説明

車両のディスクブレーキのブレーキパッド

ブレーキパッド(10)が、プラスチック材料からなる裏打ち板(12)と、裏打ち板(12)を覆って成型された摩擦ライニング(14)と、裏打ち板(12)に埋め込まれた金属製の補強板(16)とを備えている。裏打ち板(12)が、中実な周辺構造(18)と、複数の穴(22)を有する格子状の網状構造として形成された内部構造(20)とを備えており、穴(22)が、裏打ち板(12)の表面に一様に分布し、摩擦ライニング(14)の材料によって少なくとも部分的に満たされている。穴(22)の少なくとも一部が貫通穴として形成されることで、摩擦ライニング(14)が、貫通穴(22)へと延びて摩擦ライニング(14)と裏打ち板(12)との間の接着を改善する複数の柱(24)を形成している。貫通穴(22)の面積は、摩擦ライニング(14)の裏打ち板(12)に接する面とは反対側の面の面積の少なくとも4.5%に達する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に車両のディスクブレーキのためのブレーキパッドに関する。本発明は、車両のディスクブレーキへの適用に関して考え出され、以下でも車両のディスクブレーキへの適用に関して開示されるが、当然ながら、他の種類のブレーキにも、それらが裏打ち板と裏打ち板に取り付けられた摩擦ライニングとを備えるブレーキパッドを使用する限りにおいて、適用可能である。
【背景技術】
【0002】
現時点において、一般的に使用されている車両のディスクブレーキのブレーキパッドは、以下の構成要素、すなわち
・典型的には粉末状または粒状の材料から熱間または冷間プロセスによる成型および硬化によって得られる摩擦ライニングと、
・金属製であって、典型的には規格鋼(S235JRまたはS420MC鋼)からなり、打ち抜きの後に洗浄され、次いで摩擦ライニングとの接合面の表面を粗面化すべくサンドブラスト、ショットピーニング、または同様のプロセスが加えられることによって形成される裏打ち板と、
・典型的にはローラまたは吹き付けによって塗布され、摩擦ライニングの成型と同時に硬化または固化し、あるいはこのプロセスの後で硬化または固化する熱硬化性の有機接着剤の層と、
・典型的には鋼からなる中間層がゴムからなる1対の外側層の間に介装されているゴムと鋼とのサンドイッチで構成され、ブレーキパッドの鳴きを防止するとともに、制動時にブレーキパッドの摩擦ライニングとブレーキパッドが押し付けられるブレーキディスクとの間の摩擦に起因して生じる熱に対して絶縁体として機能する複合材料の薄いシートと、
・静電システムおよび/または流動床システムによって塗布されるアクリル系、エポキシ系、またはポリウレタン系の防食保護塗料の層と、
・許容される摩擦ライニングの最大摩耗レベルを表示してブレーキパッドの安全な動作を保証する摩耗表示装置と
で基本的に構成されている。
【0003】
金属製の裏打ち板を有するブレーキパッドの欠点の1つは、裏打ち板の製造および仕上げならびに後の摩擦材料の成型に向けた裏打ち板の準備に必要な工程の数が多い点にある。さらに、これらの工程の多くは、手作業によって行わなければならず、製造サイクル全体の時間および最終製品のコストの両方に大いに影響する。さらに、金属製の裏打ち板の使用は、放熱およびブレーキパッドの重量増大という問題を抱える。
【0004】
放熱およびブレーキパッドの重量増大の問題を解決するために、非金属材料(特に、プラスチック材料)からなる裏打ち板を有するブレーキパッドが提案されている。例えば、特許文献1は、熱硬化性プラスチック材料からなる裏打ち板と、この裏打ち板に接着された摩擦ライニングとを備えるディスクブレーキ用ブレーキパッドを提案している。裏打ち板に、裏打ち板の全表面を覆って広がり、裏打ち板のうちの摩擦材料で覆われていない部分を囲む金属製(特に、鋼製)の補強インサートが備えられ、この補強インサートのすべての面が、プラスチック材料によって囲まれている。この裏打ち板は、少なくとも摩擦ライニングとの接合面に、裏打ち板への摩擦ライニングの接合を改善するために、好ましくは格子状またはハニカム状である連続的な網状の表面形状を有している。プラスチック材料からなる裏打ち板の使用は、金属製の裏打ち板を有する従来のパッドと比べ、剛性および機械的強度は変わらないままでブレーキパッドの全体としての重量を大きく削減し、ブレーキパッドからブレーキキャリパおよびブレーキキャリパに組み合わせられた作動系への熱の伝達を抑え、制動時のブレーキパッドのうるさい鳴きまたはキーッという音を防止することを可能にする。しかしながら、上述のイタリア文献から公知のプラスチック材料からなる裏打ち板を備えるブレーキパッドは、制動時に生じて摩擦ライニングを裏打ち板から分離させようとするせん断応力ゆえに、裏打ち板への摩擦ライニングの接合に関して充分な保証をもたらしていない。さらに、上述のイタリア文献から公知のプラスチック材料からなる裏打ち板を備えるブレーキパッドにおいては、接着層を裏打ち板と摩擦ライニングとの間に塗布する必要があり、結果として製造時間およびコストが増大する。
【0005】
特許文献2は、裏打ち板と摩擦ライニングとを備えるディスクブレーキ用ブレーキパッドを開示しており、裏打ち板が、フレームおよびフレームによって囲まれた格子状の表面を備えている。摩擦ライニングが裏打ち板へと取り付けられるとき、裏打ち板の格子状の表面の縁が摩擦ライニングの材料へと食い込むことで、裏打ち板への摩擦ライニングの確実な接合が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】イタリア特許第1151653号明細書
【特許文献2】英国特許第1185179号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の目的は、プラスチック材料からなる裏打ち板を備える形式のブレーキパッドであって、従来技術よりも良好な摩擦ライニングと裏打ち板との間の接着を保証するブレーキパッドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的および他の目的は、添付の独立請求項1に記載の特徴を有するブレーキパッドによって充分に達成される。
【0009】
本発明の好都合な実施形態が、従属請求項に記載され、その内容は、以下の説明の不可欠かつ一体の一部分として意図される。
【0010】
要約すると、本発明は、プラスチック材料からなる裏打ち板と、この裏打ち板を覆ってモールド成型された摩擦ライニングとを備えるブレーキパッドであって、裏打ち板が、摩擦ライニングの裏打ち板に接する面とは反対側の面の面積の少なくとも4.5%に達する面積を占める複数の貫通穴を有しており、この裏打ち板の貫通穴が、摩擦ライニングの材料で少なくとも部分的に満たされているブレーキパッドを提供するという考え方にもとづいている。
【0011】
複数の貫通穴(そのような貫通穴は、上述のイタリア特許1151653号または英国特許1185179号のいずれにおいても設けられていない)が設けられたおかげで、裏打ち板へと成型される摩擦材料によって、裏打ち板への摩擦ライニングの接合を向上させるうえで役に立つ複数の柱が貫通穴に対応して形成される。
【0012】
好ましくは、裏打ち板が、中実な周辺構造またはフレームと内部構造とを備え、前記貫通穴が、例えば一様な分布にて前記内部構造に設けられる。
【0013】
好ましくは、裏打ち板の前記内部構造が、裏打ち板の摩擦ライニングに面する側において、裏打ち板の面に対して垂直な方向に前記周辺構造よりも突き出し、摩擦ライニングに作用して摩擦ライニングを裏打ち板から分離させようとするせん断応力に対してより大きな抵抗をもたらす。
【0014】
好ましくは、複数の貫通穴が、裏打ち板の前記内部構造を例えば格子の形状の連続的な網状構造として製作することで得られている。
【0015】
好ましくは、アンダーカットが、裏打ち板の貫通穴の各々に形成され、貫通穴内で摩擦材料によって形成された小さなブリッジ(bridge)を裏打ち板へと係止し、摩擦ライニングの裏打ち板への接合を改善するように機能する。
【0016】
好ましくは、ブレーキパッドが、裏打ち板に埋め込まれた金属製の補強板をさらに備える。
【0017】
好ましくは、補強板は、裏打ち板によって形成された複数の固定タブの各々が補強板の対応する部位を覆うことによって裏打ち板へと固定される。
【0018】
好ましくは、補強板が矩形の形状であり、裏打ち板が、補強板の4つの頂点に位置する4つの固定タブを形成している。
【0019】
好ましくは、裏打ち板が、補強板と裏打ち板との間にさらなる固定点をもたらすために、補強板の中央に設けられた対応する貫通穴に延びる固定柱を形成している。
【0020】
好ましくは、補強板が、裏打ち板の対応する貫通穴に整列させて配置され、貫通穴の形状と同一な形状を有しているさらなる貫通穴を有し、したがって摩擦材料が、裏打ち板の貫通穴だけでなく、補強板の貫通穴も埋める。これに関し、補強板の貫通穴は、裏打ち板への摩擦ライニングの接合をさらに向上させるアンダーカットが形成されるよう、好ましくは裏打ち板の対応する貫通穴よりも大きなサイズである。
【0021】
本発明によるブレーキパッドは、とりわけ、上述した先行技術に対して以下の利点を有する。
・裏打ち板と摩擦材料との間の接触面が大きくなる。
・摩擦材料の成型中または成型後に硬化する複数の柱が形成されることで、摩擦材料が裏打ち板の貫通穴の内側に恒久的に固定され、裏打ち板のための一種の骨組み(framework)が形成される。
・裏打ち板と摩擦ライニングとで形成された単一の物体が得られることで、裏打ち板の貫通穴に形成されたアンダーカットゆえに、摩擦材料を裏打ち板から分離させることが不可能になる。
【0022】
本発明のさらなる特徴および利点が、あくまでも本発明を限定するものではない例として添付の図面を参照しつつ提示される以下の詳細な説明から、さらに明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の好ましい実施形態による車両のディスクブレーキ用のブレーキパッドの摩擦ライニング側の斜視図である。
【図2】発明の好ましい実施形態による車両のディスクブレーキ用のブレーキパッドの補強板側の斜視図である。
【図3】摩擦ライニングを省略した図1および図2のブレーキパッドの摩擦ライニング側の平面図である。
【図4】摩擦ライニングを省略した図1および図2のブレーキパッドの補強板側の平面図である。
【図5】摩擦材料を省略した図1および図2のブレーキパッドの側面図である。
【図6】図1および図2のブレーキパッドの裏打ち板の貫通穴の内部に形成されたアンダーカット分を拡大して示す斜視図である。
【図7】図1および図2のブレーキパッドの裏打ち板の貫通穴と補強板の貫通穴との間に形成されたアンダーカットを概略的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図面を参照すると、特に車両のディスクブレーキ用であるブレーキパッドが、全体として10で指し示されており、プラスチック材料からなる裏打ち板12と、それ自身は公知の材料からなり、裏打ち板を覆って成型されている摩擦ライニング14とを備えており、好ましくは裏打ち板12に埋め込まれた金属製の補強板16をさらに備えている。
【0025】
裏打ち板12は、好ましくは熱可塑性ポリマーで製作される。なぜならば、これが熱硬化性ポリマーよりも成型(例えば、射出成型プロセスによる)に適したプラスチック材料だからである。裏打ち板12のためのプラスチック材料として使用するために特に適した熱可塑性ポリマーの例は、ポリエーテルケトンである。なぜならば、使用時のブレーキパッドが達する高い温度においても優秀な機械的特性を有するからである。しかしながら、裏打ち板の製造に、例えばフェノール樹脂などの熱硬化性ポリマーを使用することも可能である。より一般的には、裏打ち板において使用時に到達する最高温度よりも高い熱変形温度を有する任意のプラスチック材料が、裏打ち板のための材料としての使用に適すると考えられる。
【0026】
裏打ち板12は、中実な周辺構造またはフレーム18と、複数の貫通穴22を有する内部構造20とを一体に形成しており、複数の貫通穴22が、摩擦ライニング14の裏打ち板12に接する面とは反対側の面の面積の少なくとも4.5%に達する面積を占めている。貫通穴22は、好ましくは裏打ち板12の内部構造20の表面に一様に分布している。裏打ち板12に貫通穴22を設けることで、摩擦ライニング14を製作すべく裏打ち板へと成型される摩擦材料が、これらの穴を少なくとも部分的に満たすことで、複数の柱24を形成することができ、これらの柱24が、裏打ち板12への摩擦ライニング14の接合(制動時にブレーキパッドに加わり、摩擦ライニング14を裏打ち板12から分離させようとするせん断応力によって、危うくされる)を向上させるうえで役に立つ。
【0027】
図5の側面図において見て取ることができるとおり、好ましくは裏打ち板12の内部構造20が、摩擦ライニング14に面する周辺構造18の面から外側へと裏打ち板12の面に対して垂直な方向に突き出すことで、制動時に摩擦ライニング14に作用して摩擦ライニング14を裏打ち板12上で滑らそうとするせん断応力に対して、より大きな抵抗をもたらす。実際、摩擦ライニング14に面する周辺構造18の面から突き出している内部構造20の部位が、特に図1の斜視図から気付くことができるとおり、摩擦ライニング14の材料に完全に埋め込まれる。摩擦ライニング14に面する周辺構造18の面からの裏打ち板12の内部構造20の突き出しの量は、図面に示した実施形態(特に、図5を参照)の場合のように一定であっても、例えば一端において最大であって他端において最小となるようにブレーキパッドの長手方向(図3および図4においてXで示されている)に関して内部構造20の一端から他端へと線形に減少し、あるいは長手方向の両端において最大であって中央において最小となるように内部構造20の長手方向の両端から中央へと線形に減少するなど、変化していてもよい。
【0028】
裏打ち板12の内部構造20は、好ましくは連続的な網状の構造として製作され、特に平行かつ等間隔に位置する第1組のリブ26と、第1組のリブ26に対して斜めに延びる平行かつ等間隔に位置する第2組のリブ28とを有することで、菱形の貫通穴22を定めている格子状の網状構造として製作される。特に、図示の実施形態においては、第1組および第2組のリブ26および28が互いに直角に延びており、正方形の貫通穴22を定めている。さらに、図示の実施形態においては、第1組および第2組のリブ26および28が、長手方向Xに対して45°に延びている。しかしながら、網状の構造について、摩擦ライニング14の裏打ち板12に接する面とは反対側の面の面積の少なくとも4.5%に達する面積を占める複数の貫通穴を定める限りにおいて、多数の他の形状が考えられることは明らかである。貫通穴22の面積について特に好ましい値は、摩擦ライニング14の裏打ち板12に接する面とは反対側の面の面積の少なくとも40%に等しい。
【0029】
裏打ち板12への摩擦ライニング14の接合を改善するために、裏打ち板の貫通穴22各々に、例えば貫通穴の奥行きの約半分に位置して貫通穴の内周全体を巡って延びる突き出しリブとして形成されるアンダーカット30(図6)が設けられる。アンダーカット30は、裏打ち板12へと摩擦ライニング14を成型する際に貫通穴22における摩擦材料の流れを妨げることがないように形成され、かつ摩擦ライニング14の成型後に摩擦材料によって形成された柱24を貫通穴22に係止して、裏打ち板12の平面に垂直な方向の裏打ち板12からの摩擦ライニング14の分離に抗するように製造される。
【0030】
補強板16は、好都合には錆びない金属で製作され、補強板16を覆うように裏打ち板12のプラスチック材料を射出成型プロセスによって成型して得られる単一の部品を裏打ち板12と一緒に形成する。補強板16は、裏打ち板12において、摩擦ライニング14が配置される側とは反対側に配置される。補強板16は、裏打ち板12によって形成され、それぞれが補強板16の該当する部位を覆う複数の固定タブ32によって、裏打ち板12へと固定される。図示の実施形態においては、補強板16が矩形の形状であり、裏打ち板12が、補強板16の4つの頂点に位置する4つの固定タブ32を形成している。補強板16は、裏打ち板12によって形成されて補強板16の中央に設けられた対応する貫通穴36を延びる固定柱34によっても、裏打ち板12へと固定される。固定タブ32および固定柱34のどちらも、裏打ち板12を補強板16を覆うように成型する際に得られる。
【0031】
裏打ち板12の貫通穴22の一部は、一端が補強板16によって閉じられており、したがって補強板16は、裏打ち板に接するだけでなく、これらの閉じられた穴を満たす摩擦材料の柱とも接する。したがって、ブレーキピストンによってブレーキパッド10へと加えられる圧力が、裏打ち板14へと放出されるだけでなく、補強板16に接している摩擦材料の柱にも補強板16を介して放出され、結果として、特に裏打ち板12のプラスチック材料の軟化温度に近い動作温度において生じうる裏打ち板12の引っかき線または圧痕の発生が回避される。
【0032】
中央の貫通穴36に加え、補強板16は、裏打ち板12の対応する貫通穴22に整列させて配置され、貫通穴22の形状(図示の実施形態においては、正方形)と同一な形状を有しているさらなる貫通穴38を有しており、摩擦材料によって形成された柱24が、裏打ち板12の貫通穴22の内部だけでなく、補強板16の貫通穴38の内部にも延びている。補強板16のこれらの追加の貫通穴38が、裏打ち板12の対応する貫通穴22よりも大きなサイズであることで、裏打ち板12への摩擦ライニング14の固定を助けるアンダーカット40(図7)が形成される。
【0033】
図4の平面図に示されるように、裏打ち板12は、摩耗インジケータ(それ自身は公知であり、図示されていない)をはめ込むことができるように構成された好ましくは円柱形の第1の行き止まり穴42をさらに有している。このようにして、ブレーキパッド10を摩耗インジケータがすでに備えられた状態で届けることができ、したがって車両へのブレーキパッドの取り付けを担当する作業者は、単に車両の計器板へと信号を送信する目的の電気配線を摩耗インジケータに接続するだけでよい。さらに裏打ち板12は、ブレーキパッドの温度を検出するための温度プローブ(それ自身は公知であり、図示されていない)をはめ込むことができるように構成された好ましくは円柱形の第2の行き止まり穴44をさらに有しており、温度プローブは、生じうるブレーキパッドの過熱または他の望ましくない異常な熱的挙動(制動の効果的な働きを危うくするだけでなく、時間を越えて繰り返された場合に摩擦ライニングの完全性も危うくしかねない)を警告灯インジケータまたは他の警報装置によって運転者に警告するために、車両の計器板へと専用の配線によって接続されるように意図されている。はめ込みの代案として、摩耗インジケータおよび温度プローブの両者を、裏打ち板12へと同時成型によって挿入してもよい。
【0034】
以上の説明に照らし、本発明によるブレーキパッドによってもたらされる利点は明らかである。
【0035】
裏打ち板に貫通穴が存在することで、裏打ち板の摩擦ライニングが適用される方の面に接着層を設ける必要なく、裏打ち板への摩擦ライニングの必要な接合を保証することができる。そのような効果は、網状の構造として製作され、裏打ち板の周辺構造よりも摩擦ライニング側に突き出している裏打ち板の内部構造によって、さらに改善される。しかしながら、摩擦ライニングと裏打ち板との間の接着をさらに保証するために、摩擦ライニングの材料と接する裏打ち板の内部構造および周辺構造の表面に接着剤(特に、熱硬化性接着剤)の層を塗布することが可能である。摩擦ライニングと裏打ち板との間の接着をさらに保証するために、摩擦材料と接することが予定される裏打ち板の表面に、コロナ処理または火炎(flaming)処理を加えることも可能である。
【0036】
裏打ち板の材料として金属(特に、鋼など)に代えてプラスチック材料を使用することは、ブレーキパッドの全体としての重量の大幅な削減を可能にし、これはブレーキパッドの取り扱い、組み立て、および最終的な配送のためのコストの観点ならびに慣性が小さくなることによるブレーキシステムの応答速度の改善という観点の両方において有利になる。さらに、裏打ち板の材料としてプラスチック材料を使用することで、ブレーキパッドの直接の腐食ならびにブレーキシステムの他の部品に生じる腐食およびブレーキシステムの他の部品によって引き起こされる腐食を、避けることが可能になる。また、裏打ち板の材料としてプラスチック材料を使用することで、裏打ち板の最終的な塗装のためのコストを回避することができる。裏打ち板の材料として低い線膨張係数および低い熱伝達係数を有するプラスチック材料を使用することで、最大動作温度に近い温度でもブレーキパッドの最適な動作を保証でき、制動時に生じる熱のピストン(したがって、ブレーキシステムの油圧回路に含まれる液体)への伝達を大幅に少なくし、ブレーキシステムを激しく使用した場合に「ベイパーロック」現象が生じる恐れを大幅に抑制することができる。
【0037】
さらに、本発明によるブレーキパッドは、鳴きまたはキーッという音を生じにくい。実際、裏打ち板のプラスチック材料は、一方ではブレーキシステムおよび車輪懸架システムの集合体(ブレーキキャリパ、ブレーキディスク、懸架装置のリンク類、およびショックアブソーバ)によって生成される音波を停止させ、他方では裏打ち板に埋め込まれた金属製の補強板によって生じる振動を充分に減衰させる。
【0038】
加えて、上述の特徴を有するプラスチック材料製の裏打ち板の使用は、金属製の裏打ち板を有するブレーキパッドの製造サイクルに現在存在する作業のうちのいくつかがなくなり、特にサンドブラストなどの作業、接着層の塗布の作業、最終的な保護用の塗装の作業、遮音層を設ける作業、および摩耗インジケータ(存在する場合)を取り付ける作業がなくなることで、結果としてこれらの作業に関する時間およびコストが削減されること、ならびにサンド、接着剤、および塗料などの余分な化学製品の廃棄の影響が少ないことの両者による大きな経済的利点を、ブレーキパッドの製造者にもたらす。残りの成型、エージングまたは安定化、焼成(scorching)、研削、および付属品の取り付けの作業、ならびに関連の設備については、いかなる変更も不要である。得られる最終的な製品は、金属製の裏打ち板を有している現在使用されている製品と機能および外観に関して同一であり、したがってこの現在使用されている製品と完全に互換である。
【0039】
さらなる利点は、ブレーキパッド全体を、例えば補強板が埋め込まれた裏打ち板の成型および裏打ち板への摩擦ライニングの成型を順に実行するように構成されたマルチステーション回転テーブルプレス機(または、同等の成型装置)を使用して同じ成型ユニットにて製造できる点にある。
【0040】
当然ながら、本発明の原理は変わらないままで、実施形態および製造の詳細を、あくまでも本発明を限定するものではない例として説明および図示した実施形態および製造の詳細に関して、幅広く変更することが可能である。
【符号の説明】
【0041】
10 ブレーキパッド、12 裏打ち板、14 摩擦ライニング、16 補強板、18 フレーム、20 内部構造、22 貫通穴、24 柱、26 リブ、28 リブ、30 アンダーカット。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチック材料からなる裏打ち板(12)と、該裏打ち板(12)を覆って成型された摩擦ライニング(14)とを備えており、該裏打ち板(12)が、中実な周辺構造(18)と、前記摩擦ライニング(14)の材料によって少なくとも部分的に満たされた複数の穴(22)を有する内部構造(20)とを備えているブレーキパッド(10)であって、
前記穴(22)の少なくとも一部が、貫通穴として製作されており、該貫通穴(22)が、前記摩擦ライニング(14)の前記裏打ち板(12)に接する面とは反対側の面の面積の少なくとも4.5%に達する面積を占めていることを特徴とするブレーキパッド。
【請求項2】
前記裏打ち板(12)の前記内部構造(20)が、該裏打ち板(12)の前記摩擦ライニング(14)に面する側において、該裏打ち板(12)の面に対して垂直な方向に前記周辺構造(18)よりも突き出している、請求項1に記載のブレーキパッド。
【請求項3】
前記穴(22)が、前記裏打ち板(12)の前記内部構造(20)の表面に一様に分布している、請求項1または2に記載のブレーキパッド。
【請求項4】
前記裏打ち板(12)の前記内部構造(20)が、平行かつ等間隔に位置する第1組のリブ(26)と、該第1組のリブ(26)に対して斜めに延びる平行かつ等間隔に位置する第2組のリブ(28)とを有することで、菱形の穴(22)を定めている格子状の網状構造として形成されている、請求項3に記載のブレーキパッド。
【請求項5】
前記穴(22)が、前記摩擦ライニング(14)の前記裏打ち板(12)に接する面とは反対側の面の面積の少なくとも40%に達する面積を占めている、請求項1〜4のいずれか一項に記載のブレーキパッド。
【請求項6】
アンダーカット(30)が前記裏打ち板(12)の前記穴(22)に設けられている、請求項1〜5のいずれか一項に記載のブレーキパッド。
【請求項7】
前記裏打ち板(12)が、熱可塑性材料で製作され、特にポリエーテルケトンで製作されている、請求項1〜6のいずれか一項に記載のブレーキパッド。
【請求項8】
前記裏打ち板(12)に埋め込まれた金属製の補強板(16)をさらに備えている、請求項1〜7のいずれか一項に記載のブレーキパッド。
【請求項9】
前記補強板(16)が、前記裏打ち板(12)によって形成されて各々が該補強板(16)の対応する部位を覆う複数の固定タブ(32)によって前記裏打ち板(12)に固定されている、請求項1〜8のいずれか一項に記載のブレーキパッド。
【請求項10】
前記補強板(16)が、中央の第1の貫通穴(36)を有しており、前記裏打ち板(12)が、前記中央の貫通穴(36)へと延びる柱(34)を形成している、請求項1〜9のいずれか一項に記載のブレーキパッド。
【請求項11】
前記補強板(16)が、前記裏打ち板(12)の対応する穴(22)に整列した第2の貫通穴(38)を有しており、該貫通穴(38)が、前記穴(22)の形状と同一の形状を有しており、前記摩擦ライニング(14)の材料が、前記第2の貫通穴(38)も少なくとも部分的に満たしている、請求項10に記載のブレーキパッド。
【請求項12】
前記補強板(16)の前記第2の貫通穴(38)が、前記裏打ち板(12)の対応する穴(22)よりも大きなサイズであることで、アンダーカット(40)が形成されている請求項11に記載のブレーキパッド。
【請求項13】
前記裏打ち板(12)に取り入れられた摩耗インジケータおよび/または温度プローブをさらに備えている、請求項1〜12のいずれか一項に記載のブレーキパッド。
【請求項14】
前記裏打ち板(12)が、前記摩耗インジケータを収容する第1の行き止まり穴(42)および/または前記温度プローブを収容する第2の行き止まり穴(44)をさらに有している、請求項13に記載のブレーキパッド。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか一項に記載のブレーキパッド(10)のための裏打ち板(12)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2013−505407(P2013−505407A)
【公表日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−529361(P2012−529361)
【出願日】平成22年6月18日(2010.6.18)
【国際出願番号】PCT/IB2010/052768
【国際公開番号】WO2011/033395
【国際公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(512068732)コンサルプラスト ソシエタ・ア・レスポンサビリタ・リミタータ (1)
【氏名又は名称原語表記】CONSULPLAST S.r.l.
【Fターム(参考)】