説明

超音波電気分解によるジェトロファ解毒法

【課題】ジェトロファ種子には2%程度のフォルボールエステルが含まれる。該物質には毒性があるので除去することが望ましい。該物質は従来アルカリ等による加水分解で処理されるが、主成分であるグリセリン脂肪酸エステルも加水分解されてしまい、遊離グリセリンの影響で燃焼効率が低下するという課題がある。
【解決手段】ジェトロファ種子圧搾油に、電気分解を促進する液を入れて混合し、該混合液に高圧電流と超音波を印加することにより、フォルボールエステルを分解することで課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジェトロファ中のフォルボールエステルを分解して無毒化する処理法、及び該処理法で得られる液体燃料及び固形物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ジェトロファ(Jatropha)とは、トウダイグサ科の落葉低木である和名ナンヨウアブラギリ(南洋油桐、学名:Jatropha curcas)の別名である。該種子は油分に富み、植物性バイオディーゼル燃料の材料(例えば、非特許文献1参照)として、また該種子の圧搾残渣には大豆蛋白に匹敵する栄養価があり、家畜飼料(例えば、非特許文献2参照)として脚光を浴びている。
【非特許文献1】W.M.J.Achten et al.,Biomassand Bioenergy,32,1063-1084,2008.
【非特許文献2】H.P.S.Makkar et al.,FoodChemistry,62,207-215,1998.
【0003】
しかし、ジェトロファ種子には図1に示すようなフォルボールエステル(図中のtetradecanoyl phorbol-13-acetate及びJatropha factors C1 to C6)が2%程度含有され、該物質には毒性がある(例えば、非特許文献3参照)ので解毒することが望ましい。
【非特許文献3】Gunjan Goelet al.,International Journal of Toxicology,26,279-288,2007.
【0004】
従来、ジェトロファ種子の解毒法には、溶媒に対する分配率(溶解度)の違いを利用した低級アルコールを用いた抽出法、アルカリ加水分解法、次亜塩素酸等を用いる酸化法等が知られている(例えば、非特許文献2、4参照)。
【非特許文献4】E.M.Aregheore etal.,S.Pac.J.Nat.Sci.,21,50-56,2003.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のバイオディーゼル燃料は、主成分であるグリセリン脂肪酸エステルをメチルアルコールでエステル変換して沸点を低下させたものが主流である。しかし、副産物として生成するグリセリンは燃焼効率を低下させる原因となるため、除去しなければならない。そのため、メチルエステル化燃料の製造には高額な設備投資を要するという課題がある。
【0006】
また、植物油をエステル変換せずにそのまま燃料に供用するという試みもあるが、エステル変換された燃料に比べて沸点が高く、燃焼効率が低いという課題がある。
【0007】
フォルボールエステルはアルカリ加水分解で処理できるが、ジェトロファ種子圧搾油に該処理を施すと、主成分であるグリセリン脂肪酸エステルも加水分解されてしまい、グリセリンが遊離して燃焼効率が低下するという課題がある。
【0008】
本発明は、このような事情を鑑みてなされたものであり、従来の問題を解決し、ジェトロファ種子を解毒すると同時にエステル変換せずにそのまま燃料に供用できる高燃焼性液体燃料及び固形物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意検討した。その過程で、フォルボールエステルを含有するジェトロファ種子の圧搾油あるいは残渣に超音波電気分解を施すことによって、グリセリンを遊離せずに含有されるフォルボールエステルを分解し、かつ、該処理物を微細化することで高燃焼性を保持できることを見出した(実施例2参照)。
【0010】
本発明の第一は、図2に示す工程で、フォルボールエステルを分解処理するジェトロファの解毒法である。すなわち、ジェトロファ種子を粉砕し、該粉砕物を圧搾して得られる油もしくは残渣に、電気分解を促進する液を混合し、該混合液を攪拌し、さらに超音波を印加しながら高圧電流を流すことにより、フォルボールエステルを分解することを特徴とする。
【0011】
本発明の第二は、ジェトロファ種子圧搾油に、請求項1記載の処理を施した後、該処理物の粒子径を10μm(ミクロン)以下にまで微細化して得られる液体燃料である。
【0012】
本発明の第三は、ジェトロファ種子圧搾残渣に、請求項1記載の処理を施した後、該処理物に加熱乾燥処理を施して得られる固形物である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、燃焼効率を低減させる原因となるグリセリンを遊離せずに、ジェトロファ種子を解毒するのみならず、微細化することで高燃焼性を保持できるようになる。したがって、高価な投資をせずに解毒された高燃焼性液体燃料及び固形物を供給し得るため、非常に有用といえる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】ジェトロファに含有されるフォルボールエステルの構造式を示す図である。
【図2】ジェトロファの解毒法を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、ジェトロファ解毒法および該方法を施して得られる本発明物について順次説明する。
【0016】
〔ジェトロファ解毒法〕
本発明のジェトロファ解毒法は、図2に示すように、ジェトロファ種子の粉砕、搾油、解毒(超音波電気分解)、脱水、微細化(固形物の場合には、微細化の代わりに加熱乾燥)処理の5工程からなる。
【0017】
本発明の粉砕、搾油並びに脱水処理に関しては、常法をもって対応できる。
【0018】
本発明の解毒処理は、ジェトロファ種子の粉砕物を圧搾して得られる油もしくは残渣に、電気分解を促進する液を混合し、該混合液を攪拌し、さらに超音波を印加しながら高圧電流を流すことにより実施する。
【0019】
本発明の電気分解を促進する液は、水であることが好ましい。
【0020】
本発明における混合液の攪拌は、混合液の通電性をよくし、フォルボールエステルの分解効率を向上させる目的で実施する。攪拌の回転速度については、300rpmから500rpm程度が好ましい。その際、混合液に可溶化剤を添加すると混合を促進する上で好ましい。
【0021】
本発明における混合液への超音波の印加は、混合液の通電性をよくし、フォルボールエステルの分解効率を向上させる目的で実施する。印加する超音波は、約20kHzから約100kHzの周波数が好ましい。また予め、電気分解を促進する液に超音波を印加しておくと、クラスターが小さくなり、ジェトロファ種子の粉砕物を圧搾して得られる油もしくは残渣と混合しやすくなるため効果的である。
【0022】
本発明の電気分解に使用する電圧は、約50ボルトから約300ボルトがフォルボールエステルを効果的に分解する上で好ましい。なお電気分解に使用する電極には、白金、パラジウム、銀、チタン等の金属もしくは炭素で構成される電極棒もしくは電極板が好ましい。
【0023】
本発明の解毒処理は、ジェトロファ種子に含まれるフォルボールエステルの量によっても変わるが、フォルボールエステルの残存量が10ppm未満になるまで実施することが好ましい。
【0024】
〔本発明物〕
本発明物の液体燃料、固形燃料、飼料並びに肥料は、本発明のジェトロファ解毒処理によって得られることを必須の要件とする。
【0025】
本発明の液体燃料は、粒子径が10ミクロン以下にまで微細化された改質燃料であることを特徴とする。この微細化は、本発明の電気分解処理工程における攪拌及び超音波の印加でもある程度は達成されるが、株式会社アンクス社製の高性能燃料改質装置エコプロ(ECOPRO)に例示される微細化処理専用の装置で実施することが好ましい。なお、本発明の液体燃料は、そのまま燃料として供用できるが、軽油と混合してもよい。
【0026】
本発明の固形物は、本発明のジェトロファ解毒処理後に加熱乾燥処理したものであることを特徴とする。該加熱乾燥処理は常法で構わないが、温度については、ジェトロファ種子に含まれるフォルボールエステルとは別の毒性物質であるレクチン(lectin)等の蛋白質を熱変性で無毒化するうえで95℃以上の高温が好ましい。
【0027】
本発明の固形物の形状は、ペレット状あるいは粉末状等が例示される。
【0028】
本発明の固形物の用途肥料は、固形燃料、飼料あるいは肥料等への用途が例示される。
【0029】
次に実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に何ら制約されるものではない。
【実施例1】
【0030】
〔ジェトロファの解毒処理〕
株式会社エーアイティー社製の電気分解装置を用いて、ジェトロファ種子の圧搾油に水を5%混合し、500rpmで攪拌しながら、20kHzの超音波と50Vの電圧を3時間印加した結果、フォルボールエステルの含有量を1ppm以下にまで低減することができた。
【実施例2】
【0031】
〔ジェトロファ液体燃料〕
実施例1で製造したジェトロファ油を、株式会社アンクス社製の高性能燃料改質装置エコプロ(ECOPRO)を用いて10ミクロン以下の粒子にまで微細化した。該処理物を1:1の割合で軽油と混同し、走行試験を行なった結果、軽油100%の時よりも燃焼効率が約1.1倍に向上した。
【実施例3】
【0032】
〔ジェトロファ固形物〕
株式会社エーアイティー社製の電気分解装置を用いて、ジェトロファ種子の圧搾残渣100kgに5容量の水を加水し、500rpmで攪拌しながら、20kHzの超音波と50Vの電圧を3時間印加した結果、フォルボールエステルの含有量を1ppm以下にまで低減することができた。それを110℃で4時間加熱乾燥した結果、レクチンの含有量を1ppm以下にまで低減することができた。該乾燥物を粉砕して10kgの粉末を得た。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明によれば、燃焼効率を低減させる原因となるグリセリンを遊離せずに、ジェトロファ種子を解毒し、該処理物に微細化処理を施すことで高燃焼性の液体燃料及び固形物を供給できることが確認された。
【0034】
このように本発明のジェトロファ解毒法は、高価な投資をせずに解毒された液体燃料並びに固形物を供給する上で非常に有用といえる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジェトロファ種子を粉砕し、該粉砕物を圧搾して得られる油もしくは残渣に、電気分解を促進する液を混合し、該混合液を攪拌し、さらに超音波を印加しながら高圧電流を流すことにより、フォルボールエステルを分解することを特徴とするジェトロファの解毒法。
【請求項2】
ジェトロファ種子圧搾油に、請求項1記載の処理を施した後、該処理物の粒子径を10ミクロン以下にまでに微細化して得られる液体燃料。
【請求項3】
ジェトロファ種子圧搾残渣に、請求項1記載の処理を施した後、該処理物に加熱乾燥処理を施して得られる固形物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−202719(P2010−202719A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−47487(P2009−47487)
【出願日】平成21年3月2日(2009.3.2)
【出願人】(306000935)特定非営利活動法人日本サプリメント臨床研究会 (3)
【Fターム(参考)】