説明

超高分子量ポリエチレンマルチフィラメント糸、およびその生産方法。

本発明は、30%未満の線形密度変動係数(以下CVintraと呼ぶ)を有する個々のモノフィラメントを含むことを特徴とし、モノフィラメントのCVintraは、前記モノフィラメントから切断することで無作為に抽出された20という数の代表長に対応する線形密度値から式1を用いて決定されており、式中、xは、調査対象のモノフィラメントから抽出された代表長のいずれか1つの線形密度であり、式1Aは、前記n=20の代表長のn=20の測定線形密度全体にわたる平均線形密度である、ゲル紡糸超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)マルチフィラメント糸に関する。本発明は同様に、糸が、前記糸を構成するモノフィラメント間の50%未満の線形密度変動係数(以下CVinterと呼ぶ)を有することを特徴とする、ゲル紡糸UHMWPEマルチフィラメント糸にも関する。本発明は同様に、UHMWPE溶液のさらなる分割が、この溶液の紡糸プレートによる個々のモノフィラメントへの最終的分割の前に一切発生しないような形で、紡糸プレートの前にチャンバが存在し、このチャンバ内で溶液は、一定のUHMWPE溶液処理量で少なくとも5秒という滞留時間τを有することを特徴とする、そのゲル紡糸生産方法にも関する。本発明は同様に、本発明の糸を含むロープ、ネット、医療用ケーブルまたは複合材料にも関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、ゲル紡糸超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)マルチフィラメント糸およびそれを生産するための方法に関する。ゲル紡糸UHMWPEマルチフィラメント糸は、さまざまな方面の業界で使用され、例えばロープ、ネット、複合材料、耐切断性衣料、例えば手袋などの物品だけでなく、防弾製品例えば防弾チョッキおよびヘルメットなどの用途のために広く受け入れられてきた。したがって、本発明は、前記糸を含むこのような物品にも関する。
【0002】
最先端のゲル紡糸UHMWPEマルチフィラメント糸およびその生産用プロセスは欧州特許第1,699,954号明細書から公知である。その開示は、最高5.6GPaの引張り強度および最高203GPaの係数を有し、少なくとも5本のフィラメントを含むUHMWPE糸に関する。
【0003】
このようなマルチフィラメント糸はさまざまな産業分野において広く受け入れられてきたものの、さらに改良された糸同様、その生産プロセスの改良についてのニーズはなおも存在している。
【0004】
したがって、本発明の第1の目的は、改良された物理的および機械的特性をもつ新規のゲル紡糸UHMWPEマルチフィラメント糸を提供することにある。
【0005】
本発明の第2の目的は、外乱および/または不規則性の発生が削減される新規の糸の生産方法を提供することにある。外乱とは、例えばフィラメントの破損などのようなプロセスの停止を導く望ましくない出来事である。不規則性とは、最終的な糸の特性の改変を防止するために、例えば紡糸および延伸速度、紡糸速度などのプロセスパラメータの変更を必要とする望ましくない出来事である。
【0006】
意外にも、この第1の目的は、30%未満の線形密度変動係数(以下CVintraと呼ぶ)を有する個々のモノフィラメントを含むことを特徴とし、モノフィラメントのCVintraは、前記モノフィラメントから切断することで無作為に抽出された20という数の代表長に対応する線形密度値から、
【数1】


という式1を用いて決定されており、式中、xは、調査対象のモノフィラメントから抽出された代表長のいずれか1つの線形密度であり、
【数2】


は、前記n=20の代表長のn=20の測定線形密度全体にわたる平均線形密度である、新規のゲル紡糸UHMWPEマルチフィラメント糸を用いて達成されることが分かった。
【0007】
本発明の糸の利点は、それがさらに均質であること、すなわち前記糸のモノフィラメントはその機械的および物理的特性に関し互いにさほど差異がないというがないという点にある。本発明の糸は、同様に改良された機械的および物理的特性を有する。その上、意外にも、本発明の糸は、コーティングプロセスまたは糸の巻取りおよび/または高速糸輸送を含むプロセスの場合のように、特に高速で改善された取扱い性を示すことが判明した。本発明の糸が有用であるこのようなプロセスの例としては、製織、編組、そしてロープ、ケーブルおよびネット、特に無結節網の生産プロセスが含まれる。したがって、本発明は同様に、糸の巻取りおよび/または高速糸輸送を含むプロセスにおける本発明の糸の使用にも関する。
【0008】
本発明の糸のさらなる利点は、この糸を含む製品が、改良された機械的特性を示すという点にある。例えば、前記糸を含むロープは、例えば繰り返し荷重を受けた場合の疲労および/または寿命の改善を示す。別の例は、医療用ケーブルの例であり、さらに詳細には、本発明の糸を含む縫合糸の例であり、前記医療用ケーブルまたは縫合糸は例えば結節強さの改善を示す。
【0009】
糸の機械的特性とは、本明細書において、力を加えた場合の前記糸の弾性または非弾性反応に結びつけられる特性として理解される。本発明に照らして解釈される機械的特性の例としては、引張り強度、弾性係数、破断荷重、破断点伸びなどがある。本明細書中で物理的特性というのは、糸の組成または同一性を変えることなく観察または測定できるその糸に特徴的な特性として理解される。本発明に照らして解釈される物理的特性の例としては、個々のモノフィラメントの線形密度または直径、糸の繊度などがある。
【0010】
本発明の目的では、個々のモノフィラメントは、その横断方向直径よりはるかに長い長さ寸法を有する細長い物体である。好ましくは、モノフィラメントは、実質的に円形または楕円形の横断面を有する。マルチフィラメント糸というのは、本明細書において、複数の個々の、モノフィラメントを含む細長い物体として理解される、本発明の糸は、実質的に平行なモノフィラメントを含んでいてもよいし、あるいは加撚または編組されていてもよい。
【0011】
好ましくは、発明力ある糸のCVintraは、25%未満、より好ましくは20%未満、さらに一層好ましくは15%未満、さらにより一層好ましく10%未満、最も好ましくは5%未満である。このような低いCVintra値を有するマルチフィラメントUHMWPE糸は、例えば、以下で説明するとおりの本発明の方法を用いて得られる。
【0012】
意外にも、本発明の上述の利点は同様に、本発明の第2の実施形態にしたがって、50%未満の前記糸を構成するモノフィラメント間の線形密度変動係数(CVinter)を有し、ここでCVinterは、50という数の代表長の線形密度値を用い(なお前記長さの各々は、無作為に選択された異なるモノフィラメントに対応し、その切断により抽出される)、かつ
【数3】


という式2を用いることによって決定され、式中xは、前記代表長のいずれか1つの線形密度であり、
【数4】


は、無作為に選択されたモノフィラメントに対応するn=50の代表長のn=50の測定された線形密度全体にわたる平均線形密度である、新規のゲル紡糸UHMWPEマルチフィラメント糸を用いて達成された。
【0013】
このような糸の意外な利点は、決定された一つの引張り強度について、この糸が、同じ強度の公知の糸と比べて減少した厚みを有するという点にある。いずれかの説明に束縛されることなく、発明人らは、厚みの減少がこの糸の内部で個々のモノフィラメントがよりよく充填されているためであると考えた。
【0014】
好ましくは、CVinterは、40%未満であり、より好ましくは30%未満、さらに一層好ましくは20%未満、さらに一層好ましくは10%未満、最も好ましくは5%未満である。このような低いCVinter値を有するマルチフィラメントUHMWPE糸は、例えば以下に説明する通りの本発明の方法を用いて得られる。
【0015】
本発明の好ましい実施形態においては、発明力ある糸は、上述の範囲内のCVintraおよびCVinterの両方を有する。このような糸はさらに改善された機械的および/または物理的特性を有する。
【0016】
好ましくは、発明力ある糸の係数は、少なくとも50GPa、より好ましくは少なくとも100GPa、より一層好ましくは少なくとも150GPa、最も好ましくは少なくとも180GPaである。
【0017】
好ましくは、発明力ある糸の強度は少なくとも1.2GPa、より好ましくは少なくとも2GPa、さらに一層好ましくは少なくとも3GPa、さらに一層好ましくは少なくとも4GPa、さらに一層好ましくは少なくとも5GPa、最も好ましくは少なくとも5.5GPaである。引張り特性が線形密度の変動などのその他の物理的特性を犠牲にして達成されるということが公知であるため、発明力ある糸がこのような高い引張り強度を有することは発明人らにとって意外であった。したがって、発明力ある糸がこれまで達成されたことのない高い引張り強度と低いCVinterおよび/またはCVintraの組合せを有することが意外にも発見された。
【0018】
好ましくは、発明力ある糸の破断点伸びは、多くとも5%、より好ましくは多くとも3.5%、最も好ましくは多くとも2.5%および好ましくは少なくとも0.5%、より好ましくは少なくとも0.75%である。
【0019】
好ましくは、発明力ある糸の個々のモノフィラメントの繊度は少なくとも0.8dpf、より好ましくは少なくとも1、最も好ましくは少なくとも1.5dpfである。好ましくは、前記繊度は多くとも30dpf、より好ましくは多くとも20dpf、最も好ましくは多くとも10dpfである。当該技術分野においては、モノフィラメントの繊度の減少と共に非均質性の問題が増大することが公知である。しかしながら、CVintraとして表現される個々のモノフィラメントの均質性およびCVinterとして表現される糸の均質性は、その繊度が減少しても実質的に保たれることが意外にも発見された。
【0020】
以上および以下で発明力ある糸とは、本発明のゲル紡糸UHMWPE糸として理解される。代表長とは、CVintraを決定する場合には調査対象の同じモノフィラメントから切断することによって無作為抽出されたか、またはCVinterを決定する場合には糸の異なるモノフィラメントから抽出される各々を切断することによって無作為抽出されたモノフィラメントの長さとして理解される。
【0021】
本発明は同様に、本発明の新規でかつ発明力あるゲル紡糸UHMWPEマルチフィラメント糸を含む物品にも関する。本発明の糸を含むロープおよびネットが特性の改善を示し、本発明の糸からより容易に製造できるということが発見された。したがって、本発明は特に、発明力ある糸を含むロープおよびネットに関する。ロープは、海洋および海上作業、例えばアンカー取扱い、地震作業、堀削リグの係留およびプラットフォーム製作および曳航において利用するためのロープを含めた重作業用ロープであってよい。糸が有する高い靭性と耐磨耗性は、ロープに優れた耐荷重性能を付与する。このロープは、軽量であるために取扱いが容易である。ネットは漁網であってよい。高い耐咬性および軽量性のため、この糸は、漁網として特に有用である。
【0022】
本発明は同様に、本発明の糸を含む医療装置にも関する。好ましい実施形態においては、この医療装置はケーブルまたは縫合糸である。その他の例としては、メッシュ、エンドレスループ製品、バッグ様バルーン様製品およびその他の製織製品および/またはメリヤス製品が含まれる。ケーブルの優れた例としては、外傷固定ケーブル、胸骨閉鎖ケーブル、および予防ケーブルまたは人口装具周辺ケーブル、長骨骨折固定ケーブル、小骨骨折固定ケーブルが含まれる。同様に、靭帯代替物などのチューブ様の製品もまた可能である。
【0023】
本発明の糸を含む複合品も同様に、特性の改善を示す。したがって、本発明は、詳細には、本発明の実施形態にしたがった糸を含む複合品に関する。好ましくは、複合品は、発明力ある糸の網状組織を含む。網状組織とは、前記糸のモノフィラメントがさまざまなタイプの形態に配置されていること、例えばメリヤスまたは製織布、糸が無作為のまたは秩序立った方向性を有する不織布、さまざまな従来技術のいずれかにより布の形に積層または成形された一方向UD配置としても知られる平行アレイ配置を意味する。好ましくは、前記物品は、前記糸の少なくとも1つの網状組織を含む。より好ましくは、前記物品は、発明力ある糸の複数の網状組織、好ましくはUD網状組織を含み、一層内の糸の方向は、隣接する層内の糸の方向に対し一定の角度を成していることが好ましい。発明力ある糸のこのような網状組織は、耐切断性衣料例えば手袋、と同様に防弾製品例えば防弾チョッキおよびヘルメット内に含まれ得る。したがって本発明は同様に、本発明の糸を含む、以上で列挙した物品にも関する。
【0024】
本発明は同様に、本発明の糸を含むラウンドスリングにも関する。ラウンドスリングは、苛酷な条件下で多くの場合長時間にわたり力に耐える必要があることから、糸の強度が高いことが有利である。
【0025】
本発明は同様に、釣り糸、凧糸およびヨット糸を含めた、本発明の糸を含むスポーツ用備品にも関する。糸の低い伸びおよび高い弾性率により、釣り人は、魚がルアーに食いつき始めたことさえ感じることができるため、釣糸にとって有利である。これらの特性は同様に、凧上げおよびヨット操縦における精確な制御も可能にする。
【0026】
本発明は同様に、本発明の糸を含む航空貨物用ネットおよび空輸コンテナにも関する。糸は、その高強度、耐磨耗性および軽量性のため、航空機の利用分野において特に適切なものとなっている。
【0027】
本発明は、さらに、新規で発明力あるUHMWPEマルチフィラメント糸を生産するゲル紡糸方法に関する。本発明に係る方法は、
a) 紡糸溶剤中のUHMWPEを含むスラリーを押出し機に供給するステップと;
b) 押出し機内のスラリーを紡糸溶剤中のUHMWPEの溶液へと変換するステップと;
c) 複数の紡糸孔を含む紡糸プレートにステップb)の溶液を通過させて、糸を構成するモノフィラメントを形成することにより、マルチフィラメント糸を紡糸するステップと;
d) 得られたモノフィラメントを冷却してゲルモノフィラメントを形成するステップと;
e) ゲルモノフィラメントから紡糸溶剤を少なくとも部分的に除去するステップと;
f) 紡糸溶剤の除去の前、途中または後に少なくとも1回の延伸ステップで、モノフィラメントを延伸するステップと、
を含み、ステップb)で得たUHMWPE溶液のさらなる分割が、ステップc)におけるこの溶液の個々のモノフィラメントへの最終的分割の前に一切発生しないような形で、紡糸プレートの前にチャンバが存在し、このチャンバ内で溶液は、一定のUHMWPE溶液処理量で少なくとも50秒という滞留時間τを有することを特徴とする。
【0028】
UHMWPE溶液の分割とは、本明細書では、前記溶液の体積を、例えば押出し機、ギヤポンプ、容積移送式ポンプなどの中の可動構成要素の歯によってかあるいは溶液をろ過用ふるいに通過させるか、複数の導管内に同時に通過させるかなどによって、複数のより小さな体積へと分割することを意味する。
【0029】
滞留時間τとは、本明細書では一体積単位のUHMWPE溶液がチャンバから退出する前にチャンバ内で経過した平均時間(秒単位)として理解される。滞留時間は、チャンバの体積Vと体積流量νの間の
【数5】


という式3にしたがった比として定義される。
【0030】
体積流量νは、押出し機のノズルを退出するUHMWPEの体積すなわち、一単位時間あたりに、チャンバの横断面を通って垂直方向に流れる押出し機の出力である。
【0031】
意外にも、本発明の方法は、公知の方法に比べて、新規でかつ改良されたUHMWPEマルチフィラメント糸を生産し、外乱および/または不規則性による不利な影響を受ける可能性が低いことが発見された。存在する外乱および/または不規則性の程度はこの生産方法においてより低いものであるため、この方法はより経済的なものとなっていることが発見された。同様に、糸の完全破損が発生する事象の数も低減されることが発見された。意外にも、本発明の糸は、公知のゲル紡糸UHMWPEマルチフィラメント糸よりも改善された処理量で生産された。
【0032】
同様に、同じ生産速度での改善された収率も、意外にも観察された。こうして、本発明の方法は、たとえ多数の紡糸孔を使用する場合でさえ低いCVinterおよび/またはCVintraを特徴とする糸を生産し、さらに、それは、その他の匹敵する方法よりもはるかに経済的に作動する。
【0033】
ステップa)〜f)を含む方法は、欧州特許第1,699,954号明細書から公知である。しかしながら、その開示は、UHMWPE溶液が時間τの間滞留するチャンバについて言及していない。
【0034】
国際公開第2007/118008A2号パンフレットは、UHMWPEのためのゲル紡糸プロセスにおける滞留時間を導入するためのチャンバの使用を開示している。しかしながら、その中で開示されているプロセスは、紡糸溶剤中のUHMWPE粉末粒子がより長い時間溶解できるようにするためにこの滞留時間を用いている。前記プロセスは、本発明の方法が以上の段階で規定した通りのチャンバを用いることで可能にしているように、前記溶剤中に前記粒子が溶解した後および/または押出しステップの後に得られるUHMWPE溶液のより長い緩和時間を可能にするために滞留時間を使用していない。その上、引用した参考文献のプロセスでは、UHMWPE溶液を作った後、前記溶液は、溶液の分割が行なわれる容積移送式ポンプの中に通される。したがって、本発明の方法の有利な効果は、引用された参考文献において開示されたプロセスによって達成され得ないものである。以下に、図面の説明を記す。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】チャンバと導通手段の間の漸進的連結を示す。
【図2】チャンバの異なる構造を示す。
【図3】チャンバの異なる構造を示す。
【図4】本発明の糸の線形密度を測定するために使用される装置を概略的に示す。
【0036】
本発明の方法において使用されるチャンバは、その内部容積が所要滞留時間τを提供するのに充分なものであることを条件として、あらゆる形状を有していてよい。しかしながら、滞留時間分布は可能なかぎり狭いことが好ましい。例えばチャンバの容積を減少させることによってτを狭めることができる。
【0037】
チャンバ実施形態の例としては、容器またはパイプ、例えば直管または曲管がある。容器特に丸い横断面を有する容器例えば円筒形容器が好ましい。同様に、チャンバにUHMWPE溶液を輸送するために使用される導通手段とチャンバの連結は、漸進的連結であることが好ましい(図1)。漸進的連結とは、本明細書において、チャンバの直径が導通手段(101)の直径φ(401)と等しくなるまでの長さl(200)全体にわたるチャンバ(100)の直径φ、(402)の漸進的減少を意味する。好ましくは、lは5〜150mmの間、より好ましくは10〜50mmの間にある。
【0038】
好ましい実施形態において、紡糸プレートは、図2に示されているように、間に導通手段を一切使用せずにチャンバに直接連結されており、こうして溶液はチャンバ内に所望の時間τの間滞留した後、個々の流体モノフィラメントの形に直ちに紡糸されるようになっている。図2a)を参照すると、チャンバ(100)は、間に伝導手段が一切無い状態で、紡糸プレート(102)に直接連結されている。紡糸プレート上の紡糸孔を含む部域(103)は、紡糸プレート(104)全体の面積より小さい。好ましくは、チャンバ(100)の横断面は、紡糸プレート(102)と同じかまたはほぼ同じ形状およびサイズを有し、さらに好ましくは、前記横断面は、紡糸孔が位置設定された紡糸プレート上の部域(103)の横断面と同じかまたはほぼ同じ形状およびサイズを有する。図2b)に示されているように、部域(103)は、紡糸プレート(104)の面積と等しいかまたはほぼ等しい。好ましい実施形態において、全ての横断面は円形である。本発明の方法のこの実施形態では、CVinterおよびCVintraがさらに改善されることが発見された。
【0039】
図3、特に図3a)で示されているようなさらに好ましい実施形態において、チャンバ(100)の初期横断面積は紡糸プレート(102)のものよりも大きく、チャンバは、長さl全体にわたりくびれ(300)を呈する、すなわちチャンバ(100)の初期横断面積は、紡糸プレート(102)の横断面積までチャンバの軸方向長さに沿って漸進的に削減されている。図3b)は、本発明の方法において使用されるチャンバのさらに好ましい実施形態を示す。ここでは、チャンバ(100)の初期横断面は、漸進的に削減され、長さ(300)全体にわたり、紡糸プレート(102)の横断面よりも小さい横断面、さらに一層好ましくは紡糸孔を含む紡糸プレート上の部域(103)の横断面より小さい横断面から、紡糸プレートまたは紡糸孔を含む紡糸プレート上の部域(103)の横断面(102)とほぼ同じ横断面まで、再び増大する。発明力ある方法のこの実施形態では、大抵はCVinterおよびCVintraが改善されることが発見された。
【0040】
通常、ふるいパックが、紡糸プレートと押出し機のスクリュー先端部の間に存在して、UHMWPE溶液をろ過する。ふるいパックが使用される場合、チャンバは紡糸プレートとふるいパックの間に存在する。溶液は、好ましくは恒常な体積流量で好ましくは定量ポンプを用いて、さまざまなハードウェア構成要素、例えばチャンバ、押出し機などに供給される。
【0041】
本発明の方法によると、紡糸プレートの前にチャンバが存在し、このチャンバ内でUHMWPE溶液は、UHMWPE溶液の恒常な処理量で少なくとも60秒という滞留時間τを有する。より好ましくは、τは少なくとも120秒、さらに一層好ましくは少なくとも180秒、さらにより一層好ましくは少なくとも200秒、さらにより一層好ましくは240秒、さらにより一層好ましくは300秒、さらにより一層好ましくは360秒、最も好ましくは少なくとも720秒である。恒常な溶液処理量でのチャンバ内の滞留時間τは、横断面の直径および/またはチャンバの長さを増大させることによって増大させてよい。τを増大させることによって、CVinterおよびCVintraが減少することが視察された。
【0042】
好ましくは、τは多くとも1800秒、より好ましくは多くとも1200秒、最も好ましくは多くとも800秒である。さらにπを増大させることにより、以上で定義した通りよりも低い変動係数に関しては、UHMWPE糸をさらに改善できるものと考えられる。ただし、発明力ある方法の生産性は、非経済的なレベルにまで低下することが考えられ、ポリマーの熱分解が発生するかもしれない。
【0043】
好ましくは、UHMWPE溶液がチャンバ内部で受ける平均せん断速度は、少なくとも10−9sec−1、より好ましくは少なくとも10−6sec−1、さらに一層好ましくは少なくとも10−4sec−1、最も好ましくは少なくとも10−2sec−1である。好ましくは前記平均せん断速度は多くとも10sec−1、より好ましくは多くとも5sec−1、さらに一層好ましくは多くとも2sec−1、最も好ましくは多くとも1sec−1である。これはさらに削減されたCVを提供する。恒常な溶液処理量では、チャンバの横断面の直径を修正することによって、チャンバ内のせん断速度を変動させてよい。本明細書でせん断速度[sec−1単位]とは、チャンバ内部のUHMWPEの速度[cm・sec−1]とチャンバのすき間例えば直径[cm]の間の比として理解される。
【0044】
好ましくは、チャンバは、120〜220℃の間、より好ましくは160〜190℃の間の温度まで加熱される。好ましくは、チャンバの温度はおよそUHMWPE溶液の温度である。加熱は外部被覆および熱伝導流体の循環により提供されてよく、あるいは、抵抗素子との接触によりチャンバを電気的に加熱してもよく、あるいは電源への誘導結合によりチャンバを加熱してもよい。加熱は、熱伝導流体の外部循環によって行なわれることが好ましい。
【0045】
本発明の方法において使用されるUHMWPEは好ましくは、135℃でデカリン中溶解時に測定された少なくとも5dl/g、好ましくは少なくとも10dl/g、より好ましくは少なくとも15dl/g、最も好ましくは少なくとも21dl/gという固有粘度を有する。好ましくは、IVは多くとも40dl/g、より好ましくは多くとも30dl/g、さらに一層好ましくは多くとも25dl/gである。IVを入念に選択すると、紡糸すべきUHMWPE溶液の加工性と、得られたモノフィラメントの機械的特性の間に平衡が得られる。
【0046】
好ましくは、UHMWPEは、炭素原子100個あたり1個未満の分岐そして好ましくは炭素原子300個当たり1個未満の分岐を伴う線状ポリエチレンであり、1個の分岐または側鎖または鎖分岐は通常少なくとも10個の炭素原子を含む。この線状ポリエチレンはさらに、最高5mol%の1つ以上のコモノマー、例えばプロピレン、ブテン、ペンテン、4−メチルペンテンまたはオクタンなどのアルケンのみならず、少量、一般的には5質量%未満、好ましくは3質量%未満の慣用的な添加剤例えば酸化防止剤、熱安定化剤、着色料、流動促進剤などを含んでいてよい。
【0047】
本発明の方法のステップa)のUHMWPEスラリーを調製するためには、好ましくはペレットの形をとりさらに好ましくは粉末であるUHMWPEを公知の紡糸溶媒すなわちUHMWPEのゲル紡糸に適した溶剤のいずれかと混合してよい。UHMWPEスラリーの形成を撹拌型混合タンク内で行ない、このように形成されたスラリーを押出し機に放出してもよいし、またはそれを押出し機内で直接生産してもよい。
【0048】
好ましくは、UHMWPEスラリーは、少なくとも3質量%、より好ましくは少なくとも5質量%、さらに一層好ましくは少なくとも8質量%、最も好ましくは少なくとも10質量%のUHMWPEを含む。UHMWPEスラリーは好ましくは多くとも30質量%、より好ましくは多くとも25質量%、さらに一層好ましくは多くとも20質量%、最も好ましくは多くとも15質量%のUHMWPEを含む。加工性を改善させるため、ポリエチレンのモル質量が高くなればなるほど低い濃度が好ましい。好ましくはスラリーは、15〜25dl/gの範囲内のIVを有するUHMWPEについて3〜25質量%の間のUHMWPEを含む。しかしながら、均質な発明力ある糸を得るためには、より高い濃度のスラリーを用いることが好ましい。したがって、より好ましくは、スラリーは、15〜25dl/gの範囲内のIVを有するUHMWPEについて5〜20質量%のUHMWPEを含む。
【0049】
紡糸溶媒の適切な例としては、脂肪族および脂環式炭化水素例えばその異性体を含めたオクタン、ノナン、デカンおよびパラフィン;石油留分;鉱油;灯油;芳香族炭化水素例えばデカリンおよびテトラリンなどのその水素化誘導体を含めたトルエン、キシレン、およびナフタレン;ハロゲン化炭化水素、例えばモノクロロベンゼン;およびシクロアルカンまたはシクロアルケン、例えばカリーン(careen)、フッ素、カンフェン、メンタン、ジペンテン、ナフタレン、アセナフタレン、メチルシクロペンタンジエン、トリシクロデカン、1,2,4,5−テトラメチル−1,4−シクロヘキサジエン、フルオレノン、ナフトインダン、テトラメチル−p−ベンゾジキノン、エチルフオレン、フルオランテンおよびナフテノンが含まれる。同様に、UHMWPEのゲル紡糸のために以上で列挙した紡糸溶媒の組合せを使用してもよく、溶剤の組合せも単純化を期して紡糸溶媒と呼ばれる。好ましい実施形態では、最適な紡糸溶媒は、室温で不揮発性である例えばパラフィン油などである。同様に、本発明の方法は、例えばデカリン、テトラリンおよび灯油グレードなどの室温で比較的揮発性の紡糸溶媒のために特に有利であることも発見された。最も好ましい実施形態において、最適な紡糸溶媒はデカリンである。
【0050】
本発明によると、UHMWPE溶液は、複数の紡糸孔を含む紡糸プレートを通してこの溶液を紡糸することによって、個々のモノフィラメントへと成形される。
【0051】
本発明の好ましい一実施形態では意外にも、本発明の糸のさらに改善されたCVintraおよびCVinterが、1cmあたり多くとも20個の紡糸孔、好ましくは多くとも15個、最も好ましくは多くとも10個の紡糸孔を有する紡糸プレートを使用した場合に得られるかもしれない、ということが発見された。したがって本発明は同様に、このような紡糸プレートおよびポリマー繊維紡糸方法におけるその使用にも関する。好ましくは、前記紡糸プレートは1cmあたり少なくとも0.5個、より好ましくは少なくとも1個、最も好ましくは少なくとも3個の紡糸孔を有する。好ましくは、紡糸プレートの紡糸孔は、紡糸プレートの表面全体にわたり分布し、より好ましくは、これらは等分布している。このような紡糸プレートの使用によりさらに均一なUHMWPEマルチフィラメント糸が製造されるだけではなく、個々のモノフィラメントの破損の発生も削減され、方法の生産性が改善されることがわかった。
【0052】
好ましくは、紡糸プレートは少なくとも10個、より好ましくは少なくとも50個、さらに一層好ましくは少なくとも100個、さらにより一層好ましくは300個、最も好ましくは少なくとも500個の紡糸孔を含む。好ましくは、紡糸プレートは多くとも5000個、より好ましくは多くとも3000個、最も好ましくは多くとも1000個の紡糸孔を含む。好ましくは、紡糸プレートは多くとも5000個、より好ましくは多くとも3000個、最も好ましくは多くとも1000個の紡糸孔を含む。
【0053】
紡糸プレートを出たばかりのモノフィラメントは流体モノフィラメントである。本明細書で使用する「流体モノフィラメント」という用語は、前記UHMWPE溶液を調製するために用いられる紡糸溶媒中のUHMWPEの溶液を含む流体様のモノフィラメントを意味し、前記流体モノフィラメントは、紡糸プレートを通してUHMWPE溶液を押出すことによって得られ、押出された流体モノフィラメント中のUHMWPEの濃度は、前記押出しの前のUHMWPE溶液の濃度と同じかまたはほぼ同じである。
【0054】
好ましくは、紡糸温度は、150℃〜250℃の間にあり、より好ましくはそれは紡糸溶媒の沸点より低く選択される。例えば紡糸溶媒としてデカリンが使用される場合、紡糸温度は好ましくは多くとも190℃、より好ましくは多くとも180℃、最も好ましくは多くとも170℃、そして好ましくは少なくとも115℃、より好ましくは少なくとも120℃、最も好ましくは少なくとも125℃である。パラフィンの場合、紡糸温度は好ましくは220℃未満、より好ましくは130℃〜195℃の間である。
【0055】
好ましい実施形態においては、紡糸口金の各紡糸孔は、少なくとも1つの収縮ゾーンを含む幾何形状を有する。収縮ゾーンとは、本明細書において、紡糸孔内で1つの延伸比DRspが達成されるように直径DからD間で、10°〜20°、より好ましくは13°〜17°の間の円錐角度での漸進的な直径減少を伴うゾーンとして理解される。好ましくは、紡糸孔はさらにこの収縮ゾーンの下流側に、1〜50の間の長さ/直径比L/Dを有する恒常な直径のゾーンを含む。より長いL/Dについて発明力ある糸のCVがさらに削減されることが観察された。したがって、L/Dはより好ましくは3〜25の間の、最も好ましくは5〜15の間である。
【0056】
紡糸孔DRsp内の延伸比は、収縮ゾーンの初期横断面および最終横断面における溶液流速の比によって表わされ、それぞれの断面積の比と等価である。円錐台の形を有する収縮ゾーンの場合、DRspは、初期および最終直径の二乗間の比、すなわち(D/Dに等しい。好ましくは、DおよびDは、少なくとも5、より好ましくは少なくとも10、さらに一層好ましくは少なくとも15、最も好ましくは少なくとも20のDRspを得られるように選択される。
【0057】
流体モノフィラメントは好ましくは、1〜200mmの間、より好ましくは10〜100mmの間、最も好ましくは20〜75mmの間の長さをもつエアギャップ内に、そしてその後冷却ゾーン内に発出され、この冷却ゾーンから、第1の従動ローラー上に取り上げられる。好ましくは、流体モノフィラメントは、エアギャップ内において少なくとも5、より好ましくは少なくとも20、最も好ましくは少なくとも40の延伸比DRagで引き伸ばされる。エアギャップ内の引伸ばしは、第1の従動ローラーの表面速度が流体モノフィラメントの送出速度すなわち紡糸口金から送出されるUHMWPE溶液の流速を上回るような形でこのローラーの角速度を選択することにより達成される。
【0058】
好ましくは、DRspおよびDRagは、本発明の方法において、少なくとも100、より好ましくは少なくとも200、最も好ましくは少なくとも300という流体モノフィラメントの合計延伸比すなわちDRfluid=DRsp×DRagが得られるように選択される。
【0059】
溶剤含有ゲルモノフィラメントを形成するためのエアギャップを退出した後の流体モノフィラメントの急冷としても知られる冷却は、気体流内および/または液体冷却浴内で実施されてよい。好ましくは、冷却浴は、UHMWPEのための溶剤ではない冷却液そしてより好ましくはUHMWPE溶液を調製するために用いられる溶剤と混和性でない冷却液を含んでいる。好ましくは、冷却液は、少なくとも流体フィラメントが冷却浴内に入る場所でフィラメントに対し実質的に垂直に流れ、その利点は、延伸条件をより良く定義し制御できるということにある。これは以上で提示するように変動係数が削減された糸を得ることが目標とされる場合に、有利である。
【0060】
エアギャップとは、気体冷却が適用される場合に、流体モノフィラメントが溶剤含有ゲルモノフィラメントへと変換される前にこれらのモノフィラメントが走行する長さ、または液体冷却浴内の冷却液の表面と紡糸口金の面の間の距離を意味する。エアギャップと呼ばれるものの、例えば窒素またはアルゴンのような不活性ガスの流れの結果として、またはモノフィラメントから蒸発する溶剤の結果として、あるいはその組合せの結果として、雰囲気は空気と異なるものであり得る。
【0061】
本明細書で使用される「ゲルモノフィラメント」という用語は、冷却時点で紡糸溶媒で膨潤した連続的UHMWPE網状組織を発生させるモノフィラメントを意味する。流体モノフィラメントからゲルモノフィラメントへの変換および連続的UHMWPE網状組織の形成の兆候は、冷却時にモノフィラメントの透明度が、半透明のモノフィラメントから実質的に不透明なモノフィラメントすなわちゲルモノフィラメントに変化することにあるかもしれない。
【0062】
好ましくは、流体モノフィラメントが冷却される最高温度は多くとも100℃、より好ましくは多くとも80℃、最も好ましくは多くとも60℃である。好ましくは、流体モノフィラメントが冷却される最低温度は、少なくとも1℃、より好ましくは少なくとも5℃、さらに一層好ましくは少なくとも10℃、最も好ましくは少なくとも15℃である。
【0063】
好ましい実施形態においては、溶剤含有ゲルモノフィラメントは、少なくとも1.05、より好ましくは少なくとも1.5、さらに一層好ましくは少なくとも3、さらにより一層好ましくは6、最も好ましくは少なくとも10という延伸比DRgelで少なくとも一回の延伸ステップで延伸される。ゲルモノフィラメントの延伸温度は、好ましくは10℃〜140℃の間、より好ましくは30℃〜130℃の間、さらに一層好ましくは50℃〜130℃、さらにより一層好ましくは80℃〜130℃の間、最も好ましくは100℃〜120℃の間である。
【0064】
ゲルモノフィラメントを形成した後、前記ゲルモノフィラメントは、溶剤除去ステップに付され、ここで紡糸溶媒は少なくとも部分的にゲルモノフィラメントから除去されて固体モノフィラメントを形成する。以下残留溶剤と呼ぶ、抽出ステップ後も固体モノフィラメント内に残る残留紡糸溶媒の量は、幅広い限度内で変動するかもしれず、好ましくは、残留溶剤はUHMWPE溶液中の溶剤の初期量の多くとも15%の質量パーセント、より好ましくは多くとも10%の質量パーセント、最も好ましくは多くとも5%の質量パーセントである。
【0065】
溶剤除去プロセスは、公知の方法で、例えば、デカリンなどの比較的揮発性の高い紡糸溶媒を使用してUHMWPE溶液を調製する場合には蒸発によって、また例えばパラフィンを使用する場合には抽出液を使用することによって、あるいは両方の方法の組合せによって、実施されてよい。適切な抽出液は、例えばエタノール、エーテル、アセトン、シクロヘキサノン、2−メチルペンタノン、n−ヘキサン、ジクロロメタン、トリクロロトリフルオロエタン、ジエチルエーテルおよびジオキサンまたはその混合物などの、UHMWPEゲル繊維のUHMWPE網状組織構造に有意な変化をひき起こさない液体である。好ましくは、抽出液は、再循環のために紡糸溶媒を抽出液から分離できるような形で選択される。
【0066】
本発明に係る方法は、さらに、溶剤の前記除去の前、途中および/または後にモノフィラメントを延伸するステップを含む。好ましくは、モノフィラメントの延伸は、少なくとも1回の延伸ステップで好ましくは少なくとも4という延伸比DRsolidで実施される。より好ましくは、DRsolidは少なくとも7、より一層好ましくは少なくとも10、さらにより一層好ましくは15、さらにより一層好ましくは20、さらにより一層好ましくは30、最も好ましくは少なくとも40である。より好ましくは、モノフィラメントの延伸は少なくとも2回のステップ、さらに一層好ましくは少なくとも3回のステップで実施される。好ましくは各々の延伸ステップは、好ましくはモノフィラメントの破損が発生することなく所望の延伸比を達成するように選択される異なる温度で実施される。固体フィラメントの延伸が2回以上のステップで実施される場合、DRsolidは、各々の固体個別延伸ステップについて達成された延伸比を乗算することにより計算される。
【0067】
好ましくは、全体的延伸比、DRoverall=DRfluid×DRgel×DRsolidは、少なくとも5,000、より好ましくは少なくとも10,000、最も好ましくは少なくとも15,000である。全体的延伸比を増大させることにより本発明の糸の機械的特性が改善されることが観察された。特に、引張り強度および係数が増大した。DRoverallを増加させることにより、糸のフィラメントの繊度も減少する。
【0068】
本発明はさらに以下の実施例および比較実験により説明される。
【0069】
[方法]
・ IV: 固有粘度は、溶液1lあたり2gの量で酸化防止剤としてDBPCを用い、16時間の溶解時間で、デカリン中135℃でのPTC−179方法(Hercules Inc. Rev. Apr. 29, 1982)にしたがい、異なる濃度で測定された粘度をゼロ濃度に外挿することにより決定される;
・ Dtex: 繊維の繊度(dtex)は、100メートルの繊維を秤量することにより測定された。繊維のdtexは、ミリグラム単位の重量を10で除することにより計算された;
・ 引張り特性: 500mmの繊維ゲージ長、50%/分のクロスヘッド速度および「Fibre Grip D5618C」タイプのInstron2714クランプを用いて、ASTM 0885Mに規定される通りに、マルチフィラメント糸について引張り強度および引張り係数を定義し決定する。測定された応力−ひずみ曲線に基づいて、0.3〜1%の間のひずみの勾配として係数を決定する。係数および強度の計算のためには、測定された引張り力を、10メートルの繊維を秤量することで決定される繊度で除し;0.97g/cmの密度を仮定してGPa単位の値を計算する。
・ 線形密度: モノフィラメントの線形密度の決定は、半自動式マイクロプロセッサ制御型引張り試験機(Textechno Herbert Stein GmbH & Co. KG, Monchengladbach, Germany製のFavimat、テスターNo.37074)上で実施された。Favimatテスターは、線形密度測定用の内蔵型測定ヘッドを用いて恒常伸長速度の原理(ISO5079)にしたがって作動する。線形密度測定は、恒常な引張り力およびゲージ長および可変的励起周波数(ISO1973)を用いて、ASTMD1577の振動計試験原理にしたがって実施された。Favimatテスターには、1200cNのはかりNo.14408989が備わっていた。Favimatソフトウェアのバージョン番号は3.2.0であった。
モノフィラメント試験中のクランプの滑りは、図4にしたがってFavimatテスターのクランプを適合させることにより削除される。上部クランプ(601)はロードセル(図示せず)に取付けられている。下部クランプ(602)は下向きに移動してモノフィラメント上に所望の荷重を加えるクランプである。
試験すべきモノフィラメント(606)の代表長が鋭い刃を用いて前記モノフィラメントから切断され、セラミックピン(604)上に3回巻き付けられ、最終的に、2つのクランプの各々において、Plexiglas(登録商標)製の2つ(4×4×2mm)のジョー面(603)間に狭持された。この長さは、モノフィラメントの良好な組立てを確保するのに充分なもので、約200mmであった。
セラミックピンの間のモノフィラメント長(605)の線形密度は、テスターのソフトウェア内に実装され、テスターの使用説明書中に記述されている所定の作業にしたがって、以上で記述した通り振動計により決定される。測定中のピン間距離は50mmに保たれ、モノフィラメントには2.50cN/texの張力が加えられる。
【0070】
[実施例1]
23.4dl/gのIVを有するUHMWPEホモポリマー粉末の7.4質量%のスラリーを調製し、180℃の温度に加熱した25mmの共回転二軸押出し機に供給し、この押出し機にはギヤポンプも具備されていた。押出し機内でスラリーを溶液へと変換させ、溶液を、正方形パターンで等分布した64個の紡糸孔を有する紡糸プレートと通して1孔あたり1.0g/分の速度で窒素雰囲気内に送出させた。紡糸プレートの面積は約50cmであり、紡糸孔はその上に等分布していた。紡糸プレートを、図2a)の通りに350cmの容積を有するチャンバに直接連結させた。チャンバの内側で溶液が冷却されるのを回避するため、チャンバを断熱した。チャンバ内のUHMWPE溶液の滞留時間は262.5秒であった。
【0071】
紡糸孔は、2.0mmの直径(D)と18という直径比(L/D)にわたる長さ(L)の初期円筒形流路を有し、その後に、0.8mmの直径(D)および10というL/Dの円筒形流路内へと15°の円錐角を有する円錐収縮部分が続いていた。円筒形流路から送出された流体モノフィラメントは、25mmのエアギャップ内に入った。エアギャップ内の流体モノフィラメントに150の延伸比が適用されるような速度で流体モノフィラメントを取上げ、その後、約35℃に保たれた水浴中でかつ浴に入るモノフィラメントに対し垂直な約5cm/秒の水流速で冷却した。DRgelは1であった。
【0072】
モノフィラメントをその後125℃のオーブン内に入れた。オーブン内でフィラメントをさらに引伸ばし、モノフィラメントからデカリンを蒸発させた。合計延伸比DRoverall(=DRfluid×DRgel×DRsolid)は12,300となった。
【0073】
糸の特性を以上で記述した方法にしたがって測定し、結果を表1に示す。
【0074】
[実施例2および3]
実験1を反復したが、紡糸プレートの前のチャンバを約500cmおよび約1000cmの容積まで拡大し、滞留時間をそれぞれ375および750秒となるようにした。糸の特性を上述の方法にしたがって測定し、結果を表1に提示する。
【0075】
[実施例4および5]
実験3を反復するが、1mあたり3.5および5.5孔の紡糸孔密度を有する紡糸プレートを使用した。糸の特性を上述の方法にしたがって測定し、結果を表1に示す。
【0076】
[比較実験A]
チャンバ無しで実験1を反復した。結果を表1に示す。
【0077】
[比較実験B]
実験1を反復したが、チャンバの容積は、約30秒の滞留時間を生み出すように40cmであった。結果を表1に示す。
【0078】
【表1】




【特許請求の範囲】
【請求項1】
30%未満の線形密度変動係数(以下CVintraと呼ぶ)を有する個々のモノフィラメントを含むことを特徴とし、モノフィラメントのCVintraは、前記モノフィラメントから切断することで無作為に抽出された20という数の代表長に対応する線形密度値から、
【数1】


という式1を用いて決定されており、式中、xは、調査対象のモノフィラメントから抽出された代表長のいずれか1つの線形密度であり、
【数2】


は、前記n=20の代表長のn=20の測定線形密度全体にわたる平均線形密度である、ゲル紡糸超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)マルチフィラメント糸。
【請求項2】
糸を構成するモノフィラメント間の50%未満の線形密度変動係数(以下CVinterと呼ぶ)を有することを特徴とし、ここでCVinterは、50という数の代表長の線形密度値を用い(なお前記長さの各々は、無作為に選択された異なるモノフィラメントに対応し、その切断により抽出される)、かつ
【数3】


という式2を用いることにより決定され、式中xは、前記代表長のいずれか1つの線形密度であり、
【数4】


は、無作為に選択されたモノフィラメントに対応するn=50の代表長のn=50の測定線形密度全体にわたる平均線形密度である、ゲル紡糸超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)マルチフィラメント糸。
【請求項3】
少なくとも1.2GPaの引張り強度を有する請求項1または2に記載の糸。
【請求項4】
a) 紡糸溶剤中のUHMWPEを含むスラリーを押出し機に供給するステップと;
b) 押出し機内のスラリーを紡糸溶剤中のUHMWPEの溶液へと変換するステップと;
c) 複数の紡糸孔を含む紡糸プレートにステップb)の溶液を通過させて、糸を構成するモノフィラメントを形成することにより、マルチフィラメント糸を紡糸するステップと;
d) 得られたモノフィラメントを冷却してゲルモノフィラメントを形成するステップと;
e) ゲルモノフィラメントから紡糸溶剤を少なくとも部分的に除去するステップと;
f) 紡糸溶剤の除去の前、途中または後に少なくとも1回の延伸ステップで、モノフィラメントを延伸するステップと、
を含み、ステップb)で得たUHMWPE溶液のさらなる分割が、ステップc)におけるこの溶液の個々のモノフィラメントへの最終的分割の前に一切発生しないような形で、紡糸プレートの前にチャンバが存在し、このチャンバ内で溶液は、一定のUHMWPE溶液処理量で少なくとも50秒という滞留時間τを有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の、ゲル紡糸UHMWPEマルチフィラメント糸の生産方法。
【請求項5】
滞留時間τが、少なくとも60秒、より好ましくは少なくとも120秒、さらに一層好ましくは少なくとも180秒、さらに一層好ましくは少なくとも200秒、さらに一層好ましくは少なくとも240秒、さらに一層好ましくは少なくとも300秒、さらに一層好ましくは少なくとも360秒、最も好ましくは少なくとも720秒である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
UHMWPE溶液がチャンバ内部で受ける平均せん断速度が多くとも10sec−1である、請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
1cmあたり多くとも20個の紡糸孔を有する紡糸プレートが使用される、請求項4〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
請求項1〜3のいずれか一項の記載の糸を含むロープ、ネット、医療用ケーブルまたは複合材料。
【請求項9】
− ラウンドスリング;
− 漁網;
− 耐切断性繊維製品、耐引掻性繊維製品、および耐磨耗性繊維製品などの保護用繊維製品、特に保護用手袋;
− スポーツ用備品、特に釣糸、凧糸、およびヨット糸(yacht line);
− 防弾製品、特に防弾チョッキ、防弾ヘルメット、装甲車両;
− 航空貨物用ネットおよび空輸コンテナからなる群から選択された、請求項1〜3のいずれか一項に記載の糸を含む製品。

【図1】
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【図2(a)】
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【図2(b)】
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【図3(a)】
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【図3(b)】
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【図4】
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【公表番号】特表2011−517737(P2011−517737A)
【公表日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−503384(P2011−503384)
【出願日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際出願番号】PCT/EP2009/002632
【国際公開番号】WO2009/124762
【国際公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】