説明

車両の速度制御装置

【課題】 車両の目標速度及び目標加速度に応じた制御をより適切に実行し、アクセルペダル操作に関わる違和感を無くすとともに、燃費(エネルギ効率)を向上させることができる車両の速度制御装置を提供する。
【解決手段】 アクセルペダル操作量APが第1の閾値AP1より大きくかつ第2の閾値AP2より小さい中間操作量範囲RMにあるときは、アクセルペダル操作量APに応じて目標速度VTGTが算出され、さらに目標速度VTGTに応じて目標加速度ATGTが算出される。実加速度ACTが目標加速度ATGTの近傍の範囲内に留まるように、アクセルペダル操作量APを修正して目標開度設定操作量APDRが算出され(S14)、目標開度設定操作量APDRに応じて目標開度THCMDが設定される(S15)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原動機(内燃機関及び/または電動機)により駆動される車両の速度制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、アクセルペダル操作量に応じて車両の目標速度及び目標加速度を設定するとともに車両の実速度を検出し、目標速度、目標加速度、及び検出速度に基づいて、内燃機関のスロットル弁開度を制御する吸入空気量制御装置が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第2632366号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に示された装置では、アクセルペダル操作量の「0」から最大値までの全範囲で、上記制御が行われるため、例えば駐車時、渋滞走行時、あるいは急加速時などのように、アクセルペダル操作量が比較的小さい運転状態、あるいは非常に大きな運転状態においては、アクセルペダル操作量と実際の車両挙動(実速度及び実加速度)との関係が通常のアクセルペダル操作感と異なり、運転者に違和感を与える場合があった。
【0005】
本発明はこの点に着目してなされたものであり、車両の目標速度及び目標加速度に応じた制御をより適切に実行し、アクセルペダル操作に関わる違和感を無くすとともに、燃費(エネルギ効率)を向上させることができる車両の速度制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため請求項1に記載の発明は、原動機(1)により駆動され、アクセルペダルを備える車両の走行速度を制御する、車両の速度制御装置において、前記アクセルペダルの操作量(AP)を検出するアクセルペダルセンサ(13)と、前記アクセルペダル操作量(AP)が第1の閾値(AP1)より大きく、かつ前記第1の閾値より大きい第2の閾値(AP2)より小さいときに、前記車両の目標速度(VTGT)を設定する目標速度設定手段と、前記目標速度(VTGT)に応じて前記車両の目標加速度(ATGT)を設定する目標加速度設定手段と、前記目標加速度(ATGT)に応じて前記原動機の出力を制御する制御手段とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
請求項1に記載の発明によれば、アクセルペダル操作量が第1の閾値より大きく、かつ第2の閾値より小さいときに、車両の目標速度が設定され、さらに目標速度に応じて車両の目標加速度が設定され、目標加速度に応じて原動機の出力が制御される。したがって、アクセルペダル操作量が第1の閾値から第2の閾値の間にあるときは、例えば良好な燃費(エネルギ効率)が得られる目標加速度となるように原動機出力を制御する一方、アクセルペダル操作量が第1の閾値以下である範囲、及び第2の閾値以上の範囲では、アクセルペダル操作量に応じて直接的に原動機出力を制御することができる。その結果、従来技術のように渋滞走行時あるいは急加速時などにおけるアクセルペダル操作に関わる違和感を無くすことができ、標準的なアクセルペダル操作量においては燃費(エネルギ効率)を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の一実施形態にかかる車両に搭載された内燃機関及びその制御装置の構成を示す図である。
【図2】機関出力制御の概要を説明するための図である。
【図3】車両加速度(ACC)と燃費(FE)との関係を示す図である。
【図4】スロットル弁開度制御処理のフローチャートである。
【図5】図4の処理で実行される目標加速度設定制御のフローチャートである。
【図6】図5の処理で参照されるテーブルを示す図である。
【図7】目標加速度設定制御を説明するためのタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
図1は本発明の一実施形態にかかる車両に搭載された内燃機関及びその制御装置の構成を示す図である。内燃機関(以下単に「エンジン」という)1の吸気管2の途中にはスロットル弁3が配されている。スロットル弁3には、スロットル弁3の開度THを検出するスロットル弁開度センサ4が設けられており、その検出信号が電子制御ユニット(以下「ECU」という)5に供給される。スロットル弁3には、スロットル弁3を駆動するアクチュエータ11が接続されており、アクチュエータ11は、ECU5によりその作動が制御される。
【0010】
燃料噴射弁6は吸気弁の少し上流側に各気筒毎に設けられており、各噴射弁は図示しない燃料ポンプに接続されていると共にECU5に電気的に接続されて当該ECU5からの信号により燃料噴射弁6の開弁時間及び開弁時期が制御される。
【0011】
ECU5には、エンジン1の回転数(回転速度)NEを検出するエンジン回転数センサ12、エンジン1により駆動される車両のアクセルペダルの踏み込み量(以下「アクセルペダル操作量」という)APを検出するアクセルペダルセンサ13、及び当該車両の車速(走行速度)VPを検出する車速センサ14が接続されており、これらのセンサの検出信号はECU5に供給される。ECU5には、図示しないエンジン冷却水温センサ、吸気温センサ、吸気圧センサなどのセンサも接続されている。
【0012】
当該車両はナビゲーション装置30を備えており、ナビゲーション装置30はECU5に接続されている。ナビゲーション装置30は、走行中の道路に関する情報から上限車速VHLMTを算出し、上限車速VHLMTを示す信号をECU5に供給する。
エンジン1の出力軸20は変速機を含む駆動力伝達機構を介して当該車両の駆動輪を駆動する。
【0013】
ECU5は、上述したセンサからの入力信号波形を整形し、電圧レベルを所定レベルに修正し、アナログ信号値をデジタル信号値に変換する等の機能を有する入力回路、中央演算処理回路(以下「CPU」という)、CPUで実行される各種演算プログラム及び演算結果等を記憶する記憶回路、アクチュエータ11、燃料噴射弁6などに駆動信号を供給する出力回路から構成される。
【0014】
ECU5は、アクセルペダル操作量AP及び車速VPなどに応じてスロットル弁3の目標開度THCMDを算出し、検出されるスロットル弁開度THが目標開度THCMDと一致するようにアクチュエータ11を駆動する。
【0015】
図2は、本実施形態におけるエンジン出力制御を説明するための図であり、アクセルペダル操作量APが第1の閾値AP1より大きくかつ第2の閾値AP2より小さい中間操作量範囲RMにおいては、後述する目標加速度設定制御によって目標開度THCMDを算出する一方、アクセルペダル操作量APが第1の閾値AP1以下である小操作量範囲RL、または第2の閾値AP2以上である大操作量範囲RHにおいては、アクセルペダル操作量APから直接的に目標開度THCMDを算出する。目標加速度設定制御においては、アクセルペダル操作量APに応じて当該車両の目標速度VTGTが算出され、さらに目標速度VTGTに応じて目標加速度ATGTが算出され、目標加速度ATGTに応じて目標開度THCMDが算出される。
【0016】
図3は、車両加速度ACCと、燃費FEとの関係を示す図であり、燃費FEは燃料1リットル当たりの走行距離で示されるものとする。
【0017】
図3の曲線L1は、車両の駆動力伝達機構の効率のみを考慮したときの関係を示し、車両加速度ACCが増加するほど、燃費FEが高くなる。駆動力伝達機構の効率は、エンジンがある程度駆動力を出力している状態で最も高くなるからである。
【0018】
また図3の曲線L2は、車両加速度ACCを得るために必要なエネルギの観点からみた関係を示しており、車両加速度ACCが増加するほど、燃費FEは低下する。
【0019】
曲線L1及びL2の関係をともに考慮すると、曲線L3の関係が得られ、車両加速度ACCが最適加速度ACCBであるとき、燃費FEが最大となる。したがって、車両加速時において、実加速度AACTがこの最適加速度ACCBと等しくなる、あるいは最適加速度ACCBの近傍の値となるように制御することにより、燃費FEの高い運転を実現することができる。そこで、本実施形態における目標加速度設定制御では、目標速度VTGTに応じて目標加速度ATGTを設定することにより、最適加速度ACCBに近い加速度で車両の加速が行われるように、目標開度THCMDを設定するようにしている。
【0020】
図4は、スロットル弁開度制御処理のフローチャートであり、この処理はECU5のCPUで所定時間毎に実行される。
ステップS11では、アクセルペダル操作量APが第1の閾値AP1(例えば最大操作量APMAXの5%に相当する値)より大きいか否かを判別し、その答が肯定(YES)であるときは、アクセルペダル操作量APが第2の閾値AP2(例えば最大操作量APMAXの30%に相当する値)より小さいか否かを判別する(ステップS12)。
【0021】
ステップS12の答が肯定(YES)であるとき、すなわち中間操作量範囲RMにおいては、図5に示す目標加速度設定制御を実行する(ステップS14)。目標加速度設定制御では、目標加速度ATGTに応じてアクセルペダル操作量APを修正することにより、目標開度設定操作量APDRが算出される。
【0022】
一方、ステップS11またはS12の答が否定(NO)であるとき、すなわち小操作量範囲RLまたは大操作量範囲RHにおいては、目標開度設定操作量APDRをアクセルペダル操作量APに設定し(ステップS13)、ステップS15に進む。
【0023】
ステップS15では、目標開度設定操作量APDRに応じて、目標開度THCMDを算出し、ステップS16では、検出されるスロットル弁開度THが目標開度THCMDと一致するようにアクチュエータ11が駆動される。目標開度THCMDは、目標開度設定操作量APDRにほぼ比例するように設定される。
【0024】
図5は、図4のステップS14で実行される目標加速度設定制御のフローチャートである。
ステップS21では、アクセルペダル操作量APに応じて図6(a)に示すVTGTテーブルを検索し、目標速度VTGTを算出する。VTGTテーブルは、第1の閾値AP1から第2の閾値AP2の間において、アクセルペダル操作量APが増加するほど目標速度VTGTが増加するように設定されている。図6(a)のVTGT1及びVTGT2は、所定目標速度であり、例えばそれぞれ40km/h及び80km/hに設定される。
【0025】
ステップS22では、目標速度VTGTに応じて図6(b)に示すATGTテーブルを検索し、目標加速度ATGTを算出する。ATGTテーブルは、高い燃費FEを確保する観点で設定されており、目標速度VTGTが高くなるほど、目標加速度ATGTが小さくなるように設定されている。
【0026】
ステップS23では、検出車速VPから算出される実加速度AACTと目標加速度ATGTとの差の絶対値が、判定閾値DATH(例えば目標加速度ATGTの10%に設定される)より大きいか否かを判別する。その答が否定(NO)、すなわち実加速度AACTが目標加速度ATGTの近傍にあるときは、ステップS27に進み、目標開度設定操作量APDRをアクセルペダル操作量APに設定する。
【0027】
ステップS23の答が肯定(YES)であって、実加速度AACTと目標加速度ATGTとの偏差が大きいときは、実加速度AACTが目標加速度ATGTより小さいか否かを判別する(ステップS24)。その答が肯定(YES)であるときは、目標開度設定操作量APDRを、アクセルペダル操作量APに所定値α(例えば最大操作量APMAXの0.1%に相当する値)を加算した値に設定する(ステップS25)。一方、ステップS24の答が否定(NO)であって、実加速度AACTが目標加速度ATGTを越えているときは、目標開度設定操作量APDRを、アクセルペダル操作量APから所定値αを減算した値に設定する(ステップS26)。
【0028】
図7は、図5の処理による目標加速度設定制御を説明するためのタイムチャートであり、車速VP、目標加速度ATGT、アクセルペダル操作量AP、及び目標開度設定操作量APDRの推移を示す。
【0029】
時刻t1の直前にアクセルペダルが踏み込まれると、時刻t1において目標速度VTGT及び目標加速度ATGTが設定される。目標開度設定操作量APDRは、この例ではアクセルペダル操作量APを減少方向に修正した値に設定される。時刻t2において車速VPが目標速度VTGTに達すると、アクセルペダル操作量APが同じ値に維持されていても、目標開度設定操作量APDRはより小さい値に修正され、車速VPが目標速度VTGTに維持される。
【0030】
図4及び図5の処理によれば、アクセルペダル操作量APが第1の閾値AP1より大きくかつ第2の閾値AP2より小さい中間操作量範囲RMにおいては、アクセルペダル操作量APに応じて目標速度VTGTが算出され、さらに目標速度VTGTに応じて目標加速度ATGTが算出される。そして、実加速度ACTが目標加速度ATGTの近傍の範囲内に留まるように、アクセルペダル操作量APが修正され、目標開度設定操作量APDRが算出される。したがって、目標開度設定操作量APDRに応じて目標開度THCMDを設定することにより、良好な燃費を確保することができる。
【0031】
また図4の処理により、アクセルペダル操作量APが小操作量範囲RLまたは大操作量範囲RHにあるときは、アクセルペダル操作量APが修正することなく、目標開度設定操作量APDRに設定されるので、渋滞走行時あるいは急加速時などにおけるアクセルペダル操作に関わる違和感を無くすことができる。
【0032】
本実施形態では、アクチュエータ11及びスロットル弁3が制御手段の一部を構成し、ECU5が目標速度設定手段、目標加速度設定手段、及び制御手段の一部を構成する。具体的には、図5のステップS21が目標速度設定手段に相当し、ステップS22が目標加速度設定手段に相当し、ステップS23〜27が制御手段に相当する。
【0033】
なお本発明は上述した実施形態に限るものではなく、種々の変形が可能である。例えば、図5の処理において、ステップS21で算出される目標速度VTGTが、ナビゲーション装置30から入力される上限車速VHLMTを越えるときは、目標速度VTGTを上限車速VHLMTに設定するようにしてもよい。
【0034】
また上述した実施形態では、原動機として内燃機関を使用する例を示したが、電動機(モータ)、あるいは内燃機関と電動機の組み合わせを使用してもよい。
【符号の説明】
【0035】
1 内燃機関(原動機)
3 スロットル弁(制御手段)
5 電子制御ユニット(目標速度設定手段、目標加速度設定手段、制御手段)
11 アクチュエータ(制御手段)
13 アクセルペダルセンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原動機により駆動され、アクセルペダルを備える車両の走行速度を制御する、車両の速度制御装置において、
前記アクセルペダルの操作量を検出するアクセルペダルセンサと、
前記アクセルペダル操作量が第1の閾値より大きく、かつ前記第1の閾値より大きい第2の閾値より小さいときに、前記車両の目標速度を設定する目標速度設定手段と、
前記目標速度に応じて前記車両の目標加速度を設定する目標加速度設定手段と、
前記目標加速度に応じて前記原動機の出力を制御する制御手段とを備えることを特徴とする車両の速度制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−231658(P2011−231658A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−101639(P2010−101639)
【出願日】平成22年4月27日(2010.4.27)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】