説明

超音波診断装置

【課題】心筋の運動を評価するための拍動解析画像を提供する。
【解決手段】プローブ10は、心臓を含む三次元空間に対して超音波を送受し、送受信部12は、プローブ10を制御することにより三次元空間から受信信号を得る。心筋表面抽出部20は、受信信号に基づいて形成される三次元空間のボリュームデータ内において、心臓の心筋表面を抽出する。参照点設定部30は、抽出された心筋表面に複数の参照点を設定する。追跡処理部40は、ボリュームデータ内において複数の時相に亘って各参照点の位置を三次元的に追跡する。そして、画像形成部50は、複数の参照点に関する追跡の結果を反映させた拍動解析画像を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波診断装置に関し、特に心臓の診断に係る機能を備えた装置に関する。
【背景技術】
【0002】
心臓を含む三次元空間に対して超音波を送受することにより得られるボリュームデータに基づいて、その心臓に関する診断情報を得る技術が従来から知られている。例えば、特許文献1には、心臓から得られる三次元超音波データセットに基づいて、その心臓の心筋に関する性能を定量的に評価する技術が示されている。
【0003】
心臓は、それを全体的に観察すると拡張収縮を繰り返している。その心臓の動きを詳細に各部位ごとに見ると、全ての部位が一斉に拡張や収縮の動作を開始するのではなく、心臓全体に亘る刺激の伝達に応じて、複数の部位が順に拡張や収縮の運動を開始する。こうした運動の伝達状況から、心筋を診断しようとする試みもなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2009−530008号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した背景事情において、本願の発明者は、超音波を利用した心筋の診断について研究開発を重ねてきた。特に、心筋の運動を評価する技術に注目した。
【0006】
本発明は、その研究開発の過程において成されたものであり、その目的は、心筋の運動を評価するための拍動解析画像を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的にかなう好適な超音波診断装置は、心臓を含む三次元空間に対して超音波を送受するプローブと、前記プローブを制御することにより三次元空間から受信信号を得る送受信部と、前記受信信号に基づいて形成される三次元空間のボリュームデータ内において前記心臓の心筋表面を抽出する表面抽出部と、抽出された前記心筋表面に複数の参照点を設定する参照点設定部と、前記ボリュームデータ内において複数の時相に亘って前記各参照点の位置を三次元的に追跡する追跡処理部と、前記複数の参照点に関する追跡の結果を反映させた拍動解析画像を形成する画像形成部と、を有することを特徴とする。
【0008】
望ましい具体例において、前記画像形成部は、前記心筋表面を立体的に映し出した心筋画像上において前記各参照点の位置にマーキングを付した三次元画像を形成する、ことを特徴とする。
【0009】
望ましい具体例において、前記画像形成部は、前記三次元空間に対応した三次元座標系内において前記各参照点の位置にマーキングを付した座標系画像を形成する、ことを特徴とする。
【0010】
望ましい具体例において、前記画像形成部は、前記三次元座標系内において前記各参照点に関する複数の時相における位置にマーキングを付した座標系画像を形成する、ことを特徴とする。
【0011】
望ましい具体例において、前記画像形成部は、前記各参照点ごとに時相間における変位量を示した変位量グラフの画像を形成する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、心筋の運動を評価するための拍動解析画像が提供される。例えば、本発明の好適な実施形態によれば、各時相ごとに心筋の運動を評価するための拍動解析画像が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施において好適な超音波診断装置の全体構成を示す図である。
【図2】ボリュームデータ内において抽出された心筋を示す図である。
【図3】複数の参照点に関する追跡の結果を説明するための図である。
【図4】座標系画像の具体例を示す図である。
【図5】変位量グラフの具体例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明の好適な実施形態を説明する。
【0015】
図1は、本発明の実施において好適な超音波診断装置の全体構成を示す図である。プローブ10は、対象組織を含む領域に対して超音波を送受波する超音波プローブである。プローブ10は、超音波を送受する複数の振動素子を備えており、複数の振動素子が送受信部12によって送信制御されて送信ビームが形成される。また、複数の振動素子が対象組織を含む領域内から得られる超音波を受波し、これにより得られた信号が送受信部12へ出力され、送受信部12が受信ビームを形成して受信ビームに沿ってエコーデータが収集される。
【0016】
プローブ10は、超音波ビーム(送信ビームと受信ビーム)を三次元空間内において走査して立体的にエコーデータを収集する三次元プローブが好適である。例えば、一次元的に配列された複数の振動素子(1Dアレイ振動子)によって電子的に形成される走査面を機械的に動かすことにより超音波ビームが立体的に走査される。また、二次元的に配列された複数の振動素子(2Dアレイ振動子)を電子的に制御して超音波ビームを立体的に走査してもよい。
【0017】
三次元空間内において超音波ビームが走査されてエコーデータが収集されると、その三次元空間に対応した三次元データ空間を構成する複数のボクセルについてのエコーデータ(ボクセルデータ)が図示しないメモリなどに記憶される。複数のボクセルデータで構成された三次元データ空間はボリュームデータと呼ばれる。そして、そのボリュームデータに対して、心筋表面抽出部20以降の各部において各種の処理が実行される。
【0018】
本発明における好適な対象組織は心臓であり、本実施形態においては、その心臓の心筋の運動に関する伝播を評価するための拍動解析画像が形成される。そこで、その拍動解析画像が形成されるまでの各種の処理について説明する。なお、図1に示した部分(構成)については、以下の説明において図1の符号を利用する。
【0019】
心筋表面抽出部20は、複数のボクセルデータで構成されるボリュームデータ内において心臓の心筋表面を抽出する。心筋表面抽出部20は、例えば、複数のボクセルデータを閾値により二値化処理するなどして、心臓の心筋表面に対応した複数のボクセルデータを識別する。なお、心臓内の心腔に対応したボクセルは、ボクセル値(エコー値)が比較的小さいため、閾値を利用して心腔に対応した複数のボクセルを識別し、心筋表面として心腔の表面を抽出するようにしてもよい。
【0020】
図2は、ボリュームデータ内において抽出された心筋100を示す図である。心臓は、左房と左室と右房と右室を備えており、さらに、心筋100の表面には左冠動脈や右冠動脈などの血管が存在する。心筋100の表面が抽出されると、参照点設定部30は、抽出された心筋100の表面に複数の参照点を設定する。図2において、心筋100の表面に示される数字を付された複数の丸印が参照点(マーキングポジション)である。
【0021】
複数の参照点は、心筋100の表面において特徴的な複数箇所に設定される。例えば、左冠動脈の分岐点、右冠動脈の分岐点、動脈静脈などの血管の接合部分などに複数の参照点が設定される。なお、複数の参照点を設定するにあたっては、例えば、図2に示す心筋100の表示画像を表示部60に表示させ、タッチパネルやマウスなどの操作デバイスを介して、ユーザが表示画像上に各参照点の位置を指定し、その指定に応じて参照点設定部30が各参照点を設定するようにしてもよい。
【0022】
複数の参照点が設定されると、追跡処理部40は、ボリュームデータ内において複数の時相に亘って各参照点の位置を三次元的に追跡する。追跡処理部40は、例えば、ボリュームデータに対応した三次元座標系内において、パターンマッチングなどを利用して、複数の時相に亘って各参照点の座標値を追跡する。例えば、参照点1について、設定された時点である時刻0における座標値が確認され、その参照点1の近傍の複数のボクセルを含むようにテンプレートが設定される。そして、次の時相である時刻1のボリュームデータ内において、テンプレート内の複数のボクセルと最も相関関係が強いボリューム部分が特定され、その特定された位置に参照点1が移動されて時刻1における参照点1の座標値が確認される。
【0023】
図3は、複数の参照点に関する追跡の結果を説明するための図である。図3には、追跡処理部40における追跡処理の結果として得られたデータが図示されている。図3(A)には、各参照点の座標データが示されている。つまり、各参照点nについて時刻0から順に各時刻t(時相)ごとに確認された座標値(xn(t), yn(t), zn(t))が示されている。
【0024】
また、複数の参照点のうちの一つの参照点を基準参照点とし、その基準参照点との間の差分の座標値を算出してもよい。図3(B)には、各参照点の差分座標データが示されている。つまり、参照点1を基準参照点として常に原点(0,0,0)とした場合に、他の各参照点nについて時刻0から順に各時刻t(時相)ごとに確認された、参照点1との間の差分の座標値(dxn(t), dyn(t), dzn(t))が示されている。
【0025】
追跡処理部40における追跡処理の結果として例えば図3に示すデータが得られると、画像形成部50は、複数の参照点に関する追跡の結果を反映させた拍動解析画像を形成する。
【0026】
画像形成部50は、拍動解析画像として、例えば、心筋表面を立体的に映し出した心筋画像上において各参照点の位置にマーキングを付した三次元画像を形成する。その心筋画像の形成においては、例えば公知のサーフェスレンダリングが利用される。つまり、複数のボクセルデータで構成されるボリュームデータに対して、視線となる複数のレイが設定され、各レイごとにレンダリング演算が行われて心筋表面が検出され、複数のレイから得られるレンダリング演算の結果に基づいて、例えば図2に示すような心筋100の表面を立体的に映し出した心筋画像が形成される。そして、その心筋画像が複数の時相に亘って各時相ごとに形成される。
【0027】
さらに、例えば図3(A)(B)のデータに基づいて、各時相ごとに(各時刻ごとに)心筋表面の画像上の各参照点の位置にマーキングが付される。これにより、例えば、図2に示す心筋100の画像と、数字を付された複数の参照点(マーキングポジション)を示した三次元の動画像が得られる。
【0028】
なお、心筋100の動画像の形成においては、特許第3537594号公報などに記載された公知の再構成処理(再構築処理)などを利用して、心筋の高速な動きに対応するようにしてもよい。
【0029】
複数の時相に亘って得られた三次元画像を表示する際には、通常の速度で再生する動画再生の他、スロー再生や早送り再生などの特殊再生が実現されてもよい。また、ユーザによって指定された時相の静止画像を表示するようにしてもよい。各種の再生機能を利用することにより、ユーザ(検査者)は、例えば図2の心筋100の表面に付された複数の参照点のうち、特異な動きをする参照点などを発見して、その参照点に対応した部位の異常な動作などを診断することが可能になる。
【0030】
さらに、画像形成部50は、拍動解析画像として、三次元空間に対応した三次元座標系内において各参照点の位置にマーキングを付した座標系画像を形成してもよい。
【0031】
図4は、座標系画像の具体例を示す図である。画像形成部50は、例えば図3(B)のデータに基づいて、図4の座標系画像を形成する。つまり、ボリュームデータが得られた三次元空間に対応したXYZ直交座標系内に、図3(B)の差分座標データに基づいて、各参照点nの位置に丸印などの表示を施して図4の座標系画像を形成する。座標系画像は各時刻ごとにその時刻のみの各参照点nを示してもよいし、図4に示すように、ある時刻における各参照点nの位置を実線丸印で示しつつ、その後の時刻に得られる各参照点nの位置を破線丸印などで示してもよい。
【0032】
また、基準となる参照点1からの相対的な位置を示す相対位置ベクトル(実線矢印)が表示されてもよいし、各参照点nごとにその参照点nについての時相間の変位を示す変位ベクトル(破線矢印)が表示されてもよい。変位ベクトルを表示させることにより、ユーザ(検査者)は、複数の参照点のうち、極端に動きの鈍い参照点などを発見して、その参照点に対応した部位の異常な動作などを診断することが可能になる。
【0033】
さらに、画像形成部50は、拍動解析画像として、各参照点ごとに時相間における変位量を示した変位量グラフの画像を形成してもよい。
【0034】
図5は、変位量グラフの具体例を示す図である。画像形成部50は、例えば図3(B)のデータに基づいて図5の変位量グラフを形成する。例えば、図3(B)のデータから各参照点nごとに、時刻0と時刻tとの間における座標間の距離(移動距離)が算出され、その距離が各参照点nの変位量とされ、図5に示すような横軸を参照点nとして縦軸に変位量を示したグラフが形成される。変位量グラフから、ユーザ(検査者)は、複数の参照点のうち、極端に動きの鈍い参照点(図5の例では参照点4,5)などを発見して、その参照点に対応した部位の異常(狭窄など)を診断することが可能になる。
【0035】
なお、例えば、ユーザが任意の2つの参照点を指定して、各時刻ごとにその2つの参照点間の距離が算出されてグラフなどで表示されてもよい。
【0036】
画像形成部50において形成された拍動解析画像は、表示部60に表示される。例えば心筋表面の画像上に各参照点の位置を示した三次元画像(図2)と座標系画像(図4)と変位量グラフの画像(図5)のうち、ユーザによって選択された画像が表示部60に表示される。また、三次元画像と座標系画像と変位量グラフの画像のうちのいずれか又は全てを組み合わせて並べて表示した表示画像が形成されてもよい。
【0037】
以上、本発明の好適な実施形態を説明したが、上述した実施形態は、あらゆる点で単なる例示にすぎず、本発明の範囲を限定するものではない。本発明は、その本質を逸脱しない範囲で各種の変形形態を包含する。
【符号の説明】
【0038】
10 プローブ、20 心筋表面抽出部、30 参照点設定部、40 追跡処理部、50 画像形成部、60 表示部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
心臓を含む三次元空間に対して超音波を送受するプローブと、
前記プローブを制御することにより三次元空間から受信信号を得る送受信部と、
前記受信信号に基づいて形成される三次元空間のボリュームデータ内において、前記心臓の心筋表面を抽出する表面抽出部と、
抽出された前記心筋表面に複数の参照点を設定する参照点設定部と、
前記ボリュームデータ内において複数の時相に亘って前記各参照点の位置を三次元的に追跡する追跡処理部と、
前記複数の参照点に関する追跡の結果を反映させた拍動解析画像を形成する画像形成部と、
を有する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
請求項1に記載の超音波診断装置において、
前記画像形成部は、前記心筋表面を立体的に映し出した心筋画像上において前記各参照点の位置にマーキングを付した三次元画像を形成する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の超音波診断装置において、
前記画像形成部は、前記三次元空間に対応した三次元座標系内において前記各参照点の位置にマーキングを付した座標系画像を形成する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項4】
請求項3に記載の超音波診断装置において、
前記画像形成部は、前記三次元座標系内において前記各参照点に関する複数の時相における位置にマーキングを付した座標系画像を形成する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の超音波診断装置において、
前記画像形成部は、前記各参照点ごとに時相間における変位量を示した変位量グラフの画像を形成する、
ことを特徴とする超音波診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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