説明

超音波診断装置

【課題】対象領域の時間的な形態の変化を示す新しい画像処理を提供する。
【解決手段】超音波画像形成部20は、超音波画像として、基本波画像と高調波画像を形成する。二値化処理部22は、超音波の高調波画像に対して、閾値を利用した二値化処理を施し、比較的輝度の高い画像領域と比較的輝度の低い画像領域を弁別する。造影領域特定部24は、二値化処理により選択された比較的輝度の高い画像領域の中から造影剤の領域を特定する。造影領域特定部24は、ラベリング処理などを利用して造影剤の領域を特定する。表示画像形成部26は、造影剤の領域が特定された高調波画像に対して、造影剤の時間的な形態の変化を示す表示処理を施し、さらに、超音波画像形成部20から得られる基本波画像を利用して表示画像を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波診断装置に関し、特に、超音波画像に対する画像処理に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波の造影剤を画像化する超音波診断装置が知られている。例えば、生体に対して造影剤が投与され、その生体に対して超音波を送受して得られる受信信号に含まれる高調波成分に基づいて、その生体内の血管などを流れる造影剤が画像化される。
【0003】
例えば、特許文献1には、最新の超音波画像と直前の超音波画像との差分を利用し、造影剤の流入流出の様子を画像化する旨の技術が記載されている。また、特許文献2には、造影剤を消失させる強さの超音波と造影剤を消失させない強さの超音波を利用し、造影剤の流れを画像化する旨の技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−269341号公報
【特許文献2】特開2001−252270号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した背景技術に鑑み、本願の発明者は、例えば造影剤などが流入した対象領域の表示について研究開発を重ねてきた。特に、例えば造影剤の流入経路や流入時刻を把握することができる表示に注目した。
【0006】
本発明は、その研究開発の過程において成されたものであり、その目的は、対象領域の時間的な形態の変化を示す新しい画像処理を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的にかなう好適な超音波診断装置は、超音波を送受するプローブと、プローブを送信制御する送信部と、プローブを介して超音波の受信信号を得る受信部と、受信信号に基づいて超音波画像を形成する画像形成部と、閾値を利用した弁別処理により超音波画像内において候補領域を選択する候補領域選択部と、選択された候補領域の中から、領域の時間的な形態の変化に基づいて、対象領域を特定する対象領域特定部と、超音波画像に対して前記対象領域の時間的な形態の変化を示す表示処理を施して表示画像を形成する表示処理部と、を有することを特徴とする。
【0008】
望ましい具体例において、前記対象領域特定部は、ラベリング処理により超音波画像内において候補領域を複数の孤立領域に弁別し、各孤立領域ごとの時間的な形態の変化に基づいて、複数の孤立領域の中から前記対象領域を特定する、ことを特徴とする。
【0009】
望ましい具体例において、前記対象領域特定部は、前記各孤立領域ごとに大きさの時間的な変化量を算出して当該変化量に基づいて前記対象領域を特定することを特徴とする。
【0010】
望ましい具体例において、前記表示処理部は、各時相ごとに前記対象領域に対して視覚的な識別処理を施した複数時相の超音波画像に基づいて前記表示画像を形成する、ことを特徴とする。
【0011】
望ましい具体例において、前記表示処理部は、各時相ごとに前記対象領域に対してその時相に応じた着色処理を施して前記表示画像を形成する、ことを特徴とする。
【0012】
望ましい具体例において、前記表示処理部は、各時相ごとに前記着色処理を施された複数時相の超音波画像を重ね合わせて前記表示画像を形成する、ことを特徴とする。
【0013】
望ましい具体例において、前記画像形成部は、受信信号の高調波成分に基づいて高調波超音波画像を形成し、前記候補領域選択部は、高調波超音波画像内において、閾値を利用した二値化処理により、造影剤が流入した造影領域の候補である前記候補領域を選択し、前記対象領域特定部は、前記候補領域の中から前記対象領域として造影領域を特定し、前記表示処理部は、高調波超音波画像に対して、前記造影領域の時間的な形態の変化を示す表示処理を施して表示画像を形成する、ことを特徴とする。
【0014】
望ましい具体例において、前記画像形成部は、前記高調波超音波画像に加えて、受信信号の基本波成分に基づいて基本波超音波画像を形成し、前記表示処理部は、前記表示処理を施された高調波超音波画像と前記基本波超音波画像とを合成して表示画像を形成する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、対象領域の時間的な形態の変化を示す新しい画像処理が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施において好適な超音波診断装置の全体構成を示す図である。
【図2】造影領域が特定されるまでの処理を示す図である。
【図3】表示画像が形成されるまでの処理を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明の好適な実施形態を説明する。
【0018】
図1は、本発明の実施において好適な超音波診断装置の全体構成を示す図である。プローブ10は、例えば生体などの被検体に対して超音波を送受する超音波探触子である。プローブ10は、各々が超音波を送受する複数の振動素子を備えている。
【0019】
送信制御部12は、プローブ10が備える複数の振動素子を送信制御することにより、超音波の送信ビームを形成する。また、受信処理部14は、プローブ10が備える複数の振動素子から得られる信号を処理することにより、超音波の受信ビームを形成して受信ビームに沿った受信信号を得る。受信処理部14において、検波や直交検波や対数圧縮処理や空間フィルタ処理等の各種フィルタ処理や周波数解析処理などが適宜実行される。
【0020】
超音波画像形成部20は、受信処理部14から得られる受信信号に基づいて超音波画像の画像データを形成する。超音波画像形成部20は、各フレームごとに、そのフレームに属する複数の受信ビームに関する受信信号から画像データを形成し、複数のフレームに対応した複数の画像データを次々に形成する。
【0021】
超音波画像形成部20は、超音波画像として、基本波画像と高調波画像を形成する。つまり、超音波画像形成部20は、受信信号に含まれる基本波成分に基づいて基本波画像(ファンダメンタル画像)を形成し、また、受信信号に含まれる高調波成分に基づいて高調波画像(ハーモニックエコー画像)を形成する。
【0022】
二値化処理部22は、超音波の高調波画像(画像データ)に対して、閾値を利用した二値化処理を施し、比較的輝度の高い画像領域と比較的輝度の低い画像領域を弁別する。本実施形態においては、被検体に投与された超音波の造影剤が画像化される。造影剤から得られる超音波の反射波には、高調波成分が比較的多く含まれている、そのため、高調波画像内において、造影剤の画像部分は比較的輝度が高くなる。そこで、二値化処理により、比較的輝度の高い画像領域として、造影剤の画像部分が抽出される。
【0023】
ところが、被検体内には、例えば皮下脂肪層や横隔膜などのように、比較的高い輝度となる部位も存在する。そのため、二値化処理により比較的輝度の高い画像領域を選択すると、造影剤の画像部分に加えて、例えば皮下脂肪層などの高輝度部分も選択されてしまう可能性がある。そのため、造影領域特定部24は、二値化処理により選択された比較的輝度の高い画像領域の中から造影剤の領域を特定する。造影領域特定部24は、ラベリング処理などを利用して造影剤の領域を特定する。
【0024】
表示画像形成部26は、造影剤の領域が特定された高調波画像に対して、造影剤の時間的な形態の変化を示す表示処理を施し、さらに、超音波画像形成部20から得られる基本波画像を利用して表示画像を形成する。これにより、造影剤の時間的な形態の変化、例えば被検体の血管内を造影剤が流入して進行していく様子などを示す表示画像が形成され、表示部30に表示される。
【0025】
次に、図1の超音波診断装置による画像形成処理について詳述する。なお、既に図1に示した部分(構成)については、以下の説明においても図1の符号を利用する。
【0026】
図2は、造影領域が特定されるまでの処理を示す図であり、図2には、(A)から(C)までの各処理段階におけるフレームF1からF4までの画像例が図示されている。
【0027】
図2(A)は、二値化処理により得られる画像例を示している。二値化処理部22において超音波の高調波画像が二値化処理され、比較的輝度の高い画像領域が選択されると、例えば、図2(A)に示すように、造影剤の画像部分52に加えて、例えば皮下脂肪層などの高輝度部分54も選択されてしまう。
【0028】
そこで、造影領域特定部24は、公知のラベリング処理を利用し、二値化処理された高調波画像内において、比較的輝度の高い画像領域として選択された領域を複数の孤立領域に弁別してラベリングする。なお、二値化処理の結果、ノイズ等による孤立点が多数発生するような場合には、ラベリング処理の前に、二値化処理された画像に対して、膨張収縮等のフィルタリング処理を施してノイズ成分を除去するようにしてもよい。
【0029】
図2(B)は、ラベリングされた画像例を示している。つまり、図2(A)において選択された造影剤の画像部分52と他の高輝度部分54が、ラベリング処理により、互いに異なる孤立領域として弁別され、例えば図2(B)に示す例のように、造影剤の画像部分52に対してラベル♯1が付され、他の高輝度部分54に対してラベル♯2が付される。
【0030】
そして、造影領域特定部24は、ラベルが付された各孤立領域ごとの時間的な形態の変化に基づいて、複数の孤立領域の中から造影剤の画像領域を特定する、造影領域特定部24は、例えば、各孤立領域ごとに、隣接するフレーム間の面積の変化量を算出する。そして、その変化量が所定量よりも大きい場合に、その孤立領域を造影剤の画像領域とする。
【0031】
例えば、図2(B)に示す画像例において、ラベル♯1が付された孤立領域は、フレームF1とフレームF2の間で面積が比較的大きく変化している。そのため、面積の変化量が所定量よりも大きいと判断され、造影剤の画像領域と判定される。一方、ラベル♯2が付された孤立領域は、フレームF1とフレームF2の間で殆ど面積が変化していない。そのため、面積の変化量が所定量よりも小さいと判断され、造影剤の画像領域ではないと判定される。その結果、図2(C)に示す例のように、複数の孤立領域の中から造影剤の画像部分52が特定される。
【0032】
なお、隣接するフレーム間における面積の変化量が所定量よりも大きい孤立領域が出現したフレーム(時刻)を造影剤の流入開始時刻として検出してもよい。また、面積の変化量に代えて、体積などの変化量が利用されてもよい。
【0033】
図2(C)に示すように、造影領域特定部24において造影剤の画像部分52が特定されると、次に、表示画像形成部26において表示画像が形成される。そこで、図2の画像例に対する画像処理の続きを以下に説明する。
【0034】
図3は、表示画像が形成されるまでの処理を示す図である。図3には、図2(A)から(C)の処理に引き続いて実行される、(D)から(F)までの各処理段階におけるフレームF1からF4までの画像例が図示されている。
【0035】
図3(D)は、造影剤の画像部分52に対する着色処理を示している。表示画像形成部26は、造影剤の画像部分52に対して、各フレーム(時相)に応じた着色処理を施す。例えば、各フレームごとにそのフレームに応じた色が割り当てられ、造影剤の画像部分52に対して、複数のフレームに亘って互いに異なる色が付される。
【0036】
なお、図3においては、造影剤の画像部分52に関する塗りつぶし模様の相違により、色の相違が表現されている。もちろん、実際の超音波画像において、色の相違に代えて、模様の相違による表現が利用されてもよい。
【0037】
造影剤の画像部分52に対して各フレームに応じた着色処理が施されると、表示画像形成部26は、着色処理を施された複数フレームの画像を重ね合わせる。表示画像形成部26は、例えば、過去のフレームの画像ほど上に載るように、複数フレームの画像を重ね合わせる。
【0038】
図3(E)は、複数フレームの画像の重ね合わせを示している。例えば、図3(D)のフレームF2の画像上に図3(D)のフレームF1の画像が重ねられて、図3(E)のフレームF2の画像が形成される。また、図3(D)のフレームF3の画像上に図3(D)のフレームF2の画像が重ねられ、さらにその上に図3(D)のフレームF1の画像が重ねられて、図3(E)のフレームF3の画像が形成されている。こうして、造影剤の画像部分52がフレームごとに変化して進行する様子が画像化される。
【0039】
さらに、表示画像形成部26は、複数フレームの画像を重ね合わせて得られた図3(E)の画像と、超音波画像形成部20から得られる基本波画像とを合成し、図3(F)に示す例のような表示画像を形成する。
【0040】
図3(F)に示す表示画像は、基本波画像に基づいて得られる血管60の周辺組織の画像も含んでいる。そのため、高調波画像に基づいて得られる血管60内における造影剤の進行状況が視覚的に極めて明瞭に理解できる。特に、各フレームごとに、つまり各時相ごとにその時相に応じた色で造影剤部分が表現されるため、造影剤が流入する経路に加えて造影剤が流入する時間的な経過も視覚的に容易に把握できる。
【0041】
以上、本発明の好適な実施形態を説明したが、上述した実施形態は、あらゆる点で単なる例示にすぎず、本発明の範囲を限定するものではない。本発明は、その本質を逸脱しない範囲で各種の変形形態を包含する。
【符号の説明】
【0042】
20 超音波画像形成部、22 二値化処理部、24 造影領域特定部、26 表示画像形成部、30 表示部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波を送受するプローブと、
プローブを送信制御する送信部と、
プローブを介して超音波の受信信号を得る受信部と、
受信信号に基づいて超音波画像を形成する画像形成部と、
閾値を利用した弁別処理により超音波画像内において候補領域を選択する候補領域選択部と、
選択された候補領域の中から、領域の時間的な形態の変化に基づいて、対象領域を特定する対象領域特定部と、
超音波画像に対して前記対象領域の時間的な形態の変化を示す表示処理を施して表示画像を形成する表示処理部と、
を有する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
請求項1に記載の超音波診断装置において、
前記対象領域特定部は、ラベリング処理により超音波画像内において候補領域を複数の孤立領域に弁別し、各孤立領域ごとの時間的な形態の変化に基づいて、複数の孤立領域の中から前記対象領域を特定する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項3】
請求項2に記載の超音波診断装置において、
前記対象領域特定部は、前記各孤立領域ごとに大きさの時間的な変化量を算出して当該変化量に基づいて前記対象領域を特定する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の超音波診断装置において、
前記表示処理部は、各時相ごとに前記対象領域に対して視覚的な識別処理を施した複数時相の超音波画像に基づいて前記表示画像を形成する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項5】
請求項4に記載の超音波診断装置において、
前記表示処理部は、各時相ごとに前記対象領域に対してその時相に応じた着色処理を施して前記表示画像を形成する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項6】
請求項5に記載の超音波診断装置において、
前記表示処理部は、各時相ごとに前記着色処理を施された複数時相の超音波画像を重ね合わせて前記表示画像を形成する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の超音波診断装置において、
前記画像形成部は、受信信号の高調波成分に基づいて高調波超音波画像を形成し、
前記候補領域選択部は、高調波超音波画像内において、閾値を利用した二値化処理により、造影剤が流入した造影領域の候補である前記候補領域を選択し、
前記対象領域特定部は、前記候補領域の中から前記対象領域として造影領域を特定し、
前記表示処理部は、高調波超音波画像に対して、前記造影領域の時間的な形態の変化を示す表示処理を施して表示画像を形成する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項8】
請求項7に記載の超音波診断装置において、
前記画像形成部は、前記高調波超音波画像に加えて、受信信号の基本波成分に基づいて基本波超音波画像を形成し、
前記表示処理部は、前記表示処理を施された高調波超音波画像と前記基本波超音波画像とを合成して表示画像を形成する、
ことを特徴とする超音波診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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