順次接続されている。
【0037】
マルチプレクサ52は、128個の超音波トランスデューサ3から64個の超音波トランスデューサ3を選択的に64個のプリアンプ41に接続することで、最大64チャンネルを同時開口させることができる。
クロスポイントスイッチ53は、64個のプリアンプ41のそれぞれを64個の可変利得アンプ42のいずれかに選択的に接続するものである。
なお、実施の形態2に係る超音波診断装置は、受信回路51以外は、図1に示した実施の形態1の超音波診断装置と同様の構成を有している。
【0038】
一般的に、超音波診断においては、所定数の同時開口チャンネルを走査しながら超音波の送受信が行われるため、走査する毎に送信ビーム軸の位置が移動することとなる。そこで、この実施の形態2では、マルチプレクサ52により同時開口チャンネルが選択される毎に、同時開口チャンネルのうち、送信ビーム軸に対して対称な位置関係にある一対のチャンネル間の接続/非接続がクロスポイントスイッチ53によって制御される。
すなわち、所定の測定深度D0より浅い領域に対しては、送信ビーム軸に対して対称な一対のチャンネルを互いに接続せずにそれぞれ独立してA/D変換するようにクロスポイントスイッチ53が作用し、所定の測定深度D0以上に深い領域に対しては、送信ビーム軸に対して対称な一対のチャンネルを互いに接続して、これらのチャンネルにおける受信信号を加算した後にA/D変換されるようにクロスポイントスイッチ53が作用する。
【0039】
このように、同時開口チャンネルを走査しながら超音波の送受信を行っても、常に、深い測定深度領域では、送信ビーム軸に対して対称な位置関係にあるチャンネル対における受信信号を互いに加算した上でA/D変換して1つの受信データを生成し、この受信データを双方のチャンネルにおけるそれぞれの受信データとして出力することができる。このため、高画質の超音波画像の生成を図ることが可能となる。
なお、この実施の形態2においては、128チャンネル構成のアレイトランスデューサに64チャンネル構成の受信回路51を接続したが、これらのチャンネル数およびビット数は、単なる一例に過ぎず、限定されるものではない。
【0040】
実施の形態3
図5に、実施の形態3に係る超音波診断装置における受信回路の構成を示す。
複数の超音波トランスデューサ3のそれぞれにプリアンプ41、可変利得アンプ42、ローパスフィルタ43およびA/Dコンバータ44が順次直列に接続されている。
複数の超音波トランスデューサ3からなる複数チャンネルのうち、送信ビーム軸を中心として所定数のチャンネルが超音波エコーの受信時に同時開口されるが、送信ビーム軸に対して対称な位置に配置された一対の開口チャンネルにおけるA/D変換のダイナミックレンジを互いに異ならせることができるように構成されている。
【0041】
例えば、図5において、チャンネルch(0)を送信ビーム軸とした場合、チャンネルch(0)に対して互いに対称な位置に配置されたチャンネルch(n)とチャンネルch(−n)のプリアンプ41にそれぞれ並列に利得変更回路61が接続され、これらの利得変更回路61が受信制御部9に接続される。さらに、チャンネルch(n)とチャンネルch(−n)のA/Dコンバータ44の出力端にデータ結合器62が接続される。
なお、「n」は、任意の自然数を表している。
利得変更回路61および受信制御部9により利得変更手段が、データ結合器62によりデータ結合手段が、それぞれ構成されている。
【0042】
図3に示したように、送信ビーム軸C上に位置する反射源Pからの超音波エコーの強度は、送信ビーム軸Cに関して概ね軸対称となり、各チャンネルの超音波トランスデューサ3への超音波エコーの到達時間も送信ビーム軸Cに関して軸対称となる。そこで、この実施の形態3では、送信ビーム軸Cに対して対称な位置に配置された一対のチャンネルch(n)およびチャンネルch(−n)におけるプリアンプ41が互いに異なる利得を有するように、それぞれのプリアンプ41に並列接続されている利得変更回路61が受信制御部9によって制御される。
【0043】
超音波エコーの受信時には、送信ビーム軸に対して対称なチャンネルch(n)およびチャンネルch(−n)における受信信号が、互いに異なる利得に設定されたプリアンプ41で増幅された後に、A/Dコンバータ44でA/D変換され、さらに、A/D変換されたこれら一対のデータがデータ結合器62で互いに結合されてチャンネルch(n)およびチャンネルch(−n)における受信データとして出力される。
同様にして、受信時の同時開口チャンネルのうち、送信ビーム軸に対して対称な位置に配置されたそれぞれの開口チャンネル対において、受信信号が互いに異なる利得に設定されたプリアンプ41で増幅され、A/Dコンバータ44でA/D変換され、データ結合器62で互いに結合されて、これら開口チャンネル対のサンプルデータとして出力される。
【0044】
例えば、図6に示されるように、チャンネルch(n)におけるプリアンプ41の利得に対してチャンネルch(−n)におけるプリアンプ41の利得が8倍に設定されると、チャンネルch(n)におけるA/D変換のダイナミックレンジを0〜0.8Vとしたとき、チャンネルch(−n)におけるA/D変換のダイナミックレンジは0〜0.1Vとなる。ここで、各チャンネルに用いられたA/Dコンバータ44の有効ビット長を512ビットとすれば、チャンネルch(n)では、0.8/512=1.5625mVの分解能でA/D変換が行われ、一方、チャンネルch(−n)では、0.1/512=195μVの分解能でA/D変換が行われることとなる。
【0045】
すなわち、チャンネルch(n)およびチャンネルch(−n)で得られたほぼ同一の受信信号に対して、高出力レベル側の信号部分をチャンネルch(n)において第1のダイナミックレンジ(0〜0.8V)でA/D変換し、低出力レベル側の信号部分をチャンネルch(−n)において第2のダイナミックレンジ(0〜0.1V)でA/D変換し、これらA/D変換されたデータをデータ結合器62で互いに結合することができる。
このため、単一のチャンネルで受信信号の出力レベルの全域をA/D変換するよりも、高い分解能でA/D変換を行うことが可能となる。すなわち、有効ビット長の短いA/Dコンバータを使用しても、高画質の超音波画像の生成を実現することが可能となる。
【0046】
なお、送信ビーム軸Cに関する超音波エコーの軸対称性のわずかなずれを考慮すると、図7のように、「■」で示される第1のダイナミックレンジのチャンネルA1と、「□」で示される第2のダイナミックレンジのチャンネルA2とが、互いに送信ビーム軸Cの両側に片寄って配置されているよりも、図8のように、双方のチャンネルA1およびチャンネルA2が送信ビーム軸Cの両側に分散して配置されている方が好ましい。このようにすれば、再現性の優れた超音波画像を得ることができる。
【0047】
上記の実施の形態1〜3では、超音波プローブ1と診断装置本体2とが互いに無線通信により接続されていたが、これに限るものではなく、接続ケーブルを介して超音波プローブ1が診断装置本体2に接続されていてもよい。この場合には、超音波プローブ1の無線通信部6および通信制御部10、診断装置本体2の無線通信部21および通信制御部27等は不要となる。
【符号の説明】
【0048】
1 超音波プローブ、2 診断装置本体、3 超音波トランスデューサ、4,51 受信回路、4A 受信信号処理部、5 パラレル/シリアル変換部、6 無線通信部、7 送信駆動部、8 送信制御部、9 受信制御部、10 通信制御部、11 プローブ制御部、21 無線通信部、22 シリアル/パラレル変換部、23 データ格納部、24 画像生成部、25 表示制御部、26 表示部、27 通信制御部、28 本体制御部、29 操作部、30 格納部、31 整相加算部、32 画像処理部、41 プリアンプ、42 可変利得アンプ、43 ローパスフィルタ、44 A/Dコンバータ、45 切替スイッチ、46 加算器、52 マルチプレクサ、53 クロスポイントスイッチ、61 利得変更回路、62 データ結合器、C 送信ビーム軸、P 反射源、A1 第1のダイナミックレンジのチャンネル、A2 第2のダイナミックレンジのチャンネル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アレイトランスデューサから被検体に向けて超音波ビームが送信されると共に被検体による超音波エコーを受信した前記アレイトランスデューサから出力された受信信号を処理し、処理された受信信号に基づいて超音波画像を生成する超音波診断装置であって、
受信時に使用される同時開口チャンネルのうち送信ビーム軸に対して対称な位置に配置された一対の開口チャンネルにおける一対の受信信号を処理することにより1つの受信データを生成すると共に生成された受信データをこれら一対の開口チャンネルにおけるそれぞれの受信データとして出力する受信回路を備えたことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
前記受信回路は、前記一対の開口チャンネルにおける一対の受信信号を互いに加算した後にA/D変換することにより前記1つの受信データを生成する請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項3】
前記受信回路は、所定の測定深度より浅い領域に対しては、前記一対の開口チャンネルにおける一対の受信信号をそれぞれ独立してA/D変換することによりこれら一対の開口チャンネルにおける受信データを生成する請求項2に記載の超音波診断装置。
【請求項4】
前記受信回路は、それぞれ前記アレイトランスデューサから出力された受信信号を増幅する複数のプリアンプと、それぞれ受信信号をA/D変換する複数のA/Dコンバータと、前記複数のプリアンプと前記複数のA/Dコンバータとを互いに選択的に接続するクロスポイントスイッチとを含む請求項2または3に記載の超音波診断装置。
【請求項5】
前記受信回路は、前記一対の開口チャンネルにおける一対の受信信号のうち一方の受信信号を第1のダイナミックレンジでA/D変換すると共に他方の受信信号を前記第1のダイナミックレンジと異なる第2のダイナミックレンジでA/D変換した後、互いに結合することにより前記1つの受信データを生成する請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項6】
前記受信回路は、それぞれ対応するチャンネルにおける受信信号を増幅する複数のプリアンプと、前記複数のプリアンプで増幅された受信信号をそれぞれA/D変換する複数のA/Dコンバータと、前記一対の開口チャンネルに対応する一対の前記プリアンプの利得を互いに異なるように変更する利得変更手段と、前記一対の開口チャンネルに対応する一対の前記A/DコンバータでA/D変換された一対のデータを互いに結合して前記1つの受信データを生成するデータ結合手段とを含む請求項5に記載の超音波診断装置。
【請求項7】
前記受信回路は、受信時に使用される同時開口チャンネルにおいて、受信信号が前記第1のダイナミックレンジでA/D変換されるチャンネルと受信信号が前記第2のダイナミックレンジでA/D変換されるチャンネルとを送信ビーム軸の両側に分散して配置させる請求項5または6に記載の超音波診断装置。
【請求項8】
アレイトランスデューサから被検体に向けて超音波ビームが送信されると共に被検体による超音波エコーを受信した前記アレイトランスデューサから出力された受信信号を処理し、処理された受信信号に基づいて超音波画像を生成する超音波画像生成方法であって、
受信時に使用される同時開口チャンネルのうち送信ビーム軸に対して対称な位置に配置された一対の開口チャンネルにおける一対の受信信号を処理することにより1つの受信データを生成すると共に生成された受信データをこれら一対の開口チャンネルにおけるそれぞれの受信データとすることを特徴とする超音波画像生成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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