説明

路側装置、移動局装置及び情報提供システム

【課題】路側装置の演算対象を絞り効率的な演算処理を実行することができ、路側装置の処理負荷の低減、消費電力の削減を図り、サービスの低遅延化を実現する。
【解決手段】本発明は、複数の移動局装置から周期的に状態情報を収集し、自局エリア内の移動局装置の情報提供処理の実行開始の必要性を判定し、必要であると判定した移動局装置に情報提供処理の実行開始の指示を行う路側装置であり、自局エリア内の移動局装置と無線通信を行う第1の通信手段と、他の路側装置と通信を行う第2の通信手段とを備え、自局エリア内の各移動局装置の状態情報と、他の路側装置のエリア内の各移動局装置の状態情報とを管理し、自局エリアの移動局装置の状態情報に含まれている移動局間通信の通信状況情報に基づき演算処理対象を決定し、その移動局装置と移動局通信中の他の移動局装置との状態情報を用いて情報提供処理の実行開始の必要性を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、路側装置、移動局装置及び情報提供システムに関し、例えば、車々間通信や歩車間通信等のPeer−To−Peer通信を行なう路側装置、移動局装置及び情報提供システムに適用し得るものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、車々間通信や歩車間通信等において、交通安全支援を目的とした安全運転支援サービスの提供が期待される(特許文献2参照)。
【0003】
安全運転支援サービスの提供方法には種々の方法があるが、その1つとして、例えば、公衆回線網や無線LAN(Local Area Network)等を利用して、車両に関する情報をサーバ側(例えば路側装置等)に集約し、サーバ側が安全運転支援サービスの提供に係る演算処理を行い、その演算結果を車両側に通知するサーバ集約型の安全運転支援サービスがある。
【0004】
サーバ集約型の安全運転支援サービスは、サーバ側が複数の車両の情報を収集することができるので、車々間通信のみで安全運転支援アプリケーションを実行する場合よりも、複数の車両間の位置、走行方向、走行速度等を早期に認知することができ、安全運転支援アプリケーションを早期に実行させることができ、より安全な運転支援を提供できる。
【0005】
ところで、安全運転支援サービスは走行する車両の遭遇し得る危険性を回避するためのものであるから、低遅延でサービスを実行することが求められる。従来のサーバ集約型の安全運転支援サービスはネットワークの遅延があるため、その実用には課題はあるが、例えばLTE(Long Term Evolution)のように将来のネットワーク技術の進展により、低遅延のネットワークインフラが構築されることが期待される。それに伴い低遅延の演算処理が必須となる安全運転支援サービスの提供がサーバの演算処理により可能となる。
【0006】
従来、ユーザがサービスを受ける際に、サービス提供のための演算処理をサーバが実行し、その処理結果をサービスとしてサーバがユーザに提供する技術として特許文献1に記載されるものがある。
【0007】
特許文献1に記載の技術は、サービスの必要なユーザを選別するためにサーバに接続している全ユーザの位置情報を比較、演算し、その結果として選別されたサービスの必要なユーザに限定してサービスを提供するという方法であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−57153号公報
【特許文献2】特開2010−244350号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載される技術は、サーバの演算処理の対象を、接続する全ユーザとするものである。サーバ集約型の安全運転支援サービスに上記技術を適用すると、全ユーザの位置情報の比較、演算を行うため、サーバの演算処理の負荷は増大し、当該演算処理は非効率的であった。
【0010】
また、ユーザが遭遇する危険が発生してからサービス情報が当該ユーザに提供されるまでの遅延増加にもつながり、場合によっては提供するサービスが成立しなくなるおそれもある。さらに、演算処理を行うサーバの消費電力を低減することも大きな課題である。
【0011】
なお、上記では、サーバが、交通安全支援サービスに係る演算処理を行う場合の課題を例示したが、路側装置としてのサーバがユーザに情報を提供するものであれば、交通安全支援サービスに限定されない。
【0012】
そのため、演算処理を行う路側装置の演算対象を絞り効率的な演算処理を実行することができ、路側装置の処理負荷の低減、消費電力の削減を図り、低遅延な交通安全支援システムを提供する路側装置、移動局装置及び情報提供システムが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
かかる課題を解決するために、第1の本発明の路側装置は、複数の移動局装置から周期的に状態情報を収集し、状態情報を用いて自局エリア内の1又は複数の移動局装置の情報提供処理の実行開始の必要性を判定し、必要であると判定した移動局装置に対して情報提供処理の実行開始の指示を行う路側装置であって、(1)自局エリア内の1又は複数の移動局装置と無線通信を行う第1の通信手段と、(2)1又は複数の他の路側装置と通信を行う第2の通信手段と、(3)第1の通信手段が自局エリア内の各移動局装置から受信した各移動局装置の状態情報と、第2の通信手段が受信した他の路側装置のエリア内の各移動局装置の状態情報とを管理する情報管理手段と、(4)第1の通信手段により受信された各移動局装置の状態情報に含まれている移動局間通信の通信状況情報に基づき、情報提供処理の実行開始の判定を行う移動局装置を決定する対象決定手段と、(5)対象決定手段により決定された移動局装置の状態情報と、当該移動局装置と移動局通信を行っている他の移動局装置の状態情報を用いて、所定の情報提供処理の実行開始の必要性を判定し、その判定結果を第1の通信手段に与えて対応する移動局装置に送信させる演算処理手段とを備えることを特徴とする。
【0014】
第2の本発明の移動局装置は、路側装置から情報提供処理の実行開始指示を受け取ると、自身が有する情報提供処理を実行する移動局装置であって、(1)該移動局装置の位置情報の取得を行う位置情報取得手段と、(2)他の移動局装置と無線通信をする第3の通信手段と、(3)第3の通信手段が他の移動局装置との間の移動局間通信の通信状況情報を保存する情報保存手段と、(4)少なくとも該移動局装置の位置情報及び移動局間通信の通信状況情報を含む状態情報を路側装置に送信したり、路側装置から情報を受信したりする第4の通信手段と、(5)第4の通信手段を通じて、路側装置から情報提供処理の実行開始の指示を受け取ると、情報提供処理を実行する処理実行手段とを備えることを特徴とする。
【0015】
第3の本発明の情報提供システムは、(1)自身が有する情報提供処理を実行するものであり、第2の本発明の1又は複数の移動局装置と、(2)移動局装置から周期的に状態情報を収集し、状態情報を用いて自局エリア内の1又は複数の移動局装置の情報提供処理の実行開始の必要性を判定し、必要であると判定した移動局装置に対して情報提供処理の実行開始の指示を行うものであり、第1の本発明の複数の路側装置とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、演算処理を行う路側装置の演算対象を絞り効率的な演算処理を実行することができ、路側装置の処理負荷の低減、消費電力の削減を図り、低遅延なサービスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施形態に係る基地局及び移動局の関係を示すと共に、基地局及び移動局の内部構成を示す構成図である。
【図2】実施形態に係る交通安全支援システムの構成例を示す全体構成図である。
【図3】実施形態に係る移動局の詳細な内部構成を示す内部構成図である。
【図4】実施形態に係る基地局の詳細な内部構成を示す内部構成図である。
【図5】アプリケーション演算部における演算内容を示すフローチャートである。
【図6】アプリケーション演算部における交差点衝突防止アプリケーションの演算処理を示すフローチャートである。
【図7】アプリケーション演算部における右折時衝突防止アプリケーションの演算処理を示すフローチャートである。
【図8】基地局1−1の「自車両ID:2,他車両ID:3」の演算での領域(C)と領域(D)の関係を示す図である。
【図9】基地教1−2の「自車両ID:3,他車両ID:2」の演算での領域(C)と領域(D)の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(A)実施形態
以下では、本発明の路側装置、移動局装置及び情報提供システムの一実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0019】
この実施形態では、情報提供処理の一例として、安全運転支援アプリケーションとする場合を例示する。情報提供処理の他の例としては、例えば、ゲーム、地域情報等の娯楽情報の提供、トラフィック情報の提供等がある。
【0020】
つまり、実施形態では、例えば車々間通信、路車間通信及び路側装置間の通信により、安全運転支援アプリケーションに係る演算処理を路側装置が行い、その演算結果をユーザの車両に搭載される無線装置(以下移動局ともいう)に提供するサーバ集約型の安全運転支援サービスを実現するシステムに本発明を適用した実施形態を例示する。
【0021】
(A−1)実施形態の構成
図2は、この実施形態に係る交通安全支援システムの構成例を示す全体構成図である。図2に示すネットワーク(交通安全支援システム)9は、例えば格子状に交差する道路が形成され、任意の位置に複数台(図2では2台)の基地局1(1−1〜1−2)が配置された場合を想定し、道路を走行する複数台(図2では4台)の車両3(3−1〜3−4)に対して安全運転支援サービスを提供することを例示する。
【0022】
基地局1は、路側装置を有するものであり、路車間通信機能及び他の基地局との間で通信を行なう機能を有するものである。基地局1は、各移動局2の安全運転支援アプリケーションを開始させるかどうかの判断をするために必要なデータを路車間通信により車両3から受信し、これら受信したデータ及び他の基地局から受信したデータを用いて、安全運転支援アプリケーション開始の判断を車両3毎に判断する。そして、基地局1は、その判断結果を各車両3の移動局2に送信するものである。
【0023】
車両3(3−1〜3−4)は、例えば自動車や自動二輪車等の移動体であり、路車間通信機能及び車々間通信機能を有する図1に示す移動局2(2−1〜2−4)を搭載するものである。移動局2は、安全運転支援アプリケーションの開始を判断させるために必要なデータを基地局1に路車間通信で送信するものである。また、移動局2は、基地局1から安全運転支援アプリケーションを開始する旨の通知を受信すると、安全運転支援アプリケーションを実行するものである。移動局2は、例えば、路車間通信装置と車々間通信装置のように複数の装置からなり、これらを接続させたものも含む概念である。
【0024】
(A−1−1)移動局2の内部構成
図1は、図2に例示する基地局1と、各車両3(3−1〜3−4)が搭載する移動局2(2−1〜2−4)との間の関係、及び、基地局1と移動局2とのそれぞれの構成を説明する構成図である。また図3は、図1に示した移動局2の内部構成を更に詳細に示した内部構成図である。
【0025】
移動局2は、ハードウェア構成として、例えば、CPU、ROM、RAM、EEPROM等からなり、CPUが、ROMに格納された処理プログラムをRAM上に展開し、必要なデータを用いて実行することにより各種機能を実現するものである。
【0026】
図1において、移動局2は、路車間通信部21、車々間通信部22、自車両位置情報取得部23、自車両情報保存部24、他車両ID保存部25、アプリケーション実行部26を少なくとも有するものである。
【0027】
自車両位置情報取得部23は、自車両の位置情報を周期的に取得し、現時点の自車両の位置や、自車両の走行速度や、自車両の走行方向を算出し、算出した自車両の位置、走行速度及び走行方向を自車両情報保存部24に保存するものである。図3に示すように、自車両位置情報取得部23は、自車両位置情報演算部231、GPS部232、センサ部233、地図情報格納部234を少なくとも有する。
【0028】
GPS部232は、図示しないGPS衛星から周期的にGPSデータを取得するものである。GPS部232は、既存技術を適用することができる。また、利用者が所持する携帯端末(例えば、携帯電話機、PDAなど)と接続し、当該携帯端末に搭載されるGPS機能を、当該GPS部232として利用するようにしてもよい。GPSデータには、緯度・経度情報や時刻情報等が含まれる。GPS部232は、取得したGPSデータを自車両位置情報演算部231に与える。
【0029】
なお、この実施形態ではGPSデータに基づいて、自車両の位置情報を取得する場合を例示するが、自車両の位置情報を取得することができれば、これに限定されるものではない。例えば他の例として、GPS部232に代えて路側装置から当該路側装置の設置位置情報を取得し、これを自車両の位置情報とみなして取得する構成要素を用いるようにしてもよい。
【0030】
センサ部233は、自車両の走行速度や走行方向を周期的に測定するものであり、例えば、加速度センサ、ジャイロセンサなどを適用することができる。センサ部233は、測定した自車両の速度データや走行方向データを自車両位置情報演算部231に与える。
【0031】
地図情報格納部234は、地図情報を格納しているものであり、自車両位置情報演算部231により自車両3の走行している地図情報が読み出される。
【0032】
自車両位置情報演算部231は、GPS部232からのGPSデータ、センサ部233からの速度データ及び走行方向データ、地図情報格納部234からの地図情報に基づいて、所定間隔毎に自車両の位置情報(緯度・経度、速度、進行方向など)を算出するものである。例えば、自車両位置情報演算部231は、ある時刻の、地図上にマッピングした経度・緯度データと、速度データと、走行方向データとを、その時刻の自車両の位置情報として対応付けて求める。
【0033】
また、自車両位置情報演算部231は、上記のような自車両の位置情報を周期的に求めるようにする。自車両の位置情報の演算間隔は特に限定されないが、例えば、後述する車々間通信のデータ送信間隔に合わせて、自車両位置情報演算部231は100ミリ秒毎に位置情報を求めるようにしてもよい。
【0034】
自車両情報保存部24は、自車両位置情報演算部231が求めた自車両3の走行により変化する自車両の位置情報を保存するものである。また、自車両情報保存部24は、自車両の識別情報(例えば、車両ID)や、自車両の車両区分(例えば、一般車両、特別車両(例えば、バス等)であるかの区分等)も保存している。
【0035】
後述する路車間通信部21及び車々間通信部22は、自車両情報保存部24に保存される自車両の位置情報と、自車両の車両ID及び車両区分とを含む情報を自車両の「車両情報」として、定期的に読み出す。なお、車々間通信部22は、自車両の車両IDのみを読み出すようにしてもよい。
【0036】
車々間通信部22は、電波到達範囲内に存在する他の車両3の移動局2との間で、自車両情報の送受信を行うものである。車々間通信部22は、その機能構成として、例えば、ITS情報通信システム推進会議 ITS FORUM RC−005に準拠した車々間通信技術を適用することができる。車々間通信部22がITS FORUM RC−005に準拠した車々間通信技術を適用すると、車々間通信部22は、自車両情報保存部24に保存される自車両情報を、例えば5.8GHz帯の周波数帯域を用いて、半径数百m程度の高速・低遅延伝送を行なうことができる。
【0037】
また、車々間通信部22は、図3に示すように、送信部221、受信部222、送信データ生成部223、受信データ解析部224を少なくとも有する。
【0038】
送信データ生成部223は、自車両情報保存部24に保存される自車両の車両情報を定期的に読み出し、自車両の車両情報に基づき送信データを生成して送信部221に与えるものである。送信データ生成部223は、例えば、車々間通信方式のデータ送信間隔に合わせて、例えば100ミリ秒間隔で自車両情報保存部24から自車両の車両情報を読み出すようにしてもよい。送信データのフォーマットは適用する車々間通信方式に従ったものであればよい。
【0039】
なお、この実施形態では、自車両の車両情報を含むデータを車々間で送受信する場合を例示するが、車々間通信では車々間通信エリアの他車両がわかればよいので、送信データ生成部223は、少なくとも自車両IDを含むデータを生成するようにしてもよい。
【0040】
送信部221は、送信データ生成部223が生成した送信データをエンコードしてブロードキャスト送信するものである。
【0041】
受信部222は、他の車両3の移動局2から受信した受信信号をデコードし、そのデコードした受信データを受信データ解析部224に与えるものである。
【0042】
受信データ解析部224は、受信部222からの受信データを解析して、受信データに含まれている他車両3の他車両の車両情報(すなわち、他車両の位置情報、他車両の車両ID及び車両区分を含む情報)を、他車両ID保存部25に与えるものである。なお、受信データ解析部224は、受信した他車両の車両情報に含まれている情報のうち、少なくとも他車両の車両IDを他車両ID保存部25に保存する。勿論、他車両の車両情報に含まれる一部又は全部の情報を保存するようにしてもよい。
【0043】
他車両ID保存部25は、通信中の他車両の車両IDを保存するものである。例えば、他車両ID保存部25は、現在通信中の他車両の車両IDをリスト状にして保存する。パラメータは車両IDと有効時間で構成される。例えば、有効時間は整数値であり、他車両IDを取得するたびにその車両IDと対応する有効時間は「10」に設定され、サーバアップロードデータ生成部213よりアクセスを受けるたびに値が1つ減少し、値が「0」となったときに、リストから車両IDが削除される。
【0044】
路車間通信部21は、電波到達範囲内に存在する基地局1との間で路車間通信を行なうものである。路車間通信部21は、規格化された技術を適用することができる。例えば、路車間通信部21は、通信範囲を半径数km程度とし、基地局1と周波数700MHz帯の無線通信を行う。
【0045】
路車間通信部21は、自車両の車両情報及び自車両が車々間通信をしている他車両の車両IDを含む信号を路車間通信により基地局1に向けて送信したり、又安全支援アプリケーション実行開始データを含む信号を基地局1から受信したりするものである。
【0046】
また、路車間通信部21は、図3に示すように、サーバアップロードデータ生成部213、送信部211、受信部212、サーバダウンロードデータ解析部214を少なくとも有する。
【0047】
サーバアップロードデータ生成部213は、自車両情報保存部24及び他車両保存部25に接続する。サーバアップロードデータ生成部213は、他車両ID保存部25に定期的にアクセスし、現在通信中の他車両の車両IDを読み出す。また、サーバアップロードデータ生成部213は、自車両情報保存部24に定期的にアクセスし、自車両の車両情報を読み出す。そして、サーバアップロードデータ生成部213は、自車両の車両情報及び現在通信中の他車両の他車両IDを含むデータをサーバアップロードデータとして生成して送信部211に与える。
【0048】
送信部211は、サーバアップロードデータ生成部213から受け取ったサーバアップロードデータをエンコードし、基地局1に向けて送信するものである。
【0049】
受信部212は、基地局1から送信された信号を受信し、その受信信号をデコードし、デコードした受信データをサーバダウンロードデータ解析部214に与えるものである。
【0050】
サーバダウンロードデータ解析部214は、受信部212が受信した受信データを解析するものである。サーバダウンロードデータ解析部214は、受信データの宛先IDが自車両の車両IDと一致し、安全支援アプリケーション実行開始のデータを検出したとき、アプリケーション実行部26に安全支援アプリケーションの実行開始のコマンドを送信する。
【0051】
アプリケーション実行部26は、路車間通信部21から実行開始コマンドを受けると、予め設定されたアプリケーションを実行するものである。この実施形態では、アプリケーションが安全運転支援アプリケーションの場合を例示するが、安全運転支援アプリケーションに限定されるものではない。また、安全運転支援アプリケーションの内容は、種々のものが考えられるが、その内容は特に限定されるものではない。また、1種類の安全運転支援アプリケーションに限定されず、複数種類の安全運転支援アプリケーションを実行できるようにしてもよい。
【0052】
(A−1−2)基地局1の内部構成
次に、基地局1の内部構成を図1及び図4を参照しながら説明する。図4は、図1に示す基地局1の内容構成を更に詳細に示した内部構成図である。
【0053】
基地局1は、ハードウェア構成として、例えば、CPU、ROM、RAM、EEPROM等からなり、CPUが、ROMに格納された処理プログラムをRAM上に展開し、必要なデータを用いて実行することにより各種機能を実現するものである。
【0054】
図1に示すように、基地局1は、アプリケーション演算部11、サービス提供判定部12、ユーザ情報管理部13、路車間通信部14を少なくとも有する。
【0055】
路車間通信部14は、電波到達範囲内の車両3の移動局2との間で路車間通信を行うものである。路車間通信部14は、例えば規格化された技術を適用することができ、通信範囲が半径数km程度であり、周波数700MHz帯の無線通信を行う。
【0056】
路車間通信部14は、図4に示すように、受信部142、サーバアップロードデータ解析部144、アプリケーション開始データ生成部143、送信部141を少なくとも有する。
【0057】
受信部142は、車両3の移動局2から送信された信号を受信し、その受信信号をデコードし、デコードした受信データをサーバアップロードデータ解析部144に与えるものである。
【0058】
サーバアップロードデータ解析部144は、受信部142と、ユーザ情報管理部13の自局内ユーザ情報管理部134と、サービス提供判定部12とに接続するものである。サーバアップロードデータ解析部144は、受信部142から受け取った受信データを解析するものであり、受信データに含まれている車両情報を自局内ユーザ情報管理部134に与える。これにより、自局の通信エリア内の1又は複数の車両3の車両情報を自局内ユーザ情報管理部134に管理させることができる。
【0059】
また、サーバアップロードデータ解析部144は、受信部142が受信したデータの送信元である車両3の車両ID(自車両の車両ID)と当該車両3が現在車々間通信を行っている他車両の車両IDとを対応付けて、サービス提供判定部12に与える。
【0060】
アプリケーション開始データ生成部143は、アプリケーション演算部11が演算により求めた、安全運転支援アプリケーションの実行開始を指示する車両IDを受け取る。アプリケーション開始データ生成部143は、アプリケーション演算部11から受けた車両IDを送信先のIDとして、アプリケーション開始データを生成するものである。
【0061】
送信部141は、アプリケーション開始データ生成部143から受け取ったアプリケーション開始データをエンコードして送信するものである。
【0062】
ユーザ情報管理部13は、基地局間通信ネットワーク4を介して、自局及び隣接する基地局1に接続している全車両(全ユーザ)の位置情報を保存するものである。ここで、基地局間通信ネットワーク4は、各基地局間で接続された通信網である。基地局間通信ネットワーク4は、有線又は無線のいずれであってもよい。
【0063】
また、ユーザ情報管理部13は、図4に示すように、基地局間通信ネットワークインターフェース(I/F)部131、隣接局ユーザ情報管理部132、自局内ユーザ情報管理部134、ユーザ情報保存部133を少なくとも有する。
【0064】
自局内ユーザ情報管理部134は、ユーザ情報保存部133と、基地局間通信ネットワークI/F部131と、サーバアップロードデータ解析部144とに接続する。
【0065】
自局内ユーザ情報管理部134は、サーバアップロードデータ解析部144から自局の通信エリア内に存在する車両3の車両情報を受け取り、自局内の車両3の車両IDと当該車両の位置情報とを対応付けて管理するものである。また、自局内ユーザ情報管理部134は、自局内に存在する車両3のユーザ情報を、ユーザ情報保存部133及び基地局間通信ネットワークI/F部131に与えるものである。
【0066】
基地局間通信ネットワークI/F部131は、自局内ユーザ情報管理部134が管理する自局内に存在する1又は複数の車両3のユーザ情報を、基地局間通信ネットワーク4を介して、他の基地局1(隣接する基地局1)に送信するものである。例えば、基地局間通信ネットワークI/F部131は、隣接する基地局1のアドレス情報を予め設定されており、定期的に隣接する基地局1に自局内の車両3のユーザ情報を送信する。
【0067】
また、基地局間通信ネットワークI/部131は、基地局間通信ネットワーク4を介して、他の基地局1から当該他の基地局内の車両3のユーザ情報を受信し、その他の基地局1からのユーザ情報を隣接局ユーザ情報管理部132に与える。
【0068】
隣接局ユーザ情報管理部132は、基地局間通信ネットワークI/F部131から隣接する基地局1の自局内の車両3のユーザ情報を受け取り、隣接局のユーザ情報を管理するものである。また、隣接局ユーザ情報管理部132は、隣接局のユーザ情報をユーザ情報保存部133に与える。
【0069】
ユーザ情報保存部133は、自局内ユーザ情報管理部134から自局内のユーザ情報を受け取り、又隣接局ユーザ情報管理部132から隣接局のユーザ情報を受け取る。ユーザ情報保存部133は、自局内のユーザ情報及び隣接局内のユーザ情報をリスト化する。すなわち、基地局1が接続している車両3の車両IDがわかるようにして、また各車両3の車両IDと位置情報とを対応付けて管理する。ただし、ユーザ情報の車両IDが重複する場合は、自局内ユーザ情報管理部のユーザ情報を優先する。
【0070】
サービス提供判定部12は、サーバアップロードデータ解析部144から受信データに含まれる自車両の車両IDと、当該車両(自車両)が通信中の他車両の車両IDとを受け取り、当該車両についてサービスを提供することが必要か否かを判定するものである。
【0071】
ここで、サービス提供判定部12は、自車両が通信中の他車両の車両IDが存在しない場合には、サービス提供が不要であると判定し、一方、自車両が通信中の他車両の車両IDが存在する場合には、サービス提供が必要と判定する。そして、サービス提供判定部12は、サービス提供が必要であると判定した場合に、当該自車両の車両ID及び通信中の他車両の車両IDをアプリケーション演算部11に通知する。一方、サービス提供が不要であると判定した場合、サービス提供判定部12はその旨をアプリケーション演算部11に通知しなくてもよい。
【0072】
アプリケーション演算部11は、サービス提供判定部12から自車両の車両ID及び当該車両が通信中の他車両の車両IDを受け取ると、この自車両及び他車両の車両IDに対応する車両の位置情報を、ユーザ情報保存部133から取得する。
【0073】
そして、アプリケーション演算部11は、安全運転支援アプリケーションの演算を実施し、自車両の車両IDのユーザに安全運転支援アプリケーションの実行が必要と判定した場合に、当該自車両の車両IDを、アプリケーション開始データ生成部144に通知する。
【0074】
(A−2)実施形態の動作
次に、この実施形態のネットワーク9において、基地局1が車両3に対して安全運転支援アプリケーションの実行開始を通知する方法の動作について図面を参照しながら説明する。
【0075】
以下では、図2に例示する環境において、接続している基地局1から安全運転支援アプリケーション開始データを各車両3が受信したときに、各車両3は安全運転支援アプリケーションを実行し、安全運転支援サービスをドライバーに提供する。
【0076】
図2において車両3から示されている矢印は車両3の進行方向を示す。車両3−1の移動局2−1は、車両3−2の移動局2−2と車々間通信をし、基地局1−1と路車間通信をしている。車両3−2の移動局2−2は、車両3−1及び車両3−3の移動局2−1及び2−3と車々間通信し、基地局1−1と路車間通信している。さらに、車両3−3は、車両3−2の移動局2−2と車々間通信し、基地局1−2と路車間通信している。車両3−4は、どの車両とも車々間通信しておらず、基地局1−2と路車間通信している。
【0077】
(A−2−1)自車両の車両情報及び通信中の他車両の車両IDの通信処理
車両3−1は、車両IDを「車両ID:1」とする。ある時刻において、移動局2−1の自車両位置情報取得部23は、「緯度:北緯35.6972」、「経度:東経139.7261」、「速度:時速40km」、「進行方向:方位180度」を算出し、これらのデータが自車両情報保存部24に与えられる。なお、方位は北方向を0度とする。また、車両3−1は、「右折フラグ:OFF」とする。右折フラグとは、当該車両が右折をするか否かを示す情報である。例えば、車両において右折ウインカーが出され、その時の車両速度が20km/h以下の状態や、車両速度が20km/h以下に減速する前に左ウインカーかハザードランプが点けられていない状態を右折するときと定め、右折フラグをONとし、そうでないときをOFFとする。車々間通信部22は、例えば100ミリ秒間隔で、自車両情報保存部24にアクセスし、車両情報として「緯度:北緯35.6972」、「経度:東経139.7261」、「速度:時速40km」、「進行方向:方位180度」、「車両ID:1」、「右折フラグ:OFF」を読み出し、車々間通信用のデータにエンコードして周囲にブロードキャスト送信する。
【0078】
同様に、車両3−2は、車両IDを「車両ID:2」とする。移動局2−2は、「緯度:北緯35.6989」、「経度:139.7261」、「速度:時速60km」、「進行方向:方位0度」、「車両ID:2」、「右折フラグ:OFF」を車両情報として車々間通信にて周囲にブロードキャスト送信する。
【0079】
車両3−3は、車両IDを「車両ID:3」とする。移動局2−3は、「緯度:北緯35.6994」、「経度:139.7270」、「速度:時速60km」、「進行方向:方位270度」、「車両ID:3」、「右折フラグ:OFF」を車両情報として車々間通信にて周囲にブロードキャスト送信する。
【0080】
車両3−4は、車両IDを「車両ID:4」とする。移動局2−4は、「緯度:北緯35.6975」、「経度:139.7289」、「速度:時速40km」、「進行方向:方位0度」、「車両ID:4」、「右折フラグ:OFF」を車両情報として車々間通信にて周囲にブロードキャスト送信する。
【0081】
図1に示す移動局2−1において、車々間通信部22は移動局2−2からの信号を受信して受信データに含まれているデータを解析する。そして、受信データに含まれている車両3−2の「車両ID:2」が他車両ID保存部25に保存される。
【0082】
また、移動局2−1において、路車間通信部21は、例えば100ミリ秒間隔で自車両情報保存部24及び他車両ID保存部25にアクセスし、自車両3−1の車両情報及び他車両の「車両ID:2」を読み出し、路車間通信用のデータをエンコードして周囲にブロードキャスト送信する。
【0083】
同様に、移動局2−2において、車々間通信部22は移動局2−1及び移動局2−3からの信号を受信し、車両3−1の「車両ID:1」及び車両3−3の「車両ID:3」を他車両ID保存部25に保存する。また、路車間通信部21は、自車両3−2の車両情報と他車両の「車両ID:1,3」を周囲にブロードキャスト送信する。
【0084】
また、移動局2−3において、車々間通信部22は移動局2−2からの信号を受信し、車両3−2の「車両ID:2」を他車両ID保存部25に保存する。また、路車間通信部21は、自車両3−3の車両情報と他車両3−2の「車両ID:2」を周囲にブロードキャスト送信する。
【0085】
さらに、移動局2−4において、車々間通信部22は車々間通信を行っていない。そのため、他車両の車両IDは他車両ID保存部25に保存されていない。路車間通信部21は、自車両の車両情報と空の他車両の車両IDとを周囲にブロードキャスト送信する。
【0086】
(A−2−2)基地局1におけるサービス提供判定処理
次に、基地局1−1及び1−2における動作を説明する。基地局1−1では、路車間通信部14が移動局2−1及び2−2からの信号を受信する。
【0087】
基地局1−1において、路車間通信部14は、移動局2−1から送信されてきた受信データから、車両3−1の自車両の「車両ID:1」と、当該車両3−1が通信中の車両3−2の「車両ID:2」とを解析する。また、路車間通信部14は、移動局2−2から送信されてきた受信データから、車両3−2の自車両の「車両ID:2」と、当該車両3−2が通信中の車両3−1の「車両ID:1,3」とを解析する。
【0088】
そして、路車間通信部14は、車両3−1について「自車両ID:1,他車両ID:2」の1組の情報と、車両3−2について「自車両ID:2,他車両ID:1,3」の1組の情報とを、サービス提供判定部12に与える。
【0089】
さらに、路車間通信部14は、移動局2−1及び2−2からの受信データに含まれている車両情報をユーザ情報管理部13に与える。ユーザ情報管理部13は、車両3−1について「自車両ID:1、位置情報」及び車両3−2について「車両ID:2,位置情報」を管理する。
【0090】
基地局1−2においても、上述した基地局1−1における動作と同様にする。すなわち、路車間通信部14は、車両3−3について「自車両ID:3,他車両ID:2」の1組の情報と、車両3−4について「自車両ID:4」の情報を、サービス提供判定部12に与える。また、ユーザ情報管理部13は、車両3−3について「自車両ID:3,位置情報」及び「自車両ID:4,位置情報」を管理する。
【0091】
また、基地局1−1と基地局1−2とは、基地局間通信ネットワーク4を介して、それぞれの自局内ユーザ情報を送受信している。これにより、基地局1−1では、自局内ユーザ情報管理部134が車両3−1及び車両3−2の車両IDと位置情報とを対応付けて管理し、隣接局ユーザ情報管理部132が基地局1−2と接続する車両3−3及び車両3−4の車両IDと位置情報と対応付けて管理する。
【0092】
同様に、基地局1−2のユーザ情報管理部13は車両3−3及び車両3−4の車両IDと位置情報とを管理し、基地局間通信ネットワーク経由で取得した基地局1−1と接続する車両3−1及び車両3−2の車両IDと位置情報とを保存する。
【0093】
基地局1−1及び1−2において、サービス提供判定部12は、各車両3に対して、サービスを提供するか否かを判定し、サービス提供が必要であると判定した場合、その車両の車両IDをアプリケーション演算部11に与える。
【0094】
ここで、基地局1−1において、サービス提供判定部12は、車両3−1の情報として「自車両ID:1,他車両ID:2」を路車間通信部14から受け取る。この情報には、自車両IDと他車両IDの両方が含まれており、車両3−1は車々間通信中であると判定できるので、車両3−1に対して安全運転支援アプリケーションのサービス提供は必要であると判定する。同様に、車両3−2の情報「自車両ID:2,他車両ID:1,3」にも、自車両IDと他車両IDの両方が含まれているから、車両3−2についてもサービス提供判定部12はサービス提供が必要と判定する。
【0095】
一方、基地局1−2において、車両3−3の情報「自車両ID:3,他車両ID:2」にも、自車両IDと他車両IDの両方が含まれているから、車両3−3についてもサービス提供判定部12はサービス提供が必要と判定する。
【0096】
しかし、車両3−4の情報「自車両ID:4,他車両ID:なし」には、自車両IDと他車両IDの両方が含まれていないから、車両3−4は車々間通信を行っていないことがわかる。
【0097】
従って、サービス提供判定部12は、車両3−4について、サービス提供が不要であると判定する。
【0098】
(A−2−3)基地局1におけるアプリケーション演算処理
次に、アプリケーション演算部11の動作を説明する。サービス提供判定部12はサービスの提供を必要であると判定すると、その車両3の車両ID及び当該車両と通信中の他車両3の車両IDを、アプリケーション演算部11に与える。
【0099】
アプリケーション演算部11は、サービス提供判定部12から受け取った車両IDを基にして、車両IDのユーザ情報をユーザ情報管理部13から取得する。
【0100】
そして、アプリケーション演算部11は、取得した車両IDのユーザ情報を用いて、サービス提供が必要な車両3について、アプリケーションの実行が必要か否かの判定処理を行う。
【0101】
図5〜図7は、アプリケーション演算部11における演算内容を示すフローチャートである。
【0102】
基地局1−1では、アプリケーション演算部11は、車両3−1の情報「自車両ID:1,他車両ID:2」と、車両3−2の情報「自車両ID:2,他車両ID:1,3」とを、サービス提供判定部12から受け取り、図5のフローに沿って実行する。
【0103】
「車両ID:1」に対する演算をする際、アプリケーション演算部11は、ユーザ情報管理部13にアクセスして、「車両ID:1」及び「車両ID:2」に対応する車両3の位置情報を読み出す。
【0104】
このとき、「車両ID:1」の位置情報から右折フラグは「右折フラグ:OFF」であるから(S101)、アプリケーション演算部11は、図6に例示する交差点衝突防止アプリケーションの演算を実行する(S103)。一方、右折フラグが「ON」の場合、アプリケーション演算部11は、図7に例示する右折時衝突防止アプリケーションの演算を実行する(S102)。
【0105】
図6は、交差点衝突防止アプリケーションの演算処理を示すフローチャートである。
【0106】
図6において、まず、「車両ID:1」の位置情報と「車両ID:2」の位置情報とに基づいて、自車両と他車両とが対向車線であるから(S201)、アプリケーション演算部11は、交差点衝突防止アプリケーションの実行が不要と判定する(S207)。
【0107】
次に、「車両ID:2」に対して演算する際、アプリケーション演算部11は、「車両ID:1」、「車両ID:2」、「車両ID:3」の位置情報をユーザ情報保存部133〜読み出す。
【0108】
アプリケーション演算部11は、「車両ID:2」について、他車両である「車両ID:1」と「車両ID:3」との関係からアプリケーションを実行するか否かを判定する。
【0109】
まず、「自車両ID:2,他車両ID:1」の演算を行う場合、図5において、「車両ID:2」は「右折フラグ:OFF」であるから(S101)、アプリケーション演算部11は交差点衝突防止アプリケーションの演算を行う(S103)。次に、図6において、自車両の位置情報と他車両の位置情報から、他車両が対向車線であるから(S201)、アプリケーション演算部11は、交差点衝突防止アプリケーションの実行が不要であると判定する(S202)。
【0110】
次に、「自車両ID:2,他車両ID:3」の演算を行う場合、図5において、「車両ID:2」は「右折フラグ:OFF」であるから(S101)、アプリケーション演算部11は交差点衝突防止アプリケーションの演算を行う(S103)。図6において、「車両ID:2」の進行方向と「車両ID:3」の進行方向とから同じ進行方向でないから(S202)、アプリケーション演算部11はS203の処理に移行する。
【0111】
S203では、アプリケーション演算部11が、「車両ID:2」の位置から進行方向に停止視距を加えた領域(C)を計算する(S203)。
【0112】
ここで、停止視距は、車両3がブレーキをかけてから車両3が安全に停止するまでの走行距離であり、車両3の走行速度に応じて異なる。停止視距の求め方は、特に限定されるものではなく既存の演算式等を広く適用することができる。また車両の走行速度に応じた停止視距を予め設定したテーブルを用意しておき、アプリケーション演算部11は上記テーブルを参照しながら停止視距を求めるようにしてもよい。
【0113】
次に、アプリケーション演算部11は、他車両である「車両ID:3」の位置から進行方向に停止視距を加えた領域(D)を計算する(S204)。他車両についての領域(D)を計算する方法は、領域(C)を計算する方法と同じ方法を用いることができる。
【0114】
アプリケーション演算部11は、領域(C)と領域(D)とが交わるか否かを判断し(S205)、交わる場合には交差点衝突防止アプリケーションの実行が必要と判定し(S206)、そうでない場合には交差点衝突防止アプリケーションの実行が不要と判定する(S207)。
【0115】
図8は、「自車両ID:2,他車両ID:3」の演算での領域(C)と領域(D)の関係を示す図である。
【0116】
この場合、アプリケーション演算部11は、まず、「自車両ID:2」の位置を原点(0,0)とする。「自車両ID:2」の走行速度から停止視距が「停止視距:120m」であると求める。また、「自車両ID:2」の進行方向は「進行方向:0度」であるから、その方向に「120m」を加えた平面座標(0,120m)を求める。なお領域C1の幅は任意に決めたものである
また、アプリケーション演算部11は、「自車両ID:2」の位置を平面座標の原点として「他車両ID:3」の位置(81.5m,28.3m)を求める。「他車両ID:3」の走行距離から停止視距が「停止視距:120m」であると求める。さらに「他車両ID:3」の進行方向は「進行方向:270度」であるから、その方向に「120m」を加えた平面座標(−38.5m,28.3m)を求める。なお、領域D1の幅は任意に決めたものである。
【0117】
図8に示すように、領域C1と領域D1とは交わるので、この場合、アプリケーション演算部11は交差点衝突防止アプリケーションの実行が必要であると判定する。そして、アプリケーション演算部11は、「宛先ID:2」と交差点衝突防止アプリケーションの実行開始フラグONの情報を含むデータを路車間通信部14に与える。
【0118】
なお、この実施形態では、説明便宜のために領域(C)及び領域(D)を用いて説明したが、停止視距を考慮して自車両及び他車両が平面座標上で交差することがわかればよく、領域という概念でなく、範囲を持たない線という概念で演算してもよい。
【0119】
次に、基地局1−2における動作を説明する。基地局1−2においても、上述した基地局1−1のアプリケーション演算部11と同様の処理を行う。
【0120】
基地局1−2において、アプリケーション演算部11は、車両3−3の情報「自車両ID:3,他車両ID:2」を、サービス提供判定部12から受け取る。
【0121】
「自車両ID:3,他車両ID:2」の演算を行う場合、図5において、「車両ID:3」は「右折フラグ:OFF」であるから(S101)、アプリケーション演算部11は交差点衝突防止アプリケーションの演算を行う(S103)。
【0122】
次に、図6において、自車両の位置情報と他車両の位置情報から、他車両が対向車線でなく(S201)、自車両の進行方向が他車両の進行方向と同じでないから(S202)、アプリケーション演算部11はS203の処理に移行する。
【0123】
アプリケーション演算部11は、「車両ID:3」の位置から進行方向に停止視距を加えた領域(C)を計算する(S203)。次に、アプリケーション演算部11は、他車両である「車両ID:2」の位置から進行方向に停止視距を加えた領域(D)を計算する(S204)。
【0124】
アプリケーション演算部11は、領域(C)と領域(D)とが交わるか否かを判断し(S205)、交わる場合には交差点衝突防止アプリケーションの実行が必要と判定し(S206)、そうでない場合には交差点衝突防止アプリケーションの実行が不要と判定する(S207)。
【0125】
図9は、「自車両ID:3,他車両ID:2」の演算での領域(C)と領域(D)の関係を示す図である。
【0126】
この場合、アプリケーション演算部11は、まず、「自車両ID:3」の位置を原点(0,0)とする。「自車両ID:3」の走行速度から停止視距が「停止視距:120m」であると求める。また、「自車両ID:3」の進行方向は「進行方向:270度」であるから、その方向に「120m」を加えた平面座標(−120,0m)を求める。なお領域C2の幅は任意に決めたものである
また、アプリケーション演算部11は、「自車両ID:3」の位置を平面座標の原点として「他車両ID:2」の位置(−81.5m,−28.3m)を求める。「他車両ID:2」の走行距離から停止視距が「停止視距:120m」であると求める。さらに「他車両ID:2」の進行方向は「進行方向:0度」であるから、その方向に「120m」を加えた平面座標(−81.5m,91.7m)を求める。なお、領域D2の幅は任意に決めたものである。
【0127】
図9に示すように、領域C2と領域D2とは交わるので、この場合、アプリケーション演算部11は交差点衝突防止アプリケーションの実行が必要であると判定する。そして、アプリケーション演算部11は、「宛先ID:3」と交差点衝突防止アプリケーションの実行開始フラグONの情報を含むデータを路車間通信部14に与える。
【0128】
なお、図2の環境の場合、「右折フラグ:ON」の車両3がないが、アプリケーション演算部11による右折時衝突防止アプリケーションの演算方法について、図7を用いて説明する。
【0129】
図7に示すように、右折フラグが「ON」の場合、アプリケーション演算部11は、自車両及び他車両の車両IDに基づく位置情報をユーザ情報管理部13から取得する。そして、自車両の位置情報と他車両の位置情報に基づいて、自車両に対して他車両が対向車線であるか否かをアプリケーション演算部11は判定する(S301)。このとき、他車両が対向車線でない場合、アプリケーション演算部11は右折時衝突防止アプリケーションの実行が不要となる(S306)。一方、S301で他車両が対向車線である場合、自車両と他車両の相対距離(A)を求める(S302)。この相対距離(A)の求める方法は、既存の方法を広く適用することができるが、例えば、両車両の位置に基づいて2点間の直線距離としてもよい。次に、アプリケーション演算部11は、自車両と他車両の走行速度に基づいて相対速度を求め、その相対速度に対する停止視距(B)を求める(S303)。そして、アプリケーション演算部11は、相対距離(A)が停止視距(B)より小さい場合(S304)、右折時衝突防止アプリケーションの実行が必要と判定し(S305)、そうでない場合、右折時衝突防止アプリケーションの実行が不要と判定する(S306)。
【0130】
(A−2−4)安全運転支援アプリケーションの実行
基地局1−1の路車間通信部14は、「宛先ID:2」と交差点衝突防止アプリケーションの実行開始フラグONの情報を含むデータをエンコードし、ブロードキャスト送信する。車両3−1及び車両3−2の移動局2−1及び2−2は、路車間通信部21により、このデータの受信信号をデコードする。
【0131】
移動局2−1において、路車間通信部21は、デコード結果より「宛先ID:2」が「自車両ID:1」と一致しないことから、アプリケーション実行部26にアプリケーションの実行コマンドを送信しない。これにより、車両3−1の運転者は安全運転支援アプリケーションのサービス提供を受けない。
【0132】
また、移動局2−2において、路車間通信部21は、デコード結果より「宛先ID:2」が「自車両ID:2」と一致することから、アプリケーション実行部26に交差点衝突防止アプリケーションの実行コマンドを送信する。これにより、車両3−2の運転者は安全運転支援アプリケーションのサービス提供を受けることができる。
【0133】
基地局1−2の路車間通信部14は、「宛先ID:3」と交差点衝突防止アプリケーションの実行開始フラグONの情報を含むデータをエンコードし、ブロードキャスト送信する。車両3−3及び車両3−4の移動局2−3及び2−4は、路車間通信部21により、このデータの受信信号をデコードする。
【0134】
移動局2−3において、路車間通信部21は、デコード結果より「宛先ID:3」が「自車両ID:3」と一致することから、アプリケーション実行部26に交差点衝突防止アプリケーションの実行コマンドを送信する。これにより、車両3−3の運転者は安全運転支援アプリケーションのサービス提供を受けることができる。
【0135】
また、移動局3−4において、路車間通信部21は、デコード結果より「宛先ID:3」が「自車両ID:4」と一致しないことから、アプリケーション実行部26にアプリケーションの実行コマンドを送信しない。これにより、車両3−4の運転者は安全運転支援アプリケーションのサービス提供を受けない。
【0136】
(A−3)実施形態の効果
以上のように、この実施形態によれば、各車両がアプリケーション実行を開始すべきか否かの基地局による判定処理(演算処理)の負荷を軽減することができる。その結果、安全運転支援サービスを従来よりも低遅延で提供することができる。
【0137】
例えば、図2の環境において、従来の2台の基地局1−1及び1−2は、車両3−1〜3−4の全てのユーザ間の位置情報を用いてアプリケーション演算処理を行っている。例えば、基地局1−1が車両3−1についてアプリケーション演算処理を行う場合、「車両3−1」と、その他の3台の「車両3−2、車両3−3、車両3−4」との間の演算処理を行っている。つまり、基地局1−1が車両3−1について実行するアプリケーション演算回数は3回である。同様に、基地局1−1が車両3−2について実行する同演算回数は3回である。また基地局1−2によるアプリケーション演算回数は、車両3−3について3回であり、車両3−4について3回実行する。
【0138】
これに対して、上記実施形態によれば、基地局1−1及び1−2のユーザ情報管理部に含まれる必要最小限のユーザ数の位置情報を使用してアプリケーションの演算を実行することになるため、基地局1−1のアプリケーションの演算回数は、「車両3−1」については「通信中の車両3−2」との間の演算だけであるから1回となる。同様に、車両3−2については「車両3−1、車両3−3」との間の演算だけであるから、アプリケーション演算回数は2回となる。また、基地局1−2のアプリケーションの演算回数は車両3−3については1回、車両3−4については0回となり、両基地局1−1及び1−2によるアプリケーションの演算が4回実行されることとなる。
【0139】
以上のように、上述した実施形態の場合、安全運転支援アプリケーションの必要な対象に絞って演算できるようになるため、基地局側の演算処理の負荷を従来よりも3分の1に低減させることができる。
【0140】
さらに、基地局の負荷の低減により、消費電力の削減や処理遅延の短縮も期得できる。
【0141】
(B)他の実施形態
上述した実施形態では、路車間通信部として車々間通信部と同様の接続を行う通信手段を設定ものとして説明したが、路車間通信部を公衆回線網や無線LANのような他の通信手段による接続においても適用可能である。
【0142】
上述した実施形態では、低遅延であることが必要となるアプリケーションの一例として交通安全支援アプリケーションとし、更に交通安全支援アプリケーションの一例として安全運転支援アプリケーションとしたが、それ以外のアプリケーションにも適用可能である。また、安全運転支援アプリケーションの一例として、交差点衝突防止アプリケーション、右折時衝突防止アプリケーションを例示したが、これらに限定されるものではない。
【0143】
上述した実施形態では、車両対車両の無線通信と、車両対基地局の無線通信とを対象としたが、車々間通信部と路車間通信部を含む携帯端末を所持する歩行者を対象に追加することもできる。
【0144】
上述した実施形態では、車両対車両の無線通信に用いる規格をITS FORUM RC−005とし、車両対基地局の無線通信に用いる周波数帯を700MHzとしたが、それ以外の規格・周波数帯でも実施可能である。
【0145】
上述した実施形態において、基地局は、2台の車両間のアプリケーション演算処理に用いたデータと演算結果を一時的に保持しておき、同じ2台の車両について同一データを用いた演算処理を行う場合には、重複した演算処理を省き、一時的に保持した演算結果をアプリケーション演算結果として利用するようにしてもよい。
【0146】
例えば、上述した実施形態において、基地局1−1は、「車両ID:1」の演算処理の際に、「自車両ID:1,他車両ID:2」に基づく位置情報を用いて演算し、これは別で、「車両ID:2」の演算処理の際に、「自車両ID:2,他車両ID:1」に基づく位置情報を用いて演算することとした。その変形例として、基地局1−1は、先に実行する「車両ID:1」についての「車両ID:1,車両ID:2」のデータと演算結果を保持しておき、その後に実行すべき「自車両ID:2」についての「自車両ID:2,他車両ID:1」の演算結果には、先に実行した演算結果を今回の演算結果とみなしてもよい。これにより重複処理を回避できる。
【0147】
この重複する演算処理の回避の概念は、同一の基地局内の演算処理だけでなく、基地局間通信ネットワークを介して演算結果を授受することにより、異なる基地局間の演算処理に適用してもよい。
【0148】
上述した実施形態では、「車両ID」という概念を用いた。これは、移動局自体の識別情報ではなく、移動局が搭載される車両の識別情報であるが、移動局自体の識別情報であってもよい。
【符号の説明】
【0149】
1(1−1、1−2)…基地局、
11…アプリケーション演算部、12…サービス提供判定部、13…ユーザ情報管理部、14…路車間通信部、
131…基地局間通信ネットワークI/F部、132…隣接局ユーザ情報管理部、
133…自局内ユーザ情報管理部、134…ユーザ情報保存部、
141…送信部、142…受信部、143…アプリケーション開始データ生成部、
144…サーバアップロードデータ解析部、
2(2−1〜2−4)…移動局、
21…路車間通信部、22…車々間通信部、23…自車両位置情報取得部、
24…自車両情報保存部、25…他車両ID保存部、26…アプリケーション実行部、
211…送信部、212…受信部、213…サーバアップロードデータ生成部、
214…サーバダウンロードデータ解析部、
221…送信部、222…受信部、223…送信データ生成部、
224…受信データ解析部、
231…自車両位置情報演算部、232…GPS部、233…センサ部、
234…地図情報格納部、
3(3−1〜3−4)…車両、4…基地局間通信ネットワーク、9…ネットワーク。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の移動局装置から周期的に状態情報を収集し、上記状態情報を用いて自局エリア内の1又は複数の移動局装置の情報提供処理の実行開始の必要性を判定し、必要であると判定した上記移動局装置に対して情報提供処理の実行開始の指示を行う路側装置であって、
自局エリア内の上記1又は複数の移動局装置と無線通信を行う第1の通信手段と、
1又は複数の他の路側装置と通信を行う第2の通信手段と、
上記第1の通信手段が自局エリア内の上記各移動局装置から受信した上記各移動局装置の状態情報と、上記第2の通信手段が受信した上記他の路側装置のエリア内の上記各移動局装置の状態情報とを管理する情報管理手段と、
上記第1の通信手段により受信された上記各移動局装置の状態情報に含まれている移動局間通信の通信状況情報に基づき、上記情報提供処理の実行開始の判定を行う上記移動局装置を決定する対象決定手段と、
上記対象決定手段により決定された上記移動局装置の上記状態情報と、当該移動局装置と移動局通信を行っている他の移動局装置の上記状態情報を用いて、所定の情報提供処理の実行開始の必要性を判定し、その判定結果を上記第1の通信手段に与えて対応する上記移動局装置に送信させる演算処理手段と
を備えることを特徴とする路側装置。
【請求項2】
上記対象決定手段が、上記通信状況情報に基づき、現在移動局通信を行っているものを、上記情報提供処理の実行開始の判定を行う上記移動局装置として決定するものであることを特徴とする請求項1に記載の路側装置。
【請求項3】
路側装置から情報提供処理の実行開始指示を受け取ると、自身が有する情報提供処理を実行する移動局装置において、
該移動局装置の位置情報の取得を行う位置情報取得手段と、
他の移動局装置と無線通信をする第3の通信手段と、
上記第3の通信手段が上記他の移動局装置との間の移動局間通信の通信状況情報を保存する情報保存手段と、
少なくとも該移動局装置の位置情報及び上記移動局間通信の通信状況情報を含む状態情報を路側装置に送信したり、上記路側装置から情報を受信したりする第4の通信手段と、
上記第4の通信手段を通じて、上記路側装置から情報提供処理の実行開始の指示を受け取ると、上記情報提供処理を実行する処理実行手段と
を備えることを特徴とする移動局装置。
【請求項4】
自身が有する情報提供処理を実行するものであり、請求項3に記載の1又は複数の移動局装置と、
上記移動局装置から周期的に状態情報を収集し、上記状態情報を用いて自局エリア内の1又は複数の移動局装置の情報提供処理の実行開始の必要性を判定し、必要であると判定した上記移動局装置に対して情報提供処理の実行開始の指示を行うものであり、請求項1又は2に記載の複数の路側装置と
を備えることを特徴とする情報提供システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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