説明

身体保持装置

【課題】身体保持部が上昇する時に、使用者の体重を身体保持部に乗せやすくして、便座などから起立しやすくすることができる身体保持装置を提供する。
【解決手段】使用者が前方に設置して使用する身体保持部と、前記身体保持部に連結されたアーム部と、前記身体保持部を座位から立位まで移動させるための駆動手段と、を備え、前記駆動手段は、前記身体保持部を前記座位から斜め前方へ下降移動させ、予め設定された最下点まで到達させた後、前記立位まで上昇移動させることを特徴とする身体保持装置が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、身体保持装置に関し、具体的にはトイレ室やベッド室、浴室などに取り付けられる身体保持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
便座などから起立する時、および便座などに着座する時、使用者は足腰の筋肉および関節を利用しつつ、中腰体勢をとって起立および着座を行う。したがって、足腰の弱った高齢者等にとって、便座などから起立すること、および便座などに着座すること、は容易ではない。そこで、足腰の弱った高齢者等の身体を保持しつつ、便座から起立する動作、または便座に着座する動作、を補助する装置がある(例えば、特許文献1)。特に、使用者の前方に補助装置があれば、起立動作のバランスをとりやすくなるため、足腰の弱った高齢者等が転倒する危険を軽減することができる。
【0003】
しかし、特許文献1に記載された装置においては、身体を保持するための身体保持部は使用者の前方にあるが、身体保持部が装置に固定されており動かないため、結局使用者は足腰や腕の筋肉および関節を利用しつつ、便座から起立しなければならない。そのため、この装置を使用した場合であっても、足腰の弱った高齢者等にとっては、便座から起立することは容易ではないという問題がある。
【0004】
そこで、この問題を改善した装置がある(例えば、特許文献2)。しかし、特許文献2に記載された装置においては、身体保持部は昇降することができるが、使用者の体重が乗らないまま身体保持部だけが上昇することがある。そのため、この装置を使用した場合であっても、足腰の弱った高齢者等にとっては、便座から起立することは容易ではないという問題がある。
【0005】
ここで、安定した姿勢で起立動作を行うためには、身体の重心を例えば支持基底面などと呼ばれる面の範囲内から外れないようにする必要があるとされている。すなわち、重心を支持基底面の範囲内に保ちつつ、重心を上下方向に移動させて起立動作を行う必要がある。しかしながら、特許文献1および2に記載された装置においては、重心を支持基底面の範囲内に保ちつつ、重心を上下方向に移動させることは容易ではない。
【特許文献1】特開2004−73840号公報
【特許文献2】特開平11−47041号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、かかる課題の認識に基づいてなされたものであり、身体保持部が上昇する時に、使用者の体重を身体保持部に乗せやすくして、便座などから安定した姿勢で起立しやすくすることができる身体保持装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様によれば、使用者が前方に設置して使用する身体保持部と、前記身体保持部に連結されたアーム部と、前記身体保持部を座位から立位まで移動させるための駆動手段と、を備え、前記駆動手段は、前記身体保持部を前記座位から斜め前方へ下降移動させ、予め設定された最下点まで到達させた後、前記立位まで上昇移動させることを特徴とする身体保持装置が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、身体保持部が上昇する時に、使用者の体重を身体保持部に乗せやすくして、便座などから起立しやすくすることができる身体保持装置が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ説明する。なお、各図面中、同様の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
図1は、本発明の実施の形態にかかる身体保持装置が設置されたトイレ室を例示する模式図である。
【0010】
トイレ室においては、便器20が設置されており、その便器20の上部においては、便座22が設置されている。また、トイレ室の壁面30に身体保持装置10が設置されている。但し、身体保持装置10の設置位置は、壁面30だけに限られず、後に詳述するように例えば便器20の前方であってもよいし、壁面30に対向した壁面であってもよい。身体保持装置10は、身体保持部100とアーム部110とを備えている。身体保持部100は、便座22に着座した使用者の前方に位置するように備えられており、アーム部110を介して、身体保持装置10に備えられた図示しない機構に連結されている。このように、身体保持部100が、着座した使用者の前方に備えられることによって、使用者は起立動作のバランスを取りやすくなる。また、身体保持部100は、身体保持装置10の内部に備えられた図示しない機構によって、着座した使用者から見て、上下方向と前後方向とに移動することができる。
【0011】
図2(a)は、便座に着座した状態の使用者と身体保持部とを表す模式図であり、図2(b)は、起立した状態の使用者と身体保持部とを表す模式図であり、図2(c)は、座位から立位へ移動する身体保持部中心の移動経路を例示する模式図である。
使用者40は、着座した状態から身体保持装置10を使用して起立しようとする場合、まず身体保持部100の上面に腕42を乗せる。次に、上昇移動する身体保持部100に体重を乗せつつ、身体保持部100を利用して起立する。
【0012】
身体保持部100が上昇移動する際の身体保持部中心の移動経路は、種々考えられるが、例えば特許文献2に記載された装置においては、身体保持部100が座位にある時の身体保持部中心100aと、身体保持部100が立位にある時の身体保持部中心100bと、を直線で結んだ移動経路102となっている。この場合、使用者40の体重が身体保持部100に乗らないまま、身体保持部100だけが上昇することになる。
【0013】
これに対して、本発明の実施の形態にかかる身体保持装置10によれば、起立動作が始まると、身体保持部100は一旦斜め前方へ下降移動を行う。身体保持部100が適宜設定された最下点に到達した後、身体保持部100が立位にある時の身体保持部中心100bに向かって上昇移動を行う。このようにすれば、使用者は体重を身体保持部100に乗せやすくなり、便座22から起立しやすくなる。
【0014】
具体的には、例えば図2(c)に表したような移動経路104、106、108を通って、身体保持部100の中心は、座位にある時の身体保持部中心100aから立位にある時の身体保持部中心100bへと移動する。
移動経路104は、身体保持部100が斜め前方へ下降移動した後、上昇移動するときに、斜め前方へ上昇していく移動経路である。これは、起立動作の自然な動きを再現することができる。
【0015】
移動経路106は、身体保持部100が斜め前方へ下降移動した後、上昇移動するときには、略鉛直上方へ上昇していく移動経路である。この場合であっても、起立動作の自然な動きを再現することができる。
移動経路108は、身体保持部100が斜め前方へ下降移動した後、上昇移動するときには、斜め後方へ上昇していく移動経路である。これは、下降したときの身体保持部の位置が、移動経路104および106と比較すると、より前方に位置しているため、使用者はより体重を乗せやすい移動経路である。
【0016】
図3は、本発明の第1の実施の形態にかかる身体保持装置と使用者との一連の起立動作を表す模式図である。
また、図4は、比較例の身体保持装置と使用者との一連の起立動作を表す模式図である。
以下、図2(c)に表した移動経路の中で、移動経路104を例に挙げて説明する。
【0017】
図3(a)に表した動作のように、使用者40が身体保持装置10を使用して起立動作を始める際、まず身体保持部100の上面に使用者40の腕42を乗せる。次に図3(b)に表した動作のように、身体保持部100は、前述のように、斜め前方へ下降移動を始める。この時、使用者40の腕42は身体保持部100と共に下方へ下がり、使用者40は前傾姿勢となる。つまり、図3(a)に表した状態よりも、図3(b)に表した状態の方が、使用者40の体重がより身体保持部100に乗っていることになる。
【0018】
図3(c)に表した動作のように、身体保持部100は、さらに斜め前方へ下降移動を行う。この時、図3(b)に表した状態よりもさらに使用者40は前傾姿勢となり、体重がより身体保持部100に乗る。また、使用者40の膝44は、屈曲状態から伸展状態へと移行する。つまり、使用者40は、体重を身体保持部100に乗せつつ、膝44を屈曲状態から伸展状態へ移行するといった前傾姿勢を取ることができる。
【0019】
次に、身体保持部100が適宜設定された最下点に到達した後、図3(d)に表した動作のように、身体保持部100は斜め前方へ上昇移動を行う。この時、使用者40は身体保持部100に体重を乗せつつ、さらに膝44を伸展させた中腰姿勢となる。この状態においては、起立状態に近い状態となっており、膝44をさらに伸展させることで、図3(e)に表した動作のように、完全に起立することができる。この時、身体保持部100は立位にある。なお、本実施形態にかかる身体保持装置10においては、図3(a)に表した動作開始から、図3(e)に表した動作終了まで、身体保持部100の傾きは、略水平となっている。
【0020】
このように、本実施形態にかかる身体保持装置10においては、起立動作が始まると、身体保持部100が一旦斜め前方へ下降移動を行い、使用者40の体重が身体保持部100に乗りつつ、膝44が屈曲状態から伸展状態へと移動した後に、身体保持部100が上昇移動を行う。したがって、使用者40は、体重を身体保持部100に乗せやすくなり、便座22から起立しやすくなる。なお、使用者40は、起立動作時だけではなく、座位時および立位時において姿勢を安定させるための高さ調整可能な身体保持部として、身体保持部100を利用することもできる。
【0021】
これに対して、比較例の身体保持装置においては、起立動作が始まると、身体保持部100は、立位にあるときの身体保持部100に向かって直線的に上昇移動を行う。つまり、比較例の身体保持装置においては、身体保持部100が一旦斜め前方へ下降移動を行うことはない。
【0022】
図4(a)に表した動作は、図3(a)に表した動作と同様であるため、その説明は省略する。
次に、図4(b)に表した動作のように、身体保持部100は、斜め前方へ上昇移動を始める。この時、使用者40の腕42だけが身体保持部100と共に上方へ持ち上げられ、使用者40が前傾姿勢となることはない。すなわち、使用者40の体重が身体保持部100に乗った度合いは、図4(a)に表した状態と、図4(b)に表した状態と、において略同じである。
【0023】
図4(c)に表した動作のように、身体保持部100は、さらに上昇移動を行う。この時、図4(b)に表した状態よりも、さらに使用者40の腕42だけが上方へ持ち上げられた状態となる。また、使用者40の膝44は、図4(a)および(b)と同様に、屈曲状態のままとなっている。
【0024】
次に、図4(d)に表した動作のように、使用者40は体重を乗せることができないまま、身体保持部100はさらに上昇移動を行う。この時、使用者40の腕42は伸びた状態となっており、この状態から身体保持部100に使用者40の体重を乗せることは容易ではない。また、使用者40の膝44は、屈曲状態のままとなっている。次に、図4(e)に表した動作のように、身体保持部100は立位まで移動して停止する。使用者40は、体重を身体保持部100に乗せることができないままとなっている。
【0025】
このように、比較例の身体保持装置10においては、起立動作が始まると、身体保持部100は斜め前方へ下降移動を行うことなく、斜め前方へ上昇移動を始める。したがって、使用者40の体重が身体保持部100に乗らないまま、身体保持部100だけが上昇移動を行うことになる。すなわち、使用者40は体重を身体保持部100に乗せることが容易ではなく、便座22から起立することが容易ではない。
【0026】
図5は、身体保持部の詳細な動作を例示するフローチャート図である。
まず、使用者40が起立動作を開始するとき、例えば壁面30(図1参照)に設けられた図示しないリモコンなどが有する開始操作スイッチを押すことで、身体保持装置10の動作が開始される(ステップS70)。ここで、開始操作スイッチを押すのは、使用者40の起立動作を介護する介護者であってもよいし、使用者40自身であってもよい。なお、身体保持装置10の開始は、例えば身体保持部100に備えられた図示しない開始操作スイッチを、使用者40自身が押すことによるものであってもよい。さらに、例えば身体保持部100に備えられた図示しない開始操作スイッチを、使用者40自身が押している間だけ身体保持装置10が動作し、開始操作スイッチから手を離すと身体保持装置10の動作が停止するようにしてもよい。
【0027】
次に、身体保持部100は、使用者40から見て斜め前方に下降移動する(ステップS72)。この動作によって、前述のように、使用者40は体重を身体保持部100に乗せやすくなる。さらに、身体保持部100は斜め前方に下降移動を続け、最下点に到達した時に、約1秒程度停止する(ステップS74)。このように、身体保持部100が最下点において一旦停止することによって、身体保持部100が最下点に到達し、この後、上昇移動が始まるということを、使用者40は知ることができる。つまり、使用者40は、より安全に上昇移動へと移行することができる。
【0028】
さらに、図示しない音声発生手段を備え、身体保持部100が最下点に到達したことを、ブザーなどの音によって報知してもよい。また、身体保持部100が最下点に到達したことを、音声案内によって報知してもよい。また、図示しない発光手段を備え、身体保持部100が最下点に到達したことを、光によって報知してもよい。また、身体保持部100が最下点に到達したことを、前述した一旦停止と併せて、これらの動作を組み合わせてもよい。
【0029】
なお、本実施形態にかかる身体保持装置10においては、身体保持装置10を使用する前に使用者40の体重を入力し、その入力された体重から、身体保持部100の最下点の位置を、予め設定されたデータテーブルを参照して算出してもよい。例えば、最下点の位置は、入力した使用者の体重と、予め設定されたデータテーブルと、を参照して算出される値まで、身体保持部100に掛かる荷重が増加した位置であってもよい。また、例えば、入力した使用者の体重と、予め設定されたデータテーブルと、を参照して算出された値まで、トイレ室の床面に掛かる荷重が変化した位置であってもよい。
【0030】
次に、身体保持部100は、使用者40から見て斜め前方に上昇移動する(ステップS76)。さらに、身体保持部100が上昇移動を続け、立位に到達する(ステップS78)ことで、使用者40は完全に起立した状態となる。このようにして、身体保持装置10の動作は終了する(ステップS80)。
【0031】
なお、ステップS72において身体保持部100が斜め前方に下降移動する速さと、ステップS76において身体保持部100が斜め前方に上昇移動する速さと、が異なっていてもよい。例えば、ステップS72における下降移動の速さを、ステップS76における上昇移動の速さよりも遅くすることで、使用者40は体重をゆっくり、より確実に身体保持部100に乗せることができ、体重を身体保持部100に乗せた後は、より速く起立することができる。
【0032】
一方、ステップS72における斜め前方への下降移動の速さを、ステップS76における斜め前方への上昇移動の速さよりも速くすることもできる。こうすることで、使用者40は体重をより速く身体保持部100に乗せることができ、その後ゆっくりと、より確実に起立動作を行うことができる。さらに、ステップS72において身体保持部100が斜め前方に下降移動する速さと、ステップS76において身体保持部100が斜め前方に上昇移動する速さと、が略同じになっていてもよい。こうすることで、使用者40は、身体保持部100の速さが変化することがないため、安心して身体保持装置10を使用することができる。
【0033】
図6は、身長と身体保持部の高さとの関係を調査した結果を表すグラフ図である。
本発明者は、使用者の身長と、座位に適した身体保持部100の高さ、および立位に適した身体保持部100と、の関係を事前に調査している。その調査結果を表すグラフ図は、図6に表した如くである。
【0034】
横軸は、使用者の身長を表しており、縦軸は、床面から身体保持部100の上面までの高さを表している。菱形で表したプロットは、立位に適した身体保持部100上面の床面からの高さを表しており、三角で表したプロットは、座位に適した身体保持部100上面の床面からの高さを表している。つまり、例えば身長が1600mmの使用者にとって、立位に適した身体保持部100上面の床面からの高さは960mmとなり、座位に適した身体保持部100上面の床面からの高さは725mmとなる。すなわち、身体保持部100は、960mmと725mmとの差分である235mmだけ上昇移動することが適していることになる。
【0035】
なお、別途、高齢者男性および高齢者女性の身長を調査した結果によれば、高齢者男性95%の範囲内の身長は、約1710mm程度以下であり、高齢者女性95%の範囲内の身長は、約1350mm程度以上である。
【0036】
本実施形態にかかる身体保持装置10においては、身体保持装置10を使用する前に使用者40の身長を入力し、その入力された身長から、立位に適した身体保持部100上面の床面からの高さ、および座位に適した身体保持部100上面の床面からの高さ、を図6に表したデータを参照して算出することができる。このように、予め設定されたデータテーブルを参照することで、使用者に合わせて身体保持部100を動作させることができる。この時、前述のように、身長が約1350mm程度以上から約1710mm程度以下までのデータを予め身体保持装置10に設定しておけば、高齢者の約95%程度の範囲内の身長を包括できることになる。
【0037】
次に、本実施形態の具体例について図面を参照しつつ説明する。
図7は本実施形態の具体例にかかる身体保持装置を例示する模式正面図である。
本具体例にかかる身体保持装置10は、身体保持部100と、アーム部110と、アーム受け部120と、台形ねじ130、132と、キャビネット200と、を備えている。本具体例にかかる身体保持装置10は、図1に表した身体保持装置10と同様に、便座22(図1参照)に着座した使用者の側方に位置するように設置されている。つまり、図7に表した身体保持装置10は、図1における壁面30と対面する方向から眺めた状態を表している。
【0038】
アーム部110は、一端において身体保持部100と連結されている。また、アーム部110の他端は、台形ねじ132に螺合されている。また、台形ねじ132を回動するための回動駆動手段142と、台形ねじ受け部152と、がアーム受け部120に付設されている。つまり、回動駆動手段142が台形ねじ132を回動させることで、アーム部110は、便座22に着座した使用者の前後方向に自在に移動することができる。
【0039】
また、アーム受け部120は、キャビネット200の内部に設けられた台形ねじ130に螺合されている。また、キャビネット200は、下部に回動駆動手段140と、上部に台形ねじ受け部150と、をそれぞれ有している。回動駆動手段140は、台形ねじ130に連結されており、台形ねじ130を自在に回動させることができる。すなわち、回動駆動手段140は、台形ねじ130を駆動することで、アーム受け部120を上下方向に自在に移動させることができる。
【0040】
身体保持装置10の動作を開始させると、回動駆動手段140は台形ねじ130を回動させて、アーム受け部120を下降移動させる。この動作と同時に、回動駆動手段142は台形ねじ132を回動させて、アーム部110を前方へ移動させる。こうすることで、身体保持部100は、斜め前方に下降移動することになる。
【0041】
次に、身体保持部100が適宜設定された最下点に到達すると、回動駆動手段140は、台形ねじ130を逆回転させて、アーム受け部120を上昇移動させる。この動作と同時に、回動駆動手段142は台形ねじ132を回動させて、アーム部110を前方へ移動させる。こうすることで、身体保持部100は、斜め前方に上昇移動することになる。なお、身体保持部100は、アーム部110に固定されているため、移動中であっても略水平に維持されている。
【0042】
このようにして、本具体例における身体保持装置10は、身体保持部100を略水平方向に維持しつつ、一旦斜め前方へ下降移動させた後、同様に身体保持部100を略水平方向に維持しつつ、斜め前方へ上昇移動させることができる。
【0043】
図8は、本実施形態の他の具体例にかかる身体保持装置を例示する模式正面図である。 また、図9は、図8に表した身体保持装置を側面から眺めた模式側面図である。
本具体例にかかる身体保持装置10は、身体保持部100と、アーム部110と、アーム受け部120と、台形ねじ130と、キャビネット200と、を備えている。本具体例にかかる身体保持装置10は、便座22に着座した使用者の前方に位置するように設置されている。
【0044】
身体保持部100は、図8に表したように、いわゆる「さすまた」などと呼ばれる形状を有しており、使用者40の前方から側方を取り巻くような形状を有している。但し、身体保持部100の形状は、後に詳述するように、略矩形としてもよい。アーム部110は、一端に回動駆動手段160を有しており、この回動駆動手段160を介して身体保持部100と連結されている。また、アーム部110は、他端に回動駆動手段170を有しており、この回動駆動手段170を介してアーム受け部120と連結されている。
【0045】
アーム受け部120は、キャビネット200内部の左側と右側にそれぞれ設けられた台形ねじ130に螺合されている。つまり、台形ねじ130を回動させることで、アーム受け部120は上下方向に自在に移動することができる。また、キャビネット200は、下部に回動駆動手段140と、上部に台形ねじ受け部150と、をそれぞれ有している。回動駆動手段140は、台形ねじ130に連結されており、台形ねじ130を自在に回動させることができる。すなわち、回動駆動手段140は、台形ねじ130を駆動することで、アーム受け部120を上下方向に自在に移動させることができる。
【0046】
身体保持装置10の動作を開始させると、回動駆動手段140は台形ねじ130を回動させて、アーム受け部120を下降移動させる。この動作と同時に、回動駆動手段170は、図9に表した身体保持装置10の方向から見て、反時計回りにアーム部110を回動させ、斜め前方に身体保持部100を移動させる。さらに、この動作と同時に、回動駆動手段160は、図9に表した身体保持装置10の方向から見て、時計回りに身体保持部100を回動させて略水平方向に維持する。
【0047】
次に、身体保持部100が適宜設定された最下点に到達すると、回動駆動手段140は、台形ねじ130を逆回転させて、アーム受け部120を上昇移動させる。この動作と同時に、回動駆動手段170は、図9に表した身体保持装置10の方向から見て、反時計回りにアーム部110を回動させ、斜め前方に身体保持部100を移動させる。さらに、この動作と同時に、回動駆動手段160は、図9に表した身体保持装置10の方向から見て、時計回りに身体保持部100を回動させて略水平方向に維持する。
【0048】
このようにして、本具体例における身体保持装置10は、身体保持部100を略水平方向に維持しつつ、一旦斜め前方へ下降移動させた後、同様に身体保持部100を略水平方向に維持しつつ、斜め前方へ上昇移動させることができる。
【0049】
図10(a)は、通常の身体保持部を表す模式図であり、図10(b)は、身体保持部に使用者の膝が接触した場合を例示する模式図である。
身体保持部100は、前述のように、身体保持部100が斜め前方へ下降移動および斜め前方へ上昇移動しつつ、略水平方向に維持される。
【0050】
一方、使用者40の膝44などが身体保持部100に接触した場合には、回動駆動手段160の駆動状態に関わらず、身体保持部100は、図10(b)に表した身体保持部100の方向から見て、時計回りに回動できる。つまり、使用者40の身体の一部が、身体保持部100の下面に接触した場合には、身体保持部100は上方へ回動し、接触の衝撃を緩和することができる。こうすることで、使用者40が身体保持部100に接触して怪我することを防止することができる。
【0051】
図11は、本実施形態のさらに他の具体例にかかる身体保持装置を例示する模式側面図である。
本具体例にかかる身体保持装置10においては、図9に表した身体保持装置10における台形ねじ130がベルト135に置き換えられている。さらに、図9に表した身体保持装置10における回動駆動手段140がベルト135を駆動させるためのベルト駆動手段145に、図9に表した身体保持装置10における台形ねじ受け部150がプーリ155に、置き換えられている。
【0052】
なお、ベルト135がチェーンに、ベルト駆動手段145がチェーン駆動手段に、プーリ155がスプロケットに置き換えられていてもよい。また、アーム受け部120は、ベルト135に連結されている。つまり、ベルト135を駆動させることで、アーム受け部120は上下方向に自在に移動することができる。その他の構造については、図9に表した身体保持装置10と同様であるため、その説明は省略する。
【0053】
身体保持装置10の動作を開始させると、ベルト駆動手段145はベルト135を駆動させて、アーム受け部120を下降移動させる。この動作と同時に、回動駆動手段170は、図11に表した身体保持装置10の方向から見て、反時計回りにアーム部110を回動させ、斜め前方に身体保持部100を移動させる。さらに、この動作と同時に、回動駆動手段160は、図11に表した身体保持装置10の方向から見て、時計回りに身体保持部100を回動させて略水平方向に維持する。
【0054】
次に、身体保持部100が適宜設定された最下点に到達すると、ベルト駆動手段145は、ベルト135を逆方向に駆動させて、アーム受け部120を上昇移動させる。この動作と同時に、回動駆動手段170は、図11に表した身体保持装置10の方向から見て、反時計回りにアーム部110を回動させ、斜め前方に身体保持部100を移動させる。さらに、この動作と同時に、回動駆動手段160は、図11に表した身体保持装置10の方向から見て、時計回りに身体保持部100を回動させて略水平方向に維持する。
【0055】
このようにして、本具体例における身体保持装置10は、身体保持部100を略水平方向に維持しつつ、一旦斜め前方へ下降移動させた後、同様に身体保持部100を略水平方向に維持しつつ、斜め前方へ上昇移動させることができる。なお、本具体例にかかる身体保持装置10は、図10を参照しつつ説明したような構造を有していてもよい。
【0056】
図12は、本実施形態のさらに他の具体例にかかる身体保持装置を例示する模式正面図である。
また、図13は、図12に表した身体保持装置の左側部を側面から眺めた模式側面図である。
また、図14は、図12に表した身体保持装置の左側部を拡大して正面から眺めた模式正面図である。
【0057】
本具体例にかかる身体保持装置10の左側部11は、身体保持部100と、アーム部110a、110bと、アーム受け部120a、120bと、台形ねじ130a、130bと、キャビネット200と、を備えている。本具体例にかかる身体保持装置10は、便座22に着座した使用者の前方に位置するように設置されている。なお、本具体例にかかる身体保持装置10の右側部は、左側部11と同様の構造を有するため、その説明は省略する。
【0058】
身体保持部100は、図12に表したように、いわゆる「さすまた」などと呼ばれる形状を有しており、使用者40の前方から側方を取り巻くような形状を有している。但し、身体保持部100の形状は、後に詳述するように、略矩形としてもよい。アーム部110bは、一端に軸162を有しており、この軸162を介して身体保持部100に回動自在に軸支されている。同様に、アーム部110aは、軸162を介して身体保持部100に回動自在に軸支されている。
【0059】
また、アーム部110bは、他端に軸172bを有しており、この軸172bを介してアーム受け部120bに回動自在に軸支されている。同様に、アーム部110aは他端に図示しない軸を有しており、この図示しない軸を介してアーム受け部120aに回動自在に軸支されている。
【0060】
アーム受け部120aおよび120bは、キャビネット200の内部に設けられた台形ねじ130aおよび130bにそれぞれ螺合されている。つまり、台形ねじ130aおよび台形130bを回動させることで、アーム受け部120aおよび120bは上下方向に自在に移動することができる。また、キャビネット200は、上部に回動駆動手段140aおよび140bと、下部に台形ねじ受け部150aおよび150bと、をそれぞれ有している。回動駆動手段140aおよび140bは、台形ねじ130aおよび130bにそれぞれ連結されており、台形ねじ130aおよび130bをそれぞれ自在に回動させることができる。すなわち、回動駆動手段140aおよび140bは、台形ねじ130aおよび130bをそれぞれ駆動することで、アーム受け部120aおよび120bを上下方向に自在に移動させることができる。
【0061】
身体保持装置10の動作を開始させると、回動駆動手段140aは台形ねじ130aを回動させて、アーム受け部120aを下降移動させる。この時、回動駆動手段140bは台形ねじ130bを回動させてもよいし、回動させなくてもよい。但し、回動駆動手段140bが台形ねじ130bを回動させる場合には、アーム受け部120aの移動する速さをアーム受け部120bの移動する速さよりも速くする必要がある。こうすることで、身体保持部100は、斜め前方に下降移動することができる。
【0062】
次に、身体保持部100が適宜設定された最下点に到達すると、回動駆動手段140aは、台形ねじ130aを逆回転させて、アーム受け部120aを上昇移動させる。この動作と同時に、回動駆動手段140bは、台形ねじ130bを回動させて、アーム受け部120bを上昇移動させる。ここで、アーム受け部120aの移動する速さをアーム受け部120bの移動する速さよりも遅くする必要がある。こうすることで、身体保持部100は、斜め前方に上昇移動することができる。なお、身体保持部100は、軸162を介して回動自在にアーム部110aおよび110bに軸支されているため、移動中であっても略水平に維持されている。
【0063】
このようにして、本具体例における身体保持装置10は、身体保持部100を略水平方向に維持しつつ、一旦斜め前方へ下降移動させた後、同様に身体保持部100を略水平方向に維持しつつ、斜め前方へ上昇移動させることができる。なお、本具体例にかかる身体保持装置10は、図10を参照しつつ説明したような構造を有していてもよい。
【0064】
図15は、本実施形態にかかる身体保持装置の起立動作の実験結果を例示した模式図である。
本発明者は、本実施形態にかかる身体保持装置の試作を行い、本発明者自身が使用者40となり、起立動作の実験を行った。その起立動作を模式的に表した実験結果は、図15(a)〜(f)の如くである。
【0065】
図15(a)に表した状態のように、使用者40は身体保持装置10を使用して起立動作を始める際、まず身体保持部100の上面に使用者40の腕42を乗せている。次に図15(b)に表した動作のように、身体保持部100は、斜め前方へ下降移動を始める。この時、使用者40の腕42は身体保持部100と共に下方へ下がり、使用者40は前傾姿勢となっている。つまり、図15(a)に表した状態よりも、図15(b)に表した状態の方が、使用者40の体重がより身体保持部100に乗っている。
【0066】
次に、図15(c)に表した動作のように、身体保持部100は斜め前方へ上昇移動を行う。この時、使用者40は、体重を身体保持部100に乗せつつ、膝44を屈曲状態から伸展状態へ移行するといった前傾姿勢を取ることができる。次に、図15(d)および図15(e)に表した動作のように、身体保持部100はさらに上昇移動を続け、使用者40は身体保持部100に体重を乗せつつ、さらに膝44を伸展させて中腰姿勢を取ることができる。次に、図15(f)に表した動作のように、身体保持部100は立位まで到達し、使用者40は完全に起立することができる。
【0067】
図16は、比較例にかかる身体保持装置の起立動作の実験結果を例示した模式図である。
本発明者は、比較例にかかる身体保持装置を使用して、本発明者自身が使用者40となり、起立動作の実験を行った。その起立動作を模式的に表した実験結果は、図16(a)〜(d)の如くである。
【0068】
図16(a)に表した状態は、図15(a)に表した状態と同様であるため、その説明は省略する。
図16(b)に表した動作のように、身体保持部100は、斜め前方へ上昇移動を始める。この時、使用者40の腕42だけが身体保持部100と共に上方へ持ち上げられ、図15(b)と比較すると、使用者40の体重は身体保持部100に乗っていない。すなわち、使用者40の体重が身体保持部100に乗った度合いは、図16(a)に表した状態と、図16(b)に表した状態と、において略同じである。
【0069】
次に、図16(c)に表した動作のように、使用者40は身体保持部100に体重を乗せることができないまま、身体保持部100はさらに上昇移動を行う。この時、使用者40の腕42は伸びた状態となっており、この状態から身体保持部100に使用者40の体重を乗せることは容易ではない。次に、図16(d)に表した動作のように、身体保持部100は立位まで移動して停止する。使用者40は、体重を身体保持部100に乗せることができないままとなっている。
【0070】
以上説明したように、本実施形態によれば、身体保持部100を略水平方向に維持しつつ、一旦斜め前方へ下降移動した後、同様に身体保持部100を略水平方向に維持しつつ、斜め前方へ上昇移動させることができる。このようにすることで、使用者40は体重を身体保持部100に乗せやすくなり、足腰の弱った高齢者等であっても便座などから起立しやすくなる。
【0071】
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。
図17は、本発明の第2の実施の形態にかかる身体保持装置と使用者との一連の起立動作を表す模式図である。
図17に表した動作は、図3(a)に表した動作と同様であるため、その説明は省略する。
図17(b)に表した動作のように、身体保持部100は斜め前方へ下降移動を始める。この時、身体保持部100は、身体保持部100の後端部100dよりも前端部100cの方が低くなるような前傾状態となる方向への傾動(以下、「前方傾動」という。)の動作を行う。また、使用者40の腕42は身体保持部100と共に下方へ下がり、使用者40は前傾姿勢となる。つまり、図17(a)に表した状態よりも、図17(b)に表した状態の方が、使用者40の体重がより身体保持部100に乗っていることになる。
【0072】
図17(c)に表した動作のように、身体保持部100は、さらに斜め前方へ下降移動を行う。この時、身体保持部100は、さらに前方傾動の動作を行う。また、使用者40は、図17(b)に表した状態よりもさらに前傾姿勢となり、身体保持部100の後端部100dよりも使用者40の肩46の方が前方に位置している。このため、本実施形態にかかる身体保持装置10は、第1の実施の形態にかかる身体保持装置10と比較すると、身体保持部100に使用者40の体重をより乗せやすい動作を行う。つまり、使用者40の腕42だけが上方へ持ち上げられることを低減することができる。
【0073】
また、使用者40の膝44は、屈曲状態から伸展状態へと移行する。つまり、使用者40は、体重を身体保持部100に乗せつつ、膝44を屈曲状態から伸展状態へ移行するといった前傾姿勢を取ることができる。
【0074】
次に、図17(d)に表した動作のように、身体保持部100は斜め前方へ上昇移動を行う。この時、身体保持部100は、身体保持部100の前端部100cよりも後端部100dの方が低くなるような後傾状態となる方向への傾動(以下、「後方傾動」という。)の動作を行う。また、使用者40は、身体保持部100に体重を乗せつつ、さらに膝44を伸展させた中腰姿勢となる。
【0075】
次に、図17(e)に表した動作のように、身体保持部100は後方傾動を行いつつ、斜め前方へ上昇移動をさらに続ける。この状態においては、起立状態に近い状態となっており、膝44をさらに伸展させることで、図14(f)に表した動作のように、完全に起立することができる。この時、身体保持部100は立位にあり、身体保持部100の傾きは略水平の状態に戻っている。
【0076】
このように、本実施形態にかかる身体保持装置10においては、起立動作が始まると、身体保持部100は前方傾動を行いつつ、一旦斜め前方へ下降移動を行った後、後方傾動を行いつつ、斜め前方へ上昇移動を行う。したがって、身体保持部100が斜め前方へ下降移動したときには、身体保持部100の後端部100dよりも使用者40の肩46の方が前方に位置するようになるため、使用者40は、体重をより身体保持部100に乗せやすくなり、便座22から起立しやすくなる。なお、使用者40は、起立動作時だけではなく、座位時および立位時において姿勢を安定させるための高さ調整可能な身体保持部として、身体保持部100を利用することもできる。
【0077】
次に、本実施形態の具体例について図面を参照しつつ説明する。
図18は、本実施形態の具体例にかかる身体保持装置を側面から眺めた模式側面図である。
本具体例にかかる身体保持装置は、図8および図9に表した身体保持装置の構造と同様であるため、その説明は省略する。
【0078】
身体保持装置10の動作を開始させると、回動駆動手段140は台形ねじ130を回動させて、アーム受け部120を下降移動させる。この動作と同時に、回動駆動手段170は、図18に表した身体保持装置10の方向から見て、反時計回りにアーム部110を回動させ、斜め前方に身体保持部100を移動させる。さらに、この動作と同時に、回動駆動手段160は、図18に表した身体保持装置10の方向から見て、時計回りに身体保持部100を回動(前方傾動)させて、前端部100cよりも後端部100dの方が高くなるような前傾状態とする。
【0079】
次に、身体保持部100が適宜設定された最下点に到達すると、回動駆動手段140は、台形ねじ130を逆回転させて、アーム受け部120を上昇移動させる。この動作と同時に、回動駆動手段170は、図18に表した身体保持装置10の方向から見て、反時計回りにアーム部110を回動させ、斜め前方に身体保持部100を移動させる。さらに、この動作と同時に、回動駆動手段160は、図18に表した身体保持装置10の方向から見て、反時計回りに身体保持部100を回動(後方傾動)させて略水平方向に戻す。なお、身体保持部100の中心100aの軌跡は、実線の曲線で表した如くである。
【0080】
このようにして、本具体例における身体保持装置10は、身体保持部100を前方傾動させつつ、一旦斜め前方へ下降移動させた後、身体保持部100を後方傾動させつつ、斜め前方へ上昇移動させる。なお、本具体例にかかる身体保持装置10は、図10を参照しつつ説明したような構造を有していてもよい。
【0081】
図19は、本実施形態の他の具体例にかかる身体保持装置を例示する模式側面図である。
本具体例にかかる身体保持装置は、図11に表した身体保持装置の構造と同様であるため、その説明は省略する。
なお、図11を参照しつつ説明したように、ベルト135がチェーンに、ベルト駆動手段145がチェーン駆動手段に、プーリ155がスプロケットに置き換えられていてもよい。
【0082】
身体保持装置10の動作を開始させると、ベルト駆動手段145はベルト135を駆動させて、アーム受け部120を下降移動させる。この動作と同時に、回動駆動手段170は、図19に表した身体保持装置10の方向から見て、反時計回りにアーム部110を回動させ、斜め前方に身体保持部100を移動させる。さらに、この動作と同時に、回動駆動手段160は、図19に表した身体保持装置10の方向から見て、時計回りに身体保持部100を回動(前方傾動)させて、前端部100cよりも後端部100dの方が高くなるような前傾状態とする。
【0083】
次に、身体保持部100が適宜設定された最下点に到達すると、ベルト駆動手段145は、ベルト135を逆方向に駆動させて、アーム受け部120を上昇移動させる。この動作と同時に、回動駆動手段170は、図19に表した身体保持装置10の方向から見て、反時計回りにアーム部110を回動させ、斜め前方に身体保持部100を移動させる。さらに、この動作と同時に、回動駆動手段160は、図19に表した身体保持装置10の方向から見て、反時計回りに身体保持部100を回動(後方傾動)させて略水平方向に戻す。なお、身体保持部100の中心100aの軌跡は、実線の曲線で表した如くである。
【0084】
このようにして、本具体例における身体保持装置10は、身体保持部100を前方傾動させつつ、一旦斜め前方へ下降移動させた後、身体保持部100を後方傾動させつつ、斜め前方へ上昇移動させる。なお、本具体例にかかる身体保持装置10は、図10を参照しつつ説明したような構造を有していてもよい。
【0085】
図20は、本実施形態のさらに他の具体例にかかる身体保持装置を側面から眺めた模式側面図である。
本具体例にかかる身体保持装置10は、図13および図14に表した身体保持装置10における軸162が、回動駆動手段160に置き換えられている。その他の構造については、図13に表した身体保持装置10と同様であるため、その説明は省略する。
【0086】
身体保持装置10の動作を開始させると、回動駆動手段140a(図14参照)は台形ねじ130aを回動させて、アーム受け部120a(図14参照)を下降移動させる。この時、回動駆動手段140bは台形ねじ130bを回動させてもよいし、回動させなくてもよい。但し、回動駆動手段140bが台形ねじ130bを回動させる場合には、アーム受け部120aの移動する速さをアーム受け部120bの移動する速さよりも速くする必要がある。こうすることで、身体保持部100は、斜め前方に下降移動することができる。また、この動作と同時に、回動駆動手段160は、図20に表した身体保持装置10の方向から見て、時計回りに身体保持部100を回動(前方傾動)させて、前端部100cよりも後端部100dの方が高くなるような前傾状態とする。
【0087】
次に、身体保持部100が適宜設定された最下点に到達すると、回動駆動手段140aは、台形ねじ130aを逆回転させて、アーム受け部120aを上昇移動させる。この動作と同時に、回動駆動手段140bは、台形ねじ130bを回動させて、アーム受け部120bを上昇移動させる。ここで、アーム受け部120aの移動する速さをアーム受け部120bの移動する速さよりも遅くする必要がある。こうすることで、身体保持部100は、斜め前方に上昇移動することができる。さらに、この動作と同時に、回動駆動手段160は、図19に表した身体保持装置10の方向から見て、反時計回りに身体保持部100を回動(後方傾動)させて略水平方向に戻す。なお、身体保持部100の中心100aの軌跡は、実線の曲線で表した如くである。
【0088】
このようにして、本具体例における身体保持装置10は、身体保持部100を前方傾動させつつ、一旦斜め前方へ下降移動させた後、身体保持部100を後方傾動させつつ、斜め前方へ上昇移動させる。なお、本具体例にかかる身体保持装置10は、図10を参照しつつ説明したような構造を有していてもよい。
【0089】
以上説明したように、本実施形態によれば、身体保持部100を前方傾動させつつ、一旦斜め前方へ下降移動させた後、身体保持部100を後方傾動させつつ、斜め前方へ上昇移動させる。このようにすることで、身体保持部100が斜め前方へ下降移動したときには、身体保持部100の後端部100dよりも使用者40の肩46の方が前方に位置するようになるため、使用者40は、体重をより身体保持部100に乗せやすくなり、足腰の弱った高齢者等であっても便座などから起立しやすくなる。
【0090】
図21は、本発明の実施の形態にかかる身体保持装置に設けることができる身体保持部の具体例を例示する模式斜視図である。
身体保持部100は、図21(a)に表したように、略矩形とすることができる。この場合、角部にラウンド部100eを設けると、使用者が身体保持部100の角部で怪我をすることを低減できるため好ましい。また、身体保持部100の形状を、広い面積を有する略矩形とすることで、使用者は肘を支点に体重を身体保持部100に乗せやすくなる。
【0091】
また、身体保持部100は、図21(b)に表したように、略半円形とすることもできる。これは、いわゆる「さすまた」などと呼ばれる形状を有しており、使用者の前方から側方を取り巻くような形状を有している。そのため、使用者は前方および側方に対する姿勢のバランスを取りやすくなる。
【0092】
図22は、本発明の実施の形態にかかる身体保持装置に設けることができる身体保持部の他の具体例を例示する模式図であり、図22(a)は、身体保持部を斜めから眺めた斜視図であり、図22(b)は、上方から眺めた上面図である。
【0093】
図22(a)および(b)に表したように、使用者40が身体保持部100に接触する部分において、クッションなどの緩衝材100fを付設させてもよい。本具体例においては、使用者の前方および側方に付設させている。こうすることで、使用者は前方および側方に対する姿勢のバランスを取りやすくなり、また使用者が身体保持部100および周辺の構造体に接触して怪我をすることを低減することができる。なお、緩衝材100fは、摩擦係数が大きく滑りにくい性質を有する、例えばゴムスポンジなどであってもよい。
【0094】
図23は、本発明の実施の形態にかかる身体保持装置に設けることができる身体保持部のさらに他の具体例を例示する模式図である。
また、図24は、図23の身体保持部を上方から眺めた模式上面図である。
図23に表したように、身体保持部100の前方に握り手100gを付設させてもよい。本具体例に例示した握り手100gは、湾曲した形状を有している。したがって、図24(a)に表したように、使用者40は、握り手100gの前方部を両手で掴むことができる。または、図24(b)に表したように、使用者40は、握り手100gの斜め前方部を両手で掴むことができる。さらに、図24(c)に表したように、使用者40は、握り手100gの側方部を両手で掴むことができる。このようにすることで、使用者40は、握り手100gをしっかり掴むことにより、起立する際の姿勢のバランスを取りやすくなる。
【0095】
以上、本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明はこれらの記述に限定されるものではない。前述の実施の形態に関して、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。例えば、身体保持装置10または身体保持部100などが備える各要素の形状、寸法、材質、配置などや身体保持装置10の設置形態などは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。
また、前述した各実施の形態が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】本発明の実施の形態にかかる身体保持装置が設置されたトイレ室を例示する模式図である。
【図2】図2(a)は、便座に着座した状態の使用者と身体保持部とを表す模式図であり、図2(b)は、起立した状態の使用者と身体保持部とを表す模式図であり、図2(c)は、座位から立位へ移動する身体保持部中心の移動経路を例示する模式図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態にかかる身体保持装置と使用者との一連の起立動作を表す模式図である。
【図4】比較例の身体保持装置と使用者との一連の起立動作を表す模式図である。
【図5】身体保持部の詳細な動作を例示するフローチャート図である。
【図6】身長と身体保持部の高さとの関係を調査した結果を表すグラフ図である。
【図7】本実施形態の具体例にかかる身体保持装置を例示する模式正面図である。
【図8】本実施形態の他の具体例にかかる身体保持装置を例示する模式正面図である。
【図9】図8に表した身体保持装置を側面から眺めた模式側面図である。
【図10】図10(a)は、通常の身体保持部を表す模式図であり、図10(b)は、身体保持部に使用者の膝が接触した場合を例示する模式図である。
【図11】本実施形態のさらに他の具体例にかかる身体保持装置を例示する模式側面図である。
【図12】本実施形態のさらに他の具体例にかかる身体保持装置を例示する模式正面図である。
【図13】図12に表した身体保持装置の左側部を側面から眺めた模式側面図である。
【図14】図12に表した身体保持装置の左側部を拡大して正面から眺めた模式正面図である。
【図15】本実施形態にかかる身体保持装置の起立動作の実験結果を例示した模式図である。
【図16】比較例にかかる身体保持装置の起立動作の実験結果を例示した模式図である。
【図17】本発明の第2の実施の形態にかかる身体保持装置と使用者との一連の起立動作を表す模式図である。
【図18】本実施形態の具体例にかかる身体保持装置を側面から眺めた模式側面図である。
【図19】本実施形態の他の具体例にかかる身体保持装置を例示する模式側面図である。
【図20】本実施形態のさらに他の具体例にかかる身体保持装置を側面から眺めた模式側面図である。
【図21】本発明の実施の形態にかかる身体保持装置に設けることができる身体保持部の具体例を例示する模式斜視図である。
【図22】本発明の実施の形態にかかる身体保持装置に設けることができる身体保持部の他の具体例を例示する模式図であり、図22(a)は、身体保持部を斜めから眺めた斜視図であり、図22(b)は、上方から眺めた上面図である。
【図23】本発明の実施の形態にかかる身体保持装置に設けることができる身体保持部のさらに他の具体例を例示する模式図である。
【図24】図23の身体保持部を上方から眺めた模式上面図である。
【符号の説明】
【0097】
10 身体保持装置、 11 左側部、 20 便器、 22 便座、 30 壁面、 40 使用者、 42 腕、44 膝、 46 肩、 100 身体保持部、 100a、100b 身体保持部中心、 100c 前端部、 100d 後端部、 100e ラウンド部、 100f 緩衝材、 100g 握り手、 102、104、106、108 移動経路、 110、110a、110b アーム部、 120、120a、120b アーム受け部、 130、130a、130b、132 台形ねじ、 135 ベルト、 140、140a、140b、142 回動駆動手段、 145 ベルト駆動手段、 150、150a、150b、152 台形ねじ受け部、 155 プーリ、 160 回動駆動手段、 162 軸、 170 回動駆動手段、 172b 軸、 200 キャビネット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用者が前方に配置して使用する身体保持部と、
前記身体保持部に連結されたアーム部と、
前記身体保持部を座位から立位まで移動させるための駆動手段と、
を備え、
前記駆動手段は、前記身体保持部を前記座位から斜め前方へ下降移動させ、予め設定された最下点まで到達させた後、前記立位まで上昇移動させることを特徴とする身体保持装置。
【請求項2】
前記駆動手段は、前記身体保持部を前記上昇移動させる際に、同時に前記身体保持部を斜め前方へ移動させることを特徴とする請求項1記載の身体保持装置。
【請求項3】
前記駆動手段は、前記身体保持部を前記上昇移動させる際に、前記身体保持部を鉛直方向へ上昇させることを特徴とする請求項1記載の身体保持装置。
【請求項4】
前記駆動手段は、前記身体保持部を前記上昇移動させる際に、同時に前記身体保持部を斜め後方へ移動させることを特徴とする請求項1記載の身体保持装置。
【請求項5】
前記使用者の身長に関する情報を入力可能とし、
前記駆動手段は、入力された前記身長に関する情報と、予め設定されたデータテーブルと、を参照して算出される、座位に適した前記身体保持部の高さと、立位に適した前記身体保持部の高さと、に基づいて決定される軌道に沿って、前記身体保持部を移動させることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の身体保持装置。
【請求項6】
前記身体保持部は、前記座位および前記立位にある時において、高さが調整可能とされたことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載の身体保持装置。
【請求項7】
前記最下点の位置は、前記使用者の体重と、予め設定されたデータテーブルと、を参照して算出された値まで、前記身体保持部に掛かる荷重が増加した位置であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1つに記載の身体保持装置。
【請求項8】
前記最下点の位置は、前記使用者の体重と、予め設定されたデータテーブルと、を参照して算出された値まで、床面に掛かる荷重が変化した位置であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1つに記載の身体保持装置。
【請求項9】
前記アーム部は、前記身体保持部を回動させるための回動駆動手段を有し、
前記回動駆動手段は、前記身体保持部が座位から立位まで移動する間、前記身体保持部の上面を略水平に維持するように前記身体保持部を回動させることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1つに記載の身体保持装置。
【請求項10】
前記アーム部は、前記身体保持部を回動させるための回動駆動手段を有し、
前記回動駆動手段は、前記身体保持部が座位から立位まで移動する間、前記身体保持部の上面を傾斜させるように前記身体保持部を回動させることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1つに記載の身体保持装置。
【請求項11】
前記回動駆動手段は、
前記身体保持部が前記座位から前記最下点まで移動する間、前記身体保持部を前方傾動させ、且つ前記身体保持部が前記最下点から前記立位まで移動する間、前記身体保持部を後方傾動させることを特徴とする請求項10記載の身体保持装置。
【請求項12】
前記身体保持部が前記座位から前記立位まで移動する間、前記使用者の身体の一部が前記身体保持部の下面に接触した場合には、前記身体保持部は上方へ回動して、前記接触の衝撃を緩和することを特徴とする請求項1〜11のいずれか1つに記載の身体保持装置。
【請求項13】
前記駆動手段は、前記最下点において前記身体保持部を一旦停止させることを特徴とする請求項1〜12のいずれか1つに記載の身体保持装置。
【請求項14】
音声を発生させるための音声発生手段をさらに備え、
前記音声発生手段は、前記身体保持部が前記最下点に到達したことを報知することを特徴とする請求項1〜13のいずれか1つに記載の身体保持装置。
【請求項15】
光を発光させるための発光手段をさらに備え、
前記発光手段は、前記身体保持部が前記最下点に到達したことを報知することを特徴とする請求項1〜13のいずれか1つに記載の身体保持装置。
【請求項16】
前記座位から前記最下点まで移動する前記身体保持部の速さと、前記最下点から前記立位まで移動する前記身体保持部の速さと、は略同じであること特徴とする請求項1〜15のいずれか1つに記載の身体保持装置。
【請求項17】
前記座位から前記最下点まで移動する前記身体保持部の速さよりも、前記最下点から前記立位まで移動する前記身体保持部の速さの方が、遅いことを特徴とする請求項1〜15のいずれか1つに記載の身体保持装置。
【請求項18】
前記座位から前記最下点まで移動する前記身体保持部の速さよりも、前記最下点から前記立位まで移動する前記身体保持部の速さの方が、速いことを特徴とする請求項1〜15のいずれか1つに記載の身体保持装置。
【請求項19】
前記使用者が前記身体保持部に接触する部分において、前記身体保持部に緩衝材が付設されたことを特徴とする請求項1〜18のいずれか1つに記載の身体保持装置。
【請求項20】
前記使用者が前記身体保持部に接触する部分において、前記身体保持部に摩擦係数の大きく滑りにくい部材が付設されたことを特徴とする請求項1〜18のいずれか1つに記載の身体保持装置。
【請求項21】
前記身体保持部は、前記使用者の前方および側方を取り巻く略半円形の構造を有することを特徴とする請求項1〜18のいずれか1つに記載の身体保持装置。
【請求項22】
前記身体保持部は、前記使用者の肘を支点に体重をかけることが可能な面積を上面に有することを特徴とする請求項1〜18のいずれか1つに記載の身体保持装置。
【請求項23】
前記身体保持部の前方に握り手が付設されたことを特徴とする請求項1〜18のいずれか1つに記載の身体保持装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2009−297462(P2009−297462A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−158483(P2008−158483)
【出願日】平成20年6月17日(2008.6.17)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「人間支援型ロボット実用化基盤技術開発介護動作支援ロボット及び実用化技術の開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】