車両の制御装置
【課題】より適切に圧縮比を変更することを可能とする。
【解決手段】車両の制御装置(60)は、機関(10)を備えた車両の制御装置であって、機関の圧縮比を変更可能な圧縮比変更手段(33等)と、車両が走行する走行道路の道路形状に基づいて、圧縮比を変更するように圧縮比変更手段を制御する制御手段(60)とを備える。
【解決手段】車両の制御装置(60)は、機関(10)を備えた車両の制御装置であって、機関の圧縮比を変更可能な圧縮比変更手段(33等)と、車両が走行する走行道路の道路形状に基づいて、圧縮比を変更するように圧縮比変更手段を制御する制御手段(60)とを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮比を変更可能なエンジンを備えた車両の制御装置の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の車両の制御装置として、特許文献1等には、エンジン回転速度やエンジンの負荷等に応じて圧縮比を設定する技術に関して開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−147104号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した特許文献1等によれば、複数のカーブを含む曲折した道路では加速走行、又は減速走行が頻繁に行われ、圧縮比を変更する頻度が増加してしまうため、燃料の消費を低減させることが困難になってしまう可能性があるという技術的な問題点が生じる。
【0005】
本発明は、例えば上述した問題点に鑑みなされたものであり、より適切に圧縮比を変更することが可能な車両の制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明に係る車両の制御装置は、機関を備えた車両の制御装置であって、前記機関の圧縮比を変更可能な圧縮比変更手段と、前記車両が走行する走行道路の道路形状に基づいて、前記圧縮比を変更するように前記圧縮比変更手段を制御する制御手段とを備える。
【0007】
本発明に係る車両の制御装置は、例えば混合気を吸気するエンジン等の機関を備えた車両の制御装置である。圧縮比変更手段は、典型的には、バッテリから電力が供給されるアクチュエータを用いて、機関の圧縮比を変更可能である。ここに、本発明に係る圧縮比とは、混合気の圧縮の程度を示す指標である。例えばメモリやプロセッサ等を備えて構成可能な制御手段の制御下で、圧縮比変更手段によって、車両が走行する走行道路の道路形状に基づいて、圧縮比が変更される。ここに、本発明に係る「道路形状」とは、例えば車両が走行する走行道路の平面的な形状や3次元的な勾配等の道路の物理的な形状を意味する。また、本発明に係る「車両が走行する走行道路」とは、典型的には、車両が現在走行している走行道路又は車両が走行する予定である走行道路を意味する。
【0008】
これにより、例えばカーブの多い屈曲路等の道路の道路形状に基づいて、圧縮比を計画的に変更することができる。これにより、例えばアクチュータ等の圧縮比変更手段の作動頻度を低減させることが可能である。この結果、車両の走行において、燃料の消費を低減させ、エネルギー効率を向上させることができる。
【0009】
本発明の車両の制御装置の一の態様は、前記車両が走行する予定の予定道路の道路形状に基づいて、前記機関の第1圧縮比及び前記機関の第2圧縮比のうちいずれか一方の圧縮比で走行する第1走行期間、前記第1走行期間に続き且ついずれか他方の圧縮比で走行する第2走行期間、及び、前記第2走行期間に続き且つ前記いずれか一方の圧縮比で走行する第3走行期間を予測する予測手段を更に備え、前記制御手段は、前記第2走行期間が所定時間より短い場合、前記第2走行期間において前記いずれか一方の圧縮比で前記車両を走行するように前記圧縮比変更手段を制御する。
【0010】
この態様によれば、例えばメモリやプロセッサ等を備えて構成可能な予測手段によって、車両が走行する予定の予定道路の道路形状に基づいて、機関の第1圧縮比(例えば低圧縮比)及び前記機関の第2圧縮比(例えば高圧縮比)のうちいずれか一方の圧縮比(例えば低圧縮比)で走行する第1走行期間が予測される。と共に、予測手段によって、第1走行期間に続き且ついずれか他方の圧縮比(例えば高圧縮比)で走行する第2走行期間が予測される。と共に、予測手段によって、第2走行期間に続き且ついずれか一方の圧縮比(例えば低圧縮比)で走行する第3走行期間が予測される。本発明に係る「予測」とは、典型的には、いずれか一方の圧縮比又はいずれか他方の圧縮比で走行する走行期間を、車両の走行速度、予定道路の道路形状、及び予定道路の長さに基づいて、予め推定することを意味する。このような走行期間は、車両の走行速度と、予定道路の道路形状と、予定道路の長さとの定性的又は定量的な関係を、実験的な手法、理論的な手法、経験的な手法、又はシミュレーションを用いた手法などによって定義することにより、個別具体的に予測可能である。
【0011】
制御手段の制御下で、圧縮比変更手段によって、第2走行期間が所定時間より短い場合、第2走行期間において、いずれか一方の圧縮比(例えば低圧縮比)に変更される。ここに、本発明に係る所定時間とは、典型的には、例えばアクチュータ等の駆動手段である圧縮比変更手段が圧縮比を変更する際の変更時間において、一の圧縮比から他の圧縮比、更に、この他の圧縮比から一の圧縮比へ変更する際に消費するエネルギーの度合いが所望のレベルである変更時間を意味する。この所望のレベルは、圧縮比の変更の頻度を低減させ、圧縮比の変更に伴うエネルギー効率を向上させるように、実験的、理論的、経験的、又はシミュレーション等によって、個別具体的に定義可能である。
【0012】
これにより、例えばカーブの多い屈曲路等の道路の道路形状に基づいて、第1圧縮比及び第2圧縮比のうちいずれか一方の圧縮比に圧縮比を予め固定することが可能であり、例えばアクチュータ等の圧縮比変更手段の作動頻度を効果的に低減させることが可能である。この結果、車両の走行において、燃料の消費を低減させ、エネルギー効率を向上させることができる。
【0013】
この制御手段に係る態様では、前記制御手段は、前記いずれか他方の圧縮比が前記いずれか一方の圧縮比より高い場合、前記第2走行期間において前記いずれか一方の圧縮比で前記車両が走行するように前記圧縮比変更手段を制御し、前記いずれか他方の圧縮比が前記いずれか一方の圧縮比より低い場合、前記第2走行期間において前記いずれか他方の圧縮比のままで前記車両が走行するように前記圧縮比変更手段を制御する
ように構成してよい。
【0014】
このように構成すれば、第2走行期間において高い圧縮比、即ち、いずれか他方の圧縮比が予め設定される場合、制御手段の制御下で、圧縮比変更手段によって、第2走行期間において低い圧縮比、即ち、いずれか一方の圧縮比で走行するように圧縮比が変更される。他方、第2走行期間において低い圧縮比、即ち、いずれか他方の圧縮比が予め設定される場合、制御手段の制御下で、圧縮比変更手段によって、第2走行期間において低い圧縮比、即ち、いずれか他方の圧縮比のままで走行するように圧縮比が変更される。
【0015】
即ち、第2走行期間において、エンジン等の機関の負荷が高い運転状態に対応して低い圧縮比の状態で車両が走行している場合、低い圧縮比の状態のまま車両を走行させる。これにより、高い圧縮比に変更することによるノッキングの発生を効果的に防止し、エンジン等の機関の破損を確実に防止することが可能である。
【0016】
本発明の車両の制御装置の他の態様は、前記制御手段は、前記道路形状として、(i)前記車両が走行する曲がり道路の曲率半径、(ii)前記曲がり道路へ進入する前若しくは前記曲がり道路を退出した後の直線道路の長さ若しくは広さ、又は、(iii)前記走行道路の勾配に基づいて、前記圧縮比を変更するように前記圧縮比変更手段を制御する。
【0017】
ここに、本発明に係る曲がり道路とは、典型的には、右方向又は左方向に曲がっている曲線形状の道路を意味し、この曲線形状の道路における曲線の曲率半径、曲がる方向、又は、道路幅等によって、定量的又は定性的に、個別具体的に定義可能である。本発明に係る直線道路の長さは、直線道路が延びる方向に沿った長さを意味する。本発明に係る直線道路の広さは、直線道路の幅の広さを意味する。
【0018】
この態様によれば、各種の道路形状に基づいて、圧縮比を変更させることにより、ノッキングの発生の効果的な防止と、燃費の向上とを両立させることが可能であるので、実践上、大変有益である。
【0019】
本発明の車両の制御装置の他の態様は、前記制御手段は、前記曲がり道路の曲率半径が大きくなるに従って、前記圧縮比を低く変更し、前記曲がり道路の曲率半径が小さくなるに従って、前記圧縮比を高く変更するように前記圧縮比変更手段を制御する。
【0020】
この態様によれば、曲がり道路の曲率半径が大きくなるに従って、曲がり道路を走行する際の圧縮比を低くすることにより、機関の負荷がより大きくなった走行状態において、ノッキングの発生を効果的に防止することが可能であるので、実践上、大変有益である。他方、曲がり道路の曲率半径が小さくなるに従って、曲がり道路を走行する際の圧縮比を高くすることにより、エンジンの負荷が小さくなった走行状態において、燃費を向上させることが可能であるので、実践上、大変有益である。
【0021】
本発明の車両の制御装置の他の態様は、前記制御手段は、前記直線道路が長くなるに従って、前記圧縮比を低く変更し、前記直線道路が短くなるに従って、前記圧縮比を高く変更するように前記圧縮比変更手段を制御する。
【0022】
この態様によれば、直線道路の長さが長くなるに従って、直線道路を走行する際の圧縮比を低くさせることにより、機関の負荷が増加側に変化した走行状態において、ノッキングの発生を効果的に防止することが可能であるので、実践上、大変有益である。他方、このように、直線道路の長さが短くなるに従って、直線道路を走行する際の圧縮比を高くさせることにより、機関の負荷が減少側に変化した走行状態において、燃費を向上させることが可能であるので、実践上、大変有益である。
【0023】
本発明の車両の制御装置の他の態様は、前記制御手段は、前記直線道路が広くなるに従って、前記圧縮比を低く変更し、前記直線道路が狭くなるに従って、前記圧縮比を高く変更するように前記圧縮比変更手段を制御する。
【0024】
この態様によれば、直線道路の幅の広くなるに従って、直線道路を走行する際の圧縮比を低くさせることにより、機関の負荷が増加側に変化した走行状態において、ノッキングの発生を効果的に防止することが可能であるので、実践上、大変有益である。他方、直線道路の幅が狭くなるに従って、この直線道路を走行する際の圧縮比を高くさせることにより、エンジンの負荷が減少側に変化した走行状態において、燃費を向上させることが可能であるので、実践上、大変有益である。
【0025】
本発明の車両の制御装置の他の態様は、前記制御手段は、前記走行道路の道路勾配が下る度合いが大きくなるに従って、前記圧縮比を高く変更し、前記走行道路の道路勾配が上る度合いが大きくなるに従って、前記圧縮比を低く変更するように前記圧縮比変更手段を制御する。
【0026】
この態様によれば、典型的には、下り勾配が大きくなるに従って、圧縮比を、より大幅に増加させることにより高くさせ、上り勾配が大きくなるに従って、圧縮比を、より大幅に減少されることにより低くさせる。このように、下り勾配が大きくなるに従って、圧縮比を、より高くさせることにより、機関の負荷が減少側に変化した走行状態において、燃費を向上させることが可能であるので、実践上、大変有益である。他方、上り勾配が大きくなるに従って、圧縮比を、より低くさせることにより、機関の負荷が増加側に変化した走行状態において、ノッキングの発生を効果的に防止することが可能であるので、実践上、大変有益である。
【0027】
本発明のこのような作用及び他の利得は次に説明する実施の形態から明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】第1実施形態に係る車両の制御装置が適用された車両100の全体構成を概略的に示したブロック図である。
【図2】第1実施形態に係るエンジン10の断面構成を示す模式図である。
【図3】第1実施形態に係る車両の制御方法が行われたときのエンジン動作点の移行の様子を示す図である。
【図4】第1実施形態に係る車両の制御装置の制御処理における動作の流れを示したフローチャートである。
【図5】第1実施形態に係る車両が走行するカーブ路及び直線路を概念的に示した平面図である。
【図6】第2実施形態に係る車両の制御装置の制御処理における動作の流れを示したフローチャートである。尚、この制御処理は、例えば数μ秒〜数十μ秒等の所定周期で繰り返し実行される。
【図7】第2実施形態に係る曲折路の概念を平面的に示した模式図である。
【図8】第2実施形態に係るカーブ路の曲率半径と圧縮比との定性的な関係を概念的に示した模式図(図8(a)及び図8(b))である。
【図9】第2実施形態に係るカーブ路の曲率半径と圧縮比との定量的及び定性的な関係を示したグラフである。
【図10】第2実施形態に係る直線路の長さと圧縮比との関係、又は、直線路の広さと圧縮比との関係を定量的及び定性的に示したグラフ(図10(a)及び図10(b))である。
【図11】第2実施形態に係る路面勾配と圧縮比の補正量との定量的及び定性的な関係を示したグラフである。
【図12】第3実施形態に係る車両の制御装置の制御処理における動作の流れを示したフローチャートである。
【図13】第3実施形態に係る曲折路の概念を平面的に示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について説明する。
【0030】
(第1実施形態)
(基本構成)
第1実施形態に係る車両の制御装置の基本構成について、図1から図3を参照して説明する。ここに、図1は、第1実施形態に係る車両の制御装置が適用された車両100の全体構成を概略的に示したブロック図である。図2は、第1実施形態に係るエンジン10の断面構成を示す模式図である。図1及び図2において、破線矢印は信号の流れを示している。
【0031】
先ず、車両100の全体構成について図1を用いて説明する。車両100は、エンジン10と、変速機110と、ECU(Electronic Controlled Unit)60とを備えている。エンジン10は、後に詳しく述べるが、混合気の圧縮の程度を示す圧縮比を変化させることが可能な可変圧縮比エンジンである。エンジン10は、複数のシリンダ(気筒)34を有している。例えば、図1に示す例では、エンジン10は、直列4気筒のエンジンであるとしている。エンジン10は、各シリンダ34の燃焼室内に吸気を供給するための吸気通路50と、各シリンダ34の燃焼室内より排気を排出するための排気通路58とを有する。吸気通路50には、各シリンダ34の燃焼室内に供給される吸気量を調整するためのスロットルバルブ52と、吸気量を検出するためのエアフローセンサ57が設けられている。スロットルバルブ52の開度は、電動アクチュエータ53により調整される。エンジン10は、ECU(Electronic Controlled Unit)60からの制御信号により制御される。
【0032】
エンジン10からの出力は、クランクシャフト43を介して無段変速機110に伝達される。図1に示す例では、無段変速機110は、ベルト式の無段変速機であるとしている。変速機110は、プライマリプーリ110a、セカンダリプーリ110b、及び、両プーリに巻掛けられた金属等からなるベルト111からなる。両プーリの可動シーブ110aa、110baを軸方向(両端矢印に示す方向)に動かすことによりベルト有効径が変化し、エンジン10からの出力は、プライマリプーリ110aからセカンダリプーリ110bに伝達される際に変速される。セカンダリプーリ110bは、駆動軸143に接続されており、セカンダリプーリ110bからの出力は駆動軸143に伝達される。駆動軸143に伝達された出力は駆動輪に伝達される。無段変速機110は、ECU60からの制御信号により制御される。なお、無段変速機110としては、ベルト式の無段変速機に限られず、代わりに、他の種々の無段変速機を用いることができるのは言うまでもない。
【0033】
ECU60は、図示しないCPU、ROM、RAM、及びA/D変換器などを含んで構成されている。ECU60は、車両内の各種センサから供給される検出信号に基づいて、車両内の制御を行う。例えば、ECU60は、アクセルの開度を検出するアクセル開度センサ61などのセンサから受信した検出信号に基づいて、必要駆動力を求め、求められた当該必要駆動力に基づいて、エンジン10や無段変速機110の制御を行う。尚、ECU60によって、本発明に係る制御手段の一例が構成されている。
【0034】
取得部62は、典型的には、路車間通信機であり、自車両C1が走行する道路に設置された路側インフラと通信を行うための通信機であり、路車間通信用のアンテナ62aを介して路側インフラと通信を行う。
【0035】
取得部62は、より典型的には、例えばGPS信号や地図情報や道路交通情報に関する各種の情報を受信すると共に、例えば自車両C1の位置情報等の各種の車両情報を情報管理サーバへ送信してよい。車両情報は、より典型的には、運転者の運転操作タイミング、運転操作量、運転操作の方向、車両の速度若しくは加減速度に関する定量的及び定性的なデータ群を意味してよい。
【0036】
より詳細には、取得部62は、GPS信号を受信するために、複数のGPS衛星から、測位用データを含む下り回線データを搬送する電波を受信する。測位用データは、緯度及び経度情報等から車両の絶対的な位置を検出するために用いられる。更に詳細には、取得部20は、例えば、FMチューナやビーコンレシーバ、携帯電話や専用の通信カードなどにより構成されてよく、通信用インタフェースを介して、VICS(Vehicle Information Communication System)センタ等の交通環境情報サーバから配信される渋滞や交通情報などの、所謂、道路交通情報や、その他の情報を、例えば電波等の通信網を介して受信してよい。更に詳細には、取得部62は、地図情報の全部又は地図情報のうち更新された一部に関する情報を受信してよい。
【0037】
取得部62は、アンテナ62aを介して取得した各種の信号に含まれる道路形状データD62をECU60に送信する。この道路形状データD62は、自車両C1が走行する道路の道路形状に関する各種の情報を含む。尚、ECU60及び取得部62によって、本発明に係る予測手段の一例が構成されている。
【0038】
次に、エンジン10の構成について図2を用いて説明する。エンジン10は、主に、シリンダヘッド20と、シリンダブロックユニット30と、メインムービングユニット40とから構成されている。
【0039】
シリンダブロックユニット30は、シリンダヘッド20が取り付けられるアッパーブロック31と、メインムービングユニット40が収納されているロアブロック32とから構成されている。また、アッパーブロック31とロアブロック32との間にはアクチュエータ33が設けられており、アクチュエータ33を駆動することで、アッパーブロック31をロアブロック32に対して上下方向に移動させることが可能となっている。アクチュエータ33は、例えば、電気式、油圧式又は空圧式の駆動装置であり、駆動のための電力がバッテリから供給される。アクチュエータ33は、ECU60からの制御信号S33により制御される。また、アッパーブロック31の内部には、円筒形のシリンダ34が形成されており、シリンダ34の外面は冷却水によって冷却される構造となっている。
【0040】
メインムービング40は、シリンダ34の内部に設けられたピストン41と、ロアブロック32の内部で回転するクランクシャフト43と、ピストン41をクランクシャフト43に接続するコネクティングロッド42などから構成されている。これらは、いわゆるクランク機構を構成しており、クランクシャフト43が回転するとそれにつれてピストン41がシリンダ34内で上下方向に動き、逆に、ピストン41が上下に動けばクランクシャフト43がロアブロック32内で回転するようになっている。また、クランクシャフト43の近傍には、クランク角を感知するクランク角センサ44が設けられている。クランク角センサ44は、検出したクランク角に対応する検出信号S44をECU60に送信する。
【0041】
シリンダブロックユニット30にシリンダヘッド20を取り付けると、シリンダヘッド20の下面側(アッパーブロック31に接する側)とシリンダ34とピストン41とで囲まれた部分に燃焼室が形成される。従って、アクチュエータ33を用いてアッパーブロック31を上方に移動させれば、これに伴ってシリンダヘッド20も上方に移動して燃焼湿内の容積が増加するので、圧縮比を低くすることができる。逆に、アッパーブロック31とともにシリンダヘッド20を下方に移動させれば、燃焼室内の容積が減少して圧縮比を高くすることができる。圧縮比は、ロアブロック32に設けられた圧縮比センサ63を用いて検出することが可能となっている。圧縮比センサ63としては、例えばストロークセンサが用いられ、ロアブロック32に対するアッパーブロック31の相対位置を検出することによって圧縮比を検出する。圧縮比センサ63は、検出した圧縮比に対応する検出信号S63をECU60に送信する。尚、アクチュエータ33等によって、本発明に係る圧縮比変更手段の一例が構成されている。
【0042】
尚、本実施形態では、圧縮比の変更方法として、例えば電動式のアクチュエータ33による手法について説明したが、本発明はこの限りでない。即ち、圧縮比の変更方法として、油圧式のアクチュエータによって圧縮比を変更する手法、例えば吸気バルブを閉じるタイミングを変更することにより圧縮比を変更する手法、ピストンの上死点の位置を変更することにより圧縮比を変更する手法、シリンダヘッドの位置を変更することにより燃焼室の容積を変化させることにより圧縮比を変更する手法であってよい。
【0043】
シリンダヘッド20には、燃焼室内に吸気を取り入れるための吸気ポート23と、燃焼室内から排気を排出するための排気ポート24とが形成されている。吸気ポート23には吸気通路50が接続されており、排気ポート24には排気通路58が接続されている。ここで、吸気ポート23が燃焼室に開口する部分には吸気バルブ21が、また、排気ポート24が燃焼室に開口する部分には排気バルブ22が設けられている。吸気バルブ21及び排気バルブ22はそれぞれ、電動アクチュエータ73、74によって駆動される。ピストン41の動きに合わせて適切なタイミングで吸気バルブ21及び排気バルブ22を開閉することにより、燃焼室内に吸気を吸入したり、あるいは燃焼室内から排気を排出したりすることができる。吸気バルブ21及び排気バルブ22を駆動する電動アクチュエータ73、74は、ECU60からの制御信号S73、S74により制御される。
【0044】
吸気通路50に設けられたエアフローセンサ57は、検出した吸気量に対応する検出信号S57をECU60に送信する。スロットルバルブ52の開度を調整する電動アクチュエータ53は、ECU60からの制御信号S53によって制御される。
【0045】
また、シリンダヘッド20には、燃焼室内に燃料を噴射する燃料噴射弁26、及び、燃焼室内に形成された混合気に点火するための点火プラグ27が設けられている。燃料噴射弁26及び点火プラグ27は、ECU60からの制御信号S26、S27により制御される。燃料噴射弁26が燃焼室内に燃料を噴射することにより、吸気通路50より吸気ポート23を介して吸入された吸気と燃料との混合気が燃焼室内に形成され、点火プラグ27が点火することにより、混合気は燃焼される。このときの燃焼により発生するピストン41を押す力がエンジン10の動力となる。その後、燃焼室内の排気は排気ポート24を介して排気通路58へ排出される。なお、燃料噴射弁としては、図2に示すような直噴式の燃料噴射弁26を設けるのには限られず、この代わりに、又は、加えて、吸気通路50に燃料噴射弁を設けるとしても良いのは言うまでもない。
【0046】
上述したことから分かるように、エンジン10は、圧縮比を変化させることが可能な可変圧縮比エンジンである。可変圧縮比エンジンでは、機械的仕事への変換効率、即ち熱効率の向上と、最大出力の増加とを両立させるべく、運転条件に応じて混合気の圧縮比を変化させる。具体的には、ECU60は、エンジントルクの変化に応じてリニアに圧縮比を変化させる。例えば、ECU60は、高トルク条件では低圧縮比に設定することで充分な最大出力を確保させるとともに、低中トルク条件では高圧縮比に設定することで熱効率を向上させる。
【0047】
(圧縮比変更の制御方法)
ここで、可変圧縮比エンジンたるエンジン10が搭載された車両100において圧縮比を変更する制御方法について図3を用いて説明する。図3は、第1実施形態に係る車両の制御方法が行われたときのエンジン動作点の移行の様子を示す図である。
【0048】
図3において、FLOは燃費最適線を示している。LWOTはアクセル全開時の動力線を示している。LPrl、LPrm、LPraは等圧縮比線を示している。以下では、各等圧縮比線LPrl、LPrm、LPraにおける圧縮比をそれぞれ、Prl、Prm、Praとする。これらの等圧縮比線において、エンジントルクが最も高くなる等圧縮比線LPrlにおける圧縮比Prlが最も低い圧縮比となり、エンジントルクが最も低くなる等圧縮線LPraにおける圧縮比Praが最も高い圧縮比となる。従って、以下では、説明の便宜上、圧縮比Prlを「低圧縮比」と称し、圧縮比Prmを「中圧縮比」と称し、圧縮比Praを「高圧縮比」と称することもある。また、LEPa、LEPbは駆動力が一定となる等駆動力線を示している。
【0049】
図3において、エンジン動作点Ap、Bp、Cp、Dpを結ぶ破線矢印は、一般的な車両の制御方法が行われた場合のエンジン動作点の移行の様子を示している。アクセルが踏み込まれる前の必要駆動力に対応するエンジン動作点が点Apであり、アクセルが踏み込まれた後の必要駆動力に対応する目標となるエンジン動作点(以下、「目標動作点」と称する)が点Dpである。ここで、目標動作点Dpは燃費最適線FLO上に設定される。
【0050】
第1実施形態に係る車両の制御方法では、ECU60は、アクセルが踏み込まれると、アクセル開度センサ61からの検出信号に基づいて、アクセル開度を求め、クランク角センサ44からの検出信号に基づいて、エンジン回転数を求める。そして、ECU60は、アクセル開度及びエンジン回転数に基づいて、アクセルが踏み込まれた後の必要駆動力を求める。次に、ECU60は、当該必要駆動力に対応する燃費最適線FLO上の目標動作点Dpを求める。そして、ECU60は、エンジントルクをアクセル全開時のトルク(以下、「WOTトルク」と称する)まで一旦上昇させることにより、実際のエンジン動作点(以下、実エンジン動作点と称する)を点Apから点Bpに移行させる。その後、ECU60は、エンジン回転数の上昇により、目標動作点Dpと同じ等駆動力線LEPa上の点Cpに実エンジン動作点を移行させてから、エンジントルクを低下させることにより、等駆動力線上LEPaに沿って目標動作点Dpに実エンジン動作点を移行させる。
【0051】
ここで、ECU60は、実エンジン動作点の移行に従い、エンジン10の圧縮比も変化させる。具体的には、実エンジン動作点が点Apから点Bpへと移行する際には、ECU60は、圧縮比を高圧縮比から低圧縮比へと変化させる。具体的には、ECU60は、圧縮比をPrh(>Pra)から、Pra、Prm、Prlへと順番に変化させる。また、実エンジン動作点が点Bpから点Cpへと移行する際には、ECU60は、圧縮比を低圧縮比たるPrlに保持する。実エンジン動作点が点Cpから点Dpへと移行する際には、ECU60は、圧縮比を低圧縮比たるPrlから中圧縮比たるPrmへと変化させる。
【0052】
(車両の制御装置の動作原理)
次に、図4乃至図5を参照して、第1実施形態に係る車両の制御装置の動作原理について説明する。ここに、図4は、第1実施形態に係る車両の制御装置の制御処理における動作の流れを示したフローチャートである。尚、この制御処理は、例えば数μ秒〜数十μ秒等の所定周期で繰り返し実行される。図5は、第1実施形態に係る車両が走行するカーブ路及び直線路を概念的に示した平面図である。尚、図5中の端部P1、P2、P3は、直線路D1とカーブ路R1とを連続させる端部、カーブ路R1と直線路D2とを連続させる端部、直線路D2とカーブ路R2とを連続させる端部を夫々示す。
【0053】
先ず、図4に示されるように、ECU60は、取得部3によって路車間通信を介して取得された道路形状データD62を解析し、自車両C1が走行している道路の形状に関する情報を読み込む(ステップS101)。
【0054】
次に、ECU60は、読み込まれた道路形状データに基づいて、自車両C1が現在、直線路を走行しているか否かを判定する(ステップS102)。このステップS102の判定の結果、自車両C1が現在、直線路を走行していると判定される場合(ステップS102:Yes)、更に、ECU60は、自車両C1が現在、走行している直線路の長さが所定値を超えるか否かを判定する(ステップS103)。ここに、本実施形態に係る所定値とは、典型的には、数十メートル等の圧縮比を変更する頻度を低減可能な直線路の長さを意味する。この所定値は、圧縮比の変更に伴うエネルギー効率を向上させるように、実験的、理論的、経験的、又はシミュレーション等によって、個別具体的に定義可能である。
【0055】
このステップS103の判定の結果、自車両C1が現在、走行している直線路の長さが所定値を超えないと判定される場合(ステップS103:No)、更に、ECU60は、自車両C1が現在、走行している直線路の端部P1にカーブ路があるか否かを判定する(ステップS104)。ここに、本実施形態に係るカーブ路とは、典型的には、右方向又は左方向に曲がっている曲線形状の道路を意味し、この曲線形状の道路における曲線の曲率半径、曲がる方向、又は、道路幅等によって、定量的又は定性的に、個別具体的に定義可能である。
【0056】
このステップS104の判定の結果、自車両C1が現在、走行している直線路の終端部にカーブ路があると判定される場合(ステップS104:Yes)、ECU60は、自車両C1が曲折路を走行していると判定し、自車両C1が曲折路を走行しているか否かを示す曲折路走行判定フラグを「真」、即ち「1」とする(ステップS105)。ここに、本実施形態に係る曲折路とは、典型的には、直線路とこの直線路に連続するカーブ路との組を少なくとも一組、備えた道路を意味する。また、本実施形態に係る曲折路走行判定フラグとは、自車両が曲折路を走行中であるか否かを示すフラグ情報である。尚、本発明に係る曲がり道路の一例が、曲折路に含まれるカーブ路R1、R2によって構成されている。また、本発明に係る直線道路の一例が、直線路D1、D2によって構成されている。
【0057】
次に、ECU60の制御下で、アクチュエータ33によって、道路形状に応じた圧縮比の変更が実施される(ステップS106)。典型的には、アクチュエータ33によって、曲折路に含まれるカーブ路の曲率半径、(ii)カーブ路へ進入する前の直線路若しくはカーブ路を退出した後の直線路の長さ若しくは広さ、又は、(iii)曲折路の勾配に基づいて、圧縮比が変更される。
【0058】
他方、上述のステップS103の判定の結果、自車両C1が現在、走行している直線路の長さが所定値を超えると判定される場合(ステップS103:Yes)、或いは、上述のステップS104の判定の結果、自車両C1が現在、走行している直線路の終端部にカーブ路があると判定されない場合、言い換えると、自車両C1が現在、走行している直線路の終端部にカーブ路がなく直線路が続いていると判定される場合(ステップS104:No)、ECU60は、自車両C1が曲折路を走行していないと判定し、自車両C1が曲折路を走行しているか否かを示す曲折路走行判定フラグを「偽」、即ち「0」とする(ステップS107)。
【0059】
次に、ECU60の制御下で、アクチュエータ33による、道路形状に応じた圧縮比の変更を実施しないように、道路形状に応じた圧縮比の変更に関する各種の制御処理は停止される(ステップS108)。これにより、第1実施形態に係る圧縮比の変更を、直線路の長さに基づいて的確且つ正確に停止することができる。
【0060】
このように、路車間通信を介して取得された道路形状データD62の解析によって読み込まれた道路形状データに基づいて、自車両C1が曲折路を走行していると判定した場合、道路形状に応じた圧縮比の変更を実施する。典型的には、図5に示されるように、カーブ路R1の手前の直線路D1の距離が所定値より小さいと判定され、且つ、カーブ路R1とカーブ路R2との間の直線路D2の距離が所定値より小さいと判定される場合、ECU60の制御下で、道路形状に応じて圧縮比が設定され、この設定された圧縮比へ変更がアクチュエータ33によって実際に実行される。より典型的には、エンジンの負荷が高い運転状態及びエンジンの負荷が低い減速運転のうちいずれか一方からいずれか他方へと切り換える運転操作の頻度が、直線路を走行する場合と比較して多頻度である曲折路を自車両C1が走行している場合、道路形状に応じて圧縮比が設定される。
【0061】
これにより、例えば曲折路の道路形状等の道路形状に応じて、一の圧縮比及び他の圧縮比のうちいずれか一方の圧縮比に圧縮比を固定することが可能であり、圧縮比を変更するアクチュータ等の駆動手段の作動頻度を低減させることが可能である。この結果、車両の走行において、燃料の消費を低減させ、エネルギー効率を向上させることができる。
【0062】
仮に、道路形状に応じて圧縮比を設定することなく、加速状態又は減速状態等の運転状態に応じて、圧縮比を設定し、圧縮比の変更を実行した場合、上述した曲折路では、加速運転及び減速運転のうちいずれか一方からいずれか他方へと切り換える運転操作の頻度が多頻度であるため、加速状態において適切な一の圧縮比及び減速状態において適切な他の圧縮比のうちいずれか一方からいずれか他方へと変更する頻度も増大してしまう。このため、圧縮比を変更するアクチュータ等の駆動手段の作動頻度も増大し、ひいては、車両の走行において、燃費が悪化していまい、エネルギー効率の向上が抑制させてしまうという技術的な問題点が生じる。
【0063】
(第2実施形態)
(車両の制御装置の動作原理)
次に、図6乃至図11を参照して、第2実施形態に係る車両の制御装置の動作原理について説明する。ここに、図6は、第2実施形態に係る車両の制御装置の制御処理における動作の流れを示したフローチャートである。尚、この制御処理は、例えば数μ秒〜数十μ秒等の所定周期で繰り返し実行される。図7は、第2実施形態に係る曲折路の概念を平面的に示した模式図である。図8は、第2実施形態に係るカーブ路の曲率半径と圧縮比との定性的な関係を概念的に示した模式図(図8(a)及び図8(b))である。図9は、第2実施形態に係るカーブ路の曲率半径と圧縮比との定量的及び定性的な関係を示したグラフである。図10は、第2実施形態に係る直線路の長さと圧縮比との関係、又は、直線路の広さと圧縮比との関係を定量的及び定性的に示したグラフ(図10(a)及び図10(b))である。図11は、第2実施形態に係る路面勾配と圧縮比の補正量との定量的及び定性的な関係を示したグラフである。
【0064】
先ず、ECU60は、取得部3によって路車間通信を介して取得された道路形状データを解析し、自車両C1が走行している道路の形状に関する情報及び自車両C1が走行する予定である道路の形状に関する情報を読み込む(ステップS201)。
【0065】
次に、ECU60は、読み込まれた道路形状データの情報に基づいて、曲折路判定フラグが真であるか否かを判定する(ステップS202)。典型的には、ECU60の制御下で、上述した第1実施形態に係るステップS102乃至ステップS105、並びに、ステップS107が実施されることによって決定された曲折路判定フラグが真であるか否かが判定される。
【0066】
上述したステップS202の判定の結果、曲折路判定フラグが真であると判定される場合(ステップS202:Yes)、曲折路に含まれるカーブ路の曲率半径に基づいて、カーブ路における圧縮比及び当該カーブ路の手前の直線路における圧縮比を設定する(ステップS203)。典型的には、図7に示されるように、カーブ路R1の曲率半径に基づいて、カーブ路R1を走行する際の圧縮比及びカーブ路R1の手前にあり自車両C1の減速が必要な直線路D11を走行する際の圧縮比を設定する。
【0067】
より典型的には、ECU60は、図8(a)及び図8(b)、並びに、図9に示されるように、カーブ路R1の曲率半径が大きくなるに従って、カーブ路R1を走行する際の圧縮比を低くなるように設定し、カーブ路R1の曲率半径が小さくなるに従って、カーブ路R1を走行する際の圧縮比を高くなるように設定する。概ね同様にして、カーブ路R1の曲率半径が大きくなるに従って、カーブ路R1の手前にあり自車両C1の減速が必要な直線路D11を走行する際の圧縮比を低くなるように設定し、カーブ路R1の曲率半径が小さくなるに従って、この直線路D11を走行する際の圧縮比を高くなるように設定する。
【0068】
典型的には、カーブ路R1の曲率半径が第1基準値より大きくなるに従って、カーブ路R1を走行する際の圧縮比を第2基準値より低くなるように設定する。他方、カーブ路R1の曲率半径が第1基準値より小さくなるに従って、カーブ路R1を走行する際の圧縮比を第2基準値より高くなるように設定する。第1基準値とは、所望となる曲率半径の値を示す。第2基準値とは、所望となる圧縮比の値を示す。尚、第1基準値及び第2基準値は、圧縮比の変更の頻度を低減させ、圧縮比の変更に伴うエネルギー効率を向上させるように、実験的、理論的、経験的、又はシミュレーション等によって、個別具体的に定義可能である。
【0069】
このように、カーブ路R1の曲率半径が第1基準値より大きくなるに従って、カーブ路R1を走行する際の圧縮比を第2基準値より低くなるように設定するのは、次の理由のためである。即ち、カーブ路R1の曲率半径が第1基準値より大きくなるに従って、カーブ路R1を走行する際の走行速度が増加側に変化し、即ち、大きくなり、これに伴いエンジンの負荷が増加側に変化する、即ち、大きくなる。と共に、カーブ路R1の手前にある直線路D11において必要な、自車両C1の減速の度合いが減少側に変化する、即ち、小さくなるためである。
【0070】
このように、カーブ路R1の曲率半径が第1基準値より大きくなるに従って、カーブ路R1を走行する際の圧縮比を第2基準値より低くすることにより、エンジンの負荷が第3基準値より大きくなった走行状態において、ノッキングの発生を効果的に防止することが可能であるので、実践上、大変有益である。第3基準値とは、例えば一般道路を法定速度で走行する際のエンジンの負荷の値を示す。
【0071】
他方、カーブ路R1の曲率半径が第1基準値より小さくなるに従って、カーブ路R1を走行する際の圧縮比を第2基準値より高くなるように設定するのは、次の理由のためである。即ち、カーブ路R1の曲率半径が第1基準値より小さくなるに従って、カーブ路R1を走行する際の走行速度が減少側に変化し、即ち、小さくなり、これに伴いエンジンの負荷が減少側に変化する、即ち、小さくなる。と共に、カーブ路R1の手前にある直線路D11において必要な、自車両C1の減速の度合いが増加側に変化する、即ち、大きくなるためである。
【0072】
このように、カーブ路R1の曲率半径が第1基準値より小さくなるに従って、カーブ路R1を走行する際の圧縮比を第2基準値より高くすることにより、エンジンの負荷が第3基準値より小さくなった走行状態において、燃費を向上させることが可能であるので、実践上、大変有益である。
【0073】
尚、カーブ路R1の曲率半径の変化に従って、カーブ路R1の手前にある直線路D11を走行する際の圧縮比を変化させる作用効果は、上述したカーブ路R1を走行する際の圧縮比を圧縮比の変化の内容と概ね同様のため説明を省略する。
【0074】
尚、概ね同様にして、図7に示されるように、カーブ路R2の曲率半径に基づいて、カーブ路R2を走行する際の圧縮比及びカーブ路R2の手前にあり自車両C1の減速が必要な直線路D21を走行する際の圧縮比を設定する。
【0075】
次に、ECU60は、曲折路に含まれる直線路の長さ又は広さに基づいて、直線路における圧縮比を設定する(ステップS204)。典型的には、図7に示されるように、カーブ路R1に続く直線路D20の長さ又は広さに基づいて、直線路D20を走行する際の圧縮比を設定する。直線路D20の長さは、直線路D20が延びる方向に沿った長さを意味し、直線路D20の広さは、直線路D20の幅の広さを意味する。
【0076】
より典型的には、ECU60は、図10(a)に示されるように、直線路D20の長さが長くなるに従って、直線路D20を走行する際の圧縮比を低くなるように設定し、直線路D20の長さが短くなるに従って、直線路D20を走行する際の圧縮比を高くなるように設定する。他方、図10(b)に示されるように、直線路D20の幅の広くなるに従って、直線路D20を走行する際の圧縮比を低くなるように設定し、直線路D20の幅が狭くなるに従って、この直線路D20を走行する際の圧縮比を高くなるように設定する。
【0077】
このように、直線路D20の長さが長くなるに従って、直線路D20を走行する際の圧縮比を低くなるように設定することにより、エンジンの負荷が増加側に変化した走行状態において、ノッキングの発生を効果的に防止することが可能であるので、実践上、大変有益である。
【0078】
他方、このように、直線路D20の長さが短くなるに従って、直線路D20を走行する際の圧縮比を高くなるように設定することにより、エンジンの負荷が減少側に変化した走行状態において、燃費を向上させることが可能であるので、実践上、大変有益である。
【0079】
概ね同様にして、このように、直線路D20の幅の広くなるに従って、直線路D20を走行する際の圧縮比を低くなるように設定することにより、エンジンの負荷が増加側に変化した走行状態において、ノッキングの発生を効果的に防止することが可能であるので、実践上、大変有益である。
【0080】
他方、このように、直線路D20の幅が狭くなるに従って、この直線路D20を走行する際の圧縮比を高くなるように設定することにより、エンジンの負荷が減少側に変化した走行状態において、燃費を向上させることが可能であるので、実践上、大変有益である。
【0081】
次に、ECU60は、曲折路に含まれる直線路及びカーブ路の路面勾配に基づいて、設定された直線路における圧縮比及び設定されたカーブ路における圧縮比を夫々補正する(ステップS205)。典型的には、図7に示されるように、直線路D11、D20、D21及びカーブ路R1、R2の路面勾配に基づいて、直線路D11、D20、D21及びカーブ路R1、R2における圧縮比を夫々補正する。
【0082】
より典型的には、ECU60は、図11に示されるように、直線路D11、D20、D21の路面勾配がゼロ、即ち路面が平坦(又は水平)である場合、圧縮比の補正量をゼロにして、直線路D11、D20、D21における圧縮比を補正しない。他方、直線路D11、D20、D21の路面勾配が上り勾配であり、且つ、その上り勾配が大きくなるに従って、圧縮比の補正量をマイナス符号にし、且つ、その圧縮比の補正量の絶対値を大きくし、直線路D11、D20、D21の路面勾配が下り勾配であり、且つ、その下り勾配が大きくなるに従って、圧縮比の補正量をプラス符号にし、且つ、その圧縮比の補正量の絶対値を大きくする。言い換えると、上り勾配が大きくなるに従って、圧縮比は、より大幅に減少するように補正され、下り勾配が大きくなるに従って、圧縮比は、より大幅に増加するように補正される。
【0083】
このように、上り勾配が大きくなるに従って、圧縮比を、より大幅に減少する補正を行うことにより、エンジンの負荷が増加側に変化した走行状態において、ノッキングの発生を効果的に防止することが可能であるので、実践上、大変有益である。
【0084】
他方、このように、下り勾配が大きくなるに従って、圧縮比を、より大幅に増加する補正を行うことにより、エンジンの負荷が減少側に変化した走行状態において、燃費を向上させることが可能であるので、実践上、大変有益である。
【0085】
このように、自車両C1が走行する予定の道路の道路形状データを取得し、最適な圧縮比を事前に設定する。典型的には、カーブ路の曲率半径が小さく、カーブ路に続く直線路が短く、狭く、且つ下り勾配の曲折路を走行する予定である場合、この曲折路を走行する際には高圧縮比が予め設定される。
【0086】
次に、ECU60の制御下で、アクチュエータ33によって、設定及び補正された圧縮比の変更が実施される(ステップS206)。
【0087】
他方、上述のステップS202の判定の結果、曲折路判定フラグが真であると判定されない場合、言い換えると、曲折路判定フラグが偽であると判定される場合(ステップS202:No)、ECU60の制御下で、上述したステップS203乃至S205は省略される。
【0088】
(第3実施形態)
(車両の制御装置の動作原理)
次に、図12及び図13を参照して、第3実施形態に係る車両の制御装置の動作原理について説明する。ここに、図12は、第3実施形態に係る車両の制御装置の制御処理における動作の流れを示したフローチャートである。尚、第3実施形態において、上述した第2実施形態と概ね同様な処理には、同一のステップ番号を付し、それらの説明は適宜省略する。また、この制御処理は、例えば数μ秒〜数十μ秒等の所定周期で繰り返し実行される。図13は、第3実施形態に係る曲折路の概念を平面的に示した模式図である。
【0089】
図12に示されるように、上述したステップS201を経て、上述のステップS202の判定の結果、曲折路判定フラグが真であると判定される場合(ステップS202:Yes)、ECU60の制御下で、道路形状に基づいて、圧縮比が予め設定される(ステップS301)。典型的には、ECU60の制御下で、曲折路に含まれるカーブ路の曲率半径、(ii)カーブ路へ進入する前の直線路若しくはカーブ路を退出した後の直線路の長さ若しくは広さ、又は、(iii)曲折路の勾配に基づいて、圧縮比が予め設定される。
【0090】
次に、ECU60の制御下で、曲折路上、予め設定された圧縮比において、低圧縮比から高圧縮比へ変更する予定があるか否かが判定される(ステップS302)。典型的には、図13に示されるように、曲折路の一部である道路Rd1においては、例えば曲率半径等の道路形状に基づいて、低圧縮比が予め設定されている。この道路Rd1に続く道路Rd2においては、例えば曲率半径等の道路形状に基づいて、高圧縮比が予め設定されている。この道路Rd2に続く道路Rd3においては、例えば曲率半径等の道路形状に基づいて、低圧縮比が予め設定されている。この図13の場合、自車両C1が道路Rd2を走行する際には高圧縮比へ変更することが予定されている。
【0091】
上述したステップS302の判定の結果、低圧縮比から高圧縮比へ変更する予定があると判定される場合(ステップS302:Yes)、更に、ECU60の制御下で、予め高圧縮比に設定され、自車両C1によって高圧縮比で走行することが予定される走行期間が基準時間を下回るか否かが判定される(ステップS303)。ここに、第3実施形態に係る基準時間とは、典型的には、例えばアクチュータ等の駆動手段であるアクチュエータ33が圧縮比を変更する際の変更時間において、一の圧縮比から他の圧縮比、更に、この他の圧縮比から一の圧縮比へ変更する際に消費する電気エネルギーの度合いが所望のレベルである変更時間を意味する。この所望のレベルは、圧縮比の変更に伴うエネルギー効率を向上させるように、実験的、理論的、経験的、又はシミュレーション等によって、個別具体的に定義可能である。尚、この基準時間によって、本発明に係る所定時間の一例が構成されている。
【0092】
このステップS303の判定の結果、ECU60の制御下で、自車両C1によって高圧縮比で走行することが予定される走行期間が基準時間を下回ると判定される場合(ステップS303:Yes)、ECU60の制御下で、この走行期間において、高圧縮比に代えて、低圧縮比が予め設定されるように補正される(ステップS304)。
【0093】
次に、ECU60の制御下で、アクチュエータ33によって、補正された圧縮比の変更が実施される(ステップS305)。典型的には、図13に示されるように、曲折路の一部である道路Rd1に続く道路Rd2においては、例えば曲率半径等の道路形状に基づいて、高圧縮比が予め設定されている。しかしながら、第3実施形態では、特に、自車両C1によって高圧縮比で走行することが予定される道路Rd2の走行期間が基準時間を下回ると判定される場合、道路Rd2の圧縮比を、道路Rd2の手前の道路Rd1で予め設定されている圧縮比と同じ圧縮比であると共に、道路Rd2に続く道路Rd3で予め設定されている圧縮比と同じ圧縮比、即ち、低圧縮比に補正する。
【0094】
このように、低圧縮比と異なる高圧縮比で走行する走行期間が短時間であり、再び、低圧縮比へ変更することが予定されている場合、(i)低圧縮比から高圧縮比へ変更することによる利点、即ち、燃費の向上と、(ii)不利益な点、即ち、圧縮比変更の頻度が多くなることによるエネルギー効率の低下とを比較考量して、高圧縮比への変更を実施せずに、低圧縮比のままで、自車両を走行させる。
【0095】
これにより、例えば曲折路の道路形状等の道路形状に応じて、一の圧縮比及び他の圧縮比のうちいずれか一方の圧縮比に圧縮比を固定することが可能であり、圧縮比を変更するアクチュータ等の駆動手段の作動頻度を効果的に低減させることが可能である。この結果、車両の走行において、燃料の消費を低減させ、エネルギー効率を向上させることができる。
【0096】
本願発明者による研究によれば、予め高圧縮比に設定された走行期間において、この予め設定された高圧縮比を低圧縮比へ補正することは実施するが、予め低圧縮比に設定された走行期間において、この予め設定された低圧縮比を高圧縮比へ補正することは実施しないことが好ましい。即ち、エンジンの負荷が高い運転状態に対応して低圧縮比により走行している場合、低圧縮比による走行のままとする。これにより、高圧縮比に補正することによるノッキングの発生を効果的に防止し、エンジンの破損を確実に防止することが可能である。
【0097】
尚、本実施形態では、走行距離と走行期間(又は走行時間)とは、自車両の走行速度が決定されることにより、相互に変換可能であることを付記しておく。即ち、本実施形態に係る走行期間は、走行距離と走行速度との演算によって定義可能である。と共に、本実施形態に係る走行距離は、走行期間(又は走行時間)と走行速度との演算によって定義可能である。
【0098】
尚、第1乃至第3実施形態では、説明の便宜のため、低圧縮比と高圧縮比との2段階の圧縮比について説明したが、本発明はこの限りでなく、本発明は、3段階以上の複数の段階の圧縮比の変更に適用可能である。
【0099】
本発明は、上述した実施例に限られるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う車両の制御装置もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明は、例えば圧縮比を変更可能なエンジンを備えた車両の制御装置に利用可能である。
【符号の説明】
【0101】
10 エンジン
33 アクチュエータ
62 取得部
60 ECU
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮比を変更可能なエンジンを備えた車両の制御装置の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の車両の制御装置として、特許文献1等には、エンジン回転速度やエンジンの負荷等に応じて圧縮比を設定する技術に関して開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−147104号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した特許文献1等によれば、複数のカーブを含む曲折した道路では加速走行、又は減速走行が頻繁に行われ、圧縮比を変更する頻度が増加してしまうため、燃料の消費を低減させることが困難になってしまう可能性があるという技術的な問題点が生じる。
【0005】
本発明は、例えば上述した問題点に鑑みなされたものであり、より適切に圧縮比を変更することが可能な車両の制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明に係る車両の制御装置は、機関を備えた車両の制御装置であって、前記機関の圧縮比を変更可能な圧縮比変更手段と、前記車両が走行する走行道路の道路形状に基づいて、前記圧縮比を変更するように前記圧縮比変更手段を制御する制御手段とを備える。
【0007】
本発明に係る車両の制御装置は、例えば混合気を吸気するエンジン等の機関を備えた車両の制御装置である。圧縮比変更手段は、典型的には、バッテリから電力が供給されるアクチュエータを用いて、機関の圧縮比を変更可能である。ここに、本発明に係る圧縮比とは、混合気の圧縮の程度を示す指標である。例えばメモリやプロセッサ等を備えて構成可能な制御手段の制御下で、圧縮比変更手段によって、車両が走行する走行道路の道路形状に基づいて、圧縮比が変更される。ここに、本発明に係る「道路形状」とは、例えば車両が走行する走行道路の平面的な形状や3次元的な勾配等の道路の物理的な形状を意味する。また、本発明に係る「車両が走行する走行道路」とは、典型的には、車両が現在走行している走行道路又は車両が走行する予定である走行道路を意味する。
【0008】
これにより、例えばカーブの多い屈曲路等の道路の道路形状に基づいて、圧縮比を計画的に変更することができる。これにより、例えばアクチュータ等の圧縮比変更手段の作動頻度を低減させることが可能である。この結果、車両の走行において、燃料の消費を低減させ、エネルギー効率を向上させることができる。
【0009】
本発明の車両の制御装置の一の態様は、前記車両が走行する予定の予定道路の道路形状に基づいて、前記機関の第1圧縮比及び前記機関の第2圧縮比のうちいずれか一方の圧縮比で走行する第1走行期間、前記第1走行期間に続き且ついずれか他方の圧縮比で走行する第2走行期間、及び、前記第2走行期間に続き且つ前記いずれか一方の圧縮比で走行する第3走行期間を予測する予測手段を更に備え、前記制御手段は、前記第2走行期間が所定時間より短い場合、前記第2走行期間において前記いずれか一方の圧縮比で前記車両を走行するように前記圧縮比変更手段を制御する。
【0010】
この態様によれば、例えばメモリやプロセッサ等を備えて構成可能な予測手段によって、車両が走行する予定の予定道路の道路形状に基づいて、機関の第1圧縮比(例えば低圧縮比)及び前記機関の第2圧縮比(例えば高圧縮比)のうちいずれか一方の圧縮比(例えば低圧縮比)で走行する第1走行期間が予測される。と共に、予測手段によって、第1走行期間に続き且ついずれか他方の圧縮比(例えば高圧縮比)で走行する第2走行期間が予測される。と共に、予測手段によって、第2走行期間に続き且ついずれか一方の圧縮比(例えば低圧縮比)で走行する第3走行期間が予測される。本発明に係る「予測」とは、典型的には、いずれか一方の圧縮比又はいずれか他方の圧縮比で走行する走行期間を、車両の走行速度、予定道路の道路形状、及び予定道路の長さに基づいて、予め推定することを意味する。このような走行期間は、車両の走行速度と、予定道路の道路形状と、予定道路の長さとの定性的又は定量的な関係を、実験的な手法、理論的な手法、経験的な手法、又はシミュレーションを用いた手法などによって定義することにより、個別具体的に予測可能である。
【0011】
制御手段の制御下で、圧縮比変更手段によって、第2走行期間が所定時間より短い場合、第2走行期間において、いずれか一方の圧縮比(例えば低圧縮比)に変更される。ここに、本発明に係る所定時間とは、典型的には、例えばアクチュータ等の駆動手段である圧縮比変更手段が圧縮比を変更する際の変更時間において、一の圧縮比から他の圧縮比、更に、この他の圧縮比から一の圧縮比へ変更する際に消費するエネルギーの度合いが所望のレベルである変更時間を意味する。この所望のレベルは、圧縮比の変更の頻度を低減させ、圧縮比の変更に伴うエネルギー効率を向上させるように、実験的、理論的、経験的、又はシミュレーション等によって、個別具体的に定義可能である。
【0012】
これにより、例えばカーブの多い屈曲路等の道路の道路形状に基づいて、第1圧縮比及び第2圧縮比のうちいずれか一方の圧縮比に圧縮比を予め固定することが可能であり、例えばアクチュータ等の圧縮比変更手段の作動頻度を効果的に低減させることが可能である。この結果、車両の走行において、燃料の消費を低減させ、エネルギー効率を向上させることができる。
【0013】
この制御手段に係る態様では、前記制御手段は、前記いずれか他方の圧縮比が前記いずれか一方の圧縮比より高い場合、前記第2走行期間において前記いずれか一方の圧縮比で前記車両が走行するように前記圧縮比変更手段を制御し、前記いずれか他方の圧縮比が前記いずれか一方の圧縮比より低い場合、前記第2走行期間において前記いずれか他方の圧縮比のままで前記車両が走行するように前記圧縮比変更手段を制御する
ように構成してよい。
【0014】
このように構成すれば、第2走行期間において高い圧縮比、即ち、いずれか他方の圧縮比が予め設定される場合、制御手段の制御下で、圧縮比変更手段によって、第2走行期間において低い圧縮比、即ち、いずれか一方の圧縮比で走行するように圧縮比が変更される。他方、第2走行期間において低い圧縮比、即ち、いずれか他方の圧縮比が予め設定される場合、制御手段の制御下で、圧縮比変更手段によって、第2走行期間において低い圧縮比、即ち、いずれか他方の圧縮比のままで走行するように圧縮比が変更される。
【0015】
即ち、第2走行期間において、エンジン等の機関の負荷が高い運転状態に対応して低い圧縮比の状態で車両が走行している場合、低い圧縮比の状態のまま車両を走行させる。これにより、高い圧縮比に変更することによるノッキングの発生を効果的に防止し、エンジン等の機関の破損を確実に防止することが可能である。
【0016】
本発明の車両の制御装置の他の態様は、前記制御手段は、前記道路形状として、(i)前記車両が走行する曲がり道路の曲率半径、(ii)前記曲がり道路へ進入する前若しくは前記曲がり道路を退出した後の直線道路の長さ若しくは広さ、又は、(iii)前記走行道路の勾配に基づいて、前記圧縮比を変更するように前記圧縮比変更手段を制御する。
【0017】
ここに、本発明に係る曲がり道路とは、典型的には、右方向又は左方向に曲がっている曲線形状の道路を意味し、この曲線形状の道路における曲線の曲率半径、曲がる方向、又は、道路幅等によって、定量的又は定性的に、個別具体的に定義可能である。本発明に係る直線道路の長さは、直線道路が延びる方向に沿った長さを意味する。本発明に係る直線道路の広さは、直線道路の幅の広さを意味する。
【0018】
この態様によれば、各種の道路形状に基づいて、圧縮比を変更させることにより、ノッキングの発生の効果的な防止と、燃費の向上とを両立させることが可能であるので、実践上、大変有益である。
【0019】
本発明の車両の制御装置の他の態様は、前記制御手段は、前記曲がり道路の曲率半径が大きくなるに従って、前記圧縮比を低く変更し、前記曲がり道路の曲率半径が小さくなるに従って、前記圧縮比を高く変更するように前記圧縮比変更手段を制御する。
【0020】
この態様によれば、曲がり道路の曲率半径が大きくなるに従って、曲がり道路を走行する際の圧縮比を低くすることにより、機関の負荷がより大きくなった走行状態において、ノッキングの発生を効果的に防止することが可能であるので、実践上、大変有益である。他方、曲がり道路の曲率半径が小さくなるに従って、曲がり道路を走行する際の圧縮比を高くすることにより、エンジンの負荷が小さくなった走行状態において、燃費を向上させることが可能であるので、実践上、大変有益である。
【0021】
本発明の車両の制御装置の他の態様は、前記制御手段は、前記直線道路が長くなるに従って、前記圧縮比を低く変更し、前記直線道路が短くなるに従って、前記圧縮比を高く変更するように前記圧縮比変更手段を制御する。
【0022】
この態様によれば、直線道路の長さが長くなるに従って、直線道路を走行する際の圧縮比を低くさせることにより、機関の負荷が増加側に変化した走行状態において、ノッキングの発生を効果的に防止することが可能であるので、実践上、大変有益である。他方、このように、直線道路の長さが短くなるに従って、直線道路を走行する際の圧縮比を高くさせることにより、機関の負荷が減少側に変化した走行状態において、燃費を向上させることが可能であるので、実践上、大変有益である。
【0023】
本発明の車両の制御装置の他の態様は、前記制御手段は、前記直線道路が広くなるに従って、前記圧縮比を低く変更し、前記直線道路が狭くなるに従って、前記圧縮比を高く変更するように前記圧縮比変更手段を制御する。
【0024】
この態様によれば、直線道路の幅の広くなるに従って、直線道路を走行する際の圧縮比を低くさせることにより、機関の負荷が増加側に変化した走行状態において、ノッキングの発生を効果的に防止することが可能であるので、実践上、大変有益である。他方、直線道路の幅が狭くなるに従って、この直線道路を走行する際の圧縮比を高くさせることにより、エンジンの負荷が減少側に変化した走行状態において、燃費を向上させることが可能であるので、実践上、大変有益である。
【0025】
本発明の車両の制御装置の他の態様は、前記制御手段は、前記走行道路の道路勾配が下る度合いが大きくなるに従って、前記圧縮比を高く変更し、前記走行道路の道路勾配が上る度合いが大きくなるに従って、前記圧縮比を低く変更するように前記圧縮比変更手段を制御する。
【0026】
この態様によれば、典型的には、下り勾配が大きくなるに従って、圧縮比を、より大幅に増加させることにより高くさせ、上り勾配が大きくなるに従って、圧縮比を、より大幅に減少されることにより低くさせる。このように、下り勾配が大きくなるに従って、圧縮比を、より高くさせることにより、機関の負荷が減少側に変化した走行状態において、燃費を向上させることが可能であるので、実践上、大変有益である。他方、上り勾配が大きくなるに従って、圧縮比を、より低くさせることにより、機関の負荷が増加側に変化した走行状態において、ノッキングの発生を効果的に防止することが可能であるので、実践上、大変有益である。
【0027】
本発明のこのような作用及び他の利得は次に説明する実施の形態から明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】第1実施形態に係る車両の制御装置が適用された車両100の全体構成を概略的に示したブロック図である。
【図2】第1実施形態に係るエンジン10の断面構成を示す模式図である。
【図3】第1実施形態に係る車両の制御方法が行われたときのエンジン動作点の移行の様子を示す図である。
【図4】第1実施形態に係る車両の制御装置の制御処理における動作の流れを示したフローチャートである。
【図5】第1実施形態に係る車両が走行するカーブ路及び直線路を概念的に示した平面図である。
【図6】第2実施形態に係る車両の制御装置の制御処理における動作の流れを示したフローチャートである。尚、この制御処理は、例えば数μ秒〜数十μ秒等の所定周期で繰り返し実行される。
【図7】第2実施形態に係る曲折路の概念を平面的に示した模式図である。
【図8】第2実施形態に係るカーブ路の曲率半径と圧縮比との定性的な関係を概念的に示した模式図(図8(a)及び図8(b))である。
【図9】第2実施形態に係るカーブ路の曲率半径と圧縮比との定量的及び定性的な関係を示したグラフである。
【図10】第2実施形態に係る直線路の長さと圧縮比との関係、又は、直線路の広さと圧縮比との関係を定量的及び定性的に示したグラフ(図10(a)及び図10(b))である。
【図11】第2実施形態に係る路面勾配と圧縮比の補正量との定量的及び定性的な関係を示したグラフである。
【図12】第3実施形態に係る車両の制御装置の制御処理における動作の流れを示したフローチャートである。
【図13】第3実施形態に係る曲折路の概念を平面的に示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について説明する。
【0030】
(第1実施形態)
(基本構成)
第1実施形態に係る車両の制御装置の基本構成について、図1から図3を参照して説明する。ここに、図1は、第1実施形態に係る車両の制御装置が適用された車両100の全体構成を概略的に示したブロック図である。図2は、第1実施形態に係るエンジン10の断面構成を示す模式図である。図1及び図2において、破線矢印は信号の流れを示している。
【0031】
先ず、車両100の全体構成について図1を用いて説明する。車両100は、エンジン10と、変速機110と、ECU(Electronic Controlled Unit)60とを備えている。エンジン10は、後に詳しく述べるが、混合気の圧縮の程度を示す圧縮比を変化させることが可能な可変圧縮比エンジンである。エンジン10は、複数のシリンダ(気筒)34を有している。例えば、図1に示す例では、エンジン10は、直列4気筒のエンジンであるとしている。エンジン10は、各シリンダ34の燃焼室内に吸気を供給するための吸気通路50と、各シリンダ34の燃焼室内より排気を排出するための排気通路58とを有する。吸気通路50には、各シリンダ34の燃焼室内に供給される吸気量を調整するためのスロットルバルブ52と、吸気量を検出するためのエアフローセンサ57が設けられている。スロットルバルブ52の開度は、電動アクチュエータ53により調整される。エンジン10は、ECU(Electronic Controlled Unit)60からの制御信号により制御される。
【0032】
エンジン10からの出力は、クランクシャフト43を介して無段変速機110に伝達される。図1に示す例では、無段変速機110は、ベルト式の無段変速機であるとしている。変速機110は、プライマリプーリ110a、セカンダリプーリ110b、及び、両プーリに巻掛けられた金属等からなるベルト111からなる。両プーリの可動シーブ110aa、110baを軸方向(両端矢印に示す方向)に動かすことによりベルト有効径が変化し、エンジン10からの出力は、プライマリプーリ110aからセカンダリプーリ110bに伝達される際に変速される。セカンダリプーリ110bは、駆動軸143に接続されており、セカンダリプーリ110bからの出力は駆動軸143に伝達される。駆動軸143に伝達された出力は駆動輪に伝達される。無段変速機110は、ECU60からの制御信号により制御される。なお、無段変速機110としては、ベルト式の無段変速機に限られず、代わりに、他の種々の無段変速機を用いることができるのは言うまでもない。
【0033】
ECU60は、図示しないCPU、ROM、RAM、及びA/D変換器などを含んで構成されている。ECU60は、車両内の各種センサから供給される検出信号に基づいて、車両内の制御を行う。例えば、ECU60は、アクセルの開度を検出するアクセル開度センサ61などのセンサから受信した検出信号に基づいて、必要駆動力を求め、求められた当該必要駆動力に基づいて、エンジン10や無段変速機110の制御を行う。尚、ECU60によって、本発明に係る制御手段の一例が構成されている。
【0034】
取得部62は、典型的には、路車間通信機であり、自車両C1が走行する道路に設置された路側インフラと通信を行うための通信機であり、路車間通信用のアンテナ62aを介して路側インフラと通信を行う。
【0035】
取得部62は、より典型的には、例えばGPS信号や地図情報や道路交通情報に関する各種の情報を受信すると共に、例えば自車両C1の位置情報等の各種の車両情報を情報管理サーバへ送信してよい。車両情報は、より典型的には、運転者の運転操作タイミング、運転操作量、運転操作の方向、車両の速度若しくは加減速度に関する定量的及び定性的なデータ群を意味してよい。
【0036】
より詳細には、取得部62は、GPS信号を受信するために、複数のGPS衛星から、測位用データを含む下り回線データを搬送する電波を受信する。測位用データは、緯度及び経度情報等から車両の絶対的な位置を検出するために用いられる。更に詳細には、取得部20は、例えば、FMチューナやビーコンレシーバ、携帯電話や専用の通信カードなどにより構成されてよく、通信用インタフェースを介して、VICS(Vehicle Information Communication System)センタ等の交通環境情報サーバから配信される渋滞や交通情報などの、所謂、道路交通情報や、その他の情報を、例えば電波等の通信網を介して受信してよい。更に詳細には、取得部62は、地図情報の全部又は地図情報のうち更新された一部に関する情報を受信してよい。
【0037】
取得部62は、アンテナ62aを介して取得した各種の信号に含まれる道路形状データD62をECU60に送信する。この道路形状データD62は、自車両C1が走行する道路の道路形状に関する各種の情報を含む。尚、ECU60及び取得部62によって、本発明に係る予測手段の一例が構成されている。
【0038】
次に、エンジン10の構成について図2を用いて説明する。エンジン10は、主に、シリンダヘッド20と、シリンダブロックユニット30と、メインムービングユニット40とから構成されている。
【0039】
シリンダブロックユニット30は、シリンダヘッド20が取り付けられるアッパーブロック31と、メインムービングユニット40が収納されているロアブロック32とから構成されている。また、アッパーブロック31とロアブロック32との間にはアクチュエータ33が設けられており、アクチュエータ33を駆動することで、アッパーブロック31をロアブロック32に対して上下方向に移動させることが可能となっている。アクチュエータ33は、例えば、電気式、油圧式又は空圧式の駆動装置であり、駆動のための電力がバッテリから供給される。アクチュエータ33は、ECU60からの制御信号S33により制御される。また、アッパーブロック31の内部には、円筒形のシリンダ34が形成されており、シリンダ34の外面は冷却水によって冷却される構造となっている。
【0040】
メインムービング40は、シリンダ34の内部に設けられたピストン41と、ロアブロック32の内部で回転するクランクシャフト43と、ピストン41をクランクシャフト43に接続するコネクティングロッド42などから構成されている。これらは、いわゆるクランク機構を構成しており、クランクシャフト43が回転するとそれにつれてピストン41がシリンダ34内で上下方向に動き、逆に、ピストン41が上下に動けばクランクシャフト43がロアブロック32内で回転するようになっている。また、クランクシャフト43の近傍には、クランク角を感知するクランク角センサ44が設けられている。クランク角センサ44は、検出したクランク角に対応する検出信号S44をECU60に送信する。
【0041】
シリンダブロックユニット30にシリンダヘッド20を取り付けると、シリンダヘッド20の下面側(アッパーブロック31に接する側)とシリンダ34とピストン41とで囲まれた部分に燃焼室が形成される。従って、アクチュエータ33を用いてアッパーブロック31を上方に移動させれば、これに伴ってシリンダヘッド20も上方に移動して燃焼湿内の容積が増加するので、圧縮比を低くすることができる。逆に、アッパーブロック31とともにシリンダヘッド20を下方に移動させれば、燃焼室内の容積が減少して圧縮比を高くすることができる。圧縮比は、ロアブロック32に設けられた圧縮比センサ63を用いて検出することが可能となっている。圧縮比センサ63としては、例えばストロークセンサが用いられ、ロアブロック32に対するアッパーブロック31の相対位置を検出することによって圧縮比を検出する。圧縮比センサ63は、検出した圧縮比に対応する検出信号S63をECU60に送信する。尚、アクチュエータ33等によって、本発明に係る圧縮比変更手段の一例が構成されている。
【0042】
尚、本実施形態では、圧縮比の変更方法として、例えば電動式のアクチュエータ33による手法について説明したが、本発明はこの限りでない。即ち、圧縮比の変更方法として、油圧式のアクチュエータによって圧縮比を変更する手法、例えば吸気バルブを閉じるタイミングを変更することにより圧縮比を変更する手法、ピストンの上死点の位置を変更することにより圧縮比を変更する手法、シリンダヘッドの位置を変更することにより燃焼室の容積を変化させることにより圧縮比を変更する手法であってよい。
【0043】
シリンダヘッド20には、燃焼室内に吸気を取り入れるための吸気ポート23と、燃焼室内から排気を排出するための排気ポート24とが形成されている。吸気ポート23には吸気通路50が接続されており、排気ポート24には排気通路58が接続されている。ここで、吸気ポート23が燃焼室に開口する部分には吸気バルブ21が、また、排気ポート24が燃焼室に開口する部分には排気バルブ22が設けられている。吸気バルブ21及び排気バルブ22はそれぞれ、電動アクチュエータ73、74によって駆動される。ピストン41の動きに合わせて適切なタイミングで吸気バルブ21及び排気バルブ22を開閉することにより、燃焼室内に吸気を吸入したり、あるいは燃焼室内から排気を排出したりすることができる。吸気バルブ21及び排気バルブ22を駆動する電動アクチュエータ73、74は、ECU60からの制御信号S73、S74により制御される。
【0044】
吸気通路50に設けられたエアフローセンサ57は、検出した吸気量に対応する検出信号S57をECU60に送信する。スロットルバルブ52の開度を調整する電動アクチュエータ53は、ECU60からの制御信号S53によって制御される。
【0045】
また、シリンダヘッド20には、燃焼室内に燃料を噴射する燃料噴射弁26、及び、燃焼室内に形成された混合気に点火するための点火プラグ27が設けられている。燃料噴射弁26及び点火プラグ27は、ECU60からの制御信号S26、S27により制御される。燃料噴射弁26が燃焼室内に燃料を噴射することにより、吸気通路50より吸気ポート23を介して吸入された吸気と燃料との混合気が燃焼室内に形成され、点火プラグ27が点火することにより、混合気は燃焼される。このときの燃焼により発生するピストン41を押す力がエンジン10の動力となる。その後、燃焼室内の排気は排気ポート24を介して排気通路58へ排出される。なお、燃料噴射弁としては、図2に示すような直噴式の燃料噴射弁26を設けるのには限られず、この代わりに、又は、加えて、吸気通路50に燃料噴射弁を設けるとしても良いのは言うまでもない。
【0046】
上述したことから分かるように、エンジン10は、圧縮比を変化させることが可能な可変圧縮比エンジンである。可変圧縮比エンジンでは、機械的仕事への変換効率、即ち熱効率の向上と、最大出力の増加とを両立させるべく、運転条件に応じて混合気の圧縮比を変化させる。具体的には、ECU60は、エンジントルクの変化に応じてリニアに圧縮比を変化させる。例えば、ECU60は、高トルク条件では低圧縮比に設定することで充分な最大出力を確保させるとともに、低中トルク条件では高圧縮比に設定することで熱効率を向上させる。
【0047】
(圧縮比変更の制御方法)
ここで、可変圧縮比エンジンたるエンジン10が搭載された車両100において圧縮比を変更する制御方法について図3を用いて説明する。図3は、第1実施形態に係る車両の制御方法が行われたときのエンジン動作点の移行の様子を示す図である。
【0048】
図3において、FLOは燃費最適線を示している。LWOTはアクセル全開時の動力線を示している。LPrl、LPrm、LPraは等圧縮比線を示している。以下では、各等圧縮比線LPrl、LPrm、LPraにおける圧縮比をそれぞれ、Prl、Prm、Praとする。これらの等圧縮比線において、エンジントルクが最も高くなる等圧縮比線LPrlにおける圧縮比Prlが最も低い圧縮比となり、エンジントルクが最も低くなる等圧縮線LPraにおける圧縮比Praが最も高い圧縮比となる。従って、以下では、説明の便宜上、圧縮比Prlを「低圧縮比」と称し、圧縮比Prmを「中圧縮比」と称し、圧縮比Praを「高圧縮比」と称することもある。また、LEPa、LEPbは駆動力が一定となる等駆動力線を示している。
【0049】
図3において、エンジン動作点Ap、Bp、Cp、Dpを結ぶ破線矢印は、一般的な車両の制御方法が行われた場合のエンジン動作点の移行の様子を示している。アクセルが踏み込まれる前の必要駆動力に対応するエンジン動作点が点Apであり、アクセルが踏み込まれた後の必要駆動力に対応する目標となるエンジン動作点(以下、「目標動作点」と称する)が点Dpである。ここで、目標動作点Dpは燃費最適線FLO上に設定される。
【0050】
第1実施形態に係る車両の制御方法では、ECU60は、アクセルが踏み込まれると、アクセル開度センサ61からの検出信号に基づいて、アクセル開度を求め、クランク角センサ44からの検出信号に基づいて、エンジン回転数を求める。そして、ECU60は、アクセル開度及びエンジン回転数に基づいて、アクセルが踏み込まれた後の必要駆動力を求める。次に、ECU60は、当該必要駆動力に対応する燃費最適線FLO上の目標動作点Dpを求める。そして、ECU60は、エンジントルクをアクセル全開時のトルク(以下、「WOTトルク」と称する)まで一旦上昇させることにより、実際のエンジン動作点(以下、実エンジン動作点と称する)を点Apから点Bpに移行させる。その後、ECU60は、エンジン回転数の上昇により、目標動作点Dpと同じ等駆動力線LEPa上の点Cpに実エンジン動作点を移行させてから、エンジントルクを低下させることにより、等駆動力線上LEPaに沿って目標動作点Dpに実エンジン動作点を移行させる。
【0051】
ここで、ECU60は、実エンジン動作点の移行に従い、エンジン10の圧縮比も変化させる。具体的には、実エンジン動作点が点Apから点Bpへと移行する際には、ECU60は、圧縮比を高圧縮比から低圧縮比へと変化させる。具体的には、ECU60は、圧縮比をPrh(>Pra)から、Pra、Prm、Prlへと順番に変化させる。また、実エンジン動作点が点Bpから点Cpへと移行する際には、ECU60は、圧縮比を低圧縮比たるPrlに保持する。実エンジン動作点が点Cpから点Dpへと移行する際には、ECU60は、圧縮比を低圧縮比たるPrlから中圧縮比たるPrmへと変化させる。
【0052】
(車両の制御装置の動作原理)
次に、図4乃至図5を参照して、第1実施形態に係る車両の制御装置の動作原理について説明する。ここに、図4は、第1実施形態に係る車両の制御装置の制御処理における動作の流れを示したフローチャートである。尚、この制御処理は、例えば数μ秒〜数十μ秒等の所定周期で繰り返し実行される。図5は、第1実施形態に係る車両が走行するカーブ路及び直線路を概念的に示した平面図である。尚、図5中の端部P1、P2、P3は、直線路D1とカーブ路R1とを連続させる端部、カーブ路R1と直線路D2とを連続させる端部、直線路D2とカーブ路R2とを連続させる端部を夫々示す。
【0053】
先ず、図4に示されるように、ECU60は、取得部3によって路車間通信を介して取得された道路形状データD62を解析し、自車両C1が走行している道路の形状に関する情報を読み込む(ステップS101)。
【0054】
次に、ECU60は、読み込まれた道路形状データに基づいて、自車両C1が現在、直線路を走行しているか否かを判定する(ステップS102)。このステップS102の判定の結果、自車両C1が現在、直線路を走行していると判定される場合(ステップS102:Yes)、更に、ECU60は、自車両C1が現在、走行している直線路の長さが所定値を超えるか否かを判定する(ステップS103)。ここに、本実施形態に係る所定値とは、典型的には、数十メートル等の圧縮比を変更する頻度を低減可能な直線路の長さを意味する。この所定値は、圧縮比の変更に伴うエネルギー効率を向上させるように、実験的、理論的、経験的、又はシミュレーション等によって、個別具体的に定義可能である。
【0055】
このステップS103の判定の結果、自車両C1が現在、走行している直線路の長さが所定値を超えないと判定される場合(ステップS103:No)、更に、ECU60は、自車両C1が現在、走行している直線路の端部P1にカーブ路があるか否かを判定する(ステップS104)。ここに、本実施形態に係るカーブ路とは、典型的には、右方向又は左方向に曲がっている曲線形状の道路を意味し、この曲線形状の道路における曲線の曲率半径、曲がる方向、又は、道路幅等によって、定量的又は定性的に、個別具体的に定義可能である。
【0056】
このステップS104の判定の結果、自車両C1が現在、走行している直線路の終端部にカーブ路があると判定される場合(ステップS104:Yes)、ECU60は、自車両C1が曲折路を走行していると判定し、自車両C1が曲折路を走行しているか否かを示す曲折路走行判定フラグを「真」、即ち「1」とする(ステップS105)。ここに、本実施形態に係る曲折路とは、典型的には、直線路とこの直線路に連続するカーブ路との組を少なくとも一組、備えた道路を意味する。また、本実施形態に係る曲折路走行判定フラグとは、自車両が曲折路を走行中であるか否かを示すフラグ情報である。尚、本発明に係る曲がり道路の一例が、曲折路に含まれるカーブ路R1、R2によって構成されている。また、本発明に係る直線道路の一例が、直線路D1、D2によって構成されている。
【0057】
次に、ECU60の制御下で、アクチュエータ33によって、道路形状に応じた圧縮比の変更が実施される(ステップS106)。典型的には、アクチュエータ33によって、曲折路に含まれるカーブ路の曲率半径、(ii)カーブ路へ進入する前の直線路若しくはカーブ路を退出した後の直線路の長さ若しくは広さ、又は、(iii)曲折路の勾配に基づいて、圧縮比が変更される。
【0058】
他方、上述のステップS103の判定の結果、自車両C1が現在、走行している直線路の長さが所定値を超えると判定される場合(ステップS103:Yes)、或いは、上述のステップS104の判定の結果、自車両C1が現在、走行している直線路の終端部にカーブ路があると判定されない場合、言い換えると、自車両C1が現在、走行している直線路の終端部にカーブ路がなく直線路が続いていると判定される場合(ステップS104:No)、ECU60は、自車両C1が曲折路を走行していないと判定し、自車両C1が曲折路を走行しているか否かを示す曲折路走行判定フラグを「偽」、即ち「0」とする(ステップS107)。
【0059】
次に、ECU60の制御下で、アクチュエータ33による、道路形状に応じた圧縮比の変更を実施しないように、道路形状に応じた圧縮比の変更に関する各種の制御処理は停止される(ステップS108)。これにより、第1実施形態に係る圧縮比の変更を、直線路の長さに基づいて的確且つ正確に停止することができる。
【0060】
このように、路車間通信を介して取得された道路形状データD62の解析によって読み込まれた道路形状データに基づいて、自車両C1が曲折路を走行していると判定した場合、道路形状に応じた圧縮比の変更を実施する。典型的には、図5に示されるように、カーブ路R1の手前の直線路D1の距離が所定値より小さいと判定され、且つ、カーブ路R1とカーブ路R2との間の直線路D2の距離が所定値より小さいと判定される場合、ECU60の制御下で、道路形状に応じて圧縮比が設定され、この設定された圧縮比へ変更がアクチュエータ33によって実際に実行される。より典型的には、エンジンの負荷が高い運転状態及びエンジンの負荷が低い減速運転のうちいずれか一方からいずれか他方へと切り換える運転操作の頻度が、直線路を走行する場合と比較して多頻度である曲折路を自車両C1が走行している場合、道路形状に応じて圧縮比が設定される。
【0061】
これにより、例えば曲折路の道路形状等の道路形状に応じて、一の圧縮比及び他の圧縮比のうちいずれか一方の圧縮比に圧縮比を固定することが可能であり、圧縮比を変更するアクチュータ等の駆動手段の作動頻度を低減させることが可能である。この結果、車両の走行において、燃料の消費を低減させ、エネルギー効率を向上させることができる。
【0062】
仮に、道路形状に応じて圧縮比を設定することなく、加速状態又は減速状態等の運転状態に応じて、圧縮比を設定し、圧縮比の変更を実行した場合、上述した曲折路では、加速運転及び減速運転のうちいずれか一方からいずれか他方へと切り換える運転操作の頻度が多頻度であるため、加速状態において適切な一の圧縮比及び減速状態において適切な他の圧縮比のうちいずれか一方からいずれか他方へと変更する頻度も増大してしまう。このため、圧縮比を変更するアクチュータ等の駆動手段の作動頻度も増大し、ひいては、車両の走行において、燃費が悪化していまい、エネルギー効率の向上が抑制させてしまうという技術的な問題点が生じる。
【0063】
(第2実施形態)
(車両の制御装置の動作原理)
次に、図6乃至図11を参照して、第2実施形態に係る車両の制御装置の動作原理について説明する。ここに、図6は、第2実施形態に係る車両の制御装置の制御処理における動作の流れを示したフローチャートである。尚、この制御処理は、例えば数μ秒〜数十μ秒等の所定周期で繰り返し実行される。図7は、第2実施形態に係る曲折路の概念を平面的に示した模式図である。図8は、第2実施形態に係るカーブ路の曲率半径と圧縮比との定性的な関係を概念的に示した模式図(図8(a)及び図8(b))である。図9は、第2実施形態に係るカーブ路の曲率半径と圧縮比との定量的及び定性的な関係を示したグラフである。図10は、第2実施形態に係る直線路の長さと圧縮比との関係、又は、直線路の広さと圧縮比との関係を定量的及び定性的に示したグラフ(図10(a)及び図10(b))である。図11は、第2実施形態に係る路面勾配と圧縮比の補正量との定量的及び定性的な関係を示したグラフである。
【0064】
先ず、ECU60は、取得部3によって路車間通信を介して取得された道路形状データを解析し、自車両C1が走行している道路の形状に関する情報及び自車両C1が走行する予定である道路の形状に関する情報を読み込む(ステップS201)。
【0065】
次に、ECU60は、読み込まれた道路形状データの情報に基づいて、曲折路判定フラグが真であるか否かを判定する(ステップS202)。典型的には、ECU60の制御下で、上述した第1実施形態に係るステップS102乃至ステップS105、並びに、ステップS107が実施されることによって決定された曲折路判定フラグが真であるか否かが判定される。
【0066】
上述したステップS202の判定の結果、曲折路判定フラグが真であると判定される場合(ステップS202:Yes)、曲折路に含まれるカーブ路の曲率半径に基づいて、カーブ路における圧縮比及び当該カーブ路の手前の直線路における圧縮比を設定する(ステップS203)。典型的には、図7に示されるように、カーブ路R1の曲率半径に基づいて、カーブ路R1を走行する際の圧縮比及びカーブ路R1の手前にあり自車両C1の減速が必要な直線路D11を走行する際の圧縮比を設定する。
【0067】
より典型的には、ECU60は、図8(a)及び図8(b)、並びに、図9に示されるように、カーブ路R1の曲率半径が大きくなるに従って、カーブ路R1を走行する際の圧縮比を低くなるように設定し、カーブ路R1の曲率半径が小さくなるに従って、カーブ路R1を走行する際の圧縮比を高くなるように設定する。概ね同様にして、カーブ路R1の曲率半径が大きくなるに従って、カーブ路R1の手前にあり自車両C1の減速が必要な直線路D11を走行する際の圧縮比を低くなるように設定し、カーブ路R1の曲率半径が小さくなるに従って、この直線路D11を走行する際の圧縮比を高くなるように設定する。
【0068】
典型的には、カーブ路R1の曲率半径が第1基準値より大きくなるに従って、カーブ路R1を走行する際の圧縮比を第2基準値より低くなるように設定する。他方、カーブ路R1の曲率半径が第1基準値より小さくなるに従って、カーブ路R1を走行する際の圧縮比を第2基準値より高くなるように設定する。第1基準値とは、所望となる曲率半径の値を示す。第2基準値とは、所望となる圧縮比の値を示す。尚、第1基準値及び第2基準値は、圧縮比の変更の頻度を低減させ、圧縮比の変更に伴うエネルギー効率を向上させるように、実験的、理論的、経験的、又はシミュレーション等によって、個別具体的に定義可能である。
【0069】
このように、カーブ路R1の曲率半径が第1基準値より大きくなるに従って、カーブ路R1を走行する際の圧縮比を第2基準値より低くなるように設定するのは、次の理由のためである。即ち、カーブ路R1の曲率半径が第1基準値より大きくなるに従って、カーブ路R1を走行する際の走行速度が増加側に変化し、即ち、大きくなり、これに伴いエンジンの負荷が増加側に変化する、即ち、大きくなる。と共に、カーブ路R1の手前にある直線路D11において必要な、自車両C1の減速の度合いが減少側に変化する、即ち、小さくなるためである。
【0070】
このように、カーブ路R1の曲率半径が第1基準値より大きくなるに従って、カーブ路R1を走行する際の圧縮比を第2基準値より低くすることにより、エンジンの負荷が第3基準値より大きくなった走行状態において、ノッキングの発生を効果的に防止することが可能であるので、実践上、大変有益である。第3基準値とは、例えば一般道路を法定速度で走行する際のエンジンの負荷の値を示す。
【0071】
他方、カーブ路R1の曲率半径が第1基準値より小さくなるに従って、カーブ路R1を走行する際の圧縮比を第2基準値より高くなるように設定するのは、次の理由のためである。即ち、カーブ路R1の曲率半径が第1基準値より小さくなるに従って、カーブ路R1を走行する際の走行速度が減少側に変化し、即ち、小さくなり、これに伴いエンジンの負荷が減少側に変化する、即ち、小さくなる。と共に、カーブ路R1の手前にある直線路D11において必要な、自車両C1の減速の度合いが増加側に変化する、即ち、大きくなるためである。
【0072】
このように、カーブ路R1の曲率半径が第1基準値より小さくなるに従って、カーブ路R1を走行する際の圧縮比を第2基準値より高くすることにより、エンジンの負荷が第3基準値より小さくなった走行状態において、燃費を向上させることが可能であるので、実践上、大変有益である。
【0073】
尚、カーブ路R1の曲率半径の変化に従って、カーブ路R1の手前にある直線路D11を走行する際の圧縮比を変化させる作用効果は、上述したカーブ路R1を走行する際の圧縮比を圧縮比の変化の内容と概ね同様のため説明を省略する。
【0074】
尚、概ね同様にして、図7に示されるように、カーブ路R2の曲率半径に基づいて、カーブ路R2を走行する際の圧縮比及びカーブ路R2の手前にあり自車両C1の減速が必要な直線路D21を走行する際の圧縮比を設定する。
【0075】
次に、ECU60は、曲折路に含まれる直線路の長さ又は広さに基づいて、直線路における圧縮比を設定する(ステップS204)。典型的には、図7に示されるように、カーブ路R1に続く直線路D20の長さ又は広さに基づいて、直線路D20を走行する際の圧縮比を設定する。直線路D20の長さは、直線路D20が延びる方向に沿った長さを意味し、直線路D20の広さは、直線路D20の幅の広さを意味する。
【0076】
より典型的には、ECU60は、図10(a)に示されるように、直線路D20の長さが長くなるに従って、直線路D20を走行する際の圧縮比を低くなるように設定し、直線路D20の長さが短くなるに従って、直線路D20を走行する際の圧縮比を高くなるように設定する。他方、図10(b)に示されるように、直線路D20の幅の広くなるに従って、直線路D20を走行する際の圧縮比を低くなるように設定し、直線路D20の幅が狭くなるに従って、この直線路D20を走行する際の圧縮比を高くなるように設定する。
【0077】
このように、直線路D20の長さが長くなるに従って、直線路D20を走行する際の圧縮比を低くなるように設定することにより、エンジンの負荷が増加側に変化した走行状態において、ノッキングの発生を効果的に防止することが可能であるので、実践上、大変有益である。
【0078】
他方、このように、直線路D20の長さが短くなるに従って、直線路D20を走行する際の圧縮比を高くなるように設定することにより、エンジンの負荷が減少側に変化した走行状態において、燃費を向上させることが可能であるので、実践上、大変有益である。
【0079】
概ね同様にして、このように、直線路D20の幅の広くなるに従って、直線路D20を走行する際の圧縮比を低くなるように設定することにより、エンジンの負荷が増加側に変化した走行状態において、ノッキングの発生を効果的に防止することが可能であるので、実践上、大変有益である。
【0080】
他方、このように、直線路D20の幅が狭くなるに従って、この直線路D20を走行する際の圧縮比を高くなるように設定することにより、エンジンの負荷が減少側に変化した走行状態において、燃費を向上させることが可能であるので、実践上、大変有益である。
【0081】
次に、ECU60は、曲折路に含まれる直線路及びカーブ路の路面勾配に基づいて、設定された直線路における圧縮比及び設定されたカーブ路における圧縮比を夫々補正する(ステップS205)。典型的には、図7に示されるように、直線路D11、D20、D21及びカーブ路R1、R2の路面勾配に基づいて、直線路D11、D20、D21及びカーブ路R1、R2における圧縮比を夫々補正する。
【0082】
より典型的には、ECU60は、図11に示されるように、直線路D11、D20、D21の路面勾配がゼロ、即ち路面が平坦(又は水平)である場合、圧縮比の補正量をゼロにして、直線路D11、D20、D21における圧縮比を補正しない。他方、直線路D11、D20、D21の路面勾配が上り勾配であり、且つ、その上り勾配が大きくなるに従って、圧縮比の補正量をマイナス符号にし、且つ、その圧縮比の補正量の絶対値を大きくし、直線路D11、D20、D21の路面勾配が下り勾配であり、且つ、その下り勾配が大きくなるに従って、圧縮比の補正量をプラス符号にし、且つ、その圧縮比の補正量の絶対値を大きくする。言い換えると、上り勾配が大きくなるに従って、圧縮比は、より大幅に減少するように補正され、下り勾配が大きくなるに従って、圧縮比は、より大幅に増加するように補正される。
【0083】
このように、上り勾配が大きくなるに従って、圧縮比を、より大幅に減少する補正を行うことにより、エンジンの負荷が増加側に変化した走行状態において、ノッキングの発生を効果的に防止することが可能であるので、実践上、大変有益である。
【0084】
他方、このように、下り勾配が大きくなるに従って、圧縮比を、より大幅に増加する補正を行うことにより、エンジンの負荷が減少側に変化した走行状態において、燃費を向上させることが可能であるので、実践上、大変有益である。
【0085】
このように、自車両C1が走行する予定の道路の道路形状データを取得し、最適な圧縮比を事前に設定する。典型的には、カーブ路の曲率半径が小さく、カーブ路に続く直線路が短く、狭く、且つ下り勾配の曲折路を走行する予定である場合、この曲折路を走行する際には高圧縮比が予め設定される。
【0086】
次に、ECU60の制御下で、アクチュエータ33によって、設定及び補正された圧縮比の変更が実施される(ステップS206)。
【0087】
他方、上述のステップS202の判定の結果、曲折路判定フラグが真であると判定されない場合、言い換えると、曲折路判定フラグが偽であると判定される場合(ステップS202:No)、ECU60の制御下で、上述したステップS203乃至S205は省略される。
【0088】
(第3実施形態)
(車両の制御装置の動作原理)
次に、図12及び図13を参照して、第3実施形態に係る車両の制御装置の動作原理について説明する。ここに、図12は、第3実施形態に係る車両の制御装置の制御処理における動作の流れを示したフローチャートである。尚、第3実施形態において、上述した第2実施形態と概ね同様な処理には、同一のステップ番号を付し、それらの説明は適宜省略する。また、この制御処理は、例えば数μ秒〜数十μ秒等の所定周期で繰り返し実行される。図13は、第3実施形態に係る曲折路の概念を平面的に示した模式図である。
【0089】
図12に示されるように、上述したステップS201を経て、上述のステップS202の判定の結果、曲折路判定フラグが真であると判定される場合(ステップS202:Yes)、ECU60の制御下で、道路形状に基づいて、圧縮比が予め設定される(ステップS301)。典型的には、ECU60の制御下で、曲折路に含まれるカーブ路の曲率半径、(ii)カーブ路へ進入する前の直線路若しくはカーブ路を退出した後の直線路の長さ若しくは広さ、又は、(iii)曲折路の勾配に基づいて、圧縮比が予め設定される。
【0090】
次に、ECU60の制御下で、曲折路上、予め設定された圧縮比において、低圧縮比から高圧縮比へ変更する予定があるか否かが判定される(ステップS302)。典型的には、図13に示されるように、曲折路の一部である道路Rd1においては、例えば曲率半径等の道路形状に基づいて、低圧縮比が予め設定されている。この道路Rd1に続く道路Rd2においては、例えば曲率半径等の道路形状に基づいて、高圧縮比が予め設定されている。この道路Rd2に続く道路Rd3においては、例えば曲率半径等の道路形状に基づいて、低圧縮比が予め設定されている。この図13の場合、自車両C1が道路Rd2を走行する際には高圧縮比へ変更することが予定されている。
【0091】
上述したステップS302の判定の結果、低圧縮比から高圧縮比へ変更する予定があると判定される場合(ステップS302:Yes)、更に、ECU60の制御下で、予め高圧縮比に設定され、自車両C1によって高圧縮比で走行することが予定される走行期間が基準時間を下回るか否かが判定される(ステップS303)。ここに、第3実施形態に係る基準時間とは、典型的には、例えばアクチュータ等の駆動手段であるアクチュエータ33が圧縮比を変更する際の変更時間において、一の圧縮比から他の圧縮比、更に、この他の圧縮比から一の圧縮比へ変更する際に消費する電気エネルギーの度合いが所望のレベルである変更時間を意味する。この所望のレベルは、圧縮比の変更に伴うエネルギー効率を向上させるように、実験的、理論的、経験的、又はシミュレーション等によって、個別具体的に定義可能である。尚、この基準時間によって、本発明に係る所定時間の一例が構成されている。
【0092】
このステップS303の判定の結果、ECU60の制御下で、自車両C1によって高圧縮比で走行することが予定される走行期間が基準時間を下回ると判定される場合(ステップS303:Yes)、ECU60の制御下で、この走行期間において、高圧縮比に代えて、低圧縮比が予め設定されるように補正される(ステップS304)。
【0093】
次に、ECU60の制御下で、アクチュエータ33によって、補正された圧縮比の変更が実施される(ステップS305)。典型的には、図13に示されるように、曲折路の一部である道路Rd1に続く道路Rd2においては、例えば曲率半径等の道路形状に基づいて、高圧縮比が予め設定されている。しかしながら、第3実施形態では、特に、自車両C1によって高圧縮比で走行することが予定される道路Rd2の走行期間が基準時間を下回ると判定される場合、道路Rd2の圧縮比を、道路Rd2の手前の道路Rd1で予め設定されている圧縮比と同じ圧縮比であると共に、道路Rd2に続く道路Rd3で予め設定されている圧縮比と同じ圧縮比、即ち、低圧縮比に補正する。
【0094】
このように、低圧縮比と異なる高圧縮比で走行する走行期間が短時間であり、再び、低圧縮比へ変更することが予定されている場合、(i)低圧縮比から高圧縮比へ変更することによる利点、即ち、燃費の向上と、(ii)不利益な点、即ち、圧縮比変更の頻度が多くなることによるエネルギー効率の低下とを比較考量して、高圧縮比への変更を実施せずに、低圧縮比のままで、自車両を走行させる。
【0095】
これにより、例えば曲折路の道路形状等の道路形状に応じて、一の圧縮比及び他の圧縮比のうちいずれか一方の圧縮比に圧縮比を固定することが可能であり、圧縮比を変更するアクチュータ等の駆動手段の作動頻度を効果的に低減させることが可能である。この結果、車両の走行において、燃料の消費を低減させ、エネルギー効率を向上させることができる。
【0096】
本願発明者による研究によれば、予め高圧縮比に設定された走行期間において、この予め設定された高圧縮比を低圧縮比へ補正することは実施するが、予め低圧縮比に設定された走行期間において、この予め設定された低圧縮比を高圧縮比へ補正することは実施しないことが好ましい。即ち、エンジンの負荷が高い運転状態に対応して低圧縮比により走行している場合、低圧縮比による走行のままとする。これにより、高圧縮比に補正することによるノッキングの発生を効果的に防止し、エンジンの破損を確実に防止することが可能である。
【0097】
尚、本実施形態では、走行距離と走行期間(又は走行時間)とは、自車両の走行速度が決定されることにより、相互に変換可能であることを付記しておく。即ち、本実施形態に係る走行期間は、走行距離と走行速度との演算によって定義可能である。と共に、本実施形態に係る走行距離は、走行期間(又は走行時間)と走行速度との演算によって定義可能である。
【0098】
尚、第1乃至第3実施形態では、説明の便宜のため、低圧縮比と高圧縮比との2段階の圧縮比について説明したが、本発明はこの限りでなく、本発明は、3段階以上の複数の段階の圧縮比の変更に適用可能である。
【0099】
本発明は、上述した実施例に限られるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う車両の制御装置もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明は、例えば圧縮比を変更可能なエンジンを備えた車両の制御装置に利用可能である。
【符号の説明】
【0101】
10 エンジン
33 アクチュエータ
62 取得部
60 ECU
【特許請求の範囲】
【請求項1】
機関を備えた車両の制御装置であって、
前記機関の圧縮比を変更可能な圧縮比変更手段と、
前記車両が走行する走行道路の道路形状に基づいて、前記圧縮比を変更するように前記圧縮比変更手段を制御する制御手段と
を備えることを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
前記車両が走行する予定の予定道路の道路形状に基づいて、前記機関の第1圧縮比及び前記機関の第2圧縮比のうちいずれか一方の圧縮比で走行する第1走行期間、前記第1走行期間に続き且ついずれか他方の圧縮比で走行する第2走行期間、及び、前記第2走行期間に続き且つ前記いずれか一方の圧縮比で走行する第3走行期間を予測する予測手段を更に備え、
前記制御手段は、前記第2走行期間が所定時間より短い場合、前記第2走行期間において前記いずれか一方の圧縮比で前記車両を走行するように前記圧縮比変更手段を制御することを特徴とする請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記いずれか他方の圧縮比が前記いずれか一方の圧縮比より高い場合、前記第2走行期間において前記いずれか一方の圧縮比で前記車両が走行するように前記圧縮比変更手段を制御し、前記いずれか他方の圧縮比が前記いずれか一方の圧縮比より低い場合、前記第2走行期間において前記いずれか他方の圧縮比のままで前記車両が走行するように前記圧縮比変更手段を制御することを特徴とする請求項2に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記道路形状として、(i)前記車両が走行する曲がり道路の曲率半径、(ii)前記曲がり道路へ進入する前若しくは前記曲がり道路を退出した後の直線道路の長さ若しくは広さ、又は、(iii)前記走行道路の勾配に基づいて、前記圧縮比を変更するように前記圧縮比変更手段を制御することを特徴とする請求項1から3のうちいずれか一項に記載の車両の制御装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記曲がり道路の曲率半径が大きくなるに従って、前記圧縮比を低く変更し、前記曲がり道路の曲率半径が小さくなるに従って、前記圧縮比を高く変更するように前記圧縮比変更手段を制御することを特徴とする請求項4に記載の車両の制御装置。
【請求項6】
前記制御手段は、前記直線道路が長くなるに従って、前記圧縮比を低く変更し、前記直線道路が短くなるに従って、前記圧縮比を高く変更するように前記圧縮比変更手段を制御することを特徴とする請求項4又は5に記載の車両の制御装置。
【請求項7】
前記制御手段は、前記直線道路が広くなるに従って、前記圧縮比を低く変更し、前記直線道路が狭くなるに従って、前記圧縮比を高く変更するように前記圧縮比変更手段を制御することを特徴とする請求項4から6のうちいずれか一項に記載の車両の制御装置。
【請求項8】
前記制御手段は、前記走行道路の道路勾配が下る度合いが大きくなるに従って、前記圧縮比を高く変更し、前記走行道路の道路勾配が上る度合いが大きくなるに従って、前記圧縮比を低く変更するように前記圧縮比変更手段を制御することを特徴とする請求項4から7のうちいずれか一項に記載の車両の制御装置。
【請求項1】
機関を備えた車両の制御装置であって、
前記機関の圧縮比を変更可能な圧縮比変更手段と、
前記車両が走行する走行道路の道路形状に基づいて、前記圧縮比を変更するように前記圧縮比変更手段を制御する制御手段と
を備えることを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
前記車両が走行する予定の予定道路の道路形状に基づいて、前記機関の第1圧縮比及び前記機関の第2圧縮比のうちいずれか一方の圧縮比で走行する第1走行期間、前記第1走行期間に続き且ついずれか他方の圧縮比で走行する第2走行期間、及び、前記第2走行期間に続き且つ前記いずれか一方の圧縮比で走行する第3走行期間を予測する予測手段を更に備え、
前記制御手段は、前記第2走行期間が所定時間より短い場合、前記第2走行期間において前記いずれか一方の圧縮比で前記車両を走行するように前記圧縮比変更手段を制御することを特徴とする請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記いずれか他方の圧縮比が前記いずれか一方の圧縮比より高い場合、前記第2走行期間において前記いずれか一方の圧縮比で前記車両が走行するように前記圧縮比変更手段を制御し、前記いずれか他方の圧縮比が前記いずれか一方の圧縮比より低い場合、前記第2走行期間において前記いずれか他方の圧縮比のままで前記車両が走行するように前記圧縮比変更手段を制御することを特徴とする請求項2に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記道路形状として、(i)前記車両が走行する曲がり道路の曲率半径、(ii)前記曲がり道路へ進入する前若しくは前記曲がり道路を退出した後の直線道路の長さ若しくは広さ、又は、(iii)前記走行道路の勾配に基づいて、前記圧縮比を変更するように前記圧縮比変更手段を制御することを特徴とする請求項1から3のうちいずれか一項に記載の車両の制御装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記曲がり道路の曲率半径が大きくなるに従って、前記圧縮比を低く変更し、前記曲がり道路の曲率半径が小さくなるに従って、前記圧縮比を高く変更するように前記圧縮比変更手段を制御することを特徴とする請求項4に記載の車両の制御装置。
【請求項6】
前記制御手段は、前記直線道路が長くなるに従って、前記圧縮比を低く変更し、前記直線道路が短くなるに従って、前記圧縮比を高く変更するように前記圧縮比変更手段を制御することを特徴とする請求項4又は5に記載の車両の制御装置。
【請求項7】
前記制御手段は、前記直線道路が広くなるに従って、前記圧縮比を低く変更し、前記直線道路が狭くなるに従って、前記圧縮比を高く変更するように前記圧縮比変更手段を制御することを特徴とする請求項4から6のうちいずれか一項に記載の車両の制御装置。
【請求項8】
前記制御手段は、前記走行道路の道路勾配が下る度合いが大きくなるに従って、前記圧縮比を高く変更し、前記走行道路の道路勾配が上る度合いが大きくなるに従って、前記圧縮比を低く変更するように前記圧縮比変更手段を制御することを特徴とする請求項4から7のうちいずれか一項に記載の車両の制御装置。
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図1】
【図2】
【図3】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図1】
【図2】
【図3】
【公開番号】特開2011−256719(P2011−256719A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−129176(P2010−129176)
【出願日】平成22年6月4日(2010.6.4)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.VICS
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年6月4日(2010.6.4)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.VICS
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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