説明

超音波診断装置

【課題】回路規模を低減しても、回路規模が大きい装置と同等の画質を確保できる超音波診断装置を提供する。
【解決手段】超音波診断装置は、選択された超音波トランスデューサ10aに駆動信号を供給する駆動信号発生部13と、選択された開口における超音波トランスデューサから出力される受信信号を処理してディジタル化する受信信号処理部22と、超音波ビームが複数回送信されるように駆動信号発生部を制御すると共に、それらの超音波ビームによって発生する超音波エコーを複数の異なる開口における超音波トランスデューサが受信することによって受信信号処理部から出力される受信信号をメモリに順次格納する送受信制御部と、複数の異なる開口の受信信号を合成してそれらの受信信号に受信フォーカス処理を施すことにより音線信号を生成する受信ビームフォーマ25と、音線信号に基づいて画像信号を生成する画像信号生成部13とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波を送受信することにより生体内の臓器や骨等の撮像を行って、診断のために用いられる超音波画像を生成する超音波診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
医療分野においては、被検体の内部を観察して診断を行うために、様々な撮像技術が開発されている。特に、超音波を送受信することによって被検体の内部情報を取得する超音波撮像は、リアルタイムで画像観察を行うことができる上に、X線写真やRI(radio isotope)シンチレーションカメラ等の他の医用画像技術と異なり、放射線による被曝がない。そのため、超音波撮像は、安全性の高い撮像技術として、産科領域における胎児診断の他、婦人科系、循環器系、消化器系等を含む幅広い領域において利用されている。
【0003】
超音波撮像とは、音響インピーダンスが異なる領域の境界(例えば、構造物の境界)において超音波が反射される性質を利用する画像生成技術である。通常、超音波撮像装置(又は、超音波診断装置、超音波観測装置とも呼ばれる)には、被検体に当接して用いられる超音波探触子や、被検体の体腔内に挿入して用いられる超音波探触子が備えられている。
【0004】
一般的な超音波探触子においては、超音波を送受信する超音波トランスデューサとして、圧電性を有する材料(圧電体)の両端に電極を形成した振動子(圧電振動子)が用いられる。振動子にパルス状又は連続波の電圧を印加すると、圧電体が伸縮してパルス状又は連続波の超音波が発生する。また、振動子は、伝搬する超音波を受信することによって伸縮し、電気信号を発生する。この電気信号は、超音波の受信信号として利用される。
【0005】
複数の超音波トランスデューサを1次元又は2次元状に配列し、それらを順次駆動することにより、それぞれの超音波トランスデューサから送信された超音波の合成によって超音波ビームが形成されて、被検体が電子的に走査される。また、複数の超音波トランスデューサが超音波エコーを受信することによって得られた受信信号を位相整合して加算することにより、音線に沿ったサンプリングポイントに超音波エコーの焦点が絞り込まれた音線信号が形成される。
【0006】
超音波撮像における分解能を向上させるためには、超音波トランスデューサ及び送受信回路のチャンネル数を増加させれば良いが、これはコストの上昇を招いてしまう。そこで、超音波トランスデューサ及び送受信回路のチャンネル数を増加させずに超音波撮像における分解能を向上させることが望まれている。
【0007】
関連する技術として、特許文献1には、高分解能で、かつ、フレームレートを向上させることを目的とする超音波診断装置が開示されている。この超音波診断装置は、並設された複数の振動子を備える超音波探触子から超音波を複数回送波し、これらの送波に対する反射波である受波を分割された振動子の異なる振動子群毎に行い、これらの振動子群毎の情報から1本の超音波ビームに対する画像を構成する超音波診断装置であって、振動子群毎の受波情報を得る際に少なくとも2つの異なる方向からの受波情報を遅延させて得る手段を具備し、これらの振動子群毎の情報から少なくとも2本の超音波ビームに対する画像を構成する。
【0008】
特許文献2には、合理的なビームフォーミングを行うことを目的とする超音波撮影装置が開示されている。この超音波撮影装置は、単一の送波アパーチャおよび互いに重複しない複数の受波アパーチャを有する超音波トランスデューサアレイを用い、送波アパーチャから受波アパーチャの数に等しい回数の超音波送波を同一の方位に繰り返し行い、超音波送波の1回ごとに受波アパーチャを変更しながら同一の方位のエコー受波を繰り返し行い、受波したエコー受波信号同士を加算して受信信号を合成する。これを、方位を変えながら順次に行って、撮影範囲がスキャンされる。
【0009】
特許文献3には、送信パルスを発生する送信駆動回路の個数を減らしてコストを低減することを目的とする超音波診断装置が開示されている。この超音波診断装置は、配列された複数の超音波振動子を有する探触子と、超音波振動子を駆動する複数の送信駆動回路と、超音波振動子と送信駆動回路とを接続する複数の高耐圧スイッチと、送信駆動回路で発生した所定電圧以上の送信パルスをクリップする複数のリミッタと、送信駆動回路の数より多い入力端子数を有して超音波振動子で受信した信号の並べ替えと加算を行うクロスポイントスイッチと、リミッタの出力信号をクロスポイントスイッチの入力端子に接続する低耐圧スイッチと、クロスポイントスイッチの出力信号をディジタル信号に変換するA/D変換器と、A/D変換器の出力信号を遅延加算するビームフォーマとを具備する。
【0010】
特許文献4には、アナログスイッチによる負荷を少なくし、送信信号と受信信号の振幅の減少や周波数特性の悪化を抑えることを目的とする電子スキャン型超音波観測装置が開示されている。この電子スキャン型超音波観測装置は、複数の超音波振動子を有する電子スキャン型超音波探触子と、超音波振動子を駆動する駆動手段と、駆動手段により駆動された超音波振動子を選択する送信用アナログスイッチと、複数の超音波振動子からの信号を選択する受信用アナログスイッチと、受信用アナログスイッチにより選択された複数の超音波振動子からの信号を受信する受信手段とを有する電子スキャン型超音波観測装置であって、受信用アナログスイッチをダイオードスイッチにより構成したことを特徴とする。
【0011】
特許文献5には、超音波ビームを発生して処理するシステムにおいて、エリアフォーミング技法を使用して、画像の解像度の損失を抑制し、ブロックスイッチング技法を使用して、画像の構築の間に、相互相関の利用を容易にすることを目的とする超音波画像形成方法が開示されている。この超音波画像形成方法は、超音波素子の選択的なセットを使用して超音波ビームを発生するステップと、所定の領域をカバーするエコーデータを収集するために、一連の超音波素子にわたり該超音波ビームを走査するステップと、結果として生じるデータから画像を発生するステップとを含んでいる。走査プロセスは、走査プロセスにおけるそれぞれのステップの間で1つ以上の超音波素子により超音波ビームを形成するために使用される超音波素子のセットをシフトするステップ(ブロックスイッチング)を含んでいる。
【0012】
特許文献1及び特許文献2によれば、受信ビームが逐次形成されるので、受信ビーム形成のために保持するデータ量は特許文献5と比較して少なくて済むが、演算速度を優先した専用ハードウェアの受信ビームフォーマが、1つの方向への超音波の送信によって形成される受信ビームの本数だけ必要になる。また、特許文献3によれば、送信駆動回路の個数を減らすことはできるが、受信回路の個数を減らすと超音波画像の分解能が低下してしまう。特許文献4にも、画質を維持しながら回路規模を低減することは開示されていない。一方、特許文献5によれば、幅の広い送信ビームが使用されるので、送信音圧が不足する領域においては十分なSN比を達成することができない。
【特許文献1】特開平6−339479号公報(第1頁、図1)
【特許文献2】特開2001−245884号公報(第1頁、図9)
【特許文献3】特開2003−319938号公報(第1−2頁、図1)
【特許文献4】特開平8−131440号公報(第1−2頁、図1)
【特許文献5】特開2003−126088号公報(第1頁、図3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
そこで、上記の点に鑑み、本発明は、回路規模を低減しても、回路規模が大きい装置と同等の画質を確保できる超音波診断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため、本発明に係る超音波診断装置は、複数の駆動信号に従って被検体に向けて超音波を送信すると共に、被検体から伝播した超音波エコーを受信することにより複数の受信信号を出力する複数の超音波トランスデューサを含む超音波探触子と、選択された複数の超音波トランスデューサに複数の駆動信号をそれぞれ供給する駆動信号発生部と、選択された開口における複数の超音波トランスデューサからそれぞれ出力される複数の受信信号を処理してディジタル化する受信信号処理部と、選択された複数の超音波トランスデューサから超音波ビームが複数回送信されるように駆動信号発生部を制御すると共に、複数回送信された超音波ビームによって発生する超音波エコーを複数の異なる開口における複数の超音波トランスデューサが受信することによって受信信号処理部から出力される複数の受信信号をメモリに順次格納する送受信制御手段と、メモリから読み出された複数の異なる開口の受信信号を合成してそれらの受信信号に受信フォーカス処理を施すことにより音線信号を生成する受信ビームフォーマと、受信ビームフォーマによって生成される音線信号に基づいて画像信号を生成する画像信号生成手段とを具備する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、選択された複数の超音波トランスデューサが超音波ビームを複数回送信すると共に、複数回送信された超音波ビームによって発生する超音波エコーを複数の異なる開口における複数の超音波トランスデューサが受信することによって、回路規模を低減しても、回路規模が大きい装置と同等の画質を確保できる超音波診断装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳しく説明する。なお、同一の構成要素には同一の参照符号を付して、説明を省略する。
図1は、本発明の第1の実施形態に係る超音波診断装置の構成を示すブロック図である。この超音波診断装置は、超音波探触子10と、走査制御部11と、送信制御部12と、駆動信号発生部13と、送信用マルチプレクサ(MUX)14と、受信用マルチプレクサ(MUX)21と、受信信号処理部22と、受信制御部23と、RFデータメモリ24と、受信ビームフォーマ25と、画像生成部26と、DSC27と、表示部28と、操作卓31と、制御部32と、格納部33とを有している。
【0017】
超音波探触子10は、印加される複数の駆動信号に従って被検体に向けて超音波を送信すると共に、被検体から伝播した超音波エコーを受信することにより複数の受信信号を出力する複数の超音波トランスデューサ(以下、「素子」ともいう)10aを含んでいる。これらの超音波トランスデューサ10aは、1次元又は2次元状に配列されて、トランスデューサアレイを構成している。
【0018】
各超音波トランスデューサは、例えば、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛:Pb(lead) zirconate titanate)に代表される圧電セラミックや、PVDF(ポリフッ化ビニリデン:polyvinylidene difluoride)に代表される高分子圧電素子等の圧電性を有する材料(圧電体)の両端に電極を形成した振動子によって構成されている。そのような振動子の電極に、パルス状又は連続波の電圧を印加すると、圧電体が伸縮する。この伸縮により、それぞれの振動子からパルス状又は連続波の超音波が発生し、それらの超音波の合成によって超音波ビームが形成される。また、それぞれの振動子は、伝播した超音波を受信することによって伸縮し、電気信号を発生する。それらの電気信号は、超音波の受信信号として出力される。
【0019】
走査制御部11は、被検体内の所定の撮像エリアを超音波ビームによって走査する場合に、超音波探触子10から送信される超音波ビームの送信方向、受信方向、焦点深度、及び、超音波トランスデューサアレイの開口径を設定することができる。走査制御部11は、それらの設定に基づいて、送信制御部12、送信用マルチプレクサ14、受信用マルチプレクサ21、受信制御部23、及び、受信ビームフォーマ25を制御する。
【0020】
送信制御部12は、走査制御部11によって設定された超音波ビームの送信方向、焦点深度、及び、開口径に従って送信フォーカス処理を行うために、複数の駆動信号に与えるべき遅延時間(遅延パターン)を設定する。
【0021】
駆動信号発生部13は、M個(Mは、2以上の整数)のチャンネルを有しており、各チャンネルは、送信制御部12において設定された遅延時間に基づいて、選択された超音波トランスデューサに供給すべき駆動信号を発生するパルサ等を含んでいる。送信用マルチプレクサ14は、走査制御部11の制御の下で、選択された超音波トランスデューサ(M個以下)を駆動信号発生部13に接続する。
【0022】
受信信号処理部22は、N個(Nは、2以上の整数)のチャンネルを有している。受信用マルチプレクサ21は、走査制御部11の制御の下で、選択された超音波トランスデューサ(N個以下)を受信信号処理部22に接続する。例えば、受信動作において、第1群の超音波トランスデューサと第2群の超音波トランスデューサとが交互に使用される場合に、受信用マルチプレクサ21は、第1群の超音波トランスデューサと第2群の超音波トランスデューサとの内の一方を選択的に受信信号処理部22に接続する。
【0023】
受信信号処理部22の各チャンネルは、前置増幅器22aと、可変利得増幅器22bと、ローパスフィルタ22cと、A/D変換器22dとを含んでいる。超音波トランスデューサから出力される受信信号は、前置増幅器22a及び可変利得増幅器22bによって増幅され、ローパスフィルタ22cによって帯域制限されて、A/D変換器22dによってディジタルの受信信号(RFデータ)に変換される。受信制御部23は、受信信号をRFデータメモリ24に格納する。走査制御部11、送信制御部12、及び、受信制御部23は、超音波診断装置の送受信動作を制御する送受信制御手段を構成している。
【0024】
受信ビームフォーマ25は、超音波エコーの受信方向及び焦点深度に応じた複数の遅延パターン(位相整合パターン)を有しており、走査制御部11によって設定された受信方向及び焦点深度に従って、RFデータメモリ24から読み出された複数の受信信号にそれぞれの遅延を与え、それらの受信信号を加算することにより、受信フォーカス処理を行う。この受信フォーカス処理により、超音波エコーの焦点が絞り込まれた音線信号(音線データ)が形成される。
【0025】
画像生成部26は、音線信号に包絡線検波処理を施し、さらに、Log(対数)圧縮やゲイン調整等のプリプロセス処理を施して、Bモード画像信号を生成する。DSC27は、生成されたBモード画像データを通常のテレビジョン信号の走査方式に従う表示用の画像信号に変換(ラスター変換)する。これにより、表示部28において、超音波画像が表示される。
【0026】
操作卓31は、キーボードや、調整ツマミや、マウス等を含んでおり、オペレータが命令や情報を超音波診断装置に入力する際に用いられる。制御部32は、操作卓31を用いて入力された命令や情報に基づいて、超音波診断装置の各部を制御する。本実施形態においては、走査制御部11、送信制御部12、受信制御部23、受信ビームフォーマ25〜DSC27、及び、制御部32が、中央演算装置(CPU)と、CPUに各種の処理を行わせるためのソフトウェアとによって構成されるが、これらをディジタル回路又はアナログ回路によって構成しても良い。ソフトウェアは、格納部33に格納される。格納部33における記録媒体としては、内蔵のハードディスクの他に、フレキシブルディスク、MO、MT、RAM、CD−ROM、又は、DVD−ROM等を用いることができる。
【0027】
本実施形態においては、送信制御部12が、選択された複数の超音波トランスデューサ10aから超音波ビームが複数回送信されるように駆動信号発生部13を制御すると共に、受信制御部23が、複数回送信された超音波ビームによって発生する超音波エコーを複数の異なる開口における超音波トランスデューサ10aが受信することによって受信信号処理部22から出力される複数の受信信号をRFデータメモリ24に順次格納する。受信ビームフォーマ25は、RFデータメモリ24から読み出された複数の異なる開口の受信信号を合成し、それらの受信信号に受信フォーカス処理を施すことによって音線信号を生成する。
【0028】
図2は、本発明の第1の実施形態に係る超音波診断装置の第1の動作例を説明するための図である。この例においては、ほぼ同一方向に2回送信された超音波ビームによって発生する超音波エコーを、2個の異なる開口における複数の超音波トランスデューサが受信する場合について説明する。超音波トランスデューサのチャンネル数は8であるが、超音波診断装置の回路(図1に示す駆動信号発生部13及び受信信号処理部22)のチャンネル数は4である。
【0029】
図2の(a)は、送信動作を示している。超音波探触子に含まれている8個の超音波トランスデューサの内で、チャンネルCH.3−6の4個の超音波トランスデューサに駆動信号が供給され、それらの超音波トランスデューサから送信される超音波が超音波ビームを形成する。このような送信動作が2回行われる。
【0030】
図2の(b)は、第1回目の送信動作に続いて行われる第1回目の受信動作を示している。超音波探触子に含まれている8個の超音波トランスデューサの内で、第1の開口におけるチャンネルCH.1−4の4個の超音波トランスデューサが超音波エコーを受信することによって受信信号処理部から出力される4つの受信信号が、RFデータメモリに格納される。
【0031】
図2の(c)は、第2回目の送信動作に続いて行われる第2回目の受信動作を示している。超音波探触子に含まれている8個の超音波トランスデューサの内で、第2の開口における、チャンネルCH.5−8の4個の超音波トランスデューサが超音波エコーを受信することによって受信信号処理部から出力される4つの受信信号が、RFデータメモリに格納される。
【0032】
この2回の受信動作によって、図2の(d)に示すように、第1及び第2の開口におけるチャンネルCH.1−8の超音波トランスデューサが超音波エコーを受信することによって得られる受信信号が合成され、それらの受信信号に受信フォーカス処理を施すことによって音線信号が生成される。このように、送受信動作を2回に分けて行うことにより、超音波診断装置の回路のチャンネル数を半減することができる。また、受信フォーカス処理は、RFデータメモリに蓄積された受信信号に対して行われるので、受信ビームフォーマの数を増加させることもない。
【0033】
図3は、本発明の第1の実施形態に係る超音波診断装置の第2の動作例を説明するための図である。この例においては、ほぼ同一方向に2回送信された超音波ビームによって発生する超音波エコーを、2個の異なる開口における複数の超音波トランスデューサが受信する場合について説明する。超音波トランスデューサのチャンネル数は8であるが、超音波診断装置の回路のチャンネル数は4である。
【0034】
図3の(a)は、第1回目の送信動作及び第1回目の受信動作を示している。超音波探触子に含まれている8個の超音波トランスデューサの内で、第1の開口における奇数番目のチャンネルCH.1、3、5、7の超音波トランスデューサに駆動信号が供給され、それらの超音波トランスデューサから送信される超音波が超音波ビームを形成する。続いて、それらの超音波トランスデューサが超音波エコーを受信することによって受信信号処理部から出力される4つの受信信号が、RFデータメモリに格納される。
【0035】
図3の(b)は、第2回目の送信動作及び第2回目の受信動作を示している。超音波探触子に含まれている8個の超音波トランスデューサの内で、第2の開口における偶数番目のチャンネルCH.2、4、6、8の超音波トランスデューサに駆動信号が供給され、それらの超音波トランスデューサから送信される超音波が超音波ビームを形成する。第2回目の送信動作において送信される超音波ビームの方向は、第1回目の送信動作において送信される超音波ビームの方向とほぼ同一である。続いて、それらの超音波トランスデューサが超音波エコーを受信することによって受信信号処理部から出力される4つの受信信号が、RFデータメモリに格納される。
【0036】
この2回の受信動作によって、図3の(c)に示すように、第1及び第2の開口におけるチャンネルCH.1−8の超音波トランスデューサが超音波エコーを受信することによって得られる受信信号が合成され、それらの受信信号に受信フォーカス処理を施すことによって音線信号が生成される。このように、送受信動作を2回に分けて行うことにより、超音波診断装置の回路のチャンネル数を半減することができる。また、受信フォーカス処理は、RFデータメモリに蓄積された受信信号に対して行われるので、受信ビームフォーマの数を増加させることもない。
【0037】
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。
図4は、本発明の第2の実施形態に係る超音波診断装置の構成を示すブロック図である。第2の実施形態に係る超音波診断装置は、図1に示す第1の実施形態に係る超音波診断装置における送信用マルチプレクサ14及び受信用マルチプレクサ21の替わりに、制御信号分配部15及び1個のマルチプレクサ(MUX)16が設けられている。
【0038】
図5は、図4に示す制御信号分配部及びマルチプレクサの接続例を示す図である。図5においては、チャンネルCH.1−16の超音波トランスデューサが示されている。また、マルチプレクサ16は、8個のスイッチSW1−SW8を含んでいる。例えば、CH.1の超音波トランスデューサとCH.9の超音波トランスデューサとがスイッチSW1によって切り換えられ、CH.2の超音波トランスデューサとCH.10の超音波トランスデューサとがスイッチSW2によって切り換えられる。
【0039】
走査制御部11は、複数の超音波トランスデューサが超音波エコーを受信している際に、マルチプレクサ16におけるスイッチの接続状態を切り換えることができる。マルチプレクサ16におけるスイッチの接続状態を高速で切り換えるために、制御信号分配部15が、走査制御部11から供給される3ビットの制御信号に基づいてスイッチ毎の制御信号を生成し、それらの制御信号をそれぞれのスイッチに分配する。
【0040】
図6は、本発明の第2の実施形態に係る超音波診断装置の動作例を説明するための図である。この例においては、ほぼ同一方向に2回送信された超音波ビームによって発生する超音波エコーを、2個の異なる開口における複数の超音波トランスデューサが受信する場合について説明する。超音波トランスデューサのチャンネル数は16であるが、超音波診断装置の回路(図4に示す受信信号処理部22)のチャンネル数は8である。
【0041】
図6の(a)は、第1回目の送信動作を示している。超音波探触子に含まれている16個の超音波トランスデューサの内で、図5に示すマルチプレクサ16によってチャンネルCH.1−8の8個の超音波トランスデューサが選択される。それらの内のチャンネルCH.1、2の超音波トランスデューサに駆動信号が供給され、それらの超音波トランスデューサから送信される超音波が超音波ビームを形成する。
【0042】
図6の(b)は、第1回目の送信動作に続いて行われる第1回目の受信動作を示している。選択されているチャンネルCH.1−8の8個の超音波トランスデューサが超音波エコーを受信することによって受信信号処理部から出力される8つの受信信号が、RFデータメモリに格納される。
【0043】
図6の(c)は、第2回目の送信動作を示している。超音波探触子に含まれている16個の超音波トランスデューサの内で、図5に示すマルチプレクサ16によってチャンネルCH.1、2、11−16の8個の超音波トランスデューサが選択される。それらの内のチャンネルCH.1、2の2個の超音波トランスデューサに駆動信号が供給され、それらの超音波トランスデューサから送信される超音波が超音波ビームを形成する。
【0044】
図6の(d)は、第2回目の送信動作に続いて行われる第2回目の受信動作を示している。超音波探触子に含まれている16個の超音波トランスデューサの内で、図5に示すマルチプレクサ16によってチャンネルCH.9−16の8個の超音波トランスデューサが選択される。それらの超音波トランスデューサが超音波エコーを受信することによって受信信号処理部から出力される8つの受信信号が、RFデータメモリに格納される。
【0045】
この2回の受信動作によって、チャンネルCH.1−16の超音波トランスデューサが超音波エコーを受信することによって得られる受信信号が合成され、それらの受信信号に受信フォーカス処理を施すことによって音線信号が生成される。このように、送受信動作を2回に分けて行うことによって、超音波診断装置の回路のチャンネル数を半減することができる。また、受信フォーカス処理は、RFデータメモリに蓄積された受信信号に対して行われるので、受信ビームフォーマの数を増加させることもない。本実施形態においては、チャンネルCH.9−16の超音波トランスデューサから実際に超音波ビームを送信しなくても、開口合成によって、チャンネルCH.9−16の超音波トランスデューサから受信信号を得ることができる。
【0046】
図7は、本発明の第2の実施形態に係る超音波診断装置の動作例を説明するためのタイミングチャートである。図7において、横軸は時間を表しており、縦軸は図5に示すマルチプレクサ16によって選択される超音波トランスデューサのチャンネル(エレメント番号)を表している。さらに、図7には、送信タイミングとマルチプレクサ(MUX)切換タイミングとが示されている。
【0047】
第1回目の送受信において、図5に示すマルチプレクサ16によって、チャンネルCH.1−8の8個の超音波トランスデューサが選択される。まず、それらの内のチャンネルCH.1、2の超音波トランスデューサが送信用に用いられ、チャンネルCH.3−8の超音波トランスデューサが受信用に用いられる。超音波ビームの送信後、チャンネルCH.1、2の超音波トランスデューサも受信用に用いられる。
【0048】
第2回目の送受信において、まず、図5に示すマルチプレクサ16によって、チャンネルCH.1、2、11−16の8個の超音波トランスデューサが選択される。それらの内のチャンネルCH.1、2の超音波トランスデューサが送信用に用いられ、チャンネルCH.11−16の超音波トランスデューサが受信用に用いられる。超音波ビームの送信後、チャンネルCH.11−16の超音波トランスデューサが超音波エコーを受信している間に、図5に示すマルチプレクサ16における接続状態が切り換えられ、チャンネルCH.1、2の超音波トランスデューサの替わりにチャンネルCH.9、10の超音波トランスデューサが選択される。
【0049】
図7には、超音波エコーを受信するために必要となる超音波トランスデューサの範囲(ダイナミック開口)を示す線L1及びL2が示されているが、第1回目の受信範囲と第2回目の受信範囲とを合わせることによって、必要となる超音波トランスデューサの範囲をカバーできることが分かる。
【0050】
次に、本発明の第3の実施形態について説明する。
図8は、本発明の第3の実施形態に係る超音波診断装置の構成を示すブロック図である。第3の実施形態に係る超音波診断装置においては、複数の超音波トランスデューサ10aが少なくとも1つの方向に沿って配列されており、超音波探触子10が、複数の超音波トランスデューサ10aを該少なくとも1つの方向に移動させる移動機構10bをさらに含んでいる。
【0051】
第3の実施形態においては、大きいサイズの超音波トランスデューサ(素子)10aが用いられるので、素子ピッチも大きくなっている。一般に、素子ピッチは0.5λ〜1λであるが(λは、超音波の波長)、本実施形態においては、素子ピッチを1λ〜2λ程度とすることが可能であり、以下においては、素子ピッチが2λであるものとして説明する。腹部用の超音波探触子において、3.5MHzの周波数を有する超音波が使用される場合に、被検体における音速を1500m/sとすると、その波長は、0.428mm程度となる。従って、素子ピッチは、2λ=2×0.428mm=0.856mm程度となる。ここで、ビームフォーミングのために必要な素子ピッチが0.5λであるとすると、移動機構10bは、素子を0.5λ=0.214mm単位で移動させることができる。素子を4回移動させると素子ピッチである2λに等しくなるので、実際には、素子を3回(0.642mm)移動させれば足りる。
【0052】
図9は、本発明の第3の実施形態に係る超音波診断装置の動作例を説明するための図である。図9の(a)は、超音波トランスデューサの初期位置を示している。第1回目の送信動作において、超音波探触子に含まれている8個の超音波トランスデューサの内で、チャンネルCH.1−4の4個の超音波トランスデューサに駆動信号が供給されて、それらの超音波トランスデューサから送信される超音波が超音波ビームを形成する。第1回目の送信動作に続いて行われる第1回目の受信動作において、超音波探触子に含まれている8個の超音波トランスデューサが超音波エコーを受信することによって受信信号処理部から出力される8つの受信信号が、RFデータメモリに格納される。
【0053】
第2回目の送信動作において、チャンネルCH.2−5の4個の超音波トランスデューサによって送信動作が行われ、8個の超音波トランスデューサによって受信動作が行われる。同様に、第5回目の送信動作において、チャンネルCH.5−8の4個の超音波トランスデューサによって送信動作が行われ、8個の超音波トランスデューサによって受信動作が行われる。このようにして、初期位置において5回の送受信動作が行われる。
【0054】
図9の(b)〜(d)に示すように、超音波トランスデューサを0.5λずつ第1の方向(図中右側)に移動させることにより、複数の異なる開口において5回の送受信動作が行われる。このようにして、5×4回の送受信を行うことにより、フレーム1を構成する受信信号がRFデータメモリに格納される。
【0055】
次に、図9の(e)〜(h)に示すように、超音波トランスデューサを0.5λずつ第1の方向と反対の第2の方向(図中左側)に移動させることにより、複数の異なる開口において5回の送受信動作が行われる。このようにして、5×4回の送受信を行うことにより、フレーム2を構成する受信信号がRFデータメモリに格納される。
【0056】
受信フォーカス処理においては、各フレームについて、同じ超音波トランスデューサを用いて送信された超音波ビームに対応する複数の受信信号を合成してそれらの受信信号に受信フォーカス処理を施すことにより5つの音線信号を生成しても良いし、全ての受信信号を合成してそれらの受信信号に受信フォーカス処理を施すことにより1つの音線信号を生成しても良い。
【0057】
本実施形態によれば、超音波探触子の幅が同じでも、素子ピッチが粗いので、1回の送受信によって得られる受信信号のデータサイズは小さくなり、超音波診断装置の回路規模も小さくなる。一方、1つの素子が大きいので、送信強度は上昇する。合成ビームのグレーティングは素子ピッチによって決まるので、素子が固定されている場合にはグレーティングの影響が可視領域に入ってしまうが、素子を移動することにより、素子ピッチが等価的に小さくなるので、グレーティングの影響を低減することができる。
【0058】
次に、本発明の各実施形態の変形例について説明する。
図10は、本発明の各実施形態の変形例を説明するための図である。図10に示す撮像エリアにおいて、実線は、実際に超音波ビームを送信して受信信号が得られた音線(実走査線)を表しており、点線は、開口合成によって受信信号が得られた音線(走査線)を表している。
【0059】
図1に示す送信制御部12は、画像信号の各群のフレーム(フレーム1−4)において、選択された複数の超音波トランスデューサから送信される超音波ビーム(実走査線)の位置が異なるように駆動信号発生部13を制御する。また、受信制御部23は、フレーム1−4において、全ての超音波トランスデューサが超音波エコーを受信することによって受信信号処理部22から出力される複数の受信信号をRFデータメモリ24に格納する。これにより、図10に示すように、実走査線の位置が異なる複数フレームの受信信号が得られる。
【0060】
ここで、各フレームにおける受信信号を合成し、合成された受信信号に受信フォーカス処理を施すことにより音線信号を生成して、その音線信号に基づいて超音波画像を生成する場合には、応答性の良い画像が得られる。一方、RFデータメモリ24に蓄積されたフレーム1−4における受信信号を合成し、合成された受信信号に受信フォーカス処理を施すことにより音線信号を生成して、その音線信号に基づいて超音波画像を生成する場合には、被検体が静止している状態であれば、高画質な画像が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、超音波を送受信することにより生体内の臓器や骨等の撮像を行って、診断のために用いられる超音波画像を生成する超音波診断装置において利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る超音波診断装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る超音波診断装置の第1の動作例を説明するための図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係る超音波診断装置の第2の動作例を説明するための図である。
【図4】本発明の第2の実施形態に係る超音波診断装置の構成を示すブロック図である。
【図5】図4に示す制御信号分配部及びマルチプレクサの接続例を示す図である。
【図6】本発明の第2の実施形態に係る超音波診断装置の動作例を説明するための図である。
【図7】本発明の第2の実施形態に係る超音波診断装置の動作例を説明するためのタイミングチャートである。
【図8】本発明の第3の実施形態に係る超音波診断装置の構成を示すブロック図である。
【図9】本発明の第3の実施形態に係る超音波診断装置の動作例を説明するための図である。
【図10】本発明の各実施形態の変形例を説明するための図である。
【符号の説明】
【0063】
10 超音波探触子
10a 超音波トランスデューサ
10b 移動機構
11 走査制御部
12 送信制御部
13 駆動信号発生部
14 送信用マルチプレクサ
15 制御信号分配部
16 マルチプレクサ
21 受信用マルチプレクサ
22 受信信号処理部
22a 前置増幅器
22b 可変利得増幅器
22c ローパスフィルタ
22d A/D変換器
23 受信制御部
24 RFデータメモリ
25 受信ビームフォーマ
26 画像生成部
27 DSC
28 表示部
31 操作卓
32 制御部
33 格納部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の駆動信号に従って被検体に向けて超音波を送信すると共に、被検体から伝播した超音波エコーを受信することにより複数の受信信号を出力する複数の超音波トランスデューサを含む超音波探触子と、
選択された複数の超音波トランスデューサに複数の駆動信号をそれぞれ供給する駆動信号発生部と、
選択された開口における複数の超音波トランスデューサからそれぞれ出力される複数の受信信号を処理してディジタル化する受信信号処理部と、
前記選択された複数の超音波トランスデューサから超音波ビームが複数回送信されるように前記駆動信号発生部を制御すると共に、複数回送信された超音波ビームによって発生する超音波エコーを複数の異なる開口における複数の超音波トランスデューサが受信することによって前記受信信号処理部から出力される複数の受信信号をメモリに順次格納する送受信制御手段と、
前記メモリから読み出された複数の異なる開口の受信信号を合成してそれらの受信信号に受信フォーカス処理を施すことにより音線信号を生成する受信ビームフォーマと、
前記受信ビームフォーマによって生成される音線信号に基づいて画像信号を生成する画像信号生成手段と、
を具備する超音波診断装置。
【請求項2】
前記送受信制御手段が、前記選択された複数の超音波トランスデューサからほぼ同一方向に超音波ビームが複数回送信されるように前記駆動信号発生部を制御すると共に、ほぼ同一方向に複数回送信された超音波ビームによって発生する超音波エコーを複数の異なる開口における複数の超音波トランスデューサが受信することによって前記受信信号処理部から出力される複数の受信信号をメモリに順次格納する、請求項1記載の超音波診断装置。
【請求項3】
少なくとも第1群の超音波トランスデューサと第2群の超音波トランスデューサとの内の一方を選択的に前記受信信号処理部に接続するマルチプレクサをさらに具備し、前記送受信制御手段が、選択された超音波トランスデューサが超音波エコーを受信している間に、前記マルチプレクサにおける他の超音波トランスデューサの接続状態を切り換える、請求項1記載の超音波診断装置。
【請求項4】
前記複数の超音波トランスデューサが少なくとも1つの方向に沿って配列されており、前記超音波探触子が、前記複数の超音波トランスデューサを該少なくとも1つの方向に移動させる移動機構をさらに含む、請求項1記載の超音波診断装置。
【請求項5】
前記送受信制御手段が、画像信号の各群のフレームにおいて、前記選択された複数の超音波トランスデューサから送信される超音波ビームの位置が異なるように前記駆動信号発生部を制御する、請求項1記載の超音波診断装置。
【請求項6】
前記送受信制御手段が、画像信号の各群のフレームにおいて、全ての超音波トランスデューサが超音波エコーを受信することによって前記受信信号処理部から出力される複数の受信信号をメモリに格納し、
前記受信ビームフォーマが、前記メモリから読み出された各群のフレームの複数の受信信号を合成してそれらの受信信号に受信フォーカス処理を施すことにより音線信号を生成する、
請求項5記載の超音波診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−29374(P2010−29374A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−193654(P2008−193654)
【出願日】平成20年7月28日(2008.7.28)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】