説明

路盤用材料を選別するための膨張性評価方法

【課題】路盤材として使用した場合に異常膨張を生じない材料を選別するための膨張性評価方法を提供する。
【解決手段】評価すべき材料を篩目の開きが4.75mm以下の篩で篩い分けし、篩下の材料を成型して試験体としたものを40℃以下、好ましくは20〜30℃の水に保持して水浸膨張試験を行う。コンクリート廃材やスラグなどの材料について、エトリンガイト系膨張性を適切に評価することができ、このため路盤材に適した材料を適切に選別することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート廃材、廃路盤材、スラグなどの材料から、路盤施工用の膨張率が小さい材料を選別するための膨張性評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、再生路盤材等の路盤材において、使用した材料中に遊離CaOが含まれる場合、水に触れると水和反応が生じて体積膨張を生じることがある。このため遊離CaOを多く含む状態で路盤材に使用した場合には、異常膨張により路盤に凹凸が生じるなどの問題を引き起こすことがある。
このようなことから、遊離CaOを含む可能性がある材料を路盤材に使用しようとする場合には、膨張を加速して評価する方法として、試験体を80℃の温浴に浸漬し、膨張する材料であるかどうかを見極める手法が採られることが多い。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述したように、これまでの路盤材の異常膨張は、路盤材中に含まれている遊離CaOが水和する際に生じることが一つの原因と考えられていた。しかしながら、最近、80℃の温浴中での水浸膨張が小さい材料であっても、路盤材として使用した場合に異常膨張を生じる問題が生じている。
したがって本発明の目的は、このような問題に鑑み、路盤材として使用した場合に異常膨張を生じない材料を選別するための膨張性評価方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、上述した路盤材の異常膨張の原因を解明すべく、膨張した路盤材を詳細に調査・検討した結果、エトリンガイト(3CaO・AlO・3CaSO・32HO)鉱物が生成する際に生じる膨張であることを突き止めた。一般的な膨張を加速評価する水浸膨張率の測定方法は、モールド内に路盤材料を充填して80℃で養生した後の膨張を評価するものである。しかし、エトリンガイトは低温ほど生成しやすい傾向があり、また、一旦生成したエトリンガイトも60℃程度の温度で分解・消失してしまうため、従来の水浸膨張率の測定方法では、エトリンガイトの生成による膨張は評価できなかったことが判った。
【0005】
エトリンガイトは針状の析出物であり、これが材料粒子間の間隙を押し広げるようにして析出・成長するため、膨張代も大きなものとなると考えられる。このため路盤の膨張・破壊形態も、遊離CaO系の局所的な膨張とは異なり、路盤が水平方向に膨張し、断層状に破壊されるような形態となることが判った。
本発明者らは、路盤材料について、上記のようなエトリンガイト系膨張を生じるか否かを適切に評価できる試験方法について検討を行い、その結果、有姿の材料または有姿の材料の粉砕品を分級して得られた細粒分を、エトリンガイトが分解消失しない温度で水浸膨張試験に供することにより、エトリンガイト系膨張性を適切に評価できることを見出した。
【0006】
本発明はこのような知見に基づきなされたもので、以下を要旨とするものである。
[1]評価すべき材料を篩目の開きが4.75mm以下の篩で篩い分けし、篩下の材料を成型して試験体としたものを40℃以下の水に保持して水浸膨張試験を行うことを特徴とする、路盤用材料を選別するための膨張性評価方法。
[2]上記[1]の膨張性評価方法において、試験体を20〜30℃の水に保持して水浸膨張試験を行うことを特徴とする、路盤用材料を選別するための膨張性評価方法。
[3]上記[1]または[2]の膨張性評価方法において、材料が、コンクリート廃材、廃路盤材、レンガ廃材、スラグ、砕石の中から選ばれる1種または2種以上からなることを特徴とする、路盤用材料を選別するための膨張性評価方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、コンクリート廃材やスラグなどの材料について、エトリンガイト系膨張性を適切に評価することができ、このため路盤材に適した材料を適切に選別することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の膨張性評価方法の対象となる材料としては、コンクリート廃材、廃路盤材、レンガ廃材、スラグ(ごみ溶融スラグ、鉄鋼スラグなど)、砕石などがあり、これらの中から選ばれる1種または2種以上からなる材料を対象とすることができる。
本発明の膨張性評価方法の対象となる材料は、単一種類の材料または予め複数種の材料(成分組成が異なる複数種の材料)を混合して、数ヶ月程度の十分な時間をおいた混合材料であってもよいが、このような材料は、エトリンガイトが生成するものであったとしても、路盤材として施工する前に主たるエトリンガイトが生成しまうことが多いため、路盤材として施工した後に、さほど重大な異常膨張が生じることは少ない。
【0009】
これに対して特に問題なのは、成分組成が異なる複数種の材料を混合して直ちに或いは短期間のうちに路盤材として施工するような場合である。このような場合には、個々の材料はエトリンガイトが生成しないようなものであっても、個々の材料から高濃度に溶出する特定成分が組み合わされることにより、路盤材として施工された後にエトリンガイトが生成することがある。例えば、成分組成が異なる複数種の材料を混合して路盤材として用いる場合、ある材料(例えば、コンクリート廃材など)からCaイオン、SOイオンが多量に供給され、別の材料(例えば、アルミナ系のレンガ廃材など)からAl(OH)イオンが多量に供給されたとすると、それらの反応によりエトリンガイトが生じることになる。したがって、本発明は、以上のような混合材料の膨張性評価方法として特に好適なものである。
【0010】
本発明の膨張性評価方法では、評価すべき材料(例えば、有姿(利用有姿)の材料または有姿材料の粉砕品)を篩目の開きが4.75mm以下の篩で篩い分けし、篩下の細粒分に対して水浸膨張試験(促進膨張試験)を行う。このように分級後の細粒分を用いることにより、短期間で正確な試験を行うことができる。これは、エトリンガイト(3CaO・AlO・3CaSO・32HO)を生成しやすい材料の細粒分は、SO含有量が多く且つ比表面積も大きいので、SOイオンの溶出性が高いためであると考えられる。
【0011】
水浸膨張試験では、上述した分級後の細粒分(以下、「細粒材」という)を成型して試験体としたものを40℃以下の水に保持し、膨張率を測定する。具体的には、細粒材をφ30〜100mmの金型に10〜100g充填して100〜2000kgf/cmの圧力でプレス成型し、この成型体を30〜100mmのモールドに入れ、試料の上部には1kg程度の押さえ板を載せ、その上方向への移動を検知するためにダイヤルゲージを取付ける。このモールドを1Lの水を満たしたビーカーに浸漬する。水温の調整は、温度一定の部屋または温度制御した水槽内に上記ビーカーを入れることによって実施する。水槽に直接モールドを入れると、スラグに対して水量が多いため、エトリンガイトが析出しにくくなり、実路盤と整合性のとれる膨張評価をしにくくなる。
【0012】
表1は、表2に示す成分組成を有する材料Aと、同じく材料Bと、これら材料を混合した材料A+B(A:B=50:50)について、有姿の材料を篩の目開きが425μmの篩にかけ、篩下材料を成型圧:100kgf/cmで試験体サイズ:φ50×6mm(絶乾密度:1.8g/cm)に成型して試験体を作製し、これを20℃の水に保持して水浸膨張試験を行った結果を示している。表1によれば、材料A単独、材料B単独では殆ど膨張が生じないのに対し、材料A+Bでは、最終的(試験開始から20日後以降)に3.5%の体積膨張が生じている。これは材料BからCaイオン、SOイオンが多量に供給され、材料AからAl(OH)イオンが多量に供給されたことにより、エトリンガイトが生成しためであると考えられる。
【0013】
【表1】

【0014】
【表2】

【0015】
試験体を水浸させて保持する水の温度は40℃以下、好ましくは20〜30℃とする。エトリンガイトは低温ほど生成しやすい傾向があり、一方、エトリンガイトがいったん生成しても、50℃程度で分解しはじめ、60℃以上ではほとんど分解・消失してしまう。したがって、80℃で行われる従来の水浸膨張試験方法では、エトリンガイト起因の膨張を評価することはできない。図1は、エトリンガイト系膨張を生じたと思われる路盤材を回収し、室温で風乾、50℃熱処理、60℃熱処理をそれぞれ3時間行った後にXRD分析を行った結果を示している。これによれば、室温で風乾したものはエトリンガイトが明確に認められるのに対し、60℃熱処理したものはエトリンガイトが殆ど分解・消失していることが判る。
【0016】
表3は、上記材料A+B(A:B=50:50)について、有姿のものを篩目の開きが425μmの篩で篩い分けし、篩下の材料を成型して試験体としたものを種々の温度(20〜60℃)の水に保持して水浸膨張試験を行い、20日後の体積膨張率を調べた結果を示している。試験条件は、先に述べた通りである。表3によれば、低温の水ほど膨張率が大きくなる傾向にあるが、60℃ではエトリンガイト系膨張はほとんど認められない。これに対して、40℃以下ではエトリンガイト系膨張が認められ、特に20〜30℃では大きな体積膨張率が得られている。また、この20日後の試料について、エトリンガイトをX線にて定量したところ、試験温度が20℃のものはエトリンガイトが約4mass%生成していた。これに対して、試験温度が60℃のものはエトリンガイトの生成は認められなかった。
一方、表3の試験で用いた混合材料を80℃での水浸膨張試験に供したが、1ヶ月経過しても膨張率は0.1%以下であった。また、同様のスラグを路盤に試験施工したところ、3年後に3cmの膨張があったことが確認できた。
なお、試験温度を20℃以下としても膨張量は必ずしも大きくならないことから、その操作性を考慮すると試験温度は20℃以上が好ましい。
【0017】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】エトリンガイト系膨張を生じたと思われる路盤材を回収し、室温で風乾、50℃熱処理、60℃熱処理をそれぞれ3時間行った後にXRD分析を行った結果を示すグラフ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
評価すべき材料を篩目の開きが4.75mm以下の篩で篩い分けし、篩下の材料を成型して試験体としたものを40℃以下の水に保持して水浸膨張試験を行うことを特徴とする、路盤用材料を選別するための膨張性評価方法。
【請求項2】
試験体を20〜30℃の水に保持して水浸膨張試験を行うことを特徴とする、請求項1に記載の路盤用材料を選別するための膨張性評価方法。
【請求項3】
材料が、コンクリート廃材、廃路盤材、レンガ廃材、スラグ、砕石の中から選ばれる1種または2種以上からなることを特徴とする、請求項1または2に記載の路盤用材料を選別するための膨張性評価方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2009−281842(P2009−281842A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−133761(P2008−133761)
【出願日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】