説明

車両の制御装置

【課題】目標値として複数の種類の単位が混在するシステムにおいて、目標値を調停するために単位の統一化のために変換されても演算誤差を含まないで的確に処理を行なう。
【解決手段】ECUは、アクセル開度を検知するステップ(S100)と、アクセル開度から操作系目標エンジントルクaを算出するステップ(S200)と、操作系目標エンジントルクaを保持するステップ(S300)と、操作系目標エンジントルクaから操作系目標駆動力Aを算出するステップ(S400)と、操作系目標駆動力Aと支援系目標駆動力Bとで駆動力調停するステップ(S500)と、調停の結果、操作系目標駆動力Aが選択されると(S600にてNO)、保持された操作系目標エンジントルクaを目標エンジントルクとしてエンジンECUに出力するステップ(S900)とを含む、プログラムを実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンと自動変速機とを有するパワートレーンが搭載された車両の制御装置に関し、特に、運転者の要求駆動力に対応する駆動力を出力できる駆動力制御に好適に適用が可能な車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
運転者のアクセルペダル操作とは独立にエンジン出力トルクを制御することが可能なエンジンと自動変速機とを備えた車両において、運転者のアクセルペダル操作量や車両の運転条件等に基づいて算出された正負の目標駆動トルクを、エンジントルクと自動変速機の変速ギヤ比で実現する「駆動力制御」という考え方がある。また、「駆動力要求型」や「駆動力ディマンド型」や「トルクディマンド方式」などと呼ばれる制御手法も、これに類する。
【0003】
トルクディマンド方式のエンジン制御装置は、アクセル操作量とエンジン回転数と外部負荷とに基づき、エンジンの目標トルクを算出し、この目標トルクに応じて燃料噴射量と供給空気量とを制御する。
【0004】
このようなトルクディマンド方式のエンジン制御装置では、実際は、要求出力トルクに対し、エンジンやパワートレーン系でロスとなる摩擦トルクなどの損失負荷トルクを加えて、目標発生トルクとして算出し、これを実現するように燃料噴射量と供給空気量を制御することになる。
【0005】
このトルクディマンド方式のエンジン制御装置によると、車両の制御に直接作用する物理量であるエンジンのトルクを制御の基準値とすることにより、常に一定の操縦感覚を維持できる等、運転性を向上させることができる。
【0006】
特開2005−178626号公報(特許文献1)は、このようなトルクディマンド方式のエンジン制御装置におけるフェイルセーフ性を向上させる車両の統合制御システムを開示する。この車両の統合制御システムは、操作要求に基づいて車両の走行状態を制御する複数の制御ユニットと、車両の位置についての情報に基づいて、車両の作動を禁止する場合に各制御ユニットにおいて用いられる情報を生成して、各制御ユニットに出力する処理ユニットとを含む。各制御ユニットは、少なくとも1つの制御ユニットに対する作動要求を検知するための検知手段と、処理ユニットで生成された情報および検知された作動要求の少なくともいずれかを用いて、各ユニット毎に対応付けされたアクチュエータを操作するための制御目標に関する情報を算出するための算出手段とを含む。
【0007】
この車両の統合制御システムによると、たとえば、複数の制御ユニットとして、駆動系制御ユニット、制動系制御ユニットおよび操舵系制御ユニットのいずれかを含む。駆動系制御ユニットは、検知手段により運転者の要求であるアクセルペダル操作を検知して、駆動基本ドライバモデルを用いてアクセルペダル操作に対応する駆動系の制御目標を生成して、制御手段により、アクチュエータであるパワートレーンが制御される。制動系制御ユニットは、検知手段により運転者の要求であるブレーキペダル操作を検知して、制動基本ドライバモデルを用いてブレーキペダル操作に対応する制動系の制御目標を生成して、制御手段により、アクチュエータであるブレーキ装置が制御される。操舵系制御ユニットは、検知手段により運転者の要求であるステアリング操作を検知して、操舵基本ドライバモデルを用いてステアリング操作に対応する操舵系の制御目標を生成して、制御手段により、アクチュエータであるステアリング装置が制御される。この車両の統合制御システムは、このような自律的に動作する、駆動系制御ユニットと制動系制御ユニットと操舵系制御ユニットとに並列的に動作する処理ユニットを有する。この処理ユニットは、たとえば、1)車両の周囲の環境情報または運転者に関する情報に基づいて、各制御手段において用いられる情報を生成して、各制御ユニットに出力したり、2)予め定められた挙動を車両に実現させるために各制御手段において用いられる情報を生成して、各制御ユニットに出力したり、3)現在の車両の動的状態に基づいて、各制御手段において用いられる情報を生成して、各制御ユニットに出力する。各制御ユニットにおいては、処理ユニットから運転者の要求以外に入力されたこれらの情報を車両の運動制御に反映させるか否か、反映させるのであればどの程度まで反映させるのかなどを判断したり、制御目標を補正したり、各制御ユニット間において情報を通信したりする。各制御ユニットは、自律的に動作しているので、最終的にそれぞれの制御ユニットで、検知手段が検知した運転者の操作情報、処理ユニットから入力された情報、各制御ユニット間で通信された情報により算出された最終的な駆動目標、制動目標および操舵目標に基づいて、パワートレーン、ブレーキ装置およびステアリング装置が制御される。このように、車両の基本動作である「走る」動作に対応する駆動系制御ユニット、「止まる」動作に対応する制動系制御ユニット、「曲がる」動作に対応する操舵系制御ユニットを、それぞれが独立して作動可能なように設けた。これらの制御ユニットに対して、並列的に、車両の環境に対応する運転操作、運転者の運転支援および車両の動的運動制御を自動的に行なえるように処理ユニットを付加している。このため、各制御ユニットの上位層に位置付けされるマスターとなる制御ユニットを有することなく、分散的な制御が可能になり、フェイルセーフ性を高めることができる。また、自律的に動作するので、各制御ユニットおよび処理ユニット単位での開発が可能である。たとえば、新規の運転支援機能を付加する際には、処理ユニットを追加するか、あるいは既に存在する処理ユニットを修正するのみで実現可能となる。その結果、従来のように車両全体の制御をたとえば1つのマスターECU(Electronic Control Unit)により実現しないで、統合制御を前提としつつも、フェイルセーフ性を向上させるとともに、車両制御機能の追加に容易に対応可能な、車両の統合制御システムを提供することができる。さらには、この処理ユニットとして、車両の急な動作を禁止する場合に各制御ユニットにおいて用いられる情報を生成して、各制御ユニットに出力するユニットを配置する。たとえば、車両が駐車場において空駐車スペースに駐車しているときには、急加減速リスクが「大」であるという情報を生成して、各制御ユニットに出力する。このような情報を受けた各制御ユニットは、急な動作を禁止するように、駆動系制御ユニット、制動系制御ユニットおよび操舵系制御ユニットが制御される。このため、不要な急加減速を回避することができる車両の統合制御システムを提供することができる。
【特許文献1】特開2005−178626号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した特許文献1に開示された統合制御システムにおいては、運転者により操作されるアクセルペダル開度から算出された操作システム(操作系)の要求駆動力(目標駆動力)と、クルーズコントロール等の運転支援システム(運転支援系)の要求駆動力(目標駆動力)とを調停して、駆動源であるエンジンを制御するアクチュエータや変速機の変速比を制御するアクチュエータを制御するための指令値が生成される。
【0009】
このようなに各システムからの目標値(要求値)を調停するためには、加速度、駆動力、トルクなどの1種類の単位(次元)の物理量に統一して調停する必要がある。この調停の結果、元の単位に戻さなければならない場合、変換および逆変換により演算上の誤差が発生したり有効桁数が少なくなったりして、元来の要求量との間に差異が生じる可能性がある。より具体的には、元来目標エンジントルクとしての操作系の要求トルクを支援系の目標駆動力に対して調停しなければならない場合、元来の操作系の目標エンジントルクを操作系の目標駆動力に変換する必要がある。この変換された操作系の目標駆動力と、変換の必要がなかった支援系の目標駆動力とを調停して、その結果、操作系の目標駆動力が選択された場合、変換された操作系の目標駆動力を逆変換して操作系の目標エンジントルクを算出する。この逆変換されて算出された操作系の目標エンジントルクを用いて、エンジンを制御するアクチュエータ(スロットルバルブを駆動させるモータ等)が制御される。このときに、元来の操作系の目標エンジントルクに対して、逆変換されて実際にエンジン制御に用いられる操作系の目標エンジントルクの精度が低いことが問題になる。駆動力という単位への変換とトルクという単位への逆変換を経て、演算上の誤差が発生したり有効桁数が少なくなったりして、元来の要求エンジントルクに誤差を含んでしまうという問題を発生する可能性がある。
【0010】
しかしながら、特許文献1に開示された車両の統合制御システムにおいては、このような問題点を開示していない。
【0011】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであって、その目的は、目標値として複数の種類の単位が混在するシステムにおいて、目標値を調停するために単位の統一化のための変換が実行される場合であっても、変換および逆変換による演算誤差を含まないで的確に処理が可能な演算処理を含む、車両の制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
第1の発明に係る制御装置は、車両に搭載された機器を制御する。この制御装置は、機器に対する目標値を生成するための生成手段と、1の機器に対する2以上の目標値を調停して、1の機器に対する目標値を設定するための調停手段と、設定された目標値に基づいて1の機器を制御するための制御手段とを含む。2以上の目標値の少なくとも1つの目標値は他の目標値と単位が異なるものである。調停手段は、単位を揃えるために目標値を物理量変換するための変換手段と、物理量変換する前の目標値を保持するための保持手段と、調停された結果、物理量変換の逆変換が必要な目標値が選択された場合には、保持された目標値を、1の機器に対する目標値として設定するための設定手段とを含む。
【0013】
第1の発明によると、たとえば、1の機器に対する2つの目標値がある場合、これらの目標値の単位を揃えてそれらの大きさに基づいていずれかを選択する等の調停処理が行なわれる。単位が揃っていない場合には単位を揃えるために物理量が単位変換(物理量変換)される。このとき、物理量変換される前の目標値が保持手段に保持される。調停の結果、変換された目標値を再度もとの単位に戻す逆変換が行なわれる場合には、設定手段は、保持された目標値を設定する。このようにすると、変換および逆変換により、元来の目標値から乖離した目標値が設定されることを回避できる。すなわち、物理量変換の演算においては、演算誤差を含んだり、有効数字の桁数が減少したりする。調停後、この物理量変換した方が選択されて前述の物理量変換の逆変換が必要になる場合(1の機器に対する目標値が元来の物理量で規定される場合)に行なわれる逆変換の演算においても、演算誤差を含んだり、有効数字の桁数が減少したりする。そのため、変換および逆変換された目標値は、元来の真の目標値からの乖離を含むのである。しかしながら、設定手段は、保持された(すなわち変換も逆変換もされていない)目標値を1の機器に対する目標値に設定するので、元来の目標値(真の値そのもの)を設定できる。その結果、目標値として複数の種類の単位が混在するシステムにおいて、目標値を調停するために単位の統一化のための変換が実行される場合であっても、変換および逆変換による演算誤差を含まないで的確に処理が可能な演算処理を含む、車両の制御装置を提供することができる。
【0014】
第2の発明に係る制御装置においては、第1の発明の構成に加えて、1の機器は車両の駆動源であって、生成手段は、車両の運転者の操作に基づく第1の目標値と、操作以外に基づく第2の目標値とを生成するための手段を含み、第1の目標値と第2の目標値の単位が異なる。
【0015】
第2の発明によると、たとえば、車両の駆動源(エンジンのみ、モータのみ、エンジンおよびモータ)の目標値が、運転者の操作に基づく第1の目標値である出力トルクと、運転者の操作以外(たとえばクルーズコントロール等の運転支援システム)に基づく第2の目標値である出力駆動力とで与えられる場合がある。このような場合、調停処理をするために、出力トルクが駆動力の単位に変換される。駆動力の単位に揃えられた第1の目標値と第2の目標値とで調停処理が行なわれて、第1の目標値が選択されると、変換前の第1の目標値そのものが駆動源の目標値に設定される。変換および逆変換された値が目標値に設定されないので、正確な目標値を設定できる。
【0016】
第3の発明に係る制御装置においては、第2の発明の構成に加えて、駆動源はエンジンであって、第1の目標値はトルクの単位で表わされ、第2の目標値は駆動力の単位で表わされる。変換手段は、駆動力の単位に揃えるために物理量変換するための手段を含む。保持手段は、第1の目標値を保持するための手段を含む。設定手段は、調停された結果、第1の目標値が選択された場合には、保持された第1の目標値を、エンジンに対する目標値として設定するための手段を含む。
【0017】
第3の発明によると、車両のエンジンの目標値が、運転者の操作に基づく第1の目標値がトルクの単位で与えられ、運転者の操作以外に基づく第2の目標値が駆動力の単位で与えられる場合がある。このような場合、調停処理をするために、第1の目標値が駆動力の単位に変換される。駆動力の単位に揃えられた第1の目標値と第2の目標値とで調停処理が行なわれて、第1の目標値が選択されると、変換前の第1の目標値そのものがエンジンの目標値に設定される。変換および逆変換された値が目標値に設定されないので、正確な目標値を設定できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同じである。したがってそれらについての詳細な説明は繰返さない。
【0019】
図1を参照して、一般的な駆動力制御が行なわれる車両制御システム1000の全体ブロックについて説明する。なお、制動系、操舵系、サスペンション系などは、図示を省略している。
【0020】
車両制御システム1000は、アクセル操作入力検知部1100と、PDRM(Power Train Driver Model)1200と、PTM(Power Train Manager)1400、エンジン制御部1600および変速(ECT(Electronically Controlled Automatic Transmission))制御部1700とから構成される。
【0021】
アクセル操作入力検知部1100は、運転者がエンジントルクの目標値を入力する、最も一般的なデバイスであるアクセルペダルの開度を検知する。ここで、検知されたアクセルペダル開度(以下、アクセル開度を記載する場合がある)は、PDRM1200に出力される。
【0022】
PDRM1200は、ドライバモデル1210と調停部1220とを含む。アクセル操作入力検知部1100で検知されたアクセル開度に基づいて、エンジンの基準スロットル開度を、マップや関数から算出する。このマップや関数は、非線形なものである。調停部1220は、たとえばクルーズコントロールなどの運転支援部1300において算出されたエンジンの要求スロットル開度と、ドライバモデル1210にて算出された基準スロットル開度とを調停する。なお、調停部1220は、たとえば、そのときの車両の状態に基づいて、運転支援部1300において算出された要求スロットル開度と、ドライバモデル1210にて算出された基準スロットル開度とのいずれか一方を優先させたりする関数や、いずれか大きい開度を選択する関数や、いずれか小さい開度を選択する関数等で実現される。なお、ここでは、物理量変換することなくスロットル開度どうしを調停しているが、図2および図3を用いて、調停前に物理量変換が必要な駆動力の調停を後に説明する。本発明の制御装置は、このような調停前に物理量変換が必要な場合に、特に好適に適用される。
【0023】
PTM1400は、調停部1410と、エンジントルク要求部1420と、ECTのギヤ段決定部1430とを含む。
【0024】
調停部1410は、たとえばVSC(Vehicle Stability Control)やVDIM(Vehicle Dynamics Integrated Management)などのブレーキ制御・車両運動補償部1500に
おいて算出されたエンジンの要求スロットル開度と、PDRM1200にて算出された要求スロットル開度とを調停する。なお、調停部1410も調停部1220と同様に、たとえば、そのときの車両の状態に基づいて、ブレーキ制御・車両運動補償部1500において算出されたエンジンの要求スロットル開度と、PDRM1200にて算出された要求スロットル開度とのいずれか一方を優先させたりする関数や、いずれか大きい開度を選択する関数や、いずれか小さい開度を選択する関数等で実現される。調停部1410で調停された要求スロットル開度に基づいて、エンジントルク要求部1420において要求エンジントルクTEREQおよび要求エンジン回転数NEREQが算出され、ギヤ段決定部1430においてギヤ段が決定される。これらについての詳細は後述する。
【0025】
エンジン制御部1600は、PTM1400から入力された、要求エンジントルクTEREQおよび要求エンジン回転数NEREQに基づいてエンジンを制御する。変速制御部1700は、PTM1400から入力された、ギヤ段に基づいてECTを制御する。なお、以下の説明では、ECTは、有段の歯車式自動変速機であるとして説明するが、自動変速機はCVT(Continuously Variable Transmission)であってもよく、その場合、ギヤ段はギヤ比となる。また、いずれの自動変速機であってもトルクコンバータを備えている。トルクコンバータは、その入力側(ポンプ側)がエンジンの出力軸に接続され、その出力側(タービン側)が自動変速機の入力軸に接続されている。
【0026】
図2を参照して、図1とは異なる調停である駆動力調停について説明する。この調停処理では、1種類の単位(次元)の物理量に統一して(ここでは駆動力)調停する必要がある。なお、本発明の制御装置は、このような調停処理に好適に適用されるものであるが、車両の駆動力制御に限定して適用されるものではない。
【0027】
アクセル開度検知部2000は、図1のアクセル操作入力検知部1100と同様に、運転者により操作されたアクセルペダルの開度を検知する。アクセル開度検知部2000で検知されたアクセル開度に基づいて操作系目標エンジントルクが算出される。
【0028】
一方、運転支援部3000は、クルーズコントロール等の運転支援系システムであって、支援系目標駆動力を出力する。操作系は目標エンジントルクであって、支援系は目標駆動力であるので、単位が統一されていない。このため、ここでは、操作系の目標エンジントルクを操作系の目標駆動力に物理量変換して、駆動力調停部4000で調停されることとする。なお、支援系目標駆動力を目標エンジントルクに物理量変換しても構わない。また、操作系目標エンジントルク(この操作系目標エンジントルクを「a」とする)は、選択器5000により保持される。
【0029】
操作系目標エンジントルクが操作系目標駆動力(この操作系目標駆動力を「A」とする)に物理量変換されて、支援系目標駆動力(この支援系目標駆動力を「B」とする)との間で、駆動力調停部4000が駆動力調停する。駆動力調停部4000では、操作系目標駆動力(A)および支援系目標駆動力(B)のいずれか一方が択一的に選択されるという調停が行なわれる。駆動力調停部4000は、調停の結果を選択器5000に出力するとともに、支援系目標駆動力(B)が選択された場合に、支援系目標駆動力(B)を物理量変換した支援系目標エンジントルク(この支援系目標エンジントルクを「b」とする)を選択器5000に入力できるように、調停後目標駆動力を出力する。
【0030】
選択器5000は、駆動力調停部4000から操作系目標駆動力(A)が選択されたことが報知されていると、選択対象トルクを選択器5000が保持した操作系目標エンジントルク(a)をエンジンECU6000に出力する。一方、選択器5000は、駆動力調停部4000から操作系目標駆動力(A)が選択されたことが報知されていないと、選択対象トルクを選択器5000に入力された支援系目標エンジントルク(b)をエンジンECU6000に出力する。
【0031】
なお、上述したブロック図およびその説明は一例に過ぎない。たとえば、駆動力調停部4000と選択器5000とが別体でなければならない必然性がない場合には、一体化されたものでもよい。
【0032】
図3を参照して、駆動力調停処理のプログラムの制御構造を、フローチャートを用いて説明する。なお、以下の説明では、駆動力調停をECUが実行するものとする。したがって、駆動力調停部4000や選択器5000は、ECUで実行するプログラムにより実現されるソフトウェアモジュールとして捕らえることができる。
【0033】
ステップ(以下、ステップをSと記載する)100にて、ECUは、アクセル開度検知部2000を用いて、運転者により操作されたアクセル開度を検知する。S200にて、ECUは、ドライバモデルを用いて、検知したアクセル開度から操作系目標エンジントルク(a)を算出する。
【0034】
S300にて、ECUは、操作系目標エンジントルク(a)を保持させる。ここで、保持とは、データを記憶するという意味である。S400にて、ECUは、操作系目標エンジントルク(a)を操作系目標駆動力(A)を算出する。このとき、トルクから駆動力への物理量変換が行なわれる。S500にて、ECUは、操作系目標駆動力(A)と支援系目標駆動力(B)とで駆動力調停を行ない、いずれか一方を優先的に選択する。
【0035】
S600にて、ECUは、調停結果が支援系目標駆動力(B)であるか否かを判断する。調停結果が支援系目標駆動力(B)であると(S600にてYES)、処理はS700へ移される。もしそうでないと(S600にてNO)、処理はS900へ移される。
【0036】
S700にて、ECUは、支援系目標駆動力(B)から支援系目標エンジントルク(b)を算出する。このとき、駆動力からトルクへの物理量変換が行なわれる。S800にて、ECUは、支援系目標エンジントルク(b)を目標エンジントルクとして、エンジンECU6000に出力する。
【0037】
S900にて、保持された操作系目標エンジントルク(a)を目標エンジントルクとして、エンジンECU6000に出力する。
【0038】
以上のような構造およびフローチャートに基づく、本実施の形態に係る制御装置であるECUによる駆動力調停動作について説明する。
【0039】
[操作系目標駆動力(A)の算出動作]
アクセル開度が検知され(S100)、ドライバモデルを用いて、アクセル開度から目標エンジントルク(a)が算出される。この算出された目標エンジントルク(a)は、駆動力調停された結果において操作系目標駆動力が選択された場合に備えて、保持される(S300)。
【0040】
操作系目標エンジントルク(a)が、物理量変換されて操作系目標駆動力(A)が算出される(S400)。なお、この操作系目標駆動力(A)を物理量変換の逆変換しても、操作系目標エンジントルク(a)には戻らない、すなわち、変換および逆変換による演算誤差により可逆性を有しない。
【0041】
[調停動作および調停後処理]
操作系目標駆動力(A)と支援系目標駆動力(B)との間で調停が行なわれる。なお、運転支援部3000からは目標駆動力の単位で目標値が出力されるので、物理量変換の必要はない。
【0042】
調停の結果、支援系目標駆動力(B)が選択されると、支援系目標駆動力(B)が物理量変換されて支援系目標エンジントルク(b)が算出される(S700)。この物理量変換された支援系目標エンジントルク(b)が、目標エンジントルクとしてエンジンECU6000に出力される(S800)。
【0043】
調停の結果、操作系目標駆動力(A)が選択されると、保持されていた操作系目標エンジントルク(a)が、目標エンジントルクとしてエンジンECU6000に出力される(S900)。このとき、操作系目標駆動力(A)が選択されても、一旦物理量変換(トルク→駆動力)された操作系目標駆動力(A)が物理量逆変換されて操作系目標エンジントルク(a)が算出されるわけではない。物理量変換された結果、操作系目標駆動力(A)は演算誤差を含んだり、有効数字の桁数が減少したりする。このような真の値からの乖離が生じてしまった操作系目標駆動力(A)を物理量逆変換して操作系目標エンジントルク(a)としたのでは、さらに、演算誤差を含んだり、有効数字の桁数が減少したりして、元来の操作系目標エンジントルク(a)(ここで、元来の操作系目標エンジントルク(a)とはS200で算出された操作系目標エンジントルク(a)をいう)とは乖離がさらに大きくなっている。このような真の値からの乖離を含む操作系目標エンジントルク(a)ではなく、物理量変換する前の操作系目標エンジントルクを採用することにより、このような真の値からの乖離を含まない目標エンジントルクを用いてエンジントルク制御を行なうことができる。
【0044】
以上のようにして、本実施の形態に係る制御装置によると、車両のエンジンに対する目標値が、運転者の操作に基づく目標値が目標エンジントルク(トルクの単位)で与えられ、運転支援部に基づく目標値が目標駆動力(力の単位)で与えられる、調停処理は、目標エンジントルクを駆動力の単位に変換された後に行なわれる。駆動力の単位に揃えられた操作系の目標値と支援系の目標値とで調停処理が行なわれて、操作系の目標値が選択されると、変換前の操作系の目標値そのものがエンジンの目標値に設定される。このため、変換および逆変換された値が目標値に設定されないので、正確な目標値を設定できる。
【0045】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本実施の形態に係る制御装置が適用される駆動力ディマンド型制御システムの全体ブロック図である。
【図2】図1の調停部とは別の駆動力調停部の概念図である。
【図3】駆動力調停処理のプログラムの制御構造を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0047】
1000 車両制御システム、1100 アクセル操作検知部、1200 PDRM、1210 ドライバモデル、1220 調停部、1300 運転支援部、1400 PTM、1410 調停部、1420 エンジントルク要求部、1430 ギヤ段決定部、1500 ブレーキ制御・車両運動補償部、1600 エンジン制御部、1700 変速制御部、2000 アクセル開度検知部、3000 運転支援部、4000 駆動力調停部、5000 選択器、6000 エンジンECU。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載された機器を制御する制御装置であって、
前記機器に対する目標値を生成するための生成手段と、
1の機器に対する2以上の目標値を調停して、前記1の機器に対する目標値を設定するための調停手段と、
前記設定された目標値に基づいて前記1の機器を制御するための制御手段とを含み、
前記2以上の目標値の少なくとも1つの目標値は他の目標値と単位が異なり、
前記調停手段は、
単位を揃えるために目標値を物理量変換するための変換手段と、
前記物理量変換する前の目標値を保持するための保持手段と、
調停された結果、前記物理量変換の逆変換が必要な目標値が選択された場合には、前記保持された目標値を、前記1の機器に対する目標値として設定するための設定手段とを含む、車両の制御装置。
【請求項2】
前記1の機器は車両の駆動源であって、
前記生成手段は、車両の運転者の操作に基づく第1の目標値と、前記操作以外に基づく第2の目標値とを生成するための手段を含み、前記第1の目標値と前記第2の目標値の単位が異なる、請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記駆動源はエンジンであって、
前記第1の目標値はトルクの単位で表わされ、
前記第2の目標値は駆動力の単位で表わされ、
前記変換手段は、駆動力の単位に揃えるために物理量変換するための手段を含み、
前記保持手段は、第1の目標値を保持するための手段を含み、
前記設定手段は、調停された結果、前記第1の目標値が選択された場合には、前記保持された第1の目標値を、前記エンジンに対する目標値として設定するための手段を含む、請求項2に記載の車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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