説明

車両用シート及びシートバックボード

【課題】高温環境下でも良好な座り心地性が得られる車両用シート及びシートバックボードを提供する。
【解決手段】シートバックボード16のバックボード部36のボード本体40の前面には、樹脂製の補助バネ部120が一体に形成されている。補助バネ部120は、パンタグラフ形状に形成された複数の筒状部122と、これらを中間部で連結する複数の連結部126と、これらを前端部で連結する平坦部124と、によって構成されている。補助バネ部120は、常温環境下では伸長せず、高温環境下ではシート前方側へ伸長し、下側バックバネ本体部48及び上側バックバネ本体部54のバネ定数の低下を補うようになっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用シート及びシートバックボードに関する。
【背景技術】
【0002】
車両用シートには、軽量化及び薄型化の要請がある。下記特許文献1には、車両用シートの軽量化を図る観点から、樹脂材料で構成された網状の樹脂バネ体を用いた技術が開示されている。この樹脂バネ体は、熱可塑性エラストマー樹脂から成る線径0.2〜1.5mmの複数本の連続線状体を互いの交絡点において融着し網状に形成することにより構成されている。この構成の樹脂バネ体によれば、大きい応力で変形させると、多数の連続線状体が互いに協働して変形しつつ応力を吸収する、というものである。また、樹脂バネ体を用いることにより、シートバックスプリングを用いた車両用シートよりもシートバックを薄型化することができるものと思われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−138156号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記先行技術による場合、高温環境下では樹脂バネ体の曲げ弾性率が低下することや樹脂材料に伸びが生じることから、樹脂バネ体のバネ定数が低下することが考えられる。この場合、車両用シートの座り心地性(着座乗員のサポート性)が低下するため、上記先行技術は、この点において改善の余地がある。
【0005】
本発明は上記事実を考慮し、高温環境下でも良好な座り心地性が得られる車両用シート及びシートバックボードを得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の本発明に係る車両用シートは、シート幅方向に沿って配置されると共にシート後方側への荷重が作用することにより荷重作用方向に撓む樹脂製のバネ部と、前記バネ部のシート後方側に離間して配置された樹脂製のバックボード部と、前記バネ部と前記バックボード部との間でかつ当該バネ部に対してシート後方側に離間した位置に配置され、更に高温環境下では前記バネ部のバネ定数の低下を補う補助バネ部と、を有している。
【0007】
請求項2記載の本発明に係る車両用シートは、請求項1記載の発明において、前記補助バネ部は、前記バックボード部の前面に設けられている。
【0008】
請求項3記載の本発明に係る車両用シートは、請求項1又は請求項2記載の発明において、前記補助バネ部は、前記高温環境下では自身が変形することによりシート前方側へ伸長する形状とされている。
【0009】
請求項4記載の本発明に係る車両用シートは、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の発明において、前記バネ部は、シート幅方向に左右一対の撓み部を備えており、前記補助バネ部は、当該左右一対の撓み部間の部位と対向するように配置されていると共に、当該バネ部側の先端部には正面視で当該補助バネ部の少なくとも一部を覆う平坦部を備えている。
【0010】
請求項5記載の本発明に係る車両用シートは、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の発明において、前記バネ部と前記バックボード部とは、一体又は一体的に形成されている。
【0011】
請求項6記載の本発明に係るシートバックボードは、シート幅方向に沿って配置されると共にシート後方側への荷重が作用することにより荷重作用方向に撓む樹脂製のバネ部と、前記バネ部のシート後方側に離間して配置された樹脂製のバックボード部と、前記バネ部と前記バックボード部との間でかつ当該バネ部に対してシート後方側に離間した位置に配置され、更に高温環境下では前記バネ部のバネ定数の低下を補う補助バネ部と、を有している。
【0012】
請求項1記載の本発明によれば、常温環境下では、樹脂製のバネ部に伸びが生じたり、樹脂製のバネ部の曲げ弾性率が低下することはない。このため、乗員が車両用シートに着座して、樹脂製のバネ部にシート後方側への荷重が作用すると、バネ部は荷重作用方向へ撓む。これにより、着座乗員は良好な座り心地性が得られる。
【0013】
一方、高温環境下になると、樹脂製のバネ部の曲げ弾性率が低下したり、或いはバネ部に伸びが生じることにより、バネ定数が低下することがある。ここで、本発明では、バネ部とバックボード部との間に補助バネ部が設けられており、当該補助バネ部はシート後方側に離間した位置に配置されている。このため、このような高温環境下では、補助バネ部がシート前方側へ変位して、着座乗員の背面と補助バネ部との距離が縮まり、バネ部のバネ定数の低下が補われる。その結果、乗員は高温環境下においてバネ部のバネ定数が低下したとしても、補助バネ部によって早期に支持される。
【0014】
請求項2記載の本発明によれば、補助バネ部がバックボード部の前面に設けられるため、補助バネ部を容易に設定することができる。
【0015】
請求項3記載の本発明によれば、補助バネ部は高温環境下では自身が変形することによりシート前方側へ伸長するため、複数の部品を用いて高温環境下になるとシート前方側へ変形するように構成する場合に比べ、部品点数が少なくなる。
【0016】
請求項4記載の本発明によれば、バネ部は一対の撓み部が弾性変形することにより、シート後方側へ撓む。ここで、本発明では、補助バネ部が左右一対の撓み部間の部位と対向するように配置されている。さらに、補助バネ部におけるバネ部側の先端部には、正面視で補助バネ部の少なくとも一部を覆う平坦部が設けられている。このため、平坦部が配置されている範囲においては、着座乗員の背面にバネ部を介して補助バネ部の形状が持つ凹凸が伝わることが低減される。
【0017】
請求項5記載の本発明によれば、バネ部とバックボード部とが一体又は一体的に形成されているので、両者が別個独立に存在する場合に比し、軽量でありかつ組付工数も削減される。
【0018】
請求項6記載の本発明によれば、シートバックボードが、樹脂製のバネ部と、樹脂製のバックボード部と、バネ部とバックボード部との間でかつ当該バネ部に対してシート後方側に離間した位置に配置され、更に高温環境下ではバネ部のバネ定数の低下を補う補助バネ部と、を有しているため、請求項1記載のシートバックボードにおいて上述した作用が得られる。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように、請求項1記載の本発明に係るシートバックボードは、高温環境下でも良好な座り心地性が得られるという優れた効果を有する。
【0020】
請求項2記載の本発明に係る車両用シートは、補助バネ部の設計が容易になるという優れた効果を有する。
【0021】
請求項3記載の本発明に係る車両用シートは、補助バネ部の構造の簡素化及びコスト削減を図ることができるという優れた効果を有する。
【0022】
請求項4記載の本発明に車両用シートは、補助バネ部による異物感を低減することができるという優れた効果を有する。
【0023】
請求項5記載の本発明に係る車両用シートは、軽量化及び低コスト化を図ることができるという優れた効果を有する。
【0024】
請求項6記載の本発明に係るシートバックボードは、高温環境下でも良好な座り心地性が得られるという優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本実施形態に係る車両用シートのシートバックの分解斜視図である。
【図2】図1に示されるシートバックフレームに樹脂バネ一体バックボードが組付けられた状態を示す斜視図である。
【図3】図1に示されるシートバックの組付状態を拡大して示す拡大平断面図(図2の3−3線に沿った拡大平断面図)である。
【図4】図1に示されるシートバックの組付状態を示す拡大縦断面図である。
【図5】(A)は図3に示される補助バネ部の変形前の状態を示す平断面図であり、(B)は(A)に示される状態から補助バネ部が熱により伸長した状態を示す平断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図1〜図5を用いて、本発明に係るシートバック及びこれを用いた車両用シートの実施形態について説明する。なお、これらの図において適宜示される矢印FRは車両前方側を示しており、矢印UPは車両上方側を示しており、矢印INは車両幅方向内側を示している。
【0027】
<全体構成>
図1には、本実施形態に係る車両用シートの背もたれに相当するシートバックの分解斜視図が示されている。なお、図1では、各構成要素を見る角度を若干変えて描いている。また、図4には、当該シートバックを備えた車両用シートの縦断面図が示されている。これらの図に示されるように、車両用シート10は、乗員が着座するシートクッション11(図4参照)と、シートクッション11の後端部に傾倒可能に支持されたシートバック12と、シートバック12の上端部に上下動可能に支持された図示しないヘッドレストと、によって構成されている。
【0028】
図1に示されるように、上記シートバック12は、シートバック12の骨格部材を構成する金属製のシートバックフレーム14と、このシートバックフレーム14にシート前方側から組付けられる樹脂バネ一体バックボード(以下、単に「シートバックボード」と称す。)16と、シートバック12のクッション材を構成すると共にシートバックボード16の前面側に配置されてシートバックフレーム14に支持されるシートバックパッド18と、シートバックパッド18の主として表面を覆うカバー(表皮)20と、カバー20をシートバックボード16に取付けるための縦方向取付部材22及び横方向取付部材24と、によって構成されている。以下、各構成要素について詳細に説明する。
【0029】
<シートバックフレーム14の構成>
図1〜図4に示されるように、シートバックフレーム14は、車両正面視(車両の正面から見た場合を指す。以下、車両の向きと車両用シート10の向きは同一であるものとして説明する。)で、矩形枠状に形成されている。具体的には、車両幅方向に対向して配置された左右一対のサイドフレーム26と、左右のサイドフレーム26の上端部同士を繋ぐ逆U字状のアッパフレーム28と、左右のサイドフレーム26の下端部同士を車両幅方向に繋ぐロアパネル30と、によって構成されている。上記シートバック12はアッパフレーム28も含めて4つの部材がすべてプレス成形によって製作されているが、他のフレーム構造を採用してもよい。例えば、アッパフレームのみを逆U字状に曲げたパイプ材で構成してもよいし、アッパフレームと左右一対のサイドフレームを逆U字状に曲げた一つのパイプ材で構成してもよい。
【0030】
次に、上記左右のサイドフレーム26の断面構造について説明する。図2及び図3に示されるように、サイドフレーム26は、側壁部26Aと、前壁部26Bと、後壁部26Cとによって構成されており、単独で見ると平断面視で略L字状に形成されており、左右一対で見ると平断面視でシート幅方向に対向する内側が開口された開断面形状に形成されている。側壁部26Aは全体的には下端部から上端部に向かうほど幅が狭くなっている。また、側壁部26Aの下部には、上下に離間して複数の取付孔32(図1参照)が形成されている。前壁部26Bは側壁部26Aの前端から円弧面を介してシート幅方向内側かつやや斜め後方へ延在されている。後壁部26Cは側壁部26Aの後端からシート幅方向内側へ延在されており、その先端部は車両前方側へ斜めに折り曲げられている。後壁部26Cの幅は前壁部26Bの幅に対して充分に広く設定されている。また、後壁部26Cの上部側にも取付孔34(図1参照)が形成されている。
【0031】
<シートバックボード16の構成>
次に、本実施形態に係る車両用シート10の要部を構成するシートバックボード16の構成について詳細に説明する。図1〜図4に示されるように、シートバックボード16は、樹脂の板材で形成されると共にシートバックフレーム14の背面側に配置されるバックボード部36と、樹脂製とされてバックボード部36に一体に設けられると共に左右一対のサイドフレーム26に直接支持されるように架け渡され、更にシートバック後方側への荷重が作用することにより荷重作用方向(車両後方側)へ撓み変形可能に形成されたバックバネ部38と、を備えている。
【0032】
バックボード部36は、シートバックフレーム14よりも一回り小さく形成されたボード本体40と、このボード本体40の外周部に一体成形されたU溝状の係止部42と、によって構成されている。より具体的には、ボード本体40は矩形枠状に形成されたシートバックフレーム14の開口部の内周縁よりも一回り小さく形成されている。そして、シートバックフレーム14への組付状態では、ボード本体40は左右のサイドフレーム26の後壁部26Cの先端部(内端部)間の若干車両後方側に配置されている。従って、ボード本体40は、シートバックフレーム14の車両前方側から組付可能とされている(図3参照)。係止部42の断面形状は、車両後方側が開放されたU字状とされている。この係止部42は、後述するカバー20の外周部を係止するために用いられるが、板状のボード本体40を補強してバックボード部36全体の面剛性を高める機能をも有している。
【0033】
バックバネ部38は、バックボード部36の下部側に一体に形成された下側バックバネ部44と、バックボード部36の上部側に一体に形成された上側バックバネ部46と、によって構成されている。上側バックバネ部46は、下側バックバネ部44に対してシートバック高さ方向に所定距離だけ離間した位置に独立して設けられている。
【0034】
下側バックバネ部44は、シートバック高さ方向に上下三段に平行に配置された3本の下側バックバネ本体部48と、これら3本の下側バックバネ本体部48のシート幅方向(長手方向)の両端部48Bをシートバック高さ方向に連結すると共にバックボード部36とも連結しかつサイドフレーム26に固定される下側連結固定部50と、によって構成されている。なお、下側バックバネ部44を何本の下側バックバネ本体部48で構成するかは任意であり、要求されるクッション性能との関係で適宜変更される。従って、下側バックバネ部の上下幅を広げて1本にしてもよいし、逆に2本又は4本以上の複数本にしてもよい。
【0035】
下側バックバネ本体部48の平断面形状は波状に形成されており、バックボード部36側(車両後方側)への荷重が作用することにより波状部分48Aが伸長し、これにより荷重作用方向であるバックボード部36側へ撓み変形(弾性変形)するようになっている。なお、各下側バックバネ本体部48のシート幅方向の両端部48B近傍には、カバー20を取付けるための後述する縦向き樹脂爪部58が一体に形成されており、この縦向き樹脂爪部58が形成される範囲については波状部分48Aは形成されない。
【0036】
図3に示されるように、上述したバックボード部36は、下側バックバネ部44の車両後方側に所定距離だけ離間した位置に配置されている。つまり、下側バックバネ部44とバックボード部36との間には所定の隙間52が形成されている。この隙間52の範囲内で下側バックバネ本体部48は弾性変形可能とされている。すなわち、バックボード部36は、下側バックバネ部44の撓み量を所定量以下に制限する制限部材としても機能している。
【0037】
下側連結固定部50は、平断面視で略逆U字状に形成されており、下側バックバネ本体部48のシート幅方向の端部48Bが連結される内側側壁50Aと、この内側側壁50Aに対して平行に配置されてサイドフレーム26の側壁部26Aの外側面に面接触状態で係止される外側側壁50Bと、内側側壁50Aの前端と外側側壁50Bの前端とを車両幅方向に連結しサイドフレーム26の前壁部26Bに部分的な面接触状態で支持される前壁50Cと、内側側壁50Aの後端部から下側バックバネ本体部48のシート幅方向の端部48Bに対してバックボード部36に連結される後壁50Dと、を備えている。
【0038】
上述した上下三段の下側バックバネ本体部48のシート幅方向の両端部48Bは、波状部分48Aが形成されないフラットな部分として構成されており、左右一対の下側連結固定部50によって相互に連結されている。つまり、下側バックバネ本体部48はシートバック高さ方向に複数段に設けられるが、これらの下側バックバネ本体部48のシート幅方向の両端部48Bが左右一対の下側連結固定部50によって連結されることにより、下側バックバネ部44がバックボード部36に一体化されている。なお、下側連結固定部50は、最上段の下側バックバネ本体部48の上縁から最下段の下側バックバネ本体部48の下縁までの範囲を含むようにその長手方向寸法が設定されている。
【0039】
上記下側連結固定部50は、その外側側壁50Bがサイドフレーム26の側壁部26Aの取付孔32に図示しない固定手段によってシート幅方向外側から固定されることにより、サイドフレーム26に固定されている。なお、固定手段としては、外側側壁50Bに樹脂クリップを一体に形成して取付孔32に係合させる構成や、リベット、スクリュー、ネジ又はボルトとウエルドナット等の締結具で締結する構成、構造用接着剤で接着する構成等、種々の態様が適用可能である。下側連結固定部50がサイドフレーム26に固定された状態では、後壁50Dがサイドフレーム26の後壁部26Cに対しても平行に配置されている。これにより、下側バックバネ本体部48のシート幅方向の端部48Bがサイドフレーム26の断面内方に入り込んだ状態で配置されている。
【0040】
上側バックバネ部46も基本的には下側バックバネ部44と同様に構成されており、上側バックバネ本体部54と上側連結固定部56とによって構成されている。そして、上側バックバネ本体部54には、バックボード部36側(車両後方側)への荷重が作用すると伸長して撓み変形(弾性変形)するように波状部分54Aが形成されている。さらに、上側バックバネ本体部54のシート幅方向の両端部54Bには縦向き樹脂爪部58が一体に形成されている他、シート幅方向の両端部54Bと中央部54Cには横向き樹脂爪部60が一体に形成されている。また、図1に示されるように、上側連結固定部56にあっては、シート幅方向外側へ向けて張出した形状とされており、上述した左右のサイドフレーム26の側壁部26A間に納まる長手方向寸法に設定されている。そして、上側連結固定部56が後壁部26Cの取付孔34に図示しない固定手段によってシート前後方向に固定されることにより、上側連結固定部56がサイドフレーム26に固定されている。
【0041】
なお、本実施形態では、上述したようにバックバネ部38を下側バックバネ部44と上側バックバネ部46とに分けたが、これに限らず、両者を繋げて一体化してもよい。すなわち、下側連結固定部50をシートバック上方側へ延長して上側バックバネ本体部54のシート幅方向の両端部と連結させる構成を採ってもよい。
【0042】
また、本実施形態では、上側バックバネ部46を一段(1本)で構成したが、これに限らず、複数段(複数本)で構成してもよく、バックボード部36の上部から下部に亘って等間隔で複数段(複数本)のバックバネ部を設ける構成を採ってもよい。
【0043】
なお、上述した下側バックバネ本体部48及び上側バックバネ本体部54が本発明における「バネ部」に相当し、波状部分48A、54Aが本発明における「撓み部」に相当する。
【0044】
<シートバックパッド18の構成>
図1に示されるように、シートバックパッド18は、大別すると、パッド中央上部62と、パッド中央下部64と、左右一対のパッドサイド部66と、によって構成されている。なお、シートバックパッド18は、ウレタンフォーム等によって製作されている。
【0045】
図4に示されるように、パッド中央上部62の縦断面形状は、上下左右逆向きの略J字状に形成されている。このパッド中央上部62は、シートバックフレーム14のアッパフレーム28にシートバック上方側から係止されている。パッド中央下部64の縦断面形状は、左右逆向きの略J字状に形成されている。また、パッド中央下部64は、下部が上部より車両前方側へ凸湾曲形状に膨らんだ形状をしている。このパッド中央下部64は、サイドフレーム26の下端部同士をシート幅方向に連結するリクライニングロッド68にシートバック下方側から係止されている。なお、リクライニングロッド68は、シートバックフレーム14のロアパネル30の前方側に平行に配置されている。
【0046】
また、図3に示されるように、パッドサイド部66の横断面形状は、略C字状に形成されている。このパッドサイド部66は、下側連結固定部50が装着された状態のサイドフレーム26に巻き付けられるようにして装着されている。なお、パッドサイド部66は、下部が上部より車両前方側へ凸湾曲形状に膨らんだ形状を成しており、かつパッド中央上部62及びパッド中央下部64よりも車両前方側へ膨出されて乗員に対するサイドサポート性を確保する形状になっている。
【0047】
図4に戻り、上述したシートバックボード16は、縦断面視で、パッド中央上部62の背面側下端部62Aからパッド中央下部64の背面側上端部64Aに亘って配設されている。正確には、パッド中央下部64の背面側上端部64Aは背面側下端部62Aよりも薄く形成されており、その薄くなった部分にバックボード部36の下端部が前後に重ねて配置されている。
【0048】
また、上述したパッド中央上部62とパッド中央下部64との間には、カバー吊り込み用の貫通溝としての横方向スリット70が形成されている。さらに、パッド中央上部62、パッド中央下部64とパッドサイド部66との間には、左右一対のカバー吊り込み用の貫通溝としての縦方向スリット72がそれぞれ形成されている。横方向スリット70及び縦方向スリット72のスリット幅は、後述する縦方向取付部材22及び横方向取付部材24が挿通可能な長さに設定されている。また、これらの横方向スリット70及び縦方向スリット72はいずれも直線状に形成されており、シートバックパッド18をその厚さ方向(車両前後方向でもある)に貫通している。
【0049】
<カバー20の構成>
図1に示されるように、カバー20は、シートバックパッド18を正面側から覆うことが可能な大きさに形成されている。また、カバー20は、上記シートバックパッド18の分割構成に合わせてカバー中央上部74、カバー中央下部76、左右一対のカバーサイド部78を備えている。
【0050】
<カバー20の取付構造>
カバー20は、縦方向取付部材22、横方向取付部材24、縦向き樹脂爪部58、横向き樹脂爪部60及び外周係止部80等によってその全体が取り付けられている。
【0051】
図1に示されるように、縦方向取付部材22は、帯状に形成された取付部材本体22Aと、取付部材本体22Aの一方の側縁に設けられると共に楔状に形成された樹脂製の係合部22Bと、によって構成されている。取付部材本体22Aの他方の側縁は、カバー中央上部74、カバー中央下部76とカバーサイド部78とに縫製により予め取り付けられている。なお、図1では縦方向取付部材22(及び横方向取付部材24)をカバー20から分離して描いているが、縦方向取付部材22(及び横方向取付部材24)は、カバー20に予め取り付けられている。これに対応して、下側バックバネ本体部48及び上側バックバネ本体部54Bにおける波状部分48Aよりも更にシート幅方向の両外側には、縦向き樹脂爪部58が一体に形成されている。縦方向取付部材22の係合部22Bは、縦向き樹脂爪部58に弾性的に係合可能とされている。そして、左右一対の縦方向取付部材22の係合部22Bを各下側バックバネ本体部48及び上側バックバネ本体部54の対応する縦向き樹脂爪部58に弾性的に係合させることにより、カバー20の中央部が縦方向にシートバックボード16に取り付けられている。
【0052】
同様に、横方向取付部材24は、帯状に形成された取付部材本体24Aと、取付部材本体24Aの一方の側縁に設けられると共に楔状に形成された樹脂製の係合部24Bと、によって構成されている。取付部材本体24Aの他方の側縁は、カバー中央上部74、カバー中央下部76に縫製により予め取り付けられている。これに対応して、上側バックバネ本体部54には、シート幅方向の中央部と両外側二箇所に横向き樹脂爪部60が一体に形成されている。横方向取付部材24の係合部24Bは、横向き樹脂爪部60に弾性的に係合可能とされている。そして、図4に示されるように、三箇所に設けられた横方向取付部材24の係合部24Bを上側バックバネ本体部54の各横向き樹脂爪部60に弾性的に係合させることにより、カバー20の中央部が横方向にシートバックボード16に取り付けられている。
【0053】
さらに、カバー20の外周部の適宜位置には、鏃(やじり)形状とされた外周係止部80が縫製により取り付けられている。外周係止部80はバックボード部36の係止部42に車両後方側から挿入されて係止されている。これにより、カバー20の外周部がバックボード部36に取外し可能に係止されている。
【0054】
<カバー20の下部取付構造>
次に、カバー20の下部取付構造について説明する。図4に示されるように、上述したシートバックボード16のバックボード部36におけるボード本体40の下端部には、シート幅方向に沿って細長い複数個の長孔102が形成されている。
【0055】
一方、上述したカバー中央下部76の下端部には、下帯104が縫製されている。下帯104は帯状に形成されており、かつシート幅方向が長手方向となるようにカバー中央下部76の下端部に隣接して配置されている。そして、下帯104の下端部104Aはカバー中央下部76の下端部に縫製されており、下帯の上端部104Bには側面視でJ字状に形成された樹脂製のフック106の基端部106Aが縫製により取り付けられている。フック106はシート幅方向に沿って長尺状に形成されており、その長手方向寸法は長孔102の長手方向寸法よりも若干短く設定されている。また、フック106の先端部106Bは、ボード本体40のシート後方側から長孔102内へ挿入されて周縁部108に係止されている。これにより、カバー中央部76の下端部側はシートバックパッド18の前側から下方側を通ってシートバック12の背面側に引っ張られた状態でシートバックボード16に取り付けられている。
【0056】
また、ボード本体40の下端部には、シートバック12の下端部をシート後方側から覆うカーペット110が配置されている。カーペット110は、シート上方へ向けて延在する延在部110Aと、この延在部110Aの上端からシート下方へ向けて折り返された折り返し部110Bと、を備えている。折り返し部110Bは、ボード本体40の長孔102の上側にクリップ112及びスペーサ114を用いて固定されている。また、延在部110Aの下端部はシートクッション11の下方に係止されている。
【0057】
<補助バネ部120の構成>
ここで、本実施形態の要部に係る補助バネ部120の構成について詳細に説明する。図3〜図5に示されるように、バックボード部36のボード本体40の前面には、各下側バックバネ本体部48及び上側バックバネ本体部54と対向する位置に樹脂製の補助バネ部120がそれぞれ配設されている。すなわち、補助バネ部120は、各下側バックバネ本体部48及び上側バックバネ本体部54のシート後方側に離間してそれぞれ配置されている。さらに具体的には、補助バネ部120は、下側バックバネ本体部48に形成された左右一対の波状部分48A間に亘って前後に対向して配置されている。なお、上側バックバネ本体部54側においても補助バネ部120は同様に配置されている。
【0058】
また、上述した補助バネ部120は、構造的には以下のようになっている。すなわち、補助バネ部120は、各々の平断面形状がパンタグラフ形状(菱形状)とされると共にシート幅方向に沿って所定の間隔をあけて配置された複数の筒状部122を備えている。これらの複数の筒状部122は、シート高さ方向に所定の長さ(例えば、下側バックバネ本体部48或いは上側バックバネ本体部54のシート高さ方向の長さと同一の長さ)を有している。また、複数の筒状部122は、後端側の稜線部がそれぞれボード本体40の前面に熱溶着により固定されている。また、これらの複数の補助バネ部120の前端側の稜線部は、シート幅方向を長手方向とする帯板状の一枚の平坦部124によってシート幅方向に連結されている。さらに、隣り合う筒状部122においてシート幅方向に対向する中間稜線部同士は、各々の長さが平坦部124よりも短く設定された複数の板状の連結部126によって相互に連結されている。なお、各連結部126は、ボード本体40及び平坦部124に対して平行に配置されている。
【0059】
さらに、上述した補助バネ部120は、(前述した下側バックバネ本体部48及び上側バックバネ本体部54と同一材料によって構成されており、)高温環境下では各部の材料が伸びることにより、全体的にシート前方側へ伸長される構成となっている。
【0060】
(本実施形態の作用並びに効果)
次に、本実施形態の作用並びに効果について説明する。
【0061】
上記構成の車両用シート10では、樹脂製のバックボード部36に樹脂製のバックバネ部38を一体に形成したシートバックボード16を備えている。そして、このシートバックボード16を金属製のシートバックフレーム14に車両前方側から嵌合させる。具体的には、左右の下側連結固定部50が左右のサイドフレーム26に車両前方側から嵌合され、この状態で各下側連結固定部50の外側側壁50Bが各サイドフレーム26にシート幅方向外側から固定される。その後、シートバックパッド18がシートバックフレーム14に車両前方側から装着され、更にカバー20がシートバックパッド18に被せられる。カバー20には予め縦方向取付部材22及び横方向取付部材24が縫製により予め固定されており、カバー20をシートバックパッド18に被せながら縦方向取付部材22、横方向取付部材24を対応する縦方向スリット72及び横方向スリット70に挿入して縦向き樹脂爪部58、横向き樹脂爪部60にそれぞれ係止させる。さらに、カバー20の外周係止部80をバックボード部36の係止部42に係止させていくと共に、下帯104に取り付けられたフック106を長孔102の周縁部108に係止させる。その後、カーペット110の折り返し部110Bをボード本体40にクリップ112及びスペーサ114を用いて取り付ける。
【0062】
上記の如くして組み立てられたシートバック12はシートクッション11及び図示しないヘッドレストが取り付けられて車両用シート10とされる。乗員が車両用シート10に着座すると、カバー20及びシートバックパッド18を介してバックバネ部38にシートバック後方側への荷重が入力される。このため、下側バックバネ本体部48及び上側バックバネ本体部54が荷重作用方向であるシートバック後方側へ撓み変形する。また、このときの荷重は、下側連結固定部50より左右のサイドフレーム26に伝達されるため、サイドフレーム26から車両前方側への反力が発生する。
【0063】
このように乗員からバックバネ部38に荷重が入力されると、自身は撓み変形してシートバック12のクッション性の確保に寄与し、荷重そのものは左右のサイドフレーム26に伝達して左右のサイドフレーム26で支持する。その結果、シートバック12のクッション性能が充分に確保される。また、バックバネ部38は樹脂製とされてバックボード部36に一体に設けられているので、バックバネ部38を金属製のシートバックスプリングで構成する場合に比べて、部品点数及び組付工数が削減される。その結果、本実施形態によれば、シートバック12のクッション性能を充分に確保することができ、しかも更なる軽量化及び低コスト化を図ることができる。
【0064】
ここで、本実施形態では、常温環境下では、下側バックバネ本体部48及び上側バックバネ本体部54に伸びが生じたり、下側バックバネ本体部48及び上側バックバネ本体部54の曲げ弾性率が低下することはない。このため、乗員が車両用シート10に着座して、下側バックバネ本体部48及び上側バックバネ本体部54にシート後方側への荷重が作用すると、下側バックバネ本体部48及び上側バックバネ本体部54は荷重作用方向であるシート後方側へ撓む。これにより、着座乗員は良好な座り心地性を得ることができる。なお、このような常温環境下では、補助バネ部120も伸長することはない(図5(A)参照)。
【0065】
一方、高温環境下になると、下側バックバネ本体部48及び上側バックバネ本体部54の曲げ弾性率が低下したり、或いは下側バックバネ本体部48及び上側バックバネ本体部54に伸びが生じることにより、バネ定数が低下することがある。ここで、本実施形態では、下側バックバネ本体部48及び上側バックバネ本体部54とバックボード部36との間でかつシート後方側に離間した位置に補助バネ部120が配置されている。このため、このような高温環境下では、図5(B)に示されるように、補助バネ部120の連結部126並びに筒状部122の各辺が矢印で示す方向に伸長する。これにより、補助バネ部120が全体的にシート前方側へ変位して、着座乗員の背面と補助バネ部120との距離が縮まり、下側バックバネ本体部48及び上側バックバネ本体部54のバネ定数の低下が補われる。その結果、乗員は高温環境下において下側バックバネ本体部48及び上側バックバネ本体部54のバネ定数が低下したとしても、補助バネ部120によって早期に支持される。その結果、本実施形態によれば、高温環境下でも良好な座り心地性が得られる。
【0066】
また、本実施形態では、補助バネ部120がバックボード部36の前面に設けられるため、補助バネ部120を容易に設定することができる。よって、補助バネ部120の設計が容易になる。
【0067】
さらに、本実施形態では、補助バネ部120は高温環境下では自身が変形することによりシート前方側へ伸長するため、複数の部品を用いて高温環境下になるとシート前方側へ変形するように構成する場合に比べ、部品点数が少なくなる。その結果、本実施形態によれば、補助バネ部120の構造の簡素化及びコスト削減を図ることができる。
【0068】
また、本実施形態では、下側バックバネ本体部48及び上側バックバネ本体部54はこれらが備える波状部分48A、54Aが弾性変形することにより、シート後方側へ撓む。ここで、補助バネ部120が下側バックバネ本体部48の左右一対の波状部分48A間の部位並びに上側バックバネ本体部54の左右一対の波状部分54A間の部位と対向するように配置されている。さらに、補助バネ部120の複数の筒状部122の前端側の稜線部は、正面視で補助バネ部120の少なくとも一部(本実施形態では、ほぼ全体)を覆う平坦部124が設けられている。このため、平坦部124が配置されている範囲においては、着座乗員の背面に下側バックバネ本体部48及び上側バックバネ本体部54を介して補助バネ部120の形状が持つ凹凸が伝わることが低減される。その結果、本実施形態によれば、補助バネ部120による異物感を低減することができる。
【0069】
さらに、本実施形態では、下側バックバネ本体部48及び上側バックバネ本体部54とバックボード部34とが一体に形成されているので、両者が別個独立に存在する場合に比し、軽量でありかつ組付工数も削減される。その結果、本実施形態によれば、シートバックボード16ひいては車両用シート10の軽量化及び低コスト化を図ることができる。
【0070】
〔上記実施形態の補足説明〕
上述した実施形態では、樹脂製のバックボード部36に樹脂製のバックバネ部38を一体に形成したが、これに限らず、樹脂製のバックボード部に樹脂製のバックバネ部を一体的に設けてもよい。すなわち、バックボード部とバックバネ部とを別々に製作してから両者を溶着等により一体化するようにしてもよい。さらに、バックバネ部を構成するバックバネ本体部と連結固定部とを別部品として製作してから溶着等により一体化するようにしてもよい。更に補足すると、上述した実施形態では、下側連結固定部50をバックバネ部38側の構成要素として説明したが、下側連結固定部50をバックボード部36側の構成要素と捉えても、そのように解釈すること自体は一向に差し支えない。なぜなら、シートバックボードの完成品の状態では、連結固定部という構成要素をバックバネ部側に含めるか、それともバックボード部側に含めるかは、区分けをどのようにするかの問題に過ぎないからである。
【0071】
また、上述した補助バネ部120は、バックボード部36とは別個に製作されて、熱溶着等によってボード本体40の前面に固定されているが、これに限らず、補助バネ部をシートバックボードとは異なる部品として製作し、左右のサイドフレーム26に取付けるようにしてもよい。この場合、補助バネ部は、金属製であっても樹脂製であってもいずれでもよい。
【0072】
さらに、上述した補助バネ部120では、筒状部122の平断面形状をパンタグラフ形状にしたが、必ずしもパンタグラフ形状である必要はなく、円形や楕円形でもよいし、正六角形等の多角形状でもよい。
【0073】
また、上述した補助バネ部120では、複数の筒状部122のすべてをシート幅方向に連結するように平坦部124が配置されていたが、これに限らず、左右二箇所に分離して設ける等の配設の仕方を採ってもよい。さらに、請求項1〜請求項3に記載された発明との関係では、平坦部124が存在しない構成としてもよい。
【符号の説明】
【0074】
10 車両用シート
12 シートバック
16 樹脂バネ一体バックボード(シートバックボード)
36 バックボード部
48 下側バックバネ本体部(バネ部)
48A 波状部分(撓み部)
54 上側バックバネ本体部(バネ部)
54A 波状部分(撓み部)
120 補助バネ部
122 筒状部
124 平坦部
126 連結部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート幅方向に沿って配置されると共にシート後方側への荷重が作用することにより荷重作用方向に撓む樹脂製のバネ部と、
前記バネ部のシート後方側に離間して配置された樹脂製のバックボード部と、
前記バネ部と前記バックボード部との間でかつ当該バネ部に対してシート後方側に離間した位置に配置され、更に高温環境下では前記バネ部のバネ定数の低下を補う補助バネ部と、
を有する車両用シート。
【請求項2】
前記補助バネ部は、前記バックボード部の前面に設けられている、
請求項1記載の車両用シート。
【請求項3】
前記補助バネ部は、前記高温環境下では自身が変形することによりシート前方側へ伸長する形状とされている、
請求項1又は請求項2記載の車両用シート。
【請求項4】
前記バネ部は、シート幅方向に左右一対の撓み部を備えており、
前記補助バネ部は、当該左右一対の撓み部間の部位と対向するように配置されていると共に、当該バネ部側の先端部には正面視で当該補助バネ部の少なくとも一部を覆う平坦部を備えている、
請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の車両用シート。
【請求項5】
前記バネ部と前記バックボード部とは、一体又は一体的に形成されている、
請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の車両用シート。
【請求項6】
シート幅方向に沿って配置されると共にシート後方側への荷重が作用することにより荷重作用方向に撓む樹脂製のバネ部と、
前記バネ部のシート後方側に離間して配置された樹脂製のバックボード部と、
前記バネ部と前記バックボード部との間でかつ当該バネ部に対してシート後方側に離間した位置に配置され、更に高温環境下では前記バネ部のバネ定数の低下を補う補助バネ部と、
を有するシートバックボード。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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