説明

距離測定装置

【課題】パルスに発生した歪みを容易に補正する。
【解決手段】航空機から受信した質問パルスと航空機から受信する質問パルスの理想波形とを合成し、アナログ信号に変換するとともに質問パルスの検出用に処理するアナログ回路206,207,208と、アナログ回路206,207,208で処理された質問パルスをディジタル信号に変換するA/D変換器208と、A/D変換器208でディジタル信号に変換された質問パルスと航空機から受信する質問パルスの理想波形との差分を利用して、アナログ回路206,207,208で質問パルスに生じた歪みを補正した新たな質問パルスを生成する補正実行部212とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機が位置を把握するために航空機との間で送受信する際、パルスを補正する距離測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
航空機では様々な方法で位置を検出しながら飛行を行なうが、航空機と地上局間の距離を距離測定装置(DME:Distance Measuring Equipment)を利用して測定し、航空機の位置を把握することがある(例えば、非特許文献1参照)。図4に示すように、距離測定装置1は地上局に設置される装置であり、航空機2から送信されるパルスを受信すると、受信したパルスに応答するパルスを航空機2に送信する。航空機2では、このパルスの送受信を利用して、距離測定装置1(地上局)との距離を測定し、飛行している位置を把握することができる。
【0003】
具体的には、図5に示すように、航空機2は、距離測定装置1に質問パルスP1を送信する。この質問パルスP1はパルス幅が3.5μsのツインパルスであり、国際的に運用モード毎のパルス間隔や遅延間隔等が規定されている。また、パルスに利用する周波数は、DME毎に異なる値が設定されている。図5に一例を示すパルスは、パルス間隔が12μsであるDME/Nの運用モードである。
【0004】
航空機2から送信された質問パルスP1を受信した距離測定装置1は、質問パルスP1を受信して決められた時間(Td)の経過後、航空機2に対して質問パルスP1に応答する応答パルスP2を送信する。DME/Nモードの場合、この応答パルスP2もパルス幅が3.5μsで、パルス間隔が12μsである。
【0005】
航空機2は、距離測定装置1から送信された応答パルスP2として受信する。応答パルスP2を受信した航空機2は、質問パルスP1の送信時刻t1および応答パルスP2の受信時刻t2とから求められる応答時間Tと、電波(信号)の伝送速度とに基づいて、距離測定装置1から航空機2までの距離を測定している。
【0006】
従来の距離測定装置1と航空機2では、受信するパルスP1,P2の検出に、パルス幅を利用している(例えば、特許文献1参照)。すなわち、所定のパルス幅及びパルス間隔で特定できるパルスを受信したとき、距離測定の為に送受信されるパルスであると判定し、処理を実行している。
【0007】
実際に距離測定装置1や航空機2で送受信される各パルスは、アナログ信号であるが、距離測定装置1におけるアナログ回路の経年変化により歪みが生じる問題がある。パルスが受けた歪みの影響を補正することが望ましいが、アナログ信号をアナログ回路を利用して補正することは困難であった(例えば、特許文献1および2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−259451号公報
【特許文献2】特開2008−11171号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】ICAO、「Aeronautical Telecommunications Annex 10 VolumeIV Surveillance Rader and Collision Avoidance System」、1998年7月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述したように、従来の距離測定装置1では、アナログ回路の経年変化により生じる歪みを補正することが困難であるという問題があった。
【0011】
従って本発明は、パルスに発生した歪みを容易に補正する距離測定装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
航空機から受信した質問パルスと航空機から受信する質問パルスの理想波形とを合成し、アナログ信号に変換するとともに質問パルスの検出用に処理するアナログ回路と、アナログ回路で処理された質問パルスをディジタル信号に変換するA/D変換器と、A/D変換器でディジタル信号に変換された質問パルスと航空機から受信する質問パルスの理想波形との差分を利用して、アナログ回路で質問パルスに生じた歪みを補正した新たな質問パルスを生成する補正実行部とを備える。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、パルスに発生した歪みを容易に補正することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の最良の実施形態に係る距離測定装置の構成を説明するブロック図である。
【図2】図1の距離測定装置の送信処理部の構成について説明するブロック図である。
【図3】図1の距離測定装置の受信処理部の構成について説明するブロック図である。
【図4】DMEと航空機について説明する図である。
【図5】DME/Nモードのパルスの送受信について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1乃至図3を用いて本発明の最良の実施形態に係る距離測定装置(DME)1について説明する。
【0016】
距離測定装置1は、送信処理部10、受信処理部20、サーキュレータ30、アンテナ40及び制御部50を備えている。送信処理部10は制御部50から入力するパルス送信トリガに従って応答パルス(ツインパルス)を生成し、生成した応答パルスをサーキュレータ30およびアンテナ40を介して航空機2に送信する。また、アンテナ40が質問パルス(ツインパルス)を受信すると、サーキュレータ30を介して受信処理部20に質問パルスを出力し、受信処理部20はこの質問パルスの処理結果を制御部50に出力する。
【0017】
制御部50は、受信処理部20から入力する質問パルスに応じて、応答パルスを送信するタイミングを決定し、決定したタイミングで応答パルスが送信されるように送信処理部10にパルス送信トリガを出力する。応答パルスの送信のタイミングは、距離測定装置1で航空機2から質問パルスを受信してから応答パルスを送信するまでの時間として定められている時間に応じて決定される。
【0018】
〈送信処理部〉
まず、図2を参照して送信処理部10について説明する。この送信処理部10は、航空機2に送信する応答パルスをアナログ信号に変換して送信用に処理するD/A変換器102、ミキサ104およびRFアンプ105等のアナログ回路で応答パルスに生じた歪みを逆方向に補正して新たな応答パルスを生成する送信信号補正処理部100を備えている。この新たな応答パルスは、アナログ回路で生じる歪みに対して逆方向に補正されているため、アナログ回路で処理された後に歪みのないパルス波形になり、歪みのない応答パルスを航空機に送信することができる。
【0019】
パルス波形出力部101は、制御部50からパルス送信用トリガを入力すると、補正処理部100のIFFT実行部113から入力する応答パルスのパルス波形をD/A変換器102に出力する。ここで、パルス波形出力部101が出力するパルス波形は、D/A変換器102、ミキサ104およびRFアンプ105によって与えられる歪みが補正実行部113で逆補正された波形である。
【0020】
D/A変換器102は、パルス波形出力部102から入力するパルス波形をアナログ信号からディジタル信号に変換し、ミキサ104に出力する。このD/A変換器102は、アナログ回路であるため、経年変化が生じる。したがって、D/A変換器102から出力されるパルス波形には、歪みが含まれることがある。
【0021】
発振器103は、距離測定装置1で定められているチャネル周波数(例えば、1GHz)のRF信号をミキサ104とミキサ107に出力する。
【0022】
ミキサ104は、D/A変換器102から入力するパルス波形と発振器103から入力するRF信号の周波数とをアップコンバートしてパルス波形を変調し、RF信号となったパルス波形をRFアンプ105に出力する。このミキサ104もD/A変換器102と同様にアナログ回路であるため、ミキサ104から出力されるパルス波形には経年変化によって生じる歪みが含まれることがある。
【0023】
RFアンプ105は、ミキサ104から入力するパルス波形を増幅し、カプラ106に出力する。このRFアンプ105もD/A変換器102およびミキサ104と同様にアナログ回路であるため、RFアンプ105から出力されるパルス波形には経年変化によって生じる歪みが含まれることがある。
【0024】
カプラ106は、RFアンプ105から入力したパルス波形を応答パルスとしてサーキュレータ30に出力し、アンテナ40を介して送信する。また、カプラ106は、RFアンプ105から入力した応答パルスをミキサ107に出力する。この応答パルスは、D/A変換器102、ミキサ104およびRFアンプ105を経ているため、D/A変換器102、ミキサ104およびRFアンプ105で生じた歪みが含まれることがある。
【0025】
ミキサ107は、カプラ106から入力する応答パルスと発振器103から入力するRF信号の周波数とをダウンコンバートして変調し、A/D変換器108に出力する。
【0026】
A/D変換器108は、ミキサ107から入力する応答パルスをアナログ信号からディジタル信号に変換し、FFT実行部109に出力する。すなわち、A/D変換器108は、パルス波形出力部101から出力される波形ではなく、実際に航空機に送信するアナログ回路の歪みを含む応答パルスと同一のパルス波形を入力することができる。
【0027】
FFT実行部109は、アナログ回路によるパルス波形の歪みを補正するため、パルス波形をフーリエ変換して応答パルスの周波数成分(周波数スペクトラム)を求め、補正データ生成部110と、補正実行部111に出力する。
【0028】
理想波形記憶部112は、距離測定装置1が送信する応答パルスの理想的なパルス波形の周波数成分(周波数スペクトラム)を記憶している。
【0029】
補正データ生成部110は、理想波形記憶部112から理想的なパルス波形の周波数成分を読み出し、FFT実行部109から入力した周波数成分と比較して各周波数成分の差分を求め、この差分を送信パルスに含まれる歪みを補正する補正データとし、補正実行部111に出力する。
【0030】
補正実行部111は、FFT実行部109から入力する応用パルスの周波数成分を、補正データ生成部110で生成された補正データで逆方向に補正し、アナログ回路で応答パルスに加えられた歪みを補正する。また、補正実行部111は、補正後の周波数成分をIFFT実行部113に出力する。
【0031】
IFFT実行部113は、補正後の周波数成分を逆フーリエ変換して時間領域のパルス波形に戻し、補正後のパルス波形を新たな応答パルスとしてパルス波形出力部101に出力する。すなわち、この新たな応答パルスはアナログ回路で発生する歪みが逆補正されているため、この新たな応答パルスを利用すれば、後にアナログ回路での歪みによって理想的なパルス波形に変化する。
【0032】
パルス波形出力部101は、IFFT実行部から入力した新たなパルス波形を歪みに対応するパルス波形として制御部50から入力した出力タイミングに応じて出力する。
【0033】
このように、本発明の実施形態に係る距離測定装置1では、アナログ回路であるD/A変換器102、ミキサ104、RFアンプ105で処理された送信用のパルス波形を送信信号補正処理部100に出力し、この送信信号補正処理部100で記憶している理想波形と比較してアナログ回路で生じる歪みを予め逆方向に補正したパルス波形を送信用のパルス波形として利用している。したがって、距離測定装置1では、アナログ回路で生じる歪みを除くようなパルス波形を生成することで、歪みを含まないパルス波形を送信することができる。
【0034】
〈受信処理部〉
続いて、図3を参照して受信処理部20について説明する。この受信処理部20は、航空機2から受信する質問パルスをディジタル信号に変換して処理するRFアンプ206、ミキサ207、A/D変換器208等のアナログ回路で質問パルスに生じた歪みを逆方向に補正して質問パルスとする受信信号補正処理部200を備えている。この補正後の新たな質問パルスは、アナログ回路で生じる歪みに対して補正されるため、歪みのない応答パルスとして制御部50に出力することができる。
【0035】
リファレンス波形記憶部201では、距離測定装置1が受信する信号の理想的なパルス波形をリファレンス波形として記憶している。
【0036】
D/A変換器202は、リファレンス波形記憶部201で記憶されているリファレンス波形をアナログ信号からディジタル信号に変換し、ミキサ204に出力する。
【0037】
発振器203は、レーダ1で定められている周波数(例えば、1GHz)のRF信号をミキサ204とミキサ207に出力する。
【0038】
ミキサ204は、A/D変換器202から入力するリファレンス波形と発振器203から入力するRF信号の周波数とをアップコンバートしてリファレンス波形を変調し、RF信号となったリファレンス波形をカプラ205に出力する。
【0039】
カプラ205は、サーキュレータ30からアンテナ40で受信した応答パルスのパルス波形を入力する。また、カプラ205は、サーキュレータ30から入力したパルス波形にミキサ204から入力したRF信号のリファレンス波形を混合してRFアンプ206に出力する。
【0040】
RFアンプ206は、カプラ205から入力したパルス波形を増幅してミキサ207に出力する。このRFアンプ206は、アナログ回路であるため、経年変化が生じる。したがって、RFアンプ206から出力される波形には、歪みが含まれることがある。
【0041】
ミキサ207は、RFアンプ206から入力するパルス波形と発振器203から入力するRF信号の周波数とをダウンコンバートしてパルス波形を変調し、A/D変換器208に出力する。このミキサ207もRFアンプ206と同様にアナログ回路であるため、ミキサ207から出力されるパルス波形には経年変化によって生じる歪みが含まれることがある。
【0042】
A/D変換器208は、ミキサ207から入力するパルス波形をアナログ信号からディジタル信号に変換し、FFT実行部209に出力する。このA/D変換器208もRFアンプ206およびミキサ207と同様にアナログ回路であるため、RFアンプ105から出力されるパルス波形には経年変化によって生じる歪みが含まれることがある。すなわち、A/D変換器208から出力される質問パルスは、受信した質問パルスにアナログ回路の歪みを含むことがある。
【0043】
FFT実行部209は、アナログ回路によるパルス波形の歪みを補正するため、パルス波形をフーリエ変換してパルス波形の周波数成分(周波数スペクトラム)を求め、補正データ生成部211と、補正実行部212に出力する。
【0044】
理想波形記憶部210は、距離測定装置1が受信する信号の理想的なパルス波形の周波数成分(周波数スペクトラム)を記憶している。この周波数成分は、リファレンス波形記憶部201で記憶されているリファレンス波形をフーリエ変換することによって得ることができる。
【0045】
補正データ生成部211は、理想波形記憶部210から理想的なパルス波形の周波数成分を読み出し、FFT実行部209から入力した周波数成分と比較して各周波数成分の差分を求め、この差分を信号に含まれる歪みを補正する補正データとし、補正実行部212に出力する。
【0046】
補正実行部212は、FFT実行部209から入力する質問パルスの周波数成分を、補正データ生成部211で生成された補正データで補正し、アナログ回路で質問パルスに加えられた歪みを補正する。また、補正実行部212は、補正後の周波数成分をIFFT実行部213に出力する。
【0047】
IFFT実行部213は、補正後の周波数成分を逆フーリエ変換して時間領域のパルス波形に戻し、この補正後のパルス波形を新たな質問パルスとして制御部50に出力する。すなわち、この補正後の新たな質問パルスはアナログ回路で発生する歪みが補正されているため、この新たな質問パルスを利用すれば、アナログ回路で発生した歪みを含まないパルス波形を利用して航空機2に応答することができる。
【0048】
このように、本発明の実施形態に係る距離測定装置1では、航空機から受信した質問パルスを処理するアナログ回路であるRFアンプ206、ミキサ207、A/D変換器208で処理されたパルス波形を受信信号補正処理部200に出力し、この受信信号補正処理部200で記憶している理想波形と比較してアナログ回路で生じる歪みを補正し、制御部50へ出力している。したがって、距離測定装置1では、アナログ回路で生じる歪みを含まないパルス波形から、質問パルスを判断して航空機に応答することができる。
【符号の説明】
【0049】
1…距離測定装置
10…送信処理部
101…パルス波形出力部
102…A/D変換器(アナログ回路)
103…発振器
104…ミキサ(アナログ回路)
105…RFアンプ(アナログ回路)
106…カプラ
107…ミキサ
108…D/A変換器
109…FFT実行部
110…補正データ生成部
111…補正実行部
112…理想波形記憶部
113…IFFT実行部
20…受信処理部
201…リファレンス波形記憶部
202…D/A変換器
203…発振器
204…ミキサ
205…カプラ
206…RFアンプ(アナログ回路)
207…ミキサ(アナログ回路)
208…A/D変換器(アナログ回路)
209…FFT実行部
210…理想波形記憶部
211…補正データ生成部
212…FFT実行部
213…IFFT実行部
30…サーキュレータ
40…アンテナ
50…制御部
2…航空機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
航空機から送信された質問パルスを受信し、前記航空機で地上の基準位置からの距離を測定するために利用される応答パルスを送信する距離測定装置であって、
航空機から受信した質問パルスと前記航空機から受信する質問パルスの理想波形とを合成し、アナログ信号に変換するとともに質問パルスの検出用に処理するアナログ回路と、
前記アナログ回路で処理された質問パルスをディジタル信号に変換するA/D変換器と、
前記A/D変換器でディジタル信号に変換された質問パルスと航空機から受信する質問パルスの理想波形との差分を利用して、前記アナログ回路で質問パルスに生じた歪みを補正した新たな質問パルスを生成する補正実行部と、
を備えることを特徴とする距離測定装置。
【請求項2】
質問パルスの理想波形の時間成分を記憶するリファレンス波形記憶部と、
前記A/D変換器でディジタル信号に変換された時間成分の質問パルスを周波数成分にフーリエ変換するFFT実行部と、
質問パルスの理想波形の周波数成分を記憶する理想波形記憶部と、
前記補正実行部で補正された周波数成分の信号を時間成分の質問パルスに逆フーリエ変換するIFFT実行部と、
を備えることを特徴とする請求項1に記載の距離測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−163575(P2012−163575A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−104404(P2012−104404)
【出願日】平成24年5月1日(2012.5.1)
【分割の表示】特願2008−232010(P2008−232010)の分割
【原出願日】平成20年9月10日(2008.9.10)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】