説明

車両の下部構造

【課題】 部品点数の増大を招くことなく、主骨格の曲げ剛性を高めることができる車両の下部構造を提供する。
【解決手段】 フロアメンバ1は、前方に配置されたフロアメンバフロント11および後方に配置されたフロアメンバリア12を備えている。また、フロアメンバフロント11の上方にはメンバリアアッパ13が取り付けられている。フロアメンバフロント11およびフロアメンバリア12には、車両の前後方向に延在する前方上部ビード14および後方下部ビード15が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の下部構造に係り、特に、車両の前後方向に延在する主骨格とフロアパネルとの接合部を備える車両の下部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の下部構造としては、車両が衝突した際などに受ける荷重を吸収する構造が求められている。このような荷重を好適に吸収する構造として、従来、フロントサイドメンバの上部にフロアパネルを結合するとともにキック部にフロアアッパメンバを設け、さらにフロントサイドメンバ内にリインホースを設けた車体下部構造が開示されている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
この車体下部構造では、フロントサイドメンバの上部にフロアアッパメンバが設けられているとともに、フロントサイドメンバ内にリインホースが設けられている。このため、上記車体下部構造は、生産性の向上とともに前面衝突時の衝突性能を高く維持することができるというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−131148号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献1に開示された車体下部構造では、フロントサイドメンバにフロアアッパメンバやリインホースが設けることによって、フロントサイドメンバの前部の曲げ剛性を高めている。このため、フロントサイドメンバ(フロアメンバ)などの主骨格の前部の剛性を高めるにあたって、部品点数が増大してしまうという問題がある。
【0006】
そこで、本発明の課題は、部品点数の増大を招くことなく、主骨格の曲げ剛性を高めることができる車両の下部構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決した本発明に係る車両の下部構造は、車両前部からフロア部に向けて延在する主骨格に対して、車両の下面部に設けられたフロアパネルが結合された結合構造を備える車両の下部構造であって、主骨格に対して、前後方向に延びるビードが形成されていることを特徴とする。
【0008】
本発明に係る車両の下部構造は、主骨格に対して、前後方向に延びるビードが形成されている。このように、ビードが形成されていることから、主骨格の曲げ剛性を高めることができる。しかも、曲げ剛性を高めるためにビードを形成しているので、部品点数を増大させることなく、主骨格の曲げ剛性を高めることができる。
【0009】
ここで、フロアパネルにおける主骨格との接合部が平面状とされている態様とすることができる。
【0010】
このように、フロアパネルにおける主骨格との接合部が平面状とされていることにより、フロアパネルが高い張力を発揮する。このため、主骨格の曲げや変形を好適に抑制することができる。
【0011】
また、ビードのビード面が、車両の後方に向かうほどフロアパネルが配設された側に近接させられている態様とすることができる。
【0012】
このように、ビード面が、車両の後方に向かうほどフロアパネルが配設された側に近接させられていることにより、主骨格の前方から後方に流れる荷重を主骨格の高さ方向に対して整流することができる。このため、主骨格における荷重の伝達性および分散性を高めることができる。
【0013】
さらに、上記課題を解決した本発明に係る車両の下部構造は、車両前部からフロア部に向けて延在する主骨格に対して、車両の下面部に設けられたフロアパネルが結合された結合構造を備える車両の下部構造であって、主骨格における車両前部とフロア部との間にキック部が形成されており、主骨格は、キック部に形成された曲げモーメント耐久部と、キック部から後方への軸方向荷重の流れを整流化する軸方向荷重整流化部と、軸方向荷重をフロアパネルへ分散する軸方向荷重分散部と、を備えることを特徴とする。
【0014】
本発明に係る車両の下部構造においては、曲げモーメント耐久部と、キック部から後方への軸方向荷重の流れを整流化する軸方向荷重整流化部と、軸方向荷重をフロアパネルへ分散する軸方向荷重分散部と、を備えている。このため、部品点数の増大を招くことなく、主骨格の曲げ剛性を高めることができるとともに、軸方向荷重の伝達性および分散性を高めることができる。その結果、前面衝突時における主骨格の剛性を非常に高めることができる。
【0015】
また、主骨格部におけるキック部は、主骨格上側部材と主骨格下側部材をと備えており、曲げモーメント耐久部は、主骨格上側部材および主骨格下側部材のそれぞれ形成された前後方向に延在するビードと、主骨格上側部材および主骨格下側部材によって挟持されたフロアパネルとを備える態様とすることができる。
【0016】
このように、主骨格上側部材および主骨格下側部材のそれぞれに前後方向に延在するビードが形成されていることにより、曲げモーメントに対して高い剛性を発揮することができる。さらに、主骨格上側部材および主骨格下側部材によってフロアパネルが挟持されていることにより、フロアパネルの張力によって曲げモーメントに対抗することができる。その結果、曲げモーメントに対してさらに高い剛性を発揮することができる。
【0017】
主骨格におけるフロアパネルが結合された位置に、車両の左右方向に延在する第1フロアクロスメンバおよび第2フロアクロスメンバが、車両の前後方向に互いに離間して配設されており、第1フロアクロスメンバと第2フロアクロスメンバとの間における主骨格は、車両の後方に向かうほど徐変する態様とすることができる。
【0018】
本発明に係る車両の下部構造では、第1フロアクロスメンバと第2フロアクロスメンバとの間における主骨格が、車両の後方に向かうほど徐変している。このため、主骨格に伝達された圧縮応力を軸方向に平均化させた状態で後方へ伝達することができる。したがって、主骨格に伝達された応力を均等に吸収することができ、主骨格の軸方向荷重に対する強度を高くすることができる。
【0019】
主骨格の軸方向荷重整流化部における第1フロアクロスメンバと第2フロアクロスメンバとの間に、車両の前後方向に延在するビードが形成されており、軸方向荷重整流化部におけるビードのビード深さが、車両の後方に向かうほど深くされているとともに、主骨格における軸方向修正部の縦寸法が低くなる方向に徐変させられている態様とすることができる。
【0020】
このように、軸方向荷重整流化部におけるビードのビード深さが、車両の後方に向かうほど深くされていることにより、軸方向荷重に対する強度を高く維持することができる。さらに、主骨格における軸方向修正部の縦寸法が低くなる方向に徐変させられていることにより、軸方向荷重を軸方向に対して平均化させることができる。したがって、主骨格の軸方向荷重に対する強度をさらに高めることができる。
【0021】
さらに、軸方向荷重整流化部におけるフロアパネルに、ビードの深さ方向に見て、主骨格に形成されたビードからずれた位置に補強ビードが形成されている態様とすることができる。
【0022】
このように、主骨格に形成されたビードからずれた位置に補強ビードが形成されていることにより、フロアパネルにおける有効幅を広く活用することができる。その結果、主骨格における断面の座屈強度を向上させることができ、軸方向荷重に対する強度をさらに高めることができる。
【0023】
また、主骨格におけるフロアパネルが結合された位置に、車両の左右方向に延在する第1フロアクロスメンバおよび第2フロアクロスメンバが、車両の前後方向に互いに離間し、かつ第1フロアクロスメンバが第2フロアクロスメンバよりも前方になるように配設されており、軸方向荷重分散部は、第2フロアクロスメンバの後方に設けられており、軸方向荷重分散部における主骨格とフロアパネルとの単位面積あたりの結合数は、軸方向荷重整流化部における主骨格とフロアパネルとの単位面積あたりの結合数よりも多くされている態様とすることができる。
【0024】
このように、軸方向荷重分散部における主骨格とフロアクロスメンバとの単位面積あたりの結合数は、軸方向荷重整流化部における主骨格とフロアクロスメンバとの単位面積あたりの結合数よりも多くされていることにより、軸方向荷重分散部における荷重分散性を軸方向荷重整流化部よりも高めることができる。その結果、軸方向荷重に対する強度をさらに高くすることができる。
【0025】
さらには、軸方向荷重分散部は、車両の前後方向に延在するビードを有しており、ビードにおけるビード面がフロアパネルと接合されていることにより、軸方向荷重分散部における主骨格とフロアパネルとの単位面積あたりの結合数が、軸方向荷重整流化部における主骨格とフロアパネルとの単位面積あたりの結合数よりも多くされている態様とすることができる。
【0026】
このように、軸方向荷重分散部のビードにおけるビード面がフロアパネルと接合されて軸方向荷重分散部における主骨格とフロアパネルとの単位面積あたりの結合数が、軸方向荷重整流化部における主骨格とフロアパネルとの単位面積あたりの結合数よりも多くされていることにより、フロアパネルに対する荷重分散性を高めることができる。その結果、軸方向荷重に対する強度をさらに高くすることができる。
【0027】
また、ビードは、主骨格の高さ方向とビードの深さを変化させて加工されて構成されている態様とすることができる。
【0028】
このように、ビードは、主骨格の高さ方向とビードの深さを変化させて加工されて構成されていることにより、コイル材を切断して主骨格を製造する際、コイル材を略矩形状に切り出すことができるので、コイル材の無駄を排除することができる。そのため、歩留まりの改善を図ることができる。
【0029】
そして、車両主骨格とフロアパネルの接合領域は、主骨格の前方から後方まで略同一幅に形成されている態様とすることができる。
【0030】
このように、車両主骨格とフロアパネルの接合領域は、主骨格の前方から後方まで略同一幅に形成されていることにより、主骨格を伝達する軸方向荷重を後方へ適正に移動させることができる。さらには、フロアパネルからの分散量に偏りを生じさせないようにすることができ、荷重減衰の均一化を図ることができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明に係る車両の下部構造によれば、部品点数の増大を招くことなく、主骨格の曲げ剛性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】車両の下部構造の斜視図である。
【図2】フロントサイドメンバの斜視図である。
【図3】車両の下部構造におけるフロントサイドメンバの側面図である。
【図4】(a)は図3のA−A線断面図、(b)は図3のB−B線断面図、(c)は図3のC−C線断面図、(d)は図3のD−D線断面図、(e)は図3のE−E線断面図である。
【図5】車両の下部構造におけるフロントサイドメンバの平面図である。
【図6】(a)は、キック部におけるフロアパネルにビードを形成した場合に曲げモーメント荷重が生じた場合のキック部の変形状態を示す断面図、(b)はキック部におけるフロアパネルを平面状にした場合に曲げモーメント荷重が生じた場合のキック部の変形状態を示す断面図である。
【図7】(a)は、フロントサイドメンバの側面図、(b)は、車両の前方から荷重が入力された際のフロントサイドメンバにおける車両前後方向の曲げモーメント分布を示すグラフ、(c)は、車両の前方から荷重が入力された際のフロントサイドメンバにおける車両前後方向の軸方向荷重分布を示すグラフである。
【図8】前方から荷重が入力された場合のフロントサイドメンバの断面応力分布を示すグラフであり、(a)は、図3のA−A線断面に対応するグラフ、(b)は、図3のB−B線断面に対応するグラフ、(c)は、図3のD−D線断面に対応するグラフである。
【図9】(a)は、軸荷重整流化部におけるフロアパネルを平面状にした場合の有効幅を説明する断面図、(b)は、軸荷重整流化部におけるフロアパネルにビードを形成した場合の有効幅を説明する断面図である。
【図10】板材に軸方向荷重をかけた状態を説明する説明図である。
【図11】(a)は、フロアメンバリアの任意の位置の断面図、(b)は、フロアメンバリアの他の任意の位置の断面図、(c)は、コイル材からフロアメンバリアの母材を切り出す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態について説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、図示の便宜上、図面の寸法比率は説明のものと必ずしも一致しない。
【0034】
図1は、本実施形態に係る車両の下部構造の斜視図、図2は、フロンサイドメンバの斜視図、図3は、車両の下部構造におけるフロアメンバの側面図である。また、図4(a)は、図3のA−A線断面図、(b)は図3のB−B線断面図、(c)は図3のC−C線断面図、(d)は図3のD−D線断面図、(e)は図3のE−E線断面図、図5は、車両の下部構造におけるフロアメンバの平面図である。
【0035】
図1に示すように、本実施形態に係る車両の下部構造は、長尺状をなし、車両の前後方向に延在する主骨格であるフロアメンバ1を備えている。また、フロアメンバ1には、車両のフロア部を形成するフロアパネル2が取り付けられている。さらに、フロアメンバ1には、車両の左右方向に延在するフロントフロアクロス3が取り付けられ、フロアメンバ1におけるフロントフロアクロス3が取り付けられた位置よりも車両の後部には、車両の左右方向に延在するリアフロアクロス4が取り付けられている。
【0036】
ここで、図2に示すように、フロアメンバ1におけるフロントフロアクロス3が取り付けられた位置よりも前部がキック部Kとされている。また、フロアメンバ1におけるフロントフロアクロス3が取り付けられた位置とリアフロアクロス4が取り付けられた位置との間が荷重整流化部Rとされている。さらに、フロアメンバ1におけるリアフロアクロス4が取り付けられた位置よりも後方が荷重分散部Dとされている。
【0037】
荷重整流化部Rでは、フロアメンバ1が車両の後方に向かうほど徐変している。さらには、フロアメンバ1は、車両の後方に向かうほど高さが低くなるとともに断面積が小さくなるように徐々に変化して徐変している。
【0038】
また、図2および図3に示すように、フロアメンバ1は、フロアメンバフロント11およびフロアメンバリア12を備えている。フロアメンバフロント11は、フロアメンバ1の前部に配置され、フロアメンバリア12は、フロアメンバ1の後部に配置されている。また、フロアメンバフロント11の上部には、メンバリアアッパ13が設けられている。
【0039】
さらに、フロアメンバ1の前部には、曲げモーメント耐久部となるキック部Kが形成されている。キック部Kは、前方に行くほど上昇する形状とされている。また、キック部Kでは、フロアメンバフロント11とメンバリアアッパ13とによって、フロアパネル2が挟持されている。キック部Kにおいて、フロアメンバフロント11とメンバリアアッパ13とによって挟持されているフロアパネル2は、平面状とされている。
【0040】
また、フロアメンバ1のキック部Kにおけるフロアメンバフロント11の下面には、車両の前後方向に延在する前方下部ビード14が形成されている。さらに、フロアメンバリア12における下面には、車両の前後方向に延在する後方下部ビード15が形成されている。後方下部ビード15は、前方下部ビード14と連続して形成されている。また、メンバリアアッパ13の上面には、車両の前後に延在する前方上部ビード16が形成されている。
【0041】
前方下部ビード14は、断面略半円形をなしており、車両の後方にいくにつれて徐々に深さが深くなるようにして形成されている。こうして、前方下部ビード14は、車両の後方に向かうほど縦寸法が低くなる方向に徐変させられている。また、後方下部ビード15は、断面略矩形状から隅部を面取りされた形状をなしている。この後方下部ビード15は、車両の後方にいくにつれて徐々に深さが深くなるようにされている。特に、フロントフロアクロス3が取り付けられた位置とリアフロアクロス4が取り付けられた位置との間の荷重整流化部Rでは、後方下部ビード15は、図4(a)〜(e)に示すうように、車両の後方にいくにつれて徐々に深さが深くなるようにして形成されている。
【0042】
ここで、フロアメンバリア12は、車両後方に行くにつれて後方下部ビード15の深さが深くなるのに対して、側面部の高さが徐々に低くなっていく形状をなしている。また、リアフロアクロス4が取り付けられた位置の車両やや前方よりの位置から、後方下部ビード15の上面がフロアパネル2に当接している。
【0043】
また、前方上部ビード16は、断面略半円形をなしており、その深さは、車両の前後方向中央部までは車両後方に行くほどわずかに深くなるようにされており、車両前後方向中央部よりも後方では、後方にいくにつれて深さが徐々に浅くなっている。さらには、フロアメンバリア12の後端部近傍位置で消滅する。
【0044】
フロアメンバ1に取り付けられるフロアパネル2は、荷重整流化部Rおよび荷重分散部Dにおいては、フロアメンバリア12の上部に配置されている。また、フロアパネル2における荷重整流化部Rおよび荷重分散部Dには、車両の前後方向にそれぞれ延在する補強ビードとなる第1パネルビード17および第2パネルビード18が形成されている。
【0045】
第1パネルビード17および第2パネルビード18は、互いに略同一形状をなしており、車両の後方に行くに連れて徐々に深さが深くなるように形成されている。また、第1パネルビード17と第2パネルビード18との間に、フロアメンバリア12に形成された後方下部ビード15が配置されている。このように、第1パネルビード17および第2パネルビード18は、後方下部ビード15からずれた位置に形成されている。
【0046】
さらに、フロアメンバ1とフロアパネル2とは溶接によって固定されている。ここで、フロアメンバ1とフロアパネル2との溶接位置Yは、図5に示すように、フロアメンバ1の前部から後部にかけて、フロアメンバ1における両サイドで、前後方向に離間して配置されている。これらの位置では、フロアメンバ1におけるフロアメンバフロント11、フロアメンバリア12、またはメンバリアアッパ13とフロアパネル2とが溶接されている。
【0047】
さらに、フロアメンバ1の後部におけるリアフロアクロス4よりも後方の荷重分散部Dでは、溶接位置Yは、フロアメンバ1の両サイドのほか、フロアメンバ1の幅方向中央部にも配置されている。フロアメンバ1の幅方向中央部では、フロアメンバ1におけるフロアメンバリア12に形成された後方下部ビード15とフロアパネル2とが溶接されている。このように、荷重分散部Dでは、キック部Kおよび荷重整流化部Rよりも溶接位置Yが多く、さらにいえば、単位面積あたりの溶接位置Yが多く設定されている。
【0048】
次に、本実施形態に係る車両の下部構造の作用について説明する。本実施形態に係る車両の下部構造におけるフロアメンバ1においては、フロアメンバ1におけるフロアメンバフロント11、フロアメンバリア12、およびメンバリアアッパ13にそれぞれ車両の前後方向に延びるビード14〜16が形成されている。これらのビード14〜16が形成されていることにより、車両が前面衝突した際の曲げに対する強度を向上させることができる。また、フロアメンバ1に別途補強部材を設けることなく、曲げに対する強度を向上させることができるので、部品点数を増大させることなく、フロアメンバ1の曲げ剛性を高めることができる。
【0049】
特に、フロアメンバフロント11に形成された前方下部ビード14とフロアメンバリア12に形成された後方下部ビード15とは、連続して形成されている。このため、フロアメンバ1において、車両が前面衝突した際の荷重をスムーズに後方に伝達することができる。
【0050】
ここで、フロアメンバ1における前部に位置するキック部Kでは、フロアメンバフロント11とメンバリアアッパ13とによって挟持されるフロアパネル2が平面状とされている。このように、フロアパネル2が平面状であることから、フロアパネル2の張力がフロアメンバ1の曲げに対して強度を発揮する。
【0051】
たとえば、図6(a)に示すように、フロアメンバ1のキック部Kにおけるフロアパネル2にビードBが形成されている場合を考える。この場合、フロアパネル2におけるビードBが形成されている部分が変形しやすくなることから、フロアパネル2が曲げモーメントに対して高い強度を発現しにくくなる。その結果、フロアメンバ1における曲げモーメントに対する強度全体を高くすることができなくなり、フロアメンバ1のキック部Kに曲げモーメントが作用した際、図6(a)に破線で示すように、フロアメンバ1の変形量が大きくなってしまう。
【0052】
この点、本実施形態に係るフロアメンバ1では、図6(b)に示すように、フロアメンバ1のキック部Kに配置されたフロアパネル2が平面状であると、フロアパネル2が変形しにくくなり、フロアパネル2の曲げモーメントに対する強度が高いものとなる。その結果、フロアメンバ1のキック部Kに曲げモーメントが作用した際、図6(b)に破線で示すように、フロアメンバ1の変形量を小さくすることができる。
【0053】
さらには、フロアメンバフロント11には車両の前後方向に延在する前方下部ビード14が形成され、メンバリアアッパ13には、車両の前後方向に延在する前方上部ビード16が形成されている。これらの前方下部ビード14および前方上部ビード16が形成されていることにより、フロアメンバ1の曲げに対してさらに高い強度を発揮することとなる。その結果、フロアメンバ1の曲げ剛性をさらに高めることができる。
【0054】
また、本実施形態に係る車両の下部構造におけるフロアメンバ1には、曲げモーメント耐久部となるキック部K、軸方向荷重を整流化する荷重整流化部R、および荷重を分散する荷重分散部Dが形成されている。このため、フロアメンバ1の前方から後方に流れる荷重をフロアメンバ1の高さ方向に対して整流することができる。したがって、フロアメンバ1における曲げ剛性を高めることができるとともに、荷重の伝達性および分散性を高めることができる。
【0055】
いま、フロアメンバ1における曲げモーメントおよび軸方向荷重について図7を用いて説明し、フロアメンバ1における断面応力分布について図8を用いて説明する。図7(a)は、フロアメンバの側面図、(b)は、車両の前方から荷重が入力された際のフロアメンバにおける車両前後方向の曲げモーメント分布を示すグラフ、(c)は、車両の前方から荷重が入力された際のフロアメンバにおける車両前後方向の軸方向荷重分布を示すグラフである。
【0056】
図7(b)に示すように、車両の前方から荷重が入力された際、フロアメンバ1では、車両の前方位置で高い曲げモーメントが発生し、フロアメンバ1が大きく屈曲する位置までは曲げモーメントが後方にいくほど増加する。また、曲げモーメントがピークを迎えた位置から後方では、徐々に曲げモーメントが下降し、フロントフロアクロス3が取り付けられた位置では、曲げモーメントはほぼ0となる。フロントフロアクロス3が取り付けられた位置よりも後方、換言すれば、フロアメンバ1における荷重整流化部Rおよび荷重分散部Dでは、曲げモーメントはほぼ0となる。
【0057】
また、軸方向荷重分布を見てみると、図7(c)に示すように、車両の前方では、曲げモーメントの増加にほぼ対応して軸方向荷重分布も増加する。また、軸方向荷重がピークに達した位置からは、後方にいくにしたがって軸方向荷重も徐々に減少する。しかし、曲げモーメントの減少割合よりも小さな割合で減少していく。それから、フロアメンバ1の後端部にいたるまで、軸方向荷重が減少しつづけていく分布となる。
【0058】
さらに、図8は、前方から荷重が入力された場合のフロアメンバの断面応力分布を示すグラフであり、(a)は、図3のA−A線断面に対応するグラフ、(b)は、図3のB−B線断面に対応するグラフ、(c)は、図3のD−D線断面に対応するグラフである。
【0059】
図8(a)に示すように、フロアメンバ1におけるキック部Kにおける断面応力分布は、圧縮応力域CAと引っ張り応力域SAとが混在し、曲げ応力が支配的となっている。また、図8(b)に示すように、キック部Kと荷重整流化部Rとの境目近傍の断面応力分布は、低い位置では高い位置よりも応力が小さく、高さ方向に均一ではないものの、圧縮応力域CAで占められている。さらに、図8(c)に示すように、荷重整流化部Rと荷重分散部Dとの境目近傍の断面応力分布は、高さ方向にほぼ均一となった圧縮応力域CAで占められており、軸力が支配的となる。
【0060】
図7および図8に示すフロアメンバ1の曲げモーメント分布、軸方向荷重分布、および断面応力分布から分かるように、フロアメンバ1に前方におけるキック部Kでは曲げモーメントが大きく作用し、後方における荷重整流化部Rおよび荷重分散部Dでは軸方向荷重が大きく作用する。
【0061】
ここで、フロアメンバ1では、キック部Kにおけるフロアパネル2を平面状としている。フロアパネル2が平面状であることから、曲げモーメントに対する強度を高くすることができる。また、荷重整流化部Rおよび荷重分散部Dでは、軸方向荷重に対する強度が求められる。このとき、図7(c)に示す軸方向荷重分布を参照すると、車両の後方にいくにつれて荷重分布が小さくなっている。
【0062】
そこで、フロアメンバ1は、車両の後方に向かうほど高さが低くなるとともに断面積が小さくなるように徐々に変化して徐変している。このため、車両の後方にいくにつれて小さくなっている軸方向荷重を車両の後方に多く伝達することができるので、軸方向荷重を軸方向に対して平均化させることができる。
【0063】
さらに、荷重整流化部Rにおけるフロアメンバリア12には、後方下部ビード15が車両の後方にいくにつれて徐々に深さが深くなるようにして形成されている。後方下部ビード15が車両の後方にいくにつれて徐々に深さが深くなるように形成されていることにより、軸方向荷重が車両の後方に伝達されやすくなる。このため、車両の後方にいくにつれて小さくなっている軸方向荷重を車両の後方に多く伝達することができるので、軸方向荷重を軸方向に対して平均化させることができる。
【0064】
しかも、荷重整流化部Rでは、フロアメンバリア12に後方下部ビード15が形成されているとともに、フロアパネル2に第1パネルビード17および第2パネルビード18が形成されている。ここで、第1パネルビード17および第2パネルビード18は、後方下部ビード15からずれた位置に形成されている。荷重整流化部Rでは、これらの後方下部ビード15、第1パネルビード17、および第2パネルビード18が形成されている。
【0065】
ここで、図9(a)に示すように、荷重整流化部Rにおけるフロアパネル2が平面である場合、フロアメンバ1における有効幅bは、フロアメンバ1の両端部近傍のみとなってしまう。この場合には、フロアメンバ1の有効幅bが小さくなってしまうので、フロアメンバ1における断面の座屈強度が低くなってしまう。
【0066】
この点、本実施形態に係るフロアメンバ1における荷重整流化部Rでは、図9(b)に示すように、フロアパネル2に第1パネルビード17および第2パネルビード18が形成されていることから、フロアメンバ1における有効幅bをフロアメンバ1の幅方向全体とすることができる。この結果、フロアメンバ1における有効幅bを広くとることができ、フロアメンバ1における断面の屈曲強度を向上させることができるので、フロアメンバ1における軸方向荷重に対する強度をさらに高めることができる。
【0067】
一般的に、周囲が単純支持された圧縮荷重を受ける薄板は、部材が座屈した後も荷重を分担する。たとえば、板厚tの薄板における有効幅bは、下記(1)式によって現すことができる。
【0068】
=〔π・E・K/(12−ν)σ1/2・t
=1.9(E/σ1/2・t ・・・(1)
ただし、E:ヤング率
K:定数
ν:ポアソン比
σy:材料の降伏強度
【0069】
また、図10に示すように、縦幅a、横幅bである4辺単純支持長方形平面が1方向より荷重(Nx)crの圧縮を受ける場合の座屈応力σcrは、下記(2)式で表すことができる。
【0070】
σcr=(Nx)cr/t=kσ ・・・(2)
ただし、k=(mb/a+a/mb
σ=πD/tb=〔πE/12(1−ν)〕(t/b
【0071】
上記の(2)式から分かるように、有効幅bが小さくなるほど、座屈応力は小さくなっている。したがって、有効幅が大きいほど、軸方向荷重に対する強度を高くすることができる。
【0072】
また、荷重分散部Dにおいては、フロアメンバリア12に形成された後方下部ビード15とフロアパネル2とが溶接によって固定されており、荷重分散部Dにおけるフロアメンバ1とフロアパネル2との結合数が、荷重整流化部Rにおけるフロアメンバ1とフロアパネル2との結合数よりも多くされている。このため、フロアメンバ1とフロアパネル2との結合点を多くすることができるので、荷重分散部Dにおける荷重分散性を荷重整流化部Rよりも高めることができる。その結果、軸方向荷重に対する強度をさらに高めることができる。
【0073】
さらに、本実施形態に係る車両の下部構造では、フロアメンバ1のフロアメンバリア12には、車両後方に行くにつれて深さが深くなる後方下部ビード15が形成されているとともに、フロアメンバリア12は、側面部の高さが徐々に低くなっていく形状をなしている。
【0074】
さらに説明すると、図11(a)にフロアメンバリア12の任意の第1断面を示し、(b)にフロアメンバリア12の任意の第2断面を示す。ここで、フロアメンバリア12の任意の第1断面におけるフロアメンバリア12の高さ(以下「本体高さ」という)hr1と後方下部ビード15の高さ(以下「ビード高さ」という)hb1の和は、第2断面における本体高さhr2とビード高さhb2の和と同一とされている。この関係は、フロアメンバリア12のどの断面で切っても同一の関係とされている。
【0075】
このため、フロアメンバリア12を引き伸ばした形状を矩形状とすることができる。言い換えると、矩形状の母材に曲げ加工することによりフロアメンバリア12を製造することができる。したがって、フロアメンバリア12の母材として、矩形状の板材を用いることができるので、図11(c)に示すように、コイル材Mから板材を切り出してフロアメンバリア12を製造する際に、破線で示すような余剰部分Gを出さないようにすることができ、コイル材の無駄を排除することができる。そのため、歩留まりの改善を図ることができる。
【0076】
さらに、図11(a)、(b)に示すように、フロアメンバ1とフロアパネル2との接合領域は、フロアメンバ1の前方から後方まで略同一幅に形成されている。このため、フロアメンバ1を伝達する軸方向荷重をフロアメンバ1の後方に適切に移動させることができるとともに、フロアパネル2からの荷重の分散量に偏りを生じさせないようにすることができる。したがって、軸方向荷重を減衰する際に、減衰を均一に行わせることができる。その結果、フロアメンバ1における軸方向荷重に対する強度をさらに向上させることができる。
【0077】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。たとえば、上記実施形態では、フロアメンバ1におけるフロアメンバフロント11とフロアメンバリア12とが個別の部材で形成されているが、これらを連続的に形成した部材とすることもできる。また、上記実施形態では、主骨格としてフロアサイドメンバを用いているが、車両の前方でフロアパネルと接合される骨格部材であればよく、フロントサイドメンバと呼ばれる骨格部材や、パネルサイドメンバと呼ばれる骨格部材などの骨格部材を用いることもできる。
【符号の説明】
【0078】
1…フロアメンバ、2…フロアパネル、3…フロントフロアクロス、4…リアフロアクロス、11…フロアメンバフロント、12…フロアメンバリア、13…メンバリアアッパ、14…前方下部ビード、15…後方下部ビード、16…前方上部ビード、17…第1パネルビード、18…第2パネルビード、D…荷重分散部、G…余剰部分、K…キック部、M…コイル材、R…荷重整流化部、Y…溶接位置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前部からフロア部に向けて延在する主骨格に対して、前記車両の下面部に設けられたフロアパネルが結合された結合構造を備える車両の下部構造であって、
前記主骨格に対して、前後方向に延びるビードが形成されていることを特徴とする車両の下部構造。
【請求項2】
前記フロアパネルにおける前記主骨格との接合部が平面状とされている請求項1に記載の車両の下部構造。
【請求項3】
前記ビードのビード面が、前記車両の後方に向かうほど前記フロアパネルが配設された側に近接させられている請求項1または請求項2に記載の車両の下部構造。
【請求項4】
車両前部からフロア部に向けて延在する主骨格に対して、前記車両の下面部に設けられたフロアパネルが結合された結合構造を備える車両の下部構造であって、
前記主骨格における前記車両前部と前記フロア部との間にキック部が形成されており、
前記主骨格は、前記キック部に形成された曲げモーメント耐久部と、前記キック部から後方への軸方向荷重の流れを整流化する軸方向荷重整流化部と、前記軸方向荷重を前記フロアパネルへ分散する軸方向荷重分散部と、を備えることを特徴とする車両の下部構造。
【請求項5】
前記主骨格部における前記キック部は、主骨格上側部材と主骨格下側部材をと備えており、
前記曲げモーメント耐久部は、前記主骨格上側部材および主骨格下側部材のそれぞれ形成された前後方向に延在するビードと、前記主骨格上側部材および主骨格下側部材によって挟持されたフロアパネルとを備える請求項4に記載の車両の下部構造。
【請求項6】
前記主骨格における前記フロアパネルが結合された位置に、前記車両の左右方向に延在する第1フロアクロスメンバおよび第2フロアクロスメンバが、前記車両の前後方向に互いに離間して配設されており、
前記第1フロアクロスメンバと前記第2フロアクロスメンバとの間における前記主骨格は、前記車両の後方に向かうほど徐変する請求項4に記載の車両の下部構造。
【請求項7】
前記主骨格の前記軸方向荷重整流化部における第1フロアクロスメンバと第2フロアクロスメンバとの間に、前記車両の前後方向に延在するビードが形成されており、
前記軸方向荷重整流化部における前記ビードのビード深さが、前記車両の後方に向かうほど深くされているとともに、
前記主骨格における前記軸方向修正部の縦寸法が低くなる方向に徐変させられている請求項6に記載の車両の下部構造。
【請求項8】
前記軸方向荷重整流化部におけるフロアパネルに、前記ビードの深さ方向に見て、前記主骨格に形成されたビードからずれた位置に補強ビードが形成されている請求項6または請求項7に記載の車両の下部構造。
【請求項9】
前記主骨格における前記フロアパネルが結合された位置に、前記車両の左右方向に延在する第1フロアクロスメンバおよび第2フロアクロスメンバが、前記車両の前後方向に互いに離間し、かつ前記第1フロアクロスメンバが前記第2フロアクロスメンバよりも前方になるように配設されており、
前記軸方向荷重分散部は、前記第2フロアクロスメンバの後方に設けられており、
前記軸方向荷重分散部における前記主骨格と前記フロアパネルとの単位面積あたりの結合数は、前記軸方向荷重整流化部における前記主骨格と前記フロアパネルとの単位面積あたりの結合数よりも多くされている請求項4に記載の下部構造。
【請求項10】
前記軸方向荷重分散部は、前記車両の前後方向に延在するビードを有しており、
前記ビードにおけるビード面が前記フロアパネルと接合されていることにより、前記軸方向荷重分散部における前記主骨格と前記フロアパネルとの単位面積あたりの結合数が、前記軸方向荷重整流化部における前記主骨格と前記フロアパネルとの単位面積あたりの結合数よりも多くされている請求項9に記載の車両の下部構造。
【請求項11】
前記ビードは、前記主骨格の高さ方向とビードの深さを変化させて加工されて構成されている請求項5〜請求項10のうちのいずれか1項に記載の車両の下部構造。
【請求項12】
前記車両主骨格と前記フロアパネルの接合領域は、前記主骨格の前方から後方まで略同一幅に形成されている請求項1〜請求項11のうちのいずれか1項に記載の車両の下部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−254130(P2010−254130A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−106525(P2009−106525)
【出願日】平成21年4月24日(2009.4.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】