説明

車両における非常ブレーキ過程の実行方法

【課題】簡単且つコスト的に有利に実行可能な手段を用いて車両における非常ブレーキ過程を実行する方法を提供する。
【解決手段】 車両における非常ブレーキ過程の実行方法において、非常事態の場合に、上昇されたブレーキ力を発生するためにブレーキ装置内の少なくとも1つの電気操作部が自動的に操作される。電気操作部には、該操作部の定格電圧を超える最大電圧が供給される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の上位概念に記載の車両における非常ブレーキ過程の実行方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
走行動的危険状況において、自動的に車両の安定化係合を行う、例えば電子式安定化プログラム(ESP)のようなドライバ支援装置が既知である。ドライバ支援装置が、それを介して係合される可能な手段に、車両のブレーキ装置内への係合が含まれ、この場合、ドライバ支援装置に対する主要求は、高い車両減速の急速な提供にある。通常、車両内に組み込まれている油圧ブレーキ装置において、このことは、できるだけ短い時間内に、車輪のロック圧力レベルに到達可能な高いブレーキ圧力が形成されなければならないことを意味する。しかしながら、昇圧動特性ないしは最大減速勾配は、ブレーキ回路内の油圧ポンプの提供可能な最大油圧供給能力によって制限される。
【0003】
しかしながら、特に事故状況において、きわめて急速且つ高いブレーキ昇圧が希望され、このために、それに対応する能力の油圧ポンプが必要となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、簡単且つコスト的に有利に実行可能な手段を用いて車両における非常ブレーキ過程を実行することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この課題は、本発明により、請求項1の特徴により解決される。従属請求項は適切な変更態様を与える。
【0006】
本発明による自動車における非常ブレーキ過程の実行方法は、電気操作部を操作したときにブレーキ装置内にブレーキ力が発生される、ブレーキ装置内の該電気操作部を前提とする。電気操作部は、制御/操作装置の操作信号を介して操作され、操作信号は、周辺情報ないしは実際車両状態の関数として発生される。周辺情報は、例えばレーダ・センサ、ライダ・センサまたは光センサを含む車両内の周辺センサ装置により提供されるか、または、ナビゲーション装置を介してあるいは車両間通信装置を介して外部から車両に供給される。車両内の慣性センサ装置により、少なくとも1つの電気操作部に対する操作信号の発生の基礎とされる実際状態変数が決定可能である。
【0007】
本発明による方法は、非常事態において、特に直後に差し迫っている事故または既に発生した事故の場合に実行される非常ブレーキ過程のみに関するものである。この状況において、事故被害を低減させるために、電気操作部は、制御/操作装置の操作信号を介して作動化される。
【0008】
非常ブレーキ過程の基礎となる非常事態は、上記のセンサ装置ないしは通信装置により特定される。非常ブレーキ過程の開始は、例えばエアバッグの解放のような事故状況を特徴づける他の装置の解放と結びつけることによっても可能である。
【0009】
本発明により、ブレーキ装置内の少なくとも1つの電気操作部に、正常運転において操作部内の電圧の最大値を表わす操作部の定格電圧を超える最大電圧が供給されるように設計されている。定格電圧は、少なくとも操作部の公称電圧と同じ大きさであるが、通常は操作部の公称電圧よりは大きい。
【0010】
ブレーキ装置内の電気操作部に定格電圧を超える最大電圧を供給することにより、目的とする操作部の過通電が行われ、これにより、希望のブレーキ力上昇動特性、即ち、できるだけ短い時間内の特定のブレーキ力の提供のみならず、希望の高さのブレーキ力レベルが達成される。この場合、過通電に基づいて電気操作部が損傷を受け且つ場合により過通電過程の終了後に電気操作部が機能性を失うことがあっても、それは許容される。事故の場合には、一般に車両の損傷を伴い、したがって、このような非常事態の場合は、電気操作部が機能性を失ってもこれは許容可能であり、その理由は、事故による損傷は、通常、操作部の過通電により発生された損傷よりもはるか大きいからである。いずれにしても、高いブレーキ力上昇動特性は、事故による損傷の低減に寄与可能である。
【0011】
本発明によるブレーキ装置内の電気操作部の過通電は、通常ではより大きい能力の電気操作部を用いてのみ達成可能な短時間のブレーキ力上昇動特性の提供を、少なくとも1回だけ可能にする。非常ブレーキ過程は特殊な状況であるので、過通電による操作部の損傷は許容される。したがって、より大きい能力の操作部の組込みは回避可能である。
【0012】
油圧ブレーキ装置の場合、電気操作部は、特に、油圧液を油圧ブレーキ回路内に希望の圧力で供給する油圧ポンプ内に組み込まれているかないしは該油圧ポンプを駆動する電気ポンプ・モータである。非常事態において、電気ポンプ・モータに、希望のより高いモータ出力を提供し且つこれによって油圧ブレーキ装置内により急速且つより高い昇圧を導く最大電圧が供給される。このようにして達成された油圧供給能力は、正常運転の場合における公称値をはるかに超えている。
【0013】
基本的に、直接的または間接的にブレーキ力上昇動特性に関与する車両ブレーキ装置内のその他の電気操作部もまた考慮される。例えば、電気的に操作可能なウェッジ・ブレーキまたは電動調節可能なブレーキ・シューを有するディスク・ブレーキもまた可能である。
【0014】
最大電圧を提供するためのエネルギー供給装置を確保するために、非常ブレーキ状況において接続される追加のエネルギー蓄積装置が設けられていてもよい。この場合、正常状況において電圧を供給するための車両内の正規の搭載電源と、非常事態において電圧を供給するための追加のエネルギー蓄積装置との間で、切換が行われるような設計が考慮可能であるのみならず、非常事態において、電圧が加算されるようにエネルギー蓄積装置が正規の搭載電源に重ねて接続されるような設計もまた考慮可能である。両方の変更態様は、通常の搭載電源が電圧供給のために利用可能であり、この搭載電源は、非常事態において電圧を供給するためにのみ追加のエネルギー蓄積装置分だけ補足されるにすぎないという利点を提供する。
【0015】
非常ブレーキ過程の実行方法は、制御/操作装置内において行われ、制御/操作装置内において、上記のように電気操作部を操作するための操作信号が発生される。制御/操作装置は、車両内に組み込まれ且つ車両内のドライバ支援装置の一部であってもよく、またはこのようなドライバ支援装置、例えば電子式安定化プログラム(ESP)と通信可能であってもよい。非常事態において、ドライバ支援装置を介して、電気操作部の過通電により自動的に、より急速且つより高いブレーキ力上昇動特性が達成される。
【0016】
その他の利点および目的に適った設計が、その他の請求項、図面の説明および図面から理解される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、前車軸ブレーキ回路および後車軸ブレーキ回路と、電気ポンプ・ユニットとを含む電子式安定化プログラムと、を有する車両ブレーキ装置の油圧回路図を示す。
【図2】図2は、車両内の正規の搭載電源を介して電圧が供給されるポンプ・モータであって、非常事態においてより高い電圧を供給するために追加のエネルギー蓄積装置が接続可能なポンプ・モータを該略図で示す。
【図3】図3は、正規の搭載電源と最大電圧用エネルギー蓄積装置との間で切換可能な、他の一実施態様におけるポンプ・モータ用電圧供給装置を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1の油圧回路図に示されているブレーキ装置1内の油圧ブレーキ装置は、前車輪の車輪ブレーキ装置8および9ないしは後車輪の車輪ブレーキ装置10および11に、油圧ブレーキ液を供給するための前車軸ブレーキ回路2および後車軸ブレーキ回路3を有している。両方のブレーキ回路2、3は、共通のマスタ・ブレーキ・シリンダ4に接続され、マスタ・ブレーキ・シリンダ4には、ブレーキ液貯蔵容器5を介してブレーキ液が供給される。マスタ・ブレーキ・シリンダ4は、ドライバによりブレーキ・ペダル6を介して操作され、ドライバにより与えられたペダル・ストロークは、ペダル・ストローク・センサ7を介して測定される。
【0019】
各ブレーキ回路2、3内に切換弁12が配置され、切換弁12は、マスタ・ブレーキ・シリンダ4とそれぞれの車輪ブレーキ装置8および9ないしは10および11との間の流路内に存在する。切換弁12は、その無通電基本位置において開放されている。各切換弁12に並列配置された逆止弁が付属され、逆止弁は、それぞれの車輪ブレーキ装置の方向に流動可能である。
【0020】
切換弁12とそれぞれの車輪ブレーキ装置8、9ないしは10、11との間に入口弁13が存在し、入口弁13もまた同様に無通電において開放され且つ入口弁13に逆止弁が付属され、逆止弁は、反対方向に、即ち車輪ブレーキ装置からマスタ・ブレーキ・シリンダ4の方向に流動可能である。
【0021】
各車輪ブレーキ装置8、9ないしは10、11にそれぞれ出口弁14が付属され、出口弁14は無通電において閉鎖されている。出口弁14はそれぞれポンプ・ユニット15の吸込側と結合され、ポンプ・ユニット15は各ブレーキ回路2、3内にポンプ18ないしは19を有している。ポンプ・ユニット15に電気駆動モータないしは電気ポンプ・モータ22が付属され、電気ポンプ・モータ22は、軸23を介して両方のポンプ18および19を操作する。ポンプ18ないしは19の圧力側は、ブレーキ回路ごとに、切換弁12と両方の入口弁13との間の配管部分に接続されている。
【0022】
ポンプ18および19の吸込側はそれぞれ主切換弁24と結合され、主切換弁24はマスタ・ブレーキ・シリンダ4に油圧接続されている。走行動特性制御係合において、急速なブレーキ昇圧のために、無通電状態において閉鎖されている主切換弁24が開放され、これにより、ポンプ18および19は、直接マスタ・ブレーキ・シリンダ4から油圧液を吸込可能である。このブレーキ昇圧は、ドライバによるブレーキ装置の操作とは無関係に実行可能である。両方の個々のポンプ18および19、電気ポンプ・モータ22および軸23を含むポンプ・ユニット15は、ドライバ支援装置に付属され且つ特に電子式安定化プログラム(ESP)を形成する。
【0023】
出口弁14とポンプ18および19の吸込側との間に、ブレーキ回路2、3ごとに貯液装置25が存在し、貯液装置25は、走行動特性係合の間に、出口弁14を介して車輪ブレーキ装置8、9ないしは10、11から排出されたブレーキ液を中間貯蔵するように働く。各貯液装置25に逆止弁が付属され、逆止弁はポンプ18、19の吸込側の方向に開放する。
【0024】
圧力測定のために、各ブレーキ回路2、3の車輪ブレーキ装置8、9ないしは10、11の範囲内に、それぞれ圧力センサ26が存在する。他の圧力センサ27が、マスタ・ブレーキ・シリンダ4に隣接してブレーキ回路2内に配置されている。
【0025】
図2および図3内に、電気ポンプ・モータ22の電圧供給装置が示されている。通常の場合、電気ポンプ・モータ22に、車両の搭載電源30を介して車両バッテリ32から公称電圧が供給される。公称電圧は、正常運転における電圧の最大値を表わす定格電圧の下側に存在する。電気ポンプ・モータ22にスイッチ31が付属され、スイッチ31を介してポンプ・モータは投入/遮断される。
【0026】
他のスイッチ35を介して、搭載電源と搭載電源内の分岐部との間で切換が行われ、分岐部にさらに電気エネルギー蓄積装置33が接続され、電気エネルギー蓄積装置33は上位調節器34を介して搭載電源と結合されている。電気エネルギー蓄積装置33に接続されたスイッチ35の位置において、電気ポンプ・モータ22に、定格電圧を超える最大電圧が供給される。しかしながら、この最大電圧の供給は、電気ポンプ・モータ22の過通電およびこれによるより高いモータ出力を達成するために、非常事態、特に直後に差し迫っている事故または既に発生した事故の場合においてのみ行われる。これは、短時間内により高い油圧が設定されるように油圧ブレーキ装置内の昇圧動特性を改善させる。
【0027】
図3に、一実施変更態様における電気ポンプ・モータ22のための電圧供給装置が示されている。正常の場合、電気ポンプ・モータ22に搭載電源30を介して車両バッテリ32から電圧が供給される。搭載電源30とは独立にエネルギー蓄積装置33が設けられ、エネルギー蓄積装置33に上位調節器34が付属されている。スイッチ35を搭載電源30から電気エネルギー蓄積装置33に切り換えることにより、公称電圧に比較してより高い最大電圧が利用可能であり、この最大電圧がポンプ・モータ22に供給される。
【0028】
図3に示す実施変更態様の利点は、搭載電源30とは独立に電気エネルギー蓄積装置33を設けることにある。この実施変更態様においては、搭載電源30内の修正は必要ではない。これとは異なり、図2に示す実施変更態様においては、電気エネルギー蓄積装置33は搭載電源30に接続されなければならないが、図2の実施例においては、最大電圧を達成するために、車両固有のバッテリ32のみならず電気エネルギー蓄積装置33もまた同時に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非常事態の場合に、上昇されたブレーキ力を発生するために車両ブレーキ装置内の少なくとも1つの電気操作部(22)が自動的に操作される、車両における非常ブレーキ過程の実行方法において、
前記電気操作部(22)に該操作部(22)の定格電圧を超える最大電圧が供給されることを特徴とする車両における非常ブレーキ過程の実行方法。
【請求項2】
前記電気操作部として、それを介してブレーキ力が形成される電動機(22)が使用されることを特徴とする請求項1に記載の実行方法。
【請求項3】
前記電動機(22)が、油圧液を供給するためのポンプ(18、19)を駆動することを特徴とする請求項2に記載の実行方法。
【請求項4】
前記最大電圧が、車両内の追加の電気エネルギー蓄積装置(33)から取り出されることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の実行方法。
【請求項5】
正常状況において電気操作部(22)に電圧を供給するための車両内の正規の搭載電源(30)と、非常事態において電圧を供給するための前記追加のエネルギー蓄積装置(33)との間で、切換が行われることを特徴とする請求項4に記載の実行方法。
【請求項6】
非常事態において、前記追加のエネルギー蓄積装置(33)が、車両内の正規の搭載電源(30)に接続されることを特徴とする請求項4に記載の実行方法。
【請求項7】
前記最大電圧が、事故状況においてのみ提供されることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の実行方法。
【請求項8】
前記事故状況が、車両内のセンサ装置、特に周辺センサ装置を介して特定されることを特徴とする請求項7に記載の実行方法。
【請求項9】
前記事故状況が、エアバッグの解放により特定されることを特徴とする請求項7または8に記載の実行方法。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれかに記載の方法を実行するための制御/操作装置。
【請求項11】
請求項10に記載の制御/操作装置を備えた、車両内のドライバ支援装置。
【請求項12】
請求項10に記載の制御/操作装置を備えた、車両内のブレーキ装置。
【請求項13】
油圧ブレーキ装置としての設計を特徴とする請求項12に記載のブレーキ装置。
【請求項14】
車両における非常事態において、前記電気操作部に電圧を供給するための追加のエネルギー蓄積装置(33)が設けられていることを特徴とする請求項12または13に記載のブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2013−508223(P2013−508223A)
【公表日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−535744(P2012−535744)
【出願日】平成22年10月20日(2010.10.20)
【国際出願番号】PCT/EP2010/065763
【国際公開番号】WO2011/054668
【国際公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(591245473)ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング (591)
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【Fターム(参考)】