説明

車両ルーフ構造

【課題】ルーフ内の水がルーフライニングに至るのを防ぎ、車室内の外観を好適に維持することが可能な車両ルーフ後部構造を提供する。
【解決手段】車両ルーフ構造の代表的な構成は、車両100のルーフ110を構成するルーフパネルとルーフライニングとの間に、ルーフパネルからの水を排水するためのドレイン穴124aが設けられたルーフバックインナメンバ124と、ルーフバックインナメンバの下方に位置し、少なくともルーフバックインナメンバをルーフパネルに溶接する溶接装置を挿入するための作業穴122aが設けられた、車両のサイドボデーの上端を構成するクォータインナパネル122と、を備え、作業穴122aの周囲は上方に向かって隆起していて、ドレイン穴124a近傍および作業穴122a近傍は車両後方側になるにしたがって下方に向かって傾斜している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のルーフ後部における車両ルーフ構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両の上部および側部は、車両の上部であるルーフの外面を構成する部材であるルーフパネルに、車両の側部を構成する部材であるサイドボデーアウタパネル等を溶接することにより組み立てられる。例えば特許文献1では、ルーフパネルよりも車両内側に配置されるセパレータインナパネルに孔部を設け、セパレータインナパネルに車両の側部となるサイドパネルやリンフォースDピラー等を、孔部から挿入した溶接冶具によって溶接接合して車両を組み立てている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−211442号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、外気温が低い場合等には、ルーフ内、特にルーフパネルの内側に結露が生じることがある。この結露水(以下、単に水と称する。)が、ルーフの内面すなわち車両内部の天井を構成するルーフライニングにまで至ると、ルーフライニングに染みが生じてしまい車室内における外観上好ましくない。しかし、特許文献1に記載の構成であると、ルーフパネルの内側からの水がセパレータインナパネルの孔部(以下、作業穴と称する)から落下し、ルーフライニングに至るおそれがある。
【0005】
本発明は、このような課題に鑑み、ルーフ内に結露した水がルーフライニングに至るのを防ぎ、車室内の外観を好適に維持することが可能な車両ルーフ後部構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために発明者らは鋭意検討し、ルーフパネルとルーフライニングとの間に配置される部材に、ルーフ内の水を排水するためのドレイン穴(排水穴)を設ければよいと考えた。一般的なデザインでは、ルーフは、車幅方向においては車両外側に向かうほどに、車長方向においては車両後方に向かうほどに下方に向かって傾斜しているため、ルーフ内に配置される部材もほぼ同様に傾斜することとなる。したがって、水を最も効率良く排水するためには、ルーフ内において最も低い位置となる、車両の最も外側且つ最も後方側の近傍にドレイン穴を設けるべきであると考えられる。
【0007】
しかしながら、車両の最も外側且つ最も後方側の近傍に、その位置においてルーフパネルとそれに接合する部材とを溶接するための作業穴が設けられていると、作業穴とドレイン穴とが近接することとなる。すると、ドレイン穴から排水された水が作業穴から落下してしまう可能性がある。それを回避するためには、ドレイン穴からの水が浸入しないように作業穴の大きさを小さく設定するという手段も考えられるが、作業穴を小さくすると、溶接冶具の挿入が困難になったり、溶接箇所に制限が生じたりするという作業上や設計上の新たな課題が生じてしまう。そこで、作業穴とドレイン穴が近接する場合であっても作業穴への水の浸入を防ぐべく、発明者らは更に検討を重ね、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明にかかる車両ルーフ構造の代表的な構成は、車両のルーフの外面および内面をそれぞれ構成するルーフパネルとルーフライニングとの間に、ルーフパネルからの水を排水するためのドレイン穴が設けられたルーフバックインナメンバと、ルーフバックインナメンバの下方に位置し、少なくともルーフバックインナメンバをルーフパネルに溶接する溶接装置を挿入するための作業穴が設けられた、車両のサイドボデーの上端を構成するクォータインナパネルと、を備え、作業穴の周囲は上方に向かって隆起していて、ドレイン穴近傍および作業穴近傍は車両後方側になるにしたがって下方に向かって傾斜していることを特徴とする。
【0009】
上記構成によれば、作業穴の周囲が上方に向かって隆起しているため、ドレイン穴から排水された水がルーフバックインナメンバの下方に位置するクォータインナパネルに落下しても隆起によって作業穴への浸入が防がれる。そして、ドレイン穴近傍および作業穴近傍は車両後方側になるにしたがって下方に向かって傾斜していることにより、ドレイン穴の近傍および作業穴の近傍に至った水は、車両後方側にいくにつれて下方に流れ、やがてルーフ内から排出される。したがって、水がルーフライニングに至るのを確実に防ぐことができ、車室内の外観を好適に維持することが可能となる。
【0010】
上記のドレイン穴は、ルーフバックインナメンバの車両後方側且つ車幅方向の端部近傍に設けられていて、作業穴は、クォータインナパネルの車両後方側の上端近傍に設けられているとよい。
【0011】
かかる構成のように、ルーフバックインナメンバの車両後方側且つ車幅方向の端部近傍、すなわちルーフ内において最も低い位置にドレイン穴を設けることにより、水の排水効率を最も高めることができる。そして、車両後方側の上端近傍、すなわちドレイン穴の近傍に作業穴が設けられている場合であっても、本発明によれば上述したように作業穴への水の浸入が防がれる。したがって、作業穴の大きさや位置等の設計変更を伴うことなく、排水効率の向上を図ることができる。
【0012】
上記のドレイン穴および作業穴は、車両の前後方向において重なった位置にあってもよい。このように、ドレイン穴のほぼ真横に作業穴が位置するために、ドレイン穴から滴下した水が作業穴に流れやすい構成であっても、上述したように、本発明によれば作業穴への水の浸入が防がれるため、設計の自由度を高めることができる。
【0013】
上記のクォータインナパネルには、作業穴およびドレイン穴よりも車両後方側において凸部が形成されていて、ルーフ内の水は、クォータインナパネルに滴下した後に、作業穴と凸部との間を通過して車幅方向の外側に向かって排水されるとよい。
【0014】
かかる構成によれば、作業穴周囲の隆起および凸部によって水の流路が形成される。これにより、クォータインナパネルにおいて水を車幅方向の外側に好適に導くことができ、確実な排水が可能となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ルーフ内に結露した水がルーフライニングに至るのを防ぎ、車室内の外観を好適に維持することが可能な車両ルーフ後部構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施形態にかかる車両ルーフ構造を適用した車両の概略図である。
【図2】図1(b)の部分断面図である。
【図3】図1(b)の部分拡大図である。
【図4】クォータインナパネルにおける水の流れを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0018】
図1は、本実施形態にかかる車両ルーフ構造を適用した車両の概略図であり、図1(a)はかかる車両(ルーフ)を車室側から見た図であり、図1(b)は図1(a)の部分拡大図である。図2は、図1(b)の部分断面図であり、図2(a)は図1(b)のA−A断面図であり、図2(b)は図2(a)のZ部詳細図である。図3は、図1(b)の部分拡大図であり、図3(a)は図1(b)のB−B断面図であり、図3(b)は図1(b)のC−C断面図である。図4は、クォータインナパネルにおける水の流れを説明する図である。なお、理解を容易にするために、図1(b)ではルーフライニング114を不図示としている。また、図4は、クォータインナパネルを車両外側から見た状態を図示している。
【0019】
図1(a)では、外面および内面がルーフパネル112(図2(a)参照)およびルーフライニング114から構成されるルーフ110(車両上部)に、車両側部を構成する部材であるクォータインナパネル122やサイドボデーアウタパネル126等を組み付けた状態の車両100を図示している。
【0020】
図1(b)に示すルーフバックインナメンバ124は、ルーフパネル112とルーフライニング114との間に配置され(図2(a)参照)、車両後部における車幅方向の骨組みとなる部材である。一方、クォータインナパネル122は、ルーフバックインナメンバ124の下方に配置され(図2(a)参照)、車両後部且つ側部の骨組みとなり車両のサイドボデーの上端を構成する部材である。図1(b)および図2(a)に示すように、本実施形態では、クォータインナパネル122には、その車両後方側の上端近傍に作業穴122aが設けられている。
【0021】
本実施形態における車両100の組み付けでは、図2(a)および(b)に示すように、ルーフバックインナメンバ124と、車両100のサイドボデーの外面を構成するサイドボデーアウタパネル126とを、溶接によりルーフパネル112に接合する。このとき、図2(b)に示す破線部分に作業穴122aが設けられていないと、クォータインナパネル122が支障となり、ルーフパネル112、ルーフバックインナメンバ124およびサイドボデーアウタパネル126の接合部分に、車両内側から溶接装置130(図3(b)参照)を当接させることができない。
【0022】
そこで、上述したように、溶接装置130を挿入するための作業穴122aをクォータインナパネル122に設ける。これにより、図3(b)に示すように、サイドボデーアウタパネル126にクォータインナパネル122を先に組み付けている場合等、ルーフバックインナメンバ124の下方にクォータインナパネル122が配置されている場合であっても、作業穴122aから溶接装置130を挿入することができ、溶接作業を好適に行うことが可能となる。
【0023】
ところで、外気温が低い場合等には、ルーフパネル112の内側に結露水(以下、単に水と称する。)が生じることがあり、かかる水がルーフライニング114に至ると染みが生じてしまい車室内における外観上好ましくない。そこで、ルーフパネル112からの水をルーフライニング114に至る前に排水するべく、ルーフパネル112とルーフライニング114との間に配置される部材であるルーフバックインナメンバ124に、ルーフパネル112からの水を排水するためのドレイン穴124aを設ける必要があった。
【0024】
ルーフ110すなわちルーフパネル112およびルーフライニング114は、車幅方向では、図2(a)に示すように車両外側に向かうほどに下方に向かって傾斜していて、車長方向では、図3(a)に示すように、車両後方に向かうほどに下方に向かって傾斜している。そして、ルーフパネル112およびルーフライニング114の間に配置されるルーフバックインナメンバ124もほぼ同様に傾斜している。したがって、水を最も効率良く排水するためには、ルーフ110内において最も低い位置となる車両100の最も外側且つ最も後方側の近傍となる位置、すなわちルーフバックインナメンバ124の車両後方側且つ車幅方向の端部近傍の位置(図2(b)および図3(a)に示す位置)にドレイン穴124aを設けることが好ましい。
【0025】
しかしながら、上述した位置にドレイン穴124aを設けると、図1(b)に示すようにドレイン穴124aと作業穴122aとが近接する。特に、本実施形態では、ドレイン穴124aと作業穴122aとは単に近接しているだけでなく、車両の前後方向において重なった位置にある。このため、ドレイン穴124aから排水された水が作業穴122aに浸入し、ルーフライニング114に至るおそれがある。すると、今度は、ドレイン穴124aへの水の浸入を防ぐために作業穴122aの大きさや位置を変更する等の対策をとらねばならず、溶接装置130の挿入が困難になったり、溶接箇所に制限が生じたりするという作業上や設計上の新たな課題が生じてしまう。
【0026】
そこで、本実施形態では、クォータインナパネル122において、図1(b)および図2(b)の破線円内に示す、作業穴122aの周囲122bを上方に向かって隆起させる。これにより、ドレイン穴124aから排水された水がルーフバックインナメンバ124の下方に位置するクォータインナパネル122に落下しても隆起によって作業穴122aへの浸入が防がれ、水のルーフライニング114への到達を好適に回避することができる。したがって、ドレイン穴124aの近傍に作業穴122aが設けられていたり、それらが車両100の前後方向において重なった位置にあったりする場合であっても、作業穴122aの大きさや位置等の設計変更を必要とすることなく高い排水効率を得ることが可能となる。
【0027】
そして、クォータインナパネル122の作業穴122aの周囲122bの隆起に加えて、図3(a)に示すように、ルーフバックインナメンバ124におけるドレイン穴124a近傍を車両後方側になるにしたがって下方に向かって傾斜させる。同様に、図4に示すように、クォータインナパネル122における作業穴122a近傍を、車両後方側になるにしたがって下方に向かって傾斜させる。これにより、ドレイン穴124aの近傍および作業穴122aの近傍に至った水は、車両後方側にいくにつれて下方に流れてルーフ110内から排出されるため、排水効率の更なる向上が図れる。
【0028】
更に、図4に示すように、本実施形態ではクォータインナパネル122に、作業穴122aおよびドレイン穴124aよりも車両後方側において凸部122cを形成している。かかる構成によれば、クォータインナパネル122において、作業穴122aの周囲122bの隆起および凸部122cが2つの山となり、かかる山の谷間に水の流路が形成される。その流路により、ドレイン穴124aからクォータインナパネル122に滴下したルーフ110内の水が、図4に示す太破線に示すように作業穴122aと凸部122cとの間を通過して車幅方向の外側に導かれて排水される。したがって、排水効率を更に向上させることができる。
【0029】
上記説明したように、本実施形態にかかる車両ルーフ構造によれば、作業穴122aの周囲の隆起により、ドレイン穴124aからの水の122aへの浸入を好適に防ぐことができる。そして、ドレイン穴124a近傍および作業穴122a近傍が車両後方側になるにしたがって下方に向かって傾斜していたり、クォータインナパネル122に凸部122cが形成されていたりすることにより、水を車両後方側且つ車両外方側に効率的に導くことができ、排水効率を高めることができる。したがって、水のルーフライニング114への到達を確実に防ぐことができ、車室内の外観を好適に維持することが可能となる。
【0030】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は、車両のルーフ後部における車両ルーフ構造に利用することができる。
【符号の説明】
【0032】
100…車両、110…ルーフ、112…ルーフパネル、114…ルーフライニング、122…クォータインナパネル、122a…作業穴、122b…周囲、122c…凸部、124…ルーフバックインナメンバ、124a…ドレイン穴、126…サイドボデーアウタパネル、130…溶接装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のルーフの外面および内面をそれぞれ構成するルーフパネルとルーフライニングとの間に、
前記ルーフパネルからの水を排水するためのドレイン穴が設けられたルーフバックインナメンバと、
前記ルーフバックインナメンバの下方に位置し、少なくとも該ルーフバックインナメンバを前記ルーフパネルに溶接する溶接装置を挿入するための作業穴が設けられた、前記車両のサイドボデーの上端を構成するクォータインナパネルと、を備え、
前記作業穴の周囲は上方に向かって隆起していて、
前記ドレイン穴近傍および前記作業穴近傍は車両後方側になるにしたがって下方に向かって傾斜していることを特徴とする車両ルーフ構造。
【請求項2】
前記ドレイン穴は、前記ルーフバックインナメンバの車両後方側且つ車幅方向の端部近傍に設けられていて、
前記作業穴は、前記クォータインナパネルの車両後方側の上端近傍に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の車両ルーフ構造。
【請求項3】
前記ドレイン穴および作業穴は、前記車両の前後方向において重なった位置にあることを特徴とする請求項1または2に記載の車両ルーフ構造。
【請求項4】
前記クォータインナパネルには、前記作業穴および前記ドレイン穴よりも車両後方側において凸部が形成されていて、
前記ルーフ内の水は、前記クォータインナパネルに滴下した後に、前記作業穴と前記凸部との間を通過して車幅方向の外側に向かって排水されることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の車両ルーフ構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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