車両と歩行者との衝突を予測するための方法及びシステム
本発明は、車両と検出された移動中の歩行者との衝突を予測する方法に関し、本方法では、モンテカルロ法に従って車両の軌道と歩行者の軌道の対を表わすN個の粒子を生成し、次に、各粒子の結果を評価して、各粒子の状態がつくる空間を、粒子の現在の運動状態に応じて重要度が異なる領域に分割し、衝突が発生しないと予測される場合に、現時点での粒子の重要度と直前の時点での粒子の重要度との関係を計算し、粒子の重要度が増大する場合はそれぞれ新規の重みを付けた粒子の数を2以上の整数に減少させることを決定し、粒子の重要度が低下する場合は前記重要度の関係に従って、粒子が残存する可能性が重要度の関係に等しくなるように粒子をランダムに除外することを決定し、前記予測される衝突の確率の推定が、N個の粒子の結果に基づく統計により取得される。
【発明の詳細な説明】
【発明の開示】
【0001】
本発明は、歩行者の安全性を高めるために、車両と移動中の歩行者との衝突を予測する方法に関する。本発明は特に、緊急ブレーキ又は車両の軌道変更のような適切な対策を、車両の前部近傍で検出される歩行者との衝突が起こる直前に開始する、事前衝突回避式の歩行者保護システムに適用される。本発明は、前記方法を実行するオンボードシステムにも関する。
【0002】
歩行者の事前衝突回避システムは、車両と歩行者の衝突を、非常に短い時間の間、即ち数百ミリ秒〜1秒の間に衝突の危険を推定することにより予測して、予測される衝突を回避するため、又は衝突の結果を最小限にするために適切な反応を開始できなくてはならない。
このシステムは、車両の動的状態、車両のエンジンの回転数、運転者による種々の制御の位置、検出された歩行者に関する情報、例えば歩行者の大きさ、位置、又は速度を受信して、車両と歩行者の衝突が2つの時点t0とt0+ΔTの間に生じる危険を推定する。
【0003】
フランス特許出願FR2 864673号に記載されているように、確率に基づいて衝突を予測する方法では、現実的且つ適切なモデルに基づいて車両及び歩行者の将来の軌道を生成することが必要であり、次にタイムステップを進めるたびに、各状態変数が、確率と関連付けられる一連の値を採ることにより危険を定量化することができると仮定することにより、衝突が発生するかどうかを試験する必要がある。このような定量化は、モンテカルロシミュレーション法により行なうことができ、この方法は、例えばE. A. JOHNSON, L. A. BERGMAN及びB.F. SPENCERによる"Intelligent Monte Carlo Simulation and Discrepancy Sensitivity"と題される論文に記載されており、これはP. D. Spanos(編)のComputational Stochastic Mechanics, Balkema, Rotterdam, 1999, 31-39において発行されている。
このような定量化は、
−衝突の特徴を評価したいと考える状況を起点とする車両の軌道と歩行者の軌道の対に対応する初期個数Nの粒子を図表化するステップであって、これらの粒子の状態が、システムの障害物を検出するセンサによって供給される測定値及び推定値に基づいているステップ、
−これらの粒子の軌道を予測するステップ、及び
−次いで、個別のタイムステップについて、車両と、歩行者に対応する各粒子の間に衝突が発生するかどうかを試験するステップ
からなる。
【0004】
簡易的なモンテカルロシミュレーションの場合、一対の軌道に対応するN個の粒子の各々iに対し、粒子全体に均一に、シミュレーションの期間ΔTを通じて重みp=1/Nを割り当てる。時点t0とt0+ΔTの間の衝突の確率Pimpactを推定するためには、シミュレーションが衝突で終了するこれら粒子に割り当てられた重みを合計するだけで十分である。衝突までの時間は、衝突で終了する軌道の衝突までの時間の平均を取得することにより推定することができる。歩行者の軌道の進行に割り当てられる不確実性さは、確率分布によって定量化される。多数のシナリオが、シミュレーションの間に、疑似ランダム番号生成器を援用して生成され、次いで各軌道の対の結果又は粒子の結果が評価される。衝突が発生する場合、特徴を保存し、次に軌道の組の結果に統計を適用することにより、衝突を表わす種々のデータの分布、即ち衝突までの時間、衝突ゾーン、衝突速度、及び衝突の確率の分布を推定することができる。
モンテカルロシミュレーション法を使用する現在の確率論的衝突予測手順の欠点は、計算にパワーを要することに関連し、結果の精度を下げない限り、リアルタイムで利用することができないことである。更に、引用した先行技術において4つの個別の状態に基づく歩行者の軌道モデルが開発されており、軌道の数Nが100より大きい場合、このような予測方法はリアルタイム機能を保証できない。
【0005】
本発明の目的は、車両と歩行者との衝突の確率論的な予測方法を向上させることである。
この目的を達成するために、本発明の第1の課題は、車両と、検出される移動中の歩行者との衝突を予測する方法であり、本方法は、車両モデル及び複数の個別の状態を有する歩行者モデルに基づいて、更には車両及び歩行者の初期位置と、車両及び歩行者それぞれの運動状態に関する情報に基づいて衝突の特徴が評価される状況を原点とする、車両の軌道と歩行者の軌道の対を表わすN個の粒子を生成するフェーズと、その後、各粒子の結果を評価するフェーズとを含み、粒子の状態空間を、各粒子に付与される注目度に直接関連付けられ、且つ前記粒子の現在の運動状態に応じた数値として定義される異なる重要度を表わす複数のゾーンにスライスすること、及び、試験された粒子に衝突が発生しないと予測される場合、直前の時点での粒子の重要度に対する現時点での粒子の重要度の比を計算し、粒子の重要度が増大している場合は新規の重みを割り当てた各粒子の数を2以上の整数nに低減することを決定し、粒子の重要度が低下している場合は、粒子が残存する確率が重要度の比に等しくなるように、前記粒子をランダムに除外することを決定し、その後、N個の粒子の組の結果に統計を適用することにより、衝突の確率の推定値、及び前記予測される衝突の特徴を取得することを特徴とする。
【0006】
有利には、本発明では、車両と歩行者の衝突の予測値を計算することにより、リアルタイムで結果を得ることが可能である。
衝突を予測する本方法の別の特徴によれば、車両の前面に連結された瞬時の正規直交基準座標系に基づく車両前面の空間のスライスは、車両と歩行者の相対的距離に基づいて行ない、車両のバンパーの中央を中心とし、バンパーを直径とする円環の形状に重要度ゾーンを定義する。
【0007】
衝突を予測する本方法の別の特徴によれば、車両の前面に連結された瞬時の正規直交基準座標系に基づく車両前面の空間のスライスは、車両に起因する相対速度の長さ方向成分と、歩行者の速度と見なされる相対速度の横方向成分に基づいて行ない、車両のバンパーの中央を中心とし、半短軸を縦座標軸上に、半長軸を横座標軸上に有する楕円の形状に重要度ゾーンを定義する。
衝突を予測する本方法の別の特徴によれば、車両の前面に連結された瞬時の正規直交基準座標系に基づく車両前面の空間のスライスは、粒子のライフタイムの値に従って、又はシミュレーションの各時点tiにおいて、歩行者の長さ方向の位置が車両の前面と同じになるまでに要する追い越し前の時間に従って行ない、このライフタイムが短い程ゾーンの重要度が高まり、次いで歩行者の長さ方向の位置と速度のみを考慮して、縦軸に平行な帯の形状に重要度ゾーンを定義する。
【0008】
衝突を予測する本方法の別の特徴によれば、車両の前面に連結された瞬時の正規直交基準座標系に基づく車両前面の空間のスライスは、車両の基準座標系の軸Ox及びOyによって定義される平面内で、歩行者の長さ方向位置xに対する横方向位置yの比により得られる歩行者の角度位置を考慮することにより行ない、原点0を持ち、横座標軸Oxに対し、これら2つの位置の比の逆正接に等しい角度θ=arc tan(y/x)を形成する複数のセクターの形態に重要度ゾーンを定義する。
衝突を予測する本方法の別の特徴によれば、車両の前面に連結された瞬時の正規直交基準座標系に基づく車両前面の空間のスライスは、歩行者の横方向速度に対する長さ方向速度の比の逆正接により、又は
α=arctan (Vped/Vveh)
により表わされる、車両の速度に対する歩行者速度の比の逆正接により得られる、車両に対する歩行者の相対速度の方向に基づいて行い、高さを横座標軸Ox上に、底辺を縦座標軸Oyに有し、
α=arctan (Vped/Vveh)
により表わされる、車両速度に対する歩行者速度の比の逆正接により定義される頂角αを有する二等辺三角形の形態に重要度ゾーンを定義する。
【0009】
衝突を予測する本方法の別の特徴によれば、前記方法は、
−車両の初期運動状態及び歩行者の初期運動状態を決定し、続いてそれぞれ重みを割り当てられ、時点(ti)における車両及び歩行者のシミュレーション軌道の対に対応する(Ni)個の粒子を生成し、これらの各々の運動状態をシミュレーションし、その後初期状態と比較するステップ、
−衝突が発生する場合、考慮される粒子kを除外して、次の粒子k+1からNi番目の粒子までのシミュレーションを継続する前に、衝突の特徴を推定して保存するステップ、
−衝突ゾーンから、衝突を発生することなく出る場合、粒子を除外して、次の粒子k+1からNi番目の粒子までのシミュレーションを継続する前に軌道kの特徴を保存するステップ、
−衝突が発生しない場合はシミュレーションが終了しなかったことを確認し、一方衝突が発生することなくシミュレーションが終了した場合は、最後の軌道を保存し、粒子を除外してシミュレーションを再度継続するステップ、
−衝突が発生せず、粒子kが残っている場合、状態空間における時点tiでの粒子の新規状態に関連付けられる重要度の値の、直前の時点ti−1での同値に対する比(βi,k)を計算し、その後この比を1と比較して、
・βi,kが1に等しい場合、この軌道kに対する注目度が高まることはなく、本方法はシミュレーションされる次の軌道k+1に進み、
・βi,kが1より小さい場合、注目度がゼロの粒子を「ロシアンルーレット」のステップによってランダムに除外し、粒子が残る場合に粒子に新規の重みpkを割り当て、
・βi,kが1より大きい場合、重要と考えられる粒子を「スプリッティング」のステップによってn(k)個の新規粒子に低減し、各新規粒子に対して重要な粒子kの重みとは異なる重みを割り当て、これらの粒子を次の時点ti+1で処理するステップ、並びに
−Ni個の粒子の全てが処理されたことを確認した後、衝突の確率、及び発生し得る衝突の特徴を、保存された重みに関する統計に基づいて推定するステップ
を含むことを特徴とする。
【0010】
本発明の第2の課題は、車両と検出された移動中の歩行者との衝突を予測する方法を実行するための車両搭載式システムであって、本システムは、車両の周りの障害物を検出する手段を備え、前記検出手段は、車両及び歩行者の位置及び速度を推定する手段と、車両/歩行者衝突予測手段とに接続されており、この予測手段は更に、車両のコントロール機器に接続されるセンサのパーツ上に前記システムを装備する車両の運動に関する情報を受信し、この衝突予測手段は検出された各障害物に、衝突の確率、衝突までの時間、予想衝突ゾーン、及び可能であれば衝突時の速度を関連付け、各障害物に関するこれらの情報を、位置が確定された歩行者を保護するために、システムが緊急時に適用しなければならない最適な対策を選択する手段に送出する。
本発明の他の特徴及び利点は、添付図面に例示する方法についての説明により明らかになる。
【実施例】
【0011】
本発明による車両と移動中の歩行者との衝突を予測する方法は確率的方法であり、歩行者の軌道モデルの各状態変数は、確率に関連付けられる一連の値を採ることができるので、危険を定量化することが可能になる。本方法の目的は、所定の車両と歩行者の状況に関し、ΔTを予測期間とする場合の現時点t0と予測限界時点t0+ΔTの衝突の確率を推定することであり、更に衝突の特徴、即ち特に、衝突までの時間、衝突ゾーン、及び特に衝突速度を推定することである。
本発明によれば、本方法では、種々の粒子の軌道の全てが同じ注目度を示す訳ではないことを考慮する。車両と歩行者の衝突を予測する場合、衝突ゾーンから遠く離れて位置する粒子であって、例えば車両の全部から30メートル超の距離の位置を横切る歩行者に対応する粒子は、衝突ゾーンの近傍に位置する粒子より遥かに注目度が低い。このような理由によりンテカルロ型の軌道シミュレーションによって危険の定量化が行なわれ、本発明による方法は、複数の状態に重要度サンプリングを適用してシミュレーション性能を高める「スプリッティング」又は「ロシアンルーレット法」のような分散低減法を使用する。
【0012】
本方法は、まず、それぞれが車両の軌道と歩行者の軌道の対に対応する初期数N個の粒子を生成するステップであって、これらの粒子の状態が、車両に取り付けられるシステムの歩行者検出センサから供給される測定値及び推定値によって変化するステップと、次いで、各粒子について各時点で、車両と歩行者との間に衝突が発生するかどうかを試験することによりN個の粒子を処理するステップを含む。その後、本方法では、各軌道の対の結果を評価し、一方で、衝突を起こしそうな粒子の個数を、これらの粒子の重み、位置、及び速度の特徴と一緒に保存し、他方で、衝突が発生しないと予測される場合に、各粒子に付与された「重要度」と呼ばれる注目度に直接関連する一つの数値を各粒子に各時点で割り当てる。この重要度は粒子の現時点の運動状態(位置、速度など)に応じて決まる。本方法では、前記粒子の重要度が変化する様子を図に表わして粒子の最終的な重みを計算する。この最終的な重みは、当該粒子が辿った重要度ゾーンに応じて決まる。最後に、シミュレーション期間における衝突の確率を推定するために、本方法では、シミュレーションが衝突で終了するこれらの粒子の重みを合計し、衝突までの時間、衝突ゾーン、又は衝突速度のような統計に基づいて予測される衝突の特徴を推定する。
従って、本発明の一つの特徴によれば、衝突が発生しない場合、本方法では、直前の時点での粒子の状態に対する現時点の粒子の状態の重要度の比βを計算する。
【0013】
直前の時点の状態の重要度に対する現時点での状態の重要度の比が1に等しい場合、本方法では、次の粒子に注目する。
歩行者の現時点の状態が当該歩行者の直前の時点の状態より重要である場合、本方法では、「スプリッティング」ステップ、即ち、重要度が増大している粒子を低減するステップを実行する。粒子を2以上の整数n個の新規粒子に分割し、各新規粒子に初期の粒子の重みをnで割った重みを割り当て、この新規重みを使用して衝突の確率の計算を行う。この個数nは、考察対象の粒子の重要度の比βの増加関数である。
【0014】
シミュレーションされる歩行者の現時点の状態の重要度が、当該歩行者の直前の時点の状態の重要度より小さい場合、本方法では、「ロシアンルーレット」ステップ、即ち注目に値しないと考えられる前記粒子をランダムに除外するステップを実行する。このときの粒子の残存確率pは、重要度の比βに等しい。2つの場合が生じ得る。即ち、粒子が残存し、衝突の確率に利用される当該粒子の重みに重要度の比βの逆数を乗算する場合か、又は粒子が消滅し、当該粒子の重みがゼロになって当該粒子の軌道が使用されなくなる場合である。
これら2つのステップを通して更なる偏りが導入されることを防ぐために、各粒子が他の粒子と共に構成するクラスタの合計質量、即ち衝突予測の最終計算に対する当該粒子の寄与を決定する一つの重みが各粒子に割り当てられる。場合によっては、クラスタをサンプリングし直して、粒子の個数N(t)がコンピュータの能力に応じて定義される最大個数Nmaxより大きい場合に、粒子の個数を上限値に収めることが必要となる。この上限値は通常、値256に選択することができる。
【0015】
車両と歩行者の衝突予測方法の例示的なフローチャートを図1に示して説明する。当該予測方法は、車両の初期運動状態EV(t0)及び歩行者の初期運動状態EP(t0)、即ちシミュレーションの初期時点t0での車両/歩行者それぞれの位置及び速度を決定する第1ステップe1)と、これに続いて、それぞれに重みpiが割り当てられるNi個の粒子を生成する第2ステップe2)であって、これらNi個の粒子が、時点ti−1での粒子の状態が判明しており、δtをサンプリングタイムステップとした場合の、時点ti=ti−1+δtにおいて車両及び歩行者にシミュレーションされるNi個の軌道の対に対応する第2ステップとを含む。
時点tiにおいてシミュレーションされるNi個の粒子の各粒子kについて、本方法では、ステップe3)において、車両のシミュレーション状態EV(ti)、及び歩行者のシミュレーション状態EP(ti)を生成し、次のステップe4)において、これらの2つの状態を比較し、区間[ti−1−ti]の間に衝突が発生するかどうか、どの時点で衝突が発生するか、又は衝突が生じないか、或いは歩行者が、歩行者と車両の前面との間に定義される衝突ゾーンから出たかどうかを判断する試験を行なう。この衝突ゾーンの定義を図3、4、及び5に示す。
【0016】
衝突が発生する場合、本方法は、衝突の特徴、特に予測される衝突の時点、衝突ゾーン、及び衝突の確率を推定するステップe5)を実行し、次にステップe6)でこれらの特徴を保存し、その後ステップe7)で考察対象の粒子kを除外して、次の粒子k+1からNi番目の粒子までシミュレーションを継続する。
衝突を全く発生することなく衝突ゾーンから出て行く場合、本方法では更に、前述の場合と同様に、ステップe6)において軌道kの特徴を保存し、その後ステップe7)で粒子を除外して、次の粒子k+1からNi番目の粒子までに対してシミュレーションを継続する。
【0017】
衝突が発生しない場合、本方法では、ステップe8)において、シミュレーションが終了しないこと、従って、ΔTをシミュレーションの限界値とする場合、シミュレーションの時点tiがt0+ΔTに等しくないことを実証する。衝突を発生することなくシミュレーションが終了した場合、前述の2つの場合と同様に、最後の軌道を保存し、粒子を除外して再びシミュレーションを継続する。
衝突が発生せず、且つシミュレーションが終了しない場合、故に粒子kは残存しており、本方法では、ステップe9)において、状態空間における時点tiでの粒子の新規状態に関連付けられる重要度Ii,kの値、並びに直前の時点ti−1でのこの粒子kの重要度の値に対する時点tiでの同粒子の重要度の比βi,kを計算する。この比βi,kによって、考察対象の粒子kの重要度の変化を測定することができ、よってその後、ステップe10)においてその値を1と比較する。比βi,kが1に等しい場合、この軌道は注目度の増大を示さず、本方法はシミュレーションされる次の軌道k+1に移る。比βi,kが1より小さい場合、本方法は、ステップe11)で「ロシアンルーレット法」を実行し、注目度がゼロの粒子をランダムに除外する。従って、粒子kは、ステップe7)において除外されるか、又は残存してステップe12)において新規の重みpkを割り当てられる。
【0018】
比βi,kが1より大きい場合、本方法はステップe13)で「スプリッティング」を実行し、重要度が高いと考えられる粒子をn(k)個の新規粒子に低減し、各新規粒子に、重要度の高い粒子kの重みとは異なる重みを割り当て、次に、これらの新規粒子を次の時点ti+1で処理する。新規のサンプリングステップが、粒子の個数を合理的な個数に保持するために必要になる場合がある。
「ロシアンルーレット法」又は「スプリッティング」を実行して得られる粒子は次のタイムステップで処理され、衝突で終了する粒子は保存され、統計用に使用される。これらの粒子の重みは、これらの粒子が除外されるまで保存される。
【0019】
ステップe14)において、Ni個の粒子の全てをシミュレーションで考察したことがシミュレーションによって確認されると、次のタイムステップで処理する必要のある粒子が存在することが確認されるので、ステップe15)において個数Ni+1が正になることが確認される。詳細には、例えば粒子の全てが時点ti又は直前の時点で衝突で終了する場合、次のタイムステップti+1で処理する必要のある粒子は全く存在しないことになるので、それ以上軌道をシミュレーションする必要はない。その後、本方法の最終ステップe16)では、衝突の確率、及び起こり得る衝突の特徴を、保存された結果に関する統計に基づいて推定する。時点t0とt0+ΔTの間における衝突の確率Pimpactを推定するために、本方法では、そのシミュレーションが衝突で終了する粒子に割り当てられる重みを合計する。
【0020】
図2は、例示的なモンテカルロシミュレーションである。この場合、車両の基準座標系に約250個(N≒250)の粒子が存在しており、当該基準座標系の原点0は車両のバンパーの中央部における衝突ゾーンの中心であり、図3に示すように、その横軸Oxは路面平面内で車両の前方に向かい、やはり路面平面に含まれる縦軸Oyは車両の右側から左側に向かう。図3は、車両A及び歩行者Pを上から見た概略図である。簡潔性及び再現性のため、軌道の予測は車両の瞬時正規直交基準座標系において行ない、衝突試験では歩行者の位置を車両の前面のこの基準座標系に移す必要がある。車両に対する歩行者の相対的な軌道に関し、車両の速度は普通歩行者の速度より大きく、本方法では、車両の前面のこの基準座標系において、歩行者の横座標は時間の経過とともに常に小さくなると考える。
車両の相対基準座標系における歩行者の軌道の結果は3種類、即ち、
−車両と歩行者の間で時点timpactに衝突が発生し、本方法が考察対象の粒子のシミュレーションを停止する場合、
−時点texit以降に歩行者が衝突ゾーンの後を通過するので衝突が発生せず、従って、歩行者がもはや衝突する危険がないので、この時点で本方法がシミュレーションを停止し、当該歩行者の横座標が負になる場合、及び
−衝突が発生しないが、車両の基準座標系における歩行者の相対位置の横座標が正のままであり、本方法が更に、歩行者の軌道をシミュレーションするフェーズをシミュレーション期間の限界値ΔTまで継続する場合
に分類することができる
【0021】
従って、衝突予測の期間ΔTは、これらの3つの種類の軌道結果に分類される事例の割合に応じて決まる。横座標が0に近い最初の2つの結果で終了する軌道の期間は、軸Oxに沿った歩行者の長さ方向の相対移動が、ほぼ車両の移動に起因すると認められる場合にほぼ等しい。これらの2つの場合では、粒子のライフタイムτはそれぞれ時点timpact及びtexitによって決まり、次式で表わされるように、長さ方向の相対距離xを車両の速度の平均Vvehで除した商に等しい。
τ=x/Vveh
全体の計算時間が等しい場合、τの値が小さくなる程粒子の個数Nは大きくなる。
【0022】
軌道の計算が期間ΔT全体に渡って行なわれる第3の事例では、タイムステップδtを細かくして計算を行なう必要は全くないので、計算時間の面でコストは高くない。
本発明は、歩行者と車両の前面との前面衝突の予測のみに関するものであり、車両の前面は、図3に示すように、車幅Lを寸法とするセグメントによってモデル化される。歩行者Pは、平均的歩行者の最大幅に等しい直径2R、及びこの平均的歩行者と同じ身長を有する円筒と見なされ、従って、図4に示すように、車両Aの前面を表わすセグメントと、歩行者Pの包絡線を表わす円盤との交点に対応する車両/歩行者衝突ゾーンを定義することができる。図4は、車両と歩行者との前面衝突の、幾何学的なモデル化の一例である。例えば、直径2Rは60cmに等しい。
【0023】
3つの状況を説明する。
・車両の前面が歩行者の最大部分と重複する場合に衝突が発生する(斜線ゾーンC)。
・歩行者のモデルと前面が重複しない場合は衝突が発生しない。
・歩行者を取り囲む円の半分未満が前面によって切断される場合、衝突の発生が不確実である(ドットゾーンB)。
不確実ゾーン内では、衝突種類の大きさに関する関数を定義することができ、この関数は0(衝突無し)〜1の値を連続的に採る。すると、衝突というコンセプトは、定義される閾値を超過した状態に対応する。衝突の重要度又は大きさにこのように重み付けすることができるということは、実際のシステムを評価する場合に非常に有効となり得る。自明なことであるが、車両の前面の中央部で起こる衝突を予測することは、左側又は右側のエッジで起こる前面衝突を予測することより簡単である。
【0024】
衝突ゾーンの2つの変形定義を図5及び4に示す。これらの定義はそれぞれ、単純衝突ゾーン及び「詳細」衝突ゾーンを描いたものである。不確実ゾーンのない単純衝突ゾーンZsは、幅が2Rに等しく、長さが車両の幅Lと歩行者モデルの直径2Rの合計に等しい矩形である。「詳細」衝突ゾーンZfは、長さL及び幅2Rの矩形の両端部に、半径Rの半円を繋ぎ合わせた形状である。
車両と歩行者との衝突を予測する試験では、計算による衝突の確率を、通常70〜95%である一つの閾値と比較する。pを衝突の確率とする場合、従来のモンテカルロシミュレーション法によるこの確率の推定値の分散はp.(1−p)/Nに等しく、Nは描画される粒子の個数であり、検出閾値近傍のこの分散は比較的大きい。本発明の基本的な特徴によれば、本方法では、重要度の高いゾーンに一つの粒子が入ると当該粒子が低減され、逆に当該粒子が重要度の低いゾーンに入ると、当該粒子を「ロシアンルーレット法」によってランダムに除外することができるように、重要度領域又は重要度ゾーンを定義する。前面の基準座標系における車両と歩行者の状況に関する種々の基準によって、重要度ゾーンが様々にスライスされる。
【0025】
図6〜11は、車両が均一な直線運動を行なう場合の重要度ゾーンの非制限的な実施例を示し、車両の前面の空間は、例えば衝突の予想危険度に関連する3つのゾーン、即ち、「衝突が発生する」ゾーン、「衝突が発生しない」ゾーン、又は「衝突の発生が不確実な」ゾーンに従ってスライスされている。
図6の実施例は、車両の前面の空間の、車両の前面に連結される瞬時正規直交基準座標系に基づくスライスを示しており、このスライスは、車両と歩行者の相対距離にのみ基づいて、車両及び歩行者の相対速度を考慮せずに行なわれている。従って、車両のバンパーの中央部を中心とする円環形のゾーンが描かれ、円環の直径はバンパーとなっている。車両のバンパーの両端に対応する縦軸座標+Yimpactと−Yimpactの間に位置する第1の半円形のゾーンS1は、衝突yが確実であるため高い重要度I1を表わす。第1の半円ゾーンS1に続き、不確実な衝突に対応する縦軸座標+Yuncと−Yuncの間に位置する第2の円環ゾーンS2は最高の重要度I2を表わす。例えば、車両速度Vvehと0.5秒の積に等しい歩行者Pの横軸座標に対応する外側半径x3(x3=0.5*Vveh)を有する第3円環ゾーンS3は、I1より小さい重要度I3を表わす。更に小さい重要度I4を表わし、車両速度Vvehと1秒の積に等しい歩行者Pの横軸座標に相当する外側半径x4(x4=1*Vveh)を有する第4ゾーンS4、及び横軸の正座標を含む半平面の残りの部分に対応する第5ゾーンS5を定義することも可能である。
【0026】
相対速度の長さ方向成分が車両に起因して発生し、且つ相対速度の横方向成分が歩行者の速度と見なされると仮定する場合、重要度ゾーンは、図7に示すように、車両のバンパーの中央部を中心とする楕円に従ってスライスされる。第1の楕円E1は、縦軸座標Yimpactを半短軸とし、縦軸座標Yimpactに車両速度と歩行者速度の比を乗じた積、即ちYimpact*Vveh/Vpedを半長軸とする。第2の楕円E2は、縦軸座標Yuncを半短軸とし、縦軸座標Yuncに車両速度と歩行者速度の比を乗じた積、即ちYunc*Vveh/Vpedを半長軸とし、最高の重要度を表わす。第3のゾーンE3は、横軸の正座標を含む半平面の残りの部分に相当する。
速度の関数として距離に対する条件を適合させるため、本方法は、車両の前面に連結される瞬時正規直交基準座標系に従って車両の前面の空間を、シミュレーションの各時点tiにおける粒子のライフタイムτの値に従ってスライスすることを提案する(図8参照)。このライフタイムτは、歩行者の長さ方向の位置が車両の前面と一致するまでの時間とも呼ぶことができる。このライフタイムτが短い程、ゾーンの重要度は高くなる。この場合、歩行者の長さ方向の位置x、及び当該歩行者の速度Vpのみを考慮する。従って、図8では、重要度ゾーンは縦軸に平行な帯状の形態を有し、重要度が高いゾーンZ1は0〜0.5秒のライフタイムτ1に相当し、車両に最も近接して位置しており、Z1より重要度が低い第2ゾーンZ2は0.5〜1秒のライフタイムτ2に対応し、第3ゾーンZ3は1〜2秒のライフタイムτ3に位置し、最後のゾーンZ4は横軸の正座標を含む半平面の残りの部分に相当する。
【0027】
図9の実施例では、空間のスライスは、車両の基準座標系の軸Ox及びOyによって定義される平面内での歩行者の角度位置を考慮することにより行なわれ、この角度位置は当該歩行者の長さ方向の位置xに対する当該歩行者の横方向の位置yの比により得られる。重要度ゾーンは、横座標軸Oxと、これらの2つの位置の比の逆正接に等しい角度θ=arc tan (y/x)を形成する、原点を0とするセクターによって定義される。この角度が大きい程重要度が小さく、セクターの数が多いほど、重要度を連続的に変化させることができる。
図10の実施例では、空間のスライスは、車両に対する歩行者の相対速度の方向に基づいて行なわれ、相対速度の方向は、当該歩行者の横方向速度に対する長さ方向速度の比の逆正接により、又は以下の式に示すように車両速度Vvehに対する歩行者速度Vpedの比の逆正接により得られる。
α=arctan (Vped/Vveh)
【0028】
重要度ゾーンは、高さh1を横座標軸Oxに有し、底辺を縦座標軸Oyに有し、以下の式に示すように、頂角αが、車両速度Vvehに対する歩行者速度Vpedの比の逆正接により定義される二等辺三角形によって定義される。
α=arctan (Vped/Vveh)
第1のゾーンA1は2Yimpactに等しい底辺を有し、Yimpactに歩行者速度に対する車両速度の比を乗じて得られる積を高さh2とし、軸Oxと、α=arctan (Vped/Vveh)によって定義される角度αを形成する。第1ゾーンの重要度I1は大きい。第2ゾーンA2は2Yuncに等しい底辺を有し、Yuncに歩行者速度に対する車両速度の比を乗じて得られる積を高さとし、その重要度は最高である。第3ゾーンA3は横軸の正座標を含む半平面の残りの部分に相当し、その重要度は第1ゾーンの重要度より小さい。
【0029】
これまでに説明したこれらの基準は、遭遇する種々の事例の一部にのみ有効であるので、これらの重要度スライス法を組み合わせることが好ましい。例えば、本方法は決定論的予測を利用するので、粒子のライフタイムτと縦座標y*とを同時に使用することになる。縦座標y*は、歩行者の長さ方向位置がゼロになるときの歩行者Pの横方向位置を推定し、且つ図11に示すように、次式によって定義される:
y* = y + τ*Vyped
ここで、Vypedは歩行者の横方向速度である。
3つの重要度レベルをy*の絶対値の関数として定義することができる。
−|y*|<yimpactの場合、重要度が高く、
−yimpact≦|y*|≦Yuncの場合、重要度が最高であり、
−Yunc<|y*|の場合、重要度が低下し、最初の場合より小さくなる。
【0030】
車両と検出対象歩行者との衝突を予測する本方法を実行するために、車両に搭載される実行システムは、車両の周囲の障害物を検出する手段を備えており、この検出手段は、車両と歩行者の位置及び速度を推定する手段と、車両/歩行者衝突予測手段とに接続されており、車両/歩行者衝突予測手段は更に、車両のコントロール機器に接続されるセンサのパーツに前記システムを装備する車両の運動に関する情報を受信し、この衝突予測手段は、検出された各障害物に対し、衝突の確率、衝突までの時間、予想される衝突ゾーン、及び可能であれば衝突時の見込み速度を関連付け、位置が特定された歩行者を保護するためにシステムが緊急時に行わなければならない最適な対策を選択する手段にこれらのパラメータを送出する。
フランス特許出願FR03 15548号に記載されている、区分的に決定論的な4つの状態を持つ歩行者モデルにより、軌道のランダムな成分が判明しているとき、歩行者の軌道、従って所定の時点での歩行者の位置を分析的に表現することができる。この特性によって、軌道予測期間ΔTに亘って生成される通過ポイントの個数、つまり実施する衝突試験の回数を大幅に減らすことができる。高精度のモンテカルロ計算と、「スプリッティング」又は「ロシアンルーレット法」による分散の低減とを組み合わせた歩行者モデルのこれらの特定の機能は、正しい予測と誤アラームの割合という点で極めて高い性能を保証するモデルの品質を保持しながら、リアルタイムでの使用を可能にする。これまでの解決法とは異なり、本発明による方法では必要な情報が少なく、例えば車両からの歩行者の距離のみが必要であり、特に歩行者の速度の方向は必要でない。これによって、負荷及び電力、従って専用電子コンピュータのサイズ及びコスト、並びに付属センサのサイズ及びコストを小さくすることができる。
【0031】
歩行者を保護するための事前衝突回避型システムにおいて、予測される衝突まで時間の推定を衝突予測に関連付けることによって、運転者及び/又は歩行者が状況の重大性を見積もることができるか、或いは防止対策が自動的に作動する。運転者及び/又は歩行者に警告を発して、運転者及び歩行者が、軌道修正、非常ブレーキ等による回避処置又は衝突速度の低減を図ることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】車両と歩行者の衝突予測方法の非制限的例示的なフローチャートである。
【図2】車両の基準座標系にN個の粒子を使用するモンテカルロシミュレーション法の非制限的な一実施例である。
【図3】車両及び歩行者を上から見た直交基準座標系における概略図である。
【図4】車両と歩行者との前面衝突の幾何学的なモデル化の一実施例である。
【図5】衝突ゾーンの定義の一変形例である。
【図6】重要度ゾーンの非制限的な一実施例である。
【図7】重要度ゾーンの別の非制限的な一実施例である。
【図8】重要度ゾーンのまた別の非制限的な一実施例である。
【図9】重要度ゾーンのまた別の非制限的な一実施例である。
【図10】重要度ゾーンのまた別の非制限的な一実施例である。
【図11】重要度ゾーンのまた別の非制限的な一実施例である。
【発明の開示】
【0001】
本発明は、歩行者の安全性を高めるために、車両と移動中の歩行者との衝突を予測する方法に関する。本発明は特に、緊急ブレーキ又は車両の軌道変更のような適切な対策を、車両の前部近傍で検出される歩行者との衝突が起こる直前に開始する、事前衝突回避式の歩行者保護システムに適用される。本発明は、前記方法を実行するオンボードシステムにも関する。
【0002】
歩行者の事前衝突回避システムは、車両と歩行者の衝突を、非常に短い時間の間、即ち数百ミリ秒〜1秒の間に衝突の危険を推定することにより予測して、予測される衝突を回避するため、又は衝突の結果を最小限にするために適切な反応を開始できなくてはならない。
このシステムは、車両の動的状態、車両のエンジンの回転数、運転者による種々の制御の位置、検出された歩行者に関する情報、例えば歩行者の大きさ、位置、又は速度を受信して、車両と歩行者の衝突が2つの時点t0とt0+ΔTの間に生じる危険を推定する。
【0003】
フランス特許出願FR2 864673号に記載されているように、確率に基づいて衝突を予測する方法では、現実的且つ適切なモデルに基づいて車両及び歩行者の将来の軌道を生成することが必要であり、次にタイムステップを進めるたびに、各状態変数が、確率と関連付けられる一連の値を採ることにより危険を定量化することができると仮定することにより、衝突が発生するかどうかを試験する必要がある。このような定量化は、モンテカルロシミュレーション法により行なうことができ、この方法は、例えばE. A. JOHNSON, L. A. BERGMAN及びB.F. SPENCERによる"Intelligent Monte Carlo Simulation and Discrepancy Sensitivity"と題される論文に記載されており、これはP. D. Spanos(編)のComputational Stochastic Mechanics, Balkema, Rotterdam, 1999, 31-39において発行されている。
このような定量化は、
−衝突の特徴を評価したいと考える状況を起点とする車両の軌道と歩行者の軌道の対に対応する初期個数Nの粒子を図表化するステップであって、これらの粒子の状態が、システムの障害物を検出するセンサによって供給される測定値及び推定値に基づいているステップ、
−これらの粒子の軌道を予測するステップ、及び
−次いで、個別のタイムステップについて、車両と、歩行者に対応する各粒子の間に衝突が発生するかどうかを試験するステップ
からなる。
【0004】
簡易的なモンテカルロシミュレーションの場合、一対の軌道に対応するN個の粒子の各々iに対し、粒子全体に均一に、シミュレーションの期間ΔTを通じて重みp=1/Nを割り当てる。時点t0とt0+ΔTの間の衝突の確率Pimpactを推定するためには、シミュレーションが衝突で終了するこれら粒子に割り当てられた重みを合計するだけで十分である。衝突までの時間は、衝突で終了する軌道の衝突までの時間の平均を取得することにより推定することができる。歩行者の軌道の進行に割り当てられる不確実性さは、確率分布によって定量化される。多数のシナリオが、シミュレーションの間に、疑似ランダム番号生成器を援用して生成され、次いで各軌道の対の結果又は粒子の結果が評価される。衝突が発生する場合、特徴を保存し、次に軌道の組の結果に統計を適用することにより、衝突を表わす種々のデータの分布、即ち衝突までの時間、衝突ゾーン、衝突速度、及び衝突の確率の分布を推定することができる。
モンテカルロシミュレーション法を使用する現在の確率論的衝突予測手順の欠点は、計算にパワーを要することに関連し、結果の精度を下げない限り、リアルタイムで利用することができないことである。更に、引用した先行技術において4つの個別の状態に基づく歩行者の軌道モデルが開発されており、軌道の数Nが100より大きい場合、このような予測方法はリアルタイム機能を保証できない。
【0005】
本発明の目的は、車両と歩行者との衝突の確率論的な予測方法を向上させることである。
この目的を達成するために、本発明の第1の課題は、車両と、検出される移動中の歩行者との衝突を予測する方法であり、本方法は、車両モデル及び複数の個別の状態を有する歩行者モデルに基づいて、更には車両及び歩行者の初期位置と、車両及び歩行者それぞれの運動状態に関する情報に基づいて衝突の特徴が評価される状況を原点とする、車両の軌道と歩行者の軌道の対を表わすN個の粒子を生成するフェーズと、その後、各粒子の結果を評価するフェーズとを含み、粒子の状態空間を、各粒子に付与される注目度に直接関連付けられ、且つ前記粒子の現在の運動状態に応じた数値として定義される異なる重要度を表わす複数のゾーンにスライスすること、及び、試験された粒子に衝突が発生しないと予測される場合、直前の時点での粒子の重要度に対する現時点での粒子の重要度の比を計算し、粒子の重要度が増大している場合は新規の重みを割り当てた各粒子の数を2以上の整数nに低減することを決定し、粒子の重要度が低下している場合は、粒子が残存する確率が重要度の比に等しくなるように、前記粒子をランダムに除外することを決定し、その後、N個の粒子の組の結果に統計を適用することにより、衝突の確率の推定値、及び前記予測される衝突の特徴を取得することを特徴とする。
【0006】
有利には、本発明では、車両と歩行者の衝突の予測値を計算することにより、リアルタイムで結果を得ることが可能である。
衝突を予測する本方法の別の特徴によれば、車両の前面に連結された瞬時の正規直交基準座標系に基づく車両前面の空間のスライスは、車両と歩行者の相対的距離に基づいて行ない、車両のバンパーの中央を中心とし、バンパーを直径とする円環の形状に重要度ゾーンを定義する。
【0007】
衝突を予測する本方法の別の特徴によれば、車両の前面に連結された瞬時の正規直交基準座標系に基づく車両前面の空間のスライスは、車両に起因する相対速度の長さ方向成分と、歩行者の速度と見なされる相対速度の横方向成分に基づいて行ない、車両のバンパーの中央を中心とし、半短軸を縦座標軸上に、半長軸を横座標軸上に有する楕円の形状に重要度ゾーンを定義する。
衝突を予測する本方法の別の特徴によれば、車両の前面に連結された瞬時の正規直交基準座標系に基づく車両前面の空間のスライスは、粒子のライフタイムの値に従って、又はシミュレーションの各時点tiにおいて、歩行者の長さ方向の位置が車両の前面と同じになるまでに要する追い越し前の時間に従って行ない、このライフタイムが短い程ゾーンの重要度が高まり、次いで歩行者の長さ方向の位置と速度のみを考慮して、縦軸に平行な帯の形状に重要度ゾーンを定義する。
【0008】
衝突を予測する本方法の別の特徴によれば、車両の前面に連結された瞬時の正規直交基準座標系に基づく車両前面の空間のスライスは、車両の基準座標系の軸Ox及びOyによって定義される平面内で、歩行者の長さ方向位置xに対する横方向位置yの比により得られる歩行者の角度位置を考慮することにより行ない、原点0を持ち、横座標軸Oxに対し、これら2つの位置の比の逆正接に等しい角度θ=arc tan(y/x)を形成する複数のセクターの形態に重要度ゾーンを定義する。
衝突を予測する本方法の別の特徴によれば、車両の前面に連結された瞬時の正規直交基準座標系に基づく車両前面の空間のスライスは、歩行者の横方向速度に対する長さ方向速度の比の逆正接により、又は
α=arctan (Vped/Vveh)
により表わされる、車両の速度に対する歩行者速度の比の逆正接により得られる、車両に対する歩行者の相対速度の方向に基づいて行い、高さを横座標軸Ox上に、底辺を縦座標軸Oyに有し、
α=arctan (Vped/Vveh)
により表わされる、車両速度に対する歩行者速度の比の逆正接により定義される頂角αを有する二等辺三角形の形態に重要度ゾーンを定義する。
【0009】
衝突を予測する本方法の別の特徴によれば、前記方法は、
−車両の初期運動状態及び歩行者の初期運動状態を決定し、続いてそれぞれ重みを割り当てられ、時点(ti)における車両及び歩行者のシミュレーション軌道の対に対応する(Ni)個の粒子を生成し、これらの各々の運動状態をシミュレーションし、その後初期状態と比較するステップ、
−衝突が発生する場合、考慮される粒子kを除外して、次の粒子k+1からNi番目の粒子までのシミュレーションを継続する前に、衝突の特徴を推定して保存するステップ、
−衝突ゾーンから、衝突を発生することなく出る場合、粒子を除外して、次の粒子k+1からNi番目の粒子までのシミュレーションを継続する前に軌道kの特徴を保存するステップ、
−衝突が発生しない場合はシミュレーションが終了しなかったことを確認し、一方衝突が発生することなくシミュレーションが終了した場合は、最後の軌道を保存し、粒子を除外してシミュレーションを再度継続するステップ、
−衝突が発生せず、粒子kが残っている場合、状態空間における時点tiでの粒子の新規状態に関連付けられる重要度の値の、直前の時点ti−1での同値に対する比(βi,k)を計算し、その後この比を1と比較して、
・βi,kが1に等しい場合、この軌道kに対する注目度が高まることはなく、本方法はシミュレーションされる次の軌道k+1に進み、
・βi,kが1より小さい場合、注目度がゼロの粒子を「ロシアンルーレット」のステップによってランダムに除外し、粒子が残る場合に粒子に新規の重みpkを割り当て、
・βi,kが1より大きい場合、重要と考えられる粒子を「スプリッティング」のステップによってn(k)個の新規粒子に低減し、各新規粒子に対して重要な粒子kの重みとは異なる重みを割り当て、これらの粒子を次の時点ti+1で処理するステップ、並びに
−Ni個の粒子の全てが処理されたことを確認した後、衝突の確率、及び発生し得る衝突の特徴を、保存された重みに関する統計に基づいて推定するステップ
を含むことを特徴とする。
【0010】
本発明の第2の課題は、車両と検出された移動中の歩行者との衝突を予測する方法を実行するための車両搭載式システムであって、本システムは、車両の周りの障害物を検出する手段を備え、前記検出手段は、車両及び歩行者の位置及び速度を推定する手段と、車両/歩行者衝突予測手段とに接続されており、この予測手段は更に、車両のコントロール機器に接続されるセンサのパーツ上に前記システムを装備する車両の運動に関する情報を受信し、この衝突予測手段は検出された各障害物に、衝突の確率、衝突までの時間、予想衝突ゾーン、及び可能であれば衝突時の速度を関連付け、各障害物に関するこれらの情報を、位置が確定された歩行者を保護するために、システムが緊急時に適用しなければならない最適な対策を選択する手段に送出する。
本発明の他の特徴及び利点は、添付図面に例示する方法についての説明により明らかになる。
【実施例】
【0011】
本発明による車両と移動中の歩行者との衝突を予測する方法は確率的方法であり、歩行者の軌道モデルの各状態変数は、確率に関連付けられる一連の値を採ることができるので、危険を定量化することが可能になる。本方法の目的は、所定の車両と歩行者の状況に関し、ΔTを予測期間とする場合の現時点t0と予測限界時点t0+ΔTの衝突の確率を推定することであり、更に衝突の特徴、即ち特に、衝突までの時間、衝突ゾーン、及び特に衝突速度を推定することである。
本発明によれば、本方法では、種々の粒子の軌道の全てが同じ注目度を示す訳ではないことを考慮する。車両と歩行者の衝突を予測する場合、衝突ゾーンから遠く離れて位置する粒子であって、例えば車両の全部から30メートル超の距離の位置を横切る歩行者に対応する粒子は、衝突ゾーンの近傍に位置する粒子より遥かに注目度が低い。このような理由によりンテカルロ型の軌道シミュレーションによって危険の定量化が行なわれ、本発明による方法は、複数の状態に重要度サンプリングを適用してシミュレーション性能を高める「スプリッティング」又は「ロシアンルーレット法」のような分散低減法を使用する。
【0012】
本方法は、まず、それぞれが車両の軌道と歩行者の軌道の対に対応する初期数N個の粒子を生成するステップであって、これらの粒子の状態が、車両に取り付けられるシステムの歩行者検出センサから供給される測定値及び推定値によって変化するステップと、次いで、各粒子について各時点で、車両と歩行者との間に衝突が発生するかどうかを試験することによりN個の粒子を処理するステップを含む。その後、本方法では、各軌道の対の結果を評価し、一方で、衝突を起こしそうな粒子の個数を、これらの粒子の重み、位置、及び速度の特徴と一緒に保存し、他方で、衝突が発生しないと予測される場合に、各粒子に付与された「重要度」と呼ばれる注目度に直接関連する一つの数値を各粒子に各時点で割り当てる。この重要度は粒子の現時点の運動状態(位置、速度など)に応じて決まる。本方法では、前記粒子の重要度が変化する様子を図に表わして粒子の最終的な重みを計算する。この最終的な重みは、当該粒子が辿った重要度ゾーンに応じて決まる。最後に、シミュレーション期間における衝突の確率を推定するために、本方法では、シミュレーションが衝突で終了するこれらの粒子の重みを合計し、衝突までの時間、衝突ゾーン、又は衝突速度のような統計に基づいて予測される衝突の特徴を推定する。
従って、本発明の一つの特徴によれば、衝突が発生しない場合、本方法では、直前の時点での粒子の状態に対する現時点の粒子の状態の重要度の比βを計算する。
【0013】
直前の時点の状態の重要度に対する現時点での状態の重要度の比が1に等しい場合、本方法では、次の粒子に注目する。
歩行者の現時点の状態が当該歩行者の直前の時点の状態より重要である場合、本方法では、「スプリッティング」ステップ、即ち、重要度が増大している粒子を低減するステップを実行する。粒子を2以上の整数n個の新規粒子に分割し、各新規粒子に初期の粒子の重みをnで割った重みを割り当て、この新規重みを使用して衝突の確率の計算を行う。この個数nは、考察対象の粒子の重要度の比βの増加関数である。
【0014】
シミュレーションされる歩行者の現時点の状態の重要度が、当該歩行者の直前の時点の状態の重要度より小さい場合、本方法では、「ロシアンルーレット」ステップ、即ち注目に値しないと考えられる前記粒子をランダムに除外するステップを実行する。このときの粒子の残存確率pは、重要度の比βに等しい。2つの場合が生じ得る。即ち、粒子が残存し、衝突の確率に利用される当該粒子の重みに重要度の比βの逆数を乗算する場合か、又は粒子が消滅し、当該粒子の重みがゼロになって当該粒子の軌道が使用されなくなる場合である。
これら2つのステップを通して更なる偏りが導入されることを防ぐために、各粒子が他の粒子と共に構成するクラスタの合計質量、即ち衝突予測の最終計算に対する当該粒子の寄与を決定する一つの重みが各粒子に割り当てられる。場合によっては、クラスタをサンプリングし直して、粒子の個数N(t)がコンピュータの能力に応じて定義される最大個数Nmaxより大きい場合に、粒子の個数を上限値に収めることが必要となる。この上限値は通常、値256に選択することができる。
【0015】
車両と歩行者の衝突予測方法の例示的なフローチャートを図1に示して説明する。当該予測方法は、車両の初期運動状態EV(t0)及び歩行者の初期運動状態EP(t0)、即ちシミュレーションの初期時点t0での車両/歩行者それぞれの位置及び速度を決定する第1ステップe1)と、これに続いて、それぞれに重みpiが割り当てられるNi個の粒子を生成する第2ステップe2)であって、これらNi個の粒子が、時点ti−1での粒子の状態が判明しており、δtをサンプリングタイムステップとした場合の、時点ti=ti−1+δtにおいて車両及び歩行者にシミュレーションされるNi個の軌道の対に対応する第2ステップとを含む。
時点tiにおいてシミュレーションされるNi個の粒子の各粒子kについて、本方法では、ステップe3)において、車両のシミュレーション状態EV(ti)、及び歩行者のシミュレーション状態EP(ti)を生成し、次のステップe4)において、これらの2つの状態を比較し、区間[ti−1−ti]の間に衝突が発生するかどうか、どの時点で衝突が発生するか、又は衝突が生じないか、或いは歩行者が、歩行者と車両の前面との間に定義される衝突ゾーンから出たかどうかを判断する試験を行なう。この衝突ゾーンの定義を図3、4、及び5に示す。
【0016】
衝突が発生する場合、本方法は、衝突の特徴、特に予測される衝突の時点、衝突ゾーン、及び衝突の確率を推定するステップe5)を実行し、次にステップe6)でこれらの特徴を保存し、その後ステップe7)で考察対象の粒子kを除外して、次の粒子k+1からNi番目の粒子までシミュレーションを継続する。
衝突を全く発生することなく衝突ゾーンから出て行く場合、本方法では更に、前述の場合と同様に、ステップe6)において軌道kの特徴を保存し、その後ステップe7)で粒子を除外して、次の粒子k+1からNi番目の粒子までに対してシミュレーションを継続する。
【0017】
衝突が発生しない場合、本方法では、ステップe8)において、シミュレーションが終了しないこと、従って、ΔTをシミュレーションの限界値とする場合、シミュレーションの時点tiがt0+ΔTに等しくないことを実証する。衝突を発生することなくシミュレーションが終了した場合、前述の2つの場合と同様に、最後の軌道を保存し、粒子を除外して再びシミュレーションを継続する。
衝突が発生せず、且つシミュレーションが終了しない場合、故に粒子kは残存しており、本方法では、ステップe9)において、状態空間における時点tiでの粒子の新規状態に関連付けられる重要度Ii,kの値、並びに直前の時点ti−1でのこの粒子kの重要度の値に対する時点tiでの同粒子の重要度の比βi,kを計算する。この比βi,kによって、考察対象の粒子kの重要度の変化を測定することができ、よってその後、ステップe10)においてその値を1と比較する。比βi,kが1に等しい場合、この軌道は注目度の増大を示さず、本方法はシミュレーションされる次の軌道k+1に移る。比βi,kが1より小さい場合、本方法は、ステップe11)で「ロシアンルーレット法」を実行し、注目度がゼロの粒子をランダムに除外する。従って、粒子kは、ステップe7)において除外されるか、又は残存してステップe12)において新規の重みpkを割り当てられる。
【0018】
比βi,kが1より大きい場合、本方法はステップe13)で「スプリッティング」を実行し、重要度が高いと考えられる粒子をn(k)個の新規粒子に低減し、各新規粒子に、重要度の高い粒子kの重みとは異なる重みを割り当て、次に、これらの新規粒子を次の時点ti+1で処理する。新規のサンプリングステップが、粒子の個数を合理的な個数に保持するために必要になる場合がある。
「ロシアンルーレット法」又は「スプリッティング」を実行して得られる粒子は次のタイムステップで処理され、衝突で終了する粒子は保存され、統計用に使用される。これらの粒子の重みは、これらの粒子が除外されるまで保存される。
【0019】
ステップe14)において、Ni個の粒子の全てをシミュレーションで考察したことがシミュレーションによって確認されると、次のタイムステップで処理する必要のある粒子が存在することが確認されるので、ステップe15)において個数Ni+1が正になることが確認される。詳細には、例えば粒子の全てが時点ti又は直前の時点で衝突で終了する場合、次のタイムステップti+1で処理する必要のある粒子は全く存在しないことになるので、それ以上軌道をシミュレーションする必要はない。その後、本方法の最終ステップe16)では、衝突の確率、及び起こり得る衝突の特徴を、保存された結果に関する統計に基づいて推定する。時点t0とt0+ΔTの間における衝突の確率Pimpactを推定するために、本方法では、そのシミュレーションが衝突で終了する粒子に割り当てられる重みを合計する。
【0020】
図2は、例示的なモンテカルロシミュレーションである。この場合、車両の基準座標系に約250個(N≒250)の粒子が存在しており、当該基準座標系の原点0は車両のバンパーの中央部における衝突ゾーンの中心であり、図3に示すように、その横軸Oxは路面平面内で車両の前方に向かい、やはり路面平面に含まれる縦軸Oyは車両の右側から左側に向かう。図3は、車両A及び歩行者Pを上から見た概略図である。簡潔性及び再現性のため、軌道の予測は車両の瞬時正規直交基準座標系において行ない、衝突試験では歩行者の位置を車両の前面のこの基準座標系に移す必要がある。車両に対する歩行者の相対的な軌道に関し、車両の速度は普通歩行者の速度より大きく、本方法では、車両の前面のこの基準座標系において、歩行者の横座標は時間の経過とともに常に小さくなると考える。
車両の相対基準座標系における歩行者の軌道の結果は3種類、即ち、
−車両と歩行者の間で時点timpactに衝突が発生し、本方法が考察対象の粒子のシミュレーションを停止する場合、
−時点texit以降に歩行者が衝突ゾーンの後を通過するので衝突が発生せず、従って、歩行者がもはや衝突する危険がないので、この時点で本方法がシミュレーションを停止し、当該歩行者の横座標が負になる場合、及び
−衝突が発生しないが、車両の基準座標系における歩行者の相対位置の横座標が正のままであり、本方法が更に、歩行者の軌道をシミュレーションするフェーズをシミュレーション期間の限界値ΔTまで継続する場合
に分類することができる
【0021】
従って、衝突予測の期間ΔTは、これらの3つの種類の軌道結果に分類される事例の割合に応じて決まる。横座標が0に近い最初の2つの結果で終了する軌道の期間は、軸Oxに沿った歩行者の長さ方向の相対移動が、ほぼ車両の移動に起因すると認められる場合にほぼ等しい。これらの2つの場合では、粒子のライフタイムτはそれぞれ時点timpact及びtexitによって決まり、次式で表わされるように、長さ方向の相対距離xを車両の速度の平均Vvehで除した商に等しい。
τ=x/Vveh
全体の計算時間が等しい場合、τの値が小さくなる程粒子の個数Nは大きくなる。
【0022】
軌道の計算が期間ΔT全体に渡って行なわれる第3の事例では、タイムステップδtを細かくして計算を行なう必要は全くないので、計算時間の面でコストは高くない。
本発明は、歩行者と車両の前面との前面衝突の予測のみに関するものであり、車両の前面は、図3に示すように、車幅Lを寸法とするセグメントによってモデル化される。歩行者Pは、平均的歩行者の最大幅に等しい直径2R、及びこの平均的歩行者と同じ身長を有する円筒と見なされ、従って、図4に示すように、車両Aの前面を表わすセグメントと、歩行者Pの包絡線を表わす円盤との交点に対応する車両/歩行者衝突ゾーンを定義することができる。図4は、車両と歩行者との前面衝突の、幾何学的なモデル化の一例である。例えば、直径2Rは60cmに等しい。
【0023】
3つの状況を説明する。
・車両の前面が歩行者の最大部分と重複する場合に衝突が発生する(斜線ゾーンC)。
・歩行者のモデルと前面が重複しない場合は衝突が発生しない。
・歩行者を取り囲む円の半分未満が前面によって切断される場合、衝突の発生が不確実である(ドットゾーンB)。
不確実ゾーン内では、衝突種類の大きさに関する関数を定義することができ、この関数は0(衝突無し)〜1の値を連続的に採る。すると、衝突というコンセプトは、定義される閾値を超過した状態に対応する。衝突の重要度又は大きさにこのように重み付けすることができるということは、実際のシステムを評価する場合に非常に有効となり得る。自明なことであるが、車両の前面の中央部で起こる衝突を予測することは、左側又は右側のエッジで起こる前面衝突を予測することより簡単である。
【0024】
衝突ゾーンの2つの変形定義を図5及び4に示す。これらの定義はそれぞれ、単純衝突ゾーン及び「詳細」衝突ゾーンを描いたものである。不確実ゾーンのない単純衝突ゾーンZsは、幅が2Rに等しく、長さが車両の幅Lと歩行者モデルの直径2Rの合計に等しい矩形である。「詳細」衝突ゾーンZfは、長さL及び幅2Rの矩形の両端部に、半径Rの半円を繋ぎ合わせた形状である。
車両と歩行者との衝突を予測する試験では、計算による衝突の確率を、通常70〜95%である一つの閾値と比較する。pを衝突の確率とする場合、従来のモンテカルロシミュレーション法によるこの確率の推定値の分散はp.(1−p)/Nに等しく、Nは描画される粒子の個数であり、検出閾値近傍のこの分散は比較的大きい。本発明の基本的な特徴によれば、本方法では、重要度の高いゾーンに一つの粒子が入ると当該粒子が低減され、逆に当該粒子が重要度の低いゾーンに入ると、当該粒子を「ロシアンルーレット法」によってランダムに除外することができるように、重要度領域又は重要度ゾーンを定義する。前面の基準座標系における車両と歩行者の状況に関する種々の基準によって、重要度ゾーンが様々にスライスされる。
【0025】
図6〜11は、車両が均一な直線運動を行なう場合の重要度ゾーンの非制限的な実施例を示し、車両の前面の空間は、例えば衝突の予想危険度に関連する3つのゾーン、即ち、「衝突が発生する」ゾーン、「衝突が発生しない」ゾーン、又は「衝突の発生が不確実な」ゾーンに従ってスライスされている。
図6の実施例は、車両の前面の空間の、車両の前面に連結される瞬時正規直交基準座標系に基づくスライスを示しており、このスライスは、車両と歩行者の相対距離にのみ基づいて、車両及び歩行者の相対速度を考慮せずに行なわれている。従って、車両のバンパーの中央部を中心とする円環形のゾーンが描かれ、円環の直径はバンパーとなっている。車両のバンパーの両端に対応する縦軸座標+Yimpactと−Yimpactの間に位置する第1の半円形のゾーンS1は、衝突yが確実であるため高い重要度I1を表わす。第1の半円ゾーンS1に続き、不確実な衝突に対応する縦軸座標+Yuncと−Yuncの間に位置する第2の円環ゾーンS2は最高の重要度I2を表わす。例えば、車両速度Vvehと0.5秒の積に等しい歩行者Pの横軸座標に対応する外側半径x3(x3=0.5*Vveh)を有する第3円環ゾーンS3は、I1より小さい重要度I3を表わす。更に小さい重要度I4を表わし、車両速度Vvehと1秒の積に等しい歩行者Pの横軸座標に相当する外側半径x4(x4=1*Vveh)を有する第4ゾーンS4、及び横軸の正座標を含む半平面の残りの部分に対応する第5ゾーンS5を定義することも可能である。
【0026】
相対速度の長さ方向成分が車両に起因して発生し、且つ相対速度の横方向成分が歩行者の速度と見なされると仮定する場合、重要度ゾーンは、図7に示すように、車両のバンパーの中央部を中心とする楕円に従ってスライスされる。第1の楕円E1は、縦軸座標Yimpactを半短軸とし、縦軸座標Yimpactに車両速度と歩行者速度の比を乗じた積、即ちYimpact*Vveh/Vpedを半長軸とする。第2の楕円E2は、縦軸座標Yuncを半短軸とし、縦軸座標Yuncに車両速度と歩行者速度の比を乗じた積、即ちYunc*Vveh/Vpedを半長軸とし、最高の重要度を表わす。第3のゾーンE3は、横軸の正座標を含む半平面の残りの部分に相当する。
速度の関数として距離に対する条件を適合させるため、本方法は、車両の前面に連結される瞬時正規直交基準座標系に従って車両の前面の空間を、シミュレーションの各時点tiにおける粒子のライフタイムτの値に従ってスライスすることを提案する(図8参照)。このライフタイムτは、歩行者の長さ方向の位置が車両の前面と一致するまでの時間とも呼ぶことができる。このライフタイムτが短い程、ゾーンの重要度は高くなる。この場合、歩行者の長さ方向の位置x、及び当該歩行者の速度Vpのみを考慮する。従って、図8では、重要度ゾーンは縦軸に平行な帯状の形態を有し、重要度が高いゾーンZ1は0〜0.5秒のライフタイムτ1に相当し、車両に最も近接して位置しており、Z1より重要度が低い第2ゾーンZ2は0.5〜1秒のライフタイムτ2に対応し、第3ゾーンZ3は1〜2秒のライフタイムτ3に位置し、最後のゾーンZ4は横軸の正座標を含む半平面の残りの部分に相当する。
【0027】
図9の実施例では、空間のスライスは、車両の基準座標系の軸Ox及びOyによって定義される平面内での歩行者の角度位置を考慮することにより行なわれ、この角度位置は当該歩行者の長さ方向の位置xに対する当該歩行者の横方向の位置yの比により得られる。重要度ゾーンは、横座標軸Oxと、これらの2つの位置の比の逆正接に等しい角度θ=arc tan (y/x)を形成する、原点を0とするセクターによって定義される。この角度が大きい程重要度が小さく、セクターの数が多いほど、重要度を連続的に変化させることができる。
図10の実施例では、空間のスライスは、車両に対する歩行者の相対速度の方向に基づいて行なわれ、相対速度の方向は、当該歩行者の横方向速度に対する長さ方向速度の比の逆正接により、又は以下の式に示すように車両速度Vvehに対する歩行者速度Vpedの比の逆正接により得られる。
α=arctan (Vped/Vveh)
【0028】
重要度ゾーンは、高さh1を横座標軸Oxに有し、底辺を縦座標軸Oyに有し、以下の式に示すように、頂角αが、車両速度Vvehに対する歩行者速度Vpedの比の逆正接により定義される二等辺三角形によって定義される。
α=arctan (Vped/Vveh)
第1のゾーンA1は2Yimpactに等しい底辺を有し、Yimpactに歩行者速度に対する車両速度の比を乗じて得られる積を高さh2とし、軸Oxと、α=arctan (Vped/Vveh)によって定義される角度αを形成する。第1ゾーンの重要度I1は大きい。第2ゾーンA2は2Yuncに等しい底辺を有し、Yuncに歩行者速度に対する車両速度の比を乗じて得られる積を高さとし、その重要度は最高である。第3ゾーンA3は横軸の正座標を含む半平面の残りの部分に相当し、その重要度は第1ゾーンの重要度より小さい。
【0029】
これまでに説明したこれらの基準は、遭遇する種々の事例の一部にのみ有効であるので、これらの重要度スライス法を組み合わせることが好ましい。例えば、本方法は決定論的予測を利用するので、粒子のライフタイムτと縦座標y*とを同時に使用することになる。縦座標y*は、歩行者の長さ方向位置がゼロになるときの歩行者Pの横方向位置を推定し、且つ図11に示すように、次式によって定義される:
y* = y + τ*Vyped
ここで、Vypedは歩行者の横方向速度である。
3つの重要度レベルをy*の絶対値の関数として定義することができる。
−|y*|<yimpactの場合、重要度が高く、
−yimpact≦|y*|≦Yuncの場合、重要度が最高であり、
−Yunc<|y*|の場合、重要度が低下し、最初の場合より小さくなる。
【0030】
車両と検出対象歩行者との衝突を予測する本方法を実行するために、車両に搭載される実行システムは、車両の周囲の障害物を検出する手段を備えており、この検出手段は、車両と歩行者の位置及び速度を推定する手段と、車両/歩行者衝突予測手段とに接続されており、車両/歩行者衝突予測手段は更に、車両のコントロール機器に接続されるセンサのパーツに前記システムを装備する車両の運動に関する情報を受信し、この衝突予測手段は、検出された各障害物に対し、衝突の確率、衝突までの時間、予想される衝突ゾーン、及び可能であれば衝突時の見込み速度を関連付け、位置が特定された歩行者を保護するためにシステムが緊急時に行わなければならない最適な対策を選択する手段にこれらのパラメータを送出する。
フランス特許出願FR03 15548号に記載されている、区分的に決定論的な4つの状態を持つ歩行者モデルにより、軌道のランダムな成分が判明しているとき、歩行者の軌道、従って所定の時点での歩行者の位置を分析的に表現することができる。この特性によって、軌道予測期間ΔTに亘って生成される通過ポイントの個数、つまり実施する衝突試験の回数を大幅に減らすことができる。高精度のモンテカルロ計算と、「スプリッティング」又は「ロシアンルーレット法」による分散の低減とを組み合わせた歩行者モデルのこれらの特定の機能は、正しい予測と誤アラームの割合という点で極めて高い性能を保証するモデルの品質を保持しながら、リアルタイムでの使用を可能にする。これまでの解決法とは異なり、本発明による方法では必要な情報が少なく、例えば車両からの歩行者の距離のみが必要であり、特に歩行者の速度の方向は必要でない。これによって、負荷及び電力、従って専用電子コンピュータのサイズ及びコスト、並びに付属センサのサイズ及びコストを小さくすることができる。
【0031】
歩行者を保護するための事前衝突回避型システムにおいて、予測される衝突まで時間の推定を衝突予測に関連付けることによって、運転者及び/又は歩行者が状況の重大性を見積もることができるか、或いは防止対策が自動的に作動する。運転者及び/又は歩行者に警告を発して、運転者及び歩行者が、軌道修正、非常ブレーキ等による回避処置又は衝突速度の低減を図ることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】車両と歩行者の衝突予測方法の非制限的例示的なフローチャートである。
【図2】車両の基準座標系にN個の粒子を使用するモンテカルロシミュレーション法の非制限的な一実施例である。
【図3】車両及び歩行者を上から見た直交基準座標系における概略図である。
【図4】車両と歩行者との前面衝突の幾何学的なモデル化の一実施例である。
【図5】衝突ゾーンの定義の一変形例である。
【図6】重要度ゾーンの非制限的な一実施例である。
【図7】重要度ゾーンの別の非制限的な一実施例である。
【図8】重要度ゾーンのまた別の非制限的な一実施例である。
【図9】重要度ゾーンのまた別の非制限的な一実施例である。
【図10】重要度ゾーンのまた別の非制限的な一実施例である。
【図11】重要度ゾーンのまた別の非制限的な一実施例である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両と検出された移動中の歩行者との衝突を予測する方法であって、車両の軌道と歩行者の軌道の対を表わすN個の粒子を生成するフェーズであって、前記対は、車両モデル及び複数の個別の状態を持つ歩行者モデル、車両及び歩行者の初期位置、並びに車両及び歩行者それぞれの運動状態に関する情報に基づいて衝突の特徴が評価される状況を起点としているフェーズと、続いて各粒子の結果を評価するフェーズとを含み、粒子の状態空間を重要度の異なる複数のゾーンにスライスし、重要度は、各粒子に付与される注目度に直接関連付けられる数値によって定義され、且つ前記粒子の現在の運動状態に応じて決定されること、並びに、衝突が発生しないことが予測される場合、直前の時点での粒子の重要度に対する現時点での粒子の重要度の比(β)を計算し、粒子の重要度が増大している場合、粒子を2以上の整数n個の粒子に低減し、各粒子に新規の重みを割り当てることを決定し、粒子の重要度が低下する場合、前記重要度の比の関数として、粒子が残存する確率が重要度の比(β)に等しくなるように粒子を除外することを決定し、その後、N個の粒子の組の結果に統計を適用することにより、衝突の確率の推定値、及び前記予測される衝突の特徴を取得することを特徴とする、衝突予測方法。
【請求項2】
車両の前面に連結する瞬時正規直交基準座標系に基づいて車両の前面の複数の重要度ゾーンに空間をスライスすることを、車両と歩行者との間の相対距離に基づいて行ない、重要度ゾーンを、車両のバンパーの中央を中心とし、バンパーを直径とする円環の形状に定義することを特徴とする、請求項1記載の衝突予測方法。
【請求項3】
車両の前面に連結する瞬時正規直交基準座標系に基づいて車両の前面の複数の重要度ゾーンに空間をスライスすることを、車両に起因する相対速度の長さ方向成分と、歩行者の速度と見なされる相対速度の横方向成分とに基づいて行ない、重要度ゾーンを、車両のバンパーの中央を中心とし、半短軸を縦座標軸に、半長軸を横座標軸に有する楕円形状に定義することを特徴とする、請求項1記載の衝突予測方法。
【請求項4】
車両の前面に連結する瞬時正規直交基準座標系に基づいて車両の前面の複数の重要度ゾーンに空間をスライスすることを、粒子のライフタイム(τ)の値か、又はシミュレーションの各時点(ti)において、歩行者の長さ方向位置が車両の前面と一致するまでに要する時間に従って行うこと、並びに、このライフタイム(τ)が短い程ゾーンの重要度が高まるように、歩行者の長さ方向位置(x)と速度(Vp)のみを考慮して、重要度ゾーンを縦軸に平行な帯の形状に定義することを特徴とする、請求項1記載の衝突予測方法。
【請求項5】
車両の前面に連結する瞬時正規直交基準座標系に基づいて車両の前面の複数の重要度ゾーンに空間をスライスすることを、車両の基準座標系の軸(Ox及びOy)によって定義される平面内で、歩行者の長さ方向位置(x)に対する横方向位置(y)の比により得られる歩行者の角度位置を考慮することにより行ない、重要度ゾーンを、原点を(0)とし、横座標軸(Ox)に対して、これらの2つの位置の比の逆正接に等しい角度θ=arc tan (y/x)を形成するセクターの形状に定義することを特徴とする、請求項1記載の衝突予測方法。
【請求項6】
車両の前面に連結する瞬時正規直交基準座標系に基づいて車両の前面の複数の重要度ゾーンに空間をスライスすることを、歩行者の横方向速度に対する長さ方向速度の比の逆正接を取ることによるか、又は次式:
α=arctan (Vped/Vveh)
により表わされる、車両速度(Vveh)に対する歩行者速度(Vped)の比の逆正接により得られる、車両に対する歩行者の相対速度の方向に基づいて行ない、重要度ゾーンを、高さを横座標軸(Ox)に、底辺を縦座標軸(Oy)上に有し、次式:
α=arctan (Vped/Vveh)
により表わされる、車両速度に対する歩行者速度の比の逆正接により定義される頂角(α)を有する複数の二等辺三角形の形態に定義することを特徴とする、請求項1記載の衝突予測方法。
【請求項7】
車両の前面に連結する瞬時正規直交基準座標系に基づいて車両の前面の複数の重要度ゾーンに空間をスライスすることを、決定論的予測に基づいて行ない、決定論的予測では、粒子のライフタイムτと、歩行者の長さ方向位置がゼロになるときの歩行者の横方向位置を推定する縦座標(y*)とを同時に使用し、縦座標(y*)は歩行者の横方向速度(Vyped)を用いて次式:
y* = y + τ*Vyped
によって定義され、3つの重要度レベルを、y*の絶対値の関数として、
−|y*|<yimpactの場合、重要度が高く、
−yimpact≦|y*|≦Yuncの場合、重要度が最高であり、
−Yunc<|y*|の場合、重要度が最初の条件の場合より低く
なるように定義することを特徴とする、請求項1記載の衝突予測方法。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか一項に記載の衝突予測方法であって、
−車両の初期運動状態[Ev(t0)]、及び歩行者の初期運動状態[Ep(t0)]を決定した後、それぞれが重み(pi)を割り当てられて、時点(ti)における車両及び歩行者のシミュレーションされた軌道の対に対応する(Ni)個の粒子を生成し、これらの各々について、運動状態[Ev(ti)]及び[Ep(ti)]をシミュレーションし、その後それらを初期状態と比較するステップ、
−衝突が発生する場合、考察対象の粒子を除外し、次の粒子からNi番目の粒子までシミュレーションを継続する前に、衝突の特徴を推定して保存するステップ、
−衝突を生じることなく衝突ゾーンから出て行く場合、粒子を除外し、次の粒子からNi番目の粒子までシミュレーションを継続する前に、考察対象の軌道の特徴を保存するステップ、
−衝突が発生しない場合はシミュレーションが終了しなかったことを確認し、一方衝突を生じることなくシミュレーションが終了した場合は、最後の軌道を保存し、粒子を除外してシミュレーションを再度継続するステップ、
−衝突が発生せず、考察対象の粒子が残っている場合、状態空間における時点(ti)での粒子の新規状態に関連付けられる重要度(Ii,k)の値の、直前の時点(ti−1)での同値に対する比(βi,k)を計算して、当該比を1と比較し、
・比βi,kが1に等しい場合、この軌道に対する注目度は増大せず、本方法は次のシミュレーション軌道k+1に進み、
・比βi,kが1より小さい場合、「ロシアンルーレット」ステップによって注目度ゼロの粒子をランダムに除外し、残存した粒子に新規の重み(pk)を割り当て、
・比βi,kが1より大きい場合、重要と考えられる粒子を「スプリッティング」ステップによって[n(k)]個の新規粒子に低減し、重要な粒子の重みとは異なる重みを各粒子に割り当て、これらの粒子を次の時点(ti+1)で処理するステップ、並びに
−Ni個の粒子の全てが処理されたことを確認した後、保存された重みに関する統計に基づいて、衝突の確率及び発生し得る衝突の特徴を推定するステップ
を含むことを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれか一項に記載の車両と検出された移動中の歩行者との衝突を予測する方法を実行するための、車両搭載式システムであって、車両及び歩行者の位置と速度を推定する手段と、車両/歩行者衝突予測手段とに接続された、車両の周りの障害物を検出する手段を備えており、前記予測手段が更に、車両のコントロール機器に接続されるセンサのパーツに前記システムを装備する車両の運動に関する情報を受信し、検出された各障害物に、衝突の確率、衝突までの時間、予想衝突ゾーン、及び可能であれば衝突時の見込み速度を関連付け、その後、各障害物に関する前記情報を、位置を特定した歩行者を保護するためにシステムが緊急時に適用しなければならない最適な対策を選択する手段に送出することを特徴とする、システム。
【請求項10】
衝突予測手段が、検出された各障害物に衝突速度を関連付けることを特徴とする、請求項9記載の実行システム。
【請求項1】
車両と検出された移動中の歩行者との衝突を予測する方法であって、車両の軌道と歩行者の軌道の対を表わすN個の粒子を生成するフェーズであって、前記対は、車両モデル及び複数の個別の状態を持つ歩行者モデル、車両及び歩行者の初期位置、並びに車両及び歩行者それぞれの運動状態に関する情報に基づいて衝突の特徴が評価される状況を起点としているフェーズと、続いて各粒子の結果を評価するフェーズとを含み、粒子の状態空間を重要度の異なる複数のゾーンにスライスし、重要度は、各粒子に付与される注目度に直接関連付けられる数値によって定義され、且つ前記粒子の現在の運動状態に応じて決定されること、並びに、衝突が発生しないことが予測される場合、直前の時点での粒子の重要度に対する現時点での粒子の重要度の比(β)を計算し、粒子の重要度が増大している場合、粒子を2以上の整数n個の粒子に低減し、各粒子に新規の重みを割り当てることを決定し、粒子の重要度が低下する場合、前記重要度の比の関数として、粒子が残存する確率が重要度の比(β)に等しくなるように粒子を除外することを決定し、その後、N個の粒子の組の結果に統計を適用することにより、衝突の確率の推定値、及び前記予測される衝突の特徴を取得することを特徴とする、衝突予測方法。
【請求項2】
車両の前面に連結する瞬時正規直交基準座標系に基づいて車両の前面の複数の重要度ゾーンに空間をスライスすることを、車両と歩行者との間の相対距離に基づいて行ない、重要度ゾーンを、車両のバンパーの中央を中心とし、バンパーを直径とする円環の形状に定義することを特徴とする、請求項1記載の衝突予測方法。
【請求項3】
車両の前面に連結する瞬時正規直交基準座標系に基づいて車両の前面の複数の重要度ゾーンに空間をスライスすることを、車両に起因する相対速度の長さ方向成分と、歩行者の速度と見なされる相対速度の横方向成分とに基づいて行ない、重要度ゾーンを、車両のバンパーの中央を中心とし、半短軸を縦座標軸に、半長軸を横座標軸に有する楕円形状に定義することを特徴とする、請求項1記載の衝突予測方法。
【請求項4】
車両の前面に連結する瞬時正規直交基準座標系に基づいて車両の前面の複数の重要度ゾーンに空間をスライスすることを、粒子のライフタイム(τ)の値か、又はシミュレーションの各時点(ti)において、歩行者の長さ方向位置が車両の前面と一致するまでに要する時間に従って行うこと、並びに、このライフタイム(τ)が短い程ゾーンの重要度が高まるように、歩行者の長さ方向位置(x)と速度(Vp)のみを考慮して、重要度ゾーンを縦軸に平行な帯の形状に定義することを特徴とする、請求項1記載の衝突予測方法。
【請求項5】
車両の前面に連結する瞬時正規直交基準座標系に基づいて車両の前面の複数の重要度ゾーンに空間をスライスすることを、車両の基準座標系の軸(Ox及びOy)によって定義される平面内で、歩行者の長さ方向位置(x)に対する横方向位置(y)の比により得られる歩行者の角度位置を考慮することにより行ない、重要度ゾーンを、原点を(0)とし、横座標軸(Ox)に対して、これらの2つの位置の比の逆正接に等しい角度θ=arc tan (y/x)を形成するセクターの形状に定義することを特徴とする、請求項1記載の衝突予測方法。
【請求項6】
車両の前面に連結する瞬時正規直交基準座標系に基づいて車両の前面の複数の重要度ゾーンに空間をスライスすることを、歩行者の横方向速度に対する長さ方向速度の比の逆正接を取ることによるか、又は次式:
α=arctan (Vped/Vveh)
により表わされる、車両速度(Vveh)に対する歩行者速度(Vped)の比の逆正接により得られる、車両に対する歩行者の相対速度の方向に基づいて行ない、重要度ゾーンを、高さを横座標軸(Ox)に、底辺を縦座標軸(Oy)上に有し、次式:
α=arctan (Vped/Vveh)
により表わされる、車両速度に対する歩行者速度の比の逆正接により定義される頂角(α)を有する複数の二等辺三角形の形態に定義することを特徴とする、請求項1記載の衝突予測方法。
【請求項7】
車両の前面に連結する瞬時正規直交基準座標系に基づいて車両の前面の複数の重要度ゾーンに空間をスライスすることを、決定論的予測に基づいて行ない、決定論的予測では、粒子のライフタイムτと、歩行者の長さ方向位置がゼロになるときの歩行者の横方向位置を推定する縦座標(y*)とを同時に使用し、縦座標(y*)は歩行者の横方向速度(Vyped)を用いて次式:
y* = y + τ*Vyped
によって定義され、3つの重要度レベルを、y*の絶対値の関数として、
−|y*|<yimpactの場合、重要度が高く、
−yimpact≦|y*|≦Yuncの場合、重要度が最高であり、
−Yunc<|y*|の場合、重要度が最初の条件の場合より低く
なるように定義することを特徴とする、請求項1記載の衝突予測方法。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか一項に記載の衝突予測方法であって、
−車両の初期運動状態[Ev(t0)]、及び歩行者の初期運動状態[Ep(t0)]を決定した後、それぞれが重み(pi)を割り当てられて、時点(ti)における車両及び歩行者のシミュレーションされた軌道の対に対応する(Ni)個の粒子を生成し、これらの各々について、運動状態[Ev(ti)]及び[Ep(ti)]をシミュレーションし、その後それらを初期状態と比較するステップ、
−衝突が発生する場合、考察対象の粒子を除外し、次の粒子からNi番目の粒子までシミュレーションを継続する前に、衝突の特徴を推定して保存するステップ、
−衝突を生じることなく衝突ゾーンから出て行く場合、粒子を除外し、次の粒子からNi番目の粒子までシミュレーションを継続する前に、考察対象の軌道の特徴を保存するステップ、
−衝突が発生しない場合はシミュレーションが終了しなかったことを確認し、一方衝突を生じることなくシミュレーションが終了した場合は、最後の軌道を保存し、粒子を除外してシミュレーションを再度継続するステップ、
−衝突が発生せず、考察対象の粒子が残っている場合、状態空間における時点(ti)での粒子の新規状態に関連付けられる重要度(Ii,k)の値の、直前の時点(ti−1)での同値に対する比(βi,k)を計算して、当該比を1と比較し、
・比βi,kが1に等しい場合、この軌道に対する注目度は増大せず、本方法は次のシミュレーション軌道k+1に進み、
・比βi,kが1より小さい場合、「ロシアンルーレット」ステップによって注目度ゼロの粒子をランダムに除外し、残存した粒子に新規の重み(pk)を割り当て、
・比βi,kが1より大きい場合、重要と考えられる粒子を「スプリッティング」ステップによって[n(k)]個の新規粒子に低減し、重要な粒子の重みとは異なる重みを各粒子に割り当て、これらの粒子を次の時点(ti+1)で処理するステップ、並びに
−Ni個の粒子の全てが処理されたことを確認した後、保存された重みに関する統計に基づいて、衝突の確率及び発生し得る衝突の特徴を推定するステップ
を含むことを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれか一項に記載の車両と検出された移動中の歩行者との衝突を予測する方法を実行するための、車両搭載式システムであって、車両及び歩行者の位置と速度を推定する手段と、車両/歩行者衝突予測手段とに接続された、車両の周りの障害物を検出する手段を備えており、前記予測手段が更に、車両のコントロール機器に接続されるセンサのパーツに前記システムを装備する車両の運動に関する情報を受信し、検出された各障害物に、衝突の確率、衝突までの時間、予想衝突ゾーン、及び可能であれば衝突時の見込み速度を関連付け、その後、各障害物に関する前記情報を、位置を特定した歩行者を保護するためにシステムが緊急時に適用しなければならない最適な対策を選択する手段に送出することを特徴とする、システム。
【請求項10】
衝突予測手段が、検出された各障害物に衝突速度を関連付けることを特徴とする、請求項9記載の実行システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公表番号】特表2009−505260(P2009−505260A)
【公表日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−526525(P2008−526525)
【出願日】平成18年7月10日(2006.7.10)
【国際出願番号】PCT/FR2006/050695
【国際公開番号】WO2007/020358
【国際公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【出願人】(503041797)ルノー・エス・アー・エス (286)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年7月10日(2006.7.10)
【国際出願番号】PCT/FR2006/050695
【国際公開番号】WO2007/020358
【国際公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【出願人】(503041797)ルノー・エス・アー・エス (286)
【Fターム(参考)】
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