説明

車両ホイールハウス周りの構造

【課題】ホイールハウス周りの空気流を良好に整流することができる車両ホイールハウス周りの構造を得る。
【解決手段】車両ホイールハウス周りの構造10は、前輪Wfに対する車両前後方向の前側での間隔D1が後側での間隔D2よりも大となるように該前輪Wfを車両上下方向の上部を後方、上方、及び前方から覆うフェンダライナ20と、ホイールアーチ12Aの前輪Wfに対する側面視における車両前後方向の前側での隙G1を後側での隙G2よりも小とするフェアリング24とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホイールハウス内の空気流をコントロールするための車両ホイールハウス周りの構造に関する。
【背景技術】
【0002】
ホイールハウス内で車輪を上側から覆うフェンダライナの前部を車輪に対し接離可能に構成し、車速が高くなるとフェンダライナの前部が車輪に近接してホイールハウスへの空気の流入が抑制されるようにした技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−186166号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ホイールハウスには、車輪の回転に伴って車両後方側から空気が流入される流入経路があり、上記従来技術の如くホイールハウス前部でフェンダライナと車輪との隙を小さくすると、ホイールハウス後部から流入された空気が該ホイールハウスの側方(ホイールアーチ)から排出されやすくなる。
【0005】
本発明は、ホイールハウス周りの空気流を良好に整流することができる車両ホイールハウス周りの構造を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の発明に係る車両ホイールハウス周りの構造は、車輪に対する間隔が該車輪に対する車両前後方向の前側で後側よりも大となるように、該車輪を車両上下方向の上部を後方、上方、及び前方から覆う内壁部と、ホイールアーチの前記車輪に対する側面視における隙を、車両前後方向の前側で後側よりも小とする側壁部と、を備えている。
【0007】
請求項1記載の車両ホイールハウス周りの構造では、内壁部と車輪との間隔が車両前後方向の後部で相対的に小さいので、車輪の回転に伴って該内壁部の後部と車輪との間への空気の流入が抑制される。一方、車輪の回転に伴って内壁部の後部と車輪との間に流入した空気は、内壁部の前部と車輪との間の相対的に広い空間に向かって流れ、車両の下部(床下)にスムースに流出される。すなわち、内壁部と車輪との間から車両側方への空気の流出が抑制される。特に、側壁部によってホイールアーチ前部と車輪との側面視における隙が相対的に小さくされているので、ホイールハウス内の空気がホイールアーチ前部と車輪との隙から車両側方へ流出されることがより効果的に抑制される。
【0008】
このように、請求項1記載の車両ホイールハウス周りの構造では、ホイールハウス周りの空気流を良好に整流することができる。なお、側壁部は、側面視でホイールアーチと車輪との間の隙を埋めるものであっても良く、それ自体でホイールアーチを形成するものであっても良い。
【0009】
請求項2記載の発明に係る車両ホイールハウス周りの構造は、車輪に対する間隔が該車輪に対する車両前後方向の前側で後側よりも大となるように、該車輪を車両上下方向の上部を後方、上方、及び前方から覆う内壁部と、ホイールアーチにおける前記車輪に対する車両前後方向の前側部分と該車輪との側面視における隙を埋めるように設けられた側壁部と、を備えている。
【0010】
請求項2記載の車両ホイールハウス周りの構造では、内壁部と車輪との間隔が車両前後方向の後部で相対的に小さいので、車輪の回転に伴って該内壁部の後部と車輪との間への空気の流入が抑制される。一方、車輪の回転に伴って内壁部の後部と車輪との間に流入した空気は、内壁部の前部と車輪との間の相対的に広い空間に向かって流れ、車両の下部(床下)にスムースに流出される。すなわち、内壁部と車輪との間から車両側方への空気の流出が抑制される。特に、側壁部によってホイールアーチ前部と車輪との側面視における隙が埋められて小さく(側壁部を設けない構成と比較して小さく)されているので、ホイールハウス内の空気がホイールアーチ前部と車輪との隙から車両側方へ流出されることがより効果的に抑制される。
【0011】
このように、請求項2記載の車両ホイールハウス周りの構造では、ホイールハウス周りの空気流を良好に整流することができる。
【0012】
請求項3記載の発明に係る車両ホイールハウス周りの構造は、請求項1又は請求項2記載の車両ホイールハウス周りの構造において、前記内壁部における前記車輪に対する車両前後方向の後側部分でかつ車幅方向外側部分に、車幅方向外側に向かうほど車両上下方向の後側に位置するように傾斜又は湾曲された斜壁部が形成されている。
【0013】
請求項3記載の車両ホイールハウス周りの構造では、車輪の回転に伴って内壁部の後部と車輪との間に流入した空気の一部が、斜壁部に案内されつつホイールアーチ後部を経由して車両側方に流出される。斜壁部が車幅方向外側に向かうほど車両上下方向の後側に位置するように傾斜又は湾曲されているので、上記の通りホイールアーチ後部を経由して車両側方に排出される空気流は、車両の走行に伴うホイールハウス側方の空気流にスムースに合流される。したがって、車両側方に排出される空気流の剥離が抑制され、空気抵抗の低減に寄与する。特に、斜壁部は、後端(車幅方向外端)がホイールアーチに向けて延在する構成とすることが望ましい。
【0014】
請求項4記載の発明に係る車両ホイールハウス周りの構造は、請求項1〜請求項3の何れか1項記載の車両ホイールハウス周りの構造において、前記内壁部は、前記車輪に対する車両前後方向の前方に位置する前壁部と、前記車輪に対する車両前後方向の後方に位置し、前記車輪に対する車両前後方向の間隔が該車輪と前記前壁部との車両前後方向の間隔よりも小である範囲内で該車輪に対し車両前後方向に接離し得る後壁部と、を含んで構成されており、前記側壁部は、前記車輪の車両前後方向の前側部分との側面視における隙を相対的に小さくする第1位置と、該車輪の車両前後方向の前側部分との側面視における隙を相対的に大きくする第2位置とをとり得る構成とされており、前記後壁部を、前記範囲内で前記車輪に対し車両前後方向に接離させる後壁部駆動手段と、前記側壁部を、前記第1位置と第2位置との間で駆動する側壁部駆動手段と、をさらに備えている。
【0015】
請求項4記載の車両ホイールハウス周りの構造では、内壁部を構成する後壁部が後壁部駆動手段の作動によって車輪に対し車両前後方向に接離され、かつ側壁部が側壁部駆動手段の作動によって車輪と側面視における隙を拡縮するので、車両の走行状態に応じて空力特性を変化させることができる。
【0016】
請求項5記載の発明に係る車両ホイールハウス周りの構造は、車輪を車両上下方向の上部を後方、上方、及び前方から覆う内壁部における前記車輪に対する車両前後方向の前方に位置する部分を構成する前壁部と、前記内壁部における前記車輪に対する車両前後方向の後方に位置する部分を構成し、前記車輪に対する車両前後方向の間隔が該車輪と前記前壁部との車両前後方向の間隔よりも小となる範囲を含む範囲で該車輪に対し車両前後方向に接離し得る後壁部と、前記車輪の車両前後方向の前側部分とホイールアーチとの側面視における隙を相対的に小さくする第1位置と、該車輪の車両前後方向の前側部分とホイールアーチとの側面視における隙を相対的に大きくする第2位置とをとり得る側壁部と、前記後壁部を、前記範囲内で前記車輪に対し車両前後方向に接離させる後壁部駆動手段と、前記側壁部を、前記第1位置と第2位置との間で駆動する側壁部駆動手段と、を備えている。
【0017】
請求項5記載の車両ホイールハウス周りの構造では、後壁部が車輪に最も近接した場合の該後壁部と車輪との車両前後方向の間隔は、前壁部と車輪との車両前後方向の間隔よりも小となる。また、側壁部が第1位置に位置する場合、ホイールアーチ前部と車輪との側面視における隙が、側壁部が第2位置に位置する場合と比較して小さくなる。
【0018】
これらにより、本車両ホイールハウス周りの構造では、車輪の回転に伴って該内壁部の後部と車輪との間への空気の流入が抑制され、車輪の回転に伴って内壁部の後部と車輪との間に流入した空気は、内壁部の前部と車輪との間の相対的に広い空間に向かって流れ、車両の下部(床下)にスムースに流出される。すなわち、内壁部と車輪との間から車両側方への空気の流出が抑制される。特に、側壁部によってホイールアーチ前部と車輪との側面視における隙が相対的に小さくされているので、ホイールハウス内の空気がホイールアーチ前部と車輪との隙から車両側方へ流出されることがより効果的に抑制される。
【0019】
また、本車両ホイールハウス周りの構造では、後壁部が後壁部駆動手段の作動によって車輪に対し車両前後方向に接離され、かつ側壁部が側壁部駆動手段の作動によって車輪と側面視における隙を拡縮するので、車両の走行状態に応じて空力特性を変化させることができる。さらに、
【0020】
このように、請求項5記載の車両ホイールハウス周りの構造では、ホイールハウス周りの空気流を良好に整流することができる。
【0021】
請求項6記載の発明に係る車両ホイールハウス周りの構造は、請求項4又は請求項5記載の車両ホイールハウス周りの構造において、前記車輪は操舵輪であり、前記車輪に対する操舵又は前記車輪の転舵を検出する転舵検出手段と、前記転舵検出手段からの信号に基づいて、前記車輪と前記後壁部、前記側壁部との干渉が回避されるように、前記後壁部駆動手段及び前記側壁部駆動手段を制御する制御装置と、をさらに備えている。
【0022】
請求項6記載の車両ホイールハウス周りの構造では、例えば車輪が転舵されていない状態では、後壁部を車輪に近接させると共に側壁部によって車輪とホイールアーチ前部との隙を小として、ホイールハウス周りの空気流を良好に整流させることができる。一方、車輪が転舵された場合には、例えば、車輪と後壁部が車輪から車両後方に離間されると共に、側壁部が車輪とホイールアーチ前部との隙を広げるように、制御装置が後壁部駆動手段及び側壁部駆動手段を制御する(少なくとも一方を作動させる)。これにより、直進時の後壁部と車輪との間隔、車輪とホイールアーチ前部との隙をより小さくして、一層良好な整流効果を得ることが可能になる。
【0023】
請求項7記載の発明に係る車両ホイールハウス周りの構造は、請求項4又は請求項5記載の車両ホイールハウス周りの構造において、ブレーキ操作又は減速指令を検出する減速検出手段と、前記減速検出手段からの信号に基づいて、空力的に走行抵抗が大きくなるように、前記後壁部駆動手段及び前記側壁部駆動手段を制御する制御装置と、をさらに備えている。
【0024】
請求項7記載の車両ホイールハウス周りの構造では、例えばブレーキ操作がされず、また減速指令がされていない(運転者又は車両の減速意思が推定されない)場合には、後壁部を車輪に近接させると共に側壁部によって車輪とホイールアーチ前部との隙を小として、ホイールハウス周りの空気流を良好に整流させることができる。一方、ブレーキ操作がされた、又は減速指令がされた場合には、例えば、後壁部を車輪から車両後方に離間させるように、及び/又は、側壁部が車輪とホイールアーチ前部との隙を広げるように、制御装置が後壁部駆動手段及び側壁部駆動手段を制御する(少なくとも一方を作動させる)。これにより、空力的に制動力が作用し、車両の減速が促進(アシスト)される。
【0025】
請求項8記載の発明に係る車両ホイールハウス周りの構造は、請求項4又は請求項5記載の車両ホイールハウス周りの構造において、車体のロールを検出又は予測するロール検出手段と、前記ロール検出手段からの信号に基づいて、前記車体のロールが抑制されるように、前記後壁部駆動手段及び前記側壁部駆動手段を制御する制御装置と、をさらに備えている。
【0026】
請求項8記載の車両ホイールハウス周りの構造では、例えば車両のロールが生じていない場合には、後壁部を車輪に近接させると共に側壁部によって車輪とホイールアーチ前部との隙を小として、ホイールハウス周りの空気流を良好に整流させることができる。一方、車両のロールが検出又は予測された場合には、例えば、ロール(沈み)側のホイールハウスへの空気流入量が、反対側のホイールハウスへの空気流入量よりも多くなるように、制御装置が後壁部駆動手段及び側壁部駆動手段を制御する(少なくとも一方を作動させる)。これにより、左右のホイールハウスで揚力のバランスが変化され、ロールの抑制に寄与する。したがって、左右のホイールハウスの両方に本車両ホイールハウス周りの構造を設け、これらを互いに逆に作動させることが望ましい。
【発明の効果】
【0027】
以上説明したように本発明に係る車両ホイールハウス周りの構造は、ホイールハウス周りの空気流を良好に整流することができるという優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る車両ホイールハウス周りの構造を模式的に示す図であって、(A)は側面図、(B)は平面図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る車両ホイールハウス周りの構造が適用された自動車の前部を示す側面図である。
【図3】(A)は、本発明の第1の実施形態に係る車両ホイールハウス周りの構造における整流状態を模式的に示す側面図、(B)は同平面図、(C)は比較例に係る車両ホイールハウス周りの構造における整流状態を模式的に示す側面図、(D)は同平面図である。
【図4】本発明の第1の実施形態の変形例に係る車両ホイールハウス周りの構造を示す平面図である。
【図5】本発明の第2の実施形態に係る車両ホイールハウス周りの構造を示す平面図である。
【図6】本発明の第2の実施形態の変形例に係る車両ホイールハウス周りの構造を示す平面図である。
【図7】本発明の第3の実施形態に係る車両ホイールハウス周りの構造を示す平面図である。
【図8】本発明の第3の実施形態に係る車両ホイールハウス周りの構造を構成するECUの制御フローを示すフローチャートである。
【図9】本発明の第3の実施形態に係る車両ホイールハウス周りの構造を示す図であって、(A)は直進時の状態を示す平面図、(B)は旋回時の状態を示す平面図である。
【図10】本発明の第4の実施形態に係る車両ホイールハウス周りの構造を示す平面図である。
【図11】本発明の第4の実施形態に係る車両ホイールハウス周りの構造を構成するECUの制御フローを示すフローチャートである。あって、(A)は模式的な平面図、(B)は要部を拡大して示す平面断面図である。
【図12】本発明の第4の実施形態に係る車両ホイールハウス周りの構造を示す図であって、(A)は通常走行時の状態を示す平面図、(B)は制動時の状態を示す平面図である。
【図13】本発明の第5の実施形態に係る車両ホイールハウス周りの構造を示す平面図である。
【図14】本発明の第5の実施形態に係る車両ホイールハウス周りの構造を構成するECUの制御フローを示すフローチャートである。あって、(A)は模式的な平面図、(B)は要部を拡大して示す平面断面図である。
【図15】本発明の第5の実施形態に係る車両ホイールハウス周りの構造の非ロール時の状態を示す図であって、(A)は平面図、(B)は正面図である。
【図16】本発明の第5の実施形態に係る車両ホイールハウス周りの構造の右ロール時の状態を示す図であって、(A)は平面図、(B)は正面図である。
【図17】本発明の第5の実施形態に係る車両ホイールハウス周りの構造の左ロール時の状態を示す図であって、(A)は平面図、(B)は正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の第1の実施形態に係る車両ホイールハウス周りの構造10について、図1〜図4に基づいて説明する。なお、各図に適宜記す矢印FR、矢印RE、矢印UP、矢印LO、矢印IN、及び矢印OUTは、それぞれ車両ホイールハウス周りの構造10が適用された自動車Aの前方向(進行方向)、後方向、上方向、下方向、車幅方向内側、及び車幅方向外側を示しており、以下単に上下前後及び車幅方向の内外を示す場合は上記各矢印方向に対応している。また、車両ホイールハウス周りの構造10は、左右の前輪Wfにそれぞれ適用されるが、基本的に左右対称に構成されるので、以下の説明においても車幅方向一方の車両ホイールハウス周りの構造10について説明することとする。
【0030】
図2には車両ホイールハウス周りの構造10が適用された自動車Aの前部が側面図にて示されている。この図に示される如く、自動車Aは、車体Bを構成するフロントフェンダパネル12を備えており、フロントフェンダパネル12には前輪Wfの転舵を許容するために側面視円弧状のホイールアーチ12Aが形成されている。
【0031】
図1(B)に模式的に示される如く、このフロントフェンダパネル12の内側にはホイールエプロン14が結合されており、このホイールエプロン14は、その内側に前輪Wf(の車両上下方向の上部)が転舵可能に収容されるホイールハウスHを形成している。ホイールエプロン14における前輪Wfに対する車幅方向内側に位置する壁部は、ホイールハウスインナ16とされており、ホイールハウスインナ16には、前輪Wfを車体Bに対し上下動可能に支持するためのフロントサスペンションが設けられる図示しないサスペンションタワーに連続されている。
【0032】
また、図示は省略するが、前輪Wfには、ステアリング装置を構成するタイロッドが連結されており、このタイロッドがステアリングホイールの操作(操舵)によって車幅方向外側に移動すると前輪Wfが外向きに転舵され、タイロッドが車幅方向内側に移動すると前輪Wfが内向きに転舵されるようになっている。すなわち、前輪Wfは、自動車Aの操舵輪とされている。
【0033】
そして、車両ホイールハウス周りの構造10は、内壁部としてのフェンダライナ20を備えて構成されている。フェンダライナ20は、薄肉の樹脂材にて側面視で下方に開口する略円弧状に形成されており(図1(A)、図2参照)、ホイールハウスH内の上部に位置して前輪Wfを上側から覆う構成とされている。より具体的には、フェンダライナ20は、前輪Wfにおける車両上下方向の上部(を含む部分)を車両前方、車両後方、及び車両上方から覆っている。
【0034】
このフェンダライナ20は、ホイールエプロン14に固定的に取り付けられている。これにより、車体Bでは、泥や小石などがホイールエプロン14等に当たることがフェンダライナ20によって防止されるようになっている。
【0035】
そして、車両ホイールハウス周りの構造10では、図1(A)に示される如く、前輪Wfにおける車両前方側の表面Wfa(接地面)とフェンダライナ20における前輪Wfの車両前方に位置する前壁部20Aとの間隔をD1、前輪Wfにおける車両後方側の表面Wfb(接地面)とフェンダライナ20における前輪Wfの車両前方に位置する後壁部20Bとの間隔をD2とすると、D2<D1となるようにフェンダライナ20の寸法形状、配置が決められている。
【0036】
また、図3(C)及び図3(D)に示す比較例に係る車両ホイールハウス周りの構造200との比較で補足すると、比較例におけるフェンダライナ202の前壁部202Aと前輪Wfの車両前方側の表面Wfaとの間隔をD3、フェンダライナ202の後壁部202Bと前輪Wfの車両後方側の表面Wfbとの間隔をD4とした場合に、D3≒D4であって、D1>D3、D2<D4とされている。
【0037】
図1(B)に示される如く、フェンダライナ20の後壁部20Bは、上記した前輪Wfの表面Wfbとの間隔がD2となる位置から車両後方への変位が可能となるように、車体B又はフェンダライナ20における他の部分に対して、スプリング22等によって弾性的に支持されている。これにより、フェンダライナ20の後壁部20Bの前輪Wfとの間の異物の挟み込みが防止又は効果的に抑制されると共に、仮に前輪Wfがフェンダライナ20の後壁部20Bに干渉した場合でも、該前輪Wfの動作が確保されるようになっている。なお、フェンダライナ20の後壁部20Bは、軟質材料で構成される等、図4に示される如く、それ自体が可撓性を有する構成とされても良い。
【0038】
また、図1、図2(A)に示される如く、車両ホイールハウス周りの構造10は、ホイールアーチ12Aにおける側面視で前輪Wfの前方に位置する部分から車両後方側に張り出された側壁部としてのフェアリング24を備えている。すなわち、フェアリング24は、図2(B)にも示される如く、フロントフェンダパネル12における前輪Wfに対する車両前方に位置するホイールアーチ12Aを形成する部分に取り付けられ、側面視でホイールハウスHの車両前部に張り出されている。
【0039】
車両ホイールハウス周りの構造10では、側面視において、ホイールアーチ12Aの車両前部12Afと前輪Wfの表面Wfaとの側面視における隙G1の一部が、このフェアリング24によって塞がれている。したがって、車両ホイールハウス周りの構造10では、側面視における隙G1の露出部分が、ホイールアーチ12Aの車両後部12Arと前輪Wfの表面Wfbとの側面視における隙G2に対し小とされている。フェアリング24は、比較的軟質な材料にて構成されており、可撓性を有する(変形状態について、図4参照)。したがって、仮に前輪Wfに干渉した場合でも、該前輪Wfの回転を阻害することがない構成とされている。
【0040】
なお、フェアリング24を備えない比較例に係る車両ホイールハウス周りの構造200では、ホイールアーチ12Aの車両前部12Afと前輪Wfの表面Wfaとの側面視における隙G3と、ホイールアーチ12Aの車両後部12Arと前輪Wfの表面Wfbとの側面視における隙G4とは、G3≒G4とされている。このため、フェアリング24は、該フェアリング24を設けない場合の隙G3に対して、隙G1を小とするものとして捉えることができる。
【0041】
また、この実施形態では、図1(A)及び図2に示される如く、フェンダライナ20の上記の通り前輪Wfに近接配置された後壁部20Bは、ホイールアーチ12Aの車両後部12Arに対する車両前方に露出されており、フェンダライナ20は、側面視でフェンダライナ20の後壁部20Bとホイールアーチ12Aの車両後部12Arとの隙(隙G2の一部)を埋める側壁20Cを有する。そして、フェアリング24によって側面視で一部閉止された隙G1は、側壁20Cによって側面視で一部閉止された隙G2よりも小とされている。
【0042】
次に、第1の実施形態の作用を説明する。
【0043】
上記構成の車両ホイールハウス周りの構造10が適用された自動車Aでは、走行に伴う前輪Wfの矢印R方向への回転に回転すると、この前輪Wfの回転に引きずられるようにして、該前輪Wfに対する車両後方からホイールハウスH内に略上向きに流入する空気流Fが生じる(図3(A)参照)。
【0044】
ここで、車両ホイールハウス周りの構造10では、前輪Wfの車両後方側の表面Wfbとフェンダライナ20の後壁部20Bとの間隔D2が相対的に小さいため、ホイールハウスH内への空気流Fの流入が抑制される。さらに、車両ホイールハウス周りの構造10では、前輪Wfの矢印R方向への回転に伴いホイールハウスH内に流入した空気は、前輪Wfとフェンダライナ20の前壁部20Aとの間の空間に向かって流れる。そして、前輪Wfとフェンダライナ20の前壁部20Aとの間に向かった空気は、フェアリング24によって車両側方への噴き出しを抑えられつつ、前輪Wfとフェンダライナ20の前壁部20Aとの間から床下に流出(排出)される。
【0045】
例えば比較例に係る車両ホイールハウス周りの構造200では、図3(C)に示される如く、フェンダライナ202の後壁部202Bと前輪Wfとの間隔D4が相対的に大きい(D4>D2)ため、前輪Wfの矢印R方向への回転に伴って空気流Fの大部分がホイールハウスH内に流入する。また、車両ホイールハウス周りの構造200では、前輪Wfの回転に伴って大量の空気がホイールハウスH内に流入するため、ホイールハウスH内の圧力が高くなり、ホイールハウスH内に流入した空気の多くがホイールアーチ12Aを経由して車両側方に噴き出される(矢印Fi参照)。この噴き出し流れFiは、図3(D)に示される如く、車両側方を後方に向かうホイールハウスHの側面流れFsをフロントフェンダパネル12から剥離させ、空気抵抗を増大する原因となる。
【0046】
これに対して車両ホイールハウス周りの構造10では、上記の通り前輪Wfとフェンダライナ20の後壁部20Bとの間隔D2が相対的に小さいため、図3(A)に示される如く、ホイールハウスH内への空気流Fの流入自体が抑制される。また、前輪Wfと前壁部20Aとの間隔D1が相対的に大きいため、ホイールハウスH内に流入した空気は、ホイールアーチ12Aを経由した側方への噴き出しが抑制されながら前輪Wfと前壁部20Aとの間に向かう(側方へ噴き出すよりも前輪Wfと前壁部20Aとの間に向かい易い)。さらに、車両ホイールハウス周りの構造10では、前輪Wfと前壁部20Aとの間に至った空気は、フェアリング24によって側方への噴き出しが抑制されつつ床下にスムースに排出される(矢印Ff参照)。
【0047】
以上により、車両ホイールハウス周りの構造10では、比較例に係る車両ホイールハウス周りの構造200と比較して、図3(B)と図3(D)との比較で解るようにホイールハウスHの側面流れFsの剥離が抑制され、空気抵抗が大幅に低減される。また、車両ホイールハウス周りの構造10では、ホイールハウスH内への空気の流入が抑制されるので、ホイールハウスH内の圧力上昇が抑えられ、車両ホイールハウス周りの構造200と比較して車体Bに作用する揚力が低減される。
【0048】
このように、第1の実施形態に係る車両ホイールハウス周りの構造10では、ホイールハウスH周りの空気流を良好に整流することができる。これにより、自動車Aの空気抵抗の低減(燃費の改善)、運動性能の向上が図られる。
【0049】
次に本発明の他の実施形態を説明する。なお、上記第1の実施形態又は前出の構成と基本的に同一の部品・部分については上記第1の実施形態又は前出の構成と同一の符号を付してその説明(図示)を省略する。
【0050】
(第2の実施形態)
図5には、本発明の第2の実施形態に係る車両ホイールハウス周りの構造30が模式的な側面図にて示されている。この図に示される如く、車両ホイールハウス周りの構造30は、側壁20Cに代えて、フェンダライナ20の後壁部20Bにおける車幅方向外側部分に斜壁部32が形成されている点で、第1の実施形態に係る10とは異なる。
【0051】
斜壁部32は、車幅方向外側に向かうほど車両前後方向の後側に位置するように平面視で湾曲されたラウンド形状とされている。すなわち、斜壁部32は、車両前方及び車幅方向外側を共に向くように形成されている。この実施形態では、斜壁部32は、その車両後端(車幅方向外端は)は、ホイールアーチ12Aにおける車両後部12Arに至る構成とされている。
【0052】
また、この実施形態における斜壁部32のラウンド形状は、フロントフェンダパネル12に滑らかに連続する如き、車両前方及び車幅方向外側に凸となるラウンド形状とされている。車両ホイールハウス周りの構造30の他の構成は、図示しない部分を含め車両ホイールハウス周りの構造10の対応する構成と同じである。
【0053】
したがって、第2の実施形態に係る車両ホイールハウス周りの構造30によっても、基本的に第1の実施形態に係る車両ホイールハウス周りの構造10と同様の作用によって同様の効果を得ることができる。
【0054】
また、車両ホイールハウス周りの構造10、30によっても、僅かながら前輪Wfの車両後方(前輪Wfと後壁部20Bとの間隔が狭い部分)からホイールアーチ12Aを経由して側方に噴き出す流れが存在するが、車両ホイールハウス周りの構造30では、このように前輪Wfの車両後方から噴き出す流れFirが斜壁部32に案内されてスムースに側面流れFsに合流する。したがって、第2の実施形態に係る車両ホイールハウス周りの構造30では、ホイールハウスHの側面流れFsを一層良好に整流することができる。
【0055】
なお、第2の実施形態では、斜壁部32が平面視でラウンド形状を成す例を示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、図6に示される如く、平面視で車幅方向に対し傾斜された略直線状を成す斜壁部34を、斜壁部32に代えて設けた構成としても良い。このような略面取り状の斜壁部34を備えた変形例に係る車両ホイールハウス周りの構造30によっても、斜壁部32を備えた車両ホイールハウス周りの構造30と同様の作用によって同様の効果を得ることができる。
【0056】
(第3の実施形態)
図7には、本発明の第3の実施形態に係る車両ホイールハウス周りの構造40が適用された自動車Aの前部が模式的な平断面図にて示されている。この図に示される如く、車両ホイールハウス周りの構造40は、フェンダライナ20の後壁部20Bを車両前後方向に駆動する後壁部駆動手段としての後壁部用アクチュエータ42と、フェアリング24を駆動する側壁部駆動手段としてのフェアリング用アクチュエータ44とを備える点で、車両ホイールハウス周りの構造10とは異なる。
【0057】
車両ホイールハウス周りの構造40を構成するフェンダライナ20の後壁部20Bは、前輪Wfの車両後方側の表面Wfbに対する間隔がD2となる最接近位置(図7の実線参照)から、前輪Wfの表面Wfbに対する間隔がD5(>D2)となる最離間位置(図7の想像線参照)までの範囲で、前輪Wfに対し車両前後方向に接離可能とされている。この実施形態では、間隔D5は、前輪Wfの車両前方側の表面Wfaとフェンダライナ20の前壁部20Aとの間隔D1よりも小(D5<D1)とされている。最離間位置に位置するフェンダライナ20の後壁部20Bの車両前後位置は、ホイールアーチ12Aの車両後部12Arの車両前後位置に略一致するようになっている。
【0058】
後壁部用アクチュエータ42は、例えば、送りねじ機構やラックアンドピニオン機構等の直動機構を用いたモータアクチュエータ、リニアモータ、ピストンシリンダ式の流体アクチュエータ等とされており、フェンダライナ20の後壁部20Bを最接近位置と最離間位置との間で動力により往復動させる構成とされている。
【0059】
また、車両ホイールハウス周りの構造40を構成するフェアリング24は、その車両前端部24Aにおいて車両上下方向に沿った軸線廻りに回動可能に支持されている。この回動によってフェアリング24は、フロントフェンダパネル12に沿ってホイールハウスH内に張り出すことで隙G1を隙G2(隙G3)に対し小とする整流位置としての閉じ位置(図7の実線参照)と、該閉じ位置に対し車幅方向外側に展開させる展開位置(図7の想像線参照)とをとり得る構成とされている。
【0060】
フェアリング用アクチュエータ44は、例えばモータアクチュエータとされており、フェアリング24を閉じ位置と展開位置との間で動力により往復回動させる構成とされている。この実施形態では、フェアリング用アクチュエータ44は、車体B(フロントフェンダパネル12)に対しフェアリング24を支持する支軸を兼ねた構成とされている。
【0061】
また、左右の車両ホイールハウス周りの構造40は、それぞれの後壁部用アクチュエータ42、フェアリング用アクチュエータ44の作動を制御する制御装置としての共通のECU45を備えている。ECU45は、後壁部用アクチュエータ42、フェアリング用アクチュエータ44のそれぞれと電気的に接続されると共に、ステアリングホイール46の操舵角に応じた信号を出力する転舵検出手段としての操舵角センサ48に電気的に接続されている。
【0062】
ECU45は、操舵角センサ48からの信号に基づいて、ステアリングホイール46の操舵による転舵される前輪Wfにフェンダライナ20の後壁部20B、フェアリング24が干渉(接触)しないように、後壁部用アクチュエータ42、フェアリング用アクチュエータ44を作動させる構成とされている。車両ホイールハウス周りの構造40の他の構成は、図示しない部分を含め、車両ホイールハウス周りの構造10又は車両ホイールハウス周りの構造30の対応する構成と同じである。
【0063】
次に、第3の実施形態の作用について、ECU45の制御フローを示す図8のフローチャートを参照しつつ説明する。
【0064】
上記構成の車両ホイールハウス周りの構造40が適用された自動車Aでは、直進時には、ECU45は、図9(A)に示される如く、左右のフェンダライナ20の後壁部20Bを最接近位置に位置させると共に、左右のフェアリング24を閉じ位置に位置させる。したがって、この場合、車両ホイールハウス周りの構造40では、車両ホイールハウス周りの構造10又は車両ホイールハウス周りの構造30と同様の作用によって同様の効果を得ることができる。
【0065】
この車両ホイールハウス周りの構造40のECU45は、ステップS10で、操舵角センサ48からの信号に基づいてステアリングホイール46の操舵の有無を判断する。操舵ありと判断するまでステップS10を繰り返す。この間、左右の車両ホイールハウス周りの構造40は、左右のフェンダライナ20の後壁部20Bを最接近位置に位置させると共に、左右のフェアリング24を閉じ位置に位置させる上記の状態に維持される。ステップS10で操舵ありと判断したECU45は、ステップS12で操舵角(ニュートラルに対する操舵量の絶対値)が増加したか否かを判断する。
【0066】
ステップS12で操舵角が増加したと判断した場合、ECU45は、ステップS14に進み、旋回内輪側の前輪Wf用の車両ホイールハウス周りの構造40においてフェンダライナ20の後壁部20Bが後退されると共にフェアリング24が展開側に移動されるように、後壁部用アクチュエータ42、フェアリング用アクチュエータ44を作動させる。すると、旋回内輪側の前輪Wf用の車両ホイールハウス周りの構造40では、図9(B)に示される如く、フェンダライナ20の後壁部20Bが想像線にて示す最接近位置から実線にて示される如く最離間位置側に後退されると共に、フェアリング24が想像線にて示す閉じ位置から実線にて示される如く展開位置側に回動される。
【0067】
一方、図示は省略するが、ECU45は、旋回外輪側の前輪Wf用の車両ホイールハウス周りの構造40においてフェンダライナ20の後壁部20Bが後退されるように、後壁部用アクチュエータ42を作動させる。この場合、フェアリング24は閉じ位置に維持される。
【0068】
また、ステップS12で操舵角が増加されていない、すなわち転舵量が減少されたと判断した場合、ECU45は、ステップS16に進み、旋回内輪側の前輪Wf用の車両ホイールハウス周りの構造40においてフェンダライナ20の後壁部20Bが前進されると共にフェアリング24が閉じ側に移動されるように、後壁部用アクチュエータ42、フェアリング用アクチュエータ44を作動させる。同様にECU45は、旋回外輪側の前輪Wf用の車両ホイールハウス周りの構造40においてフェンダライナ20の後壁部20Bが前進されるように、後壁部用アクチュエータ42を作動させる。
【0069】
ステップS14又はステップS16の実行後、ECU45は、ステップS10に戻り、上記の制御を繰り返す。
【0070】
以上説明したように、車両ホイールハウス周りの構造40では、ステアリングホイール46が操舵されると、ECU45は、操舵角センサ48らかの信号すなわち前輪Wfの転舵量に基づいて、フェンダライナ20の後壁部20B、フェアリング24が前輪Wfに干渉しないように後壁部用アクチュエータ42、フェアリング用アクチュエータ44を作動させる。これにより、車両ホイールハウス周りの構造40が適用された自動車Aでは、旋回時にフェンダライナ20の後壁部20B、フェアリング24が前輪Wfに干渉することが防止される。
【0071】
このため、車両ホイールハウス周りの構造40における間隔D2、隙G1は、車両ホイールハウス周りの構造10、30における間隔D2、隙G1よりも小さく設定することができ、ホイールハウスH周りのより良好な整流効果が果たされる。すなわち、車両ホイールハウス周りの構造40では、直進時におけるより一層の空気抵抗低減(燃費の改善)、揚力低減による運動性能の向上が図られる。
【0072】
なお、上記した第3の実施形態では、操舵角センサ48によって前輪Wfの転舵量を検出する例を示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、転舵角センサにて前輪Wfの転舵量を直接的に検出しても良く、操舵角センサに代えて操舵トルクセンサを用いた構成としても良い。また、本発明は、転舵量に応じてフェンダライナ20の後壁部20B、フェアリング24の移動量を調整する制御には限られず、例えば、転舵(操舵)ありを検出した場合には、フェンダライナ20の後壁部20Bを最離間位置に移動させると共に、フェアリング24を展開位置(側の移動限)まで移動させる構成としても良い。
【0073】
さらに、上記した第3の実施形態では、旋回外輪側のフェアリング24が閉じ位置に維持される例を示したが、本発明はこれに限定されず、旋回外輪側のフェアリング24が展開位置に移動させる構成としても良い。
【0074】
(第4の実施形態)
図10には、本発明の第4の実施形態に係る車両ホイールハウス周りの構造50が適用された自動車Aの前部が模式的な平断面図にて示されている。この図に示される如く、車両ホイールハウス周りの構造50は、機械的には車両ホイールハウス周りの構造40と同様に構成されており、後壁部用アクチュエータ42、フェアリング用アクチュエータ44の作動制御において、車両ホイールハウス周りの構造40とは異なる。
【0075】
具体的には、左右の車両ホイールハウス周りの構造50は、ECU45に代えて制御装置としての共通のECU52を備えている。ECU52は、操舵角センサ48に代えて、減速検出手段としてのブレーキセンサ54に電気的に接続されている。ECU52は、ブレーキセンサ54からの信号に基づいて、減速意思が推定される場合には空力的に制動力が作用するように、後壁部用アクチュエータ42、フェアリング用アクチュエータ44の作動を制御するようになっている。この制御については、本実施形態の作用と共に後述する。車両ホイールハウス周りの構造50の他の構成は、図示しない部分を含め、車両ホイールハウス周りの構造40の対応する構成と同じである。
【0076】
次に、第4の実施形態の作用について、ECU52の制御フローを示す図11のフローチャートを参照しつつ説明する。
【0077】
上記構成の車両ホイールハウス周りの構造50が適用された自動車Aでは、非減速時には、ECU52は、図12(A)に示される如く、左右のフェンダライナ20の後壁部20Bを最接近位置に位置させると共に、左右のフェアリング24を閉じ位置に位置させる。したがって、この場合、車両ホイールハウス周りの構造50では、車両ホイールハウス周りの構造10〜40と同様の作用によって同様の効果を得ることができる。
【0078】
この車両ホイールハウス周りの構造50のECU52は、ステップS20で、ブレーキセンサ54からの信号に基づいてブレーキ操作の有無を判断する。ブレーキ操作なしと判断した場合、ECU52は、ステップS22に進み、フェンダライナ20の後壁部20Bが最接近位置に位置されると共にフェアリング24が閉じ位置に位置されるように、後壁部用アクチュエータ42、フェアリング用アクチュエータ44の作動を制御する(非作動に維持する場合を含む)。すなわち、ECU52は、上記の非減速時の状態を維持させるか、又は、後述するブレーキ操作時の状態から非減速時の状態に移行する。
【0079】
一方、ステップS20でブレーキ操作ありと判断した場合、ECU52は、ステップS24に進み、図12(B)に示される如く、フェンダライナ20の後壁部20Bが最離間位置に位置されると共にフェアリング24が展開位置に位置されるように、後壁部用アクチュエータ42、フェアリング用アクチュエータ44の作動を制御する。
【0080】
すると、左右のホイールハウスHでは、前輪Wfの矢印R方向への回転に伴う空気流Fの流入量が増すと共に、ホイールアーチ12Aを経由した噴き出し流れFiの噴き出し量が増す。すなわち、左右のホイールハウスH廻りで噴き出し流れFiによる側面流れFsの剥離が生じて走行抵抗が増し、自動車Aには空力的な制動力(エアロブレーキ)が作用する。これにより、車両ホイールハウス周りの構造50が適用された自動車Aでは、ブレーキ性能が向上される。
【0081】
特に、車両ホイールハウス周りの構造50では、車両前端部24A廻りに回動して展開位置に位置するフェアリング24は、図12(B)に示される如く、それ自体で側面流れFsの剥離効果を奏するので、自動車Aには、より大きな空力的な制動力が作用する。すなわち、自動車Aのブレーキ性能が一層向上される。
【0082】
ステップS22又はステップS24の実行後、ECU52は、ステップS20に戻り、上記の制御を繰り返す。
【0083】
なお、上記した実施形態では、運転者によるブレーキ操作の際に車両ホイールハウス周りの構造40が空力的な制動力を生じさせる例を示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、車両の運転(運動)を制御するコントローラや自動操縦システムのコントローラによる制動指令等に基づいて、空力的な制動力を生じさせる構成としても良い。
【0084】
(第5の実施形態)
図13には、本発明の第4の実施形態に係る車両ホイールハウス周りの構造60が適用された自動車Aの前部が模式的な平断面図にて示されている。この図に示される如く、車両ホイールハウス周りの構造60は、機械的には車両ホイールハウス周りの構造40、50と同様に構成されており、後壁部用アクチュエータ42、フェアリング用アクチュエータ44の作動制御において、車両ホイールハウス周りの構造40、50とは異なる。
【0085】
具体的には、左右の車両ホイールハウス周りの構造60は、ECU45、62に代えて制御装置としての共通のECU62を備えている。ECU62は、操舵角センサ48に代えて、前後加速度センサ(以下、「前後Gセンサ」という)64、横加速度センサ(以下、「横Gセンサ」という)66、及びヨーレートセンサ68のそれぞれに電気的に接続されており、これら前後Gセンサ64、横Gセンサ66、及びヨーレートセンサ68からの信号に基づいて、車体Bのロールを有無、方向を判断するようになっている。したがって、この実施形態では、前後Gセンサ64、横Gセンサ66、及びヨーレートセンサ68が本発明におけるロール検出手段を構成する。
【0086】
ECU62は、前後Gセンサ64、横Gセンサ66、及びヨーレートセンサ68からの信号に基づいて、車体Bのロールが抑制されるように、後壁部用アクチュエータ42、フェアリング用アクチュエータ44の作動を制御するようになっている。この制御については、本実施形態の作用と共に後述する。車両ホイールハウス周りの構造60の他の構成は、図示しない部分を含め、車両ホイールハウス周りの構造40、50の対応する構成と同じである。
【0087】
次に、第5の実施形態の作用について、ECU62の制御フローを示す図14のフローチャートを参照しつつ説明する。
【0088】
上記構成の車両ホイールハウス周りの構造60が適用された自動車Aでは、ロールが生じていない場合には、ECU62は、図15(A)に示される如く、左右のフェンダライナ20の後壁部20Bを最接近位置に位置させると共に、左右のフェアリング24を閉じ位置に位置させる。したがって、この場合、車両ホイールハウス周りの構造60では、車両ホイールハウス周りの構造10〜50と同様の作用によって同様の効果を得ることができる。
【0089】
なお、図15(B)は、車両前方から見た自動車Aを模式的に示しており、白抜きの矢印は、揚力低減効果を示している。すなわち、非ロール時には、左右のホイールハウスHでの揚力が共に低く抑えられており、左右のリフトバランスがとれている。
【0090】
この車両ホイールハウス周りの構造60のECU62は、ステップS30で、前後Gセンサ64、横Gセンサ66、及びヨーレートセンサ68からの信号に基づいて車体Bのロールの有無を判断する。ロールありと判断するまでステップS30を繰り返す。この間、左右の車両ホイールハウス周りの構造60は、左右のフェンダライナ20の後壁部20Bを最接近位置に位置させると共に、左右のフェアリング24を閉じ位置に位置させる上記の状態に維持される。ステップS30でロールありと判断したECU62は、ステップS32で車体Bのロールが右ロールであるか否かを判断する。
【0091】
ステップS32で右ロールであると判断した場合、ECU62は、ステップS34に進み、右前輪Wf用の車両ホイールハウス周りの構造60においてフェンダライナ20の後壁部20Bが後退されると共にフェアリング24が展開側に移動されるように、後壁部用アクチュエータ42、フェアリング用アクチュエータ44を作動させる。すると、右前輪Wf用の車両ホイールハウス周りの構造60では、図16(A)に示される如く、フェンダライナ20の後壁部20Bが想像線にて示す最接近位置から実線にて示される如く最離間位置側に後退されると共に、フェアリング24が想像線にて示す閉じ位置から実線にて示される如く展開位置側に回動される。
【0092】
また、ステップS34でECU62は、左前輪Wf用の車両ホイールハウス周りの構造60について、図16(A)に示される如く、左右のフェンダライナ20の後壁部20Bを最接近位置に位置させると共に、左右のフェアリング24を閉じ位置に位置させる上記の状態に維持させる。
【0093】
これにより、車両ホイールハウス周りの構造60が適用された自動車Aでは、右側のホイールハウスHに作用する揚力が左側のホイールハウスHに作用する揚力に対し大きくなる。このため、図16(B)に示される如く、車体Bには、その右側部分を持ち上げると共に左側部分を押し下げて右ロールを解消する方向に左右のリフトバランスが変化し、右ロールが抑制される。
【0094】
一方、ステップS32で右ロールではない、すなわち左ロールであると判断した場合、ECU62は、ステップS36に進み、右ロールの場合とは逆に、左前輪Wf用の車両ホイールハウス周りの構造60について、図17(A)に示される如くフェンダライナ20の後壁部20Bを実線にて示される最離間位置側に後退させると共に、フェアリング24を実線にて示される展開位置側に回動させる。また、ステップS36でECU62は、右前輪Wf用の車両ホイールハウス周りの構造60について、図17(A)に示される如く、左右のフェンダライナ20の後壁部20Bを最接近位置に位置させると共に、左右のフェアリング24を閉じ位置に位置させる上記の状態に維持させる。
【0095】
これにより、車両ホイールハウス周りの構造60が適用された自動車Aでは、左側のホイールハウスHに作用する揚力が右側のホイールハウスHに作用する揚力に対し大きくなる。このため、図17(B)に示される如く、車体Bには、その右側部分を持ち上げると共に左側部分を押し下げて右ロールを解消する方向に左右のリフトバランスが変化し、左ロールが抑制される。
【0096】
ステップS34又はステップS36の実行後、ECU62は、ステップS30に戻り、上記の制御を繰り返す。
【0097】
以上説明したように、車両ホイールハウス周りの構造60では、前後Gセンサ64、横Gセンサ66、及びヨーレートセンサ68からの信号に基づいて車体Bのロールが検出されると、該ロールを解消する方向に空力効果によるリフトバランスを変化させるため、車体Bのロールが抑制され、車両の安定性の向上、運動性能の向上に寄与する。
【0098】
なお、第5の実施形態では、中立位置に対するロールの方向に応じてリフトバランスを変化させる例を示したが、本発明はこれに限定されず、ロールによる車体Bの運動方向やロール角の変化率などに応じてリフトバランスを変化させるように構成しても良い。また、車両のロールが予測された場合にリフトバランスを変化させるようにしても良い。
【0099】
また、上記した第3〜第5の実施形態では、ECU45、52、62がそれぞれ別個の制御を行う例を示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、上記3つの制御のうち2つ又は3つを共通のECUが行う構成としても良い。
【0100】
さらに、上記した第3〜第5の実施形態では、フェンダライナ20の後壁部20Bの可動範囲がD2<D1を満たす範囲内である例を示したが、本発明はこれに限定されず、フェンダライナ20の後壁部20Bは、少なくとも最接近位置に位置するときにD2<D1となる各種の可動範囲をとり得る。
【0101】
またさらに、上記した各実施形態では、フェアリング24が車両前端部24A廻りに回動する例を示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、フェアリング24は、車両前後方向にスライドすることで、閉じ位置と、前輪Wfの車両前方側の表面Wfaとホイールアーチ12Aとの間の隙を側面視で開放する開放位置との間を移動される構成としても良い。
【0102】
また、上記した各実施形態では、フェンダライナ20が本発明における内壁部である例を示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、ホイールエプロン14等の板金部分で本発明における内壁部を構成しても良く、また例えば、フェンダライナ20(フェンダライナ202)とは別部材の後壁部をフェンダライナ20やホイールエプロン14に取り付けることで、間隔D1に対し間隔D2を小とする構成としても良い。
【0103】
さらに、上記した実施形態では、フロントフェンダパネル12に取り付けられたフェアリング24が本発明における側壁部である例を示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、フロントフェンダパネル12に一体に形成(延設)されホイールハウスHを車幅方向外側から覆う部分で本発明における側壁部を構成しても良い。すなわち、本発明における側壁部は、それ自体でホイールアーチ(の前部)を形成するものであっても良い。
【0104】
またさらに、上記した各実施形態では、車両ホイールハウス周りの構造10、30、40、50、60が前輪Wfに適用された例を示したが、本発明はこれに限定されず、前輪Wfと共に又は前輪Wfに代えて、後輪に対して車両ホイールハウス周りの構造10、30、40、50、60を適用しても良い。この場合において、例えば、前輪Wfに対し車両ホイールハウス周りの構造40、50、60の何れかを適用すると共に、後輪に対し車両ホイールハウス周りの構造10、30の何れかを適用する等、前後の車輪で適用する車両ホイールハウス周りの構造を異ならせても良い。
【符号の説明】
【0105】
10 車両ホイールハウス周りの構造
12A ホイールアーチ
20 フェンダライナ(内壁部)
20A 前壁部
20B 後壁部
24 フェアリング(側壁部)
30・40・50・60 車両ホイールハウス周りの構造
32・34 斜壁部
42 後壁部用アクチュエータ(後壁部駆動手段)
44 フェアリング用アクチュエータ(側壁部駆動手段)
48 操舵角センサ(転舵検出手段)
54 ブレーキセンサ(減速検出手段)
64 前後Gセンサ(ロール検出手段)
66 横Gセンサ(ロール検出手段)
68 ヨーレートセンサ(ロール検出手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪に対する間隔が該車輪に対する車両前後方向の前側で後側よりも大となるように、該車輪を車両上下方向の上部を後方、上方、及び前方から覆う内壁部と、
ホイールアーチの前記車輪に対する側面視における隙を、車両前後方向の前側で後側よりも小とする側壁部と、
を備えた車両ホイールハウス周りの構造。
【請求項2】
車輪に対する間隔が該車輪に対する車両前後方向の前側で後側よりも大となるように、該車輪を車両上下方向の上部を後方、上方、及び前方から覆う内壁部と、
ホイールアーチにおける前記車輪に対する車両前後方向の前側部分と該車輪との側面視における隙を埋めるように設けられた側壁部と、
を備えた車両ホイールハウス周りの構造。
【請求項3】
前記内壁部における前記車輪に対する車両前後方向の後側部分でかつ車幅方向外側部分に、車幅方向外側に向かうほど車両上下方向の後側に位置するように傾斜又は湾曲された斜壁部が形成されている請求項1又は請求項2記載の車両ホイールハウス周りの構造。
【請求項4】
前記内壁部は、
前記車輪に対する車両前後方向の前方に位置する前壁部と、
前記車輪に対する車両前後方向の後方に位置し、前記車輪に対する車両前後方向の間隔が該車輪と前記前壁部との車両前後方向の間隔よりも小である範囲内で該車輪に対し車両前後方向に接離し得る後壁部と、
を含んで構成されており、
前記側壁部は、前記車輪の車両前後方向の前側部分との側面視における隙を相対的に小さくする第1位置と、該車輪の車両前後方向の前側部分との側面視における隙を相対的に大きくする第2位置とをとり得る構成とされており、
前記後壁部を、前記範囲内で前記車輪に対し車両前後方向に接離させる後壁部駆動手段と、
前記側壁部を、前記第1位置と第2位置との間で駆動する側壁部駆動手段と、
をさらに備えた請求項1〜請求項3の何れか1項記載の車両ホイールハウス周りの構造。
【請求項5】
車輪を車両上下方向の上部を後方、上方、及び前方から覆う内壁部における前記車輪に対する車両前後方向の前方に位置する部分を構成する前壁部と、
前記内壁部における前記車輪に対する車両前後方向の後方に位置する部分を構成し、前記車輪に対する車両前後方向の間隔が該車輪と前記前壁部との車両前後方向の間隔よりも小となる範囲を含む範囲で該車輪に対し車両前後方向に接離し得る後壁部と、
前記車輪の車両前後方向の前側部分とホイールアーチとの側面視における隙を相対的に小さくする第1位置と、該車輪の車両前後方向の前側部分とホイールアーチとの側面視における隙を相対的に大きくする第2位置とをとり得る側壁部と、
前記後壁部を、前記範囲内で前記車輪に対し車両前後方向に接離させる後壁部駆動手段と、
前記側壁部を、前記第1位置と第2位置との間で駆動する側壁部駆動手段と、
を備えた車両ホイールハウス周りの構造。
【請求項6】
前記車輪は操舵輪であり、
前記車輪に対する操舵又は前記車輪の転舵を検出する転舵検出手段と、
前記転舵検出手段からの信号に基づいて、前記車輪と前記後壁部、前記側壁部との干渉が回避されるように、前記後壁部駆動手段及び前記側壁部駆動手段を制御する制御装置と、
をさらに備えた請求項4又は請求項5記載の車両ホイールハウス周りの構造。
【請求項7】
ブレーキ操作又は減速指令を検出する減速検出手段と、
前記減速検出手段からの信号に基づいて、空力的に走行抵抗が大きくなるように、前記後壁部駆動手段及び前記側壁部駆動手段の少なくとも一方を制御する制御装置と、
をさらに備えた請求項4又は請求項5記載の車両ホイールハウス周りの構造。
【請求項8】
車体のロールを検出又は予測するロール検出手段と、
前記ロール検出手段からの信号に基づいて、前記車体のロールが抑制されるように、前記後壁部駆動手段及び前記側壁部駆動手段を制御する制御装置と、
をさらに備えた請求項4又は請求項5記載の車両ホイールハウス周りの構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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