説明

車両用シートの防振構造

【課題】車両用シートの防振構造を、耐候性及び耐熱性に優れたものにする。
【解決手段】シート本体1をフロアFに対して支持する支持構造に設けられ、この支持構造を構成するフロア側の部材(前後スライドレール6のアッパレール6A)からシート本体側の部材(内側ロアフレーム4B)に伝わる振動を抑制する車両用シートの防振構造10であり、一対の対向リンク11,12と、これらリンクを起立させる方向に附勢する引張バネ14とを有する。各対向リンク11,12は、互いに接近する方向に傾けられた状態として、内側ロアフレーム4Bに軸回転可能な状態に連結され、アッパレール6Aに軸回転可能かつ水平方向にスライド可能な状態に連結され、引張バネ14の附勢力により、常時は各々の下端側の連結点(スライドピン11B,12B)を各リンクを起立させる方向にスライドさせた状態として、内側ロアフレーム4Bを弾性支持する構成となっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用シートの防振構造に関する。詳しくは、シート本体をフロアに対して支持する支持構造に設けられ、この支持構造を構成するフロア側の部材からシート本体側の部材に伝わる振動を抑制する車両用シートの防振構造に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の防振構造としては、下記特許文献1に開示されたものが知られている。この防振構造は、シート本体のフレームとフロア上に固定された支持パネルとの間に、弾性体となる板状の防振ゴムが積層状に介在して設けられた構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平2−45840号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記従来の技術では、防振ゴムがシート本体とフロアとの間に重力方向に挟み込まれて設けられているため、防振ゴムの老化(劣化)に伴って、防振ゴムがシート本体の自重により重力方向に押し潰されて、防振ゴムを挟み込んでいるシート本体側の部材とフロア側の部材とが上下振動の作用によって押し当てられて異音を発生させるなどの不具合を生じさせやすくなる。本発明は、上記問題を解決するものとして創案されたものであって、本発明が解決しようとする課題は、車両用シートの防振構造を、耐候性及び耐熱性に優れたものにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1の発明は、シート本体をフロアに対して支持する支持構造に設けられ、この支持構造を構成するフロア側の部材からシート本体側の部材に伝わる振動を抑制する車両用シートの防振構造である。この車両用シートの防振構造は、シート本体側の部材とフロア側の部材との間に介在し、互いに水平方向に対向して設けられた一対の対向リンクと、これら一対の対向リンクを起立させる方向に附勢するバネ部材と、を有する。一対の対向リンクは、互いに接近或いは離間する方向に傾けられた状態として、シート本体側の部材或いはフロア側の部材のうちの一方に軸回転可能な状態に連結され、他方に対して軸回転可能かつ水平方向にスライド可能な状態に連結されている。上記一対の対向リンクは、バネ部材の附勢力により、常時は各々が他方に対する連結点を一対の対向リンクを起立させる方向にスライドさせた状態として、シート本体側の部材をフロア側の部材に対して弾性的に支持する構成となっている。
【0006】
この第1の発明によれば、一対の対向リンクを互いに接近或いは離間する方向に傾けた状態にして設け、バネ部材により各対向リンクを起立させる方向に連結点をスライド附勢してシート本体を下方側から弾性支持する構成とすることにより、シート本体をフロアとの間にゴムを設けて弾性支持するような構成と比べて、耐候性及び耐熱性に優れた安定した防振機能を果たす防振構造を構成することができる。
【0007】
第2の発明は、上述した第1の発明において、シート本体は、そのシートクッションの車幅方向外側と内側の各側部がフロアに対して下方側から支持された構成とされ、車両用シートの防振構造が、シートクッションの車幅方向外側又は内側のうちの一方の側部において、一対の対向リンクが車両前後方向に対向した状態として配設されているものである。
【0008】
この第2の発明によれば、車両用シートの防振構造が、シートクッションの車幅方向の一方の側部において、一対の対向リンクが車両前後方向に対向するように配設された構成とされることにより、シートクッション下の足元スペースを阻害しないように車両用シートの防振構造を配設することができる。
【0009】
第3の発明は、上述した第2の発明において、シート本体は、フロア上に支持されたシートクッションの後部にシートバックが連結され、このシートバックにシートベルト装置のリトラクタが内蔵されると共にシートバックの車幅方向外側の肩部にウェビングの引出口が設定された構成とされており、車両用シートの防振構造が、シートクッションの車幅方向内側の側部をフロアに対して支持する構造部に設けられているものである。
【0010】
ここで、シートバックの車幅方向外側の肩部にシートベルト装置のウェビングの引出口が設定されているものでは、車両の前突発生時に、シート本体の車幅方向外側の側部に大きな入力荷重がかけられるため、同外側の側部は構造強度が高く設定されていることが好ましい。
この第3の発明によれば、シートバックの車幅方向外側の肩部にシートベルト装置のウェビングの引出口が設定されているものにおいて、シートクッションの車幅方向内側の側部をフロアに対して支持する構造部に車両用シートの防振構造が設けられていることにより、このようなシートバック付けのシートベルト装置が設定されるものにおいても、必要な強度を確保しつつ、車両用シートの防振構造を好適に設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例1のシート本体の骨格構造を車幅方向外側から見た斜視図である。
【図2】同シート本体の骨格構造を車幅方向内側から見た斜視図である。
【図3】シートクッションの下部構造の斜視図である。
【図4】図3のIV-IV線断面図である。
【図5】図4のV-V線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明を実施するための形態について、図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0013】
始めに、実施例1の車両用シートの防振構造10(以下、防振構造10)の構成について、図1〜図5を用いて説明する。本実施例の防振構造10は、シート本体1をフロアFに対して支持する支持構造に設けられ、この支持構造を構成するフロア側の部材からシート本体側の部材に伝わる振動を抑制するものとなっている。ここで、シート本体1は、図1〜図2に示すように、背凭れとなるシートバック2と、着座部となるシートクッション3と、車幅方向に延設された前後一対の横スライドレール5と、車両前後方向に延設された左右一対の前後スライドレール6と、を有する。
【0014】
シートクッション3は、フロアF上に設置された左右一対の前後スライドレール6と、各前後スライドレール6の上部に固定されたロアフレーム4(外側ロアフレーム4A,内側ロアフレーム4B)と、ロアフレーム4の上部に固定された前後一対の横スライドレール5とを間に介して、フロアF上に支持されている。シートバック2は、その下端側の両側部が、回転止め可能な回転軸装置として機能する左右一対のリクライニング装置8を間に介して、シートクッション3の後端側の両側部にそれぞれ連結されている。
【0015】
上記シートバック2内には、3点式のシートベルト装置7のリトラクタ7Aが内蔵されており、その車幅方向外側の肩部には、上記シートバック2内のリトラクタ7Aからシート上方側に向かって繰り出されるウェビング7Bをシート前方側に引き出すための引出口7Cが設定されている。また、シートクッション3の車幅方向内側の側部には、ウェビング7Bに通されたタング7Dを装着するためのバックル7Eが連結されており、シートクッション3の車幅方向外側の側部には、ウェビング7Bの端部を固定するための固定具7Fが連結されている。
【0016】
上記シート本体1は、上記シートベルト装置7がシートバック2付けとされた構成により、その着座使用時に車両の前突が発生すると、ウェビング7Bの引出口7Cが設定されたシートバック2の車幅方向外側の肩部に大きな引張荷重が入力され、シート本体1全体の車幅方向外側の側部に大きな負荷がかかる構成となっている。そこで、本実施例では、詳細は後述するが、シート本体1の車幅方向外側の側部の構造強度が高められた構成となっている。また、上記構成のシート本体1に対し、防振構造10は、上記大荷重作用時の負荷が比較的小さくて済む、車幅方向内側のロアフレーム4(内側ロアフレーム4B)と前後スライドレール6のアッパレール6Aとの間に介在して設けられている。ここで、上記内側ロアフレーム4Bが本発明のシート本体側の部材に相当し、上記アッパレール6Aが本発明のフロア側の部材に相当する。以下、上記防振構造10の具体的な構成について、シート本体1の各部の構成と共に詳しく説明していく。
【0017】
先ず、シート本体1の各部の構成について説明する。シートバック2は、図1〜図2に示すように、その骨格を成すバックフレーム2Fが、シートバック2の両側部の骨格を成す外側サイドフレーム2F1及び内側サイドフレーム2F2と、シートバック2の上部の骨格を成すアッパフレーム2F3と、が互いに一体に結合されて正面視逆U字形状に形成されたものとなっている。上記外側サイドフレーム2F1と内側サイドフレーム2F2は、共に、縦長状の鋼板部材により形成されている。詳しくは、内側サイドフレーム2F2は、図1に示すように、その前後側の各縁部が、シートバック2内に向かって折り曲げられた形となっており、その構造強度が高められた構成となっている。また、外側サイドフレーム2F1は、図1〜図2に示すように、その断面が矩形の閉断面形状となるように折り曲げられた形となっており、上記内側サイドフレーム2F2よりも更に構造強度の高められた構成となっている。
【0018】
上記外側サイドフレーム2F1は、内側サイドフレーム2F2よりも縦長に形成されている。アッパフレーム2F3は、L字状に折り曲げられた鋼管部材により形成され、その車幅方向内側の図示下方側に折り曲げられた端部が、内側サイドフレーム2F2の上端部に結合されて一体に固定され、車幅方向外側に真っ直ぐに延びる側の端部が、外側サイドフレーム2F1の上端部に貫通されて一体に結合されて固定されている。そして、上記外側サイドフレーム2F1と内側サイドフレーム2F2との間には、これらの間に跨るように、2本の鋼管部材より成る補強パイプ2F4が架け渡されて、これらに一体に結合されて固定されている。
【0019】
また、上記アッパフレーム2F3と外側サイドフレーム2F1との結合部には、前述したシートベルト装置7の引出口7Cが一体に結合されて固定されている。これにより、前述した車両の前突発生時に、ウェビング7Bを通して引出口7Cにかけられる車両前方側への大きな引張荷重が、上記構造強度の高められた外側サイドフレーム2F1によって強い力で支えられるようになっている。
【0020】
シートクッション3は、図1〜図2に示すように、その骨格を成すクッションフレーム3Fが、シートクッション3の両側部の骨格を成す外側サイドフレーム3F1及び内側サイドフレーム3F2と、シートクッション3の前部の骨格を成すフロントフレーム3F3と、が互いに一体に結合されて平面視逆U字形状に形成されたものとなっている。上記外側サイドフレーム3F1と内側サイドフレーム3F2は、共に、前後方向に長尺な鋼板部材により形成されている。詳しくは、内側サイドフレーム3F2は、図1に示すように、その上下側の各縁部がシートクッション3内に折り曲げられた形となっており、その構造強度が高められた構成となっている。また、外側サイドフレーム3F1は、図1〜図2に示すように、その断面が矩形の閉断面形状となるように折り曲げられた形となっており、上記内側サイドフレーム3F2よりも更に構造強度の高められた構成となっている。
【0021】
フロントフレーム3F3は、鋼管部材により形成され、その両端部が、内側サイドフレーム3F2の前端部と外側サイドフレーム3F1の前端部とにそれぞれ一体に結合されて固定されている。そして、上記外側サイドフレーム3F1と内側サイドフレーム3F2との間には、これらの後端部間に跨るように、鋼管部材より成る補強パイプ3F4が架け渡されて、これらに一体に結合されて固定されている。そして、前述した各リクライニング装置8は、クッションフレーム3Fの両サイドフレーム3F1,3F2の後端側の側部とバックフレーム2Fの両サイドフレーム2F1,2F2の下端側の側部との間にそれぞれ設けられて、各側部に一体に結合されて固定されている。これらリクライニング装置8は、常時はシートバック2の背凭れ角度を固定した状態に保持されており、シート本体1の車幅方向外側の側部に連結された操作レバー8Aの引き上げ操作によって上記固定状態が解かれるようになっている。
【0022】
また、前後一対の各横スライドレール5は、図1〜図3に示すように、前述したクッションフレーム3Fの両サイドフレーム3F1,3F2と、これらの下方部に配される各側のロアフレーム4(外側ロアフレーム4A及び内側ロアフレーム4B)との間に挟まれて配設されている。これら横スライドレール5は、外側ロアフレーム4Aと内側ロアフレーム4Bとの間に架け渡されて車幅方向に延設されて固定されるロアレール5Bと、ロアレール5Bに対して車幅方向にスライド可能な状態に組み付けられてその上部にクッションフレーム3Fの両サイドフレーム3F1,3F2の下端部がそれぞれ固定されるアッパレール5Aと、アッパレール5Aのロアレール5Bに対するスライドをロック可能なロック装置5Cと、を有する。上記ロック装置5Cは、常時は附勢によってアッパレール5Aのスライドをロックした状態に保持されており、シート本体1に設けられた図示しない解除レバーが操作されることによってそのロック状態が解除されるようになっている。
【0023】
ロアフレーム4は、図1〜図3に示すように、シート本体1をフロアFに対して支持する支持構造を構成するものであり、互いに対向して配設される左右一対の鋼板製の外側ロアフレーム4Aと内側ロアフレーム4Bとから構成されている。これら外側ロアフレーム4Aと内側ロアフレーム4Bは、それぞれ、フロアF上に左右一対で配設される前後スライドレール6の各アッパレール6Aの上部に固定されて設けられており、それらの上部間には、前述した横スライドレール5の各ロアレール5Bが架け渡されて固定されている。上記外側ロアフレーム4Aと内側ロアフレーム4Bは、それらの上縁部と前後側の各縁部が、それぞれ、互いに対向するシート内方側に向かって折り曲げられており、構造強度が高められた構成となっている。
【0024】
また、左右一対の各前後スライドレール6は、図1〜図2に示すように、フロアF上に車両前後方向に延設されて固定されるロアレール6Bと、ロアレール6Bに対して車両前後方向にスライド可能な状態に組み付けられてその上部に外側ロアフレーム4Aの下端部と内側ロアフレーム4Bの下端部とがそれぞれ固定されるアッパレール6Aと、アッパレール6Aのロアレール6Bに対するスライドをロック可能なロック装置6Cと、を有する。上記ロック装置6Cは、常時は附勢によってアッパレール6Aのスライドをロックした状態に保持されており、シート本体1に設けられた図示しない解除レバーが操作されることによってそのロック状態が解除されるようになっている。
【0025】
次に、上記シート本体1の車幅方向内側の支持構造を成す内側ロアフレーム4Bと前後スライドレール6のアッパレール6Aとの間に設けられた防振構造10の構成について説明する。防振構造10は、図3〜図4に示すように、互いに車両前後方向(水平方向)に対向して設けられた前後一対の対向リンク11,12と、これら対向リンク11,12の下端部を互いに引き寄せる方向に附勢して、各対向リンク11,12をそれぞれ起立させる方向に附勢する引張バネ14と、を有する。ここで、引張バネ14が本発明のバネ部材に相当する。上記各対向リンク11,12は、互いに内向する(接近する)方向に傾けられた状態として設けられ、それらの上端部が、連結軸11A,12Aによって、それぞれ内側ロアフレーム4Bの上面部に固定されたブラケット4B1,4B2に軸回転可能に連結されている。また、各対向リンク11,12の下端部は、それぞれ、スライドピン11B,12Bによって、アッパレール6Aの上面部に固定された各レール部材13A,13Bの長孔13A1,13B1内に軸回転可能かつ各長孔13A1,13B1の延びる方向にスライド可能な状態に連結されている。
【0026】
上記各連結軸11A,12Aや各スライドピン11B,12Bは、それぞれ、それらの軸方向が車幅方向を向くように配設されている。また、各レール部材13A,13Bに形成された長孔13A1,13B1は、それぞれ、各レール部材13A,13Bに対して車両前後方向に真っ直ぐに延びる形に形成されており、前後スライドレール6がフロアFに対して車両前下方向にやや傾斜する配設とされていることに伴って、車両前下方向にやや傾斜する方向に向かって真っ直ぐ延びるように配設されている。
【0027】
これに伴い、各対向リンク11,12は、上記車両前下方向にやや傾斜する配設とされた前後スライドレール6に対し、内側ロアフレーム4B(シート本体1)を水平な姿勢状態で支えられるように、前側の対向リンク11が後側の対向リンク12よりもリンク長が長く形成されている。また、引張バネ14は、その一端と他端とが、それぞれ、前述した各スライドピン11B,12Bに掛着されており、これらスライドピン11B,12Bを互いに引き寄せる方向にスライド附勢して、各対向リンク11,12をそれらの上端側の連結軸11A,12Aを中心にそれぞれ起立させる方向に回転附勢するようになっている。
【0028】
上記各対向リンク11,12は、上記引張バネ14の附勢力がシート本体1の自重作用に打ち勝って作用するときには、それらの下端側の各スライドピン11B,12Bが引張バネ14の附勢力によって各長孔13A1,13B1内を互いに接近する方向に一斉にスライドすることで、それぞれ起こし上げられる方向に回されて、シート本体1を水平な姿勢状態に保ちながら上方側に持ち上げるようになっている。また、各対向リンク11,12は、上記シート本体1の自重作用が引張バネ14の附勢力に打ち勝って作用するときには、各スライドピン11B,12Bがシート本体1の自重作用によって各長孔13A1,13B1内を互いに離間する方向に一斉にスライドして、それぞれ倒し込まれる方向に回されて、シート本体1を水平な姿勢状態に保ちながら下方側に沈み込ませるようになっている。
【0029】
上記シート本体1は、上記引張バネ14の附勢力作用により、その自由状態時には、各長孔13A1,13B1の長さ方向の中間部にスライドピン11B,12Bをそれぞれ位置させた状態として、各対向リンク11,12によって下方側から弾性的に支持された状態となって保持されるようになっている。ここで、各スライドピン11B,12Bを上記シート本体1の自由状態時に各長孔13A1,13B1内の中間部に位置させるようにする調節は、引張バネ14を異なる回転附勢力のものに取り替えたり、引張バネ14の各対向リンク11,12に対する掛着位置を上記スライドピン11B,12B間にではなくリンク部位間にしたりするなどして、シート本体1の自重作用に対する引張バネ14の附勢力作用を調整することによって簡便に行うことができる。
【0030】
上記各対向リンク11,12は、上記各スライドピン11B,12Bが各長孔13A1,13B1内をスライドする範囲内では、互いに内向する方向に傾けられた回転領域内を起倒回転するようになっている。すなわち、各対向リンク11,12は、フロアFに対して完全に起立した状態となったり完全に倒伏した状態となったりしない範囲内で回転するように、各長孔13A1,13B1の長さ設定によってそれらの可動範囲が規制されている。これにより、各対向リンク11,12に作用する引張バネ14の附勢力やシート本体1の自重作用が常に斜め方向に分散されてかけられるようになっており、各対向リンク11,12の起倒回転する動きが突っかかることなくスムーズに行われるようになっている。
【0031】
したがって、上記防振構造10によってフロアFに対して弾性支持されたシートクッション3及びシートバック2には、その車両走行時にフロアFから伝えられる振動が、上記防振構造10によって吸収されて抑制されることにより伝わりにくくなる。詳しくは、上記振動は、上記引張バネ14により弾性支持されたシート本体1が、各スライドピン11B,12Bを長孔13A1,13B1内でスライドさせながら各対向リンク11,12を起倒回転させる弾性運動によって吸収される。このシート本体1の上下動の振れ幅の最大許容量は、各スライドピン11B,12Bをスライドさせる各長孔13A1,13B1の長さを変えることによって、各スライドピン11B,12Bが各長孔13A1,13B1の端部に当たる底付きが起こらないように自由に調整することができる。
【0032】
また、このように、防振構造10が、上記各レール部材13A,13Bの長孔13A1,13B1内で各スライドピン11B,12Bをスライドさせる構成となっていることにより、例えば、車両の前突や後突が発生したりして、シート本体1がフロアF上から剥離する方向(シート上方向)に強い力で引張られても、この荷重が、シート本体1と共に移動する各スライドピン11B,12Bが各長孔13A1,13B1の端部に当接して支えられることで、シート本体1がフロアF上から剥離しないように上記連結構造によって強い力で支えられるようになっている。
【0033】
このように、本実施例の防振構造10によれば、一対の対向リンク11,12を互いに接近する方向に傾けた状態にして設け、引張バネ14(バネ部材)により各対向リンク11,12のアッパレール6A(フロア側の部材)に対する各連結点(スライドピン11B,12B)を各対向リンク11,12を起立させる方向にスライド附勢して、シート本体1を下方側から弾性支持する構成とすることにより、シート本体1をフロアFとの間にゴムを設けて弾性支持するような構成と比べて、耐候性及び耐熱性に優れた安定した防振機能を果たすことのできる防振構造10を構成することができる。
【0034】
また、防振構造10が、シートクッション3の車幅方向内側の側部において、一対の対向リンク11,12が車両前後方向に対向するように配設された構成とされることにより、シートクッション3下の足元スペースを阻害しないように防振構造10を配設することができる。また、シートバック2の車幅方向外側の肩部にシートベルト装置7のウェビング7Bの引出口7Cが設定されているものにおいて、シートクッション3の車幅方向内側の側部をフロアFに対して支持する構造部に防振構造10が設けられていることにより、このようなシートバック2付けのシートベルト装置7が設定されるものにおいても、必要な強度を確保しつつ、防振構造10を好適に設定することができる。
【0035】
以上、本発明の実施形態を一つの実施例を用いて説明したが、本発明は上記実施例のほか各種の形態で実施することができるものである。例えば、上記実施例では、本発明の車両用シートの防振構造を構成するバネ部材に相当するものとして、両対向リンク11,12の下端側の連結点であるスライドピン11B,12B間に掛着した引張バネ14を例示したが、バネ部材は、上記一対の対向リンクを起立させる方向に附勢する形態のバネであればよく、圧縮バネや捩りバネ等の種々のものを適用することができるものである。また、バネ部材は、各側の対向リンクに個別に設定されるものであってもよい。
【0036】
また、上記実施例では、一対の対向リンク11,12が互いに接近する方向に傾けられた状態で配設されたものを例示したが、互いに離間する方向に傾けられた状態で配設されるものであってもよい。また、上記実施例では、各対向リンク11,12の上端部が内側ロアフレーム4B(シート本体側の部材)に回転可能に軸連結され、下端部が前後スライドレール6のアッパレール6A(フロア側の部材)にスライド可能かつ軸回転可能な状態に連結されたものを例示したが、シート本体側の部材に連結される上端部がスライド可能かつ軸回転可能な状態に連結され、フロア側の部材に連結される下端部が軸回転可能な状態に連結されるものであってもよい。
【0037】
また、上記実施例では、防振構造10を、内側ロアフレーム4B(シート本体側の部材)と前後スライドレール6のアッパレール6A(フロア側の部材)との間に介在させて設けたものを例示したが、別の箇所に設けられていてもよい。すなわち、本発明の車両用シートの防振構造は、シート本体をフロアに対して支持する支持構造において、この支持構造を構成するフロア側の部材からシート本体側の部材に伝わる振動を抑制するように設けられていれば良く、例えば上記実施例においては、クッションフレーム3F(シート本体側の部材)と横スライドレール5のアッパレール5A(フロア側の部材)との間や、横スライドレール5のロアレール5B(シート本体側の部材)とロアフレーム4(フロア側の部材)との間など、シート本体1をフロアFに対して支持する支持構造であればどこにでも適用することができるものである。
【0038】
また、本発明の車両用シートの防振構造は、上記実施例における横スライドレール5や前後スライドレール6など、スライドレールを備えた車両用シートが適用対象となるものではなく、スライドレールを備えていない車両用シートに対しても適用することができる。また、上記実施例では、シートバック2にシートベルト装置7のリトラクタ7Aが内蔵されたシート本体1において、ウェビング7Bの引出口7Cが設定された車幅方向外側とは反対側(車幅方向内側)の側部に防振構造10が適用された構成を例示したが、シートベルト装置がシートバック付けとなっていない構成においては、車幅方向外側の側部にも防振構造を適用してもよい。本発明の車両用シートの防振構造は、シート本体をフロアに対して支持する支持構造の少なくとも一箇所に設けられていればよく、その設置箇所については特に限定されるものではない。
【0039】
また、上記実施例では、防振構造10を構成する一対の対向リンク11,12を、シートクッション3の車幅方向内側の側部の支持構造に互いに車両前後方向に対向するように設けたものを例示したが、これら対向リンクを車幅方向外側の側部の支持構造に互いに車両前後方向に対向するように設けたものであってもよい。また、シート本体の前方側の側部をフロアに対して支持する構造部や、シート本体の後方側の側部をフロアに対して支持する構造部に対して、本発明の車両用シートの防振構造を設けてもよい。
【符号の説明】
【0040】
1 シート本体
2 シートバック
2F バックフレーム
2F1 外側サイドフレーム
2F2 内側サイドフレーム
2F3 アッパフレーム
2F4 補強パイプ
3 シートクッション
3F クッションフレーム
3F1 外側サイドフレーム
3F2 内側サイドフレーム
3F3 フロントフレーム
3F4 補強パイプ
4 ロアフレーム
4A 外側ロアフレーム
4B 内側ロアフレーム(シート本体側の部材)
4B1,4B2 ブラケット
5 横スライドレール
5A アッパレール
5B ロアレール
5C ロック装置
6 前後スライドレール
6A アッパレール(フロア側の部材)
6B ロアレール
6C ロック装置
7 シートベルト装置
7A リトラクタ
7B ウェビング
7C 引出口
7D タング
7E バックル
7F 固定具
8 リクライニング装置
8A 操作レバー
10 車両用シートの防振構造
11,12 対向リンク
11A,12A 連結軸
11B,12B スライドピン
13A,13B レール部材
13A1,13B1 長孔
14 引張バネ(バネ部材)
F フロア


【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート本体をフロアに対して支持する支持構造に設けられ、当該支持構造を構成するフロア側の部材からシート本体側の部材に伝わる振動を抑制する車両用シートの防振構造であって、
前記シート本体側の部材と前記フロア側の部材との間に介在し、互いに水平方向に対向して設けられた一対の対向リンクと、
当該一対の対向リンクを起立させる方向に附勢するバネ部材と、を有し、
前記一対の対向リンクは、互いに接近或いは離間する方向に傾けられた状態として、前記シート本体側の部材或いは前記フロア側の部材のうちの一方に軸回転可能な状態に連結され、他方に対して軸回転可能かつ水平方向にスライド可能な状態に連結されており、かつ、前記バネ部材の附勢力により常時は各々が前記他方に対する連結点を前記一対の対向リンクを起立させる方向にスライドさせた状態として前記シート本体側の部材を前記フロア側の部材に対して弾性的に支持する構成となっていることを特徴とする車両用シートの防振構造。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用シートの防振構造であって、
前記シート本体はシートクッションの車幅方向外側と内側の各側部が前記フロアに対して下方側から支持された構成とされ、当該車両用シートの防振構造が前記シートクッションの車幅方向外側又は内側のうちの一方の側部において前記一対の対向リンクが車両前後方向に対向した状態として配設されていることを特徴とする車両用シートの防振構造。
【請求項3】
請求項2に記載の車両用シートの防振構造であって、
前記シート本体は、前記フロア上に支持された前記シートクッションの後部にシートバックが連結され、該シートバックにシートベルト装置のリトラクタが内蔵されると共に該シートバックの車幅方向外側の肩部にウェビングの引出口が設定された構成とされ、当該車両用シートの防振構造が前記シートクッションの車幅方向内側の側部を前記フロアに対して支持する構造部に設けられていることを特徴とする車両用シートの防振構造。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−76495(P2012−76495A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−221038(P2010−221038)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【Fターム(参考)】