説明

車両の衝突安全装置

【課題】車両前部空間内の限られた前後スペースに代え、余裕のある横方向スペースを利用して、大質量体が乗員保護空間内に進入することのない衝突安全装置。
【解決手段】車両前部が、衝突により圧潰されると、サイドメンバ2の箇所2aが車幅方向内方へ張り出すクランク状に座屈し、サイドメンバ2以外の車体メンバに取り付けたブラケット12およびこれに取り付けた強電発熱器11が後退変位する。これによりブラケット12の後端湾曲部17がクランク状座屈部2aに衝接し、ブラケット12が強電発熱器11と共に回転する。同時に強電発熱器11は、衝撃力や慣性力でブラケット12のアングル板12bの脆弱部を破断し、ブラケット12から受け止め部材8上に脱落する。ブラケット12および強電発熱器11の後退変位から回転変位への変位方向変換により、これらが後方の乗員保護空間内に進入するのを防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の前面衝突時において、車両の前部空間内に収容した大質量体が、車体の乗員保護空間内に進入するのを防止する車両の衝突安全装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両の前部空間内には様々な主要部品が収容されており、これら部品は、車両前部の前面衝突時における圧潰に伴って後退変位する。
しかし乗員の安全上、当該後退変位する主要部品が、その後方における車体の乗員保護空間内に進入しないようにするのが肝要である。
【0003】
特に、電気自動車の暖房に用いられるPTC(Positive Temperature Coefficient)ヒータは、高電圧の通電によって発熱させる強電発熱器であり、これが、鋳造による高強度な大質量体である上に、強電取り出し部を有していることもあって、乗員保護空間内に進入するのを確実に防止する必要がある。
【0004】
このような大質量体が衝突時に乗員保護空間内に進入するのを防止する対策としては従来、例えば特許文献1に記載のように、衝突時に大質量体の取り付けブラケットが破断されるようにし、この破断により衝突エネルギーの一部を費やすことで、大質量体に大きな運動エネルギーが伝達されるのを防止する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−104354号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記した特許文献1に記載の提案技術によっても、車両衝突時における大質量体の後退変位量は、車両前部の衝突時における圧潰に伴って大質量体が後退変位するときの変位量と、上記取り付けブラケットの破断後に大質量体が単独で後退変位するときの変位量との和値とあり、衝突時における大質量体の後退変位を大幅に少なくするということにはならない。
【0007】
ところで昨今の車両は、高性能化および高機能化により、車両前部空間であるエンジンルーム(内燃機関搭載車の場合)やモータルーム(電気自動車の場合)内に、特に前後方向のスペースを確保し難く、
上記のごとく衝突時における大質量体の後退変位を大幅に少なくするということにならない特許文献1所載の提案技術を用いる場合、上記した大質量体の後退変位を可能にするスペースを確保し得ないのが実情である。
【0008】
特に大質量体が前記の強電発熱器である場合、これを、強電部品であるが故に安全上の配慮から、容易に手の届かない車両前部空間内に配置する必要があり、上記した大質量体の後退変位を可能にするスペースを確保するのが益々難しくなるのが実情であった。
【0009】
本発明は、衝突時に大質量体をあくまで後退変位させようとする場合、上記の問題を避けて通ることができないとの観点から、発想の転換を図り、
大質量体を衝突時に横向きに偏向するよう回転させることで、この大質量体が乗員保護空間内に進入しないようにした車両の衝突安全装置を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的のため、本発明による車両の衝突安全装置は、以下のようにこれを構成する。
先ず、本発明の前提となる車両を説明するに、これは、車両前部空間内に大質量体を具え、ブラケットを介してこの大質量体を車体に取り付けたものである。
【0011】
本発明の衝突安全装置は、かかる車両において、車両前部の衝突時における圧潰に伴って後退変位する上記ブラケットの後端が車体部分に衝接したとき、該ブラケットの後端を車幅方向へ偏向させて、該ブラケットを前記大質量体と共に対応方向へ回転させるための偏向力発生部を上記ブラケットの車両前後方向後端に設けた構成に特徴づけられる。
【発明の効果】
【0012】
かかる本発明の衝突安全装置によれば、衝突当初は上記ブラケットが、車両前部の衝突時における圧潰に伴って後退変位する。
しかし、この後退変位でブラケットの後端が車体部分に衝接したとき、該ブラケットの後端に設けた偏向力発生部が、ブラケットの後端を車幅方向へ偏向させ、このブラケットを大質量体と共に対応方向へ回転させる。
【0013】
かようにブラケットが大質量体と共に回転することで、衝突エネルギーの一部が消費されるほか、ブラケットおよび大質量体の衝突時における変位が、当初は後退変位であるものの、その後は回転変位となり、ブラケットおよび大質量体が後方における乗員保護空間内に進入するのを防止して、衝突安全基準を満たすことができる。
【0014】
しかもブラケットを大質量体と共に回転させるようにして上記の作用効果を達成するため、車両前部空間内の前後方向スペースよりも余裕のある横方向スペースを利用することととなり、スペース確保のし易さから、実現を確実なものにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施例になる衝突安全装置を具えた電気自動車の車体前部に係わる骨格を、車両左側上方から見て示す斜視図である。
【図2】図1の実施例になる衝突安全装置を示す、強電発熱器の車体取り付け構造を示す分解斜視図である。
【図3】図2における強電発熱器および車体取り付けブラケットの予備組み立て体を示す斜視図である。
【図4】図2における強電発熱器および車体取り付けブラケットの予備組み立て体を示す側面図である。
【図5】図4における車体取り付けブラケットの斜視図である。
【図6】図4における強電発熱器受け止め部材の斜視図である。
【図7】図1,2の実施例になる衝突安全装置を、車両が前面衝突する前の状態で示すもので、 (a)は、その概略平面図、 (b)は、その概略側面図である。
【図8】図1,2の実施例になる衝突安全装置を、車両が前面衝突した後の前半期の状態で示すもので、 (a)は、その概略平面図、 (b)は、その概略側面図である。
【図9】図1,2の実施例になる衝突安全装置を、車両が前面衝突した後の後半期の状態で示すもので、 (a)は、その概略平面図、 (b)は、その概略側面図である。
【図10】図1,2の実施例になる衝突安全装置を下側から見て示す底面図で、 (a)は、車両が前面衝突する前の状態を示す底面図、 (b)は、車両が前面衝突し始めた衝突開始時における状態を示す底面図、 (c)は、車両が前面衝突した後の前半期の状態を示す底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を、図面に示す実施例に基づき詳細に説明する。
<構成>
図1は、本発明の一実施例になる衝突安全装置を具えた車両の車体前部に係わる骨格を、車両左側上方から見て示す斜視図である。
本実施例においては、車両を電気自動車とし、ダッシュロアパネル1と、左フロントサイドメンバ2と、反対側における図示せざる右フロントサイドメンバと、同じく図示しなかったフロントグリルとにより、車両前部空間であるモータルーム3を画成する。
【0017】
このモータルーム3内の下方領域において左右フロントサイドメンバ間を相互に結合する前後クロスメンバ4,5を設ける。
これらクロスメンバ4,5に取り付けてモータルーム3内に、図示せざる電動モータ、インバータ、モータコントローラ、DC-DCコンバータなどの主要部品を収納する。
【0018】
モータルーム3内には更に、電気自動車の暖房に用いられるPTCヒータなどの強電発熱器11を収納する。
この強電発熱器11は、高電圧の通電によって発熱させるものであり、鋳造による高強度な大質量体である上に、図2に明示するごとく車両前後方向後端に強電取り出し部11aを有していることもあって、
車両の前面衝突時に、ダッシュロアパネル1でモータルーム3と区画された乗員保護空間内に進入するのを確実に防止する必要がある。
【0019】
かかる衝突時安全対策のため強電発熱器11は、図1,2に示すごとく左フロントサイドメンバ2に沿うような位置で、ブラケット12を介し前後クロスメンバ4,5に取り付けるに際し、当該取り付けを特に以下のごとくにこれを行うものとする。
【0020】
図2は、当該取り付け部の分解斜視図で、図3,4はそれぞれ、強電発熱器11をブラケット12に予備組み立てし、この予備組み立て体を前後クロスメンバ4,5に取り付ける直前の状態で示す斜視図および側面図である。
【0021】
先ず、強電発熱器11およびブラケット12の予備組み立て体について説明する。
強電発熱器11の上面には、強電発熱体11をブラケット12に組み付けるためのピン13a,13b,13c,13dを立設する。
ブラケット12は、左フロントサイドメンバ2と強電発熱器11との間における隙間に延在する板状本体12aを具え、更に、ブラケット12を単独で示す図5からも明らかなように、該板状本体12aの上縁から強電発熱器11の上面に被さる延在するアングル板12bを有する。
【0022】
アングル板12bには、強電発熱器11の上面におけるピン13a,13b,13c,13dが貫通する透孔14a,14b,14c,14dを穿設する。
強電発熱器11の上面におけるピン13a,13b,13c,13dをそれぞれ、アングル板12bの対応する透孔14a,14b,14c,14dに貫通させ、ピン13a,13b,13c,13dの先端をそれぞれ、任意の手段で透孔14a,14b,14c,14dから抜け止めすることにより、強電発熱体11をブラケット12に図3,4のごとくに予備組み立てする。
【0023】
かかる強電発熱器11およびブラケット12の予備組み立て体は、以下の要領で前後クロスメンバ4,5に組み付ける。
ブラケット12のアングル板12bには、その車両前後方向における両縁にそれぞれ開口する開口長孔15a,15b,15c,15dを形成し、これら開口長孔15a,15b,15c,15dは、開口長孔15a,15bよりも開口長孔15c,15dの方を長くする。
クロスメンバ5上には、アングル板12bの開口長孔15a,15bにそれぞれ係合するピン5a,5bを立設し、クロスメンバ4上には、アングル板12bの開口長孔15c,15d にそれぞれ係合するピン4c,4dを立設する。
【0024】
強電発熱器11およびブラケット12の予備組み立て体を前後クロスメンバ4,5に組み付けるに際しては、
クロスメンバ5上のピン5a,5bにそれぞれ、アングル板12bの開口長孔15a,15bを係合させ、
クロスメンバ4上のピン4c,4dにそれぞれ、アングル板12bの開口長孔15c,15dを係合させる。
そして、ピン4c,4d,5a,5bの先端にそれぞれ、任意の抜け止めを施すことにより、アングル板12bを介してブラケット12を強電発熱器11と共に、従って強電発熱器11およびブラケット12の予備組み立て体を前後クロスメンバ4,5に組み付ける。
【0025】
アングル板12bには更に、ブラケット12に対する強電発熱器11の取り付け強度を低下させて脆弱部を設定するための切り欠き16a,16bを設定し、
切り欠き16aは、ピン5a,5bおよび開口長孔15a,15bによる強電発熱器11の取り付け部に対する強度低下用脆弱部として機能させ、
切り欠き16bは、ピン4c,4dおよび開口長孔15c,15dによる強電発熱器11の取り付け部に対する強度低下用脆弱部として機能させる。
【0026】
なお切り欠き16a,16bの強度はそれぞれ、車両前部(モータルーム3)の衝突時における圧潰に伴って発生する衝撃力や強電発熱器11の慣性力で破断され、強電発熱器11がブラケット12から脱落するような強度となす。
【0027】
ブラケット12の板状本体12aには、その車両前後方向後端に、強電発熱器11の強電取り出し部11aを包囲するよう、左フロントサイドメンバ2から遠ざかる方向へ湾曲する湾曲部17を設ける。
この湾曲部17は、車両前部(モータルーム3)の衝突時における圧潰に伴って後退変位するブラケット12の後端(湾曲部17)が、後で詳述するごとく車体部分に衝接したとき、該ブラケット12の後端(湾曲部17)を車幅方向内方へ偏向させ、ブラケット12を車体取り付け部の周りで、強電発熱器11と共に対応方向へ回転させるよう機能するもので、本発明における偏向力発生部を構成する。
【0028】
なお、衝突時にアングル板12bの切り欠き16a,16bの破断によりブラケット12から脱落した強電発熱器11は、これが強電部品であることとも相まって安全対策上も、地面上に落下することのないようにする必要がある。
このため、ブラケット12から脱落した強電発熱器11を受け止めるための強電発熱器受け止め部材(大質量体受け止め部材)18を図2〜4に示すように設ける。
【0029】
この強電発熱器受け止め部材(大質量体受け止め部材)18は、強電発熱器11を落下しないよう保持し続け得るよう、図6に示すごとく全体としてチャンネル状となし、ブラケット12(板状本体12a)に対し、以下のようにして取り付ける。
つまり図2に明示するごとく、ブラケット板状本体12a(湾曲部17を含む)の下縁に、車両前後方向へ配列して透孔19a,19b,19cを穿設する。
そして強電発熱器受け止め部材(大質量体受け止め部材)18には、上記の透孔19a,19b,19cにそれぞれ整列するよう配した透孔21a,21b,21cを設ける。
【0030】
強電発熱器受け止め部材(大質量体受け止め部材)18をブラケット12(板状本体12a)に取り付けるに際しては、
ブラケット板状本体12aの下縁における透孔19a,19b,19cと、強電発熱器受け止め部材(大質量体受け止め部材)18の透孔21a,21b,21cとを整列させ、この状態で各整列透孔にボルト22a,22b,22cを貫通させて緊締することで、強電発熱器受け止め部材(大質量体受け止め部材)18をブラケット12(板状本体12a)に取り付ける
【0031】
ところで強電発熱器受け止め部材(大質量体受け止め部材)18は、ブラケット12(湾曲部17を含む板状本体12a)との共働により、強電発熱器11を落下しないよう保持し続け得るよう、例えば図6に示すチャンネル状に形成するほかに、衝突時におけるブラケット12の変形を妨げず、これに追従変形するのがよい。
そのため強電発熱器受け止め部材(大質量体受け止め部材)18には、これがブラケット12の変形に容易に追従して変形し得るようにするための切り欠き23を設ける。
【0032】
<作用効果>
上記した実施例になる衝突安全装置の作用効果を、図7〜10の動作説明図に基づき以下に説明する。
図7(a),(b)は、車両が前面衝突する前の状態を示す概略平面図および概略側面図、図10(a)は、同じく車両が前面衝突する前の状態を示す底面図である。
また図10(b)は、車両が前面衝突し始めた衝突開始時における状態を示す底面図である。
更に図8(a),(b)は、車両が前面衝突した後の前半期の状態を示す概略平面図および概略側面図、図10(c)は、同じく車両が前面衝突した後の前半期の状態を示す底面図である。
更に図9(a),(b)は、衝突後半期の状態を示す概略平面図および概略側面図である。
【0033】
車両が前面衝突すると、図7(a),(b)および図10(a)に示す衝突前の状態において、これら図の右側から車両前部へ、図10(b)に矢印で示す方向へ衝突エネルギーが入力される。
このとき図10(b)に示すように、車両前部が衝突エネルギーにより圧潰され、これに伴いフロントサイドメンバ2が予定の座屈箇所2aにおいて、車両前後方向を横切る方向(図示例では、車幅方向内方)へ張り出すように座屈し、
併せて上記車両前部の圧潰に伴い、前後クロスメンバ4,5上のブラケット12およびこれに取り付けられている強電発熱器11が、図10(b)に示すごとく車両前後方向後方へ後退変位する。
【0034】
その後車両前部が更に大きく圧潰されると、図10(c)に示すようにフロントサイドメンバ2の座屈部2aが略クランク状に座屈されて、この座屈部2aが一層大きく車幅方向内方へ張り出し、同時にブラケット12および強電発熱器11が、図8(a),(b)および図10(c)に示すごとく更に大きく後退変位する。
【0035】
かかる座屈部2aの一層大きな車幅方向内方張り出しと、ブラケット12および強電発熱器11の更なる後退変位とで、図8(a)に示すように、また図10(c)のα領域に明示するごとく、ブラケット12(板状本体12a)の後端における湾曲部17がクランク状座屈部2aに衝接する。
【0036】
このとき湾曲部17は、クランク状座屈部2aとの衝接で生じたカム作用により、ブラケット12の後端に車幅方向内方への偏向力を付与し、ブラケット12を強電発熱器11と共に対応方向へ偏向させつつ回転させる。
同時に強電発熱器11は、この時における衝撃力や慣性力で、ブラケット12のアングル板12bに設定した脆弱な切り欠き16a,16bを破断して、図8(b)に示すごとくブラケット12から脱落する。
【0037】
ブラケット12から脱落した強電発熱器11は、図9(b)に示すごとく強電発熱器受け止め部材18によって受け止められ、強電発熱器受け止め部材18は、ブラケット12との共働により、脱落後の強電発熱器11を決して地面に落下することのないよう抱持し続ける。
【0038】
車両前部の更なる圧潰によりブラケット12が、強電発熱器受け止め部材18との共働により抱持した強電発熱器11と共に更に後退変位する時、ブラケット12は図9(a)に示すごとく、定位置の座屈部2aから引き続き車幅方向内方への偏向力を付与され、対応方向へ更に大きく回転され、遂には図示しなかったが横向きとなる。
【0039】
上記した作用により本実施例は、以下のごとくに衝突安全を実現し得ると共に優れた効果を奏し得る。
つまり、車両前部の衝突時における圧潰に伴ってブラケット12が後退変位する間、その後端における湾曲部17が、当該衝突時に生じたフロントサイドメンバ2のクランク状座屈部2aに衝接して、ブラケット12の後端を車幅方向内方へ偏向させ、このブラケット12を強電発熱器11と共に対応方向へ回転させるため、
かかるブラケット12および強電発熱器11の後退変位から回転変位への方向変換で衝突エネルギーの一部を消費し得ると共に、これらブラケット12および強電発熱器11が後方における乗員保護空間内に進入するのを防止して、衝突安全基準を満たすことができる。
【0040】
また湾曲部17が、強電発熱器11の強電取り出し部11aを包囲するようなものであることから、
上記の作用中に強電発熱器11の強電取り出し部11aが車体部分に接触するのを湾曲部17によって防止することができ、安全上有利である。
【0041】
更に、ブラケット12および強電発熱器11の後退変位から回転変位への方向変換時に、強電発熱器11が、この時における衝撃力や慣性力で、ブラケット12のアングル板12bに設定した脆弱な切り欠き16a,16bを破断して、ブラケット12から脱落するようにしたため、
この破断によってもエネルギーの一部を消費し得ることとなって、衝突安全を実現し得る。
【0042】
ちなみに、強電発熱器11がブラケット12から決して脱落することのないようにする場合、アングル板12bを含むブラケット12を相当に頑丈な構造にしなければならず、結果としてブラケット12の上記回転が生じ難くなり、上記作用効果の妨げとなる。
しかし本実施例においては、強電発熱器11が脆弱な切り欠き16a,16bを破断してブラケット12から脱落するようにしたため、ブラケット12を脆弱な構造にすることができ、結果としてブラケット12の変形が容易で上記の回転が生じ易くなり、上記した作用効果を確実なものにすることができる。
なお、本実施例のようにブラケット12を脆弱な構造にし得るということは、コスト的にも重量的にも有利になることを意味する。
【0043】
しかも本実施例においては、ブラケット12および強電発熱器11の回転変位により衝突エネルギーの一部を消費すると共に、これらブラケット12および強電発熱器11が後方の乗員保護空間内に進入するのを防止するため、
車両前部空間(モータルーム3)内の前後方向スペースよりも余裕のある横方向スペースを利用して、ブラケット12および強電発熱器11が乗員保護空間内に進入するのを防止することととなり、スペース確保のし易さから、上記した衝突安全を確実に実現することができる。
【0044】
なお、強電発熱器11が脆弱な切り欠き16a,16bを破断してブラケット12から脱落した後は、この強電発熱器11を受け止め部材18によって受け止め、
その後強電発熱器受け止め部材18が、ブラケット12との共働により、脱落後の強電発熱器11を地面に落下することのないよう抱持し続けるようにしたため、安全上大いに有利である。
【0045】
ところで、上記の目的を達成するには強電発熱器受け止め部材18をブラケット12に取り付けることとなり、強電発熱器受け止め部材18がブラケット12の変形を妨げるよう作用して、ブラケット12の前記した回転による衝突安全の実現に悪影響を及ぼすが、
強電発熱器受け止め部材18に、これがブラケット12の変形に容易に追従して変形し得るようにするための切り欠き23を設けたため、当該悪影響を最小限にして前記の作用効果を確実なものにすることができる。
【0046】
なお上記した実施例では、衝突時に後退変位するブラケット12の後端湾曲部17が、当該衝突時に生じたフロントサイドメンバ2の座屈部2aに衝接するようにしたため、
ブラケット12(板状本体12a)をフロントサイドメンバ2に沿って、その座屈部2aの前方に配置する必要があるという制約上の制約を受けるものの、ブラケット12の後端湾曲部17が衝接するための別部品が不要であるという利点がある。
この利点は、ブラケット12の後端湾曲部17が、フロントサイドメンバ2以外の車体構造部品や、その座屈部に衝接するようにした場合も享受し得る。
【0047】
<その他の実施例>
衝突時に後退変位するブラケット12の後端湾曲部17は必ずしも、衝突時に生じたフロントサイドメンバ2の座屈部2aに衝接させる必要はなく、任意の車体部分や追加部品に衝接させるようにしてもよい。
この場合、ブラケット12(板状本体12a)をフロントサイドメンバ2に沿って配置したり、座屈部2aの前方に配置する必要がなくなって、ブラケット12、従って強電発熱器11の配置に関する自由度が増すという利点がある。
【0048】
また実施例では、大質量体が強電発熱器11である場合について説明したが、衝突時に上院保護空間内に進入してもよい部品など無いことから、強電発熱器11以外の部品に対しても本発明の着想は適用可能なこと、勿論である。
【符号の説明】
【0049】
1 ダッシュロアパネル
2 左フロントサイドメンバ(車体)
3 モータルーム(車両前部空間)
4,5 前後クロスメンバ(車体)
11 強電発熱器(大質量体)
11a 強電取り出し部
12 ブラケット
12a 板状本体
12b アングル板
16a,16b 切り欠き(脆弱部)
17 湾曲部(偏向力発生部)
18 強電発熱器受け止め部材(大質量体受け止め部材)
23 切り欠き

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前部空間内に大質量体を具え、ブラケットを介してこの大質量体を車体に取り付けた車両において、
車両前部の衝突時における圧潰に伴って後退変位する前記ブラケットの後端が車体部分に衝接したとき、該ブラケットの後端を車幅方向へ偏向させて、該ブラケットを前記大質量体と共に対応方向へ回転させるための偏向力発生部を前記ブラケットの車両前後方向後端に設けたことを特徴とする車両の衝突安全装置。
【請求項2】
請求項1に記載された車両の衝突安全装置において、
前記偏向力発生部が湾曲部であることを特徴とする車両の衝突安全装置。
【請求項3】
前記大質量体が電気自動車の強電発熱器であり、且つ強電取り出し部を車両前後方向後端に有したものである、請求項2に記載された車両の衝突安全装置において、
前記湾曲部は、前記強電発熱器の強電取り出し部を包囲するよう前記ブラケットの後端に設けられたものであることを特徴とする車両の衝突安全装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載された車両の衝突安全装置において、
前記後退変位中のブラケットの後端における偏向力発生部が衝接する車体部分は、車両前部の衝突時における圧潰に伴って車両前後方向を横切る方向へ張り出すように座屈した車体の座屈部であることを特徴とする車両の衝突安全装置。
【請求項5】
前記車体が、左右フロントサイドメンバを具え、これら左右フロントサイドメンバ間をクロスメンバにより結合したものであり、前記大質量体器が、前記左右フロントサイドメンバの一方に沿うよう配置されると共に、前記ブラケットを介して前記クロスメンバに取り付けられたものである、請求項4に記載された車両の衝突安全装置において、
前記後退変位中のブラケットの後端における偏向力発生部が衝接する車体部分は、車両前部の衝突時における圧潰に伴って車両前後方向を横切る方向へ張り出すように座屈した前記一方のフロントサイドメンバの座屈部であることを特徴とする車両の衝突安全装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載された車両の衝突安全装置において、
前記ブラケットに、該ブラケットに対する前記大質量体の取り付け強度が他の部分よりも小さい脆弱部を設定し、該脆弱部の強度を、車両前部の衝突時における圧潰に伴って後退変位する前記ブラケットの後端が車体部分に衝接したときの衝撃で破断され、大質量体がブラケットから脱落するような強度としたことを特徴とする車両の衝突安全装置。
【請求項7】
請求項6に記載された車両の衝突安全装置において、
前記ブラケットの脆弱部における破断でブラケットから脱落した前記大質量体を受け止めるための大質量体受け止め部材を前記ブラケットに取り付けて設けたことを特徴とする車両の衝突安全装置。
【請求項8】
請求項7に記載された車両の衝突安全装置において、
前記大質量体受け止め部材に、該大質量体受け止め部材が前記ブラケットの変形に容易に追従して変形し得るようにするための切り欠きを設けたことを特徴とする車両の衝突安全装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−240763(P2011−240763A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−112960(P2010−112960)
【出願日】平成22年5月17日(2010.5.17)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】