説明

超音波診断装置

【課題】2Dアレイ超音波プローブを用いたリアルタイム3次元画像構築にも対応できるように、多方向並列同時受信を低コストで実現するデジタル受信ビームフォーマを備えた超音波診断装置を提供する。
【解決手段】シグマ・デルタ型のAD変換器であるモジュレータ31が、1本の受信信号を第1の周期T1のデジタルデータに変換し、第1デシメータ32が、そのデジタルデータをN倍の第2の周期NT1(=T2)のデータにデシメートし、その後、FIFOメモリ33による遅延処理、加算器34によるチャンネル加算した後、第2デシメータ35が、M倍の第3の周期NMT1(=T3)のデータにデシメートする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、超音波を被検体内に送信し、複数の超音波振動子で受けた反射波をデジタル処理により整相して(受信ビームフォーミングして)、診断画像を構成する超音波診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波診断装置は、複数の超音波振動子を有する超音波プローブと、超音波プローブを駆動制御する送受信部を備えている。送受信部は、超音波振動子に電気信号を供給して、被検体内の所定の焦点にビームフォーム(送信ビームフォーム)した超音波を走査するとともに、被検体内で反射してきた超音波を超音波振動子から受信する。そのとき送受信部は、アナログの受信信号を整相された(受信ビームフォームされた)デジタルの受信データとして変換して出力する。
【0003】
受信ビームフォーマは、対象とする反射体から各超音波振動子までの距離に応じてそれぞれ時間的に異なって受信された受信信号を、その位相(時間)を揃えて加算し、焦点の合った1本の受信信号(1走査線上の画像用信号)を生成するものである。
【0004】
従来、このようなデジタルの受信ビームフォーマは図6に示すように、AD変換器であるADC10a、10b、・・・、10n(以下、個々を代表して「ADC10等」と称する場合がある)、粗い遅延を行うためのFIFOメモリ11a、11b、・・・、11n(以下、個々を代表して「FIFOメモリ11等」と称する場合がある)、細かい遅延を付加するためのデジタル遅延回路12a、12b、・・・、12n(以下、個々を代表して「デジタル遅延回路12等」と称する場合がある)、及び加算器13で構成されている。ADC10等は、各超音波振動子から(以下、各超音波振動子からの信号ラインを「チャンネル」と称する場合がある)アナログの受信信号を受けて、ある量子化精度をもってデジタルデータに変換する。デジタルデータになった受信信号は一旦、FIFOメモリ11等に格納される。FIFOメモリ11等から読み出すタイミングを、それぞれの超音波振動子チャンネルの焦点からの距離に応じて位相(遅延時間)制御することにより、各位相合わせが可能になる。ここで制御可能な時間量は、ADC10等のサンプリングレートで制約されることになるが、多くの場合、それでは精度は不足となる。そこで、FIFOメモリ11等の後のデジタル遅延回路12等で、サンプリングレートより小さい遅延を付加する。FIFOメモリ11等による遅延は「粗い」遅延を付加するため、“Coarse delay”、デジタル遅延回路12等による遅延は「細かい」遅延を付加するため“Fine delay”と呼ばれることが多い。以上のように、遅延が付加された各チャンネルのデジタルのデータは加算器13によって加算されて、1本の受信信号を構成する。
【0005】
一方、受信ビームフォーマのデジタル化による恩恵の一つに、いわゆる並列同時受信処理が比較的容易に実現可能になった、ということがある。この並列同時受信技術は、1回の送信から得られる各チャンネルの受信信号から、複数の焦点の異なる受信信号(複数の画像走査線上の受信信号)を得る技術である。
【0006】
例えば、心臓を見る循環器領域の診断では、比較的高速なその動きを正確に再現するということが重要になってくる。例えば、<被検体内の1焦点への1回の超音波の送信>→<画像走査線上の1本の信号処理>の繰り返しでは必要十分な速度(フレームレート)を確保できない場合がある。そこで、1回の超音波の送信からその送信焦点周辺の複数本の受信信号を得てフレームレートを稼ぐ方法(以下、「並列同時受信」と称する場合がある)が採用されている。
【0007】
受信ビームフォーマがアナログ回路で達成されていたときには、これを実現するには同じ回路を複数用意するしか方法がなく、コストと実装面積に影響するため容易に実現できる技術ではなかった。一方、昨今のデジタルによる受信ビームフォーマでは、デジタル回路特有の時分割動作で遅延パラメータを時々刻々切り替えて処理することにより、単一の回路で複数の受信信号を得ることが可能となる。また、デジタル回路は集積化が可能なため、同じ回路を複数持ったとしても、その数があまり大きくなければコストを上昇させることなく、並列同時受信処理を実現することができる。
【0008】
並列同時受信処理を実現するための受信ビームフォーマの1例を図7に示す。図7は、図6の形態を1つの焦点への送信からその焦点周辺の異なる4個の焦点の受信データを取得できるように並列同時受信処理を可能にした回路構成である。図7に示す形態においては、細遅延を行うデジタル遅延回路12a、12b、・・・、12nが各FIFOメモリ11a、11b、・・・、11n当たり4個備えられ、かつ、4個の加算器13a、13b、13c、13dが設けられている。つまり、FIFOメモリ11a、11b、・・・、11nを4本の受信データで共有化し、その後のデジタル遅延回路12aなどの回路を同時受信数分用意し、4個の加算器13a、13b、13c、13dからそれぞれ異なる焦点位置の受信データを得ようとするものである。すべての回路を共有化するという方法もあるが、その場合、FIFOメモリ11a、11b、・・・、11nより後の処理レートを高速にしないと信号帯域を犠牲にし、高速にすると消費電力が増大するというトレードオフがある。その一方、細遅延(Fine delay)のためのデジタル遅延回路12a、12b、・・・、12nは、多くの場合デジタルフィルタであり(例えば特許文献1)、その回路規模は決して小さくない。従って、この例のように、それを複数持つというのはコストの観点から望ましくないが、従来の超音波診断装置で要求される並列同時受信数はせいぜい4であるため、上記トレードオフを鑑み、このような構成になる場合が少なくない。
【0009】
ここで、課題となってくるのが、並列同時受信数増加に対する対応である。超音波振動子の配列が1列、すなわち横(ラテラル)方向のみ並んでいて縦(エレベーション)方向には配列がない従来の超音波プローブの場合、要求される同時受信数は上記のようにせいぜい4であったため、回路を同時受信数分持ってもコストへの影響を許容範囲にとどめることは可能であった。しかしながら、最近では直交する2方向に配列された超音波振動子を有する2Dアレイ超音波プローブを用いてリアルタイムに3次元画像を構築する技術が実用化され始めている。その2Dアレイ超音波プローブでは同時受信数が8となり、さらには16まで増えることが期待されている。
【0010】
2Dアレイ超音波プローブによるリアルタイム3次元画像構成のためには、3次元分の大量のデータを取得して処理する必要がある。従来、平面上にN本の走査線で構成されていた2次元画像を、所定軸を中心に1度ずつ回転させた360の平面から3次元画像に拡張しようとすると、走査線の本数は360×Nになる。そのスキャン時間は単純には従来の360倍になる。フレームレートは360分の1に落ちてしまうが、上述のように循環器領域の診断ではこれは許容できない。そこで、並列同時受信数を増大して、3次元的に多数の受信データを得ることによってフレームレートの低下を抑制するという策が考えられている。
【0011】
要求される並列同時受信数は、少なくとも16といわれている。この回路規模、ひいてはコストへの影響は甚大である。“Fine delay”のためのデジタル遅延回路は、多くの乗算器と加算器で構成されることになり、上述のように回路規模が大きい。これが従来の4倍になるということは、従来技術の延長で対応しようとするとコストもそれに応じた増大を覚悟しなければならないことを意味する。
【0012】
そこで、オーバサンプリング型のAD変換器を利用して“Fine delay”回路(デジタル遅延回路)を不要にし、コストの増大を抑える方法が考えられる。
【0013】
そもそも、“Fine delay”回路(デジタル遅延回路)が必要になるのは、従来のAD変換器のサンプリング周波数の上限が40〜60[MHz]であり、その時間量子化精度では受信ビームフォーミングには不十分だったからである。
【0014】
それに対して、オーバサンプリング型のAD変換器は、内部では出力レートの何倍ものレートで動いている。受信ビームフォーミングに必要十分なレートの信号が得られれば、“Fine delay”回路(デジタル遅延回路)を不要にすることができる。
【0015】
ここで、オーバサンプリング型のAD変換器の概要を図8に示す。図8に示すAD変換器は、デルタ・シグマAD変換器と称される変換器の1形態である。入力されるアナログの受信信号は1ビットDA変換器である1ビットDAC314からのフィードバック信号とで減算器311で減算された後、積分器312に入力される。積分器312の出力はコンパレータ313に入力され、基準電圧との関係により、図8の(A)点での信号のようにデルタ・シグマ変調された“0”から“1”の1ビットデジタル信号のビット列に変換される。その後、デシメータ100で不要高調波帯域信号の除去とデシメーションが行われ、最終的にあるレートであるビット幅を持つデジタル信号が得られる(図8中の(B)点)。
【0016】
モジュレータ31の出力のレートは、受信ビームフォーミングという観点で十分に小さいため、このデータに対してビームフォーミングを行えば、“Fine delay”回路(デジタル遅延回路)を不要にすることができる。
【0017】
このようにオーバサンプリング型のAD変換器を超音波診断装置に応用しようとする提案は、従来からあった(例えば特許文献2)。図9にその提案の概要を示す。図9は、オーバサンプリング型のAD変換器を用いた従来における受信ビームフォーマの1形態である。この受信ビームフォーマは、モジュレータ31、FIFOメモリ11、加算器13、及びデシメータ100で達成される。仮に1チャンネル当たりの最終レートでの分解能を8ビットとし、モジュレータ31でのレートを1.5625ns(サンプリング周波数が640MHz)、最終レートを25ns(サンプリング周波数が40MHz)とする。入力されるアナログ信号はモジュレータ31によって処理される。その後、高サンプリング周波数のモジュレータ出力に対して、FIFOメモリ11からの読み出し制御によって遅延処理が行われ、加算器13によるビームフォーミング加算後に、デシメータ100によって最終レートへのデシメーションが行われる。なお、図9中のNは加算チャンネル数を表す。
【0018】
【特許文献1】米国特許第5,345,426号
【特許文献2】米国特許第5,203,335号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
しかしながら、図9に示す受信ビームフォーマは以下に示す問題がある。すなわち、連続受信遅延制御(いわゆるダイナミックフォーカス)によりFIFOメモリ11への制御データ(具体的にはFIFOメモリ11への読み出しアドレス)に不連続点が生じると、許容できないノイズが発生してしまう。これを低減させるような策も提案されているが、モジュレータ31に変更を加えるものであり、困難性が非常に高い。アナログ・デジタル混在ICの開発になるため、莫大な開発コストが要求され、設計段階での効果の検証も難しい。
【0020】
図9に示す従来の受信ビームフォーマと、受信ビームフォーマに要求されている性能とを考察すると、従来技術は以下のような点に問題がある。
(1)受信ビームフォーミングに要求される時間精度は、必ずしもモジュレータ出力レートに一致せず、一般にそれより粗くてもよい。
(2)必要以上細かい間隔で遅延処理を行うと、不連続点も相応に含まれることになる。パルスの密度がデシメーション後のデータ値を決定するモジュレータ出力点において、不連続点が多発することは好ましくない。
【0021】
この発明は上記の問題を解決するものであり、2Dアレイ超音波プローブを用いたリアルタイム3次元画像構築にも対応できるように、多方向並列同時受信を低コストで実現するデジタル受信ビームフォーマを備えた超音波診断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
請求項1に記載の発明は、超音波振動子からの受信信号を第1の周期T1のデジタルデータに変換するデルタ・シグマ型のAD変換手段と、前記AD変換手段の出力を第2の周期T2(T2>T1)のデータにデシメートする第1デシメート手段と、前記第1デシメート手段からの出力を記憶し、複数K本の受信信号ごとに定められた遅延時間だけずらしたタイミングで、L個のデータを出力するデータ処理手段と、を含む構成を1組として前記複数K本の受信信号に相当するK個の組を備え、さらに、前記データ処理手段から出力されるデータ同士を加算する前記L個の加算手段と、前記加算手段の出力を第3の周期T3(T3>T2)にデシメートする前記L個の第2デシメート手段と、を備え、受信ビームフォーミングすることを特徴とする超音波診断装置である。
【0023】
請求項2に記載の発明は、K個の超音波振動子と、所望の距離に焦点を有するように前記K個の超音波振動子に超音波を照射させる送信手段と、前記超音波振動子が取得した複数K本の受信信号をそれぞれ第1の周期T1のデジタルデータに変換するデルタ・シグマ型の前記K個のAD変換手段と、前記各AD変換手段の出力を第2の周期T2(T2>T1)のデータにデシメートする前記K個の第1デシメート手段と、前記K個の第1デシメート手段のそれぞれから出力されるデータを記憶し、前記K本の受信信号ごとに定められた遅延時間だけずらしたタイミングで、L個のデータを出力する前記K個のデータ処理手段と、前記データ処理手段から出力されるデータ同士を加算する前記L個の加算手段と、前記加算手段の出力を第3の周期T3(T3>T2)にデシメートする前記L個の第2デシメート手段と、を備え、前記複数L方向の同時受信ビームデータを生成することを特徴とする超音波診断装置である。
【発明の効果】
【0024】
この発明によると、デルタ・シグマ型のAD変換手段を備え、さらに、第1デシメート手段と第2デシメート手段を備えて、2段階に分けてデシメーションを行うことで、ノイズの発生を抑えつつコストを抑えた多方向並列同時受信を実現することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
[この発明の実施形態の概要]
この発明の実施形態は、図5に示す超音波診断装置に適用される。超音波診断装置の構成と動作については後述する。この発明の実施形態の主要部は図5における受信部3であり、特に、オーバサンプリング型のAD変換器と、2つのデシメータを用いて受信ビームフォーマを構成したところに特徴がある。
【0026】
[オーバサンプリング型のAD変換器を用いた受信ビームフォーマの構成]
まず、オーバサンプリング型のAD変換器を用いた受信ビームフォーマの構成について図1を参照して説明する。図1は、この発明の実施形態に係る受信ビームフォーマの構成を示すブロック図である。
【0027】
この実施形態に係る受信ビームフォーマは、モジュレータ31、第1デシメータ32、FIFOメモリ33、加算器34、及び第2デシメータ35によって構成されている。仮に、1チャンネル当たりの最終レートでの分解能を8ビットとし、モジュレータ31でのレートを1.5625ns(サンプリング周波数が640MHz)、最終レートを25ns(サンプリング周波数が40MHz)とする。
【0028】
入力される受信信号は、1ビットDA変換器である1ビットDAC314からのフィードバック信号とで減算器311で減算された後、積分器312に入力される。積分器312の出力はコンパレータ313に入力され、基準電圧との関係により、デルタ・シグマ変調された0から1の1ビットデジタル信号のビット列に変換される。
【0029】
デルタ・シグマ型のAD変換器は、オーバサンプリングが基本なので内部は10倍以上のレートで動いている。例えば20MHzをナイキスト周波数とし、オーバサンプリングレイシオを16とすると、内部のレートは1.5625nsとなる。細遅延に必要な精度を信号波長の16分の1とした場合、希望する超音波信号帯域を10MHzまでとしたときのレートは6.25ns(≫1.5625ns)であり、上記レート1.5625nsは十分なものであるということが分かる。すなわち、広帯域なデルタ・シグマ型のAD変換器を応用して、AD変換時点で必要時間精度のデジタル受信信号が得られる構成として、従来のデジタル遅延回路(“Fine delay”回路)を不要にすることができる。
【0030】
モジュレータ31から出力された信号は、第1デシメータ32によって、ビームフォーミングに必要十分なところまでレートが落とされる。このとき、信号はパルス密度データからあるビット幅を持つものに変化する。図1の例では、6.25nsのレート(160MHzのサンプリング周波数)の4ビットデータにデシメートされている。
【0031】
次に、第1デシメータ32から出力された信号は、一旦、FIFOメモリ33に格納される。FIFOメモリ33から読み出すタイミングを、それぞれの超音波振動子チャンネルの焦点からの距離に応じて位相(遅延時間)制御することにより、各位相合わせが可能となる。遅延が付加された各チャンネルのデジタルデータは、加算器34によって加算された後、第2デシメータ35によって最終レートのデータに変換される。図1の例では、25ns(サンプリング周波数が40MHz)のデータにデシメートされている。なお、図1中のNは加算器34における加算チャンネル数を表す。このFIFOメモリ33が、この発明の「データ処理手段」の1例に相当する。
【0032】
つまり、この実施形態に係る受信ビームフォーマは、超音波を走査して取得した1本の受信信号を第1の周期T1のデジタルデータに変換するデルタ・シグマ型のAD変換手段(図1の減算器311、積分器312、コンパレータ313、及び1ビットDAC314を備えた手段)からの出力を受けた第1デシメータ32が、N倍の第2の周期NT1(=T2)のデータにデシメートし、その後、遅延処理、チャンネル加算した後、第2デシメータ35が、M倍の第3の周期NMT1(=T3)のデータにデシメートする。
【0033】
以上の構成とすることで、ダイナミックフォーカスにかかわる不連続点は発生するが、既にある程度帯域制限されたデータに対してであるため、連続するデータ同士での変化は限られてくるはずである。すなわち、不連続点でのノイズ等の望ましくない現象の程度は、従来技術より小さくなると期待できる。
【0034】
[受信ビームフォーマのシミュレーション]
次に、この実施形態に係る受信ビームフォーマによる遅延シミュレーションを行った。例えば図2に示すように、0.2mmピッチで並んだ超音波振動子P1、P2、・・・、P48、P49、・・・の、ビームの中心から48番目にある超音波振動子P48について、仮に連続波が受信されたとしたときの遅延シミュレーションを実施した。深さは10mmから20mmで、キャリア周波数が2MHzについてシミュレーションを行った。
【0035】
このシミュレーションの結果を図3に示す。図3は、遅延シミュレーションの結果を示すグラフである。図3において横軸は深さ[mm]を表している。図3(a)、(b)、(c)において縦軸は振幅を表し、図3(d)において縦軸は、基準となる理想信号と各方法で得られた信号との差を表している。
【0036】
図3(a)に示す信号Aは基準となるキャリア信号であり、信号Bは、信号Aを超音波振動子の位置とフォーカス深さで決まる遅延制御データに従って遅延処理を施した結果得られた信号である。ここでは、サンプリング周波数を160MHzにした。この信号Bをリサンプルして得られる信号を理想信号とし、比較対象とする。
【0037】
図3(b)に示す信号Cは、上記信号Bを、40MHzにリサンプルした信号である。この信号Cが理想信号であり、比較対象とする。また、信号Dは、この実施形態に係る受信ビームフォーマによって信号Aに対して処理を施した結果得られた信号である。つまり、信号Dは、第1デシメータ32と第2デシメータ35によって2段階に分けてデシメーションを行った結果得られた信号である。なお、信号Cと信号Dはほぼ一致するため、図3(b)には重なって示されている。
【0038】
図3(c)に示す信号Cは理想信号であり、信号Eは、図9に示す従来技術に係る受信ビームフォーマによって信号Aに対して処理を施した結果得られた信号である。つまり、信号Eは、図9に示す1つのデシメータ100によってデシメーションを行った結果得られた信号である。
【0039】
比較対象である理想信号としての信号Cと、信号D、信号Eとの差を求め、それぞれの差を図3(d)に示す。信号Fは、理想信号としての信号Cとこの実施形態の方法で得られた信号Dとの差であり、信号Gは、理想信号としての信号Cと従来技術の方法で得られた信号Eとの差である。図3(c)、(d)に示すように、この実施形態の方法で得られた信号Dは、従来技術の方法で得られた信号Eと比べてノイズが少なく、理想信号に近い信号となることが分かる。
【0040】
以上のように、この実施形態に係る受信ビームフォーマによると、オーバサンプリング型のAD変換器を備えることで、“Fine delay”回路(デジタル遅延回路)を不要にすることができるため、受信ビームフォーミング回路をシンプルで高集積化が可能なものにすることができる。さらに、第1デシメータ32と第2デシメータ35を備えて、2段階に分けてデシメーションを行うことにより、信号の劣化を抑えることが可能となる。
【0041】
[受信ビームフォーマの実施形態]
次に、16方向の並列同時受信数の場合の実施形態を図4に示す。図4は、16チャンネルの並列同時受信を行える受信ビームフォーマの実施形態を示すブロック図である。図4に示す受信ビームフォーマは、超音波振動子が2次元的に配置された2Dアレイ超音波プローブに対応してビームフォーミングする1実施形態である。
【0042】
モジュレータ31a、31b、・・・、31n(以下、個々を代表して「モジュレータ31等」と称する場合がある)のそれぞれは、図1のモジュレータ31と同じ構成であり、超音波を走査して取得した1本の受信信号を1ビットのデジタル信号のビット列に変換する。この実施形態では、モジュレータ31等は、受信信号を第1の周期T1のデジタルデータに変換する。モジュレータ31等は、受信信号数(チャンネル数K)分、用意されている。
【0043】
第1デシメータ32a、32b、・・・、32n(以下、個々を代表して「第1デシメータ32等」と称する場合がある)のそれぞれは、図1の第1デシメータ32と同じ構成であり、モジュレータ31等から出力されたデータを、N倍の第2の周期NT1(=T2)のデータにデシメートすることで、ビームフォーミングに必要十分なところまでレートを落とす。第1デシメータ32等は、受信信号数(チャンネル数K)分、用意されている。
【0044】
FIFOメモリ33a、33b、・・・、33n(以下、個々を代表して「FIFOメモリ33等」と称する場合がある)のそれぞれは、図1のFIFOメモリ33と同じ構成であり、第1デシメータ32等からの出力を格納する。そして、受信データは、制御部から出力される受信遅延制御信号に基づき、各チャンネル受信信号の位相が焦点に関して一致するように読み出される。FIFOメモリ33等は複数ポートの読み出しが可能なタイプのメモリであり、要求される並列同時受信数に対応した読み出しポートを持つものである。この実施形態では、並列同時受信数をL=16としているため、16のポートを備えている。そして、それぞれのポートには、それが受け持つ受信(焦点)方向(“Beam”)に対応した読み出しアドレス(受信遅延制御信号)を与える。このようにしてFIFOメモリ33等から読み出されたデータは、必要十分な精度で位相合わせが行われたことになる。なお、FIFOメモリ33等は、受信信号数(チャンネル数K)分、用意されている。
【0045】
加算器34a、34b、・・・、34p(以下、個々を代表して「加算器34等」と称する場合がある)はそれぞれ、各FIFOメモリ33等の出力に接続されている。つまり、加算器34等は、異なるFIFOメモリ33等から出力される各同時受信方向(“Beam”ごと)に応じたデータを加算する。これにより、受信ビームフォーミングが完遂されることになる。加算器34等は、並列同時受信数と同じ数が設置されている。この実施形態では、並列同時受信数をL=16としているため、16個の加算器34等が設置されている。そして、加算器34等からは、異なった16方向(焦点位置)における受信データ(16ビームのデータ)が出力される。
【0046】
第2デシメータ35a、35b、・・・、35p(以下、個々を代表して「第2デシメータ35等」と称する場合がある)のそれぞれは、図1の第2デシメータ35と同じ構成であり、加算器34等から出力された信号を、M倍の第3の周期MNT1(=T3)のデータにデシメートすることで、最終レートのデータに変換する。第2デシメータ35等によって最終レートに調整されたデータは、その後、図5に示す信号処理部4に出力されることになる。第2デシメータ35等は、並列同時受信数と同じ数が設置されている。この実施形態では、並列同時受信数をL=16としているため、16個の第2デシメータ35等が設置されている。
【0047】
なお、この実施形態では、サンプリングレートやAD変換器の分解能(最終ビット幅)などに関し、ある仮定値を用いて説明したが、その値は1例であり、この発明がその例に限定されるものではない。また、モジュレータ出力を1ビットと仮定して説明したが、マルチビットタイプであっても、この発明を適用することができる。
【0048】
また、受信信号数(チャンネル数K)と、整相して出力しようとするビーム数L(並列同時受信数)とは関係がなく、例えば、チャンネル数Kとしては、128や192などが想定される。そのとき、図4のモジュレータ31等、第1デシメータ32等、及びFIFOメモリ33等は、それぞれそのチャンネル数K分、用意されている。
【0049】
また、この実施形態では、16方向の並列同時受信について説明したが、16方向に限定されず、8方向や4方向などの並列同時受信であっても良い。
【0050】
[超音波診断装置の実施形態]
次に、上述した受信ビームフォーマが適用される超音波診断装置の構成について、図5を参照して説明する。図5は、この発明の実施形態に係る超音波診断装置の構成を示すブロック図である。
【0051】
この実施形態に係る超音波診断装置は、超音波プローブ1、送信部2、受信部3、信号処理部4、画像生成部5、表示部6、及び制御部7を備えて構成されている。
【0052】
超音波プローブ1は、複数の超音波振動子が所定方向(走査方向)に1列に配列された1Dアレイ超音波プローブ、又は、複数の超音波振動子がマトリックス(格子)状に配置された2Dアレイ超音波プローブで構成されている。
【0053】
送信部2は、超音波プローブ1に電気信号を供給して所定の焦点にビームフォーム(送信ビームフォーム)した超音波を走査させる。受信部3は、超音波プローブ1が受信したエコー信号を受信し、そのアナログの受信信号を整相された(受信ビームフォームされた)デジタルの受信データとして変換して出力する。受信部3は、上記「受信ビームフォーマの実施形態」で説明した構成が用いられる。
【0054】
信号処理部4は、Bモード処理回路、ドプラ処理回路、及びカラーモード処理回路を備えている。受信部3から出力された受信データは、いずれかの処理回路にて処理が施される。Bモード処理回路はエコーの振幅情報の映像化を行い、エコー信号からBモード超音波ラスタデータを生成する。ドプラ処理回路はドプラ偏移周波数成分を取り出し、更にFFT処理等を施して血流情報を有するデータを生成する。カラーモード処理回路は動いている血流情報の映像化を行い、カラー超音波ラスタデータを生成する。血流情報には、速度、分散、パワー等の情報があり、血流情報は2値化情報として得られる。
【0055】
画像生成部5は、DSC(Digital Scan Converter:デジタルスキャンコンバータ)を備え、直交座標系で表される画像を得るために、超音波ラスタデータを直交座標で表される画像データに変換する(スキャンコンバージョン処理)。例えば、DSCは、Bモード超音波ラスタデータに基づいて2次元情報としての断層像データを生成し、その断層像データを表示部6に出力する。また、画像生成部5は、複数の断層像データに基づいてボクセルデータを生成する。そして、画像生成部5は、そのボクセルデータに対して、サーフェイスレンダリング処理や、ボリュームレンダリング処理や、MPR処理(Multi Plannar Reconstruction)などの画像処理を施すことにより、3次元画像データや任意断面における画像データ(MPR画像データ)などの超音波画像データを生成する。
【0056】
表示部6は、CRTや液晶ディスプレイなどのモニタで構成されており、画面上に断層像、3次元画像又は血流情報などが表示される。
【0057】
制御部7は、超音波診断装置の各部に接続されて、各部の動作を制御する。
【0058】
また、超音波診断装置は図示しない操作部を備えている。その操作部は、キーボード、マウス、トラックボール、又はTCS(Touch Command Screen)などで構成されており、操作者の操作によってスキャン条件や関心領域(ROI)などの各種設定が行われる。
【0059】
この実施形態に係る超音波診断装置によると、2Dアレイ超音波プローブによるリアルタイム3次元画像の構築に関連して増大する並列同時受信数を、コストの大幅上昇なしで実現する受信ビームフォーマを構築することが可能となる。これにより、リアルタイム3次元超音波診断装置に関し、コストを抑えて高品質画像をユーザに提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】この発明の実施形態に係る受信ビームフォーマの構成を示すブロック図である。
【図2】受信ビームフォーマによる遅延シミュレーションを説明するための図である。
【図3】遅延シミュレーションの結果を示すグラフである。
【図4】16チャンネルの並列同時受信を行える受信ビームフォーマの実施形態を示すブロック図である。
【図5】この発明の実施形態に係る超音波診断装置の概略構成を示すブロック図である。
【図6】従来技術に係る受信ビームフォーマの構成を示すロック図である。
【図7】従来技術に係る受信ビームフォーマの構成を示すブロック図である。
【図8】デルタ・シグマAD変換器を示すブロック図である。
【図9】従来技術に係る受信ビームフォーマの構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0061】
1 超音波プローブ
2 送信部
3 受信部
4 信号処理部
5 画像生成部
6 表示部
7 制御部
31、31a〜31n モジュレータ
32、32a〜32n 第1デシメータ
33、33a〜33n FIFOメモリ
34、34a〜34p 加算器
35、35a〜35p 第2デシメータ
311 減算器
312 積分器
313 コンパレータ
314 1ビットDAC

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波振動子からの受信信号を第1の周期T1のデジタルデータに変換するデルタ・シグマ型のAD変換手段と、
前記AD変換手段の出力を第2の周期T2(T2>T1)のデータにデシメートする第1デシメート手段と、
前記第1デシメート手段からの出力を記憶し、複数K本の受信信号ごとに定められた遅延時間だけずらしたタイミングで、L個のデータを出力するデータ処理手段と、
を含む構成を1組として前記複数K本の受信信号に相当するK個の組を備え、
さらに、前記データ処理手段から出力されるデータ同士を加算する前記L個の加算手段と、
前記加算手段の出力を第3の周期T3(T3>T2)にデシメートする前記L個の第2デシメート手段と、
を備え、
受信ビームフォーミングすることを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
K個の超音波振動子と、
所望の距離に焦点を有するように前記K個の超音波振動子に超音波を照射させる送信手段と、
前記超音波振動子が取得した複数K本の受信信号をそれぞれ第1の周期T1のデジタルデータに変換するデルタ・シグマ型の前記K個のAD変換手段と、
前記各AD変換手段の出力を第2の周期T2(T2>T1)のデータにデシメートする前記K個の第1デシメート手段と、
前記K個の第1デシメート手段のそれぞれから出力されるデータを記憶し、前記K本の受信信号ごとに定められた遅延時間だけずらしたタイミングで、L個のデータを出力する前記K個のデータ処理手段と、
前記データ処理手段から出力されるデータ同士を加算する前記L個の加算手段と、
前記加算手段の出力を第3の周期T3(T3>T2)にデシメートする前記L個の第2デシメート手段と、
を備え、
前記複数L方向の同時受信ビームデータを生成することを特徴とする超音波診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図3】
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