説明

身体障害者用座席

【課題】アームレストを着座時に邪魔とならない位置まで変位させることができ、アームレストが不用意にロック解除されることを防止することができ、しかも、安定した使用位置に強固に支持することができ、信頼性や耐久性に優れた身体障害者用座席を提供する。
【解決手段】座席フレーム11の通路側にてアームレスト40の揺動端側となる前部が着脱する所定位置に、該アームレスト40の前部を使用位置の際に座席フレーム11に対してロックおよびロック解除するロック機構50を設け、このロック機構50を、座席の通路側からは使用位置にあるアームレスト40によって隠蔽される位置に配設すると共に、該ロック機構50のうちロック解除部材70を、使用位置にあるアームレスト40の内側にて着座者が操作可能な箇所に配置した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機、船舶、鉄道車両等の各種乗物用の座席において、身体障害者等が座席に対して着席ないし離席しやすくするため、座席の通路側に備えたアームレストを上方に回動させる等、座席の利用に際して障害となる位置からアームレストを一時的に変位させることができる身体障害者用座席に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、座席の通路側の側部に備えられて、通常の使用位置から着座時に障害とならない位置まで変位可能に取り付けられたアームレストのことを一般的に「ハンディキャップアームレスト」と称している。このようなハンディキャップアームレストを備えた座席としては、例えば特許文献1に開示されているように、アームレストを下方に回動させる航空機用座席に関するものが知られている。
【0003】
この航空機用座席は、座席の通路側の側部に備えるアームレストの内部にテーブルを収納することができるよう構成すると共に、該アームレストを、その後部に設けた水平な回転軸回りに回動可能に支持している。かかる構成により、アームレストの前部を下方に沈み込ませるように回動させることが可能となり、かつアームレストの前部に座席フレームに対してロックおよびロック解除できるロック機構を備えたものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−156129号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前述した特許文献1に記載された従来の技術では、前記ロック機構においてロック解除の操作を行うためのツマミが、アームレストの外側に通路側に向けて設けられていた。そのため、通行者が誤って触れる等して予期せずロックが解除されてしまうような場合があった。かかる場合に、その座席の着座者がテーブルを使用していた際には、テーブルに載せていた物が落下する虞があった。
【0006】
また、アームレストは、回転軸とロック装置のみで使用位置に保持されていたから、アームレストの支持が不安定な状態になりやすく、着座者に対して不快な気分を与える虞もあった。特に、テーブルを収納できるタイプのアームレストである場合には、相当な重量もあることから、強度的に支持力が弱くなりがちであり、なおさら信頼性や耐久性に欠ける虞があった。
【0007】
本発明は、以上の従来技術が有する問題点に着目してなされたものであり、テーブルが収納できるタイプのアームレストにも適用可能でありながら、アームレストを着座時に邪魔とならない位置まで変位させることができ、アームレストが不用意にロック解除されることを防止することができ、しかも、安定した使用位置に強固に支持することができ、信頼性や耐久性にも優れた身体障害者用座席を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述した目的を達成するための本発明の要旨とするところは、以下の各項の発明に存する。
[1]座席の通路側の側部に備えたアームレスト(40)を、通常の使用位置から上方の退避位置まで変位可能に座席フレーム(11)に取り付けた身体障害者用座席(10)において、
前記座席フレーム(11)の通路側にて前記アームレスト(40)の一部が着脱する箇所に、該アームレスト(40)の一部を前記使用位置のとき前記座席フレーム(11)に対してロックおよびロック解除するロック機構(50)を設け、
前記ロック機構(50)を、座席の通路側からは前記使用位置にあるアームレスト(40)によって隠蔽される位置に配置すると共に、該ロック機構(50)のうちロック解除操作を行うロック解除部材(70)を、前記使用位置にあるアームレスト(40)の内側にて着座者が操作可能な位置に配置したことを特徴とする身体障害者用座席(10)。
【0009】
[2]座席の通路側の側部に備えたアームレスト(40)を、その後部を枢支する回転軸(18)を中心に通常の使用位置から前部を上方に跳ね上げた退避位置まで回動可能に座席フレーム(11)に取り付けた身体障害者用座席(10)において、
前記座席フレーム(11)の通路側にて前記アームレスト(40)の揺動端側となる前部が着脱する箇所に、該アームレスト(40)の前部を前記使用位置のとき前記座席フレーム(11)に対してロックおよびロック解除するロック機構(50)を設け、
前記ロック機構(50)を、座席の通路側からは前記使用位置にあるアームレスト(40)によって隠蔽される位置に配置すると共に、該ロック機構(50)のうちロック解除操作を行うロック解除部材(70)を、前記使用位置にあるアームレスト(40)の内側にて着座者が操作可能な位置に配置したことを特徴とする身体障害者用座席(10)。
【0010】
[3]前記ロック解除部材(70)を、前記使用位置にあるアームレスト(40)の内側にて座席の座部(30)前端とレッグレスト(31)上端との間の隙間より手探りで操作可能な箇所に配置したことを特徴とする[1]または[2]に記載の身体障害者用座席(10)。
【0011】
[4]前記ロック解除部材(70)は、少なくとも着座者が触れる部分が他の金属部分と触感で区別可能な樹脂(73)により成形されていることを特徴とする[1],[2]または[3]に記載の身体障害者用座席(10)。
【0012】
[5]前記アームレスト(40)の一部と該一部が着脱する前記座席フレーム(11)のいずれか一方に係合凸部(48)を設け、いずれか他方に前記アームレスト(40)が使用位置のときに前記係合凸部(48)が係合する被係合凹部(51)を設けたことを特徴とする[1],[2],[3]または[4]に記載の身体障害者用座席(10)。
【0013】
[6]前記ロック機構(50)は、前記係合凸部(48)が前記被係合凹部(51)に係合した状態に拘束するロック部材(60)を備え、該ロック部材(60)は、拘束方向に付勢手段(64)によって付勢されており、
前記ロック解除部材(70)は、前記付勢手段(64)の付勢力に抗して前記ロック部材(60)を拘束解除方向に移動させる操作を行うものであることを特徴とする[5]に記載の身体障害者用座席(10)。
【0014】
前記本発明は次のように作用する。
前記[1]に記載の身体障害者用座席(10)によれば、座席の通路側の側部に備えたアームレスト(40)を、通常の使用位置から上方の退避位置まで変位可能であり、身体障害者等が座席に対して着席ないし離席する際に、障害となる位置にあるアームレスト(40)を一時的に邪魔にならない位置まで動かすことができる。
【0015】
座席には、その座席フレーム(11)の通路側にてアームレスト(40)の少なくとも一部が着脱する箇所に、使用位置にあるアームレスト(40)の一部を座席フレーム(11)に対してロックおよびロック解除するロック機構(50)が設けられているから、アームレスト(40)を通常の使用位置に確実に保持することができる。
【0016】
ここでロック機構(50)を、座席の通路側からは使用位置にあるアームレスト(40)によって隠蔽される位置に配置すると共に、該ロック機構(50)のうちロック解除操作を行うためのロック解除部材(70)を、使用位置にあるアームレスト(40)の内側にて着座者が操作可能な箇所に配置する。
【0017】
これにより、ロック機構(50)はアームレスト(40)によって隠れる構造となり、通路の通行者が誤って接触する虞もなく、予期せずロック解除されるような誤作動の心配がない。また、結果として、ロック機構(50)はアームレスト(40)の変位範囲に入らない箇所に位置することになり、該アームレスト(40)によって指を挟む等の虞も軽減され、安全性が高められる。
【0018】
前記[2]に記載の身体障害者用座席(10)によれば、アームレスト(40)の具体的な変位の態様として、アームレスト(40)は、その後部が回転軸(18)を介して枢支されており、該回転軸(18)を中心に通常の使用位置から前部を上方に跳ね上げた退避位置まで回動させることができる。このような変位の態様により、座部(30)の側方に十分な乗降スペースを確保することができる。
【0019】
この場合のロック機構(50)は、座席フレーム(11)の通路側にてアームレスト(40)の揺動端側となる前部が着脱する箇所に設けられ、使用位置にあるアームレスト(40)の前部を座席フレーム(11)に対してロックおよびロック解除する。そのため、使用位置のアームレスト(40)は、回動支点となる後部と揺動端側の前部との離れた2点で支持されることになり、アームレスト(40)をいっそう強固に保持することができる。
【0020】
前記[3]に記載の身体障害者用座席(10)によれば、ロック解除部材(70)の具体的な配置位置として、使用位置にあるアームレスト(40)の内側にて座席の座部(30)前端とレッグレスト(31)上端との間の隙間より手探りで操作可能な箇所に配置する。これにより、ロック解除部材(70)は座席の通路側だけでなく前側からも隠れる状態となるが、着座者は着座したまま手探りで容易に操作することができる。
【0021】
前記[4]に記載の身体障害者用座席(10)によれば、前記ロック解除部材(70)は、少なくとも着座者が触れる部分が他の金属部分とは触感で区別可能な樹脂(73)により成形される。これにより、ロック解除部材(70)を着座者が目視で確認しづらくても、手で触れることにより樹脂(73)であるロック解除部材(70)の判断が付きやすく、よってロック解除部材(70)の位置を把握しやすい。
【0022】
前記[5]に記載の身体障害者用座席(10)によれば、アームレスト(40)の一部と、該一部が着脱する座席フレーム(11)のいずれか一方に係合凸部(48)を設け、いずれか他方に該係合凸部(48)に対してアームレスト(40)が使用位置の際に係合する被係合凹部(51)を設けた。これにより、前記ロック機構(50)や回転軸(18)による支持だけでなく、係合凸部(48)と被係合凹部(51)が互いに係合した際に接する面積が増大するため、ガタつくような不安定さを軽減することができる。
【0023】
前記[6]に記載の身体障害者用座席(10)によれば、ロック機構(50)の具体的な構成として、前記係合凸部(48)が前記被係合凹部(51)に係合した状態に拘束するロック部材(60)を備え、該ロック部材(60)は、拘束方向に付勢手段(64)によって付勢されており、前記ロック解除部材(70)は、付勢手段(64)の付勢力に抗してロック部材(60)を拘束解除方向に移動させる操作を行うものとする。このような比較的簡易な構成により、確実にロックおよびロック解除することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る身体障害者用座席によれば、テーブルが収納できるタイプのアームレストにも適用可能でありながら、アームレストを着座時に邪魔とならない位置まで変位させることができ、アームレストが不用意にロック解除されることを防止することができ、安全性を高めることができる。しかも、アームレストを安定した使用位置に強固に支持することができ、信頼性や耐久性にも優れる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施の形態に係る身体障害者用座席のアームレストが退避位置に持ち上げられた状態を通路側上方から見た斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る身体障害者用座席のアームレストが使用位置にある状態を通路側上方から見た斜視図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る身体障害者用座席のアームレストが使用位置にある状態を通路側とは反対側の斜め前方から見た斜視図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る身体障害者用座席のアームレストが使用位置にある状態を通路側から見た側面図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る身体障害者用座席のアームレストが退避位置にある状態を通路側から見た側面図である。
【図6】本発明の実施の形態に係る身体障害者用座席のアームレストが使用位置にある状態を示す正面図である。
【図7】本発明の実施の形態に係る身体障害者用座席のアームレストが退避位置にある状態を示す正面図である。
【図8】本発明の実施の形態に係る身体障害者用座席のアームレスト脇の内側を斜め前方から見た状態を示す斜視図である。
【図9】本発明の実施の形態に係る身体障害者用座席の座席フレームの一部と使用状態にあるアームレストを示す斜視図である。
【図10】本発明の実施の形態に係る身体障害者用座席の座席フレームの一部と回動途中のアームレストを示す斜視図である。
【図11】本発明の実施の形態に係る身体障害者用座席の座席フレームの一部と退避状態にあるアームレストを示す斜視図である。
【図12】本発明の実施の形態に係る身体障害者用座席のロック機構を示す分解斜視図である。
【図13】本発明の実施の形態に係る身体障害者用座席のロック機構を示す正面図である。
【図14】本発明の実施の形態に係る身体障害者用座席のロック機構を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面に基づき本発明を代表する実施の形態を説明する。
図1〜図14は、本発明の一実施の形態を示している。
本実施の形態に係る身体障害者用座席である座席10は、その通路側の側部に備えたアームレスト40を、通常の使用位置から上方の退避位置まで変位可能に座席フレーム11に取り付けたものである。以下、座席10として、航空機の客室内に設置される航空機用座席に適用した場合を例に説明する。
【0027】
図1、図2は、座席10を通路側上方から見た斜視図であり、図1は、アームレスト40が退避位置に持ち上げられた状態を示し、図2は、同アームレスト40が使用位置にある状態を示している。図3は、座席10を通路側とは反対側の斜め前方から見た斜視図であり、アームレスト40が使用位置にある状態を示している。図4、図5は、座席10を通路側から見た側面図であり、図4は、アームレスト40が使用位置にある状態を示し、図5は、同アームレスト40が退避位置にある状態を示している。
【0028】
また、図6、図7は、座席10の正面図であり、図6は、アームレスト40が使用位置にある状態を示し、図7は、同アームレスト40が退避位置にある状態を示している。図8は、座席10のアームレスト40脇の内側を斜め前方から見た状態を示す斜視図である。図9〜図11は、アームレスト40が変位する様子を示しており、図9は、アームレスト40が使用位置にある状態を示し、図10は、同アームレスト40の前部が少し持ち上がった状態を示し、図11は、同アームレスト40が退避位置にある状態を示している。
【0029】
図1〜図5に示すように、座席10は、その土台をなす座席フレーム11上に、2人用の背凭れ20および座部30が保持されている。背凭れ20は、金属製のバックフレーム(図示せず)を内蔵しており、このバックフレームにクッション材が装着され、表面はカバー材で被覆されてなる。バックフレームは、座席フレーム11に対して傾動可能に支持されている。また、背凭れ20の背面側には、着座者の居住空間を区画するシェル21が配設されている。
【0030】
座部30は、座席フレーム11にクッション材が装着され、表面はカバー材で被覆されてなる。また、座部30の前端下方には、レッグレスト31が配設されている。レッグレスト31は、着座者が上下に自在に好みの位置に調整することができるものである。さらに、一対に並ぶ座部30の両側部には、それぞれアームレスト40,40aが固設されている。
【0031】
各アームレスト40,40aのうち、図1中で手前に位置する一方のアームレスト40が、座席10の「通路側の側部に備えられたアームレスト」に該当する。このように本実施の形態では、一方のアームレスト40だけを、通路側のアームレストとして退避位置まで変位可能に構成し、他方のアームレスト40aは、窓側に沿って配置されるため通常の使用位置に固定されている。なお、座席10を窓側に沿って配置せずに、客室内の中央に配置して座席10の両側が通路となるような場合は、座席10の両側部にあるアームレスト40,40aをそれぞれ退避位置まで変位可能に構成することになる。
【0032】
各アームレスト40,40aは、それぞれ座部30の側方を覆う縦壁状に形成され、腕を載せる上面部41は開閉可能であり、内部には引き出して使用可能なテーブル(図示せず)が収納されている。このように本実施の形態では、アームレスト40はテーブルが収納できるタイプでありながら、変位できるように構成されている。また、各アームレスト40,40aの上面先端側には、それぞれ操作部42が設けられている。操作部42は、背凭れ20を後方に傾倒してリクライニングしたり、傾倒している背凭れ20を元の位置に戻したりする等、背凭れ20の位置を調整する他、前記レッグレスト31の位置を調整する際に操作するものである。
【0033】
また、各座部30の間には、センターコンソール32が固設されている。センターコンソール32の上面部における先端側の位置には、左右一対に並ぶ小テーブル33が設けられている。また、センターコンソール32の上面部ないし後方へ立ち上がる部位には、左右の空間を仕切るパーテーション34が設けられている。また、センターコンソール32の座席側内面には、映画・ビデオ、音楽、ゲーム等の機内サービスを利用するための各種操作ボタンを備えたコントローラ35が設けられている。さらに、センターコンソール32の前面部にはパソコン用電源36等も設けられている。
【0034】
図5および図1に示すように、座席フレーム11は、座部30の下方で前後平行に配置され左右に掛け渡された一対のシャフト12,13と、各シャフト12,13の両端に連結されて前後方向に延びるサイドフレーム14とから枠組型に構成されている。これらは、同じく座席フレーム11を構成する前脚15および後脚16によって、客室内のフロア上に支持される。また、サイドフレーム14の下方には、使用状態にあるアームレスト40の土台となる台座部17が設けられている。
【0035】
アームレスト40は、その後部を枢支する回転軸18(図11参照)を中心に通常の使用位置から前部を上方に跳ね上げた退避位置まで回動可能に座席フレーム11に支持されている。このように本実施の形態では、アームレスト40の使用位置ないし退避位置の変位は回動によって行われる。図11に示すように、回転軸18は、サイドフレーム14の後方上端側に枢着されている。回転軸18の傍らには、アームレスト40が退避位置にある際にアームレスト40のフレーム43の一部に係合し、アームレスト40を自重で退避位置に保持するためのストッパ19が突設されている。なお、サイドフレーム14の後方上端側に、前記背凭れ20のバックフレームは傾動可能に支持されている。
【0036】
アームレスト40は、フレーム43の外表面をアームレストカバー47によって被覆して構成される。フレーム43は、上面部41の前方より垂下する前フレーム44と、上面部41の後方より垂下する後フレーム45と、これらの間に装着されるパネルフレーム46等とから成る。ここで前フレーム44は、アームレスト40の揺動端側である前部に相当し、前フレーム44の下方は、アームレスト40が使用位置ないし退避位置に回動する際に、前記座席フレーム11のシャフト12の一端側(サイドフレーム14の前端側)に着脱することになる。
【0037】
このように、座席フレーム11の通路側にてアームレスト40の揺動端側である前部が着脱する箇所には、前フレーム44を使用位置のときにシャフト12の一端側(サイドフレーム14の前端側)に対してロックおよびロック解除するロック機構50が設けられている。図3および図8に示すように、ロック機構50は、座席10の通路側からは使用位置にあるアームレスト40によって隠蔽される位置に配置されている。また、詳しくは後述するが、ロック機構50のうちロック解除操作を行うロック解除部材70は、使用位置にあるアームレスト40の内側にて着座者が操作可能な位置に配置されている。
【0038】
図12〜図14はロック機構50を示すものであり、図12はロック機構50の分解斜視図、図13は同ロック機構50の正面図、図14は同ロック機構50の平面図を示している。図9〜図11に示すように、ロック機構50に関連して、アームレスト40の一部には係合凸部48が設けられ、一方座席フレーム11には、アームレスト40が使用位置のときに前記係合凸部48が係合する被係合凹部51が設けられている。
【0039】
図9〜図11に示すように、アームレスト40のフレーム43の前フレーム44には、その下部に沿って前方に突出する係合凸部48が設けられている。係合凸部48は、その上下方向に延びる軸心を中心とする略円弧形の外周を備え、外周の下端側は多少縮径するようにテーパーが設けられている。また、係合凸部48の外周の上端側には、後述するロック部材60が嵌入する被係止溝49が切り欠かれている。
【0040】
一方、前記係合凸部48が着脱する側である座席フレーム11のシャフト12の一端側(サイドフレーム14の前端側)には、前記係合凸部48が係合する被係合凹部51が設けられている。図12〜図14に示すように、被係合凹部51は、前記係合凸部48の外周形状に合致する縦長のレール溝52を備え、該レール溝52の側方にはサイドフレーム14の前端にネジ止めする取付片53が設けられている。また、レール溝52の上端面には、板体からなるロック部材60が回転軸61を介して前後方向に回動可能に枢支されている。
【0041】
詳しく言えばロック部材60には、回転軸61を中心とする円弧形のガイド溝62が形成されており、このガイド溝62は、前記レール溝52の上端開口より上方に形成された長穴54に挿入された状態で、該長穴54内で前後方向に移動可能に案内される。ロック部材60におけるガイド溝62と反対側の側端縁63が、前記係合凸部48の被係止溝49に嵌ることにより、係合凸部48は被係合凹部51に係合した状態に拘束される。ここでロック部材60は、付勢手段をなすコイルバネ64によって、側端縁63が被係止溝49に嵌る拘束方向(後方)に付勢されている。
【0042】
また、前記被係合凹部51の側壁に沿って補強板55が装着されており、この補強板55の外面には、バー状のロック解除部材70が、その下端が回転軸71を介して前後方向に回動可能に枢支され、上方向に延びるように取り付けられている。ロック解除部材70は、前記コイルバネ64の付勢力に抗して前記ロック部材60を拘束解除方向、すなわち前記ロック部材60の側端縁63が前記係合凸部48の被係止溝49から離脱する前方に回動させる操作を行うものである。
【0043】
詳しく言えばロック解除部材70は、その上端72が前記ロック部材60の揺動端にある連結孔65に貫通して、ロック部材60と連動するように連結されている。これにより、ロック解除部材70は、ロック部材60と共にコイルバネ64の付勢力によって、通常は後方に傾いた位置に保持されるが、コイルバネ64の付勢力に抗して図13に示すように前方へ傾動させると、ロック部材60を前方に回動させるように設定されている。
【0044】
このようなロック解除部材70は、使用位置にあるアームレスト40の内側にて着座者が操作可能な位置に配置されている。すなわち、図8および図3に示すように、ロック解除部材70は、使用位置にあるアームレスト40の内側にて座席10の座部30の前端とレッグレスト31の上端との間の隙間より手探りで操作可能な箇所に配置されている。かかる箇所にあるロック解除部材70を着座者は前方に回動させることにより、ロック解除操作を行うことがきる。
【0045】
ここでロック解除部材70のうち、着座者が手で触れる部分は他の金属部分と触感で区別可能な樹脂で成形されている。本実施の形態では、ロック解除部材70はバー状の細幅形に金属板で形成されているが、その下端部から上方の途中にかけてが樹脂カバー73によって被覆成形されている。もちろん、着座者が手で触れる部分を全て樹脂により成形してもかまわない。
【0046】
次に、本実施の形態に係る身体障害者用座席10の作用を説明する。
座席10に対して身体障害者が着席ないし離席するとき、通常位置にあるアームレスト40を一時的に邪魔にならない退避位置まで上方に回動させることができる。すなわち、図8に示すように、アームレスト40の内側にて座部30の前端とレッグレスト31の上端との間の隙間よりロック解除部材70を探り、そのまま前方へ引く。すると、図12〜図14に示すようにロック解除部材70は、コイルバネ64の付勢力に抗して前方へ傾動しロック部材60を前方へ連動させるため、ロック部材60の側端縁63がアームレスト40側にある係合凸部48の被係止溝49から離脱する。
【0047】
これにより、ロック機構50のロック状態が解除され、図9〜図11に順に示したように、アームレスト40を上方に持ち上げることができる。アームレスト40が図11に示す退避位置に到達すると、後フレーム45がストッパ19に係合してそれ以上の回動が阻止され、かかる退避位置にアームレスト40を自重で保持することができる。図1に示すように、アームレスト40が上方の退避位置にある状態では、通路側より座部30の座面が十分に露出し、例えば車椅子から身体障害者が移動するための十分な乗降スペースを確保することができる。
【0048】
前記ロック機構50は、座席10の通路側からは使用位置にあるアームレスト40によって隠蔽されている。特にロック解除部材70も、座席10の通路側だけでなく前側からも隠れる状態となるが、着座者は着座したまま手探りで容易に操作することができる。従って、ロック機構50はアームレスト40によって隠れる構造となり、通路の通行者が誤ってロック解除部材70に接触する虞もなく、予期せずロック解除されるような誤作動の心配がない。
【0049】
また、ロック機構50はアームレスト40の回動範囲に入らない箇所に位置することになり、該アームレスト40によって指を挟む等の虞も軽減され、安全性が高められる。さらに、ロック解除部材70のうち、少なくとも着座者が触れる部分が他の金属部分と触感で区別可能な樹脂カバー73によって被覆されている。これにより、ロック解除部材70を着座者が目視で確認しづらくても、手で触れることにより樹脂カバー73で被覆されたロック解除部材70の判断が付きやすく、よってロック解除部材70の位置を容易に把握することができる。
【0050】
アームレスト40を元の使用位置に戻す場合には、アームレスト40を下方へ回動させて、アームレスト40側にある係合凸部48を、座席フレーム11側にある被係合凹部51のレール溝52内に押し込むように係合させる。係合凸部48の下端側にはテーパーがあるため、レール溝52内に押し込む際にロック部材60の側端縁63を押し退けつつ円滑にレール溝52内に導くことができる。係合凸部48がレール溝52の奧まで係合すると、当該位置で係合凸部48にある被係止溝49に対してロック部材60の側端縁63がコイルバネ64の付勢力によって自動で嵌入する。これにより、ロック機構50はロック状態となり、アームレスト40は使用位置に拘束される。
【0051】
このようなロック機構50によれば、比較的簡易な構成により確実にロックおよびロック解除することができるだけでなく、座席フレーム11の通路側にてアームレスト40の揺動端側となる前部を拘束することになる。よって、使用位置にあるアームレスト40は、回動支点となる後部と揺動端側の前部との離れた2点で支持されることになり、アームレスト40をよりいっそう強固に保持することが可能となる。しかも、係合凸部48と被係合凹部51が互いに係合した際に接する面積が増大するため、ガタつくような不安定さを軽減することができる。
【0052】
なお、本発明の実施の形態を図面によって説明してきたが、具体的な構成は前述したような実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。例えば本実施の形態では、アームレスト40の内部にテーブルを収納できる構造のものを説明したが、テーブルを付設しないアームレストとして構成することができる。また、航空機用座席に限られるものではなく、船舶や鉄道車両等の各種乗物用の座席に適用しても良い。
【0053】
また、前記実施の形態では、アームレスト40側に係合凸部48を設ける一方、座席フレーム11側に被係合凹部51を設けた例を示したが、逆の態様として、アームレスト40側に被係合凹部51を設ける一方、座席フレーム11側に係合凸部48を設けるように構成しても良い。また、被係合凹部51はレール状に設けたが、係合凸部48および被係合凹部51の形状は互いに係合し合う形態のものであれば何でも良い。
【0054】
さらに、前記ロック機構50による具体的な係脱関係は、図示したようなロック部材60と被係止溝49とによるものでなくても良く、その他の適宜の形状のものでもかまわない。また、前記ロック機構50は、係合凸部48と被係合凹部51とに設けたが、これらとは別の箇所に設けて互いに係脱させることにより、その結果として係合凸部48が被係合凹部51に係合した状態に拘束ないし拘束解除できるように構成しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、特に航空機、自動車、鉄道、船舶等の客室内に設置される乗物用座席に取り付ける身体障害者用座席として適用することができる。
【符号の説明】
【0056】
10…座席
11…座席フレーム
12…シャフト
13…シャフト
14…サイドフレーム
15…前脚
16…後脚
17…台座部
18…回転軸
19…ストッパ
20…背凭れ
21…シェル
30…座部
31…レッグレスト
32…センターコンソール
33…小テーブル
34…パーテーション
35…コントローラ
36…パソコン用電源
40…アームレスト
41…上面部
42…操作部
43…フレーム
44…前フレーム
45…後フレーム
46…パネルフレーム
47…アームレストカバー
48…係合凸部
49…被係止溝
50…ロック機構
51…被係合凹部
52…レール溝
53…取付片
54…長穴
60…ロック部材
61…回転軸
62…ガイド溝
63…側端縁
64…コイルバネ
65…連結孔
70…ロック解除部材
71…回転軸
72…上端
73…樹脂カバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
座席の通路側の側部に備えたアームレストを、通常の使用位置から上方の退避位置まで変位可能に座席フレームに取り付けた身体障害者用座席において、
前記座席フレームの通路側にて前記アームレストの一部が着脱する箇所に、該アームレストの一部を前記使用位置のとき前記座席フレームに対してロックおよびロック解除するロック機構を設け、
前記ロック機構を、座席の通路側からは前記使用位置にあるアームレストによって隠蔽される位置に配置すると共に、該ロック機構のうちロック解除操作を行うロック解除部材を、前記使用位置にあるアームレストの内側にて着座者が操作可能な位置に配置したことを特徴とする身体障害者用座席。
【請求項2】
座席の通路側の側部に備えたアームレストを、その後部を枢支する回転軸を中心に通常の使用位置から前部を上方に跳ね上げた退避位置まで回動可能に座席フレームに取り付けた身体障害者用座席において、
前記座席フレームの通路側にて前記アームレストの揺動端側となる前部が着脱する箇所に、該アームレストの前部を前記使用位置のとき前記座席フレームに対してロックおよびロック解除するロック機構を設け、
前記ロック機構を、座席の通路側からは前記使用位置にあるアームレストによって隠蔽される位置に配置すると共に、該ロック機構のうちロック解除操作を行うロック解除部材を、前記使用位置にあるアームレストの内側にて着座者が操作可能な位置に配置したことを特徴とする身体障害者用座席。
【請求項3】
前記ロック解除部材を、前記使用位置にあるアームレストの内側にて座席の座部前端とレッグレスト上端との間の隙間より手探りで操作可能な箇所に配置したことを特徴とする請求項1または2に記載の身体障害者用座席。
【請求項4】
前記ロック解除部材は、少なくとも着座者が触れる部分が他の金属部分と触感で区別可能な樹脂により成形されていることを特徴とする請求項1,2または3に記載の身体障害者用座席。
【請求項5】
前記アームレストの一部と該一部が着脱する前記座席フレームのいずれか一方に係合凸部を設け、いずれか他方に前記アームレストが使用位置のときに前記係合凸部が係合する被係合凹部を設けたことを特徴とする請求項1,2,3または4に記載の身体障害者用座席。
【請求項6】
前記ロック機構は、前記係合凸部が前記被係合凹部に係合した状態に拘束するロック部材を備え、該ロック部材は、拘束方向に付勢手段によって付勢されており、
前記ロック解除部材は、前記付勢手段の付勢力に抗して前記ロック部材を拘束解除方向に移動させる操作を行うものであることを特徴とする請求項5に記載の身体障害者用座席。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate