説明

車両用シートの前倒れ防止ストッパ

【課題】 シートクッション前端のヒンジ機構に前倒れ防止機能を加えると、ヒンジ機構の構成が複雑化して部品点数が増加するとともに、ヒンジ機構に設けたストッパに大きな負荷が加わり、ストッパを材料強度の優れた材料から強固な構造に形成する必要がある。
【解決手段】 ストッパ24は、鋼管や略コ字形断面に折曲された鋼板からなり、シートクッション前端下面から前方に延び、シートクッション12、シートバック14の起立位置でその先端が車床11に押圧されている。ストッパの先端には、樹脂キャップ、ゴムキャップなどの弾性キャップ24bが嵌着される。ストッパ24は鋼管に限定されず、必要な強度を持ち、シートクッションの下端下面から前方に延びて車床11に押圧されるものであれば足りる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートクッション、シートバックが折り畳まれ、車床に対して起立した状態で格納される車両用シートの前倒れを防止するストッパ(前倒れ防止ストッパ)に関する。
【背景技術】
【0002】
シートバックがシートクッションの後端に回動可能に取り付けられるとともに、シートクッションの前端がヒンジ機構を介して車床に回動可能に取り付けられ、シートクッションの後端がロック機構によって車床に着脱可能に固定された車両用シートが知られており、リヤシートなどに広く利用されている。
この種の車両用シートにおいては、シートクッションをシートクッション上に前倒し、シートクッション後端のロックを解除してシートバックとともにシートクッションをヒンジ機構のヒンジ(回動軸)の回りで回動させて跳ね上げ、折り畳んだシートクッション、シートバックを車床に対して起立した状態で格納すれば、収納スペース(荷物スペース)を確保できる。
【0003】
シートクッション、シートバックは前に倒れこんだ状態で起立し、シートバックの上端やシートバック上端のヘッドレストが車床に近づいて位置するため、車両の走行時の振動などによって起立位置(タンブル位置)から前倒れすると、シートバック上端やヘッドレストが車床に当接して汚れたり、破損するおそれがある。
そのため、起立位置での前倒れを確実に防止する必要があり、従来は、シートクッション前端のヒンジ機構に前倒れを防止する機能を付加して構成することにより、シートバック上端などの汚れや破損を防止している(たとえば、特開2008−247298号公報)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−247298号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、シートクッション前端のヒンジ機構に前倒れ防止機能を加えると、ヒンジ機構の構成が複雑化して部品点数が増加し、高コスト、重量化が避けられない。
また、シートクッション、シートバックは前に倒れこんだ状態で起立しており、ヒンジ機構自体に設けた前倒れ防止のためのストッパに、シートクッション、シートバックの荷重が加わる。そして、シートクッション前端のヒンジ機構のヒンジ(回動軸)がシートクッション、シートバックの前倒れの回動中心となっており、ストッパは回動中心に接近して設けられるため、大きな負荷がストッパに加わり、必要な強度を確保するためにストッパを強度の優れた材料から強固な構造に形成する必要があり、この点からも高コスト、重量化が避けられない。
【0006】
本発明は、低コスト、軽量化のもとで、起立位置でのシートクッション、シートバックの前倒れを防止できる車両用シートのストッパ(前倒し防止ストッパ)の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために本発明では、シートクッション、シートバックが跳ね上げられて車床に対して起立した位置でその先端が車床に押圧されるストッパをシートクッションの前端下面に設けている。
すなわち、請求項1に係る本発明によれば、シートバックがシートクッションの後端に回動可能に取り付けられるとともに、シートクッションの前端がヒンジ機構を介して車床に回動可能に取り付けられ、シートクッションの後端がロック機構によって車床に着脱可能に固定された車両用シートにおいて、シートクッション、シートバックを跳ね上げて車床に対して起立した状態での前倒れを防止するストッパが、シートクッション前端下面から前方に延び、シートクッション、シートバックの起立位置でその先端が車床に押圧されている。
【発明の効果】
【0008】
請求項1に係る本発明では、シートクッション前端のヒンジ機構とは無関係にストッパが設けられるため、ヒンジ機構の構成の複雑化が防止されるとともに、従来のヒンジ機構を設計変更する必要がなく、従来のヒンジ機構がそのまま使用できる。
また、ヒンジ機構のヒンジ(回動中心)から離れた位置でシートクッション前端下面にストッパを設ければ足り、簡単な構成でストッパが得られるとともに、大きな負荷がストッパに加わらないため、材料強度の優れた材料から強固な構造に形成することなく必要な強度を確保でき、少ない部品点数、低コスト、軽量のもとで起立位置での前倒れを確実に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施例に係るストッパの組み込まれた車両用シートの部分斜視図を示す。
【図2】表皮を省略した車両用シートの概略左側面図を示す。
【図3】(A)(B)はストッパの組み立て前後の正面図、(C)(D)(E)は変形例に係るストッパの組み立て前後の正面図、組み立て後の平面図を示す。
【図4】ストッパとシートクッションフレームとの関係を示す一部破断のシートの概略斜視図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
ストッパは、鋼管や略コ字形断面に折曲された鋼板からなり、シートクッション前端下面から前方に延び、シートクッション、シートバックの起立位置で、その先端が車床に押圧されている。ストッパの先端には、樹脂キャップ、ゴムキャップなどの弾性キャップが嵌着される。
【実施例】
【0011】
以下、図面を参照しながら本発明の一実施例について詳細に説明する。
図1は本発明の一実施例に係るストッパの組み込まれた車両用シートの部分斜視図、図2は表皮を省略した車両用シートの概略左側面図をそれぞれ示す。
【0012】
図1、図2に示すように、車両用シート10はリヤシートとして具体化され、このリヤシート(車両用シート)は、車床11上に配置されたシートクッション12と、シートクッションの後端に回動可能に取り付けられたシートバック14とを備え、シートバック上端部にはヘッドレスト16が設けられている。
シートバック14は、たとえば、その横幅をほぼ6:4に2分割した、いわゆる不等分割の3人用シートとされ、図1には横幅が全体の6割に対応する幅の2人用のシートバックと、対応する2人用のシートクッションとが図示され、4割の幅部分に対応するシート左半部は省略されている。
【0013】
シートクッション12は、その前端がヒンジ機構20を介して車床11に回動可能に取り付けられるとともに、その後端がロック機構22によって車床に着脱可能に固定されている。シートバック14をシートクッション12の上に前倒し、ロック機構22によるシートクッション後端のロックを解除してシートバックとともにシートクッションをヒンジ機構のヒンジ(回動軸)20aの回りで回動させて跳ね上げ、折り畳んだシートクッション、シートバックを車床11に対して起立した状態で格納すれば、収納スペース(荷物スペース)が確保される。
シートクッション12、シートバック14を跳ね上げて、車床11に対して起立させた状態でのシート10を図2に想像線(二点鎖線)で示す。なお、この起立位置(タンブル位置)では、ヘッドレスト16は取り外されている。
【0014】
ヒンジ機構20、ロック機構22を有して、シートクッション12、シートバック14を跳ね上げて、車床11に対して起立させるシートの構成は公知であり(例えば、特開2008−247298号公報参照)、本発明の要旨でないため詳細な説明は省略する。
【0015】
本発明では、起立位置での前倒れを防止するために、図1、図2に示すように、ストッパ24がシートクッション前端下面から前方に延ばされており、このストッパは、シートバック14、シートクッション12の起立位置でその先端が車床11に押圧されている(図2参照)。
【0016】
図3(A)(B)はストッパの組み立て前後の正面図、図4はストッパとシートクッションフレームとの関係を示す一部破断のシートの概略斜視図をそれぞれ示す。
図3(A)(B)に示すように、たとえば、ストッパ24は鋼管からなるストッパ本体24aの先端にヘッド付の弾性キャップ24bを嵌着して形成され、シートクッションフレーム12aの前フレーム12a’に溶着によって固定される。実施例では、その固定端は溶着対象の前フレーム12a’の外形形状(円形面)に対応した円形の切欠き面に形成されているため、位置決めが容易に行えるとともに、溶着面が十分に確保されてストッパを前フレームに強固に固定できる。
【0017】
シートバック14、シートクッション12の起立位置でストッパ24の先端が車床11に押圧されることにより、前倒れが確実に防止される。
また、シート10を車内に取り付けるとき(車載のとき)にも特別な組み付け作業を必要としないでストッパ24が取り付けられ、作業性の低下を招くことがない。ユーザーに特別な操作を強いることもなく前倒れを防止でき、商品性が向上する。
【0018】
シートクッション前端のヒンジ機構20と無関係にストッパ24が設けられるため、ヒンジ機構の構成が複雑化しないとともに、ヒンジ機構20に設計変更を加えないため、従来のヒンジ機構がそのまま使用できる。車床11と接地可能にシートクッション前端下面から延出させれば足り、鋼管などから簡単な構成でストッパを形成できる。
【0019】
鋼管から本体24aを形成し、樹脂キャップ、ゴムキャップなどの弾性キャップ24bをその先端に嵌着してストッパ24を構成すれば、ストッパが押圧される車床11を傷つけることもない。また、走行時の振動などによる車床11へのストッパ24の間欠的な接触による騒音の発生も阻止できる。
弾性キャップ24bがヘッド付であるため、本体24aへの嵌着が容易であるとともに、車床11との弾性的な押圧が確保される。
【0020】
前に倒れこんだ状態で起立したシートクッション12、シートバック14の荷重がストッパ24に加わるとはいえ、ヒンジ機構のヒンジ20a(回動中心)から離れた位置で車床11に押圧されるようにストッパ24が設けられ、大きな負荷がストッパに加わらない。そのため、材料強度の優れた材料から強固な構造にストッパ24を形成することなく必要な強度を確保でき、少ない部品点数、低コスト、軽量のもとで起立位置での前倒れを確実に防止できる。
【0021】
ストッパ24は鋼管に限定されず、必要な強度を持ち、シートクッションの下端下面から前方に延びて車床に押圧されるものであれば足りる。図3(C)(D)は、変形例に係るストッパの組み立て前後の正面図、図3(E)は組み立て後の平面図をそれぞれ示す。この変形例に係るストッパ124は、鋼板を略コ字形断面に折曲してストッパ本体124aを成形し、その先端に弾性キャップ124bを嵌着して構成されている。このキャップ124aにおいても、ストッパの固定端は溶着対象の前フレーム12a’の外形形状(円形面)に対応した円形の切欠き面に形成されている。
【0022】
なお、必要な強度と弾性を兼ね備えた材料からストッパを成形すれば、弾性キャップを付けることなく車床の損傷、騒音の発生を阻止できる。
【0023】
上記のように本発明によれば、ストッパは、シートクッション前端下面から前方に延び、シートクッション、シートバックの起立位置でその前端が車床に押圧されており、低コスト、軽量化のもとで、起立位置でのシートクッション、シートバックの前倒れを確実に防止できる。
【0024】
上述した実施例は、この発明を説明するためのものであり、この発明を何等限定するものでなく、この発明の技術範囲内で変形、改造等の施されたものも全てこの発明に包含されることはいうまでもない。
【0025】
たとえば、実施例では、図4に示すように、ストッパは2つ設けられているが、その数は2つに限定されない。たとえば、シートクッションの幅方向の略中央にストッパを1つ設けてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は、自動車のリヤシートに適するとはいえ、それに限定されず、収納スペースや昇降スペースを確保するためにシートクッション、シートバックを折り畳んで起立させる各種のシートに応用でき、たとえば、飛行機、船舶、電車等のシートに広範囲に応用できる。
【符号の説明】
【0027】
10 車両用シート(リヤシート)
12 シートクッション
12a シートクッションフレーム
12a’ 前フレーム
20 ヒンジ機構
20a ヒンジ(回動中心)
22 ロック機構
24、124 ストッパ
24a、124a 本体
24b、124b 弾性キャップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートバックがシートクッションの後端に回動可能に取り付けられるとともに、シートクッションの前端がヒンジ機構を介して車床に回動可能に取り付けられ、シートクッションの後端がロック機構によって車床に着脱可能に固定された車両用シートにおいて、シートクッション、シートバックを跳ね上げて車床に対して起立した状態での前倒れを防止するストッパであり、
ストッパは、シートクッション前端下面から前方に延び、シートクッション、シートバックの起立位置でその先端が車床に押圧されることを特徴とする車両用シートの前倒れ防止ストッパ。
【請求項2】
ストッパは、シートクッションフレームの前フレームに溶着されて前方の下方向に延び、その先端に弾性キャップが嵌着された鋼管から形成された請求項1記載の車両用シートの前倒れ防止ストッパ。
【請求項3】
ストッパは、シートクッションフレームの前フレームに溶着されて前方の下方向に延び、その先端に弾性キャップが嵌着された断面略コ字形状の鋼板から形成された請求項1記載の車両用シートの前倒れ防止ストッパ。
【請求項4】
弾性キャップは、樹脂キャップ、ゴムキャップのいずれかである請求項2または3のいずれか記載の車両用シートの前倒れ防止ストッパ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−131354(P2012−131354A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−284950(P2010−284950)
【出願日】平成22年12月21日(2010.12.21)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【出願人】(000133098)株式会社タチエス (454)
【Fターム(参考)】