説明

超音波診断装置および超音波診断方法

【課題】高精度に血管壁の弾性特性を測定することが可能な超音波診断装置を提供する。
【解決手段】第1の超音波ビームで超音波探触子1から被検体の血管に対して送受信を行った際に超音波探触子1から出力される受信信号の振幅情報に基づいて血管の長軸像における心拍に伴う血管壁の径方向の拡張収縮方向を血管壁拡張収縮方向検出部9が検出し、検出された血管壁の拡張収縮方向に平行な第2の超音波ビームで超音波探触子1から被検体の血管に対して送受信が行われるように送受信制御部11が送受信部3を制御し、第2の超音波ビームで送受信を行った際に超音波探触子1から出力される受信信号の振幅情報および位相情報を用いて血管壁トラッキング部13が血管壁の動きをトラッキングし、トラッキングされた血管壁の動きに基づいて血管壁弾性特性演算部14が血管壁の弾性特性を演算する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、超音波診断装置および超音波診断方法に係り、特に、血管壁の弾性特性を測定するための超音波診断装置および超音波診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、医療分野において、超音波画像を利用した超音波診断装置が実用化されている。一般に、この種の超音波診断装置は、振動子アレイを内蔵した超音波プローブと、この超音波プローブに接続された装置本体とを有しており、超音波プローブから被検体に向けて超音波を送信し、被検体からの超音波エコーを超音波プローブで受信して、その受信信号を装置本体で電気的に処理することにより超音波画像が生成されると共に様々な疾患情報が得られる。
【0003】
疾患の種類に応じて超音波診断される被検体の部位は異なり、例えば、脳梗塞などの循環器系疾患では、その原因となるプラークが形成され易い頸動脈の測定が試みられる。このような頸動脈超音波診断では、プラークの厚さや弾性特性を測定することで、血管の狭窄の程度やプラークの破裂性(破れ易さ)等の情報が得られる。これらの情報を正確に得るには、超音波ビームを血管壁に対して垂直に入射させ、心拍動に伴う血管壁の微小な変化を高精度に検出することが望まれる。しかし、頸動脈はプラークが形成され易い位置(総頸動脈が内頸動脈と外頸動脈に分岐する位置)において体表に対して平行に延びていないことが多いため、超音波ビームを血管壁に垂直に入射させることが困難であった。
【0004】
そこで、例えば、特許文献1には、超音波ビームの方向をステアリングして様々な方向に超音波ビームを送信し、反射された超音波エコーの振幅が極大値を示すような超音波ビームの方向を血管壁に垂直に入射する方向として選択する超音波診断装置が開示されている。
また、特許文献2には、超音波ビームが血管の中心を通るように走査することで超音波ビームと血管壁を直交させる超音波診断装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−299752号公報
【特許文献2】特開2005−074146号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の超音波診断装置では、超音波ビームが血管壁に対して垂直に入射するか否かを振幅の極大値により判断するため、壁の厚さが一定の血管に対しては垂直に入射する超音波ビームの方向を正確に選定することが可能となる。しかしながら、血管壁の厚さがプラーク等で一定でない場合は、プラーク周辺の血管壁に傾斜面が形成され、その傾斜面に垂直に入射した超音波ビームにより得られた超音波エコーの振幅も極大値を示すため、頸動脈エコーに基づいて血管壁の弾性特性を高精度に測定することができないおそれがある。
特許文献2の超音波診断装置では、血管壁に接する円を近似することによりその中心を設定するため、壁の厚さが一定の血管に対しては超音波ビームを血管壁に直交させることが可能となる。しかしながら、血管壁の厚さが一定でない場合や血管の中心軸に沿った長軸断面では、血管の中心を設定することが困難であるため頸動脈エコーに基づいて血管壁の弾性特性を高精度に測定することができないおそれがある。
【0007】
この発明は、このような従来の問題点を解消するためになされたもので、高精度に血管壁の弾性特性を測定することが可能な超音波診断装置および超音波診断方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係る超音波診断装置は、送受信部により超音波探触子から被検体に対して超音波ビームの送受信を行い、前記超音波探触子から出力された受信信号に基づいて超音波画像を生成する超音波診断装置であって、第1の超音波ビームで前記超音波探触子から被検体の血管に対して送受信を行った際に前記超音波探触子から出力される受信信号の振幅情報に基づいて血管の長軸像における心拍に伴う血管壁の径方向の拡張収縮方向を検出する血管壁拡張収縮方向検出部と、前記血管拡張収縮方向検出部で検出された血管壁の拡張収縮方向に平行な第2の超音波ビームで前記超音波探触子から被検体の血管に対して送受信が行われるように前記送受信部を制御する送受信制御部と、前記第2の超音波ビームで送受信を行った際に前記超音波探触子から出力される受信信号の振幅情報および位相情報を用いて血管壁の動きをトラッキングする血管壁トラッキング部と、前記血管壁トラッキング部でトラッキングされた血管壁の動きに基づいて血管壁の弾性特性を演算する血管壁弾性特性演算部とを備えるものである。
【0009】
ここで、前記血管壁拡張収縮方向検出部は、前記第1の超音波ビームで送受信を行った際に前記超音波探触子から出力される受信信号の振幅情報に基づいて血管壁の動きをトラッキングすることにより血管壁の拡張収縮方向を検出してもよい。
また、前記血管壁拡張収縮方向検出部は、前記第1の超音波ビームで送受信を行った際に前記超音波探触子から出力される受信信号の振幅情報に基づいて血管内腔と血管壁の境界を検出し、検出された境界と略垂直な方向を血管壁の拡張収縮方向として検出してもよい。
【0010】
また、前記血管壁トラッキング部は、心拍に伴って血管壁が前記拡張収縮方向と垂直な方向に移動する場合に、移動前後のそれぞれの位置に対応する受信信号の振幅情報および位相情報を用いて血管壁の動きをトラッキングすることができる。
【0011】
また、本発明に係る超音波診断方法は、送受信部により超音波探触子から被検体に対して超音波ビームの送受信を行い、前記超音波探触子から出力された受信信号に基づいて超音波画像を生成する超音波診断方法であって、第1の超音波ビームで前記超音波探触子から被検体の血管に対して送受信を行った際に前記超音波探触子から出力される受信信号の振幅情報に基づいて血管の長軸像における心拍に伴う血管壁の径方向の拡張収縮方向を検出し、検出された血管壁の拡張収縮方向に平行な第2の超音波ビームで前記超音波探触子から被検体の血管に対して送受信を行い、前記第2の超音波ビームで送受信を行った際に前記超音波探触子から出力される受信信号の振幅情報および位相情報を用いて血管壁の動きをトラッキングし、トラッキングされた血管壁の動きに基づいて血管壁の弾性特性を演算するものである。
【0012】
ここで、血管壁の拡張収縮方向の検出は、前記第1の超音波ビームで送受信を行った際に前記超音波探触子から出力される受信信号の振幅情報に基づいて血管壁の動きをトラッキングすることにより行われてもよい。
また、血管壁の拡張収縮方向の検出は、前記第1の超音波ビームで送受信を行った際に前記超音波探触子から出力される受信信号の振幅情報に基づいて血管内腔と血管壁の境界を検出し、検出された境界と略垂直な方向を血管壁の拡張収縮方向として検出することにより行われてもよい。
【0013】
また、血管壁の動きのトラッキングは、心拍に伴って血管壁が前記拡張収縮方向と垂直な方向に移動する場合に、移動前後のそれぞれの位置に対応する受信信号の振幅情報および位相情報を用いて行うことができる。
【発明の効果】
【0014】
この発明によれば、第1の超音波ビームにより得られた振幅情報に基づいて血管壁の拡張収縮方向を検出し、この拡張収縮方向に平行な第2の超音波ビームを送受信するため、高精度に血管壁の弾性特性を測定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】この発明の実施形態1に係る超音波診断装置を示すブロック図である。
【図2】実施形態1における超音波診断装置の動作を示すフローチャートである。
【図3】拡張収縮する血管壁に対して第1の超音波ビームを送信する様子を示す図である。
【図4】血管壁の拡張収縮方向に平行に第2の超音波ビームを送信する様子を示す図である。
【図5】1心拍における各反射点の位置の変動を示す図である。
【図6】(A)は1心拍における反射点R1とR2の間の厚みの変化を示す図であり、(B)は1心拍における反射点R2とR3の間の厚みの変化を示す図である。
【図7】プラークのひずみ画像を示す図である。
【図8】実施形態2に係る超音波診断装置を示すブロック図である。
【図9】実施形態3において第1の超音波ビームおよび第2の超音波ビームを送信する様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、この発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
実施形態1
図1に、この発明の実施形態1に係る超音波診断装置の構成を示す。超音波診断装置は、超音波を送受信する超音波探触子1と、超音波探触子1に接続された診断装置本体2を備えている。診断装置本体2は、超音波探触子1による超音波の送受信を制御すると共に取得された受信信号に基づいて超音波画像を表す画像データを生成し、さらに血管壁の弾性特性を演算し、ひずみ画像を表示する機能を有する。
【0017】
超音波探触子1は、コンベックスタイプ、リニアスキャンタイプ、または、セクタスキャンタイプ等の、被検体の体表に当接させて用いられるプローブである。超音波探触子1は、1次元または2次元に配列された複数の超音波トランスデューサを備えている。これらの超音波トランスデューサは、印加される駆動信号に基づいて被検体に向けて超音波を送信すると共に、被検体で反射された超音波エコーを受信することにより受信信号を出力する。
【0018】
各超音波トランスデューサは、例えば、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛:Pb(lead) zirconate titanate)に代表される圧電セラミック、PVDF(ポリフッ化ビニリデン:polyvinylidene difluoride)に代表される高分子圧電素子等からなる圧電体の両端に電極を形成した振動子によって構成される。このような振動子の電極に、パルス状または連続波の電圧を印加すると、圧電体が伸縮する。この伸縮によって、それぞれの振動子からパルス状または連続波の超音波が発生し、これらの超音波の合成によって超音波ビームが形成される。また、それぞれの振動子は、伝搬する超音波を受信することによって伸縮し、電気信号を発生する。これらの電気信号は、超音波の受信信号として出力される。
【0019】
診断装置本体2は、超音波探触子1に接続された送受信部3を有し、この送受信部3に断層画像形成部4が接続され、断層画像形成部4に表示制御部5を介して表示部6が接続されている。また、断層画像形成部4には、血管壁検出部7、血管壁各部動き方向検出部8、血管壁拡張収縮方向検出部9およびビーム方位設定部10を順次介して送受信制御部11が接続され、この送受信制御部11が送受信部3に接続されている。さらに、送受信部3には、位相情報演算部12、血管壁トラッキング部13および血管壁弾性特性演算部14が順次接続され、血管壁弾性特性演算部14が表示制御部5に接続されている。
【0020】
送受信制御部11は、送受信部3を介して超音波探触子1による超音波ビームの送信方向および超音波エコーの受信方向を順次設定するもので、設定された送信方向に応じて送信遅延パターンを選択する送信制御機能と、設定された受信方向に応じて受信遅延パターンを選択する受信制御機能とを有している。
ここで、送信遅延パターンとは、超音波探触子1の複数の超音波トランスデューサから送信される超音波によって所望の方向に超音波ビームを形成するために各超音波トランスデューサの駆動信号に与えられる遅延時間のパターンであり、受信遅延パターンとは、複数の超音波トランスデューサによって受信される超音波によって所望の方向からの超音波エコーを抽出するために受信信号に与えられる遅延時間のパターンである。複数の送信遅延パターン及び複数の受信遅延パターンが送受信制御部11に内蔵された記憶装置に格納されていて、局面に応じ選択して利用される。
【0021】
送受信部3は、送信回路と受信回路を内蔵している。送信回路は、複数のチャンネルを備えており、超音波探触子1の複数の超音波トランスデューサにそれぞれ印加される複数の駆動信号を生成する。その際に、送受信制御部11によって選択された送信遅延パターンに基づいて、複数の駆動信号にそれぞれの遅延時間を与えることができる。送信回路は、複数の超音波トランスデューサから送信される超音波が超音波ビームを形成するように、複数の駆動信号の遅延量を調節して超音波探触子1に供給するようにしてもよいし、複数の超音波トランスデューサから一度に送信される超音波が被検体の撮像領域全体に届くように構成した複数の駆動信号を超音波探触子1に供給するようにしてもよい。
【0022】
送受信部3の受信回路は、複数のチャンネルを備えており、複数の超音波トランスデューサからそれぞれ出力される複数のアナログの受信信号を受信して増幅し、デジタルの受信信号に変換する。さらに、送受信制御部11によって選択された受信遅延パターンに基づいて、複数の受信信号にそれぞれの遅延時間を与え、それらの受信信号を加算することにより、受信フォーカス処理を行う。この受信フォーカス処理によって、超音波エコーの焦点が絞り込まれた音線信号(音線データ)が形成される。
次に、音線データは、ローパスフィルタ処理等によって包絡線検波処理を施して、STC(Sensitivity Time gain Control)により超音波の反射位置の深度に応じて距離に応じた減衰の補正をする。
【0023】
このように処理された音線データは、複数フレーム分の音線データを蓄積するためのメモリ容量を有するデータメモリに順次格納される。受信回路は、画像データ生成機能を備えており、ライブモードにおいては直接供給される音線データを、フリーズモードにおいてはデータメモリから供給される音線データをそれぞれ入力し、これら音線データに対して、Log(対数)圧縮やゲイン調整等のプリプロセス処理を施して画像データを生成し、断層画像形成部4に出力する。
断層画像形成部4は、送受信部3の受信回路から供給された超音波画像の画像データを通常のテレビジョン信号の走査方式に従う画像データにラスター変換し、階調処理等の必要な画像処理を施して表示制御部5に供給する。また、断層画像形成部4は、超音波画像の画像データを血管壁検出部7に供給する。
【0024】
表示制御部5は、断層画像形成部4から供給された画像データに基づいて、表示部6に超音波診断画像を表示させる。表示部6は、例えば、LCD等のディスプレイ装置を含んでおり、表示制御部5の制御の下で、超音波診断画像を表示する。
【0025】
血管壁検出部7は、断層画像形成部4から供給された画像データに画像処理を施す等により血管壁の位置を検出する。血管壁各部動き方向検出部8は、血管壁検出部7で検出された超音波画像における血管壁を複数部分に分割し、その分割された各部のフレーム毎に変動する位置に基づいて心拍に伴う血管壁の各部の動き方向を検出する。血管壁の各部の動き方向は、例えばパターンマッチング法で検出される。血管壁拡張収縮方向検出部9は、血管壁動き方向検出部8で検出された血管壁の各部の動き方向に基づいて、心拍に伴う血管壁の径方向の拡張収縮方向を検出する。ビーム方位設定部10は、血管壁拡張収縮方向検出部9で検出された血管の拡張収縮方向と平行な向きに超音波ビームが送信されるようにその方位を設定する。
送受信制御部11は、ビーム方位設定部10で設定された方位に超音波探触子1から超音波ビームが送信されるような送信遅延パターンを設定し、その送信遅延パターンを送受信部3に出力する。送信制御部11で設定された送信遅延パターンに基づいて、超音波探触子1から血管の拡張収縮方向と平行な向きに超音波ビームが送信される。
【0026】
位相情報演算部12には、血管の拡張収縮方向と平行な向きに超音波ビームの送受信を行った際の超音波探触子1からの受信信号が送受信部3を介して入力される。位相情報演算部12は、送受信部3からの受信信号に基づいて位相情報を演算する。
血管壁トラッキング部13は、位相情報演算部12を介して入力された受信信号の振幅情報と位相情報を用いて血管壁の動きを高精度にトラッキングする。トラッキングは、例えば特許第3652791号の方法により行われる。
血管壁弾性特性演算部14は、血管壁トラッキング部13でトラッキングされた血管壁の動きに基づいて血管壁の弾性特性を演算すると共にひずみ画像データを生成し、表示制御部5を介してひずみ画像を表示部6に表示させる。
【0027】
次に、図2のフローチャートを参照して、実施形態1の動作について説明する。
まず、ステップS1で、図3に示すように、超音波探触子1が体表Sに接するように配置されると、診断装置本体2における送受信部3の送信回路からの駆動信号により、超音波探触子1から第1の超音波ビームが体表Sに対して垂直方向に送信される。超音波探触子1から送信された第1の超音波ビームは血管Vの長軸方向に沿って入射すると共に血管壁で反射され、その超音波エコーが超音波探触子1の複数の超音波トランスデューサで受信される。受信された超音波エコーに応じた受信信号は、超音波探触子1から送受信部3の受信回路に出力され、この受信回路によりデジタル化されると共にそのデジタル信号の強度(振幅の大きさ)に基づいて血管Vの長軸方向に沿った断層画像の画像データがフレーム毎に生成される。このようにして生成された断層画像の画像データは、送受信部3から断層画像形成部4に出力される。
【0028】
ステップS2で、断層画像形成部4に入力された血管Vの長軸方向に沿った画像データは、階調処理等の必要な画像処理が施された後、表示制御部5に出力され、表示部6に血管Vの長軸断層画像が表示される。一方、断層画像形成部4は、長軸断層画像の画像データを血管壁検出部7に出力する。血管壁検出部7は、ステップS3で、入力された長軸断層画像の画像データにおいて血管壁と血管内腔との振幅の差を利用することで血管壁の位置を認識し、ステップS4で、その認識された血管壁の位置にパターンマッチングのための関心領域(ROI: Region of Interest)の設定を行う。すなわち、血管壁検出部7は、長軸断層画像をぼかし画像とした後、長軸断層画像における振幅が血管壁と比べて血管内腔で小さくなることを利用して2値化処理を行い、黒白エッジ部から例えば約2mmの深さの範囲を血管壁としてフレーム毎にそれぞれ関心領域を設定する。
【0029】
関心領域が設定された長軸断層画像の画像データは、血管壁検出部7から血管壁各部動き方向検出部8に出力される。図3に示すように、関心領域が設定された長軸断層画像を用いて、血管壁各部動き方向検出部8により関心領域内が複数の部分Pに分割される。その分割された関心領域内の各部Pは、心拍に伴う血管壁の径方向の拡張収縮により、フレーム毎に位置が変動している。そこで、ステップS5で、血管壁各部動き方向検出部8は、フレーム毎に変動する関心領域内の各部Pについて動きベクトルをパターンマッチング法で検出する。すなわち、心拍に伴う血管壁各部Pの位置変動方向が動きベクトルとして血管壁各部動き方向検出部8により求められる。
【0030】
血管壁各部Pの動きベクトルは、血管壁各部動き方向検出部8から血管壁拡張収縮方向検出部9に出力される。ステップS6で、血管壁拡張収縮方向検出部9は、血管壁各部Pの動きベクトルを平均化する等により、心拍に伴う血管壁の径方向の拡張収縮方向を求める。このようにして求められた血管壁の拡張収縮方向は血管壁拡張収縮方向検出部9からビーム方位設定部10に出力され、その拡張収縮方向と平行に第2の超音波ビームが超音波探触子1から送信されるようにビーム方位設定部10により第2の超音波ビームの方位が設定される。設定された第2の超音波ビームの方位はビーム方位設定部10から送受信制御部11に出力され、送受信制御部11により、その第2の超音波ビームの方位に基づいて送信遅延パターンが設定される。送信遅延パターンは送信制御部11から送受信部3の送信回路に出力され、送信回路が送信遅延パターンに基づく駆動信号を超音波探触子1に供給する。これにより、図4に示されるように、ステップS7で、血管壁の拡張収縮方向に平行にステアリングさせた第2の超音波ビームが超音波探触子1から送信される。
【0031】
このように、第1の超音波ビームにより得られた血管壁の振幅情報に基づいて第2の超音波ビームを送信する方位を血管壁の拡張収縮方向に平行な向きに設定するため、血管壁の厚さがプラーク等で不均一であっても血管壁の拡張収縮方向に対して平行に第2の超音波ビームを入射させることができる。
【0032】
超音波探触子1から送信された第2の超音波ビームは、血管壁の拡張収縮方向に対して平行に入射すると、血管壁内において弾性特性などの特性の異なる組織の界面等からなる反射点で反射される。例えば、図4に示すように、血管後壁側に形成されたプラークに入射した第2の超音波ビームが血管壁内の反射点R1〜R5でそれぞれ反射されるものとすると、反射点R1〜R5からの超音波エコーが超音波探触子1で受信される。超音波探触子1で受信された反射点R1〜R5からの超音波エコーに応じたそれぞれの受信信号は、超音波探触子1から送受信部3の受信回路に出力されると、この受信回路によりデジタル化されると共にその振幅情報が求められて送受信部3から位相情報演算部12に出力される。位相情報演算部12は、反射点R1〜R5からの超音波エコーに応じたそれぞれの受信信号の位相情報を演算し、これらの振幅情報と位相情報が血管壁トラッキング部13に供給される。血管壁トラッキング部13は、振幅情報および位相情報に基づいて、ステップS8で、血管壁の反射点R1〜R5のフレーム間の動きを高精度にトラッキングする。このトラッキングにより、図5に示すように、例えば1心拍における反射点R1〜R5の位置の変化がそれぞれ求められる。
【0033】
トラッキングされた血管壁の反射点R1〜R5の動きは血管壁トラッキング部13から血管壁弾性特性演算部14に出力され、血管壁弾性特性演算部14が反射点R1〜R5の動きに基づいて隣り合う反射点間における位置(位相)の差分をとって厚みを算出し、その厚みの時間変化波形を求める。例えば、図6(A)に示すように、反射点R1とR2の1心拍における位置の差分をとることでこれらの間の厚みの時間変化波形が求められ、図6(B)に示すように、反射点R2とR3の1心拍における位置の差分をとることでこれらの間の厚みの時間変化波形が求められる。求められた各反射点間の厚みの時間変化波形に基づいて、各反射点間の血管壁径方向のひずみ量εが下記式(1)により演算される。
ε=Δh/hdi ・・・(1)
ここで、hdiは血管壁が最も厚くなる心臓拡張期末期での各反射点間の厚みを、Δhは1心拍内で厚みが最も薄くなる心臓収縮期での各反射点間の厚み変化の最大値をそれぞれ示す。式(1)に基づいて、例えば図6(A)における反射点R1とR2の間のΔhと図6(B)における反射点R2とR3の間のΔhを比較するとΔhよりΔhが大きく、反射点R2とR3の間の組織よりも反射点R1とR2の間の組織が硬いことが示唆される。このようにして、ステップS9で、血管壁の弾性特性としてひずみ量が血管壁弾性特性演算部14により計測される。
【0034】
続いて、ステップS10で、血管Vの各反射点間のひずみ量を対応するカラーマップに合わせて画像処理することで、ひずみ画像が表示制御部5を介して表示部6に表示される。例えば、図7に示すようなひずみ画像では、プラークの中央部にひずみ量が大きい部分Cを含んでおり、そのプラークの中央部Cに周囲より柔らかい脂質が多く含まれていることが示唆される。
【0035】
本実施形態によれば、血管壁に対して平行に第2の超音波ビームを入射させるため、位相の微小な変化を高精度に測定することができる。また、弾性特性を正確に求めることで、断層像では把握し得ない臨床に有益な情報を得ることができる。
【0036】
なお、弾性特性として、弾性率、ストレインレイト、およびスティフネスパラメータなどを求めることができ、ひずみ画像はこれらを含んだ画像であってもよい。
弾性率は、血管の径方向の弾性率Eriまたは円周方向の弾性率Eθiであってもよく、例えば下記式(2)および(3)を用いて求められる。
ri=Δp/(Δh/hdi) ・・・(2)
θi=1/2(r/h+1)Δp/(Δh/hdi) ・・・(3)
ここで、rは心臓拡張末期での血管内半径を、hは心臓拡張末期での血管壁厚を、hdiは心臓拡張末期での各反射点間の厚みを、Δhは心臓収縮期での各反射点間の厚み変化の最大値を、Δpは心臓収縮期と拡張末期の血圧差をそれぞれ示す。
また、ストレインレイトSRiは、心臓収縮期での各反射点間の厚み変化の最大値Δh、心臓拡張期末期から心臓収縮期までの時間ΔTを用いて、下記式(4)を用いて求められる。
SRi=Δh/ΔT ・・・(4)
また、スティフネスパラメータβは、血管径Dの変化により最大血管径Dsと最小血管径Ddを求めると共に血圧を測定して血圧指示値の最高値Psと最低値Pdを求め、これらに基づいて下記式(5)で算出される。
β={Log(Ps/Pd)}/(Ds/Dd−1) ・・・(5)
【0037】
実施形態2
図8に実施形態2に係る超音波診断装置の構成を示す。この超音波診断装置では、図1に示した実施形態1の装置における診断装置本体2に代えて診断装置本体21が用いられている。診断装置本体21は、実施形態1の診断装置本体2において、血管壁検出部7および血管壁各部動き方向検出部8の代わりに、血管壁境界検出部22および垂直ベクトル算出部23が順次断層画像形成部4と血管壁拡張収縮方向検出部9の間に接続されている。
【0038】
実施形態1と同様にして、第1の超音波ビームを超音波探触子1から被検体の血管に対して送受信し、超音波探触子1から出力される受信信号に基づいて生成された長軸断層画像の画像データが断層画像形成部4から血管壁境界検出部22に入力される。血管壁境界検出部22は、入力された長軸断層画像の画像データにおいて血管内腔と血管壁の振幅の差を利用することで両者の境界を検出し、検出された境界上に複数の点を設定する。境界上に各点が設定された長軸断層画像の画像データは垂直ベクトル算出部23に出力され、垂直ベクトル算出部23が境界上の各点において境界に垂直な方向の単位ベクトルを算出する。血管壁拡張収縮方向検出部9は、垂直ベクトル算出部23により算出された境界上の各点における単位ベクトルを加算して境界に対してほぼ垂直となる方向を求めることにより血管壁の拡張収縮方向を検出する。
このようにして検出された血管の拡張収縮方向に基づいて第2の超音波ビームの方位が設定され、超音波探触子1から第2の超音波ビームが送受信される。続いて、第2の超音波ビームにより得られた血管壁の各反射点からの受信信号に基づき、血管壁トラッキング部13により血管壁の各反射点の動きが高精度にトラッキングされることで、心拍に伴う血管壁の各反射点の位置の変化が求められる。この各反射点の位置の変化に基づいて、血管壁弾性特性演算部14が隣り合う反射点間の厚みを算出すると共に時間変化波形を算出し、これを用いて血管壁の弾性特性が求められる。
【0039】
本実施形態によれば、位相の微小な変化を高精度に測定することができると共に断層像では把握し得ない臨床に有益な情報を得ることができる。また、境界に垂直な方向の単位ベクトルを加算することで血管壁の拡張収縮方向を検出するので、心拍による血管壁の動き方向が血管壁に対して垂直方向でなくても血管壁の拡張収縮方向を正確に求めることができる。
【0040】
実施形態3
図9に示すように、心拍に伴い血管壁が径方向に拡張収縮移動すると共にその拡張収縮方向と垂直な方向に横移動する場合には、実施形態2の超音波診断装置を利用して血管壁の拡張収縮方向を求めると共に、移動前後のそれぞれの位置に対応する受信信号の振幅情報および位相情報を用いて血管壁の動きをトラッキングするようにしてもよい。
【0041】
まず、実施形態2と同様に、第1の超音波ビームを超音波探触子1から被検体の血管Vに対して送受信し、超音波探触子1から出力される受信信号の振幅情報に基づいて、血管壁境界検出部22により血管内腔と血管壁の境界が検出されると共に境界上に複数の点が設定される。続いて、垂直ベクトル算出部23により境界上の各点における境界に垂直な単位ベクトルがそれぞれ算出されると共に血管壁拡張収縮方向検出部9により境界上の各点における単位ベクトルを加算することにより血管壁の拡張収縮方向が検出される。
このようにして検出された血管壁の拡張収縮移動方向に基づいて第2の超音波ビームの方位が設定され、超音波探触子1から血管壁の拡張収縮方向と平行に複数の走査線からなる第2の超音波ビームが送信される。ここで、図9に示すように、心拍に伴って血管壁が拡張収縮移動すると共に横移動することで血管壁の所定部分が位置P1から位置P2に移動し、移動前後における血管壁の所定部分が、位置P1では第2の超音波ビームの走査線L1上に位置し、位置P2では第2の超音波ビームの走査線L2上に位置するものとする。移動前後において血管壁の所定部分で反射されたそれぞれの超音波エコーは超音波探触子1で受信され、超音波エコーに応じた受信信号が送受信部3および位相情報演算部12を介して血管壁トラッキング部13にそれぞれ入力される。
【0042】
血管壁トラッキング部13は、受信信号から得られる振幅情報と位相情報に基づいて、血管壁の動きを高精度にトラッキングすることで心拍に伴う血管壁の位置の変化を求める。例えば、図9に示す血管壁の所定部分では、受信信号から得られる振幅情報と位相情報に基づいてフレーム間のその動きを高精度にトラッキングし、移動前後における位置P1および位置P2をそれぞれ求めると共に第2の超音波ビームの走査線のうち位置P1およびP2をそれぞれ通る走査線L1およびL2を求める。続いて、第2の超音波ビームの走査線L1から得られた受信信号と第2の超音波ビームの走査線L2から得られた受信信号に基づいて、移動前における血管壁の所定部分の位置P1と移動後における血管壁の所定部分の位置P2との位相差から、これらの位置P1およびP2間の拡張収縮方向における位置変化量が算出される。このようにして、血管壁トラッキング部13は、第2の超音波ビームの各走査線のうち移動前後の血管壁の各部分の位置に対応する走査線から得られた受信信号の位相に基づいて、心拍に伴う血管壁の拡張収縮方向の位置の変化を算出する。同様のトラッキングは血管壁の複数の反射点について行われ、例えば1心拍における各反射点の拡張収縮方向の位置の変化が求められる。
血管壁トラッキング部13により求められた血管壁の各反射点の拡張収縮方向の位置の変化に基づいて、血管壁弾性特性演算部14が隣り合う反射点間の厚みを算出すると共に時間変化波形を算出し、これを用いて血管壁の弾性特性が求められる。
【0043】
本実施形態によれば、心拍に伴って血管壁が横移動する場合においても位相の微小な変化を高精度に測定することができる。
【符号の説明】
【0044】
1 超音波探触子、2,21 診断装置本体、3 送受信部、4 断層画像形成部、5 表示制御部、6 表示部、7 血管壁検出部、8 血管壁各部動き方向検出部、9 血管壁拡張収縮方向検出部、10 ビーム方位設定部、11 送受信制御部、12 位相情報演算部、13 血管壁トラッキング部、14 血管壁弾性特性演算部、22 血管壁境界検出部、23 垂直ベクトル算出部、V 血管、P 血管壁各部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送受信部により超音波探触子から被検体に対して超音波ビームの送受信を行い、前記超音波探触子から出力された受信信号に基づいて超音波画像を生成する超音波診断装置であって、
第1の超音波ビームで前記超音波探触子から被検体の血管に対して送受信を行った際に前記超音波探触子から出力される受信信号の振幅情報に基づいて血管の長軸像における心拍に伴う血管壁の径方向の拡張収縮方向を検出する血管壁拡張収縮方向検出部と、
前記血管拡張収縮方向検出部で検出された血管壁の拡張収縮方向に平行な第2の超音波ビームで前記超音波探触子から被検体の血管に対して送受信が行われるように前記送受信部を制御する送受信制御部と、
前記第2の超音波ビームで送受信を行った際に前記超音波探触子から出力される受信信号の振幅情報および位相情報を用いて血管壁の動きをトラッキングする血管壁トラッキング部と、
前記血管壁トラッキング部でトラッキングされた血管壁の動きに基づいて血管壁の弾性特性を演算する血管壁弾性特性演算部と
を備えたことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
前記血管壁拡張収縮方向検出部は、前記第1の超音波ビームで送受信を行った際に前記超音波探触子から出力される受信信号の振幅情報に基づいて血管壁の動きをトラッキングすることにより血管壁の拡張収縮方向を検出する請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項3】
前記血管壁拡張収縮方向検出部は、前記第1の超音波ビームで送受信を行った際に前記超音波探触子から出力される受信信号の振幅情報に基づいて血管内腔と血管壁の境界を検出し、検出された境界と略垂直な方向を血管壁の拡張収縮方向として検出する請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項4】
前記血管壁トラッキング部は、心拍に伴って血管壁が前記拡張収縮方向と垂直な方向に移動する場合に、移動前後のそれぞれの位置に対応する受信信号の振幅情報および位相情報を用いて血管壁の動きをトラッキングする請求項1〜3のいずれか一項に記載の超音波診断装置。
【請求項5】
送受信部により超音波探触子から被検体に対して超音波ビームの送受信を行い、前記超音波探触子から出力された受信信号に基づいて超音波画像を生成する超音波診断方法であって、
第1の超音波ビームで前記超音波探触子から被検体の血管に対して送受信を行った際に前記超音波探触子から出力される受信信号の振幅情報に基づいて血管の長軸像における心拍に伴う血管壁の径方向の拡張収縮方向を検出し、
検出された血管壁の拡張収縮方向に平行な第2の超音波ビームで前記超音波探触子から被検体の血管に対して送受信を行い、
前記第2の超音波ビームで送受信を行った際に前記超音波探触子から出力される受信信号の振幅情報および位相情報を用いて血管壁の動きをトラッキングし、
トラッキングされた血管壁の動きに基づいて血管壁の弾性特性を演算する
ことを特徴とする超音波診断方法。
【請求項6】
血管壁の拡張収縮方向の検出は、前記第1の超音波ビームで送受信を行った際に前記超音波探触子から出力される受信信号の振幅情報に基づいて血管壁の動きをトラッキングすることにより行われる請求項5に記載の超音波診断方法。
【請求項7】
血管壁の拡張収縮方向の検出は、前記第1の超音波ビームで送受信を行った際に前記超音波探触子から出力される受信信号の振幅情報に基づいて血管内腔と血管壁の境界を検出し、検出された境界と略垂直な方向を血管壁の拡張収縮方向として検出することにより行われる請求項5に記載の超音波診断方法。
【請求項8】
血管壁の動きのトラッキングは、心拍に伴って血管壁が前記拡張収縮方向と垂直な方向に移動する場合に、移動前後のそれぞれの位置に対応する受信信号の振幅情報および位相情報を用いて行われる請求項5〜7のいずれか一項に記載の超音波診断方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate