説明

車両シート用丸編地

【課題】車両シート用丸編地であって、丸編地の風合いや通気性が損なわれることなく、縫製時に編目の損傷が発生しにくい車両シート用丸編地を提供する。
【解決手段】融点が240℃以上のポリエステルからなるポリエステル繊維糸条と、融点が240℃未満の熱可塑性樹脂が少なくとも繊維表面に露出した熱接着性繊維糸条とを用いて車両シート用丸編地を編成した後、前記の熱接着性繊維糸条を加熱により融着処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両シート用丸編地であって、丸編地の風合いや通気性が損なわれることなく、縫製時に編目の損傷が発生しにくい車両シート用丸編地に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の車両シート用丸編地において、縫製の際、縫製条件が過酷であるため、針による穴を基点にして編目の脱落が発生するという問題(いわゆる「ラン」)があった。かかる編目損傷を防止する方法としては、丸編地表面に樹脂コーテイングを施すことが提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、かかる樹脂コーテイングにより丸編地の風合いが硬くなったり、通気性が損なわれるという問題があった。
【0003】
また、特許文献2には、丸編地を構成する糸に熱融着糸を使用し、該熱融着糸を加熱融着させて編目を固定することにより、縫製時に発生する「ラン」を防止することが開示されている。しかしながら、熱融着糸だけで丸編地を構成し、熱融着糸を加熱融着させると、丸編地の風合いが硬くなるという問題があった。
他方、車両シート用織物としては、糸切れおよび糸抜けを防止するために、熱融着糸を含む複合糸を織物に含ませ、該熱融着糸を融着処理することが知られている(例えば、特許文献3参照)。
【0004】
【特許文献1】特開平6−220750号公報
【特許文献2】特開平11−247054号公報
【特許文献3】特開2001−316953号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記の背景に鑑みなされたものであり、その目的は、車両シート用丸編地であって、丸編地の風合いや通気性が損なわれることなく、縫製時に編目の損傷が発生しにくい車両シート用丸編地を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、所定の融点を有するポリエステル繊維糸条と熱接着性繊維糸条とで車両シート用丸編地を構成し、熱接着性繊維糸条のみを融着処理することにより、丸編地の風合いや通気性が損なわれることなく、縫製時に編目の損傷が発生しにくい車両シート用丸編地が得られることを見出し、さらに鋭意検討を重ねることにより本発明に想到した。
【0007】
かくして、本発明によれば「車両シート用丸編地であって、融点が240℃以上のポリエステルからなるポリエステル繊維糸条と、融点が240℃未満の熱可塑性樹脂が少なくとも繊維表面に露出した熱接着性繊維糸条とで構成され、前記の熱接着性繊維糸条が加熱により融着処理されていることを特徴とする車両シート用丸編地。」が提供される。
【0008】
その際、前記の熱可塑性樹脂が、ポリアミド系樹脂、共重合ポリエステル、ポリプロピレン、およびポリエチレンからなる群より選択されるいずれか1種であることが好ましい。また、丸編地が2層構造を有し、該2層のうち1層にのみ前記の熱接着性繊維糸条が含まれることが好ましい。また、前記の熱接着性繊維糸条が、ポリエステル繊維糸条との引き揃え糸条として丸編地に含まれることが好ましい。さらに、前記の熱接着性繊維糸条とポリエステル繊維糸条との重量比が、前者:後者で1:99〜50:50の範囲内であることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、車両シート用丸編地であって、丸編地の風合いや通気性が損なわれることなく、縫製時に編目の損傷が発生しにくい車両シート用丸編地が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明の車両シート用丸編地は、融点が240℃以上のポリエステルからなるポリエステル繊維糸条と、融点が240℃未満の熱可塑性樹脂が少なくとも繊維表面に露出した熱接着性繊維糸条とで構成される。
【0011】
ここで、融点が240℃以上のポリエステルとしては、テレフタル酸を主たる酸成分とし、炭素数2〜6のアルキレングリコール、すなわちエチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコールからなる群より選ばれた少なくとも1種のグリコール、特に好ましくはエチレングリコールを主たるグリコール成分とするポリエステルが例示される。かかるポリエステルには、必要に応じて少量(通常30モル%以下)の共重合成分を有していてもよい。
【0012】
例えばポリエチレンテレフタレートの場合について説明すると、テレフタル酸とエチレングリコールとを直接エステル化反応させるか、テレフタル酸ジメチルのごときテレフタル酸の低級アルキルエステルとエチレングリコールとをエステル交換反応させるかまたはテレフタル酸とエチレンオキサイドとを反応させるかしてテレフタル酸のグリコールエステルおよび/またはその低重合体を生成させる第1段階の反応と、第1段階の反応生成物を減圧下加熱して所望の重合度になるまで重縮合反応させる第2段階の反応によって製造されたものでよい。また、再生ポリエステルであってもよい。かかる再生ポリエステルには、ペットボトルを原料とし、加熱して溶融また溶剤により溶解してペレット化し、再度、溶融紡糸することなどにより得られる再生ポリエステル、およびケミカルリサイクルにより得られる再生ポリエステルを含む。
【0013】
また、ポリエステル中には、必要に応じて、艶消し剤、微細孔形成剤、カチオン可染剤、着色防止剤、熱安定剤、難燃剤、蛍光増白剤、着色剤、帯電防止剤、吸湿剤、抗菌剤、マイナスイオン発生剤等を1種又は2種以上を添加してもよい。
【0014】
前記のポリエステル糸条において、総繊度が30〜1000dtexの範囲内であることが好ましい。また、単繊維繊度が0.1〜5.0dtex、フィラメント数が30〜300本の範囲内であることが好ましい。糸条の形態としては、短繊維でもよいし長繊維(マルチフィラメント)でもよいが、後者が好ましい。かかる長繊維には通常の仮撚捲縮加工が施されていてもよい。さらには、撚糸や空気加工が施されていてもよい。単糸の横断面形状も特に限定されるものではなく、通常の丸型だけでなく、扁平、くびれ付き扁平、三角、Y型、T型、U型などの異型であってもよい。
【0015】
一方、熱接着性繊維糸条としては、融点が240℃未満の熱可塑性樹脂が少なくとも繊維表面に露出した繊維であれば特に限定されないが、ポリアミド系樹脂(例えば、富士紡績(株)製ジョイナー(商品名))、共重合ポリエステル、ポリプロピレン、およびポリエチレンなどが好適に例示される。
【0016】
かかる熱接着性繊維糸条は、融点が240℃未満の熱可塑性樹脂単独からなる繊維であってもよいし、融点が240℃未満の熱可塑性樹脂が鞘部に配され、一方芯部に前記のポリエステルが配された芯鞘型複合糸や、融点が240℃未満の熱可塑性樹脂と前記のポリエステルとのサイドバイサイド方複合糸であってもよい。
【0017】
かかる熱接着性繊維糸条は、加熱により融着処理されて使用されるので、総繊度は前記のポリエステル繊維糸条の総繊度より小さいことが好ましい。熱接着性繊維糸条の総繊度が前記のポリエステル繊維糸条の総繊度以上であると、車両シート用丸編地の風合いが硬くなるおそれがある。熱接着性繊維糸条の総繊度としては、30〜300dtexの範囲内であることが好ましい。また、単繊維繊度が1〜30dtex、フィラメント数が1〜30本の範囲内であることが好ましい。糸条の形態としては、短繊維でもよいし長繊維(マルチフィラメント)でもよいが、後者が好ましい。さらには、撚糸や空気加工が施されていてもよい。単糸の横断面形状も特に限定されるものではなく、通常の丸型だけでなく、扁平、くびれ付き扁平、三角、Y型、T型、U型などの異型であってもよい。
【0018】
本発明の車両シート用丸編地において、前記の熱接着性繊維糸条が加熱により融着処理されていることが肝要である。熱接着性繊維糸条が融着処理されていることにより、縫製の際、針による穴を基点にして編目の脱落が発生するという問題が発生しにくくなる。
【0019】
本発明の車両シート用丸編地において、編地の層数は特に限定されず単層でもよいし、2層以上の多層であってもよい。特に、丸編地がかの子組織などの2層構造を有し、該2層のうち1層にのみ熱接着性繊維糸条が含まれると、丸編地を車両シートとして使用する際、熱接着性繊維糸条が含まれていない層を乗用者側表面に配することにより、丸編地の表面タッチが損なわれず好ましい。
また、前記の熱接着性繊維糸条が、ポリエステル繊維糸条との引き揃え糸条として丸編地に含まれていると、丸編地の引裂き強度が低下せず好ましい。
【0020】
前記の熱接着性繊維糸条とポリエステル繊維糸条との重量比として、前者:後者で1:99〜50:50の範囲内であることが好ましい。熱接着性繊維糸条の重量比が該範囲よりも小さいと、縫製時に編目の損傷が発生しやすくなるおそれがある。逆に、熱接着性繊維糸条の重量比が該範囲よりも大きいと、熱融着した熱接着性繊維糸条により丸編地の風合いが硬くなるおそれがある。
【0021】
本発明の丸編地は、下記の製造方法により製造することができる。
まず、通常の丸編機を使用し、融点が240℃以上のポリエステルからなるポリエステル繊維糸条と、融点が240℃未満の熱可塑性樹脂が少なくとも繊維表面に露出した熱接着性繊維糸条とを用いて丸編地を製編する。次いで、必要に応じて染色した後、前記熱可塑性樹脂の融点以上、かつ前記ポリエステルの融点以下の温度で乾熱処理(ファイナルセット)し、熱接着性繊維糸条を融着処理することにより、本発明の丸編地が得られる。その際、乾熱処理の時間としては1〜5分程度であることが好ましい。
【0022】
製編された丸編地には、通常のアルカリ減量加工、吸水加工、撥水加工、紫外線遮蔽あるいは制電剤、抗菌剤、消臭剤、防虫剤、蓄光剤、再帰反射剤、マイナスイオン発生剤等の機能を付与する各種加工を付加適用してもよい。
かくして得られた丸編地は、前記のポリエステル繊維糸条と熱接着性繊維糸条とで構成され、かつ熱接着性繊維糸条が加熱により融着処理されているので、縫製時に編目の損傷が発生しにくい。また、丸編地表面に樹脂コーテイング(バッキング)を施す必要がないため、丸編地の風合いや通気性が損なわれるがない。
【実施例】
【0023】
以下、実施例をあげて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。なお、実施例中の各物性は下記の方法により測定したものである。
次に本発明の実施例及び比較例を詳述するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0024】
(1)耐縫目疲労性
5cm×60cmの試料を2枚重ねて、短辺側の端からほぼ中央のところを本縫い直線縫いで下記の条件にてミシンがけを行い、試験片の縫い合わせ部分を手で広げ、地糸切れの数を数えた。地糸切れの発生数が縫い目長50cm当り2個以内のものを『耐縫目疲労性が良好』、2個以上のものを『耐縫目疲労性が不良』と判定した。
(装置及び材料)
ミシン:本縫い用ミシン
ミシン針:#23ボールポイント
ミシン糸:ポリエステル#8
(試験片)
5cm×60cm
(縫製条件)
縫い目ピッチ:5±0.5mm
回転速度:2000rpm
【0025】
[実施例1]
14G、30インチの丸編機(福原精機(株)製JIL7)を使用し、通常のポリエチレンテレフタレート仮撚捲縮糸(帝人ファイバー(株)製、総繊度167dtex/30fil、融点256℃)と、通常のポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント(帝人ファイバー(株)製、総繊度167dtex/30fil、融点256℃)と、熱接着性繊維糸条としてポリアミド系マルチフィラメント(富士紡績(株)製ジョイナー(商品名)、総繊度70dtex/5fil、融点145℃)とを用いて、図1の編組織図に従い、かの子組織の丸編地(熱接着性繊維糸条とポリエステル繊維糸条との重量比が、前者:後者で5:95)を編成した。その際、給糸順は下記のとおりとした。
1:A:ポリエチレンテレフタレート仮撚捲縮糸
2:B:ポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント糸
3:C:ポリエチレンテレフタレート仮撚捲縮糸とポリアミド系マルチフィラメントとの引き揃え
4:A:ポリエチレンテレフタレート仮撚捲縮糸
5:A:ポリエチレンテレフタレート仮撚捲縮糸
6:C:ポリエチレンテレフタレート仮撚捲縮糸とポリアミド系マルチフィラメントとの引き揃え
7:A:ポリエチレンテレフタレート仮撚捲縮糸
8:B:ポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント糸
9:C:ポリエチレンテレフタレート仮撚捲縮糸とポリアミド系マルチフィラメントとの引き揃え
10:A:ポリエチレンテレフタレート仮撚捲縮糸
11:A:ポリエチレンテレフタレート仮撚捲縮糸
12:C:ポリエチレンテレフタレート仮撚捲縮糸とポリアミド系マルチフィラメントとの引き揃え
【0026】
次いで、該丸編地を130℃、30分の高圧染色処理し、最終セットとして180℃、2分の乾熱セットを行い、ポリアミド系マルチフィラメント(熱接着性繊維糸条)を熱融着処理した。
かくして得られた丸編地において、耐縫目疲労性が良好であった。また、バッキングしていないので、丸編地の風合いや通気性が損なわれることがなかった。
【0027】
[比較例1]
実施例1において、ポリアミド系マルチフィラメントのかわりに通常のポリエチレンテレフタレート仮撚捲縮糸(帝人ファイバー(株)製、総繊度84dtex/36fil、融点256℃)を用いること以外は実施例1と同様にした。
得られた丸編地において、耐縫目疲労性が不良であった
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明によれば、車両シート用丸編地であって、丸編地の風合いや通気性が損なわれることなく、縫製時に編目の損傷が発生しにくい車両シート用丸編地が提供され、その工業的価値は極めて大である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の丸編地において、採用することのできるかの子組織の編組織を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両シート用丸編地であって、融点が240℃以上のポリエステルからなるポリエステル繊維糸条と、融点が240℃未満の熱可塑性樹脂が少なくとも繊維表面に露出した熱接着性繊維糸条とで構成され、前記の熱接着性繊維糸条が加熱により融着処理されていることを特徴とする車両シート用丸編地。
【請求項2】
前記の熱可塑性樹脂が、ポリアミド系樹脂、共重合ポリエステル、ポリプロピレン、およびポリエチレンからなる群より選択されるいずれか1種である、請求項1に記載の車両シート用丸編地。
【請求項3】
丸編地が2層構造を有し、該2層のうち1層にのみ前記の熱接着性繊維糸条が含まれる、請求項1または請求項2に記載の車両シート用丸編地。
【請求項4】
前記の熱接着性繊維糸条が、ポリエステル繊維糸条との引き揃え糸条として丸編地に含まれる、請求項1〜3のいずれかに記載の車両シート用丸編地。
【請求項5】
前記の熱接着性繊維糸条とポリエステル繊維糸条との重量比が、前者:後者で1:99〜50:50の範囲内である、請求項1〜4のいずれかに記載の車両シート用丸編地。

【図1】
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【公開番号】特開2007−63680(P2007−63680A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−247359(P2005−247359)
【出願日】平成17年8月29日(2005.8.29)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【出願人】(000215899)帝人加工糸株式会社 (5)
【Fターム(参考)】