説明

車両の緊急退避装置のための路端障害物検出装置

【課題】 路端の比較的小さな障害物や縁石を検出可能な緊急退避装置のための路端障害物検出装置を提供すること。
【解決手段】 本発明の車両の路端障害物検出装置は、車輪速度の変化量と舵角の変化量とに基づいて路端上の障害物を検出することを特徴とする。障害物の検出に於いては、例えば、舵角の急変と車輪速度の急変、変化量の急激な増減、変化方向の逆転など、が検知される。従って、本発明の路端障害物検出のために車載カメラ等の非接触的な検知手段は使用されない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両に於いて運転者の緊急時に車両を自動的に停止させる緊急退避装置に係り、より詳細には、緊急退避装置に於いて路端に車両を停止する際に路端に在る障害物を検出するための装置に係る。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両の運転支援技術の分野に於いて、車両の走行中に運転者の意識が低下していることを検出した際、或いは、運転者自らが身体の異常を感じるなどして停車を要求した際に車両を自動的に停止させる緊急退避装置が提案されている(特許文献1−3)。また、そのような緊急退避装置に於いて、自動的な停車制御が実行される場合、単にその場にて減速して停車するのではなく、他車の走行への影響や周辺状況等を考慮して安全に停車できるように停車位置を制御する技術も提案されている(特許文献3、PCT/JP2011/052289)。かかる停車位置の制御に於いては、車載カメラ、レーダーセンサ、ナビゲーションシステム、車車間通信等の非接触的な検知手段を用いて、路端や路肩の幅や障害物の位置を特定し、安全に停車できる位置が選択される。なお、走行中の車両を緊急に自動停止させる技術として、特許文献4には、操舵装置の故障を判定して自動停車する技術が提案されている。また、特許文献5、6には、路端を検出するために、操舵角や操舵トルクを参照する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平06−107031
【特許文献2】特開平07−76235
【特許文献3】特開2007−331652
【特許文献4】特開2003−63373
【特許文献5】特開平07−221051
【特許文献6】特開平07−25344
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
既に触れた如く、安全に停車すべく車載カメラ等の非接触的手段を用いて自動停車位置を特定するために路端や路肩の縁石などの障害物を検出する際、路端の比較的小さな障害物や縁石は、車載カメラ等の非接触的検知手段の搭載位置に依存して見逃されてしまうことがある。また、操舵角や操舵トルクを参照して、路端を検出する場合、運転者の操舵入力と縁石接触などによる外乱との識別が困難であったり、縁石接触前後の操舵トルクの変化に基づいて縁石接触を検出する場合に、縁石が大きく又は接触が相当に強いときには、精度よく縁石の位置を検出可能であるが、縁石が小さく検出できない場合が在り得る。そして、緊急退避装置に於いて路端を検出し損なうと、自動停車するまでに車両が路端を越えて路肩の奥まで進んでしまう場合もあり得る。
【0005】
かくして、本発明の一つの目的は、路端の比較的小さな障害物や縁石でも検出可能な緊急退避装置のための路端障害物検出装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、上記の課題は、車両の路端障害物検出装置であって、車輪速度の変化量と舵角の変化量とに基づいて路端上の障害物を検出することを特徴とする装置によって達成される。
【0007】
例えば、車両が緊急退避のために路端に沿った或る選択された位置に自動停止する場合に、車両が路端に在る縁石又は障害物に接触するときには、通常、車両の車輪が最初に縁石又は障害物に接触し、そうすると、車輪速度の変化量と舵角の変化量とに於いてかかる接触の影響が現れる。そこで、本発明の装置に於いては、かかる車輪速度の変化量と舵角の変化量とを参照して、路端上の障害物の検出が試みられる。かかる構成によれば、非接触的な障害物の検知手段では検出し損なうような比較的小さな又は“目立たない”縁石又は障害物であっても、検知可能となる。なお、上記の本発明の装置は、基本的には、緊急退避装置に組み込まれ、緊急退避のための自動停車処理に於ける路端検出のために利用することが意図されたものである。しかしながら、その他の目的の路端検出に利用されてもよい。
【0008】
上記の構成に於いて、通常、車両が縁石又は障害物に接触する際には、一方の前輪(特に、旋回内側前輪)が先ず縁石又は障害物に接触し、その前輪の車輪速度及び/又は舵角の変化量に、その接触に起因する急激な変化、例えば、変化量の急激な増減、変化方向の逆転など、が現れる。そこで、本発明の実施の形態に於いては、舵角に急変が現れ、且つ、車両のうちの一つの車輪の車輪速度に急変が現れたときに、その車輪の位置に縁石又は障害物が隣接していると判定するようになっていてよい。また、より精度よく縁石又は障害物の存在の有無を確定するために、一度、舵角の急変と車輪速度の急変とが検知された後に、舵角を同じ方向に繰り返し変化させて、同様の急変が検知されたときに、縁石又は障害物が存在すると判定するようになっていてよい。
【0009】
また、上記の構成に於いて、縁石又は障害物が検知されたときには、その検知された縁石又は障害物の存在位置に対応して停車位置を決定又は変更するようになっていてよい。
【発明の効果】
【0010】
かくして、上記の本発明によれば、路端の縁石等の障害物を、車載カメラ等の非接触的な検知手段とは別の手法にて検知することが可能となる。従って、車載カメラ等の非接触的な検知手段が検知できなかった路端の縁石等の障害物を検知し、これにより、より適切な緊急退避処理の達成が期待される。理解されるべきことは、本発明の装置の障害物の検出は、車輪速と舵角といった通常の多くの車両に装備されている車輪速センサ、舵角センサを用いて達成されるので、大幅な追加的な構成の変更及び費用の大幅な増大を要することなく、達成可能であることは理解されるべきである。
【0011】
本発明のその他の目的及び利点は、以下の本発明の好ましい実施形態の説明により明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本発明による車両の緊急退避装置とそれに関連する装置群から成るシステム構成をブロック図の形式にて表した図である。
【図2】図2(A)は、本発明による路端障害物検出の原理を説明する模式図であり、図2(B)は、車両が路端の障害物に接触した際に想定される舵角θと車輪速度Viの時間変化を表している。図2(C)は、路端障害物検出処理の一つの実施形態をフローチャートの形式で表している。
【図3】図3(A)、(B)は本発明による路端障害物検出処理の別の実施形態をフローチャートの形式で表している。図3(C)は、舵角を意図的に変化させて、路端障害物の存在を確認する際の舵角入力と舵角との時間変化を示している。
【符号の説明】
【0013】
100…車両
E…縁石
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に添付の図を参照しつつ、本発明を幾つかの好ましい実施形態について詳細に説明する。
【0015】
装置の構成
本発明による路端障害物検出装置の組み込まれる車両の緊急退避装置が搭載される自動車等の車両は、任意の自動車等の車両であってよい。車両には、通常の態様にて、各輪に制駆動力を発生する動力装置と、ステアリング装置と、各輪に制動力を発生する制動装置とが搭載される(図示せず)。動力装置、制動装置及び操舵装置は、それぞれ、運転者による操縦入力とは別に、走行制御装置による指令に従って、制駆動力又は操舵角を変更し制御する制御装置(駆動制御装置、制動制御装置、操舵制御装置)によって作動されるようになっていてよい。
【0016】
車両の緊急退避装置は、端的に述べれば、車両の運転中に運転者が急病又は体調不良により運転し続けることが困難となった際に、周囲を巻き込まないように、車両を路端や路線の端等に寄せて停止する処理(緊急退避処理)を、その必要性を検知することにより、或いは、運転者の要求により、自動的に実行する装置である。図1は、車両の緊急退避装置と関連する装置とのシステム構成をブロック図の形式にて示している。
【0017】
図1を参照して、車両の緊急退避装置10(判定処理ECU)は、車両の周囲の状況を検知するための環境情報認識部20(環境情報認識ECU)、車両の走行状態を検知するための車両情報認識部30(車両情報認識部ECU)及び体調悪化や意識低下の有無等の運転者の状態を監視するための運転者状態認識部40(運転者状態認識ECU)からの情報又はデータに基づいて、緊急退避制御処理の必要性の有無を判定する。そして、緊急退避装置10は、該処理が必要であると判定したときには、車両の減速及び安全に停車可能な位置への停車を実行するべく、車両の制駆動制御と操舵制御とを実行する走行制御部50(走行制御ECU)へ指示を送ると共に、運転者又は乗員、或いは、車両の周囲の他車に、緊急退避制御処理の必要性の存在又はその処理が実行されていることを認識させるための各種通知を実行する運転支援HMI(Human Interface)60の各部を作動する。図中の各ECUは、それぞれ、通常の形式の、双方向コモン・バスにより相互に連結されたCPU、ROM、RAM及び入出力ポート装置を有するマイクロコンピュータ及び駆動回路を含んでいてよい。緊急退避制御処理の必要性の有無の判定、緊急退避制御処理及び各種通知の具体的な作動は、上記の特許文献に記載されている態様又はその他の任意の態様にて実行されてよい。
【0018】
本発明の原理
基本的な構成として、上記の緊急退避装置10による緊急退避処理では、その処理の必要性が運転者状態認識部40からの情報に基づいて判定された後、車両は、減速されつつ、環境情報認識部20から得られる周囲の状況を考慮して選定又は決定された安全に停車可能な位置へ誘導される。安全に停車可能な位置は、典型的には、路端若しくは路肩となるので、通常、緊急退避処理では、ビデオカメラや周辺認識センサ(レーダーセンサ、ミリ波センサなど)等を用いて、路端若しくは路肩の位置を検出し、その路端若しくは路肩に沿って車両が停止するよう車両の走行が制御される。
【0019】
しかしながら、路端若しくは路肩の目印となる縁石等の障害物は、車両に比して高さの低い突起物であり、それらは、車両に於けるビデオカメラや周辺認識センサの搭載位置や構造によっては、検出されづらい場合がある。そして、縁石等の障害物に接触したことを検出できずに操舵制御が実行されず、減速制御をそのまま継続すると、路端から逸脱する方向へ車両が進んでしまうことになり得る。
【0020】
ところで、路端若しくは路肩の縁石等の障害物に車両の車輪が接触した場合には、車輪の舵角や車輪速度に於いて急激な変化が生ずる。そこで、本発明に於いては、ビデオカメラや周辺認識センサにより検出できなかった高さの低い突起物を検出するために、車輪の舵角や車輪速度の急激な変化を検出して、路端若しくは路肩の縁石等の障害物の存在及びその位置の検出が試みられる。
【0021】
図2(A)は、車両100が緊急退避処理によって減速されつつ路端に誘導される様子を模式的に示した図であり、図2(B)は、路端の縁石Eに車両100の左前輪が接触した際の舵角θ、各輪の車輪速V1〜4の時間変化の例を示した図である。これらの図を参照して、図示の如く、例えば、車両100が進行方向左側へ旋回し、縁石Eに左前輪が接触すると、その衝撃により、前輪の舵角θは、一時的に反対側(右側)に変化し、また、縁石Eに接触した左前輪の車輪速V1は、一時的に低下する一方、その他の車輪速V2〜4は、そのような急変は殆ど生じず、そのまま緩やかに低下することとなる(時刻tc参照)。従って、舵角と車両の旋回方向の前輪に於ける車輪速の急激な変化が生じるが、その他の車輪速は緩やかな低減をしているという状態を検出することによって、縁石Eの存在が確認できることとなる。
【0022】
装置の作動
図2(C)は、上記の如き原理を利用して緊急退避処理中に路端の縁石又は障害物を検出する処理をフローチャートの形式にて表している。なお、図示の処理は、緊急退避処理の開始後に所定のサイクル時間にて反復して実行されてよい。(緊急退避処理が実行されていないときには、図2(C)の処理は実行されない。)
【0023】
同図を参照して、路端の縁石又は障害物の検出処理では、まず、舵角θの急激な変化の検出が為される(ステップ10)。ここに於いては、舵角θに於ける鋭い変曲点(図2(B)中の点線円の個所)の存在を検出するべく、舵角θの時間微分θ’の単位時間(サイクル時間)当たりの変化量θt’−θt−1’が、
θt’−θt−1’<Δθth …(1)
を満たすか否かが判定される。ここで、Δθthは、所定の閾値である。式(1)が満たされていないときには、舵角θの急激な変化はなかったと判定され、処理サイクルが繰り返される。
【0024】
一方、式(1)が満たされているときには、舵角θの急激な変化が在ったと判定される。その場合には、旋回内側の前輪の車輪速V1の急激な変化の検出が為される(ステップ20)。ここに於いては、車輪速V1に於ける鋭い一時的な低減(図2(B)中の点線円の個所)の存在を検出するべく、車輪速V1が所定速度Vthより小さい、即ち、
V1<Vth …(2)
という条件と、車輪速V1の時間微分V1’の単位時間(サイクル時間)当たりの変化量V1t’−V1t−1’が、所定の閾値ΔV1’thより大きい、即ち、
V1t’−V1t−1’>ΔV1’th …(3)
という条件とが満されるか否かが判定される。式(2)又は(3)が満たされていないときには、車輪速V1の急激な変化はなかったと判定され、処理サイクルが繰り返される。
【0025】
一方、式(2)及び(3)が満たされているときには、車輪速V1の急激な変化が在ったと判定され、その他の車輪速V2〜V4が、図2(B)の如く緩やかに低下しているか否かが判定される(ステップ30)。具体的には、各輪の車輪速Viについて、
ΔVth<Vit−Vit−1<0 …(4)
が満たされているか否かが判定される。ΔVthは、負の所定閾値である。なお、ここで、減速度が所定値以上とならないことが判定されてもよい。V2〜4について、式(4)が満たされていないときには、ステップ10、20に於いて判定された急変が縁石との接触によるものではないとして判定される(必要に応じて別の制御が実行されてよいが、本発明に於いては、特に言及されない。)。一方、式(4)が満たされているときには、その場所に縁石が存在するものとし判定し、停止位置が、検出された縁石に沿った位置となるよう修正され、又、必要に応じて減速制御の修正が為されてよい(ステップ40)。その際、縁石への更なる衝突、或いは、縁石への乗り上げを防止すべく、舵角θを式(1)の判定後の角度に保持するようになっていてよい。
【0026】
かくして、図2(C)に例示の処理によれば、ビデオカメラや周辺認識センサにより検出できなかった高さの低い縁石の如き突起物が検出されることとなる。
【0027】
なお、最初の舵角の急激な変化が車輪と縁石などの突起物との接触によるものであることをより確定的にすべく、図2(C)の検出処理に更なる確認のための処理が追加されてよい。具体的には、例えば、図3(A)に示されている如く、ステップ30にて肯定判別が為された後(ステップ10〜30は、図2(C)と同様であってよい。)、即ち、最初に縁石が存在するとの判定が為された後、車輪の舵角を、旋回方向内側へ、緩やかに且つ車体に有意な横加速度を発生させない程度にて変化させて、ステップ10に於いて検出された舵角θの急激な変化が生ずるか否かを判定するようになっていてよい(ステップ32)。より詳細には、図3(B)を参照して、まず、操舵制御装置に対して、図3(C)に例示されている如く、舵角を旋回方向内側に変化させる指令が与えられる(ステップ100)。そして、ステップ10と同様の舵角θの鋭い変曲点が検出されるか否かが検査される(ステップ110)。かくして、舵角θの鋭い変曲点が検出されないとき(ステップ130−反応なし)には、縁石は存在していなかったものとして処理される。
【0028】
一方、舵角θの鋭い変曲点が検出されたときには、同様の処理を複数回(No)繰り返し、全てに於いて、同様の変化が見られたとき(ステップ130−反応あり)には、縁石の存在が確認され、これにより、ステップ40の処理が為される。
【0029】
かくして、上記の構成によれば、ビデオカメラや周辺認識センサにより検出できなかった高さの低い縁石の如き突起物が検出されることとなる。特に、本発明の構成に於いては、従前のビデオカメラや周辺認識センサによる検出方法で検出困難な突起物等の検出のために、ビデオカメラや周辺認識センサを改修したり、より高性能のGPSを利用するといった必要はなく、従来より車両に装備されている舵角センサや車輪速センサを用いるので、廉価に達成可能である。
【0030】
以上の説明は、本発明の実施の形態に関連してなされているが、当業者にとつて多くの修正及び変更が容易に可能であり、本発明は、上記に例示された実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の概念から逸脱することなく種々の装置に適用されることは明らかであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の路端障害物検出装置であって、車輪速度の変化量と舵角の変化量とに基づいて路端上の障害物を検出することを特徴とする装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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