説明

超音波診断装置

【課題】弾性画像の弾性データおよび画像情報を用いて弾性画像を分類し、疾患の進行具合を客観的に評価できる超音波診断装置を提示する。
【解決手段】超音波診断装置は、超音波送受信手段が受信した被検体内からのRF信号フレームデータを用いて被検体の生体組織の弾性データを算出する弾性情報演算部と、弾性情報演算部で算出された歪み量及び/又は弾性率に基づいて弾性画像を生成する弾性画像構成部と、弾性画像に基き生体組織の特性を評価する評価データを生成する弾性画像評価部11と、弾性画像評価部11が生成した評価データの少なくとも一つを用いて弾性画像を分類する画像分類部12とを備える。分類部12の分類結果は、切替表示器14を介して表示器に表示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波を利用して被検体内の診断部位について断層像を得る超音波診断装置に関し、特に時系列に並んだRF信号フレームデータからその画像上の各点の歪み及び/又は弾性率を演算し、生体組織の硬さ又は軟らかさを示す弾性画像として表示することができる超音波診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の一般的な超音波診断装置は、被検体に超音波を送信及び受信する超音波送受信手段と、超音波送受信を制御する超音波送受信制御手段と、超音波受信手段からの反射エコー信号を用いて運動組織を含む被検体内の断層像データを所定周期で繰り返して得る断層走査手段と、この断層走査手段によって得た時系列断層像データを表示する画像表示手段とから構成されている。被検体内部の生体組織の構造は、例えばBモード像として表示される。
【0003】
これに対して、近年、被検体組織の弾性データを取得し、表示可能な超音波診断装置が開発されている(例えば、特許文献1)。このような超音波診断装置では、超音波探触子の超音波送受信面において、被検体の体表面から用手的な方法にて外力を与え、生体組織を圧迫し、時系列的に隣接する2フレーム(連続2フレーム)の超音波受信信号の相関演算を利用して、各点における変位を求める。その変位を空間微分することによりひずみを計測し、この歪みデータを画像化する。更に、外力による応力分布と歪みデータから、生体組織のヤング率等に代表される弾性率データを画像化する。このような歪みデータや弾性率データ(以下、弾性フレームデータという)を基にした弾性画像によって、生体組織の硬さや軟らかさを表示することができる。
【0004】
上記した弾性画像を得る技術は、癌など腫瘤性の病変の診断だけでなく、びまん性疾患の診断への適用も期待されている。びまん性疾患において結節など局所的な硬化組織が周囲の軟らかい組織中に散在する構造をとる場合、上記技術を適用して得られる弾性画像も不均一な構造を反映したまだら模様を呈する。例えば、肝炎から肝硬変のように疾患が進行し線維化が進むと結節が肝実質内に拡がり、弾性画像のまだら模様が複雑化していく。検者は、まだら模様の状態に基づいて疾患の進行具合が評価することができる。
【特許文献1】特開平5−317313号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した弾性画像を表示可能な超音波診断装置では、検者が表示された弾性画像を目視で観察し、疾患の進行具合を評価していたが、目視で観察すると疾患の評価結果が検者間でばらつくため、弾性画像の画像情報から疾患の進行具合を客観的に評価する方法が望まれている。
そこで、本発明は、弾性画像をもとに、客観的な評価情報を提示することが可能な超音波診断装置を提供すること、具体的には、弾性画像の弾性データおよび画像情報を用いて弾性画像を分類し、疾患の進行具合を評価した情報を提示することが可能な超音波診断装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する本発明の超音波診断装置は、被検体内に超音波を送受信する超音波送受信手段と、前記超音波送受信手段が受信した被検体内からのRF信号フレームデータに基づいて断層画像を生成する断層画像構成手段と、前記RF信号フレームデータを用いて前記被検体の生体組織の弾性データを算出する弾性情報演算手段と、前記弾性情報演算手段で算出された弾性データに基づいて弾性画像を生成する弾性画像構成手段と、前記断層画像及び/又は前記弾性画像を表示する表示手段とを備え、前記弾性画像に基き前記生体組織の構造を評価する評価データを生成する評価データ生成手段と、前記評価データ生成手段が生成した評価データを用いて前記弾性画像を分類し、分類結果を前記表示手段に表示させる分類手段とをさらに備えたことを特徴とする。
【0007】
また本発明の組織解析ツールは、被検体内から取得されたRF信号フレームデータを用いて、前記被検体の組織の病変情報を解析する解析ツールであって、時系列で得られる2以上のRF信号フレームデータを用いて変位データを算出する変位データ算出手段と、前記変位データを用いて検査対象である被検体断面の各点における歪み及び/又は弾性率からなる弾性データを算出する弾性データ算出手段と、前記弾性データから前記被検体断面の弾性画像データを生成する弾性画像生成手段と、前記弾性データ及び弾性画像を解析し、弾性データのヒストグラム、統計処理データおよび病変組織の複雑度を含む複数の評価データを生成する評価データ生成手段と、前記複数の評価データの少なくとも一つを選択する評価データ選択手段と、前記評価データ選択手段が選択した評価データを用いて、前記弾性画像を複数のグループのいずれかに分類する分類手段とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の超音波診断装置は、被検体の弾性データや弾性画像から生成した評価データを用いて、被検体組織を自動的に分類する手段を備えたことにより、客観的に疾患の進行状況などを評価することが可能となる。特に、評価データとして、被検体の弾性データのヒストグラム、統計処理データおよび病変組織の複雑度などを含む複数の評価データを用いるとともに、分類されるグループとの相関の高い評価データを自動的に選択する手段を備えたことにより、客観性、正確性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。図1は、本発明による超音波診断装置の実施の形態を示すブロック図である。
この超音波診断装置は、図に示すように、主な構成要素として、超音波送受信制御部1と、送信部2と、超音波探触子3と、受信部4と、整相加算部5と、信号処理部6と、白黒スキャンコンバータ7と、RF信号フレームデータ選択部8と、変位計測部9と、弾性データ演算部10と、弾性画像評価部11と、画像分類部12と、カラースキャンコンバータ13と、切替加算器14と、画像表示器15と、制御部16と、キーボード等の入力装置17とを備えている。この超音波診断装置は、入力装置17及び制御部16を介して、外部の操作者によって適宜操作されるようになっている。
【0010】
信号処理部6及び白黒スキャンコンバータ7は、断層画像を生成する断層画像構成部を構成し、Bモードなどの断層像を作成する。RF信号フレームデータ選択部8、変位計測部9、弾性データ演算部10及びカラースキャンコンバータ13は、弾性画像を生成する弾性画像構成部を構成し、弾性画像評価部11及び画像分類部12は弾性画像解析部を構成する。この超音波診断装置は、弾性画像解析部により、弾性画像を自動的に解析しその結果を表示する機能を有することを特徴としている。本実施の形態では、弾性画像解析部の機能は、超音波診断装置に組み込まれた計算機内のプログラムにより実現される。超音波診断装置とは独立して、弾性画像解析部の機能を実現する計算機を設けることも可能である。
【0011】
超音波送受信制御部1は、送信部2と受信部4を制御し、超音波探触子3を介して超音波を検査対象に送信し且つ検査対象から反射する超音波を受信するタイミングを制御する。
【0012】
超音波探触子3は、多数の振動子を短冊状に配列して形成されたものであり、機械式または電子的にビーム走査を行って被検体に超音波を送信及び受信する。超音波探触子3の中には、図示は省略したが、超音波の発生源であると共に反射エコーを受信する振動子が内蔵されている。各振動子は、入力されるパルス波、または連続波の送波信号を超音波に変換して発射する機能と、被検体の内部から発射する超音波を受けて電気信号の受波信号に変換して出力する機能を有している。
【0013】
また超音波探触子3は、超音波の受信/送信時に被検体に対する圧迫動作を加えるための圧迫面を構成する。このため、超音波探触子3の超音波送受信面には、圧迫板が装着されており、この圧迫板を被検体の体表に接触させ、圧迫面を用手的に上下動させて被検体を圧迫する。これにより、被検体の診断部位の体腔内に効果的に応力分布を与える。圧迫板は、圧力センサーを備えていてもよい。なお用手的な圧迫動作の代わりに心拍動や動脈の拍動による圧迫を利用することも可能であり、この場合には圧迫板は省略することが可能である。
【0014】
送信部2は、超音波探触子3を駆動して超音波を発生させるための送波パルスを生成すると共に、内蔵された送波整相加算部によって送信される超音波の収束点をある深さに設定するものである。
【0015】
受信部4は、超音波探触子3で受信した反射エコー信号を所定のゲインで増幅する。増幅された各振動子の数に対応した数の受波信号がそれぞれ独立した受波信号として整相加算部5に入力される。整相加算部5は、受信部4で増幅された受波信号の位相を整相した後、加算し、所定のフレームレートでRF信号フレームデータを出力する。
信号処理部6は、整相加算部5からの受波信号(RF信号フレームデータ)を入力して、ゲイン補正、ログ補正、検波、輪郭強調、フィルタ処理等の各種信号処理を行なう。
【0016】
これら超音波探触子3、超音波送受信制御部1、送波部2、受信部4、整相加算部5及び信号処理部6によって、超音波送受信手段を構成しており、超音波振動子3を用いて超音波ビームを被検体の体内で一定方向に走査させることにより、一枚の断層像を得るようになっている。
【0017】
白黒スキャンコンバータ7は、前述の超音波送受信手段の信号処理部6から出力されるRF信号フレームデータをテレビジョン方式の周期で読み出すための断層走査手段及びシステムの制御を行うための手段を有している。具体的には、信号処理部6からの反射エコー信号をディジタル信号に変換するA/D変換器と、このA/D変換器でディジタル化された断層像データを時系列に記憶する複数枚のフレームメモリと、これらの動作を制御するコントローラなどを含んでいる。
【0018】
弾性画像構成部を構成するRF信号フレームデータ選択部8、変位計測部9、弾性データ演算部10およびカラースキャンコンバータ13は、本実施の形態では、整相加算部5の出力側から分岐して設けられており、白黒スキャンコンバータ7とカラースキャンコンバータ13との出力側には切替加算器14が設けられている。
【0019】
RF信号フレームデータ選択部8は、整相加算部5から超音波診断装置のフレームレートで経時的に次々と出力されるRF信号フレームデータを順次確保するフレームメモリを備え、過去に確保された複数のRF信号フレームデータの中から一つRF信号フレームデータを選択し、新たにフレームメモリに確保されたRF信号フレームデータとの1組として変位計測部9に出力する。過去のRF信号フレームデータから一つを選択する基準は、制御部16からの指令により与えられる。例えば、操作者が圧迫動作開始前の特定の時刻を指定し、その時刻に取得されたRF信号フレームデータを選択しても良いし、圧迫動作が拍動などに従って自動的になされる場合には、拍動から圧迫がない状態を自動的に判断し、その状態で得られたRF信号フレームデータを選択することも可能である。
なお、整相加算部5から出力される信号をRF信号フレームデータと記述したが、これは例えば、RF信号を複合復調したI,Q信号の形式になった信号であっても良い。
【0020】
変位計測部9は、RF信号フレームデータ選択部8から出力された1組のRF信号フレームデータに対し1次元もしくは2次元相関処理を実行し、断層像上の各計測点の変位もしくは移動ベクトル(変位の方向と大きさ)を計測し、変位フレームデータと相関フレームデータを生成する。この移動ベクトルの検出法としては、例えば、特許文献1に記載されたようなブロック・マッチング法やグラジェント法がある。ブロック・マッチング法は、画像を例えばN×N画素からなるブロックに分け、現フレーム中の着目しているブロックにもっとも近似しているブロックを前フレームから探索し、これらを参照して予測符号化を行うものである。
【0021】
弾性データ演算部10は、変位計測部9から出力される変位フレームデータから断層像上の各計測点の歪み量や弾性率などを演算して歪み量もしくは弾性率の数値データ(弾性フレームデータ)を生成し、カラースキャンコンバータ13に出力する。歪み量は、組織の硬さを示す指標であり、所定の領域の初期(圧迫がない状態)での厚さをD、圧迫による圧縮量をΔdとするとΔd/Dで表され、例えば、深さ方向の各点について、その変位を空間微分することによって求めることができる。弾性率は、ヤング率、剛性率、体積弾性率などで表わされ、例えば、ヤング率Ymは、式(1)に示すように、各演算点における応力(圧力)を各演算点における歪み量で除することにより求める。
【0022】
Ym(i,j)=圧力(i,j)/歪み量(i,j) (1)
式中、i,jは、フレームデータの座標を表し、i,j=1,2,3,…である。
また、体表に与えられた圧力は、体表と圧迫機構との接触面に圧力センサーを介在させ、この圧力センサーによって直接的に計測したり、特開2005−66041号公報に記載された方法のように、圧計測用変形体の変形を信号処理によって検出する方法などで計測することができる。
なお、弾性データ演算部10は、算出された弾性フレームデータに座標面内におけるスムージング処理、コントラスト最適化処理や、フレーム間における時間軸方向のスムージング処理などの様々な画像処理を施し、処理後の弾性フレームデータを歪み量として出力しても良い。
【0023】
カラースキャンコンバータ13は、弾性データ演算部10から送られる弾性フレームデータをテレビジョン方式の周期で読み出すとともに、弾性データの値に応じて所定の色や階調を施して画像データとし、切替加算器14を介して表示器15に表示させる。
【0024】
カラースキャンコンバータ13の構成の一例を図2に示す。図示する例では、カラースキャンコンバータ13は、階調化回路131と、色相変換回路132とから構成される。
階調化回路131は、弾性データ演算部10から出力される弾性フレームデータを、階調化する。階調化は、例えば、弾性データ演算部10または制御部16から、弾性フレームデータのうち階調化すべき範囲とその上限値及び下限値を入力し、選択範囲内における弾性フレームデータの要素データの値の大小に応じて、選択範囲の要素データを複数段階(例えば255段階)に変換して弾性階調化フレームデータを生成する。階調化を行う領域すなわち選択範囲は、制御部16より設定された関心領域(ROI)内に設定され、操作者によって任意に変更することが可能である。また階調の上限値及び下限値は、弾性データ演算部10から出力されるか、制御部16からの命令により決定される。
【0025】
色相変換回路132は、例えば、弾性データが歪み量である場合、弾性階調化フレームデータにおいて、歪が大きく計測された領域については、弾性画像フレームデータ内の該当領域を赤色コードに変換し、逆に歪が小さく計測された領域については、弾性画像フレームデータ内の該当領域を青色コードに変換する。
なお、カラースキャンコンバータ13は、白黒スキャンコンバータでも良く、歪が大きく計測された領域は、弾性画像データ内の該領域の輝度を明るくさせ、逆に歪が小さく計測された領域は、弾性画像データ内の該領域の輝度を暗くさせるようにしても良い。
【0026】
切替加算器14は、白黒スキャンコンバータ7からの白黒の断層像データとカラースキャンコンバータ13から出力された弾性画像データとを入力し、両画像を加算又は切り替える。これにより、白黒の断層像データ及びカラーの弾性画像データのいずれか一方のみを出力したり、両画像データを加算合成して出力したりすることができる。また、例えば、特開2004−135929号公報に記載されているように、白黒断層像にカラーの断層画像を半透明的に重畳して表示するようにしても良い。
【0027】
画像表示器15は、白黒スキャンコンバータ7によって得られた時系列の断層像データすなわちBモード断層像およびカラースキャンコンバータ13によって得られた弾性画像を表示するものであり、切替加算器14を介して白黒スキャンコンバータ7及び/又はカラースキャンコンバータ13から出力される画像データをアナログ信号に変換するD/A変換器と、このD/A変換器からアナログビデオ信号を入力して画像として表示するカラーテレビモニタとからなる。
画像表示器15には、上述した断層像および弾性画像の他、弾性画像解析部による解析結果が表示される。
なお信号処理部6が、受信信号の高調波成分を抽出する機能やドプラ成分を抽出する機能を備える場合には、白黒断層像として、一般的なBモード画像のほかに、受信信号の高調波成分を画像化したティシューハーモニック断層像やティシュードプラ像を表示する場合もある。
【0028】
弾性画像解析部を構成する弾性画像評価部(評価データ生成手段)11及び画像分類部12は、弾性データ演算部10が出力する弾性フレームデータを入力し、弾性フレームデータに対し、客観的な評価・分類を行なう。弾性画像評価部11及び画像分類部12の詳細を図3〜図5を参照して詳述する。
【0029】
弾性画像評価部11は、図3に示すようにヒストグラム演算部111と、統計処理部112と、描出領域評価部113とで構成され、画像分類部12において弾性フレームデータにより描出される弾性画像を複数のグループのいずれかに分類する際の指標となる評価データを算出する。
【0030】
ヒストグラム演算部111は、弾性データ演算回路10から出力される弾性フレームデータから歪み量もしくは弾性率の出現回数をカウントし、ヒストグラムデータを作成する。ヒストグラムは、弾性画像における硬さの異なる組織の分布に相当するものであり、それ自体でも画像分類の指標となるが、本実施の形態では、画像分類部12による自動分類で用いる数値化データとするため、ヒストグラムの歪み度(スキューネス)や尖度などが算出される。
【0031】
図4に、ファントムを用いた弾性画像評価部11による解析例を示す。図4(a)〜(c)は、ファントムを用いて超音波診断装置により計測した弾性フレームデータから求めた歪み量のヒストグラムを示す図で、(a)は均質な組織を模したファントムを用いた例、図4(b)は、点在する内包物があるファントムを用いた例、図4(c)は、星型の内包物があるファントムを用いた例である。図示するように、均質なファントムでは、ヒストグラムの形状が対称的であるが、内包物がある場合には、対称性が悪い。このようなヒストグラムの歪み度や尖度は、例えば次式(2)、(3)により数値化し評価データとすることができる。
【数1】

【数2】

式(2)、(3)において、nはサンプル数、x(上線付)は平均、σは標準偏差である。
【0032】
統計処理部112は、前述の弾性フレームデータ(歪みあるいは弾性率)の平均値、標準偏差など統計処理データを算出し、歪み量もしくは弾性率の分布を数値化する。弾性フレームデータは、フレームデータの座標(i,j)の各点における弾性データ(歪み量あるいは弾性率)からなるデータであり、平均値は各点の弾性データの合計を点数で除することにより得られる。
【0033】
描出領域評価部113は、まず、二値化閾値Bthによって弾性フレームデータを二値化して検出フレームデータを作成する。図4(d)〜(f)は、前掲のファントムの弾性フレームデータを用いて描出領域評価部113で生成した検出フレームデータにより描出される画像例を示す図である。図中、白で描出された領域が評価対象とする領域(例えば病変の生じた領域)である。次いでこの二値化画像において、白で描出された領域の個数、面積、形状の複雑度などを算出する。面積については、二値化画像において歪み量が閾値以上の領域(描出領域)の面積の、それ以外の領域面積に対する比率(面積比)を算出する。形状は、最も単純な形状は円であり、同一面積の領域でも周囲長が長いほど複雑となる。従って、複雑度は、次式(4)で定義することができる。
複雑度=(周囲長)2/面積 (4)
【0034】
こうして、目的とする歪み量もしくは弾性率の領域(すなわち閾値Bth以上あるいは以下の歪み量もしくは弾性率を持つ領域)の拡がりや形状が数値化され、後述する画像分類部12で用いる評価データが得られる。
なお閾値Bthは、制御部16を介して操作者が任意に設定することも可能であるが、描出領域が強調される二値化画像が得られるよう複雑度が最大となる閾値を算出して使用することも可能である。
【0035】
弾性画像評価部11では、前述した弾性フレームデータの平均値、標準偏差の他に、統計的にテクスチャを算出する方法として一般的である同時生起行列を用いた特徴量、例えば均質性、異質性、コントラスト、角二次モーメント、エントロピー、逆差分モーメントを評価データとすることも可能である。
このように弾性画像評価部11で算出した各種評価データが、画像分類部における分類の指標となるが、さらに、操作者が制御部16を介して検査の結果、例えば血液検査の結果を入力し、評価の指標に加えたりすることも可能である。
【0036】
画像分類部12は、前述の弾性画像評価部11にて算出されたヒストグラムデータ、統計処理データ、描出領域評価データのうち少なくとも一つ以上の評価データを用いて、弾性画像を少なくとも2つ以上のグループに分類するものであり、図5に示すように、評価データ選択部121と、メモリ122と、多変量解析部123とを備える。
メモリ122には、病理診断などによって診断が確定している各グループの弾性画像データとその評価データが格納されている。新たな被検体の診断情報と超音波診断装置で生成した評価データは随時メモリ122に蓄積される。メモリに格納されている評価データの例を図6に示す。図6では、各グループに分類された弾性画像データの歪み量の平均値、面積比率、複雑度、ヒストグラムの歪み度を、パラメータ毎にグラフで示している。図中、rで示す値は、パラメータと分類との相関係数を示しており、rが大きいほど、相関の高いパラメータであることを示す。メモリ122には、算出された相関係数もパラメータ毎に格納されている。
【0037】
評価データ選択部121は評価に用いるパラメータを選択する。パラメータの選択方法は、制御部16を介して操作者が選択する方法のほか、画像分類部12内のメモリ122に記憶されている各グループの弾性画像を分類する際に相関の高かった評価パタメータを選択する方法がある。例えば、デフォルトで、分類との相関が高いパラメータが上位から順に所定数選択され、選択されたパラメータが表示器14に表示される。操作者は選択されたパラメータに対し、任意に削除、追加等を行い、分類に用いるパラメータを決定する。
【0038】
多変量解析部123は、評価データ選択部121で選択された少なくとも一つ以上のパラメータの評価データを入力し、分類結果、すなわちその評価データを持つ弾性画像が複数のグループのうちどのグループに属しているかを示す結果を出力する。
【0039】
多変量解析部123が採用する多変量解析の手法としては、例えば重回帰分析、判別分析、主成分分析、数量化法、因子分析、クラスター分析、多次元尺度法、ニューラルネットワークなどがあり、いずれを採用することも可能であるが、ここではニューラルネットワークのパーセプトロンを用いた分類方法について説明する。
【0040】
図7に、ニューラルネットワークの一例として単純パーセプトロンの構造を示す。図示するように、単純パーセプトロンは入力層、および単一のユニット(ニューロン)からなる出力層から成る。入力層には、評価データ選択部121で選択されたパラメータの評価データが入力される。例えば、パラメータとして、歪み量の平均値、標準偏差、二値化画像において歪み量が閾値以上の領域(描出領域)の面積比、および複雑度の4つのパラメータが選択されたとすると、弾性画像評価部11で算出された各パラメータの値すなわち評価データx1、x2、x3、x4が入力される。
【0041】
出力層では、次式(5)により、入力値xiに結合荷重ωiを重み付けした総和uを所定の関数f(u)で変換し、その値を出力する。
【数3】

出力層で用いる関数f(u)は、しきい関数やリニア関数が用いられる。例えば、しきい関数の場合には、uが閾値hよりも大きい場合はf(u)=1、小さい場合はf(u)=0とし、出力値zをz=f(u)とする。また出力が入力に対し直線的に増減するリニア関数の場合には、入力値uがそのまま出力値となる。
f(u)=1という結果は、評価データを作成した弾性画像が特定のグループに属することを意味し、f(u)=0という結果は、当該弾性画像が特定のグループに属しないことを意味する。出力層の変換関数としてしきい関数を用いた単純パーセプトロンを用いる場合には、出力層の閾値の異なる複数の単純パーセプトロンを並列にして、複数のグループに分類する。また入力値uが出力値の場合には、グループの数に応じて多段的に閾値を設定し、出力値を複数のグループに分類する。
【0042】
パーセプトロンでは、出力信号を教師信号(正解)と比較し、それが異なっているときに結合荷重ωiと閾値hを変更する、すなわち学習することが特徴である。具体的には、教師信号z*と出力値zとの差分をδとしたとき、式(6)に示すように、δ2が最小となる結合荷重ωiとなるように修正する。
【数4】

式中、εは学習係数である。教師信号としては、評価対象について、例えば病理診断によって診断された結果(第1〜第Nのグループのいずれか)が用いられる。このようなパーセプトロンの学習は、予め診断が確定された複数の弾性画像データとその評価データを用いて行なうことができる。また新たな分類結果について正解(確定した診断結果)が得られるたびに行なうことができ、それにより結果の正確性を高めることができる。
教師信号が入力されていない場合は、最新の結合荷重ωiと閾値hを使用して分類結果を出力する。
【0043】
多変量解析部123による分類結果は、切替加算器14に送られ、断層像や弾性画像とともに画像表示器15に表示される。表示の方法としては、分類されたグループ名を表示する、グループを横軸とし、縦軸を出力値(u)とするグラフ上にプロットする、などの任意の方法を採用することができる。
【0044】
本実施の形態の超音波診断装置によれば、RFフレームデータから得た弾性データを用いて、ヒストグラム、統計処理データ、二値化フレームデータ等の評価データを作成すると共に、これら評価データの少なくとも一つを選択し、多変量解析によって解析することにより、客観的に疾患の進行状況を示す情報を提供できる。
なお以上の実施の形態では、画像評価部11および画像分類部12からなる画像解析部の機能を超音波診断装置の内部の機能として説明したが、これらの機能は、超音波診断装置から独立したコンピュータ上に、画像解析ツールとして構築することも可能である。この場合には、超音波診断装置から画像解析ツールに弾性フレームデータを転送し、遠隔において画像診断することが可能である。
【0045】
<実施例>
病理診断によって診断が確定した肝疾患61例について、超音波診断装置で得られた弾性画像から肝臓領域を選択し、本発明による画像解析を行なった。即ち選択された領域について歪み量の平均値、標準偏差、二値化画像で描出された領域の面積比および複雑度を算出し、これらを評価データとして、線維化なし(ステージ0)、門脈域の線維性拡大(ステージ1)、線維性架橋形成(ステージ2)、小葉のひずみを伴う線維性架橋形成(ステージ3)、肝硬変(ステージ4)の各ステージへの分類を行なった。
結果を図8に示す。図示するグラフにおいて、横軸はステージ、縦軸は画像分類部の出力(任意単位)を示し、病理診断によってステージが確定されている患者の出力値をステージ毎にプロットしている。矢印で示す範囲は画像分類部によって分類される範囲を示す。この分類結果とステージとの相関は0.71であり、個々のパラメータの相関(図6)に比べ、非常に相関がよいことが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の超音波診断装置の一実施の形態の全体構成を示す図
【図2】図1の超音波診断装置のカラースキャンコンバータの構成を示す図
【図3】図1の超音波診断装置の弾性画像評価部の構成を示す図
【図4】弾性画像評価部による解析例を示す図
【図5】図1の超音波診断装置の画像分類部の構成を示す図
【図6】画像分類部のメモリに格納されている評価データの例を示す図
【図7】画像分類部(多変量解析部)の一例を示す図
【図8】実施例で得られた分類結果を示す図
【符号の説明】
【0047】
1・・・超音波送受信制御部、2・・・送信部、3・・・探触子、4・・・受信部、5・・・整相加算部、6・・・信号処理部、7・・・白黒スキャンコンバータ、8・・・RFフレームデータ選択部、9・・・変位計測部、10・・・弾性データ演算部、11・・・弾性画像評価部、12・・・画像分類部、13・・・カラースキャンコンバータ、14・・・切替加算器、15・・・画像表示器、16・・・制御部、17・・・入力装置、111・・・ヒストグラム演算部、112・・・統計処理部、113・・・検出領域評価部、121・・・評価データ選択部、122・・・メモリ、123・・・多変量解析部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体内に超音波を送受信する超音波送受信手段と、前記超音波送受信手段が受信した被検体内からのRF信号フレームデータに基づいて断層画像を生成する断層画像構成手段と、前記RF信号フレームデータを用いて前記被検体の生体組織の弾性データを算出する弾性情報演算手段と、前記弾性情報演算手段で算出された弾性データに基づいて弾性画像を生成する弾性画像構成手段と、前記断層画像及び/又は前記弾性画像を表示する表示手段とを備えた超音波診断装置において、
前記弾性画像に基き前記生体組織の特性を評価する評価データを生成する評価データ生成手段と、前記評価データ生成手段が生成した評価データを用いて前記弾性画像を分類し、分類結果を前記表示手段に表示させる分類手段とをさらに備えたことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
請求項1に記載の超音波診断装置であって、
前記評価データ生成手段が生成する評価データは、前記弾性画像における弾性データの頻度を表すヒストグラム、弾性データを統計処理した統計データ、特定の弾性データを持つ領域の形態を数値化した領域評価データ、及びこれらから派生したデータの少なくとも一つを含み、
前記分類手段は、前記評価データの少なくとも一つを選択する評価データ選択手段を備え、前記評価データ選択手段が選択した評価データを用いて、前記弾性画像を2以上のグループに分類することを特徴とする超音波診断装置。
【請求項3】
請求項2に記載の超音波診断装置であって、
前記分類手段は、予め2以上のグループに分類された複数の弾性画像の評価データをデータベースとして記憶する記憶手段を備え、前記評価データ選択手段は、前記データベースに蓄積された弾性画像の評価データとグループとの相関を算出し、相関が高い評価データを選択することを特徴とする超音波診断装置。
【請求項4】
請求項1に記載の超音波診断装置であって、
前記分類手段は、少なくとも入力層および出力層を含み、複数の評価データを入力とし、分類結果を出力とし、入力から出力への結合荷重および閾値は、前記出力と既知のデータから得られた教師信号との差が最小となるように変更されることを特徴とする超音波診断装置。
【請求項5】
被検体内から取得されたRF信号フレームデータを用いて、前記被検体の組織の病変情報を解析する解析ツールを備えた超音波診断装置であって、前記解析ツールは、
時系列で得られる2以上のRF信号フレームデータを用いて変位データを算出する変位データ算出手段と、
前記変位データを用いて検査対象である被検体断面の各点における歪み及び/又は弾性率からなる弾性データを算出する弾性データ算出手段と、
前記弾性データから前記被検体断面の弾性画像を生成する弾性画像生成手段と、
前記弾性データ及び弾性画像を解析し、弾性データのヒストグラム、統計処理データおよび病変組織の複雑度を含む複数の評価データを生成する評価データ生成手段と、
前記複数の評価データの少なくとも一つを選択する評価データ選択手段と、
前記評価データ選択手段が選択した評価データを用いて、前記弾性画像を複数のグループのいずれかに分類する分類手段とを備えたことを特徴とする超音波診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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