説明

車両用のフィルター紙とその製造方法

【課題】付着する熱硬化性樹脂を速やかに硬化させながら、耐折曲強度を著しく向上させる。
【解決手段】車両用のフィルター紙は、熱硬化性樹脂を付着してなる加工紙をプリーツ加工している。車両用のフィルター紙は、熱硬化性樹脂として天然の熱硬化性樹脂を付着している。
【効果】付着する熱硬化性樹脂を速やかに硬化させながら、耐折曲強度を著しく向上できる。熱硬化性樹脂に天然の熱硬化性樹脂を使用することから、環境衛生上人体に無害な状態で製造できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性樹脂を付着している車両用のフィルター紙に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用のフィルター紙は、紙に熱硬化性樹脂を付着して製造される。付着される熱硬化性樹脂は、フィルター紙の耐熱性、耐油性、強度等を向上する。車両用のフィルター紙はオイルフィルターとして使用され、あるいは空気フィルターとして使用され、あるいは又は燃料用フィルターとして使用される。いずれの用途においても、耐熱性と耐油性と強度とが要求される。たとえば、オイルフィルターは、オイルの油温が100℃を超えることから、100℃以上の耐熱性が要求され、またオイルをろ過することから耐油性も要求される。また、空気フィルターもエンジンから排気されるブロイバーガスをバイパスさせることから、耐油性が要求され、さらに高温のブローバイガスが循環され、かつ高温のエンジンルームに設けられることから、耐熱性も要求される。さらに、車両用のフィルター紙は表面積を大きくするために、プリーツ加工して鋭角に折り加工されるが、この部分の強度は折曲しない部分よりも弱くなる。さらに、車両用のフィルター紙は、振動環境で使用されることから、折曲部分の振動に対する強度、すなわち耐折曲強度が極めて大切である。とくに、車両用のフィルター紙は、折曲部が振動で破損すると、ろ過されてこの部分に堆積された異物がエンジン内に吸入されて著しく悪い影響を与える。ろ過される異物は折曲部に堆積されやすく、ここに堆積した異物が一時にエンジン内に吸入されると、エンジンには著しく悪い影響を与える。このことから、車両用のフィルター紙には、耐折曲強度が極めて大切である。
【0003】
さらに、従来のフィルター紙は、熱硬化性樹脂を付着して製造しているが、この熱硬化性樹脂の硬化に時間がかかる欠点がある。硬化時間を短縮するために、付着する熱硬化性樹脂を改良する技術が開発されている。(特許文献1参照)
【特許文献1】特開平7−26499号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されるフィルター紙は、ラテックスとアミノ樹脂からなる混合樹脂をフィルター紙に付着して製造される。このフィルター紙は、硬化時間を短くできるが、十分な耐折曲強度を実現できない。
【0005】
本発明は、従来のフィルター紙が有するこれらの欠点を解決することを目的に開発されたものである。本発明の重要な目的は、付着する熱硬化性樹脂を速やかに硬化させながら、耐折曲強度を著しく向上できる車両用のフィルター紙とその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のフィルター紙とその製造方法は、前述の目的を達成するために以下の構成を備える。
本発明の請求項1のフィルター紙は、熱硬化性樹脂を付着してなる加工紙をプリーツ加工している車両用のフィルター紙であって、熱硬化性樹脂として天然の熱硬化性樹脂を付着している。
【0007】
さらに、本発明の請求項2の車両用のフィルター紙は、天然の熱硬化性樹脂の付着量を10重量%よりも多く、50重量%よりも少なくしている。天然の熱硬化性樹脂の付着量が10重量%よりも少ないと十分な強度を実にできず、また付着量が50重量%を超えると、透気度が低下してフィルターとしての物性が低下することから、天然の熱硬化性樹脂の付着量は、前述の範囲で用途に最適な添加量に調整される。
この明細書において、樹脂付着量は以下の式で特定する。
樹脂付着量(重量%)=[(加工紙重量−原紙重量)/原紙重量]×100
【0008】
また、本発明のフィルター紙は、樹脂を付着してなる加工紙に、少なくともフェノールと、ビスフェノールと、エポキシと、メラミンと、ラテックスと、シリコンと、フッ素と、難燃剤のいずれかを付着できる。このフィルター紙は、天然の熱硬化性樹脂に加えて、これらの付着剤でもって、さらに用途に最適な物性にコントロールできる。
【0009】
また、本発明の請求項4に記載するフィルター紙の製造方法は、原紙に熱硬化性樹脂を付着した後、熱硬化性樹脂を硬化させる前工程又は後工程で、プリーツ加工する方法であって、熱硬化性樹脂に天然の熱硬化性樹脂を使用する。
【0010】
とくに、本発明の請求項5の製造方法は、天然の熱硬化性樹脂をアルカリ溶液で水溶性樹脂として原紙に付着させる。また、請求項6の製造方法は、天然の熱硬化性樹脂をアルカリ溶液で水溶性樹脂として、水溶性樹脂を添加して原紙に付着させる。さらにまた、本発明の請求項7の製造方法は、添加する水溶性樹脂に、PAA、ポリアミドエピクロルヒドリン、ラテックス共重合物、PVA、澱粉のいずれか、又はこれらを複数種混合したものを使用する。また、本発明の請求項8の製造方法は、天然の熱硬化性樹脂をアルコールで希釈して原紙に付着させる。さらにまた、本発明の請求項9の製造方法は、原紙に天然の熱硬化性樹脂に加えて、シリコンとフッ素と難燃剤のいずれかを付着する。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、付着する熱硬化性樹脂を速やかに硬化させながら、耐折曲強度を著しく向上できる特徴がある。ちなみに、本発明の実施例の車両用のフィルター紙は、熱硬化性樹脂を付着して150℃における硬化時間を2分としながら、耐折曲強度を従来の69回/1kg荷重(9.8N)から149回/1kg荷重(9.8N)と2倍以上に向上できる。
【0012】
また、本発明は、熱硬化性樹脂に天然の熱硬化性樹脂を使用することから、環境衛生上人体に無害な状態で製造できる特徴も実現する。
【0013】
とくに、本発明の請求項5の製造方法は、天然の熱硬化性樹脂をアルカリ溶液で樹脂として樹脂を付着してなる加工紙に付着させるので、溶剤を使用することなく、好ましい環境で製造できる。また、本発明の請求項6の製造方法は、天然の熱硬化性樹脂をアルカリ溶液で水溶性樹脂として、PAA、ポリアミドエピクロルヒドリン、ラテックス共重合物、PVA、澱粉等の水溶性樹脂を添加して樹脂を付着してなる加工紙に付着させることから、製造環境を好ましい環境としながら、優れた物性のフィルター紙を製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を実施例に基づいて説明する。ただし、以下に示す実施例は、本発明の技術思想を具体化するためのフィルター紙とその製造方法を例示するものであって、本発明はフィルター紙とその製造方法を以下のものに特定しない。さらに、この明細書は、特許請求の範囲に示される部材を、実施例の部材に特定するものでは決してない。
【実施例】
【0015】
[実施例1]
以下のパルプを使用して、湿式法でフィルター紙の原紙を製造する。原紙は、厚さを0.80mm、メートル坪量を148g/m2とする。
パルプには、以下のものを使用する。
コットンリンターパルプ‥‥‥‥‥‥49重量%
NBKPウッドパルプ‥‥‥‥‥‥‥14重量%
マーセル化NBKPウッドパルプ‥‥37重量%
【0016】
フィルター紙の原紙に天然の熱硬化性樹脂を付着する。天然の熱硬化性樹脂はメタノールに希釈して、原紙に付着させる。希釈濃度は25重量%とする。メタノールを除去する状態で天然の熱硬化性樹脂が原紙に付着される量は20重量%とする。したがって、加工紙の樹脂付着量は20重量%となる。天然の熱硬化性樹脂には、セラック[株式会社岐阜セラック製造所製のC−35]を使用する。天然の熱硬化性樹脂は、ディップスクイズ方式で原紙に塗布して付着させる。
【0017】
その後、乾燥工程を経た後、150℃のキュアー炉で、15分間の熱硬化処理を行ない、実施例1のフィルター紙を製造する。
【0018】
以上の工程で製造されるフィルター紙の坪量と、紙厚と、透気度と、破裂度と、折曲強度は以下の方法で測定される。加工紙と原紙の重量測定は、以下のJIS P8124に規定される坪量測定方法による。
1 坪量 測定方法:JIS P8124
2 紙厚 測定方法:JIS P8118
3 透気度 測定方法:JIS P8117
4 破裂度 測定方法:JIS P8131
5 耐折強度 測定方法:JIS P8115
【0019】
[比較例]
実施例1で製造された原紙を使用し、この原紙に付着する天然の熱硬化性樹脂をフェノール樹脂とする以外、実施例1と同様にして比較例のフィルター紙を製造する。
【0020】
実施例1と比較例の特性は以下の表1と示す値となる。
【0021】
【表1】

透気度:10mmφ300cc
【0022】
以上の表1に示すように、本発明の実施例1のフィルター紙は、紙厚と、透気度と、破裂度と比較例と同等としながら、耐折曲強度を53から149と約3倍と飛躍的に向上できる。したがって、車両用のフィルター紙として使用される状態、すなわちプリーツ加工して鋭角に折曲され、振動を受ける状態で使用されて折曲部の破損を確実に阻止できる特徴が実現される。
【0023】
以上の実施例のフィルター紙は、原紙に天然の熱硬化性樹脂を付着するが、天然の熱硬化性樹脂に加えて、フェノール、ビスフェノール、エポキシ、メラミン、ラテックス、シリコン、フッ素、難燃剤等を添加して、使用環境に最適な物性とすることができる。
【0024】
[実施例2]
原紙に実施例1で得られたものを使用し、以下の工程でフィルター紙を製造する。
この実施例は、天然の熱硬化性樹脂をアルカリ溶液で水溶性樹脂として原紙に付着させる。アルカリ水溶液はアンモニア水とする。この400重量部のアンモニア水に100重量部の天然の熱硬化性樹脂を混合して水溶性樹脂とする。この水溶性樹脂100重量部に、水溶性樹脂として20重量部のアクリル樹脂を混合して混合水溶性樹脂を原紙の付着させる。原紙に付着する天然の熱硬化性樹脂と水溶性樹脂からなるトータル樹脂付着量は20重量%、いいかえると加工紙の樹脂付着量は20重量%とする。
【0025】
その後、乾燥工程を経た後、150℃のキュアー炉で、15分間の熱硬化処理をしてフィルター紙を製造する。実施例2のフィルター紙は、紙厚と、透気度と、破裂度と比較例と同等としながら、耐折曲強度を53から76と約50%も向上できる。したがって、車両用のフィルター紙として使用される状態、すなわちプリーツ加工して鋭角に折曲され、振動を受ける状態で使用されて折曲部の破損を確実に阻止できる特徴が実現される。
【0026】
さらに、この実施例2の製造方法は、水溶性樹脂に、アクリル樹脂に代わって、あるいはこれに加えて、ポリアミドエピクロルヒドリン、ラテックス共重合物、PVA、澱粉のいずれか、又はこれらを複数種混合したものを添加することができる。また、天然の熱硬化性樹脂に加えて、シリコン、フッ素、難燃剤等を付着して種々の用途に最適な物性にコントロールすることもできる。
【0027】
本発明のフィルター紙は、原紙に天然の熱硬化性樹脂やその他の原料を付着して製造方法されたフィルター紙を、プリーツ加工して表面積を大きくして使用される。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、原紙に天然の熱硬化性樹脂を付着することから、製造工程における環境衛生上人体に無害としながら、優れた耐熱性や耐油性を実現し、さらに極めて優れた耐折曲強度を実現して、車両での厳しい使用環境である、高温と激しい振動環境において、破損することなくフィルター紙として理想的な物性を実現する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性樹脂を付着してなる加工紙がプリーツ加工されてなる車両用のフィルター紙において、熱硬化性樹脂が天然の熱硬化性樹脂である車両用のフィルター紙。
【請求項2】
天然の熱硬化性樹脂の樹脂付着量が10重量%よりも多く、50重量%よりも少ない請求項1に記載される車両用のフィルター紙。
【請求項3】
樹脂を付着してなる加工紙に、少なくともフェノールと、ビスフェノールと、エポキシと、メラミンと、ラテックスと、シリコンと、フッ素と、難燃剤のいずれかを付着してなる請求項1に記載される車両用のフィルター紙。
【請求項4】
原紙に熱硬化性樹脂を付着した後、熱硬化性樹脂を硬化させる前工程又は後工程で、プリーツ加工する車両用のフィルター紙の製造方法において、
熱硬化性樹脂に天然の熱硬化性樹脂を使用することを特徴とする車両用のフィルター紙の製造方法。
【請求項5】
天然の熱硬化性樹脂をアルカリ溶液で水溶性樹脂として原紙に付着させる請求項4に記載される車両用のフィルター紙の製造方法。
【請求項6】
天然の熱硬化性樹脂をアルカリ溶液で水溶性樹脂として、水溶性樹脂を添加して原紙に付着させる請求項5に記載される車両用のフィルター紙の製造方法。
【請求項7】
添加する水溶性樹脂に、PAA、ポリアミドエピクロルヒドリン、ラテックス共重合物、PVA、澱粉のいずれか、又はこれらを複数種混合したものを使用する請求項6に記載される車両用のフィルター紙の製造方法。
【請求項8】
天然の熱硬化性樹脂をアルコールで希釈して原紙に付着させる請求項1に記載される車両用のフィルター紙の製造方法。
【請求項9】
原紙に天然の熱硬化性樹脂に加えて、少なくともシリコンとフッ素と難燃剤のいずれかを付着する請求項4に記載される車両用のフィルター紙の製造方法。

【公開番号】特開2009−68119(P2009−68119A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−234727(P2007−234727)
【出願日】平成19年9月10日(2007.9.10)
【出願人】(000116404)阿波製紙株式会社 (19)
【Fターム(参考)】