説明

車両およびその車両における異常判断方法

【課題】運転者からの車両の起動指令が与えられていない状態において車室内空調を行なう際に、車室内空調での異常発生を自動的に検出して、安全性を確保することが可能な車両およびその車両における異常判断方法を提供する。
【解決手段】乗算部40は、検出される電流値Ibと電圧値Vbとを乗じて、蓄電装置から供給される電力値Pbを検出する。比較部42は、電力値Pbと予め設定されるしきい値αとを比較し、電力値Pbがしきい値αを超えると異常信号FALを発する。プレ空調条件判定部44は、異常信号FALを与えられると、制御指令SEを無効にして、システムリレーをオフ状態にする。すると、蓄電装置は、駆動ユニットおよび空調ユニットから電気的に切離される。同時に、プレ空調条件判定部44は、制御指令CHONを無効にして、DC/DCコンバータ装置における電圧変換動作(降圧動作)を停止させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、蓄電装置からの電力を用いて駆動力を発生可能な車両に関し、特に蓄電装置からの電力を用いて車室内空調も可能とする車両に関する。
【背景技術】
【0002】
電動機により車両の駆動力を得る、電気自動車、ハイブリッド自動車、燃料電池自動車などは、二次電池などからなる蓄電装置を搭載している。電気自動車は、この蓄電装置に蓄えられた電力を用いて駆動力を発生する。ハイブリッド自動車は、この蓄電装置に蓄えられた電力を用いて駆動力を発生したり、当該駆動力でエンジンをアシストしたりする。燃料電池自動車は、燃料電池が発生する電力の一部を蓄電装置に蓄えるとともに、燃料電池で発生される電力に加えて当該蓄えられた電力を用いて駆動力を発生する。
【0003】
このような車両では、車室内空調を蓄電装置に蓄えられた電力により行なう構成を採用することがある。これにより、エンジンのみを駆動源とする従来の車両では、エンジンが作動中でなければ、車室内空調を行なうことができなかったのに対し、上述のような蓄電装置からの電力により車室内空調が可能な車両では、蓄電装置の充電量が十分でさえあれば、いずれの時点でも車室内空調が可能である。そのため、運転者が車両に搭乗する前に、予め車室内空調を行ない、運転者が車両に搭乗した際の車室内環境をより快適化する技術が提案されている。
【0004】
たとえば、特開平9−76740号公報(特許文献1)には、エンジンの停止中にも冷房が可能なハイブリッド車両が開示されている。このハイブリッド車両は、走行用のバッテリの電力により駆動される冷房装置と、冷房装置を車外から起動するための遠隔操作装置とを備えている。
【特許文献1】特開平9−76740号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、運転者が車両へ搭乗する前に車室内空調が実行される場合には、無人状態で車室内空調に係る機構が作動することになるので、運転者が搭乗している場合に比較して、より高い保護機能を備える必要がある。すなわち、車室内空調の動作に関連する部位などに異常が発生した場合には、確実に当該異常発生を検出するとともに、速やかに作動を停止させる必要がある。
【0006】
しかしながら、無人状態での車室内空調を実現する上で保護機能が必要であるが、上述の特開平9−76740号公報(特許文献1)には、保護機能について、何らの開示もなされていない。
【0007】
この発明は、このような問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、運転者からの車両の起動指令が与えられていない状態において車室内空調を行なう際に、車室内空調での異常発生を自動的に検出して、安全性を確保することが可能な車両およびその車両における異常判断方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明のある局面に従う車両は、電源線を介して電力を供給可能に構成された蓄電装置と、蓄電装置からの供給電力を用いて車室内空調を行なうための空調ユニットと、運転者からの起動指令が与えられていない時に、空調要求に応答して、空調ユニットの作動を開始させる開始手段と、蓄電装置から供給される電力値を検出する検出手段と、検出手段によって検出される電力値と、空調ユニットの作動に必要な電力に応じて予め定められたしきい値とを比較する比較手段と、検出手段によって検出される電力値がしきい値を超えると、空調ユニットでの異常発生と判断する判断手段とを備える。
【0009】
この局面に従う車両によれば、運転者からの起動指令が与えられていない時に、空調ユニットの作動を開始させるので、車室内空調を行なうために必要とされる電力を予め推定することができる。空調ユニットで異常が発生すれば、当該異常に起因する電流(電力)が生じるので、この推定される電力値に応じたしきい値と、実際に蓄電装置から供給される電力値とを比較することで、異常発生の有無を判断できる。さらに、異常発生を検出することで、当該異常の遮断処理が可能となるので、異常が発生した場合であっても安全性を確保することがある。
【0010】
好ましくは、この局面に従う車両は、電源線に介挿され、遮断指令に応答して、蓄電装置を電気的に切離す遮断部と、判断手段によって異常発生と判断されると、遮断部に対して遮断指令を与える指令発生手段とをさらに備える。
【0011】
好ましくは、しきい値は、空調ユニットにおける最大使用電力に応じて決定される。
好ましくは、空調ユニットは、冷凍サイクルにおいて冷媒を圧縮するためのコンプレッサと、蓄電装置からの供給電力を電力変換してコンプレッサへ供給するための電力変換部とを含む。
【0012】
さらに好ましくは、空調ユニットは、蓄電装置からの供給電力の電圧より低い電圧を有する電力を生成する低電圧生成部と、低電圧生成部によって生成された電力により作動し、空調空気を吹出すための送風ブロワーとをさらに含む。
【0013】
好ましくは、この局面に従う車両は、運転者からの起動指令に応答して活性化されるとともに、蓄電装置からの供給電力を用いて車両駆動力を発生可能に構成された駆動ユニットをさらに備える。
【0014】
この発明の別の局面に従えば、車両における異常判断方法である。車両は、電源線を介して電力を供給可能に構成された蓄電装置と、蓄電装置からの供給電力を用いて車室内空調を行なうための空調ユニットと、蓄電装置から供給される電力値を検出する検出部とを備える。この局面に従う異常判断方法は、運転者からの起動指令が与えられていない時に、空調要求に応答して、空調ユニットの作動を開始させる開始ステップと、検出部によって検出される電力値と、空調ユニットの作動に必要な電力に応じて予め定められたしきい値とを比較する比較ステップと、検出部によって検出される電力値がしきい値を超えると、空調ユニットでの異常発生と判断する判断ステップとを含む。
【発明の効果】
【0015】
この発明によれば、運転者からの車両の起動指令が与えられていない状態において車室内空調を行なう際に、車室内空調での異常発生を自動的に検出して、安全性を確保することが可能な車両およびその車両における異常判断方法を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
この発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中の同一または相当部分については、同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0017】
図1は、この発明の実施の形態に従う車両100の概略構成図である。
図1を参照して、車両100は、一例として、エンジンおよび電動機を駆動力の発生源とするハイブリッド車両である。より詳細には、車両100は、蓄電装置BATと、駆動ユニット200と、空調ユニット300とを含む。
【0018】
蓄電装置BATは、充放電可能な直流電源であり、一例として、ニッケル水素やリチウムイオン等の二次電池、もしくは電気二重層キャパシタなどからなる。そして、蓄電装置BATは、正電源線PL1および負電源線NL1を介して、駆動ユニット200および空調ユニット300へ直流電力を供給可能に構成される。また、蓄電装置BATは、駆動ユニット200から返還される直流電力により充電可能に構成される。
【0019】
駆動ユニット200は、蓄電装置BATからの供給電力を用いて車両駆動力を発生可能に構成される。なお、駆動ユニット200は、後述する運転者からの起動指令IGONに応答して、活性化される。より詳細には、駆動ユニット200は、エンジン2と、モータジェネレータMG1,MG2と、動力分割機構4と、減速機6と、インバータ装置8,10と、コンデンサC1と、昇圧コンバータ装置12とを含む。
【0020】
エンジン2は、燃料と空気との混合気を燃焼させてクランクシャフト(図示せず)を回転させ、駆動力を発生する。エンジン2が発生した駆動力は、動力分割機構4により、2経路に分割される。一方は減速機6を介して車輪(図示せず)を駆動させる経路である。他方は、モータジェネレータMG1を駆動して発電させる経路である。
【0021】
モータジェネレータMG1は、三相交流回転電機であり、特に永久磁石型の同期回転機である。すなわち、モータジェネレータMG1は、3相分のコイルが配置されたステータと、永久磁石が埋め込まれたロータとを含み、供給される電力が当該コイルに通電されることで、回転駆動力(トルク)を発生する。特に、本実施例では、モータジェネレータMG1は、もっぱら、エンジン2の駆動力を用いて発電する発電機として機能する。
【0022】
モータジェネレータMG2も同様に、三相交流回転電機であり、特に永久磁石型の同期回転機である。そして、モータジェネレータMG2は、減速機6を介して車輪(図示せず)を駆動する電動機として機能し、もしくは回生制動時に車輪(図示せず)の回転力を受けて発電する発電機として機能する。
【0023】
インバータ装置8は、正母線PL2および負母線NL2に接続され、昇圧コンバータ装置12とモータジェネレータMG1との間で直流から交流、もしくは交流から直流への電力変換を行なう。より詳細には、インバータ装置8は、各々が直列接続された複数のスイッチング素子からなる3相分のアーム回路を含み、スイッチング指令PWM1に従って、各スイッチング素子が周期的なスイッチング動作を行なうことで、電力変換が実現される。
【0024】
インバータ装置10も同様に、正母線PL2および負母線NL2に接続され、昇圧コンバータ装置12とモータジェネレータMG2との間で直流から交流、もしくは交流から直流への電力変換を行なう。そして、インバータ装置10も、3相分のアーム回路を含み、スイッチング指令PWM2に従って、各スイッチング素子が周期的なスイッチング動作を行なうことで、電力変換が実現される。
【0025】
コンデンサC1は、正母線PL2と負母線NL2との間に接続され、当該ライン間を流れる直流電力に含まれる交流成分を平滑化する。
【0026】
昇圧コンバータ装置12は、正電源線PL1および負電源線NL1と、正母線PL2および負母線NL2との間に介挿される。そして、昇圧コンバータ装置12は、蓄電装置BATとインバータ装置8,10との間で電圧変換動作を行なう。すなわち、昇圧コンバータ装置12は、蓄電装置BATから供給される直流電力を所定の電圧まで昇圧が可能であるとともに、インバータ装置8,10から返還される直流電力を所定の電圧まで降圧も可能である。一例として、蓄電装置BATの放電電圧は、約288Vであり、昇圧コンバータ装置12は、当該放電電圧を最大約650V程度まで昇圧可能に構成される。
【0027】
より詳細には、昇圧コンバータ装置12は、正母線PL2と負母線NL2との間に直列接続された2つのスイッチング素子を含む、昇降圧型のチョッパ回路などによって構成され、スイッチング指令PWCに従って、当該2つのスイッチング素子が周期的なスイッチング動作を行なうことで、電圧変換が実現される。
【0028】
空調ユニット300は、蓄電装置BATからの供給電力を用いて車室内空調を可能に構成される。より詳細には、空調ユニット300は、圧縮機構70と、送風ブロワー82と、DC/DCコンバータ装置80と、副蓄電装置SBとを含む。
【0029】
圧縮機構70は、車室内に冷風を供給するための冷凍サイクルにおいて、冷媒を圧縮するための機構であり、制御指令CMPONに応答して作動を開始する。そして、圧縮機構70は、インバータ装置72と、コンプレッサ(COMP)74とを含む。
【0030】
インバータ装置72は、蓄電装置BATとコンプレッサ74との間で電力変換を行ない、蓄電装置BATからの直流電力を交流電力に変換し、コンプレッサ74に供給する。なお、インバータ装置72は、比較的電圧の高い蓄電装置BATからの直流電力(一例として、約288V)から交流電力を生成するので、供給される交流電力は、約200V(実効値)となる。
【0031】
コンプレッサ74は、電動機で駆動されるロータリー圧縮機構を含み、当該ロータリー機構により冷媒を圧縮する。コンプレッサ74を構成する電動機は、交流回転電機であり、上述したように、比較的高電圧で作動するので、十分な圧縮能力を発揮できる。
【0032】
送風ブロワー82は、コンプレッサ74の作動により冷凍サイクルで生成された空調空気を車室内に吹出すための送風機構である。
【0033】
DC/DCコンバータ装置80は、正電源線PL1および負電源線NL1に接続され、蓄電装置BATから供給される直流電力を所定の電圧まで降圧して、副蓄電装置SBおよび送風ブロワー82へ供給する。なお、DC/DCコンバータ装置80は、制御指令CHONに応答して、降圧動作を開始する。送風ブロワー82を含む、カーナビゲーションシステム、カーオーディオ、車内灯、車内インジケータなどの補機類は、従来の車両と同様に12V(もしくは24V)で作動する。そのため、このような補機類の作動電圧は、蓄電装置BATの放電電圧に比較して低電圧となるため、DC/DCコンバータ装置80が降圧動作を行ない、作動のための電力を供給する。
【0034】
副蓄電装置SBは、一例として鉛蓄電池などからなり、DC/DCコンバータ装置80からの直流電力で充電される一方、送風ブロワー82などの補機類へその蓄えた電力を供給する。
【0035】
図2は、この発明の実施の形態に従う車両100における車室内空調に係る模式図である。
【0036】
図2を参照して、車両100は、コンプレッサ74と、エバポレータ94と、コンデンサ96と、配管98a,98b,98cとからなる冷凍サイクルを含む。また、車両100の車室内には、適切な一または複数の位置に吹出口90が形成される。そして、吹出口90は、吹出口90と連通される空調空気生成ダクト92内で生成される空調空気50を車室内空間に吹出す。空調空気生成ダクト92内には、空調空気50を吹出すための送風ブロワー82と、空調空気を生成するためのエバポレータ94とが配置される。
【0037】
この冷凍サイクルでは、たとえば、フロン類などからなる冷媒がその状態を変化させながら循環することで、空調空気が生成される。具体的には、冷媒は、コンプレッサ74によって圧縮されることで高温高圧になった後、配管98cを介してコンデンサ96まで輸送される。コンデンサ96に到達した冷媒は、冷却されて液体状態に変化した後、配管98aを介してエバポレータ94まで輸送される。エバポレータ94に到達した冷媒は、急速に気化される。この冷媒の気化に伴い、所定の熱エネルギー(気化熱)が必要であるので、エバポレータ94では、その周囲の空気から冷媒の気化に必要な熱エネルギー(気化熱)を吸収する。そのため、エバポレータ94の表面およびその周辺では、より冷たい空調空気が生成される。さらに、送風ブロワー82がエバポレータ94で生成された空調空気を車室内へ吹出す。このような冷凍サイクルによって、車室内空調が実現される。
【0038】
再度、図1を参照して、車両100は、電流検出部24と、電圧検出部26と、システムリレーSMR1,SMR2,SMR3と、制限抵抗R1と、パワースイッチ22と、HV_ECU20と、エアコンECU30と、設定スイッチ36と、受信アンテナ32とをさらに含む。
【0039】
電流検出部24は、正電源線PL1に介挿され、蓄電装置BATから供給される直流電力の電流値Ibを検出し、その検出値をHV_ECU20へ出力する。
【0040】
電圧検出部26は、正電源線PL1と負電源線NL1との間に接続され、蓄電装置BATから供給される直流電力の電圧値Vbを検出し、その検出値をHV_ECU20へ出力する。
【0041】
システムリレーSMR1〜SMR3の各々は、蓄電装置BATと駆動ユニット200および空調ユニット300との間に配置され、制御指令SEに応答してオン状態またはオフ状態となる。すなわち、システムリレーSMR1〜SMR3は、蓄電装置BATから駆動ユニット200および空調ユニット300を電気的に切離し可能に構成される。より詳細には、システムリレーSMR1は、制限抵抗R1と直列接続された上で、正電源線PL1に介挿される。また、システムリレーSMR2は、抵抗と接続されることなく正電源線PL1に介挿される。そして、蓄電装置BATと駆動ユニット200および空調ユニット300とが電気的に接続する際には、システムリレーSMR1が先行してオン状態とされた後、システムリレーSMR2がオン状態にされる。これにより、蓄電装置BATを電気的に接続する際に生じる突入電流を制限抵抗R1により制限することができる。また、SMR3は、負電源線NL1に介挿される。
【0042】
パワースイッチ22は、運転者用シート前方のインストルメントパネルなどに配置され、車両100の始動操作に用いられる。すなわち、パワースイッチ22は、運転者によって押圧されると、起動指令IGONをHV_ECU20へ出力する。
【0043】
HV_ECU20は、運転者からの起動指令IGONに応答して処理を開始する。そして、起動指令IGONが与えられると、HV_ECU20は、予め格納されたプログラムを実行することで、図示しない各センサから送信された信号、走行状況、アクセル開度、蓄電装置BATの充電状態(SOC:State of Charge:以下、単に「SOC」とも称す)、格納しているマップなどに基づいて演算処理を実行する。これにより、HV_ECU20は、運転者の操作に応じて、車両100が所望の運転状態となるように、制御指令SEおよびスイッチング指令PWC,PWM1,PWM2などを生成する。すなわち、運転者からの起動指令IGONに応答して、駆動ユニット200が活性化される。また、HV_ECU20は、副蓄電装置SBの充電を開始するために、制御指令CHONをDC/DCコンバータ装置80へ与える。さらに、HV_ECU20は、パワースイッチ22からの起動指令IGONが遮断されると、休止状態を通知するための休止指令IGOFFをエアコンECU30へ出力する。
【0044】
エアコンECU30は、設定スイッチ36および受信アンテナ32と接続され、それぞれ空調要求CTL1およびCTL2に応答して車室内空調に係る動作を制御する。
【0045】
設定スイッチ36は、車室内のインストルメントパネルなどに配置され、運転者もしくは他の乗員による操作によって、所定の空調要求を受付ける。特に、本実施形態では、設定スイッチ36は、予め車室内空調の開始時間および目標温度などを空調要求CTL1として受付け可能に構成される。そして、エアコンECU30は、設定スイッチ36を介して設定された開始時刻になると、運転者が搭乗していない場合であっても、制御指令ACONをHV_ECU20へ与えるとともに、制御指令CMPONおよびBLONをそれぞれ圧縮機構70および送風ブロワー82へ与え、車室内空調を開始する。
【0046】
また、エアコンECU30は、受信アンテナ32との間で無線通信可能なリモコン装置34からの空調要求CTL2を受信すると、同様に車室内空調を開始する。すなわち、運転者などは、車両100に搭乗する前に、たとえば住宅内などからリモコン装置34を操作して、車両100の車室内空調を遠隔で開始させることができる。これにより、運転者などが車両100に搭乗した際の車室内温度をより快適にすることができる。
【0047】
このように、この発明の実施の形態に従う車両100では、運転者が搭乗しておらず、起動指令IGONも与えられていない状態であっても、車室内空調の実行が可能である。なお、このような車室内空調を、起動指令IGONが与えられて車両100が作動状態となった後の車室内空調と区別するために、以下では、「プレ空調」とも称す。
【0048】
さらに、HV_ECU20は、エアコンECU30からの制御指令ACONが与えられると、運転者からの起動指令IGONが与えられていなくても、蓄電装置BATから空調ユニット300への電力供給が可能となるように、制御指令SEを有効にして、システムリレーSMR1〜SMR3をオン状態にする。このとき、HV_ECU20は、スイッチング指令PWM1,PWM2,PWCを活性化しない。そのため、インバータ装置8,10および昇圧コンバータ装置12を構成するスイッチング素子は、いずれも非導通状態に維持され、駆動ユニット200は非活性のままである。
【0049】
また、HV_ECU20は、送風ブロワー82に十分な電力を供給できるように、制御指令CHONを有効にし、DC/DCコンバータ装置80の電圧変換動作を開始させる。そして、プレ空調時において、HV_ECU20は、電流値Ibおよび電圧値Vbに基づいて、蓄電装置BATから供給される電力値を検出し、当該検出した電力値と予め定められたしきい値とを逐次比較する。一例として、このしきい値は、プレ空調時に活性化される圧縮機構70およびDC/DCコンバータ装置80での最大使用電力に応じた値に設定される。なお、コンプレッサ74および送風ブロワー82における作動電力は、比較的変化が少ないので、比較的高い精度でしきい値を決定することができる。
【0050】
さらに、検出した電力値が当該しきい値を超えると、HV_ECU20は、駆動ユニット200もしくは空調ユニット300での異常発生と判断する。なお、異常発生の内容としてはさまざまな状態が考えられるが、一例として、駆動ユニット200の昇圧コンバータ装置12を構成するスイッチング素子の短絡故障、空調ユニット300のコンプレッサ74のコイルでの短絡故障、およびDC/DCコンバータ装置80におけるスイッチング素子の短絡故障などが挙げられる。
【0051】
このように異常発生を判断すると、HV_ECU20は、蓄電装置BATと駆動ユニット200および空調ユニット300とを電気的に切離すために、制御指令SEを無効にし、システムリレーSMR1〜SMR3をオフ状態にする。これにより、蓄電装置BATから異常個所への短絡電流の供給が遮断され、短絡電流による損傷を回避できる。
【0052】
図3は、プレ空調に係るHV_ECU20の制御構造を示す機能ブロック図である。
図3を参照して、HV_ECU20は、乗算部40と、比較部42と、プレ空調条件判定部44とを含む。
【0053】
乗算部40は、電流検出部24によって検出される電流値Ibと、電圧検出部26によって検出される電圧値Vbとを乗じて、蓄電装置BATから駆動ユニット200および空調ユニット300へ供給される電力値Pbを検出し、比較部42へ出力する。
【0054】
比較部42は、乗算部40で検出される電力値Pbと、予め設定されるしきい値αとを比較する。そして、比較部42は、電力値Pbがしきい値αを超えると、駆動ユニット200もしくは空調ユニット300での異常発生と判断し、異常信号FALを発する。
【0055】
プレ空調条件判定部44は、エアコンECU30から制御指令ACONを与えられると、当該時点における蓄電装置BATの充電状態(SOC:State Of Charge)、システム状態、ブレーキ状態などを取得し、車両100の安全性が確保できる状態であるか否かを判断する。そして、車両100の安全性を確保できる状態であれば、プレ空調条件判定部44は、制御指令SEを有効にして、システムリレーSMR1〜SMR3をオン状態にする。同時に、プレ空調条件判定部44は、制御指令CHONを有効にして、DC/DCコンバータ装置80における電圧変換動作(降圧動作)を開始させる。
【0056】
その後、プレ空調条件判定部44は、比較部42から異常信号FALを与えられると、制御指令SEを無効にして、システムリレーSMR1〜SMR3をオフ状態にする。これにより、蓄電装置BATは、駆動ユニット200および空調ユニット300から電気的に切離される。同時に、プレ空調条件判定部44は、制御指令CHONを無効にして、DC/DCコンバータ装置80における電圧変換動作(降圧動作)を停止させる。
【0057】
このように、プレ空調条件判定部44は、蓄電装置BATから供給される電力値Pbが予め定められたしきい値αを超えると、蓄電装置BATからの電力供給を遮断し、異常発生部位およびその周辺部位への損傷の拡大を防止する。
【0058】
図4は、この発明の実施の形態に従うプレ空調に係る処理手順を示すフローチャートである。
【0059】
図4を参照して、HV_ECU20は、エアコンECU30から制御指令ACONが与えられたか否かを判断する(ステップS100)。制御指令ACONが与えられていない場合(ステップS100においてNOの場合)には、HV_ECU30は、最初の処理に戻る。
【0060】
制御指令ACONが与えられた場合(ステップS100においてYESの場合)には、HV_ECU20は、車両100の安全性が確保できる状態であるか否かを判断する(ステップS102)。車両100の安全性が確保できる状態ではない場合(ステップS102においてNOの場合)には、HV_ECU20は、処理を終了する。
【0061】
車両100の安全性が確保できる状態である場合(ステップS102においてYESの場合)には、HV_ECU20は、制御指令SEを有効にして、システムリレーSMR1〜SMR3をオン状態にする(ステップS104)。続けて、HV_ECU20は、制御指令CHONを有効にして、DC/DCコンバータ装置80における電圧変換動作を開始させる(ステップS106)。また、エアコンECU30は、制御指令CMPONおよびBLONを有効にして、車室内空調を開始する(ステップS108)。
【0062】
続いて、HV_ECU20は、蓄電装置BATから駆動ユニット200および空調ユニット300へ供給される電力値Pbを検出する(ステップS110)。そして、HV_ECU20は、検出した電力値Pbが予め定められたしきい値αを超えているか否かを判断する(ステップS112)。
【0063】
検出した電力値Pbが予め定められたしきい値αを超えていない場合(ステップS112においてNOの場合)には、HV_ECU30は、制御指令ACONが継続して与えられているか否かを判断する(ステップS114)。
【0064】
制御指令ACONが継続して与えられている場合(ステップS114においてYESの場合)には、HV_ECU30は、上述のステップS110およびS112を繰返し実行する。一方、制御指令ACONが継続して与えられていない場合(ステップS114においてNOの場合)には、HV_ECU30は、車室内空調が完了したと判断し、処理を終了する。
【0065】
検出した電力値Pbが予め定められたしきい値αを超えている場合(ステップS112においてYESの場合)には、HV_ECU30は、制御指令SEを無効にし、システムリレーSMR1〜SMR3をオフ状態にする(ステップS116)。これにより、蓄電装置BATから異常部位への短絡電流の供給が遮断される。また、HV_ECU30は、制御指令CHONを無効にして、DC/DCコンバータ装置80における電圧変換動作を停止させる(ステップS118)。そして、HV_ECU30は、処理を終了する。
【0066】
この発明の実施の形態では、正電源線PL1および負電源線NL1が「電源線」に相当し、蓄電装置BATが「蓄電装置」に相当し、駆動ユニット200が「駆動ユニット」に相当し、空調ユニット300が「空調ユニット」に相当し、システムリレーSMR1〜SMR3が「遮断部」に相当し、コンプレッサ74が「コンプレッサ」に相当し、インバータ装置72が「電力変換装置」に相当し、DC/DCコンバータ装置80が「低電圧生成部」に相当し、送風ブロワー82が「送風ブロワー」に相当する。エアコンECU30が「開始手段」を実現し、HV_ECUが「検出手段」、「比較手段」、「判断手段」および「指令発生手段」を実現する。
【0067】
この発明の実施の形態によれば、運転者による起動指令IGONが与えられていないときに空調要求が与えられると、駆動ユニット200を非活性状態に維持したまま、空調ユニット300だけを作動させるので、車室内空調を行なうために必要とされる電力を予め推定することができる。空調ユニット300もしくは駆動ユニット200で短絡故障などの異常が発生すれば、当該異常に起因する電流(電力)が生じるので、この推定される電力値に応じたしきい値と、実際に蓄電装置BATから供給される電力値とを比較することで、異常発生の有無を判断できる。さらに、異常発生を検出すると、当該異常の遮断するために、システムリレーSMR1〜SMR3を開放するので、異常が発生した場合であっても安全性を確保することがある。
【0068】
なお、この発明の実施の形態においては、一例として、エンジンおよび電動機を駆動力の発生源とするハイブリッド車両について説明したが、本発明は、蓄電装置に蓄えられた電力を用いて車室内空調を行なう構成を有する車両であればいずれの車両にも適用可能である。一例として、電気自動車や燃料電池車などにも適用できる。
【0069】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】この発明の実施の形態に従う車両の概略構成図である。
【図2】この発明の実施の形態に従う車両における車室内空調に係る模式図である。
【図3】プレ空調に係るHV_ECUの制御構造を示す機能ブロック図である。
【図4】この発明の実施の形態に従うプレ空調に係る処理手順を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0071】
2 エンジン、4 動力分割機構、6 減速機、8,10 インバータ装置、12 昇圧コンバータ装置、22 パワースイッチ、24 電流検出部、26 電圧検出部、30 エアコンECU、32 受信アンテナ、34 リモコン装置、36 設定スイッチ、40 乗算部、42 比較部、44 プレ空調条件判定部、50 空調空気、70 圧縮機構、72 インバータ装置、74 コンプレッサ、80 コンバータ装置、82 送風ブロワー、90 吹出口、92 空調空気生成ダクト、94 エバポレータ、96 コンデンサ、98a,98b,98c 配管、100 車両、200 駆動ユニット、300 空調ユニット、BAT 蓄電装置、C1 コンデンサ、MG1,MG2 モータジェネレータ、NL1 負電源線、NL2 負母線、PL1 正電源線、PL2 正母線、R1 制限抵抗、SB 副蓄電装置、SMR1,SMR2,SMR3 システムリレー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源線を介して電力を供給可能に構成された蓄電装置と、
前記蓄電装置からの供給電力を用いて車室内空調を行なうための空調ユニットと、
運転者からの起動指令が与えられていない時に、空調要求に応答して、前記空調ユニットの作動を開始させる開始手段と、
前記蓄電装置から供給される電力値を検出する検出手段と、
前記検出手段によって検出される電力値と、前記空調ユニットの作動に必要な電力に応じて予め定められたしきい値とを比較する比較手段と、
前記検出手段によって検出される電力値が前記しきい値を超えると、前記空調ユニットでの異常発生と判断する判断手段とを備える、車両。
【請求項2】
前記電源線に介挿され、遮断指令に応答して、前記蓄電装置を電気的に切離す遮断部と、
前記判断手段によって異常発生と判断されると、前記遮断部に対して前記遮断指令を与える指令発生手段とをさらに備える、車両。
【請求項3】
前記しきい値は、前記空調ユニットにおける最大使用電力に応じて決定される、請求項1または2に記載の車両。
【請求項4】
前記空調ユニットは、
冷凍サイクルにおいて冷媒を圧縮するためのコンプレッサと、
前記蓄電装置からの供給電力を電力変換して前記コンプレッサへ供給するための電力変換部とを含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の車両。
【請求項5】
前記空調ユニットは、
前記蓄電装置からの供給電力の電圧より低い電圧を有する電力を生成する低電圧生成部と、
前記低電圧生成部によって生成された電力により作動し、空調空気を吹出すための送風ブロワーとをさらに含む、請求項4に記載の車両。
【請求項6】
運転者からの起動指令に応答して活性化されるとともに、前記蓄電装置からの供給電力を用いて車両駆動力を発生可能に構成された駆動ユニットをさらに備える、請求項1〜5のいずれか1項に記載の車両。
【請求項7】
車両における異常判断方法であって、
前記車両は、
電源線を介して電力を供給可能に構成された蓄電装置と、
前記蓄電装置からの供給電力を用いて車室内空調を行なうための空調ユニットと、
前記蓄電装置から供給される電力値を検出する検出部とを備え、
前記異常判断方法は、
運転者からの起動指令が与えられていない時に、空調要求に応答して、前記空調ユニットの作動を開始させる開始ステップと、
前記検出部によって検出される電力値と、前記空調ユニットの作動に必要な電力に応じて予め定められたしきい値とを比較する比較ステップと、
前記検出部によって検出される電力値が前記しきい値を超えると、前記空調ユニットでの異常発生と判断する判断ステップとを含む、異常判断方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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