説明

車両用キャリパブレーキ装置

【課題】振動によるキャリパブレーキ装置の摩耗や破損を防止する車両用キャリパブレーキ装置を提供する。
【解決手段】
ディスク6に摺接して摩擦力を付与する制輪子7と、車両に支持されるキャリパ本体10と、制輪子7をディスク6に押圧するアクチュエータ60と、を備え、アクチュエータ60は、キャリパ本体10に固定される弾性膜75と、弾性膜75によって画成され、流体が供給される駆動圧力室63と、駆動圧力室63に流体を導くバルブ30と、弾性膜75と制輪子7との間に介装されるピストン65と、を有し、駆動圧力室63に流体が供給され弾性膜75が制輪子7側に膨らむことによってピストン65が制輪子7をディスク6に摺接させ、バルブ30は、制動時に、駆動圧力室63へと流体を導く一方、制動解除時に、駆動圧力室63から流体が排出されることを制限する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪と共に回転するディスクに摩擦力を付与して制動するキャリパブレーキ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄道車両等に用いるブレーキ装置として、油圧ブレーキ装置が用いられている。油圧ブレーキ装置は、空気圧源から供給される空気によって発生させた空気圧を油圧に変換する空油変換器を搭載し、空油変換器から油圧配管を介して供給される油圧によってブレーキを作動させる(特許文献1、2参照)。
【0003】
油圧ブレーキ装置は、空油変換器や油圧配管の存在により重量やコストが増加する。そのため、油圧を用いず空気圧によってブレーキを作動させる空気圧ブレーキを鉄道車両に搭載することが望まれている。
【0004】
このような要望に対して、ダイアフラムを用いたアクチュエータに供給される空気圧によって制輪子を押圧作動する鉄道車両用空気圧ブレーキ装置が開発されている(特許文献3参照)。
【特許文献1】特開平8−226469号公報
【特許文献2】特開平8−226471号公報
【特許文献3】特開2009−162245号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の空気圧式キャリパブレーキ装置では、制動時には、空気をダイアフラムに供給して空気圧によりピストンを押圧することで制輪子をディスクに摺接させ、制動解除時には、ダイアフラムから空気を排出して空気圧を減じて、戻しバネの付勢力によってピストンを後退させていた。
【0006】
このような空気圧式キャリパブレーキ装置は、制動解除時にダイアフラムの空気圧を減少させるので、ピストンを支持するものがバネとピストンを囲繞する支持部位のみとなる。この場合、車両の走行時に発生する振動によりキャリパブレーキ装置内部でピストンが振動することによって、摩耗が発生する可能性があるという問題があった。
【0007】
このような不具合を防止するために、制動解除時にもダイアフラムに微少の空気圧を残留させるように空気圧の制御系統を変更することも考えられるが、この変更によって、コストの増加や重量の増加の要因となるという問題があった。
【0008】
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであり、コストや重量を増加させることなく、振動による摩耗を防止する車両用キャリパブレーキ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、車輪と共に回転するディスクに摩擦力を付与する車両用キャリパブレーキ装置であって、ディスクに摺接して摩擦力を付与する制輪子と、車両に支持されるキャリパ本体と、制輪子をディスクに押圧するアクチュエータと、を備え、アクチュエータは、キャリパ本体に固定される弾性膜と、弾性膜によって画成され、流体が供給される駆動圧力室と、駆動圧力室に流体を導くバルブと、弾性膜と制輪子との間に介装されるピストンと、を有し、駆動圧力室に流体が供給されて弾性膜が制輪子側に膨らむことによってピストンが制輪子をディスクに摺接させるときを制動時とし、駆動圧力室への流体の供給が停止されて弾性膜が萎むことによってピストンが制輪子を前記ディスクから離間させるときを制動解除時としたとき、バルブは、制動時に、駆動圧力室へと流体を導く一方、制動解除時に、駆動圧力室から流体が排出されることを制限することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、制動解除時に、駆動圧力室から流体の排出を制限するので、駆動圧力室に残留する流体によって駆動圧力室の流体圧力を保持して、弾性膜の膨らみを、ピストンが制輪子をディスクに摺接させない程度の膨らみに維持する。これにより、弾性膜がピストンを押圧することによりピストンの振動を抑えることができ、振動によりピストン及び他の構成部品に摩耗が発生することを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態のキャリパブレーキ装置の側面図である。
【図2】本発明の実施形態のキャリパブレーキ装置の断面図である。
【図3】本発明の実施形態の残圧バルブの断面図である。
【図4】本発明の実施形態の制動時の残圧バルブの断面図である。
【図5】本発明の実施形態の制動解除時の残圧バルブの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0013】
図1は、本発明の実施形態のキャリパブレーキ装置1の側面図、図2は図1のA−A線における断面図である。ここで、互いに直行するX、Y、Zの3軸を設定し、X軸が水平横方向、Y軸が鉛直方向、Z軸が水平前後方向に延びるものとし、キャリパブレーキ装置1の構成を説明する。なお、図2において、Hは車輪5の中心線である。
【0014】
鉄道車両に搭載されるキャリパブレーキ装置1は、対の制輪子7の間に車輪5のディスク6を挟持し、車輪5の回転を制動する。
【0015】
キャリパ本体10は、鉄道車両の図示しない台車(車体)に固定される支持枠20に、上下スライドピン31、32によってX軸方向に摺動可能にフローティング支持される。
【0016】
キャリパ本体10は、車輪5のディスク6に跨るようにして延びる対のキャリパアーム12と、左右のキャリパアーム12を結ぶヨーク部13とを有する。
【0017】
右のキャリパアーム12の上下端部にアジャスタ41がアンカボルト42を介してそれぞれ締結される。上下のアジャスタ41はX軸方向に突出するアンカピン43を備える。アンカピン43を介して制輪子7及びその支持板8の両端部がそれぞれ支持される。
【0018】
制輪子7は、ディスク6に摺接する摩擦材としてライニング9を備えるとともに、このライニング9の背部が取付けられる金属製のライニング背板19を備える。
【0019】
制輪子7は、アンカピン43を介して支持板8に支持されている。制輪子7は、支持板8の上下端部が各アンカピン43に係合することにより、ディスク6に対して進退可能に支持され、ライニング背板19の上下端部が各アンカピン43に係合することにより、その制動反力が支持される。
【0020】
なお、アジャスタ41はアンカピン43の露出部を覆うゴム製のブーツ(図示せず)が介装され、このブーツによってダストから保護される。
【0021】
アジャスタ41はアンカピン43を介して制輪子7をディスク6から離す方向に付勢する戻しバネ44と、制動解除時に制輪子7とディスク6との隙間Sを略一定に調整する隙間調整機構45とを備える。
【0022】
制動解除時に制輪子7は戻しバネ44の付勢力によってディスク6から離され、隙間調整機構45によってディスク6との隙間Sが略一定に保たれる。
【0023】
図示しない左のキャリパアームには、支持レールが一体形成される。この支持レールにはアリ溝が形成され、このアリ溝に左の制輪子のライニング背板が差し込まれる。制輪子は、支持レールに差し込まれるとともに、その上下端がアンカブロックに係合することによって抜け止めされ、左のキャリパアームに固定される。
【0024】
右のキャリパアーム12に支持板8を介して制輪子7をディスク6に押圧するアクチュエータ60が設けられる。アクチュエータ60は、各アジャスタ41の間に配置される。
【0025】
アクチュエータ60は、鉄道車両に搭載される空気圧源から駆動圧力室63に流体としての空気が供給されて、流体の圧力としての空気圧によって弾性膜75がピストン65を介して制輪子7を押圧作動する。
【0026】
アクチュエータ60は、キャリパアーム12に形成される収容壁12bと、この収容壁12bに取付けられる弾性膜75と、収容壁12bに締結されるカバー92と、収容壁12bとこの弾性膜75とこのカバー92の間に画成される駆動圧力室63と、弾性膜75と制輪子7の間に介装されるピストン65とを備え、駆動圧力室63に導かれる空気によって空気圧が高められて、弾性膜75が制輪子7をX軸方向に押圧し、制輪子7をディスク6に押付ける。
【0027】
図1に示すように、収容壁12bは、キャリパアーム12を貫通する長円筒面状に形成される。収容壁12bは、ライニング9の広い範囲に対峙する略長円形の断面をもって形成される。
【0028】
なお、これに限らず、収容壁12bは、ライニング9に沿った円弧状の断面をもつ形状としてもよい。
【0029】
キャリパアーム12は、収容壁12bの開口縁部のまわりに延びる環状の取付座12aを有する。取付座12aには複数のネジ穴が所定の間隔を持って形成され、各ネジ穴に螺合するボルト84を介してカバー92が締結される。取付座12aとカバー92との間に弾性膜75の周縁部76が挟持される。
【0030】
カバー92は、取付座12aと同じく略長円形の外形を有する。カバー92は、駆動圧力室63を画成する部位が凹状に窪む皿状に形成される。
【0031】
弾性膜75は、樹脂製弾性材によって形成される。なお、弾性膜75は、樹脂製弾性材に例えばカーボン繊維、ケプラー繊維等の強化材を複合したものを用いてベローズを形成しても良い。また、弾性膜75を金属薄板からなるベローズやゴム製チューブやダイアフラムを用いて形成してもよい。
【0032】
弾性膜75は、取付座12aとカバー92との間に挟持される周縁部76と、収容壁12bに沿って伸縮するベローズ部77と、制輪子7に対峙する押圧部79とを有する。
【0033】
弾性膜75の押圧部79と制輪子7の間にピストン65が介装される。ピストン65は、支持板8に形成された開口部を貫通して制輪子7に当接し、弾性膜75の動きを制輪子7に伝達する。ピストン65はキー66を介して支持板8に締結される。
【0034】
キャリパアーム12には、インレット部18が設けられる。インレット部18は、図示しない空気圧源に連通する空気圧配管35と、空気圧配管35から供給される空気をインレット部18に導く残圧バルブ30とが接続される。空気圧源からの加圧空気は、図示しない切換弁を介して空気圧配管35から、残圧バルブ30、インレット部18を介して駆動圧力室63に供給される。切換弁は図示しないコントローラからの指令に応じて作動し、制動時に空気圧源からの加圧空気を駆動圧力室63に導く一方、制動解除時に大気圧を駆動圧力室63に導く。
【0035】
次に、キャリパブレーキ装置1の動作を説明する。
【0036】
制動時には、インレット部18から駆動圧力室63に導かれる空気によって空気圧が高められることにより、弾性膜75が制輪子7側に膨らみ、弾性膜75がピストン65を介して制輪子7をディスク6に押圧する。これによって、制輪子7がディスク6に摩擦力を付与し、車輪5の回転を制動する。
【0037】
制動解除時には、インレット部18から駆動圧力室63の空気が排出されて空気圧が制動時よりも下げられることにより、弾性膜75が萎み、ベローズ部77及び押圧部79が収縮し、制輪子7が戻しバネ44の付勢力によってディスク6から離間される。このとき、ディスク6との隙間Sが隙間調整機構45によって略一定に調整される。
【0038】
このように、キャリパブレーキ装置1において、制動解除時には駆動圧力室63の空気がインレット部18から排出され、駆動圧力室63の空気圧が減少する。空気圧の減少に伴って、弾性膜75のベローズ部77及び押圧部79が収縮し、ピストン65の押圧が解放される。このとき、ピストン65は、戻しバネ44の付勢力によってディスク6から離反する側に移動される。
【0039】
従来の空気圧式ブレーキでは、制動解除時に、駆動圧力室63の空気圧は大気圧力と略等しくなり、ピストン65は、戻しバネ44の付勢力によって制動解放側に付勢される。
【0040】
しかし、ピストン65は、弾性膜75のベローズ部77及び押圧部79では押圧されていないため、キャリパブレーキ装置1に振動が加わった場合はピストン65が振動して、ピストン65をはじめとするキャリパブレーキ装置1を構成する部品の摩耗、破損が発生する慮がある。
【0041】
このような問題に対して、車両の空気圧源から、制動解除時にも空気圧を制御する仕組みを追加することも考えられるが、このような仕組みを追加することによりブレーキ系統の大幅な変更が必要となり、コスト増や重量増に繋がる。
【0042】
そこで、本発明の実施形態では、次に説明するような特徴的な構成によって、コストや重量を大きく増加することなく、振動によるキャリパブレーキ装置1の摩耗や破損を防止できるように構成した。
【0043】
本発明の実施形態では、図1に示したように、キャリパアーム12に、空気圧配管35から供給される空気をインレット部18に導く残圧バルブ30が連結される。残圧バルブ30は、後述するような構成によって、制動解除時に空気圧配管35から空気が供給されない場合は、駆動圧力室63から空気が排出されることを制限して駆動圧力室65の空気圧を保持し、ピストン65の振動を防止する。
【0044】
図3は、本発明の実施形態の残圧バルブ30を説明する断面図である。
【0045】
残圧バルブ30は、略円筒形の外形を有し、空気圧配管35に連結するインレットポート110と、インレット部18に連結するキャリパ側ポート120とを備える。
【0046】
残圧バルブ30は、バルブハウジング100と、通気口110aを備えるインレットポート110と、通気口120aを備えるキャリパ側ポート120とが軸方向に連結されている。インレットポート110とキャリパ側ポート120とは、それぞれ螺合によってバルブハウジング100に固定される。
【0047】
インレットポート110とバルブハウジング100との間、及び、キャリパ側ポート120とバルブハウジング100との間は、それぞれシート材200及びパッキン210が介装されており、通過する空気の漏れを防止する。
【0048】
バルブハウジング100は、外形が円筒状の形状を有し、内部に空洞部が形成されている。バルブハウジング100は、バルブハウジング100の内部の空洞部を、軸方向に第1の空洞部100cと第2の空洞部100dとに二分する仕切壁101が形成されている。仕切壁101を境として、インレットポート110側に円筒状の第1の空洞部100cが、キャリパ側ポート120側に円筒状の第2の空洞部100dが、それぞれ形成される。第1の空洞部100cは、通気口110a側に開放する。第2の空洞部100dは、通気口120a側に開放する。
【0049】
仕切壁101は、中央に第2の通気口100aが貫通しており、第2の通気口100aの周囲に複数の第1の通気口100bが貫通する。
【0050】
バルブハウジング100には、通気口110aを備えるインレットポート110が螺合される。第1の空洞部100cの開放部がインレットポート110によって封止される一方、第1の空洞部100cが通気口110aに連通する。第1の空洞部100cには、第1のバルブシート130が軸方向に摺動可能に設けられる。第1のバルブシート130は、第1のスプリング160によって、通気口120a側に付勢されている。
【0051】
第1のバルブシート130は、その中央部に通気口130aが貫通しており、この通気口130aは、第2の通気口100aに連通する。
【0052】
第1のバルブシート130は、第1の通気口100bに対向する部分にシート材180が設けられている。このシート材180は、第1のバルブシート130が仕切壁101に当接しているときに、第1の通気口100bを閉塞する。
【0053】
バルブハウジング100は、通気口120aを備えるキャリパ側ポート120が螺合され、第2の空洞部100dの開放部がキャリパ側ポート120によって封止される一方、第2の空洞部100dが通気口120aに連通する。第2の空洞部100dには、第2のバルブシート140が軸方向に摺動可能に設けられる。第2のバルブシート140は、第2のスプリング170によって、通気口110a側に付勢されている。
【0054】
第2のバルブシート140には、通気口120a側に第2のバルブシート140の外径よりも小径の段差部140aが形成されており、段差部140aの周囲にスペーサ150が嵌挿されている。スペーサ150は、第2の空洞部100dにおいてバルブハウジング100の内壁と間隙を有して取付けられている。スペーサ150は、通気口150aが貫通する。スペーサ150の通気口150a又はスペーサ150とバルブハウジング100の内壁との間隙によって、第2の空洞部100dにおいて、第2のバルブシート140の位置にかかわらず、仕切壁101に形成された第1の通気口100bと通気口120aとが連通する。
【0055】
第2のバルブシート140は、第2の通気口100aに対向する部分にシート材190が設けられている。このシート材190は、第2のバルブシート140が仕切壁101に当接しているときに、第2の通気口100aを閉塞する。
【0056】
次に、このように構成された残圧バルブ30の動作を説明する。
【0057】
図4は、本発明の実施形態の残圧バルブ30において、制動時の説明図である。
【0058】
制動時には図示しない空気圧力源からの空気が、図1に示す空気圧配管35及び残圧バルブ30を介して、キャリパブレーキ装置1の駆動圧力室63に供給される。
【0059】
このとき、残圧バルブ30において、通気口110aから通気口120aに向かって空気が供給される。第1のバルブシート130は、第1のスプリング160の付勢力及び供給された空気による空気圧によって仕切壁101に接する。
【0060】
また、第2のバルブシート140は、通気口130aに連通する第2の通気口100aから供給された空気による空気圧が、第2のスプリング170の付勢力を上回ったときに、通気口120a側へと摺動する。
【0061】
空気は、第2の通気口100aから、スペーサ150とバルブハウジング100の内壁との間、第2のバルブシート140とバルブハウジング100との隙間、及び、スペーサ150の通気口150aを通過して、通気口120aに排出される。通気口120aから排出される空気は、図1に示すインレット部18から、駆動圧力室63に供給されてピストン65を押圧することにより、制輪子7がディスク6に摺接して、車輪5の制動を行う。
【0062】
図5は、本発明の実施形態の残圧バルブ30において、制動解除を開始したときの説明図である。
【0063】
制動解除時には、図1に示したように、空気圧配管35が大気圧に開放されて、駆動圧力室63の空気が排出される。
【0064】
このとき、残圧バルブ30において、通気口120aから通気口110aに向かって空気が通過する。第2のバルブシート140は、第2のスプリング170の付勢力及び空気の通過による空気圧によって仕切壁101に接する。この状態では、第2の空洞部100dと第1の通気口100bとが連通しており、残圧バルブ30を通過する空気は、第1の通気口100bを通過して第1のバルブシート130を通気口110a側に押圧する。
【0065】
このとき、第1の通気口100bを通過する空気による空気圧が、第1のスプリング160の付勢力を上回っている場合は、第1のバルブシート130は通気口110a側へと摺動する。これにより、空気は、通気口120aから、スペーサ150とバルブハウジング100の内壁との隙間、スペーサ150の通気口150a、第2のバルブシート140とバルブハウジング100との隙間、第1の通気口100b、及び、通気口130aを通過して、通気口110aに出力される。この状態で、駆動圧力室63の空気圧が残圧バルブ30を経由して減圧される。
【0066】
駆動圧力室63の空気圧が減圧されて、第1の通気口100bを通過する空気による空気圧が第1のスプリング160の付勢力以下となった場合は、第1のバルブシート130は、第1のスプリング160の付勢力によって通気口120a側に摺動し、仕切壁101に当接する(図3参照)。第1のバルブシート130が、第1のスプリング160の付勢力によって仕切壁101に当接した場合は、駆動圧力室63の空気は排出されなくなり、駆動圧力室63が一定の圧力に保たれる。
【0067】
このとき、ピストン65は、駆動圧力室63に一定の空気が残留することによって、空気圧により制輪子7を押圧する方向に力が加わると同時に、戻しバネ44の付勢力によって制輪子7がディスク6から離れる方向に付勢される。従って、ピストン65は、X軸上の正方向の力と負方向の力とによって押圧されるので、キャリパブレーキ装置1が振動した場合にも、ピストン65がキャリパアーム12に対して振動することを抑えることができる。なお、図3に示すように、制動解除後に、残圧バルブ30によって駆動圧力室63の空気が排出されない状態のとき、駆動圧力室63の空気圧は、戻しバネ44の付勢力よりも小さく、ピストン65が振動しない程度の圧力に設定する。このときの圧力はキャリパブレーキ装置1の構成によっても異なるが、例えば0.02〜0.03[Pa]程度とする。
【0068】
以上説明したように、本発明の実施形態のキャリパブレーキ装置1は、車輪5と共に回転するディスク6に摺接して摩擦力を付与する制輪子7と、車両に支持されるキャリパアーム12と、制輪子7をディスク6に押圧するアクチュエータ60とにより構成される。アクチュエータ60は、キャリパアーム12に固定される弾性膜75と、弾性膜75によって画成され、制動時に空気が供給される駆動圧力室63と、駆動圧力室に空気を導く残圧バルブ30と、弾性膜75と制輪子7との間に介装されるピストン65と、を有する。残圧バルブ30は、制動時に、駆動圧力室63へと空気を導く一方、制動解除時に、駆動圧力室63から空気が排出されることを制限する。
【0069】
このように構成したことによって、制動解除時に、残圧バルブ30によって駆動圧力室63から空気が排出されることを制限して、駆動圧力室63の内部に一定の空気圧を残すことができる。これにより、弾性膜の膨らみを、ピストンが制輪子をディスクに摺接させない程度の膨らみに維持することができ、制動解除後にも、ピストン65が残留した空気圧によって押圧されるため、キャリパアーム12の内部でピストン65が振動することを防止でき、振動によりキャリパブレーキ装置1の摩耗や破損を防止することができる。
【0070】
また、残圧バルブ30は、第1のスプリング160によって通気口120a側に付勢された第1のバルブシート(第1の弁体)130と、第2のスプリング170によって通気口110a側に付勢された第2のバルブシート(第2の弁体)140と、が設けられ、第2のバルブシート140を開成したときに空気が駆動圧力室63に供給され、第1のバルブシート130を開成したときに空気が駆動圧力室63から排出され、第1のバルブシート130及び第2のバルブシート140を共に閉成したときに、空気が駆動圧力室63から排出されることが制限される。
【0071】
このような構成によって、キャリパブレーキ装置1の他の構成に変更を加えることなく残圧バルブ30の構成のみによって駆動圧力室63からの空気の排出を制限することができ、コストや重量を増加させることなく、振動によりキャリパブレーキ装置1の摩耗や破損を防止することができる。また、残圧バルブ30は、バルブハウジング100内に第1のスプリング160及び第2のスプリング170によって付勢される第1のバルブシート130及び第2のバルブシート140という構成であり、空気圧配管35の径と略同程度に形成することができ、その外形が大型化しないので、既存のキャリパブレーキ装置1やその他の構成部品に変更を加えることなく、駆動圧力室63からの空気の排出を制限することができる。
【0072】
また、残圧バルブ30は、制動解除時に、駆動圧力室63から排出される空気による空気圧が第1のスプリング160の付勢力を上回った場合には、第1のバルブシート130を開成して駆動圧力室63からの空気を排出し、駆動圧力室63から排出される空気による空気圧が第1のスプリング160の付勢力以下となった場合には、第1のバルブシート130を閉成して駆動圧力室63からの空気の排出を停止する。
【0073】
このような構成によって、残圧バルブ30の機械的な動作のみによって駆動圧力室63からの空気の排出を制限することができ、コストを増加させることなく、振動によりキャリパブレーキ装置1の摩耗や破損を防止することができる。
【0074】
また、残圧バルブ30は、第1のバルブシート130が閉成したときに、第2のバルブシート140の開閉にかかわらず閉塞される第1の通気口100bと、第2のバルブシート140が閉成したときに、第1のバルブシート130の開閉にかかわらず閉塞される第2の通気口100aと、が形成され、制動時は、第1の通気口100bを通過する空気によって第2のスプリング170の付勢力に抗して第2のバルブシート140が開成し、制動解除時は、第2の通気口100aを通過する空気によって第1のスプリング160の付勢力に抗してバルブシート130が開成する。
【0075】
このような構成によって、残圧バルブ30の機械的な動作のみによって駆動圧力室63からの空気の排出を制限することができる。第2の通気口100a、100bはオリフィス構造となっており、オリフィス部分を空気が通過することによって空気圧を高め、第1のバルブシート130及び第2のバルブシート140を開閉することができる。これにより、コストを増加させることなく、振動によりキャリパブレーキ装置1の摩耗や破損を防止することができる。
【0076】
また、残圧バルブ30は、キャリパアーム12に対して容易に取り外し可能に構成されているので、制動解除時に駆動圧力室63に空気圧を残す必要がない場合には、残圧バルブ30を取り外して使用することができる。
【0077】
なお、以上説明した本発明の実施形態では、空気圧式のキャリパブレーキ装置1を例に説明したが、油圧式のキャリパブレーキ装置に本実施形態の残圧バルブを適用して、油圧式のピストン室の内圧を保持することによって、油圧式のピストンの振動を防止するように構成してもよい。
【0078】
本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その技術的思想の範囲内でなしうるさまざまな変更、改良が含まれることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0079】
1 キャリパブレーキ装置
5 車輪
6 ディスク
7 制輪子
12 キャリパアーム
18 インレット部
30 残圧バルブ
60 アクチュエータ
63 駆動圧力室
65 ピストン
75 弾性膜
100 バルブハウジング
100a 第2の通気口
100b 第1の通気口
130 第1のバルブシート
130a 通気口
140 第1のバルブシート
150 スペーサ
150a 通気口
160 第1のスプリング
170 第2のスプリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪と共に回転するディスクに摩擦力を付与する車両用キャリパブレーキ装置であって、
前記ディスクに摺接して摩擦力を付与する制輪子と、
車両に支持されるキャリパ本体と、
前記制輪子を前記ディスクに押圧するアクチュエータと、を備え、
前記アクチュエータは、
前記キャリパ本体に固定される弾性膜と、
前記弾性膜によって画成され、流体が供給される駆動圧力室と、
前記駆動圧力室に前記流体を導くバルブと、
前記弾性膜と前記制輪子との間に介装されるピストンと、を有し、
前記駆動圧力室に流体が供給されて前記弾性膜が前記制輪子側に膨らむことによって前記ピストンが前記制輪子を前記ディスクに摺接させるときを制動時とし、前記駆動圧力室への流体の供給が停止されて前記弾性膜が萎むことによって前記ピストンが前記制輪子を前記ディスクから離間させるときを制動解除時としたとき、
前記バルブは、前記制動時に、前記駆動圧力室へと流体を導く一方、前記制動解除時に、前記駆動圧力室から流体が排出されることを制限することを特徴とする車両用キャリパブレーキ装置。
【請求項2】
前記バルブは、
内部に空洞部を有し、前記空洞部を軸方向に第1の空洞部と第2の空洞部とに二分するとともに第1の通気口及び第2の通気口を有する仕切壁が形成され、
前記第1の空洞部には、前記仕切壁に当接することで前記第1の通気口を閉成する第1の弁体が設けられ、
前記第2の空洞部には、前記仕切壁に当接することで前記第2の通気口を閉成する第2の弁体が設けられ、
前記第2の弁体を開成したときに前記流体が前記第2の通気口を介して前記駆動圧力室に供給され、
前記第1の弁体を開成したときに前記流体が前記第1の通気口を介して前記駆動圧力室から排出され、
前記第1の弁体及び前記第2の弁体を共に閉成したときに前記流体が前記駆動圧力室から排出されることを制限することを特徴とする請求項1に記載の車両用キャリパブレーキ装置。
【請求項3】
前記第1の弁体は、スプリングによって前記仕切壁側に付勢され、
前記バルブは、制動解除時に、
前記駆動圧力室から排出される流体の圧力が前記スプリングの付勢力を上回った場合は、前記第1の弁体を開成して前記駆動圧力室からの流体を排出し、
前記駆動圧力室から排出される流体の圧力が前記スプリングの付勢力以下となった場合は、前記第1の弁体を閉成して前記駆動圧力室から流体が排出されることを停止することを特徴とする請求項2に記載の車両用キャリパブレーキ装置。
【請求項4】
前記バルブは、制動解除時に、前記第1の通気口を通過する流体の圧力によって、前記第1のスプリングの付勢力に抗して前記第1の弁体が開成することを特徴とする請求項3に記載の車両用キャリパブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−225448(P2012−225448A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−94812(P2011−94812)
【出願日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【出願人】(000173784)公益財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【Fターム(参考)】