説明

車両の制御装置

【課題】車両の走行抵抗が所定の標準状態の車両の走行抵抗より大きい場合に、標準状態の車両と同等の加速性を得るためにアクセル開度が比較的大きくなってしまうことで、前出しロックアップオン制御が作動しなくなってしまうことを回避する。
【解決手段】車速Vがロックアップオン車速Vluon1未満であり、かつ、前出しロックアップオン許可車速Vluon2以上であり(ST3:YES)、ベルト式無段変速機の変速比γが所定値γ1以上である場合に(ST4:YES)、走行抵抗算出手段により算出された走行抵抗FRL1に余剰駆動力Fsを加えて得られる値を前出しロックアップオン制御の実施を許可する上限駆動力閾値Ftgtとして設定し(ST7)、実駆動力算出手段により算出された実駆動力Fsが上限駆動力閾値Ftgt以下の場合に(ST8:YES)、前出しロックアップオン制御を実施する(ST9)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロックアップクラッチ付きトルクコンバータを有するベルト式無段変速機を備えた車両の制御装置に関し、詳しくは前出しロックアップオン制御を改善するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
トルクコンバータには、車両の燃費向上を図るために、入力側と出力側とを油圧制御で機械的に連結するロックアップクラッチが付設されることが多い。ロックアップクラッチは、低車速であっても、極力、締結状態に保つことが燃費向上のために望ましいが、エンジンストールの危険性や車体振動の悪化などから、ロックアップオンからロックアップオフにする車速(以下「ロックアップオフ車速」ともいう。)およびロックアップオフからロックアップオンにする車速(以下「第1ロックアップオン車速」ともいう。)は、ある一定の値(例えば15km/h前後)に設定される。また、ロックアップクラッチの締結・解放動作のハンチングを防止するために、ロックアップオフ車速と第1ロックアップオン車速には差が設けられる。
【0003】
特許文献1に開示されているロックアップクラッチの制御装置では、第1ロックアップオン車速をロックアップオフ車速より高速側に設定し、さらに、車両の発進後の緩加速走行で一度だけロックアップオフ車速より低速側でロックアップクラッチの締結を実施するように、上記ロックアップオフ車速より低速側に第2のロックアップオン車速を設定している。以下、車両の発進後の緩加速走行で一度だけ第2のロックアップオン車速以上でロックアップクラッチの締結を実施する制御を「前出しロックアップオン制御」という。
【0004】
なお、特許文献2には、前出しロックアップオン制御に関するものではないが、走行抵抗に応じてロックアップオンのタイミングを変更し、運転性を高める有段自動変速機(AT)の制御装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−139004号公報
【特許文献2】特開平6−94116号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示されているような、前出しロックアップオン制御を行うロックアップ制御装置では、前出しロックアップオン制御を車両の発進後の緩加速走行に限り実施させるために、アクセル開度が所定の閾値以下であることを前出しロックアップオン制御の実施条件の1つとしている。
【0007】
ところが、車両の荷物の積載量が多い場合や乗車人数が多い場合のように車両の総重量が所定の標準状態(例えば、乗員2名、積載荷物なし)に比べて格段に大きい場合、あるいは、登坂路を車両が発進する場合のように、車両の走行抵抗が大きくなると、運転者は標準状態の車両を運転する場合や平坦路で車両を発進させる場合のような加速性を得るため、アクセルペダルを通常より多く踏み込んでしまう。そうなると、車両が緩加速発進しているにもかかわらずアクセル開度が上記所定の閾値を超えてしまい、前出しロックアップオン制御が実施されず、車両の燃費の向上が図れない。
【0008】
車両の走行抵抗が大きい場合においても、前出しロックアップオン制御を実施させるためには、上記アクセル開度の閾値を高く設定すればよいが、そうすると、標準状態の車両が急加速発進する際にも、前出しロックアップオン制御が作動してしまうおそれがある。この場合、ロックアップクラッチの係合ショックが大きくなることや、トルクコンバータによるトルク増幅作用が得られず車両の加速性能が低下することなどが懸念される。
【0009】
本発明は既述の問題に鑑みて創案されたものであり、車両の走行抵抗が所定の標準状態の車両の走行抵抗より大きい場合に、標準状態の車両と同等の加速性を得るためにアクセル開度が比較的大きくなってしまうことで、前出しロックアップオン制御が作動しなくなってしまうことを回避することを可能とする車両の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の課題を解決するための手段として、本発明の無段変速機の油圧制御装置は、以下のように構成されている。
【0011】
すなわち、本発明は、エンジンの動力がロックアップクラッチ付きのトルクコンバータを介して入力されるベルト式無段変速機を備える車両の制御装置であって、少なくともアクセル開度と車速とに基づいてベルト式無段変速機の目標入力回転数を設定し、アクセル開度の増大に伴って前記目標入力回転数を増大させ、前記ロックアップクラッチの締結制御を開始する第1のロックアップオン車速より低速側に前記ロックアップクラッチの解放制御を開始するロックアップオフ車速が設定され、さらに、前記ロックアップオフ車速より低速側に前出しロックアップオン制御によるロックアップクラッチの締結制御を開始する第2のロックアップオン車速が設定されるものを前提としている。そして、車両の走行抵抗を算出する走行抵抗算出手段と、車両の実駆動力を算出する実駆動力算出手段と、制御手段とを備え、該制御手段は、車速が所定範囲内にあり、且つ、前記ベルト式無段変速機の変速比が所定値以上である場合に、前記走行抵抗算出手段により算出された走行抵抗に所定の余剰駆動力を加えて得られる値を前出しロックアップオン制御の実施を許可する上限駆動力閾値として設定し、前記実駆動力算出手段により算出された実駆動力が前記上限駆動力閾値以下の場合に前出しロックアップオン制御を実施する、ことを特徴としている。
【0012】
かかる構成を備える車両の制御装置によれば、車両の走行抵抗に所定の余剰駆動力を加えて得られる値が前出しロックアップオン制御の実施を許可する上限駆動力閾値として設定され、車両の実駆動力が前記上限駆動力閾値以下の場合に前出しロックアップオン制御が実施されるので、車両の積載量や乗員が多くなり、アクセルが通常より多く踏み込まれてしまっても、そのことをもって前出しロックアップオン制御が作動しなくなってしまうことは回避される。
【発明の効果】
【0013】
本発明の車両の制御装置によれば、車両の走行抵抗が所定の標準状態の車両の走行抵抗より大きい場合において、標準状態の車両と同等の加速性を得るためにアクセル開度が比較的大きくなってしまうことに起因して、前出しロックアップオン制御が作動しなくなってしまうことがなくなり、燃費の向上が図られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態に係る制御装置を搭載した車両の概略構成を示す図である。
【図2】ロックアップクラッチを作動させるための油圧制御回路を示す図である。
【図3】ECUなどの制御系の構成を示すブロック図である。
【図4】車速をパラメータとして余剰駆動力を設定したマップの一例を示す図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る車両の制御装置が実行する処理動作を示すフローチャートである。
【図6】前出しロックアップオン制御に関する各種変数を表したタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。まず、本実施形態に係る車両の制御装置が実行する前出しロックアップオン制御の説明に先立ってこの制御装置を搭載した車両の概略構成について図1に基づき説明する。
【0016】
図1に示す車両は、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)型車両であって、エンジン1、トルクコンバータ2、前後進切換装置3、ベルト式無段変速機4、減速歯車装置5、差動歯車装置6、ECU(Electronic Control Unit)8、油圧制御回路20などを搭載している。
【0017】
エンジン1の出力軸であるクランクシャフト11は、トルクコンバータ2に連結されており、エンジン1の出力が、トルクコンバータ2から前後進切換装置3、ベルト式無段変速機4および減速歯車装置5を介して差動歯車装置6に伝達され、左右の駆動輪(図示せず。)へ分配される。
【0018】
<エンジン>
エンジン1は、たとえば、多気筒ガソリンエンジンであり、エンジン1に吸入される吸入空気量は、電子制御式のスロットルバルブ12により調整される。スロットルバルブ12の開度(スロットル開度)は、スロットル開度センサ102によって検出される。また、エンジン1の冷却水温は、水温センサ103によって検出される。
【0019】
スロットルバルブ12のスロットル開度は、ECU8によって駆動制御される。具体的には、エンジン回転数センサ101によって検出されるエンジン回転数Ne、および運転者のアクセルペダル踏み込み量(アクセル開度)Apなどのエンジン1の運転状態に応じた最適な吸入空気量(目標吸気量)が得られるように、スロットルバルブ12のスロットル開度を制御している。
【0020】
<トルクコンバータ>
トルクコンバータ2は、入力軸側のポンプインペラ21と、出力軸側のタービンランナ22と、トルク増幅機能を発現するステータ23と、ワンウェイクラッチ24とを備え、ポンプインペラ21とタービンランナ22との間で流体を介して動力伝達を行なう。
【0021】
トルクコンバータ2には、その入力側と出力側とを直結するロックアップクラッチ25が設けられている。ロックアップクラッチ25は、係合側油室26内の油圧と解放側油室27内の油圧との差圧(ロックアップ差圧)ΔP(ΔP=係合側油室26内の油圧−解放側油室27内の油圧)によってフロントカバー2aに摩擦係合される油圧式摩擦クラッチであって、上記差圧ΔPを制御することにより係合状態または解放状態とされる。すなわち、ロックアップ差圧ΔPを正値にすることによりロックアップクラッチ25が係合し、ロックアップ差圧ΔPをゼロ以下にすることでロックアップクラッチ25は解放される。ロックアップ差圧ΔPは、後述するロックアップ制御弁82等およびECU8によって制御される。
【0022】
トルクコンバータ2にはポンプインペラ21に連結して駆動される機械式のオイルポンプ7が設けられている。このオイルポンプ7から供給される油圧が油圧制御回路20の元圧となる。
【0023】
<前後進切換装置>
前後進切換装置3は、遊星歯車機構30、後進用クラッチC1および前進用ブレーキB1を備えている。遊星歯車機構30は、例えば、シングルピニオン方式のものであり、サンギヤ31がタービンシャフト28に連結され、リングギヤ32が入力軸40に連結されている。前進用ブレーキB1は、ピニオンギヤ33を自転自在に支持するキャリア34のサンギヤ31の軸線回りでの回転を停止するためのものである。後進用クラッチC1は、キャリア34とサンギヤ31とを回転一体に締結するためのものである。
【0024】
後進用クラッチC1を解放して前進用ブレーキB1を締結すると、タービンシャフト28の回転は、反転かつ減速されて入力軸40へ伝達される。一方、前進用ブレーキB1を解放して後進用クラッチC1を締結すると、遊星歯車機構30のキャリア34とサンギヤ31とが一体に回転して、タービンシャフト28と入力軸40とが直結される。また、後進用クラッチC1および前進用ブレーキB1がともに解放されると、前後進切換装置3は、動力を遮断してニュートラル状態を形成する。
【0025】
<ベルト式無段変速機>
ベルト式無段変速機4は、入力側のプライマリプーリ41、出力側のセカンダリプーリ42、およびこれらプライマリプーリ41とセカンダリプーリ42との間に巻き掛けられた金属製のベルト43などを備えている。
【0026】
プライマリプーリ41は、有効径が可変な可変プーリであって、入力軸40に固定された固定シーブ411と、入力軸40に軸方向のみの摺動が可能な状態で配設された可動シーブ412とで主に構成されている。セカンダリプーリ42も、プライマリプーリ41と同様に、有効径が可変な可変プーリであって、出力軸44に固定された固定シーブ421と、出力軸44に軸方向のみの摺動が可能な状態で配設された可動シーブ422とで主に構成されている。
【0027】
プライマリプーリ41の可動シーブ412側には、固定シーブ411と可動シーブ412との間のV溝幅を変更するための油圧アクチュエータ413が配設されている。この油圧アクチュエータ413へ供給される油圧を制御することにより、上記V溝幅が変更される。また、セカンダリプーリ42の可動シーブ422側にも同様に、固定シーブ421と可動シーブ422との間のV溝幅を変更するための油圧アクチュエータ423が配置されており、この油圧アクチュエータ423へ供給される油圧を制御することにより、上記V溝幅が変更される。
【0028】
<油圧制御回路>
次に、上記ロックアップクラッチ25付トルクコンバータ2へ供給する作動油を制御するための油圧制御回路20について、図2を参照して説明する。図2において、71はプライマリレギュレータ弁であり、SLSはライン圧PLの調圧制御用のリニアソレノイド弁である。リニアソレノイド弁SLSには常開型のリニアソレノイド弁が用いられ、このリニアソレノイド弁SLSの信号圧はECU8の指令に従って制御される。
【0029】
プライマリレギュレータ弁71は、オイルポンプ7から供給されるオイルを所定のライン圧PLに調圧するための弁である。プライマリレギュレータ弁71の信号ポート71aには、リニアソレノイド弁SLSから出力されたソレノイド圧Pslsが入力されている。プライマリレギュレータ弁71は、ライン圧PLをソレノイド圧Pslsに比例した油圧に調圧する。
【0030】
また、図2において、82はロックアップ制御弁であり、84はソレノイド弁であり、86はセカンダリレギュレータ弁である。
【0031】
ロックアップ制御弁82は、ロックアップクラッチ25の締結・解放動作を制御するための弁であり、プライマリレギュレータ弁71のライン圧PLの調圧状態に伴って発生する余剰オイルをロックアップクラッチ25の各作動油室26、27に供給することによりロックアップクラッチ25の締結・解放動作を制御する。ロックアップ制御弁82は、スプリング82a、スプール82b、信号ポート82c、入力ポート82d、第1出力ポート82g、第2出力ポート82h等を備えている。スプール82bは、スプリング82aにより一方向から付勢されており、スプリング82aと対向する位置に設けられた信号ポート82cにソレノイド弁84から出力された出力圧Psが入力されている。入力ポート82dには、セカンダリレギュレータ弁86から元圧Poが入力されている。第1出力ポート82gは、油路88を介してロックアップクラッチ25の解放側油室27と接続されている。また、第2出力ポート82hは、油路90を介してロックアップクラッチ25の締結側油室26と接続されている。
【0032】
ソレノイド弁84からロックアップ制御弁82の信号ポート82cに入力される出力圧Psが所定値未満の場合には、スプール82bがスプリング82aに押圧移動されて上位置となり(図2において左側の位置)、元圧Poが入力ポート82d、第1出力ポート82gを介してロックアップクラッチ25の解放側油室27に供給され、ロックアップクラッチ25が解放状態になる。一方、ソレノイド弁84から信号ポート82cに入力される出力圧Psが所定値以上に上昇すると、元圧Poが入力ポート82dおよび第2出力ポート82hを介してロックアップクラッチ25の締結側油室26に供給され、ロックアップクラッチ25が締結状態になる。
【0033】
なお、油圧制御回路20には、以上に説明した構成のほか、ベルト式無段変速機4に供給される油圧をコントロールするための図示しないソレノイド、制御弁なども組み込まれる。
【0034】
<ECU>
ECU8は、図3に示すように、CPU81、ROM83、RAM85およびバックアップRAM87などからなるマイクロコンピュータを中心として構成され、エンジン1を制御するエンジンECUと、油圧制御回路20を介してベルト式無段変速機4、ロックアップクラッチ25を制御するCVT−ECUとから構成されている。
【0035】
これらCPU81、ROM83、RAM85およびバックアップRAM87は、バス89を介して互いに接続されるとともに、入力インターフェース91および出力インターフェース93に接続されている。
【0036】
入力インターフェース91には、エンジン回転数センサ101、スロットル開度センサ102、水温センサ103、タービン回転数センサ104、プライマリプーリ回転数センサ105、セカンダリプーリ回転数センサ106、アクセル開度センサ107、シフトレバーのレバーポジション(操作位置)を検出するレバーポジションセンサ110、ブレーキペダルセンサ112などが接続されており、これらのセンサの出力信号がECU8に供給されるようになっている。
【0037】
出力インターフェース93には、スロットルモータ13、燃料噴射装置14、点火装置15および油圧制御回路20などが接続されている。ECU8は、上記各センサの出力信号などに基づいて、エンジン1の出力制御、ベルト式無段変速機4の変速比制御およびベルト挟圧制御、ロックアップクラッチ25の係合・解放制御、ならびに前後進切換装置3の後進用クラッチC1および前進用ブレーキB1の係合・解放制御などを実行する。
【0038】
ECU8は、エンジン1の出力制御およびベルト式無段変速機4の変速比制御において、アクセル開度および車速をパラメータとしたCVT変速線図(マップ)を参照し、これらのアクセル開度および車速に基づいてベルト式無段変速機4の目標入力回転数(タービン回転数)を設定し、実入力回転数を目標入力回転数に近づけるように変速比制御を実行する。なお、周知のとおり、CVT変速線図においては、目標入力回転数はアクセル開度の増大に伴って増大するように設定されている。
【0039】
また、ECU8には、ロックアップクラッチ25の係合・解放制御に関し、ロックアップクラッチ25の締結制御を開始する第1のロックアップオン車速と、この第1のロックアップオン車速より低速側に設定された、ロックアップクラッチの解放制御を開始するロックアップオフ車速と、上記ロックアップオフ車速より低速側に設定された第2のロックアップオン許可車速とが設定されている。ここで、第1のロックアップオン車速およびロックアップオフ車速は、本来のロックアップ制御に関する閾値であり、第2のロックアップオン車速は、前出しロックアップオン制御に関する閾値である。以下、第2のロックアップオン許可車速を「前出しロックアップオン許可車速」という。
【0040】
<前出しロックアップオン制御>
つぎに、ECU8が実行する前出しロックアップオン制御について説明する。本実施形態に係る前出しロックアップオン制御では、要するに、従来、アクセル開度Apが閾値Ap2(例えばアクセル開度10%)以下であることを制御開始条件の1つとしていた点を変更して、車両の実駆動力Frが前出しロックアップオン制御の実施を許可する上限駆動力閾値Ftgt(以下、「前出し可駆動力閾値Ftgt」という。)以下であることを制御開始条件の1つとしている。
【0041】
車両の実駆動力Frは、エンジントルクTe、クランクシャフト11とベルト式無段変速機4との間の減速比(前減速比)、ベルト式無段変速機4の減速比γ、ファイナルギヤ比、タイヤ動半径、効率ηを用いて、次式(1)で表される。
Fr=Te*(前減速比)*γ*(ファイナルギヤ比)*(タイヤ動半径)*効率η
・・・・(1)
【0042】
また、前出し可駆動力閾値Ftgtは、車両の実際の走行抵抗FRL1および後述する余剰駆動力Fsを用いて次式(2)で表される。
Ftgt=FRL1+Fs・・・・(2)
【0043】
車両の実際の走行抵抗FRL1は、基準車重状態(例えば、乗員が2名であり、積載貨物が無い場合)かつ基準走行状態(例えば、勾配ゼロの平坦路を走行している状態)での車両の走行抵抗FRL(以下「基準走行抵抗FRL」ともいう。)と、この走行抵抗FRLに対して実際に増加した走行抵抗増加分ΔFRLとを用いて次式(3)で表される。
FRL1=FRL+ΔFRL・・・(3)
【0044】
上記走行抵抗増加分ΔFRLは、基準車重状態での車両重量m、重力加速度g、勾配αを用いて次式(4)で表すことができる。ここで、車両重量mおよび重力加速度gは定数であり、勾配αのみが変数となる。つまり、走行抵抗増加分ΔFRLを勾配αの関数として表現している。また、走行抵抗増加分ΔFRLは、車両が勾配αの登坂路を走行する際の基準走行抵抗FRLに対する走行抵抗増加分と、基準車両総重量(例えば、乗員2名、積載荷物なし)に対する車両総重量の増加分により発生する走行抵抗増加分との和を表している。つまり、走行路の勾配のみならず車両総重量の増加による走行抵抗の増加分も勾配αの関数に読み替えて演算処理が行われる。
ΔFRL=m*g*sinα・・・(4)
【0045】
上記勾配αは、勾配係数GRADEおよび重力加速度gを用いて次式(5)により算出される。ここで、勾配係数GRADEは、予め作成されたマップを参照して、平坦路を走行する際のスロットル開度に対応する車両加速度と実際の車両加速度(車速Vの変化率)との差をパラメータとしたマップ(図示ぜず)を参照して算出される。
α=tan−1(GRADE/g)・・・・(5)
【0046】
上記余剰駆動力Fsは、駆動力Fbと基準走行抵抗FRLとを用いて次式(6)で表される。ここで、駆動力Fbは、基準車重状態かつ基準走行状態にある車両のアクセル開度Apが閾値Ap2にあり、車速Vが前出しロックアップオン許可車速Vluon2(例えば9km/h)になるときの駆動力とされる。閾値Ap2は、例えば従来の前出しロックアップオン制御の制御開始条件とされていたアクセル開度の閾値とすることが望ましい。
Fs=Fb−FRL・・・・・・・(6)
但し、本実施形態では、ECU8の演算処理の負担を軽減するために、余剰駆動力Fsは予め設定された図4に示すようなマップから読み出される。このマップに示すように余剰駆動力Fsは車速Vをパラメータとし、この車速Vとともに、高くなるように設定されている。
【0047】
以下、ECU8が実行する前出しロックアップオン制御が実行される際の制御手順について、図5に示すフローチャートを参照して説明する。図5のフローチャートに係る制御ルーチンは、ECU8により所定周期(たとえば、数msec〜数十msec)ごとに繰り返し実行される。なお、後述の前出しロックアップオン制御許可フラグは初期値としてOFFが設定されている。
【0048】
ステップST1において、ECU8は、エンジン回転数Ne、エンジントルクTe、車速V、ベルト式無段変速機4の変速比γ、タービン回転数Nt、勾配係数GRADE、アクセル開度Apを読み込む。
【0049】
エンジン回転数Neはエンジン回転数センサ101の出力信号に基づき検出される。エンジントルクTeは、予め作成されたマップを参照して、エンジン回転数Ne、燃料噴射量、エンジン吸気圧などのエンジン1の運転状態を示す指標から推定される。車速Vは、車速センサ114の出力信号に基づき検出される。変速比γは、プライマリプーリ回転数センサ105およびセカンダリプーリ回転数センサ106の出力信号から取得される2つの回転数に基づいて検出される。タービン回転数Ntは、タービン回転数センサ104の出力信号に基づき検出される。
【0050】
ステップST2において、ECU8は、ロックアップクラッチ25がロックアップオフ状態または前出しロックアップオン制御許可フラグがオン状態であるか否かを判定する。ロックアップクラッチ25がロックアップオフ状態または前出しロックアップオン制御許可フラグがオン状態であると判定した場合は、ステップST3に移る。一方、ロックアップオン状態であり且つ前出しロックアップオン制御許可フラグがオフ状態(例えば本来のロックアップ制御によるロックアップオン状態)であると判定した場合は、ステップST10に移る。なお、ロックアップクラッチ25のロックアップオン/オフ状態は、例えば、エンジン回転数Neとタービン回転数Ntとの差回転数に基づいて判定される。
【0051】
ステップST3において、ECU8は、車速Vが本来のロックアップ制御のロックアップオン車速Vluon1(第1のロックアップオン車速)未満であり、かつ、前出しロックアップオン許可車速Vluon2(第2のロックアップオン許可車速)以上であるか否かを判定する。車速Vがロックアップオン車速Vluon1以上である場合は本来のロックアップ制御によりロックアップクラッチ25がロックアップオンされる可能性があることから、否定判定をして後述のステップST10において前出しロックアップオン制御許可フラグをオフにして、当該車速での前出しロックアップオン制御を禁止する。なお、ロックアップオン車速Vluon1は、例えば15km/hに設定され、前出しロックアップオン許可車速Vluon2は、例えば9km/hに設定される。本ステップST3において肯定判定した場合はステップST4に移り、否定判定した場合は、ステップST10に移る。
【0052】
続いてECU8は、ステップST4において、無段変速機4の変速比γが所定値γ1以上であるか否かを判定し、ステップST5において、アクセル開度Apが所定値Ap1以下であるか否かを判定し、ステップST6において、勾配係数GRADEが所定値GRADE1以下であるか否かを判定する。上記ステップST4〜ST6の何れにおいても肯定判定がなされた場合は、ステップST7に移り、上記ステップST4〜ST6の何れかにおいて否定判定がなされた場合はステップST10に移る。上記ステップST4〜ST6の判定処理は、変速比γが極端に低い場合、アクセル開度Apが極端に大きい場合(例えばAp1=50%以上など)、勾配係数GRADEが極端に大きい場合などを異常状態とみなして、前出しロックアップオン制御の作動を禁止するためになされる。
【0053】
ステップST7において、ECU8は、車両の実走行抵抗FRL1を式(3)等に基づき算出するとともに、余剰駆動力Fsを現在の車速Vを参照して図4に示したマップをから読み出す。そして得られた実走行抵抗FRL1および余剰駆動力Fsから式(2)等に基づき前出し可駆動力閾値(上限駆動力閾値)Ftgtを算出する。即ち図4の余剰駆動力はFtgtとして用いられる閾値となる。また、ECU8は、式(1)等に基づき実駆動力Frを算出する。
【0054】
ステップST8において、ECU8は、実駆動力Frが前出し可駆動力閾値(上限駆動力閾値)Ftgt以下であるか否かを判定する。ここで、肯定判定した場合は、ステップST9に移り、前出しロックアップオン制御許可フラグがONに設定される(既に同フラグがONに設定されている場合はON状態が継続される。)。これにより、他の前出しロックアップオン制御開始条件(本実施形態で説明していない諸条件)が成立していることを前提として、前出しロックアップオン制御が実施され、ロックアップクラッチ25が締結される。
【0055】
一方、ステップST8においてECU8が否定判定をした場合は、ステップST10に移り、前出しロックアップオン制御許可フラグがOFFにされる(既に同フラグがOFFの場合はOFF状態が継続される。)。これにより、前出しロックアップオン制御の開始が禁止され、ロックアップクラッチ25は、本来のロックアップ制御によりロックアップオンされる場合を除き解放状態を継続する。
【0056】
図6は、既述の前出しロックアップオン制御が実行される際の前出しロックアップオン制御許可フラグ、勾配係数GRADE、変速比γ、車速V、前出し可駆動力閾値Ftgt、実駆動力Fr、駆動力Fb、車両の実際の走行抵抗FRL1、基準時走行抵抗FRL、エンジントルクTe、アクセル開度Apの変化例を横軸を時間軸として表したタイムチャートである。なお、図6中の白抜き矢印は、式(2)、式(6)に基づき説明したように、余剰駆動力Fsが既述の駆動力Fbと基準走行抵抗FRLとの差で表され、その余剰駆動力Fsを車両の実際の走行抵抗FRL1に加えたものが前出し可駆動力閾値Ftgtとなることを示している。
【0057】
このタイムチャートでは、太線で本発明の実施形態に係る車両の制御装置を搭載した車両(以下「車両A」という。)に関する値を示し、細線で従来の車両の制御装置を搭載した車両(以下「車両B」という。)に関する値を示している。また、このタイムチャートでは、車両Aおよび車両Bが停車状態から発進した後しばらく(時間t0〜t3)同様にアクセル開度Apを変化させた場合の例を示している。従来の車両Bの制御装置では、アクセル開度Apが所定値Ap2(例えば10%)以下であることが前出しロックアップオン制御の開始条件とされている。
【0058】
時間t0において、車両Aおよび車両Bの何れにおいても、アクセルが踏み込まれて(アクセル開度Apが増加し始めて)、エンジントルクTe、車速V、前出し可駆動力閾値Ftgt、実駆動力Fr、車両の実際の走行抵抗FRL1、基準時走行抵抗FRL等も増加し始めている。
【0059】
時間t1より、車両Bの車速Vが前出しロックアップオン許可車速Vluon2を超えているが、車両Bのアクセル開度APも所定値Ap2(例えば10%)を超えていることから、車両Bについては、前出しロックアップオン制御の開始条件が終始成立せず、この例では、前出しロックアップオン制御が作動していない。
【0060】
時間t2より、車両Aの車速Vがロックアップオン車速Vluon1未満かつ前出しロックアップオン許可車速Vluon2以上になり(ステップST3:YES)、実駆動力Frは前出し可駆動力閾値Ftgt以下のままである(ステップST8:YES)。ところで、車両Aのアクセル開度APが所定値Ap2(例えば10%)を超えているが、車両Aにあっては、アクセル開度Apが所定値Ap2(例えば10%)以下であることが前出しロックアップオン制御の開始条件とされていない。このため、前出しロックアップオン制御許可フラグがONに設定されて(ステップST9)、前出しロックアップオン制御が実施され、ロックアップクラッチ25がロックアップオンされる。
【0061】
時間t3以降、車両Aのアクセル開度Apが急上昇し、これに伴い、車両AのエンジントルクTe、車速V、前出し可駆動力閾値Ftgt、実駆動力Fr等も急上昇している。そして、時間t4以降において、実駆動力Frが前出し可駆動力閾値Ftgtを超え(ステップST8:NO)、前出しロックアップオン制御許可フラグがOFFに設定されている(ステップST10)。これにより、ロックアップクラッチ25はロックアップオフされる。但し、既に車速Vがロックアップオン車速Vluon1以上になっていれば、本来のロックアップ制御によりロックアップオンの状態が継続される。
【0062】
以上に説明したように、本発明の実施形態に係る車両の制御装置を搭載した車両Aによれば、アクセル開度Apが所定値Ap2(例えば10%)を超えていても、実駆動力Frが前出し可駆動力閾値Ftgt以下であれば、前出しロックアップオン制御が実行される。これにより、乗員数が多い場合、積載荷物が多い場合、あるいは、登坂路で発進する場合のように実際の走行抵抗FRL1が大きい状態で車両を緩加速発進する際に、アクセルが大きく踏み込まれても、前出しロックアップオン制御が実行され、燃費の向上が図られる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、例えば、ロックアップクラッチ付きトルクコンバータを有するベルト式無段変速機を備えた車両において、前出しロックアップオン制御を実行する制御装置に適用可能である。
【符号の説明】
【0064】
1 エンジン
2 トルクコンバータ
4 ベルト式無段変速機
8 ECU
25 ロックアップクラッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの動力がロックアップクラッチ付きのトルクコンバータを介して入力されるベルト式無段変速機を備える車両の制御装置であって、少なくともアクセル開度と車速とに基づいてベルト式無段変速機の目標入力回転数を設定し、アクセル開度の増大に伴って前記目標入力回転数を増大させ、前記ロックアップクラッチの締結制御を開始する第1のロックアップオン車速より低速側に前記ロックアップクラッチの解放制御を開始するロックアップオフ車速が設定され、さらに、前記ロックアップオフ車速より低速側に前出しロックアップオン制御によるロックアップクラッチの締結制御の開始を許可する第2のロックアップオン車速が設定される、車両の制御装置において、
車両の走行抵抗を算出する走行抵抗算出手段と、
車両の実駆動力を算出する実駆動力算出手段と、
車速が所定範囲内にあり、且つ、前記ベルト式無段変速機の変速比が所定値以上である場合に、前記走行抵抗算出手段により算出された走行抵抗に所定の余剰駆動力を加えて得られる値を前出しロックアップオン制御の実施を許可する上限駆動力閾値として設定し、前記実駆動力算出手段により算出された実駆動力が前記上限駆動力閾値以下の場合に前出しロックアップオン制御を実施する制御手段と、
を備えることを特徴とする車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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