説明

超高圧水銀ランプ

【課題】 大電力を投入可能に構成されており、封止部にクラックが生じることがなく、長時間の間にわたって安定して点灯可能な超高圧水銀ランプを提供すること。
【解決手段】 内部に一対の電極が対向配置されると共に所定量の水銀が封入された発光部と略楕円状の断面形状を有する封止部とよりなる発光管を具え、各々の電極に係る電極軸部の一部が封止部内において気密に埋設された金属箔の一端側部分に接合され、封止部の外端面より延出される外部リードの一部が金属箔の他端側部分に接合された超高圧水銀ランプにおいて、金属箔は、電極軸部の基端面に対する管軸方向外方側の近傍位置における管軸に直交する断面において、封止部の長軸方向の外径、金属箔の投影幅、および金属箔の両端縁を結ぶ直線と当該直線に平行な金属箔に対する内接線との間隔に基づく特定の関係を満たす、弧状に湾曲された湾曲部を有する構成とされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超高圧水銀ランプに関し、特に、例えば液晶プロジェクタ、DMD(デジタルマイクロミラーデバイス)を用いたDLP(デジタルライトプロセッサ)等の投影型プロジェクタ装置の光源として用いられる、点灯時の水銀蒸気圧が150気圧以上となる超高圧水銀ランプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば液晶プロジェクタやDMDを使用したDLP等に代表される投射型プロジェクタ装置においては、矩形状のスクリーンに対して、均一にしかも十分な演色性をもって画像を照明させることができることから、発光管内に水銀や金属ハロゲン化物を封入したメタルハライドランプが光源として広く利用されてきた。
【0003】
近年においては、このようなプロジェクタ装置用の光源に対して、一層の小型化、点光源化が要求されており、メタルハライドランプに代わって、点灯時の水銀蒸気圧が例えば150気圧以上になる超高圧水銀ランプを使用することが主流になっている。
このような超高圧水銀ランプを光源として使用すれば、水銀蒸気圧が極めて高いことにより、放電アークの広がりを抑えることができるので、より一層の光出力の向上を図ることができる。
【0004】
このような超高圧水銀ランプは、例えば図1を参照して説明すると、内部に密閉空間を備える球状の発光部(12)およびこの発光部(12)の両端に連続してそれぞれ管軸に沿って伸びるロッド状の封止部(13)よりなる、例えば石英ガラス製の発光管(11)を具えてなり、発光部(12)内には、一対の電極(20)が対向配置され、各々の電極(20)がそれぞれ各々の封止部(13)内において管軸に沿って伸びるよう気密に埋設された金属箔(30)を介して封止部(13)の外端面より外方に突出して伸びるよう設けられた外部リード(15)に電気的に接続されている。
この超高圧水銀ランプは、発光部(12)内に、例えば0.15mg/mm3 以上の水銀が封入されており、点灯時における発光部(12)内の水銀蒸気圧が150気圧以上となるものである。
【0005】
而して、上記構成の超高圧水銀ランプにおいては、点灯時における発光部(12)内の圧力が極めて高くなるために、封止部(13)において、封入ガスが抜けたり、クラックが生じたりする、という不具合が生ずることがあり、このような不具合を回避するために、封止部(13)を構成するガラスと、電極(20)の軸部及び給電用の金属箔(30)とを十分にかつ強固に密着させることが必要とされている。
従来においては、発光管形成材料を構成する例えば石英ガラスを例えば2000℃以上もの高温で加熱した状態において、厚肉の石英ガラスを徐々に収縮させることにより封止部(13)を形成し、これにより、封止部(13)において、石英ガラスと、電極(20)の軸部及び給電用の金属箔(30)との密着性を上げることが行われている。
【0006】
しかしながら、高温でガラスを焼き込むと、ガラスと、電極(20)の軸部及び金属箔(30)との密着性は向上するものの、ランプ完成後に封止部(13)が破損しやすくなる、という問題が生じる。
この理由は、加熱処理後の封止部(13)の温度が徐々に下がる段階において、電極(20)を構成する例えばタングステンの膨張係数が、封止部(13)を構成する例えば石英ガラスの膨張係数に比して一桁以上も大きいことから、タングステンと石英ガラスとの相対的な膨張量の差によって、両者の接触部分にクラックが発生するからである。そして、ランプ製造時において生じたクラックは、初期段階では、ごく小さいものであるが、ランプ点灯時に発光部(12)内が極めて高圧状態になることに伴って成長し、やがてはランプの封止部(13)が破損する要因となり得る。
このような問題は、発光部(12)内の圧力が低いランプでは決して生じることはないが、点灯時に発光部(12)内が150気圧以上という高圧状態になるランプにおいて生じる特有の問題である。
【0007】
本出願人は、電極軸部と金属箔との接合部近傍に不可避的に形成される空隙に対して、ランプ点灯時に発光部内の高圧が印加されることによって、クラックが発生されることおよびクラックの成長が助長されることを見出し、当該空隙を可及的に小さくすることにより上記問題を解決することができると考え、例えば図10に示す構成を有する金属箔50が用いられて封止部が形成されてなる超高圧水銀ランプを提案している(特許文献1参照)。
この超高圧水銀ランプに係る金属箔50の構成について具体的に説明すると、この金属箔50は、帯板状の金属板(箔形成材料)における幅方向の中央位置において、円弧状に湾曲する湾曲溝部51が長手方向に伸びるよう形成されて、構成されており、当該湾曲溝部51の一方の端部が、湾曲溝部51の両側縁に連続して幅方向に伸びる平板状の平坦部55の一端縁より長手方向外方に突出する状態、換言すれば、湾曲溝部51の全長が平坦部55の全長よりも大きい状態とされている。
この金属箔50においては、湾曲溝部51の突出部分52に、電極軸部65の基端側部分が、基端面が金属箔50における平坦部55の一端縁より長手方向外方側に離間して位置された状態で、接合されると共に、湾曲溝部51の他方の端部に外部リード66の先端側部分が接合される。
そして、このような構成の金属箔50が用いられた超高圧水銀ランプによれば、電極軸部65と金属箔50との間(接合部近傍位置)に不可避的に生ずる空隙を可及的に小さくすることができるため、ランプ点灯時に、発光部内の高圧が当該空隙に対して印加された場合であっても、クラックの発生を防止することができる、と記載されている。
【0008】
【特許文献1】特許第3570414号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
近年においては、超高圧水銀ランプの更なる高出力化の要求に対して、ランプに投入される電力が増大する傾向にあり、これに伴って、ランプに大電流を流した場合であっても、電極が溶断することのないよう電極軸部の外径を大きくすることが必要となる。
このような金属箔を具えた超高圧水銀ランプにおいては、電極軸部65の外径を大きくすることに伴って、湾曲溝部51の深さを大きくすることが必要となると共に、金属箔50が溶断することのないよう金属箔50の湾曲溝部51の幅寸法を大きくすることが必要となる。
【0010】
しかしながら、このような構成の金属箔を使用して、上述したような封止作業、すなわち発光管形成材料における封止部が形成されるべき部分を外面側から例えばバーナー等で加熱してガラスを溶融させ、ガラスと、電極軸部65および金属箔50とを密着させる封止作業(シール作業)を実施した場合には、電極軸部65と金属箔50との間に生じる空隙が可及的に小さくされた構成のものとすることができるものの、以下のような不具合が生じることが判明した。
すなわち、図11および図12に示すように、湾曲溝部51の突出部分52のうち、電極軸部65の基端面より外方側に位置される部分(図11において破線で囲まれた領域)に対して、ガラスが十分に充填されず、封止部60を構成するガラスと金属箔50との間に空隙SAが形成されていることが目視によって確認された。また、得られるランプの封止部60においては、金属箔50の湾曲溝部51が幅寸法が大きいものであることにより、封止部60の外周面近傍にまで達していることが確認された。
そして、このような構造の超高圧水銀ランプを点灯させた場合には、封止部60にクラックが生じる、という問題が高い頻度で発生することが明らかになった。
【0011】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであって、大電力を投入可能に構成された超高圧水銀ランプにおいて、封止部にクラックが生じることがなく、長時間の間にわたって安定して点灯することのできる超高圧水銀ランプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、封止部にクラックが生じる原因について検討したところ、封止部を構成する石英ガラスの肉厚(管軸に直交する断面において、封止部の径方向における外周面から金属箔までの最短距離の大きさ)によって決まる機械的強度、および、石英ガラスの肉厚と金属箔における電極接合部を形成する湾曲部の深さとの関係で決まる密着強度、という2つの要因がクラックの発生に関係している、という知見を得た。
【0013】
本発明の超高圧水銀ランプは、内部に一対の電極が対向配置されると共に0.15mg/mm3 以上の水銀が封入された発光部と、当該発光部の両端のそれぞれに連続して管軸に沿って伸びる略楕円状の断面形状を有する封止部とよりなる発光管を具え、
各々の電極は、管軸に沿って伸びる電極軸部を有し、当該電極軸部の基端側部分が前記封止部内において管軸に沿って伸びるよう気密に埋設された金属箔の先端側部分に接合されると共に、封止部の外端面より管軸方向外方に突出して伸びる外部リードの先端側部分が当該金属箔の基端側部分に接合されてなる超高圧水銀ランプにおいて、
前記金属箔の各々は、管軸に直交する断面において、電極軸部の外面の一部を覆うよう弧状に湾曲した断面形状を有する湾曲部を少なくとも有する形態のものであり、
前記封止部の、前記電極軸部の基端面に対する管軸方向外方側の近傍位置における管軸に直交する断面において、当該封止部の長軸方向の外径をR1、前記金属箔の両端縁を結ぶ直線と当該直線に平行な金属箔に対する内接線との間隔をh、前記金属箔の、前記直線に直交する方向に対する投影幅をR2とするとき、下記式1および式2に示される関係の両方を満たすことを特徴とする。
【0014】
【数1】

【0015】
本発明の超高圧水銀ランプにおいては、金属箔は、帯板状の金属板における幅方向の中央位置において、長手方向の全長にわたって伸びるよう形成された湾曲部と、当該湾曲部の両側縁のそれぞれに連続して幅方向に伸びる平坦部とを有し、
当該湾曲部の一端側部分は、平坦部の一端縁より突出しており、当該湾曲部の突出部分において、電極軸部の基端側部分が接合される構成とすることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の超高圧水銀ランプによれば、基本的には、金属箔が管軸に直交する断面において、電極軸部の外面の一部を覆うよう弧状に湾曲した断面形状を有する湾曲部を少なくとも有する形態を有することにより、電極軸部と金属箔との接合部近傍に不可避的に形成される空隙を可及的に小さくなるよう構成することができ、しかも、金属箔の湾曲部が封止部を構成するガラスに対して所定の関係を満足する状態で形成されていることにより、高出力化に伴って電極軸部が溶融することのないよう電極軸部の外径が大きい構成とされていても、湾曲部における電極軸部の基端面より管軸方向外方側に位置される部分において、ガラスを隙間なく充填させることができるので、ガラスと金属箔との密着強度を高いものとすることができると共に、金属箔の両側に位置される封止部を構成するガラスに十分な大きさの肉厚が確保されるので、封止部の機械的強度を高いものとすることができ、従って、超高圧水銀ランプの点灯時において、クラックが生じることを確実に防止することができ、長時間の間にわたって安定して点灯することのできるものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明について、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の超高圧水銀ランプの一例における構成の概略を示す管軸方向の断面図、図2は、図1に示す超高圧水銀ランプの封止部の構成を示す管軸方向の拡大断面図である。
この超高圧水銀ランプ10は、例えば略球状の発光部12およびこの発光部12の両端のそれぞれに連続して管軸方向外方に伸びるロッド状の封止部13よりなる、例えば石英ガラスなどの可視光を透過する材料よりなる発光管11を備えており、封止部13は、例えばシュリンクシール法により形成され、略楕円状の断面形状を有している。
【0018】
発光部12の内部には、各々、例えばタングステン等からなる一対の電極20が互いに対向して配置されており、各々の電極20は、各封止部13内において管軸方向に伸びるよう気密に埋設されて配設された、それぞれモリブデン等の導電性材料からなる金属箔30を介して、封止部13の外端面より管軸方向外方に突出して伸びる外部リード15に電気的に接続されている。ここに、電極間距離は、例えば0.5〜2.0mmである。
【0019】
また、発光部12の内部には、水銀、希ガスおよびハロゲンガスが封入されている。
水銀の封入量は、点灯時における発光部12内の水銀蒸気圧が150気圧以上となる量、例えば0.15mg/mm3 以上とされている。また、点灯時の水銀蒸気圧が200気圧あるいは300気圧以上となる量の水銀を封入して、点灯時の水銀蒸気圧をさらに高くすることにより、プロジェクタ装置に適した光源として確実に構成することができる。
希ガスは、点灯始動性を改善するためのものであって、例えばアルゴンガスが13kPaの量で封入されている。
ハロゲンガスは、ハロゲンサイクルを利用してランプの寿命を延ばすと共に発光部12の破損および失透を防止するためのものであって、その封入量は、例えば10-6〜10-2μmol/mm3 の範囲内において、ランプの仕様に応じて適宜調整される。
【0020】
電極20の各々は、図3に示すように、棒状の電極軸部25と、この電極軸部25の先端部に形成された、電極軸部25に比して大径の電極球状部22、この電極球状部22の基端側に設けられたコイル部23、および電極球状部22の頂部(先端)に形成された、点灯時に放電アークが集中する突起部24とからなる電極本体部21とにより構成されており、電極球状部22の全体が発光部12内の密閉空間内に臨出すると共に、電極軸部の中心軸Oが発光管11の管軸Cに一致する状態で(図5−A参照)、配置されている。
電極球状部22は、電極軸部25の先端にタングステンからなる線材を巻回した状態で先端側に位置される一部分を溶融させることにより形成されたものであり、電極軸部25の先端が溶融することなく残存することによって突起部24が形成されると共に溶融することなく残存するタングステン線材の一部によってコイル部23が構成されている。
【0021】
このような電極20を有する超高圧水銀ランプ10においては、一対の電極20間に交流電力が印加されることにより、電極20間で絶縁破壊を生じて、各電極20の突起部24を起点として放電アークが形成され、例えば波長360〜780nmの可視光を含む光が放射される。
【0022】
各々の金属箔30は、図4に示すように、帯板状の金属板(箔形成材料)における幅方向の中央位置において、その長手方向にその全長にわたって伸びる湾曲溝部31が形成されて、構成されており、この湾曲溝部31は、その長手方向における一端部分が当該湾曲溝部31の両側縁の各々に連続して幅方向に伸びる平板状の平坦部35の一端縁より長手方向外方に突出する状態とされている。
湾曲溝部31は、例えば、互いに同一の外径寸法を有する電極軸部25および外部リード15の外径より大きい円の一部に従う円弧状の断面形状を有する形態とされていることが好ましく、具体的には、例えば、湾曲溝部31は電極軸部25の直径よりも5〜100%程度大きい直径を有する円の一部に従う形状とすることができる。
このように、金属箔30の幅方向における両側部に平坦部35を有することにより、シール作業時に生ずるねじれに対して十分な強度を得ることができ、金属箔30を変形させることなく、封止部13内の所定の位置において確実にシールすることができる。
【0023】
この金属箔30においては、湾曲溝部31の突出部分32における先端側領域の底面に、電極軸部25の基端側部分における外周面の一部が例えばスポット溶接などによって接合されていると共に、湾曲溝部31の他端側領域の底面に、外部リード15の先端側部分における外周面の一部が例えばスポット溶接などによって接合されている。
図5−Aおよび図5−Bに示すように、電極軸部25と金属箔30との接合部の近傍においては、不可避的に空隙Sが形成されるが、金属箔30に形成された湾曲溝部31に対して、電極軸部25および外部リード15を接合することにより、金属箔30と電極軸部25との間の空隙Sを小さくすることができ、また、シュリンクシール法によって封止部13を構成するガラスに対して金属箔30をシールする際に生じる応力を打ち消すことができてガラスと金属箔30との密着を強固にすることができる。
【0024】
さらに、下記(イ)〜(ハ)に示す構成とされていることにより、当該空隙Sの大きさを可及的に小さくすることができ、点灯時において高圧が印加された場合であっても、クラックが発生することを確実に防止することができる。
封止部13における、電極軸部25と金属箔30との接合部に対応する箇所を管軸に対して直交する方向に切断することにより得られる断面において、
(イ)電極軸部25の直径の5〜50%の範囲の領域が金属箔30の湾曲溝部31によって覆われた構成、
(ロ)空隙Sを臨む電極軸部25の外周面領域の全周長をX(x1+x2)とし、電極軸部25の周長をYとするとき、X/Yの値が0.05〜0.5の範囲内となる構成、
(ハ)空隙Sを臨む金属箔の外周面領域の全周をZ(z1+z2)、管軸に対して直交する方向に対する金属箔30の投影幅の最大値をR2(図6参照)とするとき、Z/R2の値が1.0〜3.1の範囲内となる構成。
【0025】
このような構成の金属箔30は、例えば、帯板状の幅広部およびこの幅広部の先端側における中央位置に連続して伸びる当該幅広部よりも幅寸法が小さい小幅部を有する、全体として略短冊状に形成された箔形成材料に対して、例えばプレス加工機などによって、小幅部およびこれに連続する幅広部の中央部の長さ方向の全長にわたって溝加工を行うことにより、得ることができる。
このような金属箔30を予め成形しておくことにより、超高圧水銀ランプ10を作製するに際して、電極軸部25と外部リード15とが偏芯して配置される心配がなく、電極軸部25および外部リード15を金属箔30の所定の位置に確実に接合することができる。
【0026】
上記超高圧水銀ランプ10においては、封止部13を構成するガラスの肉厚と、後述する金属箔30における湾曲溝部31の深さとが調整されて、封止部13を構成するガラスと金属箔30との密着強度、および、封止部13の機械的強度が十分に高いものとなるよう、封止部13が形成されている。
すなわち、図6に示すように、前記電極軸部の基端面に対する管軸方向外方側の近傍位置における管軸に直交する断面において、断面形状が略楕円状の封止部13における長軸方向の外径、すなわち、封止部13を2本の平行線で挟んだとき、当該平行線の間隔が最大となる外径を「封止部の外径R1」、湾曲溝部31の両端縁部を結ぶ直線L1と、これに平行な湾曲溝部31の底面に接する内接線L2との間隔が最大となる寸法を「湾曲溝部31の深さh」、金属箔30における湾曲溝部31の、前記直線L1に垂直な方向に対する投影幅を「湾曲溝部31の投影幅R2」としたとき、上記式1および式2で示される関係の両方を満足する構成とされている。
【0027】
封止部13の外径R1に対する金属箔30における湾曲溝部31の投影幅R2の大きさの割合を規定する上記式1は、封止部13を構成するガラスの肉厚が最小となるレベル位置(この実施例においては、湾曲溝部31の両端縁部が位置されるレベル位置)において、湾曲溝部31の一方の端縁部と封止部13の外周面との間のガラスの肉厚をt1,湾曲溝部31の他方の端縁部と封止部13の外周面との間のガラスの肉厚をt2(但し、金属箔30が封止部13内において中央に位置されているもの(t1=t2)とする)とすると、t1(t2)>R1/4で書き換えられ、すなわち、ガラスの肉厚の大きさに基づく封止部13の機械的強度に関するものである。
R1/R2の値が2以下である場合、すなわち、封止部13の外径R1が湾曲溝部31の投影幅R2と同程度の大きさである場合には、封止部13の外周面の近傍にまで金属箔30が達することになり、封止部13における石英ガラスの肉厚(t1およびt2)が小さくなって、封止部13の機械的強度が低下する。
一方、封止部13の外径R1が湾曲溝部31の投影幅R2に対して過大である場合には、封止部13における石英ガラスの肉厚が大きくなって、封止部13の機械的強度が向上することが期待されるが、湾曲溝部31の投影幅R2を小さくしようとして、金属箔30の湾曲溝部31を極端に深い構造とすると、後述するように、金属箔30とガラスとの密着強度が低下するので好ましくない。
従って、封止部13の外径R1と湾曲溝部31の投影幅R2との比であるR1/R2の値が、後述するガラスと金属箔30との密着強度との関係において適正な値、すなわち、2より大、好ましくは7.0〜10.0となるよう調整されていることにより、十分に高い機械的強度を得ることができる。
【0028】
上記式2中、〔(R1−R2)/h〕で示されるファクターは、シュリンクシール法によるシール作業を行うに際しての、金属箔30の湾曲溝部31内へのガラスの入り込みやすさの程度、すなわち封止部13を構成するガラスと金属箔30との密着強度に関するものである。
封止部13の密着強度について具体的に説明すると、超高圧水銀ランプ10を高出力化させることに伴って、電極軸部25の径が大きい電極20を使用する場合においては、上述したように、十分な機械的強度を確保するためにはガラスの肉厚(t1,t2)を大きくせざるを得ない。
しかしながら、封止部13におけるガラスの肉厚を大きくすると、金属箔30近傍のガラスの温度が封止部13の外周面近傍のガラスの温度よりも低い状態になってガラスが流動しにくい状態になるため、金属箔30の湾曲溝部の31深さhが大きい場合には、湾曲溝部31内へのガラスの充填が阻害されることとなる。
一方、封止部13におけるガラスの肉厚に対して湾曲溝部31の深さhを小さくすると、湾曲溝部31内へのガラスの充填が阻害されにくくなるので、湾曲溝部31内がガラスによって埋め尽くされることにより、封止部13におけるガラスと金属箔30との密着強度が向上するものと期待されるが、封止部13におけるガラスの肉厚に対して湾曲溝部31の深さhが極端に小さい構成の金属箔30を用いた場合には、金属箔30と電極軸部25との接合部近傍に生じる空隙Sを小さくしてクラックの発生を防止する、という効果を得ることが困難となる。
従って、封止部13における石英ガラスの肉厚に対して湾曲溝部31の深さhを、極端に大きすぎたり小さすぎたりすることのないよう適正な大きさに調整することにより、十分に高い密着強度を得ることができる。
【0029】
この実施例における超高圧水銀ランプ10においては、図5−Aに示すように、電極軸部25が、その中心軸Oが湾曲溝部31の両端縁より径方向外方側(図5−Aにおいて上方側)のレベル位置に位置されるよう、配置された構成とされていることが好ましい。
このような構成とされていることにより、封止部13におけるガラスの肉厚に対する湾曲溝部31の深さhを、十分な密着強度が得られる最適な範囲内で設定することができる。
【0030】
以上の説明から明らかなように、上記式2は、封止部13の機械的強度に関するファクターと、封止部13におけるガラスと金属箔30との密着強度に関するファクターとの積で示される、いわば封止部13全体の強度(耐圧強度)に関するものである。
すなわち、例えば上記機械的強度および上記密着強度のいずれか一方が比較的低い場合であっても、他方が十分に高い強度を有する場合には、一方の強度の不足分が他方の強度によって相補され、封止部13全体としては、クラックの発生および当該クラックに起因する発光管11の破裂等を防止するために必要とされる十分な強度を得ることができることを意味する。
そして、後述する実験例の結果から明らかなように、機械的強度に関するファクターと密着強度に関するファクターとの積が80以上であることにより、封止部13を十分に高い強度を有するものとして構成することができる。
【0031】
以上において、金属箔30における湾曲溝部31の深さh(図6参照)は、長手方向に対して均一な大きさとされていることが好ましい。湾曲溝部31の深さhが長手方向に対して均一な大きさであることにより、互いに同一の外径を有する電極軸部25と外部リード15とを同軸上に配置することができるため、電極軸部25と外部リード15とを偏芯することなしに所定の位置に確実に配置することができる。
【0032】
本発明に係る上記超高圧水銀ランプ10は、例えば250〜350Wという大電力で点灯駆動されるものであって、例えば2.0〜7.0Aという大電流が電極20に対して投入されるものとして構成されており、具体的な構成例を示すと、例えば、封止部13の外径R1が6.6〜7.4mm、金属箔30の湾曲溝部31の投影幅R2が0.7〜1.0mm、金属箔30の湾曲溝部31の深さhが0.2〜0.6mm、電極軸部25の基端側部分の外径がφ0.4〜1.0mmである。
【0033】
而して、上記構成の超高圧水銀ランプ10によれば、基本的には、電極軸部25と、この電極軸部25の外周面の一部を覆うよう弧状に湾曲する金属箔30の湾曲溝部31とが接合される構成であることにより、電極軸部25と金属箔30との接合部近傍に不可避的に形成される空隙Sを可及的に小さくなるよう構成することができ、しかも、金属箔30の湾曲溝部31が封止部13を構成するガラスに対して上記特定の関係を満足する状態で形成されていることにより、大電力が投入可能であって、電極軸部25が溶融することのないよう電極軸部25の径が大きい構成とされていても、電極軸部25の基端面より管軸方向基端側に位置される金属箔30の湾曲溝部31内に、封止部13を構成するガラスを隙間なく充填させることができるので、ガラスと金属箔30との密着強度を高いものとすることができると共に、金属箔30の両側に位置される、封止部13を構成するガラスに十分な大きさの肉厚を確保することができるので、封止部13の機械的強度を高いものとすることができ、従って、超高圧水銀ランプ10の点灯時において、クラックが生じることを確実に防止することができ、長時間の間にわたって安定して点灯することのできるものとなる。
特に、電極軸部25の外径がφ0.4〜1.0mmという大径のものであって、電極20に対して250〜350Wという大電力が投入されて使用される構成のものにおいて極めて有用である。
【0034】
<実験例>
以下、本発明の効果を確認するために行った実験例について説明する。
図1乃至図6に示す超高圧水銀ランプの構成に従って、封止部の外径R1、金属箔における湾曲溝部の投影幅R2、金属箔における湾曲溝部の深さhが下記表1および表2に従って変更された超高圧水銀ランプを、以下の仕様に基づいて、各5本ずつ作製した。
発光管は、発光部の最大外径が12.0mm、発光部の全長が9.8mm、封止部の長さが22mmであり、封止部がシュリンクシール法によって形成されたものである。
電極は、電極本体部を含む全長が11mm、電極軸部の外径がφ0.7mmであるものである。
金属箔は、管軸方向の全長が14mm(突出部分の長さが3.0mm)、厚みが25μmであり、湾曲溝部における突出部分の、電極軸部の基端面より基端側の領域の長さ(電極軸部の基端面と平坦部の先端縁までの距離)が1.5mmである。
水銀の封入量は0.15mg/mm3 であり、アルゴンガス(希ガス)の封入量が13kPaであり、ハロゲンガスの封入量が3.0μmol/mm3 である。
このようにして得られたランプの各々について、ランプ電力が300W、投入電流4.3Aの点灯条件で、3.5時間の間連続点灯した後、0.5時間の間消灯する動作を1サイクルとして、125サイクル(点灯時間の積算値が500時間)繰り返して行う点灯試験(ライフテスト)を実施した後、目視により封止部の状態を確認し、点灯初期時と比較して、クラックが増大(成長)しているランプや、破損に至ったランプが5本中1本でも存在する場合には「×」、1本も存在しない場合を「○」として評価した。結果を表1および表2に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
【表2】

【0037】
以上に結果から明らかなように、上記式1および式2の関係を共に満足する本発明に係る超高圧水銀ランプによれば、ランプ点灯時にクラックが生じることを確実に防止することができ、長時間の間にわたって安定して点灯することができることが確認された。
【0038】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではない。
図7は、本発明の超高圧水銀ランプの他の例における、封止部の構成を示す管軸方向の拡大断面図、図8は、図7におけるC−C線断面図、図9は、図7に示す超高圧水銀ランプに係る金属箔の構成を電極軸部および外部リードと共に示す斜視図である。
この超高圧水銀ランプは、金属箔を除くその他の構成部材については、図1に示す超高圧水銀ランプと同一の構成を有しており、以下、金属箔の構成について具体的に説明する。
この超高圧水銀ランプに係る金属箔40は、管軸に対して直交する方向の断面形状が円弧状とされた樋状のものであって、長手方向における一端側の内面に電極軸部25の基端側部分における外周面の一部が接合されると共に他端側の内面に外部リード15の先端側部分における外周面の一部が接合されている。
【0039】
このような金属箔40を用いた超高圧水銀ランプの封止部においても、封止部13を構成するガラスの肉厚と金属箔40の深さとが調整されて、封止部13におけるガラスと金属箔40との密着強度、および、封止部13の機械的強度が十分に高いものとなる構造とされている。
すなわち、図9に示すように、封止部13の、電極軸部25の基端面に対する管軸方向外方側の近傍位置における管軸に直交する断面において、封止部13の外径をR1、金属箔40の投影幅をR2、金属箔40の深さをhとするとき、上記式1および式2で示される関係の両方を満足する構造とされている。封止部13の外径をR1、金属箔40の投影幅をR2、および金属箔40の深さをhは、図6に示す構成のものと同様に定義される。
【0040】
而して、上記構成の超高圧水銀ランプによれば、上記構成のものと実質的に同一の効果、すなわち、電極軸部25と金属箔40との接合部近傍に不可避的に形成される空隙Sを可及的に小さくなるよう構成することができ、しかも、大電力が投入可能であって、電極軸部25が溶融することのないよう電極軸部25の径が大きい構成とされていても、ガラスと金属箔40との密着強度を高いものとすることができると共に、封止部13の機械的強度を高いものとすることができ、従って、超高圧水銀ランプ10の点灯時において、クラックが生じることを確実に防止することができ、長時間の間にわたって安定して点灯することのできるものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の超高圧水銀ランプの一例における構成の概略を示す管軸方向の断面図である。
【図2】図1に示す超高圧水銀ランプの封止部の構成を示す管軸方向の拡大断面図である。
【図3】図1に示す超高圧水銀ランプの電極の構成を示す拡大図である。
【図4】図1に示す超高圧水銀ランプの金属箔の構成を、電極軸部および外部リードと共に模式的に示す斜視図である。
【図5−A】図2におけるA−A線断面図である。
【図5−B】図5−Aの一部を拡大して示す断面図である。
【図6】図2におけるB−B線断面図である。
【図7】本発明の超高圧水銀ランプの他の例における、封止部の構成を示す管軸方向の拡大断面図である。
【図8】図7におけるC−C線断面図である。
【図9】図7に示す超高圧水銀ランプに係る金属箔の構成を電極軸部および外部リードと共に示す斜視図である。
【図10】従来の超高圧水銀ランプに係る金属箔の構成を、電極軸部および外部リードと共に模式的に示す斜視図である。
【図11】従来の超高圧水銀ランプの一例における、封止部の構成を示す管軸方向の拡大断面図である。
【図12】図11におけるD−D線断面図である。
【符号の説明】
【0042】
10 超高圧水銀ランプ
11 発光管
12 発光部
13 封止部
15 外部リード
20 電極
21 電極本体部
22 電極球状部
23 コイル部
24 突起部
25 電極軸部
30 金属箔
31 湾曲溝部
32 突出部分
35 平坦部
40 金属箔
S 空隙
O 電極軸部の中心軸
C 発光管の管軸
50 金属箔
51 湾曲溝部
52 突出部分
55 平坦部
60 封止部
65 電極軸部
66 外部リード
SA 空隙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に一対の電極が対向配置されると共に0.15mg/mm3 以上の水銀が封入された発光部と、当該発光部の両端のそれぞれに連続して管軸に沿って伸びる略楕円状の断面形状を有する封止部とよりなる発光管を具え、
各々の電極は、管軸に沿って伸びる電極軸部を有し、当該電極軸部の基端側部分が前記封止部内において管軸に沿って伸びるよう気密に埋設された金属箔の先端側部分に接合されると共に、封止部の外端面より管軸方向外方に突出して伸びる外部リードの先端側部分が当該金属箔の基端側部分に接合されてなる超高圧水銀ランプにおいて、
前記金属箔の各々は、管軸に直交する断面において、電極軸部の外面の一部を覆うよう弧状に湾曲した断面形状を有する湾曲部を少なくとも有する形態のものであり、
前記封止部の、前記電極軸部の基端面に対する管軸方向外方側の近傍位置における管軸に直交する断面において、当該封止部の長軸方向の外径をR1、前記金属箔の両端縁を結ぶ直線と当該直線に平行な金属箔に対する内接線との間隔をh、前記金属箔の、前記直線に直交する方向に対する投影幅をR2とするとき、下記式1および式2に示される関係の両方を満たすことを特徴とする超高圧水銀ランプ。
【数1】

【請求項2】
金属箔は、帯板状の金属板における幅方向の中央位置において、長手方向の全長にわたって伸びるよう形成された湾曲部と、当該湾曲部の両側縁のそれぞれに連続して幅方向に伸びる平坦部とを有し、
当該湾曲部の一端側部分は、平坦部の一端縁より突出しており、当該湾曲部の突出部分において、電極軸部の基端側部分が接合されることを特徴とする請求項1に記載の超高圧水銀ランプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5−A】
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【図5−B】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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