説明

車両用シート

【課題】 車両の走行時には乗員の身体の安定性を向上させることができ、しかも容易に乗降することができる車両用シートを提供する。
【解決手段】シート1の座部2を左右方向の中央部2aと両側部2b、2bとに区分する。中央部2aを両側部2b,2bに対して上下方向へ位置調節可能にする。シート1の背もたれ部3を左右方向の中央部3aと両側部3b,3bとに区分する。側部3bの上端部を中央部3aの上端部に左右方向に延びる水平な軸線を中心として回転可能に設け、それによって側部3bの下端部を中央部3aに対して前後方向へ位置調節可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、乗用自動車、その他の車両に用いられる車両用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、車両用シートは、下記特許文献1に記載されているように、乗員の臀部を支える座部と、背中を支える背もたれ部とを有している。座部及び背もたれ部は、いずれも左右方向の中央部と両側部とによって構成されている。座部の中央部は、両側部に対して下方に沈み込んでいる。背もたれ部の中央部は、両側部に対して後方に沈み込んでいる。この結果、乗員の身体が座部及び背もたれ部によって包み込むように支持され、座り心地及び身体の安定性の向上が図られている。
【0003】
【特許文献1】特開平7−313290号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
座部及び背もたれ部の中央部の沈み込み量は、比較的大きい方が身体の安定性が向上する。したがって、車両の走行中は沈み込み量が大きい方が望ましい。しかし、中央部の沈み込み量が大きい、乗降しにくいという問題がある。逆に、沈み込み量を小さくすると、乗降は容易になるが、走行時の安定性が低下してしまう。また、適切な沈み込み量は、乗員の体格によっても異なる。ところが、従来の車両用シートは、沈み込み量が一定であるため、走行時の安定性と乗降の容易性との両者を同時に満足させることが困難であった。
【0005】
なお、上記特許文献1には、背もたれ部の両側部を交換可能にした車両用シートが開示されている。この車両用シートによれば、両側部を交換することにより、背もたれ部の中央部の沈み込み量を変更することができるかもしれない。しかし、背もたれ部の両側部を走行時と乗降時とで交換することは現実的には無理であり、実用には供することができない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の問題を解決するために、第1の発明は、座部と背もたれ部とを備え、上記座部の左右方向の中央部が左右方向の両側部より下側に配置された車両用シートにおいて、上記座部の中央部が両側部に対し上下方向へ相対的に位置調節可能とされていることを特徴としている。
この場合、上記座部の両側部が位置固定され、上記座部の中央部が両側部に対して上下方向へ位置調節可能とされていることが望ましい。
また、上記背もたれ部の左右方向の中央部の少なくとも下端部が、両側部に対し前後方向へ相対的に位置調節可能とされていることが望ましい。
上記問題を解決するために、第2の発明は、座部と背もたれ部とを備え、上記背もたれ部の左右方向の中央部が左右方向の両側部より後側に配置された車両用シートにおいて、上記背もたれ部の中央部の少なくとも下端部が両側部に対し前後方向へ相対的に位置調節可能とされていることを特徴としている。
この場合、上記背もたれ部の中央部が位置固定され、上記背もたれ部の両側部の少なくとも下端部が中央部に対して前後方向へ位置調節可能とされていることが望ましい。
また、上記背もたれ部の両側部の上端部が上記背もたれ部の中央部に左右方向に延びる軸線を中心として回動可能に支持され、上記両側部が回動することにより、その下端部が中央部に対して前後方向へ位置調節可能になっていることが望ましい。
【発明の効果】
【0007】
上記特徴構成を有する第1の発明によれば、座部の中央部を両側部に対し相対的に下方へ移動するように位置調節して沈み込み量を大きくすることにより、走行中の乗員の安定性及び座り心地を向上させることができる。また、座部の中央部を両側部に対し相対的に上方へ移動するように位置調節して沈み込み量を小さくすることにより、乗降を容易に行うことができる。
上記特徴構成を有する第2の発明によれば、背もたれ部の中央部の少なくとも下端部を両側部に対し相対的に後方へ移動するように位置調節して沈み込み量を大きくすることにより、走行中の乗員の安定性及び座り心地を向上させることができる。また、背もたれ部の中央部の少なくとも下端部を両側部に対し相対的に前方へ移動するように位置調節して沈み込み量を小さくすることにより、乗降を容易に行うことができる。
座部及び背もたれ部の各中央部の沈み込み量は、乗員の体格に応じても調節することができる。したがって、体格の異なるいずれの乗員に対しても身体の安定性及び乗降の容易性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、この発明を実施するための最良の形態を、図面を参照して説明する。
図1は、この発明が適用された車両用シート1を示す。シート1は、乗員の臀部を支持する座部2と、乗員の腰部及び背中を支持する背もたれ部3とを有している。座部2は、左右方向の中央部2a(図1においてハッチングを施した部分)と、左右方向の両側部2b,2bとに区分されている。中央部2aは、両側部2b,2bより下側に配置されており、両側部2b,2bに対して上下方向へ位置調節可能になっている。背もたれ部3も、左右方向の中央部3a(図1においてハッチングを施した部分)と、左右方向の両側部3b,3bとに区分されている。中央部3aは、両側部3b,3bより後側に配置されている。両側部3b,3bは、その上端部が中央部3aの上端部に左右方向に延びる水平な軸線を中心として回動可能に支持されている。これによって、左右の両側部3b,3bの下端部が中央部3aに対して前後方向へ移動可能になっている。なお、符号4は、背もたれ部3の中央部3aの上端部に着脱可能に設けられたヘッドレストである。
【0009】
図2及び図3は、シート1のシートフレーム5及びシートバックフレーム6を示す。シートフレーム5は、座部2用のフレームであり、ベースフレーム5aを有している。ベースフレーム5aは、車両のフレーム(図示せず)に前後方向へ位置調節可能に支持されている。勿論、ベースフレーム5aは、車両のフレームに固定されていてもよい。ベースフレーム5aの左右方向の中央部には、メインクッションパン5bが上下方向及び前後方向へ移動可能に配置されている。メインクッションパン5bには、メインクッション7A(図1参照)が装着されている。それによって、座部2の中央部2aが構成されている。したがって、座部2aは、上下方向及び前後方向へ移動可能になっている。一方、ベースフレーム5aの左右方向の両側部の各上部には、サイドクッションパン5c,5cが固定されている。各サイドクッションパン5cには、サイドクッション7B(図1参照)が装着されている。それによって、座部2の側部2bが構成されている。したがって、左右の側部2bは、ベースフレーム5aに固定されている。
【0010】
ベースフレーム5aの前端部の左右両側部には、リンク8A,8Aの各基端部が左右方向に延びる水平な軸9を介して回転可能に支持されている。リンク8A,8Aの各先端部は、メインクッションパン5bの前端部の左右両側部に左右方向に延びる水平な軸10を介して回転可能に連結されている。ベースフレーム5aの後端部の左右両側部には、リンク8B,8Bが左右方向に延びる水平な軸11を介して回転可能に支持されている。リンク8B,8Bの各先端部は、メインクッションパン5bの後端部の左右両側部に左右方向に延びる水平な軸12を介して回転可能に連結されている。ベースフレーム5a、リンク8A,8B及びメインクッションパン5bによって第1の平行リンク機構が構成されている。ベースフレーム5a、リンク8B,8B及びメインクッションパン5bにより、第1の平行リンク機構と左右対称である第2の平行リンク機構が構成されている。そして、第1及び第2の平行リンク機構により、メインクッションパン5b、ひいては座部2の中央部2aがベースフレーム5aに上下方向へ平行移動可能に支持されている。
【0011】
ベースフレーム5aには、モータ13が設けられている。このモータ13は、軸9を介してリンク8Aを回転させ、それによってメインクッションパン5bを上下方向へ移動させる。したがって、モータ13の回転数を適宜に選択することにより、メインクッションパン5b、ひいては中央部2aの上下方向の位置を調節することができる。モータ13は、インストルメントパネル又はコンソールボックス(いずれも図示せず)に設けられた操作スイッチ(図示せず)を中立位置から一方向へ操作すると、その操作中、モータ13が一方向へ回転し、メインクッションパン5bを上方へ移動させる。操作スイッチを他方向へ操作すると、その操作中、モータ13が他方向へ回転し、メインクッションパン5bを下方へ移動させる。スイッチを中立位置に戻すと、モータ13が停止する。したがって、操作スイッチの操作長さによってメインクッションパン5b、ひいては中央部2aの上下方向の位置を調節することができる。モータ13の停止中は、モータ13に内蔵された停止機構(図示せず)によって軸9の回転が阻止され、メインクッションパン5bが上下方向へ移動不能に停止させられる。
【0012】
メインクッションパン5bは、リンク8A,8Bを有する平行リンク機構を用いることなく、他の機構、例えばねじ機構やウォーム機構によって上下方向へ移動させ、それによってメインクッションパン5bの上下方向の位置を調節してもよい。平行リンク機構を用いた場合、メインクッションパン5bは、上下方向へ移動する際に前後方向への移動することになるが、ねじ機構やウォーム機構を用いた場合には、メインクッションパン5bを上下方向へのみ移動させることができる。
【0013】
シートバックフレーム6は、背もたれ部用のフレームであり、メインフレーム6aと二つのサブフレーム6bとを有している。メインフレーム6aの下端部の左右いずれか一方の側部は、ベースフレーム5aの後端部にリクライニング用のヒンジ14を介して回転位置調節可能に支持されている。メインフレーム6aの下端部の他方の側部は、ヒンジ14と軸線を一致させた他のヒンジ(図示せず)を介して上下方向へ回転可能に支持されている。メインフレーム6aには、バッククッション15A(図1参照)が装着されている。それにより、背もたれ部3の中央部3aが構成されている。
【0014】
サブフレーム6bは、左右方向に向かってほぼ水平に延びる連結部6cと、この連結部6cの端部から下方に向かって延びる支持部6dとを有している。図2において右側に配置されたサブフレーム6bは、その連結部6cの左側の端部がメインフレーム6aの上端部に左右方向に延びる水平な軸線を中心として回転可能に支持されている。右側のサブフレーム6bの支持部6dは、メインフレーム6aから右側に若干離間し、メインフレーム6aの右側部にほぼ沿って下方に延びている。連結部6cの右端部及び支持部6dには、サイドクッション15B(図1参照)が装着されている。それにより、背もたれ部3の右側の側部3bが構成されている。したがって、右側の側部3bは、メインフレーム6a(中央部3a)に対し下端部が前後方向へ移動するように、上端部を中心として回転(揺動)可能である。図2において左側のサブフレーム6bは、右側のサブフレーム6bと左右対称に配置されており、当該サブフレーム6bにサイドクッション15Bが装着されることによって左側の側部3bが構成されている。
【0015】
メインフレーム6aの下端部には、長手方向を左右方向に向けて水平に配置された軸16が回転可能に支持されている。この軸16は、モータ17によって回転駆動される。軸16の右側の端部は、リンク18,19を介して右側のサブフレーム6bに連結されている。軸16の左側の端部は、リンク18,19を介して左側のサブフレーム6bに連結されている。したがって、モータ17を回転駆動させると、左右のサブフレーム6b,6b(側部3b,3b)が回転し、それぞれの下端部が前後方向へ移動する、勿論、左右のサブフレーム6b,6bは、同一位相で同一量だけ回転する。モータ17は、インストルメントパネル又はコンソールボックスに設けられた操作スイッチ(図示せず)によって回転、停止させられるようになっており、操作スイッチを中立位置から一方向へ操作すると、その操作中、モータ17が一方向へ回転し、サブフレーム6bの下端部が後方へ移動するようにサブフレーム6bが回転させられる。操作スイッチを他方向へ操作すると、その操作中、モータ17が他方向へ回転し、サブフレーム6bの下端部が前方へ移動するようにサブフレーム6bが回転させられる。操作スイッチを中立位置に戻すと、モータ17が停止する。したがって、操作スイッチの操作長さによってサブフレーム6b及び側部3bの回転量を調節し、ひいては側部3bの下端部の前後方向への位置を調節することができる。モータ17の停止中は、モータ17に内蔵された停止機構によって軸16が停止させられ、両側部3b,3bが位置固定される。
【0016】
サブフレーム6b、6bは、リンク機構を用いることなく、他の機構、例えばねじ機構やウォーム機構等を用いて前後方向へ回転させるようにしてもよい。また、ねじ機構やウォーム機構を用いることにより、サブフレーム6bを前後方向(中央部3aとほぼ直交する方向)へのみ移動させるようにしてもよい。
【0017】
上記構成のシート1において、車両の走行時には、座部2の中央部2aを両側部2b、2bに対して適宜下方へ移動させ、中央部2aの側部2bに対する沈み込み量を大きくするとともに、背もたれ部3の両側部3bを適宜前方へ回転させ、中央部3aの下端部の両側部3b,3bに対する沈み込み量を大きくする。これにより、乗員の身体の安定性及び座り心地を向上させる。一方、車両への乗降時には、中央部2aを適宜上方へ移動させ、側部2bに対する中央部2aの沈み込み量を小さくするとともに、両側部3bを適宜後方へ回転させ、両側部3b、3bに対する中央部3aの下端部の沈み込み量を小さくする。これにより、乗員は容易に乗降することができる。勿論、各乗員の体格によっても中央部2a,3aの沈み込み量を調節することができる。
【0018】
なお、この発明は、上記の実施の形態に限定されるものでなく、その要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。例えば、上記の実施の形態においては、座部2の中央部2aを側部2bに対して移動させるとともに、背もたれ部3の側部3bを中央部3aに対して移動させているが、座部2の側部2bを中央部2aに対して移動させ、背もたれ部3の中央部3aを側部3bに対して移動させるようにしてもよい。

また、平行リンク機構を利用することにより、座部2の中央部2aを上下方向へ平行移動させているが、例えば他の4節リンク機構を採用することにより、中央部2aを上下移動に伴って前後方向に傾斜させるようにしてもよい。

【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】この発明に係る車両用シートの一実施の形態を示す斜視図である。
【図2】同シートのシートフレームを示す正面図である。
【図3】同シートフレームの一部切り欠き側面図である。
【符号の説明】
【0020】
1 車両用シート
2 座部
2a 中央部
2b 側部
3 背もたれ部
3a 中央部
3b 側部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
座部と背もたれ部とを備え、上記座部の左右方向の中央部が左右方向の両側部より下側に配置された車両用シートにおいて、
上記座部の中央部が両側部に対し上下方向へ相対的に位置調節可能とされていることを特徴と車両用シート。
【請求項2】
上記座部の両側部が位置固定され、上記座部の中央部が両側部に対して上下方向へ位置調節可能とされていることを特徴とする請求項1に記載の車両用シート。
【請求項3】
上記背もたれ部の左右方向の中央部の少なくとも下端部が、両側部に対し前後方向へ相対的に位置調節可能とされていることを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用シート。
【請求項4】
座部と背もたれ部とを備え、上記背もたれ部の左右方向の中央部が左右方向の両側部より後側に配置された車両用シートにおいて、
上記背もたれ部の中央部の少なくとも下端部が両側部に対し前後方向へ相対的に位置調節可能とされていることを特徴とする車両用シート。
【請求項5】
上記背もたれ部の中央部が位置固定され、上記背もたれ部の両側部の少なくとも下端部が中央部に対して前後方向へ位置調節可能とされていることを特徴とする請求項4に記載の車両用シート。
【請求項6】
上記背もたれ部の両側部の上端部が上記背もたれ部の中央部に左右方向に延びる軸線を中心として回動可能に支持され、上記両側部が回動することにより、その下端部が中央部に対して前後方向へ位置調節可能になっていることを特徴とする請求項5に記載の車両用シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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