車両のレーダ装置用カバー
【課題】レーダの指向性の乱れが抑制された、立体形状による高い意匠性を備えた車両のレーダ装置用カバーを提供すること。
【解決手段】車両のレーダ装置用カバー1は、誘電体板を屈曲させて凹凸を設けた洗濯板状の立体形状である。誘電体板のミリ波レーダ装置2で送受信される電磁波の波面に垂直な部分である第1部分6の厚さは、それ以外の部分である第2部分7の厚さよりも薄くなっている。これにより第1部分6を透過する電磁波の量が減少するため、位相のずれの影響が相対的に低下し、レーダの指向性の乱れが抑制される。
【解決手段】車両のレーダ装置用カバー1は、誘電体板を屈曲させて凹凸を設けた洗濯板状の立体形状である。誘電体板のミリ波レーダ装置2で送受信される電磁波の波面に垂直な部分である第1部分6の厚さは、それ以外の部分である第2部分7の厚さよりも薄くなっている。これにより第1部分6を透過する電磁波の量が減少するため、位相のずれの影響が相対的に低下し、レーダの指向性の乱れが抑制される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーダ装置を保護し、意匠性を向上させる車両のレーダ装置用カバーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両のレーダ装置を保護するため、および意匠性を向上させるために、レーダ装置にはカバーが設けられているが、より意匠性を高めるため、カバーを立体的な形状とすることが求められている。
【0003】
特許文献1には、平板状のカバーに凹部を設け、この凹部を埋めてカバーから突出するように部材を設けることで、カバーを透過する電磁波の位相を調整し、レーダの指向性の乱れを小さくした車両のレーダ装置用カバーが示されている。
【0004】
また、特許文献2には、屈曲させて凹凸を設けた薄い誘電体カバーの内部に発泡スチロールによる保持体を設けた車両のレーダ装置用カバーが示されている。誘電体カバーが薄く、かつ発泡スチロールの比誘電率が1に近いため、電磁波を良好に透過させることができる。また、誘電体カバーに設けた凹凸による立体形状により意匠性を高めることができる。
【0005】
また、特許文献3には、表面は球面状で、裏面に凹凸が設けられた誘電体板の裏面側から、金属層を介して凹凸が形成された誘電体板を貼り合わせ、実際には立体形状ではないが、見かけ上は立体的な車両のレーダ装置用カバーが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−104199
【特許文献2】特開2004−301592
【特許文献3】特許第3597075号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に記載の車両のレーダ装置用カバーは、凹凸の深い立体的な形状は想定されておらず、特許文献1の方法をそのような立体形状のカバーに適用しても、レーダの指向性の乱れを小さくすることはできなかった。
【0008】
また、特許文献2に記載の車両のレーダ装置用カバーでは、レーダ装置を保護するのに十分な強度を保つことができないという問題があり、また、形状によってはレーダの指向性に乱れが生じるという問題もあった。
【0009】
また、特許文献3に記載の車両のレーダ装置用カバーでは、表面は球面状であって実際には立体形状ではないため、光の当たる方向、見る方向、裏面の凹凸の形状などによっては立体感が感じられず、意匠性が低かった。
【0010】
そこで本発明の目的は、レーダの指向性の乱れの減少と、立体形状による高い意匠性とを両立させた車両のレーダ装置用カバーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1の発明は、車両に設けられたレーダ装置のアンテナ側を覆う車両のレーダ装置用カバーにおいて、車両のレーダ装置用カバーは、誘電体板に凹凸を設けた立体形状であり、誘電体板のうち、レーダ装置で送受信される電磁波の波面に角度を成す第1部分の厚さは、誘電体板の他の部分である第2部分の厚さよりも薄い、ことを特徴とする車両のレーダ装置用カバーである。
【0012】
第1の発明において、第1部分は、レーダ装置で送受信される電磁波の波面に対して、なるべく垂直である方が、本発明によって得られる効果が高く望ましい。また、第1部分は、レーダ装置で送受信される電磁波の波面に角度を成す部分であるので、第2部分は波面に水平な部分であるが、波面に対して厳密に水平である必要はなく、波面に対して0〜5°の範囲で角度を成している部分であってもよい。ただし、なるべく平行に近い方が、本発明の効果が高く望ましい。
【0013】
第2の発明は、第1の発明において、第1部分の厚さは、レーダ装置で送受信される電磁波の誘電体板内部での波長の1/5以下であることを特徴とする車両のレーダ装置用カバーである。
【0014】
第3の発明は、第1の発明または第2の発明において、第1部分と第2部分の成す角度は、90°〜109°であることを特徴とする車両のレーダ装置用カバーである。
【0015】
第4の発明は、第1の発明から第3の発明において、誘電体板の凹凸の高さは、レーダ装置で送受信される電磁波の誘電体板内部での波長の0.8〜3.5倍であることを特徴とする車両のレーダ装置用カバーである。
【0016】
ここでいう凹凸の高さとは、レーダ装置で送受信される電磁波の波面に垂直な方向における凹部または凸部の高さである。
【0017】
第5の発明は、第1の発明から第4の発明において、第2部分の厚さは、レーダ装置で送受信される電磁波の誘電体板内部での波長の0.25倍以下であることを特徴とする車両のレーダ装置用カバーである。
【0018】
第6の発明は、車両に設けられたレーダ装置のアンテナ側を覆う車両のレーダ装置用カバーにおいて、車両のレーダ装置用カバーは、誘電体板に凹凸を設けた立体形状であり、誘電体板のうち、レーダ装置で送受信される電磁波の波面に垂直である第1部分は、誘電体板の他の部分である第2部分よりも、レーダ装置で送受信される電磁波に対する透過損失が大きい高損失材料であることを特徴とする車両のレーダ装置用カバーである。
【0019】
第7の発明は、第6の発明において、高損失材料は、カーボンを含む材料であることを特徴とする車両のレーダ装置用カバーである。
【0020】
第8の発明は、車両に設けられたレーダ装置のアンテナ側を覆う車両用のレーダ装置用カバーにおいて、車両のレーダ装置用カバーは、誘電体板に凹凸を設けた立体形状であり、誘電体板のうち、レーダ装置で送受信される電磁波の波面に垂直である第1部分は、誘電体板の他の部分である第2部分の比誘電率よりも比誘電率が小さい材料である、ことを特徴とする車両のレーダ装置用カバーである。
【0021】
第9の発明は、第1の発明から第4の発明、第6の発明から第8の発明において、第2部分の厚さは、レーダ装置で送受信される電磁波の誘電体板内部での波長の半分の整数倍であることを特徴とする車両のレーダ装置用カバーである。
【0022】
第10の発明は、第1の発明から第9の発明において、誘電体板は、ポリカーボネート樹脂であることを特徴とする車両のレーダ装置用カバーである。
【0023】
第11の発明は、第1の発明から第10の発明において、誘電体板には、塗装、金属蒸着、コーティングのうち、少なくとも1つ以上が施されていることを特徴とする車両のレーダ装置用カバーである。
【0024】
第12の発明は、車両に設けられたレーダ装置のアンテナ側を覆う車両のレーダ装置用カバーにおいて、車両のレーダ装置用カバーは、凹凸を設けることで立体形状とした誘電体フィルムと、凹凸を設けることで、誘電体フィルムと同一の立体形状とした誘電体板であり、誘電体フィルムのレーダ装置側の面に貼り合わされた保持体と、を有し、保持体のうち、レーダ装置で送受信される電磁波の波面に垂直である部分の全部、または一部に穴が設けられている、ことを特徴とする車両のレーダ装置用カバーである。
【0025】
第13の発明は、第12の発明において、誘電体フィルムは、アクリル樹脂、またはPET樹脂であることを特徴とする車両のレーダ装置用カバーである。
【0026】
第14の発明は、第12の発明または第13の発明において、誘電体フィルムには、塗装、金属蒸着、コーティングのうち、少なくとも1つ以上が施されていることを特徴とする車両のレーダ装置用カバーである。
【0027】
なお、本発明における「垂直」の語は、厳密に垂直であることを意味するものではなく、以下に説明する本発明の効果を奏する限りにおいて厳密な垂直からずれた角度であってもよい。ただし、なるべく垂直に近い方が望ましい。
【0028】
また、本発明にいう立体形状は、射出成形などによって誘電体板もしくは誘電体フィルムを屈曲させて立体形状とするものであり、誘電体板もしくは誘電体フィルム自体に切削などによる溝を設けて立体形状とするものではない。
【0029】
また、第1部分、第2部分の厚さは、射出成形などの樹脂成形において作製可能な範囲であって、かつ、レーダー装置を保護するカバーとして十分な物理的強度を確保するために、レーダ装置で送受信される電磁波の誘電体板内部での波長の0.08倍以上とすることが望ましい。
【発明の効果】
【0030】
本発明者らは、誘電体板に凹凸を設け、立体形状とした意匠性の高い車両のレーダ装置用カバーについて、レーダの指向性の乱れが生じる原因を検討したところ、誘電体板のレーダ装置で送受信される電磁波の波面に角度を成す部分である第1部分を電磁波が透過する距離は、誘電体板の他の部分である第2部分を電磁波が透過する距離よりも長く、第1部分を透過する電磁波と第2部分を透過する電磁波とに位相のずれが生じるためであることを突き止めた。本発明は、この位相のずれを低減することで、車両のレーダ装置用カバーを立体形状とすることによる意匠性の高さと、レーダの指向性の乱れの抑制とを両立させたものである。
【0031】
第1の発明のように、第1部分の厚さを第2部分の厚さよりも薄くして第1部分を透過する電磁波を少なくすれば、位相のずれの影響を相対的に低減することができるため、レーダの指向性の乱れを抑制することができる。特に第2の発明のように、第1部分の厚さを、レーダ装置で送受信される電磁波の誘電体板内部での波長の1/5以下とすれば、レーダの指向性の乱れを抑制する効果をより高くすることができる。
【0032】
また、第3の発明のように、第1部分と第2部分の成す角度が、90°〜109°である車両のレーダー装置用カバーは、レーダの指向性の乱れが大きいので、本発明を適用する効果が大きい。
【0033】
また、第4の発明のように、誘電体板の凹凸の高さが、レーダ装置で送受信される電磁波の誘電体板内部での波長の0.8〜3.5倍である車両のレーダー装置用カバーは、レーダの指向性の乱れが大きいので、本発明を適用する効果が大きい。
【0034】
また、第5の発明のように、第1部分の厚さが第2部分の厚さよりも薄い範囲において、第2部分の厚さを、レーダ装置で送受信される電磁波の誘電体板内部での波長の0.25倍以下とすることで、レーダの指向性の乱れをより抑制することができる。
【0035】
また、第6の発明のように、第1部分を第2部分よりもレーダ装置で送受信される電磁波に対する透過損失が大きい高損失材料とし、第1部分を透過する電磁波の量を、第2部分を透過する電磁波の量よりも少なくすれば、位相のずれの影響を相対的に低減することができるので、レーダの指向性の乱れを抑制することができる。また、第7の発明のように、高損失材料として、カーボンを含む材料を用いることができる。
【0036】
また、第8の発明のように、第1部分の比誘電率を、第2部分の比誘電率よりも小さくすれば、第1部分を透過する電磁波と第2部分を透過する電磁波との位相のずれが小さくなり、レーダの指向性の乱れを抑制することができる。
【0037】
また、第9の発明によると、第2部分における電磁波の反射が低減され、電磁波を車両のレーダ装置用カバーから良好に透過させることができる。
【0038】
また、第10の発明のように、誘電体板にはポリカーボネート樹脂を用いることができる。
【0039】
また、第12の発明によると、車両のレーダ装置用カバーのレーダ装置で送受信される電磁波の波面に垂直である部分の厚さは、保持体に穴が設けられているため、誘電体フィルムの厚さに等しい。つまり、車両のレーダ装置用カバーのレーダ装置で送受信される電磁波の波面に垂直である部分の厚さは、車両のレーダ装置用カバーの他の部分に比べて薄くなっている。したがって、第1の発明と同様にレーダの指向性の乱れを抑制することができる。また、第13の発明のように、誘電体フィルムにはアクリル樹脂やPET樹脂を用いることができる。
【0040】
また、第11、14の発明のように、誘電体板、誘電体フィルムに塗装、金属蒸着、コーティングのいずれかを施すことで、車両のレーダ装置用カバーの意匠性をさらに高めることができる。塗装、金属蒸着、コーティングは、誘電体板、誘電体フィルムの外側の面(レーダ装置側とは反対側の面)に施してもよいし、誘電体板、誘電体フィルムが可視光に対して透明な材料である場合には内側の面(レーダ装置側の面)に施してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】実施例1の車両のレーダ装置用カバー1を示した図。
【図2】図1におけるzx平面での断面を示した図。
【図3】ミリ波レーダ装置2の指向性を示した図。
【図4】t2を変化させたときの利得差の変化を示すグラフ。
【図5】角度θを変化させたときの利得差の変化を示すグラフ。
【図6】凸部4の高さhを変化させたときの利得差の変化を示すグラフ。
【図7】t1を変化させたときの利得差の変化を示すグラフ。
【図8】実施例2の車両のレーダ装置用カバー20を示した図。
【図9】実施例3の車両のレーダ装置用カバー30を示した図。
【図10】実施例4の車両のレーダ装置用カバー40を示した図。
【図11】実施例4の車両のレーダ装置用カバー40の構成を分解して示した図。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、本発明の具体的な実施例について図を参照に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0043】
図1は、実施例1の車両のレーダ装置用カバー1を示した図である。また、図2は、図1におけるzx平面での断面を示した図である。この車両のレーダ装置用カバー1は、ミリ波レーダ装置2から一定の距離隔てて配置されていて、ミリ波レーダ装置2の電磁波照射方向(z軸方向)に対して垂直に配置されている。ミリ波レーダ装置2は、車両のフロントグリルなどに固定されていて、車両の前方にミリ波帯の電磁波を照射する。図2において点線3により挟まれた領域5は、ミリ波レーダ装置2からの電磁波の照射範囲を示している。
【0044】
車両のレーダ装置用カバー1は、図1、図2に示すように、ポリカーボネート樹脂からなる誘電体板を屈曲させて凹凸を施し、ミリ波レーダ装置2側に突出した3つの凸部4を設けた洗濯板状の立体形状である。凸部4は、y軸方向に伸びる帯状の直方体形状に形成されていて、凸部4のzx平面での断面は矩形である。誘電体板の凹凸加工は、射出成形により行うことができる。なお、車両のレーダ装置用カバーの材料である誘電体には、ポリカーボネート樹脂以外にも、アクリル、AES(AEPDS)などを用いることができる。
【0045】
凸部4を設けたことにより、車両のレーダ装置用カバー1である誘電体板には、ミリ波レーダ装置2から照射される電磁波の波面に垂直な部分(以下、第1部分6)と、第1部分6以外の部分(以下、第2部分7)の2つの領域が生じている。誘電体板の第1部分6の厚さはt2、第2部分7の厚さはt1であり、第1部分6の厚さt2を第2部分7の厚さt1よりも薄くしている。また、t1は0.5λgであり、λgは、ミリ波レーダ装置2から照射される電磁波の誘電体板内部における波長であり、誘電体板を構成する誘電体の比誘電率をεr、ミリ波レーダ装置2から照射される電磁波の自由空間波長をλ0として、λg=λ0*(εr)-1/2である。t1をλg/2の整数倍としているため、第2部分7による電磁波の反射が抑えられ、良好な電磁波透過性を確保することができる。
【0046】
この実施例1の車両のレーダ装置用カバー1は、ミリ波レーダ装置2をカバーで覆うことによる指向性の乱れを小さくすることができる。以下、その理由について説明する。実施例1のような誘電体板を凹凸加工した車両のレーダ装置用カバー1では、上述のようにミリ波レーダ装置2から照射される電磁波の波面に垂直な部分である第1部分6と、それ以外の部分である第2部分7とが生じる。これにより、第2部分7を電磁波が透過する距離よりも、第1部分6を電磁波が透過する距離の方が長くなり、第2部分7を透過する電磁波と第1部分6を透過する電磁波とには位相のずれが生じる。これがレーダの指向性の乱れの原因となっている。そこで、実施例1の車両のレーダ装置用カバー1では、第1部分6の厚さt2を第2部分7の厚さt1よりも薄くすることで、第1部分6の厚さt2を第2部分7の厚さt1と等しくした場合よりも第1部分6を透過する電磁波の量を減少させ、位相のずれの影響を相対的に低下させることで、レーダの指向性の乱れを抑制している。
【0047】
図3は、車両のレーダ装置用カバー1を、3つの凸部4がミリ波レーダ装置2からの電磁波の照射範囲である領域5に含まれるように配置し、凸部4の高さを2.8λgとして、t2を0.08λgとした場合、t2を0.51λgとした場合、および車両のレーダ装置用カバー1を設けない場合の3つの場合について、ミリ波レーダレーダ装置2のzx平面での指向性を示したものである。図3において横軸はz軸方向を0°とした角度を示し、縦軸は利得を示している。ここで、車両のレーダ装置用カバー1を設けた場合と設けない場合とで、指向性の変化が小さい方がより良い特性であると考えられる。そこで、レーダの検知範囲を−10〜10度とし、この範囲における車両のレーダ装置用カバー1を設けた場合と設けない場合との最大の利得差を評価した。t2を0.51λgとした場合の利得差は、約12dBと大きいが、t2を0.08λgとした場合の利得差は、約2.5dBであり、0.51λgとした場合に比べて大幅に利得差が小さくなっていた。このように、t2を小さくすることにより、車両のレーダ装置用カバー1を設けない場合の指向性により近くなり、特性を改善することができることがわかった。
【0048】
図4は、t2を変化させたときの、車両のレーダ装置用カバー1を設けた場合と設けない場合との最大の利得差の変化を示すグラフである。t1は0.5λg、高さhは2.8λgとした。レーダの検知範囲は図3の場合と同じく−10〜10度とした。この図4のように、t2を0.2λg以下の厚さとすれば、大幅に特性を改善させることができることがわかった。なお、射出成形により車両のレーダ装置用カバー1を作製する都合上、t2の厚さを0.08λgよりも薄くすることは難しく、また、0.08λgより薄くすると、車両のレーダ装置用カバー1の物理的強度を確保するのが難しい。よって、t2の厚さは0.08λg以上とする必要がある。これは、t1の厚さについても同様である。
【0049】
図5は、角度θを変化させたときの、車両のレーダ装置用カバー1を設けた場合と設けない場合との最大の利得差の変化を示すグラフである。ここで角度θは、第1部分6と第2部分7の成す角度であり、第2部分7をミリ波レーダ装置2から照射される電磁波の波面に対して水平に保った状態で、波面に対して垂直な第1部分6を傾けた時の角度θである。t1は0.5λg、高さhは2.8λgとし、t2は、0.08λg、0.12λg、0.5λgとした。それ以外の条件は図3の場合と同様である。図5のように、t2がいずれの値の場合にも、θが大きくなるにつれて利得差は減少している。また、t1=t2=0.5λgとする場合よりも、t2=0.08λg、0.12λgとするt1>t2の場合の方が、角度θが90〜110°の範囲で利得差が小さくなっていることがわかる。また、t1=t2=0.5λgの場合、θが90〜109°の範囲で利得差は5dB以上となっている。これらから、t1>t2とすることで利得差を低減して指向性の乱れを抑える、という本発明の効果は、角度θが90〜109°である車両のレーダ装置用カバー1に対して、特に大きくなる。
【0050】
図6は、凸部4の高さhを変化させたときの、車両のレーダ装置用カバー1を設けた場合と設けない場合との最大の利得差の変化を示すグラフである。t2は、0.08λg、0.12λg、0.5λgとした。t1は0.5λgとし、t2は、0.08λg、0.12λg、0.5λgとした。それ以外の条件は図3の場合と同様である。図6のように、t2が0.5λgの場合では、高さhが0.8λg〜3.5λgの範囲で、利得差は5dB以上となっている。また、t2が0.08λg、0.12λgの場合では、高さhの上昇とともに利得差もゆるやかに上昇し、特にt2が0.08λgの場合は、t2が0.12λgの場合よりも上昇がゆるやかであり、高さhが3.5λg以下の範囲で利得差は5dB未満である。また、t2が0.12λgの場合では、高さhが2.7λg以下では利得差が5dB以下であり、高さhが3.3λg〜3.5λgの範囲を除いてt2が0.5λgの場合よりも利得差が小さくなっている。これらから、t1>t2とすることで利得差を低減して指向性の乱れを抑える、という本発明の効果は、凸部4の高さhが0.8〜3.5λgである車両のレーダ装置用カバー1に対して、特に大きくなる。
【0051】
図7は、t1を変化させたときの、車両のレーダ装置用カバー1を設けた場合と設けない場合との最大の利得差の変化を示すグラフである。高さhは2.8λgとし、t2は、0.08λg、0.12λg、0.5λgとした。それ以外の条件は図3の場合と同様である。図7のように、t2が0.08λg、0.12λgの場合、t1が0.25λg〜0.5λgの範囲では利得差にほぼ変化はないが、t1が0.25λg以下では、t1の減少とともにゆるやかに利得差が減少していく。また、t1が0.08λg〜0.5λgの範囲であって、t2が0.5λgの場合、つまりt1≦t2の場合では、t1がいずれの値であってもおおよそ10dB以上の利得差があり、t1≦t2とするのは望ましくないと推察できる。以上から、t1>t2の範囲において、より利得差を小さくして指向性の乱れを抑制するためには、t1の厚さを0.08λg〜0.25λgの範囲とすればよいことがわかる。
【実施例2】
【0052】
図8は、実施例2の車両のレーダ装置用カバー20について示した断面図である。この車両のレーダ装置用カバー20は、実施例1の車両のレーダ装置用カバー1と同様にミリ波レーダ装置2から一定の距離隔てて配置されていて、ミリ波レーダ装置2の電磁波照射方向に対して垂直に配置されている。
【0053】
車両のレーダ装置用カバー20は、車両のレーダ装置用カバー1と同様にミリ波レーダ装置2側に突出した3つの凸部24を設けた立体形状であり、凸部24を設けたことにより車両のレーダ装置用カバー20には、ミリ波レーダ装置2から照射される電磁波の波面に垂直な部分(以下、第1部分26)と、第1部分26以外の部分(以下、第2部分27)の2つの領域が生じている。第2部分27の厚さt1は0.5λgであり、実施例1での説明のように、第2部分27による電磁波の反射が抑えられ、良好な電磁波透過性を確保することができる。
【0054】
第2部分27は、ポリカーボネート樹脂からなり、第1部分26は、第2部分27よりもミリ波レーダ装置2からの電磁波の透過損失が大きい高損失材料からなる。高損失材料は、たとえばカーボンを含む材料であり、ポリカーボネート樹脂にカーボンを混合した材料などである。高損失材料として他にもフェライトなどを用いることができる。このような第1部分26と第2部分27とで材料の異なる車両のレーダ装置用カバー20の凹凸加工は、二色成形によって行うことができる。
【0055】
この実施例2の車両のレーダ装置用カバー20もまた、実施例1の車両のレーダ装置用カバー1と同様に、レーダの指向性の乱れを小さくすることができる。これは、第1部分26を高損失材料とすることで、第1部分26を透過する電磁波の量を低下させ、位相のずれの影響を相対的に低下させることができるためである。
【実施例3】
【0056】
図9は、実施例3の車両のレーダ装置用カバー30について示した断面図である。車両のレーダ装置用カバー30のミリ波レーダ装置2に対する配置位置は、実施例1や実施例2と同様である。車両のレーダ装置用カバー30の形状は、車両のレーダ装置用カバー1と同様にミリ波レーダ装置2側に突出した3つの凸部34を設けた立体形状であり、凸部34を設けたことにより車両のレーダ装置用カバー30には、ミリ波レーダ装置2から照射される電磁波の波面に垂直な部分(以下、第1部分36)と、第1部分36以外の部分(以下、第2部分37)の2つの領域が生じている。また、第2部分37の厚さt1は0.5λgであり、実施例1での説明のように、第2部分37による電磁波の反射が抑えられ、良好な電磁波透過性を確保することができる。
【0057】
第2部分37は、ポリカーボネート樹脂からなり、第1部分36は、第2部分37よりも比誘電率の小さい材料からなる。第1部分36の材料としては、たとえば、ポリカーボネート樹脂よりも比誘電率の小さい材料であるポリプロピレン、ポリスチレンなどを用いることができる。車両のレーダ装置用カバー30の凹凸加工は、実施例2の車両のレーダ装置用カバー20と同様に二色成形によって行うことができる。
【0058】
この実施例3の車両のレーダ装置用カバー30もまた、実施例1の車両のレーダ装置用カバー1と同様に、レーダの指向性の乱れを小さくすることができる。これは、第1部分36を比誘電率の小さい材料とすることで、第2部分37を透過する電磁波と第1部分36を透過する電磁波との間の位相のずれが小さくなるためである。
【実施例4】
【0059】
図10は、実施例4の車両のレーダ装置用カバー40について示した断面図である。また、図11は、車両のレーダ装置用カバー40の構成を分解して示した図である。車両のレーダ装置用カバー40のミリ波レーダ装置2に対する配置位置は、実施例1〜3と同様である。
【0060】
車両のレーダ装置用カバー40の形状は、図11に示すように、誘電体フィルム41のレーダ装置2側の面に、誘電体板42(本発明にいう保持体)を接着した構成である。誘電体板42が誘電体フィルム41の強度を補強している。
【0061】
誘電体フィルム41は、可視光に対して透明なアクリル樹脂からなり、厚さは0.1〜0.2λgである。誘電体フィルム41は、折り曲げることで3つの凸部44が形成された洗濯板状の立体形状である。凸部44は、ミリ波レーダ装置2側に突出した直方体形状である。誘電体フィルム41の内面(ミリ波レーダ装置2側の面)には、塗装や金属蒸着が施され、意匠性が高められている。誘電体フィルム41の材料には、アクリル樹脂以外にも、PET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂などを用いることができる。
【0062】
誘電体板42は、折り曲げることで3つの凸部45が形成されていて、誘電体フィルム41とほぼ同一の洗濯板状の立体形状である。凸部45は、ミリ波レーダ装置2側に突出した直方体形状であり、この凸部45の両側部(ミリ波レーダ装置2から照射される電磁波の波面に垂直な部分)には、この側部の端を残して長方形の穴48が開けられている。誘電体板42は、ポリカーボネート樹脂からなり、厚さは0.5λgである。なお、凸部45の側部に設ける穴48は側部の一部に設けてもよいし、全部に設けてもよく、穴48の大きさ、位置、形状、個数などは、車両のレーダ装置用カバー40の強度や意匠性、レーダの指向性の乱れを抑制する効果の大きさ、などを考慮して任意に設計することができる。たとえば、レーダの指向性の乱れを抑制する効果を大きくしたい場合には、穴48を広く空けるようにすればよい。
【0063】
誘電体フィルム41の内面と誘電体板42の外面(ミリ波レーダ装置2側とは反対側の面)とは、凹凸がかみ合うように貼り合わされて接着されている。
【0064】
このような構成により、車両のレーダ装置用カバー40のミリ波レーダ装置2から照射される電磁波の波面に垂直な部分(以下、第1部分46)は、誘電体板42に穴が設けられているため、大部分が誘電体フィルム41のみの構成であり、車両のレーダ装置用カバー40の第1部分46以外の部分(以下、第2部分47)は誘電体フィルム41と誘電体板42が貼り合わされているため、第1部分46よりも厚くなっている。したがって、実施例4の車両のレーダ装置用カバー40は、実施例1の車両のレーダ装置用カバー1と同様の理由により、レーダの指向性の乱れを小さくすることができる。すなわち、実施例4の車両のレーダ装置用カバー40では、第1部分46の厚さが第2部分47の厚さよりも薄いため、第1部分46の厚さを第2部分47の厚さと等しくした場合よりも第1部分46を透過する電磁波の量が少なく、位相のずれの影響が相対的に低下するので、レーダの指向性の乱れが小さくなる。
【0065】
なお、いずれの実施例でも、車両のレーダ装置用カバーの形状を洗濯板状の立体形状としているが、本発明は凹凸を設けることによる任意の立体形状でよく、意匠性の高い車両のレーダ装置用カバーを実現可能である。
【0066】
また、実施例1〜3において、第2部分の厚さt1を0.5λgとしているが、必ずしもt1をλg/2の整数倍とする必要はなく、車両のレーダ装置用カバー1の強度や立体形状との兼ね合いで任意の値に設計してよい。
【0067】
また、実施例1〜3において、車両のレーダ装置用カバーの表面には、塗装、金属蒸着、コーティングなどを施してもよい。車両のレーダ装置用カバーの材料である誘電体が可視光に対して不透明な材料を用いるならば、外面(ミリ波レーダ装置側とは反対側の表面)に塗装、金属蒸着、コーティングなどを施して、車両のレーダ装置用カバーの意匠性を高めることができる。また、車両のレーダ装置用カバーの材料である誘電体が可視光に対して透明である材料を用いるならば、内面(ミリ波レーダ装置側とは反対側の表面)と外面の一方、もしくは内面と外面の双方に塗装、金属蒸着、コーティングを施して、車両のレーダ装置用カバーの意匠性を高めることができる。
【0068】
また、実施例4では、誘電体フィルム41の内面に塗装、金属蒸着を施したが、外面に塗装、金属蒸着、コーティングなどを施してもよい。また、誘電体フィルム41を可視光に対して透明である材料を用いるならば、誘電体板42の外面に塗装、金属蒸着、コーティングなどを施してもよく、さらに誘電体フィルム41と誘電体板42の双方に可視光に対して透明である材料を用いるならば、誘電体板42の内面に塗装、金属蒸着、コーティングなどを施してもよい。いずれの場合にも、車両のレーダ装置用カバーの意匠性を高めることができる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明により、レーダの指向性の乱れが抑制され、立体的な形状の車両のレーダ装置用カバーを実現することができる。
【符号の説明】
【0070】
1、20、30、40:車両のレーダ装置用カバー
2:ミリ波レーダ装置
4、24、34、44、45:凸部
6、26、36、46:第1部分
7、27、37、47:第2部分
41:誘電体フィルム
42:誘電体板
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーダ装置を保護し、意匠性を向上させる車両のレーダ装置用カバーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両のレーダ装置を保護するため、および意匠性を向上させるために、レーダ装置にはカバーが設けられているが、より意匠性を高めるため、カバーを立体的な形状とすることが求められている。
【0003】
特許文献1には、平板状のカバーに凹部を設け、この凹部を埋めてカバーから突出するように部材を設けることで、カバーを透過する電磁波の位相を調整し、レーダの指向性の乱れを小さくした車両のレーダ装置用カバーが示されている。
【0004】
また、特許文献2には、屈曲させて凹凸を設けた薄い誘電体カバーの内部に発泡スチロールによる保持体を設けた車両のレーダ装置用カバーが示されている。誘電体カバーが薄く、かつ発泡スチロールの比誘電率が1に近いため、電磁波を良好に透過させることができる。また、誘電体カバーに設けた凹凸による立体形状により意匠性を高めることができる。
【0005】
また、特許文献3には、表面は球面状で、裏面に凹凸が設けられた誘電体板の裏面側から、金属層を介して凹凸が形成された誘電体板を貼り合わせ、実際には立体形状ではないが、見かけ上は立体的な車両のレーダ装置用カバーが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−104199
【特許文献2】特開2004−301592
【特許文献3】特許第3597075号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に記載の車両のレーダ装置用カバーは、凹凸の深い立体的な形状は想定されておらず、特許文献1の方法をそのような立体形状のカバーに適用しても、レーダの指向性の乱れを小さくすることはできなかった。
【0008】
また、特許文献2に記載の車両のレーダ装置用カバーでは、レーダ装置を保護するのに十分な強度を保つことができないという問題があり、また、形状によってはレーダの指向性に乱れが生じるという問題もあった。
【0009】
また、特許文献3に記載の車両のレーダ装置用カバーでは、表面は球面状であって実際には立体形状ではないため、光の当たる方向、見る方向、裏面の凹凸の形状などによっては立体感が感じられず、意匠性が低かった。
【0010】
そこで本発明の目的は、レーダの指向性の乱れの減少と、立体形状による高い意匠性とを両立させた車両のレーダ装置用カバーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1の発明は、車両に設けられたレーダ装置のアンテナ側を覆う車両のレーダ装置用カバーにおいて、車両のレーダ装置用カバーは、誘電体板に凹凸を設けた立体形状であり、誘電体板のうち、レーダ装置で送受信される電磁波の波面に角度を成す第1部分の厚さは、誘電体板の他の部分である第2部分の厚さよりも薄い、ことを特徴とする車両のレーダ装置用カバーである。
【0012】
第1の発明において、第1部分は、レーダ装置で送受信される電磁波の波面に対して、なるべく垂直である方が、本発明によって得られる効果が高く望ましい。また、第1部分は、レーダ装置で送受信される電磁波の波面に角度を成す部分であるので、第2部分は波面に水平な部分であるが、波面に対して厳密に水平である必要はなく、波面に対して0〜5°の範囲で角度を成している部分であってもよい。ただし、なるべく平行に近い方が、本発明の効果が高く望ましい。
【0013】
第2の発明は、第1の発明において、第1部分の厚さは、レーダ装置で送受信される電磁波の誘電体板内部での波長の1/5以下であることを特徴とする車両のレーダ装置用カバーである。
【0014】
第3の発明は、第1の発明または第2の発明において、第1部分と第2部分の成す角度は、90°〜109°であることを特徴とする車両のレーダ装置用カバーである。
【0015】
第4の発明は、第1の発明から第3の発明において、誘電体板の凹凸の高さは、レーダ装置で送受信される電磁波の誘電体板内部での波長の0.8〜3.5倍であることを特徴とする車両のレーダ装置用カバーである。
【0016】
ここでいう凹凸の高さとは、レーダ装置で送受信される電磁波の波面に垂直な方向における凹部または凸部の高さである。
【0017】
第5の発明は、第1の発明から第4の発明において、第2部分の厚さは、レーダ装置で送受信される電磁波の誘電体板内部での波長の0.25倍以下であることを特徴とする車両のレーダ装置用カバーである。
【0018】
第6の発明は、車両に設けられたレーダ装置のアンテナ側を覆う車両のレーダ装置用カバーにおいて、車両のレーダ装置用カバーは、誘電体板に凹凸を設けた立体形状であり、誘電体板のうち、レーダ装置で送受信される電磁波の波面に垂直である第1部分は、誘電体板の他の部分である第2部分よりも、レーダ装置で送受信される電磁波に対する透過損失が大きい高損失材料であることを特徴とする車両のレーダ装置用カバーである。
【0019】
第7の発明は、第6の発明において、高損失材料は、カーボンを含む材料であることを特徴とする車両のレーダ装置用カバーである。
【0020】
第8の発明は、車両に設けられたレーダ装置のアンテナ側を覆う車両用のレーダ装置用カバーにおいて、車両のレーダ装置用カバーは、誘電体板に凹凸を設けた立体形状であり、誘電体板のうち、レーダ装置で送受信される電磁波の波面に垂直である第1部分は、誘電体板の他の部分である第2部分の比誘電率よりも比誘電率が小さい材料である、ことを特徴とする車両のレーダ装置用カバーである。
【0021】
第9の発明は、第1の発明から第4の発明、第6の発明から第8の発明において、第2部分の厚さは、レーダ装置で送受信される電磁波の誘電体板内部での波長の半分の整数倍であることを特徴とする車両のレーダ装置用カバーである。
【0022】
第10の発明は、第1の発明から第9の発明において、誘電体板は、ポリカーボネート樹脂であることを特徴とする車両のレーダ装置用カバーである。
【0023】
第11の発明は、第1の発明から第10の発明において、誘電体板には、塗装、金属蒸着、コーティングのうち、少なくとも1つ以上が施されていることを特徴とする車両のレーダ装置用カバーである。
【0024】
第12の発明は、車両に設けられたレーダ装置のアンテナ側を覆う車両のレーダ装置用カバーにおいて、車両のレーダ装置用カバーは、凹凸を設けることで立体形状とした誘電体フィルムと、凹凸を設けることで、誘電体フィルムと同一の立体形状とした誘電体板であり、誘電体フィルムのレーダ装置側の面に貼り合わされた保持体と、を有し、保持体のうち、レーダ装置で送受信される電磁波の波面に垂直である部分の全部、または一部に穴が設けられている、ことを特徴とする車両のレーダ装置用カバーである。
【0025】
第13の発明は、第12の発明において、誘電体フィルムは、アクリル樹脂、またはPET樹脂であることを特徴とする車両のレーダ装置用カバーである。
【0026】
第14の発明は、第12の発明または第13の発明において、誘電体フィルムには、塗装、金属蒸着、コーティングのうち、少なくとも1つ以上が施されていることを特徴とする車両のレーダ装置用カバーである。
【0027】
なお、本発明における「垂直」の語は、厳密に垂直であることを意味するものではなく、以下に説明する本発明の効果を奏する限りにおいて厳密な垂直からずれた角度であってもよい。ただし、なるべく垂直に近い方が望ましい。
【0028】
また、本発明にいう立体形状は、射出成形などによって誘電体板もしくは誘電体フィルムを屈曲させて立体形状とするものであり、誘電体板もしくは誘電体フィルム自体に切削などによる溝を設けて立体形状とするものではない。
【0029】
また、第1部分、第2部分の厚さは、射出成形などの樹脂成形において作製可能な範囲であって、かつ、レーダー装置を保護するカバーとして十分な物理的強度を確保するために、レーダ装置で送受信される電磁波の誘電体板内部での波長の0.08倍以上とすることが望ましい。
【発明の効果】
【0030】
本発明者らは、誘電体板に凹凸を設け、立体形状とした意匠性の高い車両のレーダ装置用カバーについて、レーダの指向性の乱れが生じる原因を検討したところ、誘電体板のレーダ装置で送受信される電磁波の波面に角度を成す部分である第1部分を電磁波が透過する距離は、誘電体板の他の部分である第2部分を電磁波が透過する距離よりも長く、第1部分を透過する電磁波と第2部分を透過する電磁波とに位相のずれが生じるためであることを突き止めた。本発明は、この位相のずれを低減することで、車両のレーダ装置用カバーを立体形状とすることによる意匠性の高さと、レーダの指向性の乱れの抑制とを両立させたものである。
【0031】
第1の発明のように、第1部分の厚さを第2部分の厚さよりも薄くして第1部分を透過する電磁波を少なくすれば、位相のずれの影響を相対的に低減することができるため、レーダの指向性の乱れを抑制することができる。特に第2の発明のように、第1部分の厚さを、レーダ装置で送受信される電磁波の誘電体板内部での波長の1/5以下とすれば、レーダの指向性の乱れを抑制する効果をより高くすることができる。
【0032】
また、第3の発明のように、第1部分と第2部分の成す角度が、90°〜109°である車両のレーダー装置用カバーは、レーダの指向性の乱れが大きいので、本発明を適用する効果が大きい。
【0033】
また、第4の発明のように、誘電体板の凹凸の高さが、レーダ装置で送受信される電磁波の誘電体板内部での波長の0.8〜3.5倍である車両のレーダー装置用カバーは、レーダの指向性の乱れが大きいので、本発明を適用する効果が大きい。
【0034】
また、第5の発明のように、第1部分の厚さが第2部分の厚さよりも薄い範囲において、第2部分の厚さを、レーダ装置で送受信される電磁波の誘電体板内部での波長の0.25倍以下とすることで、レーダの指向性の乱れをより抑制することができる。
【0035】
また、第6の発明のように、第1部分を第2部分よりもレーダ装置で送受信される電磁波に対する透過損失が大きい高損失材料とし、第1部分を透過する電磁波の量を、第2部分を透過する電磁波の量よりも少なくすれば、位相のずれの影響を相対的に低減することができるので、レーダの指向性の乱れを抑制することができる。また、第7の発明のように、高損失材料として、カーボンを含む材料を用いることができる。
【0036】
また、第8の発明のように、第1部分の比誘電率を、第2部分の比誘電率よりも小さくすれば、第1部分を透過する電磁波と第2部分を透過する電磁波との位相のずれが小さくなり、レーダの指向性の乱れを抑制することができる。
【0037】
また、第9の発明によると、第2部分における電磁波の反射が低減され、電磁波を車両のレーダ装置用カバーから良好に透過させることができる。
【0038】
また、第10の発明のように、誘電体板にはポリカーボネート樹脂を用いることができる。
【0039】
また、第12の発明によると、車両のレーダ装置用カバーのレーダ装置で送受信される電磁波の波面に垂直である部分の厚さは、保持体に穴が設けられているため、誘電体フィルムの厚さに等しい。つまり、車両のレーダ装置用カバーのレーダ装置で送受信される電磁波の波面に垂直である部分の厚さは、車両のレーダ装置用カバーの他の部分に比べて薄くなっている。したがって、第1の発明と同様にレーダの指向性の乱れを抑制することができる。また、第13の発明のように、誘電体フィルムにはアクリル樹脂やPET樹脂を用いることができる。
【0040】
また、第11、14の発明のように、誘電体板、誘電体フィルムに塗装、金属蒸着、コーティングのいずれかを施すことで、車両のレーダ装置用カバーの意匠性をさらに高めることができる。塗装、金属蒸着、コーティングは、誘電体板、誘電体フィルムの外側の面(レーダ装置側とは反対側の面)に施してもよいし、誘電体板、誘電体フィルムが可視光に対して透明な材料である場合には内側の面(レーダ装置側の面)に施してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】実施例1の車両のレーダ装置用カバー1を示した図。
【図2】図1におけるzx平面での断面を示した図。
【図3】ミリ波レーダ装置2の指向性を示した図。
【図4】t2を変化させたときの利得差の変化を示すグラフ。
【図5】角度θを変化させたときの利得差の変化を示すグラフ。
【図6】凸部4の高さhを変化させたときの利得差の変化を示すグラフ。
【図7】t1を変化させたときの利得差の変化を示すグラフ。
【図8】実施例2の車両のレーダ装置用カバー20を示した図。
【図9】実施例3の車両のレーダ装置用カバー30を示した図。
【図10】実施例4の車両のレーダ装置用カバー40を示した図。
【図11】実施例4の車両のレーダ装置用カバー40の構成を分解して示した図。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、本発明の具体的な実施例について図を参照に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0043】
図1は、実施例1の車両のレーダ装置用カバー1を示した図である。また、図2は、図1におけるzx平面での断面を示した図である。この車両のレーダ装置用カバー1は、ミリ波レーダ装置2から一定の距離隔てて配置されていて、ミリ波レーダ装置2の電磁波照射方向(z軸方向)に対して垂直に配置されている。ミリ波レーダ装置2は、車両のフロントグリルなどに固定されていて、車両の前方にミリ波帯の電磁波を照射する。図2において点線3により挟まれた領域5は、ミリ波レーダ装置2からの電磁波の照射範囲を示している。
【0044】
車両のレーダ装置用カバー1は、図1、図2に示すように、ポリカーボネート樹脂からなる誘電体板を屈曲させて凹凸を施し、ミリ波レーダ装置2側に突出した3つの凸部4を設けた洗濯板状の立体形状である。凸部4は、y軸方向に伸びる帯状の直方体形状に形成されていて、凸部4のzx平面での断面は矩形である。誘電体板の凹凸加工は、射出成形により行うことができる。なお、車両のレーダ装置用カバーの材料である誘電体には、ポリカーボネート樹脂以外にも、アクリル、AES(AEPDS)などを用いることができる。
【0045】
凸部4を設けたことにより、車両のレーダ装置用カバー1である誘電体板には、ミリ波レーダ装置2から照射される電磁波の波面に垂直な部分(以下、第1部分6)と、第1部分6以外の部分(以下、第2部分7)の2つの領域が生じている。誘電体板の第1部分6の厚さはt2、第2部分7の厚さはt1であり、第1部分6の厚さt2を第2部分7の厚さt1よりも薄くしている。また、t1は0.5λgであり、λgは、ミリ波レーダ装置2から照射される電磁波の誘電体板内部における波長であり、誘電体板を構成する誘電体の比誘電率をεr、ミリ波レーダ装置2から照射される電磁波の自由空間波長をλ0として、λg=λ0*(εr)-1/2である。t1をλg/2の整数倍としているため、第2部分7による電磁波の反射が抑えられ、良好な電磁波透過性を確保することができる。
【0046】
この実施例1の車両のレーダ装置用カバー1は、ミリ波レーダ装置2をカバーで覆うことによる指向性の乱れを小さくすることができる。以下、その理由について説明する。実施例1のような誘電体板を凹凸加工した車両のレーダ装置用カバー1では、上述のようにミリ波レーダ装置2から照射される電磁波の波面に垂直な部分である第1部分6と、それ以外の部分である第2部分7とが生じる。これにより、第2部分7を電磁波が透過する距離よりも、第1部分6を電磁波が透過する距離の方が長くなり、第2部分7を透過する電磁波と第1部分6を透過する電磁波とには位相のずれが生じる。これがレーダの指向性の乱れの原因となっている。そこで、実施例1の車両のレーダ装置用カバー1では、第1部分6の厚さt2を第2部分7の厚さt1よりも薄くすることで、第1部分6の厚さt2を第2部分7の厚さt1と等しくした場合よりも第1部分6を透過する電磁波の量を減少させ、位相のずれの影響を相対的に低下させることで、レーダの指向性の乱れを抑制している。
【0047】
図3は、車両のレーダ装置用カバー1を、3つの凸部4がミリ波レーダ装置2からの電磁波の照射範囲である領域5に含まれるように配置し、凸部4の高さを2.8λgとして、t2を0.08λgとした場合、t2を0.51λgとした場合、および車両のレーダ装置用カバー1を設けない場合の3つの場合について、ミリ波レーダレーダ装置2のzx平面での指向性を示したものである。図3において横軸はz軸方向を0°とした角度を示し、縦軸は利得を示している。ここで、車両のレーダ装置用カバー1を設けた場合と設けない場合とで、指向性の変化が小さい方がより良い特性であると考えられる。そこで、レーダの検知範囲を−10〜10度とし、この範囲における車両のレーダ装置用カバー1を設けた場合と設けない場合との最大の利得差を評価した。t2を0.51λgとした場合の利得差は、約12dBと大きいが、t2を0.08λgとした場合の利得差は、約2.5dBであり、0.51λgとした場合に比べて大幅に利得差が小さくなっていた。このように、t2を小さくすることにより、車両のレーダ装置用カバー1を設けない場合の指向性により近くなり、特性を改善することができることがわかった。
【0048】
図4は、t2を変化させたときの、車両のレーダ装置用カバー1を設けた場合と設けない場合との最大の利得差の変化を示すグラフである。t1は0.5λg、高さhは2.8λgとした。レーダの検知範囲は図3の場合と同じく−10〜10度とした。この図4のように、t2を0.2λg以下の厚さとすれば、大幅に特性を改善させることができることがわかった。なお、射出成形により車両のレーダ装置用カバー1を作製する都合上、t2の厚さを0.08λgよりも薄くすることは難しく、また、0.08λgより薄くすると、車両のレーダ装置用カバー1の物理的強度を確保するのが難しい。よって、t2の厚さは0.08λg以上とする必要がある。これは、t1の厚さについても同様である。
【0049】
図5は、角度θを変化させたときの、車両のレーダ装置用カバー1を設けた場合と設けない場合との最大の利得差の変化を示すグラフである。ここで角度θは、第1部分6と第2部分7の成す角度であり、第2部分7をミリ波レーダ装置2から照射される電磁波の波面に対して水平に保った状態で、波面に対して垂直な第1部分6を傾けた時の角度θである。t1は0.5λg、高さhは2.8λgとし、t2は、0.08λg、0.12λg、0.5λgとした。それ以外の条件は図3の場合と同様である。図5のように、t2がいずれの値の場合にも、θが大きくなるにつれて利得差は減少している。また、t1=t2=0.5λgとする場合よりも、t2=0.08λg、0.12λgとするt1>t2の場合の方が、角度θが90〜110°の範囲で利得差が小さくなっていることがわかる。また、t1=t2=0.5λgの場合、θが90〜109°の範囲で利得差は5dB以上となっている。これらから、t1>t2とすることで利得差を低減して指向性の乱れを抑える、という本発明の効果は、角度θが90〜109°である車両のレーダ装置用カバー1に対して、特に大きくなる。
【0050】
図6は、凸部4の高さhを変化させたときの、車両のレーダ装置用カバー1を設けた場合と設けない場合との最大の利得差の変化を示すグラフである。t2は、0.08λg、0.12λg、0.5λgとした。t1は0.5λgとし、t2は、0.08λg、0.12λg、0.5λgとした。それ以外の条件は図3の場合と同様である。図6のように、t2が0.5λgの場合では、高さhが0.8λg〜3.5λgの範囲で、利得差は5dB以上となっている。また、t2が0.08λg、0.12λgの場合では、高さhの上昇とともに利得差もゆるやかに上昇し、特にt2が0.08λgの場合は、t2が0.12λgの場合よりも上昇がゆるやかであり、高さhが3.5λg以下の範囲で利得差は5dB未満である。また、t2が0.12λgの場合では、高さhが2.7λg以下では利得差が5dB以下であり、高さhが3.3λg〜3.5λgの範囲を除いてt2が0.5λgの場合よりも利得差が小さくなっている。これらから、t1>t2とすることで利得差を低減して指向性の乱れを抑える、という本発明の効果は、凸部4の高さhが0.8〜3.5λgである車両のレーダ装置用カバー1に対して、特に大きくなる。
【0051】
図7は、t1を変化させたときの、車両のレーダ装置用カバー1を設けた場合と設けない場合との最大の利得差の変化を示すグラフである。高さhは2.8λgとし、t2は、0.08λg、0.12λg、0.5λgとした。それ以外の条件は図3の場合と同様である。図7のように、t2が0.08λg、0.12λgの場合、t1が0.25λg〜0.5λgの範囲では利得差にほぼ変化はないが、t1が0.25λg以下では、t1の減少とともにゆるやかに利得差が減少していく。また、t1が0.08λg〜0.5λgの範囲であって、t2が0.5λgの場合、つまりt1≦t2の場合では、t1がいずれの値であってもおおよそ10dB以上の利得差があり、t1≦t2とするのは望ましくないと推察できる。以上から、t1>t2の範囲において、より利得差を小さくして指向性の乱れを抑制するためには、t1の厚さを0.08λg〜0.25λgの範囲とすればよいことがわかる。
【実施例2】
【0052】
図8は、実施例2の車両のレーダ装置用カバー20について示した断面図である。この車両のレーダ装置用カバー20は、実施例1の車両のレーダ装置用カバー1と同様にミリ波レーダ装置2から一定の距離隔てて配置されていて、ミリ波レーダ装置2の電磁波照射方向に対して垂直に配置されている。
【0053】
車両のレーダ装置用カバー20は、車両のレーダ装置用カバー1と同様にミリ波レーダ装置2側に突出した3つの凸部24を設けた立体形状であり、凸部24を設けたことにより車両のレーダ装置用カバー20には、ミリ波レーダ装置2から照射される電磁波の波面に垂直な部分(以下、第1部分26)と、第1部分26以外の部分(以下、第2部分27)の2つの領域が生じている。第2部分27の厚さt1は0.5λgであり、実施例1での説明のように、第2部分27による電磁波の反射が抑えられ、良好な電磁波透過性を確保することができる。
【0054】
第2部分27は、ポリカーボネート樹脂からなり、第1部分26は、第2部分27よりもミリ波レーダ装置2からの電磁波の透過損失が大きい高損失材料からなる。高損失材料は、たとえばカーボンを含む材料であり、ポリカーボネート樹脂にカーボンを混合した材料などである。高損失材料として他にもフェライトなどを用いることができる。このような第1部分26と第2部分27とで材料の異なる車両のレーダ装置用カバー20の凹凸加工は、二色成形によって行うことができる。
【0055】
この実施例2の車両のレーダ装置用カバー20もまた、実施例1の車両のレーダ装置用カバー1と同様に、レーダの指向性の乱れを小さくすることができる。これは、第1部分26を高損失材料とすることで、第1部分26を透過する電磁波の量を低下させ、位相のずれの影響を相対的に低下させることができるためである。
【実施例3】
【0056】
図9は、実施例3の車両のレーダ装置用カバー30について示した断面図である。車両のレーダ装置用カバー30のミリ波レーダ装置2に対する配置位置は、実施例1や実施例2と同様である。車両のレーダ装置用カバー30の形状は、車両のレーダ装置用カバー1と同様にミリ波レーダ装置2側に突出した3つの凸部34を設けた立体形状であり、凸部34を設けたことにより車両のレーダ装置用カバー30には、ミリ波レーダ装置2から照射される電磁波の波面に垂直な部分(以下、第1部分36)と、第1部分36以外の部分(以下、第2部分37)の2つの領域が生じている。また、第2部分37の厚さt1は0.5λgであり、実施例1での説明のように、第2部分37による電磁波の反射が抑えられ、良好な電磁波透過性を確保することができる。
【0057】
第2部分37は、ポリカーボネート樹脂からなり、第1部分36は、第2部分37よりも比誘電率の小さい材料からなる。第1部分36の材料としては、たとえば、ポリカーボネート樹脂よりも比誘電率の小さい材料であるポリプロピレン、ポリスチレンなどを用いることができる。車両のレーダ装置用カバー30の凹凸加工は、実施例2の車両のレーダ装置用カバー20と同様に二色成形によって行うことができる。
【0058】
この実施例3の車両のレーダ装置用カバー30もまた、実施例1の車両のレーダ装置用カバー1と同様に、レーダの指向性の乱れを小さくすることができる。これは、第1部分36を比誘電率の小さい材料とすることで、第2部分37を透過する電磁波と第1部分36を透過する電磁波との間の位相のずれが小さくなるためである。
【実施例4】
【0059】
図10は、実施例4の車両のレーダ装置用カバー40について示した断面図である。また、図11は、車両のレーダ装置用カバー40の構成を分解して示した図である。車両のレーダ装置用カバー40のミリ波レーダ装置2に対する配置位置は、実施例1〜3と同様である。
【0060】
車両のレーダ装置用カバー40の形状は、図11に示すように、誘電体フィルム41のレーダ装置2側の面に、誘電体板42(本発明にいう保持体)を接着した構成である。誘電体板42が誘電体フィルム41の強度を補強している。
【0061】
誘電体フィルム41は、可視光に対して透明なアクリル樹脂からなり、厚さは0.1〜0.2λgである。誘電体フィルム41は、折り曲げることで3つの凸部44が形成された洗濯板状の立体形状である。凸部44は、ミリ波レーダ装置2側に突出した直方体形状である。誘電体フィルム41の内面(ミリ波レーダ装置2側の面)には、塗装や金属蒸着が施され、意匠性が高められている。誘電体フィルム41の材料には、アクリル樹脂以外にも、PET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂などを用いることができる。
【0062】
誘電体板42は、折り曲げることで3つの凸部45が形成されていて、誘電体フィルム41とほぼ同一の洗濯板状の立体形状である。凸部45は、ミリ波レーダ装置2側に突出した直方体形状であり、この凸部45の両側部(ミリ波レーダ装置2から照射される電磁波の波面に垂直な部分)には、この側部の端を残して長方形の穴48が開けられている。誘電体板42は、ポリカーボネート樹脂からなり、厚さは0.5λgである。なお、凸部45の側部に設ける穴48は側部の一部に設けてもよいし、全部に設けてもよく、穴48の大きさ、位置、形状、個数などは、車両のレーダ装置用カバー40の強度や意匠性、レーダの指向性の乱れを抑制する効果の大きさ、などを考慮して任意に設計することができる。たとえば、レーダの指向性の乱れを抑制する効果を大きくしたい場合には、穴48を広く空けるようにすればよい。
【0063】
誘電体フィルム41の内面と誘電体板42の外面(ミリ波レーダ装置2側とは反対側の面)とは、凹凸がかみ合うように貼り合わされて接着されている。
【0064】
このような構成により、車両のレーダ装置用カバー40のミリ波レーダ装置2から照射される電磁波の波面に垂直な部分(以下、第1部分46)は、誘電体板42に穴が設けられているため、大部分が誘電体フィルム41のみの構成であり、車両のレーダ装置用カバー40の第1部分46以外の部分(以下、第2部分47)は誘電体フィルム41と誘電体板42が貼り合わされているため、第1部分46よりも厚くなっている。したがって、実施例4の車両のレーダ装置用カバー40は、実施例1の車両のレーダ装置用カバー1と同様の理由により、レーダの指向性の乱れを小さくすることができる。すなわち、実施例4の車両のレーダ装置用カバー40では、第1部分46の厚さが第2部分47の厚さよりも薄いため、第1部分46の厚さを第2部分47の厚さと等しくした場合よりも第1部分46を透過する電磁波の量が少なく、位相のずれの影響が相対的に低下するので、レーダの指向性の乱れが小さくなる。
【0065】
なお、いずれの実施例でも、車両のレーダ装置用カバーの形状を洗濯板状の立体形状としているが、本発明は凹凸を設けることによる任意の立体形状でよく、意匠性の高い車両のレーダ装置用カバーを実現可能である。
【0066】
また、実施例1〜3において、第2部分の厚さt1を0.5λgとしているが、必ずしもt1をλg/2の整数倍とする必要はなく、車両のレーダ装置用カバー1の強度や立体形状との兼ね合いで任意の値に設計してよい。
【0067】
また、実施例1〜3において、車両のレーダ装置用カバーの表面には、塗装、金属蒸着、コーティングなどを施してもよい。車両のレーダ装置用カバーの材料である誘電体が可視光に対して不透明な材料を用いるならば、外面(ミリ波レーダ装置側とは反対側の表面)に塗装、金属蒸着、コーティングなどを施して、車両のレーダ装置用カバーの意匠性を高めることができる。また、車両のレーダ装置用カバーの材料である誘電体が可視光に対して透明である材料を用いるならば、内面(ミリ波レーダ装置側とは反対側の表面)と外面の一方、もしくは内面と外面の双方に塗装、金属蒸着、コーティングを施して、車両のレーダ装置用カバーの意匠性を高めることができる。
【0068】
また、実施例4では、誘電体フィルム41の内面に塗装、金属蒸着を施したが、外面に塗装、金属蒸着、コーティングなどを施してもよい。また、誘電体フィルム41を可視光に対して透明である材料を用いるならば、誘電体板42の外面に塗装、金属蒸着、コーティングなどを施してもよく、さらに誘電体フィルム41と誘電体板42の双方に可視光に対して透明である材料を用いるならば、誘電体板42の内面に塗装、金属蒸着、コーティングなどを施してもよい。いずれの場合にも、車両のレーダ装置用カバーの意匠性を高めることができる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明により、レーダの指向性の乱れが抑制され、立体的な形状の車両のレーダ装置用カバーを実現することができる。
【符号の説明】
【0070】
1、20、30、40:車両のレーダ装置用カバー
2:ミリ波レーダ装置
4、24、34、44、45:凸部
6、26、36、46:第1部分
7、27、37、47:第2部分
41:誘電体フィルム
42:誘電体板
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に設けられたレーダ装置のアンテナ側を覆う車両のレーダ装置用カバーにおいて、
前記車両のレーダ装置用カバーは、誘電体板に凹凸を設けた立体形状であり、
前記誘電体板のうち、前記レーダ装置で送受信される電磁波の波面に角度を成す第1部分の厚さは、前記誘電体板の他の部分である第2部分の厚さよりも薄い、
ことを特徴とする車両のレーダ装置用カバー。
【請求項2】
前記第1部分の厚さは、前記レーダ装置で送受信される電磁波の前記誘電体板内部での波長の1/5以下であることを特徴とする請求項1に記載の車両のレーダ装置用カバー。
【請求項3】
前記第1部分と前記第2部分の成す角度は、90°〜109°であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の車両のレーダ装置用カバー。
【請求項4】
前記誘電体板の前記凹凸の高さは、前記レーダ装置で送受信される電磁波の前記誘電体板内部での波長の0.8〜3.5倍であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の車両のレーダ装置用カバー。
【請求項5】
前記第2部分の厚さは、前記レーダ装置で送受信される電磁波の前記誘電体板内部での波長の0.25倍以下であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の車両のレーダ装置用カバー。
【請求項6】
車両に設けられたレーダ装置のアンテナ側を覆う車両のレーダ装置用カバーにおいて、
前記車両のレーダ装置用カバーは、誘電体板に凹凸を設けた立体形状であり、
前記誘電体板のうち、前記レーダ装置で送受信される電磁波の波面に垂直である第1部分は、前記誘電体板の他の部分である第2部分よりも、前記レーダ装置で送受信される電磁波に対する透過損失が大きい高損失材料である、
ことを特徴とする車両のレーダ装置用カバー。
【請求項7】
前記高損失材料は、カーボンを含む材料であることを特徴とする請求項6に記載の車両のレーダ装置用カバー。
【請求項8】
車両に設けられたレーダ装置のアンテナ側を覆う車両用のレーダ装置用カバーにおいて、
前記車両のレーダ装置用カバーは、誘電体板に凹凸を設けた立体形状であり、
前記誘電体板のうち、前記レーダ装置で送受信される電磁波の波面に垂直である第1部分は、前記誘電体板の他の部分である第2部分の比誘電率よりも比誘電率が小さい材料である、
ことを特徴とする車両のレーダ装置用カバー。
【請求項9】
前記第2部分の厚さは、前記レーダ装置で送受信される電磁波の前記誘電体板内部での波長の半分の整数倍であることを特徴とする請求項1ないし請求項4、請求項6ないし請求項8のいずれか1項に記載の車両のレーダ装置用カバー。
【請求項10】
前記誘電体板は、ポリカーボネート樹脂であることを特徴とする請求項1ないし請求項9のいずれか1項に記載の車両のレーダ装置用カバー。
【請求項11】
前記誘電体板には、塗装、金属蒸着、コーティングのうち、少なくとも1つ以上が施されていることを特徴とする請求項1ないし請求項10のいずれか1項に記載の車両のレーダ装置用カバー。
【請求項12】
車両に設けられたレーダ装置のアンテナ側を覆う車両のレーダ装置用カバーにおいて、
前記車両のレーダ装置用カバーは、
凹凸を設けることで立体形状とした誘電体フィルムと、
凹凸を設けることで、前記誘電体フィルムと同一の立体形状とした誘電体板であり、前記誘電体フィルムの前記レーダ装置側の面に貼り合わされた保持体と、
を有し、
前記保持体のうち、前記レーダ装置で送受信される電磁波の波面に垂直である部分の全部、または一部に穴が設けられている、
ことを特徴とする車両のレーダ装置用カバー。
【請求項13】
前記誘電体フィルムは、アクリル樹脂、またはPET樹脂であることを特徴とする請求項12に記載の車両のレーダ装置用カバー。
【請求項14】
前記誘電体フィルムには、塗装、金属蒸着、コーティングのうち、少なくとも1つ以上が施されていることを特徴とする請求項12または請求項13に記載の車両のレーダ装置用カバー。
【請求項1】
車両に設けられたレーダ装置のアンテナ側を覆う車両のレーダ装置用カバーにおいて、
前記車両のレーダ装置用カバーは、誘電体板に凹凸を設けた立体形状であり、
前記誘電体板のうち、前記レーダ装置で送受信される電磁波の波面に角度を成す第1部分の厚さは、前記誘電体板の他の部分である第2部分の厚さよりも薄い、
ことを特徴とする車両のレーダ装置用カバー。
【請求項2】
前記第1部分の厚さは、前記レーダ装置で送受信される電磁波の前記誘電体板内部での波長の1/5以下であることを特徴とする請求項1に記載の車両のレーダ装置用カバー。
【請求項3】
前記第1部分と前記第2部分の成す角度は、90°〜109°であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の車両のレーダ装置用カバー。
【請求項4】
前記誘電体板の前記凹凸の高さは、前記レーダ装置で送受信される電磁波の前記誘電体板内部での波長の0.8〜3.5倍であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の車両のレーダ装置用カバー。
【請求項5】
前記第2部分の厚さは、前記レーダ装置で送受信される電磁波の前記誘電体板内部での波長の0.25倍以下であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の車両のレーダ装置用カバー。
【請求項6】
車両に設けられたレーダ装置のアンテナ側を覆う車両のレーダ装置用カバーにおいて、
前記車両のレーダ装置用カバーは、誘電体板に凹凸を設けた立体形状であり、
前記誘電体板のうち、前記レーダ装置で送受信される電磁波の波面に垂直である第1部分は、前記誘電体板の他の部分である第2部分よりも、前記レーダ装置で送受信される電磁波に対する透過損失が大きい高損失材料である、
ことを特徴とする車両のレーダ装置用カバー。
【請求項7】
前記高損失材料は、カーボンを含む材料であることを特徴とする請求項6に記載の車両のレーダ装置用カバー。
【請求項8】
車両に設けられたレーダ装置のアンテナ側を覆う車両用のレーダ装置用カバーにおいて、
前記車両のレーダ装置用カバーは、誘電体板に凹凸を設けた立体形状であり、
前記誘電体板のうち、前記レーダ装置で送受信される電磁波の波面に垂直である第1部分は、前記誘電体板の他の部分である第2部分の比誘電率よりも比誘電率が小さい材料である、
ことを特徴とする車両のレーダ装置用カバー。
【請求項9】
前記第2部分の厚さは、前記レーダ装置で送受信される電磁波の前記誘電体板内部での波長の半分の整数倍であることを特徴とする請求項1ないし請求項4、請求項6ないし請求項8のいずれか1項に記載の車両のレーダ装置用カバー。
【請求項10】
前記誘電体板は、ポリカーボネート樹脂であることを特徴とする請求項1ないし請求項9のいずれか1項に記載の車両のレーダ装置用カバー。
【請求項11】
前記誘電体板には、塗装、金属蒸着、コーティングのうち、少なくとも1つ以上が施されていることを特徴とする請求項1ないし請求項10のいずれか1項に記載の車両のレーダ装置用カバー。
【請求項12】
車両に設けられたレーダ装置のアンテナ側を覆う車両のレーダ装置用カバーにおいて、
前記車両のレーダ装置用カバーは、
凹凸を設けることで立体形状とした誘電体フィルムと、
凹凸を設けることで、前記誘電体フィルムと同一の立体形状とした誘電体板であり、前記誘電体フィルムの前記レーダ装置側の面に貼り合わされた保持体と、
を有し、
前記保持体のうち、前記レーダ装置で送受信される電磁波の波面に垂直である部分の全部、または一部に穴が設けられている、
ことを特徴とする車両のレーダ装置用カバー。
【請求項13】
前記誘電体フィルムは、アクリル樹脂、またはPET樹脂であることを特徴とする請求項12に記載の車両のレーダ装置用カバー。
【請求項14】
前記誘電体フィルムには、塗装、金属蒸着、コーティングのうち、少なくとも1つ以上が施されていることを特徴とする請求項12または請求項13に記載の車両のレーダ装置用カバー。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−230661(P2010−230661A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−47467(P2010−47467)
【出願日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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