説明

車両用シート

【課題】シートバックの傾倒に連動してヘッドレスト本体をシートバックに対し前後に移動させることができると共に、質量の増加を抑制することができる車両用シートを得る。
【解決手段】車両用シート10では、リクライニング機構18のロックが解除されてシートバック14がシートクッション12に対して傾倒されると、リクライニング機構18に設けられた出力軸が回転する。この出力軸とヘッドレスト16の移動機構24に設けられた入力軸との間には、トルクケーブル26が掛け渡されている。このトルクケーブル26は、上記出力軸の回転力によって軸線回りに回転されて上記入力軸を回転させる。これにより、移動機構24がヘッドレスト本体22をシートバック14に対して前後に移動させる。このように、トルクケーブル26によってリクライニング機構18から移動機構24に回転力を伝達するため、質量の増加を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用シートに関し、特にシートバックの傾倒に連動してヘッドレスト本体を前後に移動させる車両用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1に示された車両用リクライニングシートのシートバック構造では、ヘッドレストを支持するヘッドレスト支持フレームが、シートバックのサイドフレームに対してシート幅方向に沿った軸線回りに揺動可能に連結されている。このヘッドレスト支持フレームは、Sばねの付勢力によりその後傾限度位置に付勢されると共に、ワイヤケーブル及び該ワイヤケーブルの端部に設けられた遅延連動手段を介してサイドフレームの下端部に連結されている。これにより、所定角度以上でのシートバックのリクライニング傾動に連動させて、ヘッドレスト支持フレームすなわちヘッドレストを前傾揺動させることにより、リクライニング後傾時の乗員の快適性を確保するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−96239号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の如きシートバック構造では、大きなヘッドレスト支持フレームがシートバックに追加されているため、車両用シートの質量が増加するという問題がある。
【0005】
本発明は上記事実を考慮し、シートバックの傾倒に連動してヘッドレスト本体をシートバックに対し前後に移動させることができると共に、質量の増加を抑制することができる車両用シートを得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明に係る車両用シートは、シートバックの下端側に設けられ、前記シートバックを前記シートクッションに対して傾倒角度を調節可能に連結すると共に、前記シートバックの傾倒に連動して回転される出力軸を有するリクライニング機構と、ヘッドレスト本体が移動機構を介して前記シートバックの上端側に連結されると共に、前記移動機構に設けられた入力軸が回転されることにより前記ヘッドレスト本体が前記シートバックに対して前後に移動されるヘッドレストと、前記出力軸と前記入力軸との間に掛け渡され、前記出力軸の回転力により軸線回りに回転されて前記入力軸を回転させるトルクケーブルと、を備えたことを特徴としている。
【0007】
請求項1に記載の車両用シートでは、シートバックがシートクッションに対して傾倒すると、リクライニング機構に設けられた出力軸が回転する。この出力軸と、ヘッドレストの移動機構に設けられた入力軸との間には、トルクケーブルが掛け渡されている。このトルクケーブルは、出力軸の回転力によって軸線回りに回転されて入力軸を回転させる。これにより、移動機構がヘッドレスト本体をシートバックに対して前後に移動させる。
【0008】
ここで、本発明では、上述の如くリクライニング機構とヘッドレストの移動機構との間でトルクケーブルにより回転力を伝達するため、背景技術の欄で説明したシートバック構造のように、大きなヘッドレスト支持フレームをシートバックに追加する必要がない。これにより、質量の増加を抑制することができる。
【0009】
請求項2に記載の発明に係る車両用シートは、請求項1に記載の車両用シートにおいて、前記出力軸は、前記リクライニング機構に設けられたリクライニングロッドの回転力が伝達されて回転されることを特徴としている。
【0010】
請求項2に記載の車両用シートでは、シートバックの傾倒に連動してリクライニングロッドが回転されると、当該リクライニングロッドの回転力がリクライニング機構の出力軸に伝達されて出力軸が回転される。このように、リクライニングロッドの回転力を利用して出力軸を回転させるため、リクライニング機構の構成を簡単なものにすることができる。
【0011】
請求項3に記載の発明に係る車両用シートは、請求項2に記載の車両用シートにおいて、前記リクライニングロッドの回転力は、複数の回転体を介して前記トルクケーブルに伝達されると共に、前記シートクッションに対する前記シートバックの傾倒角度が所定の範囲にあるときには、前記リクライニングロッドに取り付けられたカムによって前記複数の回転体のうちの一つ又は複数が他の回転体から離間されることにより前記リクライニングロッドから前記出力軸への回転力の伝達が遮断されるように構成されたことを特徴としている。
【0012】
請求項3に記載の車両用シートでは、シートバックの傾倒時におけるリクライニングロッドの回転力が、複数の回転体を介して出力軸に伝達されることにより、出力軸が回転される。出力軸の回転力は、トルクケーブルを介して移動機構の入力軸に伝達される。これにより、移動機構がヘッドレスト本体をシートバックに対して前後に移動させる。
【0013】
一方、シートバックの傾倒角度(傾斜角度)が所定の範囲にあるときには、リクライニングロッドに取り付けられたカムによって、上記複数の回転体のうちの一つ又は複数が他の回転体から離間され、リクライニングロッドから出力軸への回転力の伝達が遮断される。これにより、トルクケーブルを介した入力軸(移動機構)への回転力の伝達が遮断され、ヘッドレスト本体がシートバックに対して移動しなくなる。
【0014】
つまり、この発明では、シートクッションに対するシートバックの傾倒角度に応じて、シートバックに対するヘッドレスト本体の移動をキャンセルすることができる。このため、ヘッドレスト本体の不必要な移動により、乗員の快適性が阻害されることを防止又は低減することができる。
【0015】
請求項4に記載の発明に係る車両用シートは、請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の車両用シートにおいて、前記移動機構は、前記シートバックの上端側に設けられたベース部と、前記ベース部に対して前記ヘッドレスト本体を相対移動可能に連結した連結機構と、前記ベース部側に支持され、前記入力軸の回転力により回転されるピニオンと、前記ピニオンに噛合されると共に前記ヘッドレスト本体側に連結されたラックと、を有することを特徴としている。
【0016】
請求項4に記載の車両用シートでは、シートバックの上端側には、移動機構のベース部(例えば、ヘッドレストステー)が設けられており、ヘッドレスト本体は、連結機構によって前記ベース部に対し相対移動可能に連結されている。また、ベース部側にはピニオンが支持されており、このピニオンが入力軸の回転力によって回転されると、当該ピニオンに噛合されたラックが移動される。このラックはヘッドレスト本体側に連結されており、当該ラックの移動によりヘッドレスト本体がベース部すなわちシートバック側に対して前後に移動される。これにより、簡単な構成で移動機構を成立させることができる。
【0017】
請求項5に記載の発明に係る車両用シートは、請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の車両用シートにおいて、前記移動機構は、前記シートバックの上端部側に設けられたベース部と、前記ベース部に対してシート幅方向に沿った軸線回りに回転可能に支持され、前記ヘッドレスト本体が取り付けられると共に、前記入力軸の回転力により回転される回転軸と、を有することを特徴としている。
【0018】
請求項5に記載の車両用シートでは、シートバックの上端側には、移動機構のベース部(例えば、ヘッドレストステー)が設けられており、このベース部には、回転軸が支持されている。この回転軸には、ヘッドレスト本体が取り付けられており、この回転軸が、入力軸の回転力によってシート幅方向に沿った軸線回りに回転されることにより、ヘッドレスト本体がベース部すなわちシートバック側に対して前後に移動(回動)される。これにより、簡単な構成で移動機構を成立させることができる。
【0019】
請求項6に記載の発明に係る車両用シートは、請求項1〜請求項5の何れか1項に記載の車両用シートにおいて、前記トルクケーブルは、前記シートバックの上端側に配置されたカップリングを介して上部と下部が分離可能に連結されていることを特徴としている。
【0020】
請求項6に記載の車両用シートでは、シートバックの上端側に配置されたカップリングにおいて、トルクケーブルを上部(ヘッドレスト側)と下部(シートバック側)とに分離することができる。これにより、シートバックからのヘッドレストの取り外しを容易に行うことが可能になる。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように、本発明に係る車両用シートでは、シートバックの傾倒に連動してヘッドレスト本体をシートバックに対し前後に移動させることができると共に、質量の増加を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施形態に係る車両用シートの側面図である。
【図2】図1に示される車両用シートのリクライニング機構を含む周辺部材の構成を示す縦断面図である。
【図3】図1に示される車両用シートのリクライニング機構を含む周辺部材の構成を示す側面図である。
【図4】図1に示される車両用シートのヘッドレストに設けられた移動機構の構成を示す斜視図である。
【図5】図4に示される移動機構に設けられた上側回転力伝達機構の構成をヘッドレストの上方斜め前方側から見た状態で示す断面図である。
【図6】図5に示される上側回転力伝達機構の構成をヘッドレストの幅方向から見た状態で示す断面図である。
【図7】シートバックのリクライニング角度とヘッドレスト作動量との関係を示す表である。
【図8】シートバックのリクライニング角度とヘッドレスト作動量との関係を示すグラフである。
【図9】シートバックのリクライニング角度、ヘッドレスト作動量、及びバックセットの関係を説明するための図である。
【図10】本発明の実施形態に係るヘッドレストの変形例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図1〜図10を用いて、本発明の実施形態に係る車両用シート10について説明する。なお、各図中に適宜示される矢印FR、矢印UP、矢印Wは、車両用シート10の前方向、上方向、幅方向を示している。また、本実施形態では、車両用シート10の前方向、上方向、幅方向は、この車両用シート10が搭載された車両の前方向、上方向、幅方向と略一致している。
【0024】
図1に示されるように、車両用シート10は、乗員Pが着座するシートクッション12と、乗員Pの背部を支持するシートバック14と、乗員Pの頭部を支持するヘッドレスト16とを備えている。シートクッション12の後端部とシートバック14の下端部との間には、リクライニング機構18が設けられている。このリクライニング機構18によってシートバック14がシートクッション12に対して傾倒角度を調節可能(リクライニング可能)に連結されている。また、ヘッドレスト16は、シートバック14の上端部に連結されたヘッドレストフレーム20(ベース部)と、このヘッドレストフレーム20の前方側に配置されたヘッドレスト本体22と、ヘッドレスト本体22をヘッドレストフレーム20に連結した移動機構24とを備えている。この移動機構24とリクライニング機構18との間には、トルクケーブル26が掛け渡されている。以下、各部の構成について説明する。
【0025】
図2に示されるように、リクライニング機構18は、シートクッション12の骨格を構成するシートクッションフレームの後端部に固定されたクッション側ブラケット28と、シートバック14の骨格を構成するシートバックフレームのサイド部30(以下、シートバックフレームサイド部30という)との間に配置された周知のリクライナ32を備えている。なお、これらのクッション側ブラケット28、シートバックフレームサイド部30、及びリクライナ32は、車両用シート10の左右両側に設けられているが、図2では大きさの関係上、片側のみが図示されている。
【0026】
左右一対のリクライナ32には、図示しない周知のロック機構が設けられており、通常はこのロック機構によってシートバック14が傾倒不能にロックされている。また、上記ロック機構には、図示しないロック解除レバーが設けられており、このロック解除レバーが操作されることにより、ロック機構によるシートバック14のロックが解除される。これにより、シートバック14の傾倒が可能になり、シートクッション12に対するシートバック14の傾倒角度(傾斜角度)を多段階に調節することが可能になる。
【0027】
また、左右一対のリクライナ32は、リクライニングロッド34によってシート幅方向に連結されている。このリクライニングロッド34は、左右一対のリクライナ32を同期させるためのものであり、シートバック14の傾倒時には、シート幅方向に沿った軸線回りに回転される。
【0028】
図2及び図3に示されるように、リクライニングロッド34の軸線方向一端側には、下側回転力伝達機構36を構成する平歯の大径ギヤ38が同軸的かつ一体的に取り付けられている。この大径ギヤ38は、シートバックフレームサイド部30に取り付けられた下側ギヤボックス40(図3では図示省略)の内側に収容されており、平歯の小径ギヤ42と噛み合っている。この小径ギヤ42は、大径ギヤ38の上方に配置されており、下側ギヤボックス40の側壁部40Aに回転可能に取り付けられている。この小径ギヤ42の軸線方向一端側(ここではシート幅方向内側)には、かさ歯車44が同軸的かつ一体的に取り付けられており、このかさ歯車44には、別のかさ歯車46が噛み合っている。このかさ歯車46は、下側ギヤボックス40の上壁部40Bに取り付けられた出力軸48の軸線方向一端部に同軸的かつ一体的に取り付けられている。
【0029】
出力軸48は、軸線方向がシートバック14の上下方向(図1〜図6の矢印A参照)に沿う状態で配置されており、軸線方向他端部(上端部)が上壁部40Bに形成された貫通孔に挿入された状態で、当該上壁部40Bに対して相対回転可能に支持されている。また、この出力軸48は、上壁部40Bに対して上下方向に相対移動可能に支持されており、図示しない付勢部材の付勢力によって下方側(図2に実線で示される位置)へ付勢されている。これにより、かさ歯車44とかさ歯車46との噛み合い状態が維持されるようになっている。
【0030】
但し、リクライニングロッド34には、かさ歯車44とかさ歯車46との噛み合い状態を解除するためのクラッチ機構を構成する偏心カム50(図2参照。図3では図示省略)が取り付けられている。この偏心カム50は、大径ギヤ38よりもシート幅方向内側に配置されており、シートクッション12に対するシートバック14の傾倒角度が所定の範囲にあるときには、かさ歯車46と係合する。これにより、かさ歯車46が出力軸48と共に上壁部40Bに対して上方側へ押し上げられるようになっている。具体的には、シートクッション12に対するシートバック14の傾倒角度が、0度以上で15度未満の範囲及び40度以上の範囲では、偏心カム50によってかさ歯車46及び出力軸48が押し上げられる。これにより、かさ歯車44とかさ歯車46との噛み合い状態(係合状態)が解除されるようになっている。
【0031】
つまり、上記構成の下側回転力伝達機構36では、シートクッション12に対するシートバック14の傾倒角度が15度以上で40度未満の範囲では、リクライニングロッド34の回転力が大径ギヤ38、小径ギヤ42、かさ歯車44、かさ歯車46(何れも回転体)を介して増速されて出力軸48に伝達される。これにより、出力軸48が軸線回りに回転される構成になっている。一方、シートクッション12に対するシートバック14の傾倒角度が0度以上で15度未満の範囲及び40度以上の範囲では、上述の如くかさ歯車44とかさ歯車46との噛み合い状態が解除されるため、リクライニングロッド34から出力軸48への回転力の伝達が遮断される。
【0032】
上述の出力軸48には、可撓性を有する長尺なトルクケーブル26の軸線方向一端部(下端部)が同軸的かつ相対回転不能に連結されている。このトルクケーブル26は、シートバック14のサイド部内に上下にわたって延在している。このトルクケーブル26の軸線方向中間部には、カップリング51(図1参照)が設けられている。このカップリング51は、シートバック14の上端側に配置されており、トルクケーブル26は、カップリング51によって上部26Aと下部26Bとに分離可能に連結されている。このトルクケーブル26の軸線方向他端側(上端側)は、図1に示されるように、シートバック14の上端部よりも上方側へ突出しており、ヘッドレスト16に設けられた移動機構24の側へ延出されている。
【0033】
ヘッドレスト16は、前述したように、ヘッドレスト本体22が移動機構24を介してヘッドレストフレーム20に連結されている。このヘッドレスト本体22は、表皮によって覆われたパッド材を含んで構成されており、ヘッドレスト16の本体部を構成している。
【0034】
移動機構24は、図4に示される連結機構52を備えている。この連結機構52は、固定板54と、この固定板54に対してシートバック14の前方側(ヘッドレスト16の前方側)に配置された移動板56と、これらの固定板54及び移動板56を連結した左右一対のX状のリンク58とを備えている。固定板54は、ヘッドレストフレーム20の前面側に固定されており、移動板56は、ヘッドレスト本体22の後面側に取り付けられている。
【0035】
固定板54及び移動板56は、板金または樹脂材料によって形成されたものであり、平板状に形成された本体部54A、56Aを有している。これらの本体部54A、56Aは、板厚方向がヘッドレスト16の前後方向(シートバック14の前後方向と同じ。図1、図3、図4、図6の矢印B参照)に沿う状態で配置されている。本体部54Aの左右両端からは、側壁部54Bがヘッドレスト16の前方側へ向けて一体に延出されており、本体部56Aの左右両端からは、側壁部56Bがヘッドレスト16の後方側へ向けて一体に延出されている。また、一対のリンク58は、それぞれ二つのリンク部材58A、58Bからなり、リンク部材58A、58Bの略中央部がピン60により回動可能に連結されている。リンク部材58A、58Bの両端部は、固定板54及び移動板56の左右の側壁部54B、56Bにそれぞれ連結されている。
【0036】
一対のリンク部材58Aは、前端部が軸62により相互に結合されている。軸62の両端部は、移動板56の側壁部56Bにおける下端側に形成された縦長のガイド孔64にスライド可能に連結されており、リンク部材58Aの後端部は固定板54における側壁部54Bの上端側にピン66によって回動可能に連結されている。一方、一対のリンク部材58Bは、前端部が軸68、後端部が軸70によって相互に結合されている。軸68の両端部は、移動板56の側壁部56Bにおける上端側に回転自在に連結されており、軸70の両端部は、固定板54の側壁部54Bにおける下端側に形成された縦長のガイド孔72にスライド可能に連結されている。
【0037】
上述のピン60、66、及び軸62、68、70は、何れも軸線方向がヘッドレスト16の幅方向に沿う状態で配置されており、軸62、70がガイド孔64、72内を昇降することにより、左右一対のリンク58がパンタグラフのように動作するようになっている。これにより、移動板56は、固定板54に対して所定の範囲内でヘッドレスト16の前後方向に相対移動可能に連結されており、当該移動板56に取り付けられたヘッドレスト本体22が、ヘッドレストフレーム20すなわちシートバック14に対して前後に相対移動可能に連結されている。
【0038】
一方、固定板54と移動板56との間には、上側回転力伝達機構74を構成する上側ギヤボックス76が配置されている。この上側ギヤボックス76は、側面視で略三角形の箱状に形成されている。図5及び図6に示されるように、上側ギヤボックス76の上壁部76Aには、ヘッドレスト16の後方側で且つ斜め上方側へ向けて突出した連結片78が設けられており、この連結片78は、固定板54の前面に設けられた連結片80に対してヘッドレスト16の幅方向に沿ったピン82を介して回転自在に連結されている。これにより、上側ギヤボックス76が固定板54を介してヘッドレストフレーム20に支持されている(なお、図4では説明の都合上、連結片78、80及びピン82の図示が省略されている)。
【0039】
上側ギヤボックス76の内側には、入力軸84が設けられている。この入力軸84は、軸線方向がヘッドレスト16の上下方向に沿う状態で配置されており、下端部が上側ギヤボックス76の下壁部76Bに形成された貫通孔に挿入された状態で当該下壁部76Bに回転可能に支持されている。この入力軸84の下端側には、前述したトルクケーブル26の上端部が同軸的かつ相対回転不能に連結されている。このため、入力軸84は、トルクケーブル26が軸線回りに回転された際に、当該トルクケーブル26と一体で回転するようになっている。
【0040】
入力軸84の上端部には、かさ歯車86が同軸的かつ一体的に取り付けられており、このかさ歯車86には、別のかさ歯車88が噛み合っている。さらに、このかさ歯車88の軸線方向一端側には、ピニオン90が同時的かつ一体的に取り付けられている。これらのかさ歯車88及びピニオン90は、ヘッドレスト16の幅方向に沿った支軸91を介して上側ギヤボックス76の左右の側壁部76C、76Dに回転可能に支持されている。
【0041】
上述のピニオン90には、長尺状に形成されたラック92が噛み合っている。このラック92は、駆動軸94の長手方向中間部に固定されており、当該駆動軸94を介して上側ギヤボックス76に支持されている。これらのラック92及び駆動軸94は、ヘッドレスト16の前方側へ向かうに従い降下するように傾斜して配置されている。駆動軸94の後端側は、リニアベアリング96を介して上側ギヤボックス76の上壁部76Aに支持されており、当該リニアベアリング96よりも後方側の部分が上壁部76Aに形成された貫通孔を介して上側ギヤボックス76の外側(斜め後方上側)に突出している。また、駆動軸94の前端側は、リニアベアリング98を介して上側ギヤボックス76の前壁部76Bに支持されており、当該リニアベアリング98よりも前方側の部分が前壁部76Bに形成された貫通孔を介して上側ギヤボックス76の外側(斜め前方下側)に突出している。これにより、駆動軸94は、上側ギヤボックス76に対して自らの長手方向に相対移動可能に支持されている。さらに、上側ギヤボックス76の外側へ突出した駆動軸94の前端部には、連結部材100(図4参照)を介して前述した連結機構52の軸62が回転可能に連結されている。
【0042】
ここで、上記構成の上側回転力伝達機構74では、トルクケーブル26の回転力によって入力軸84が回転されると、当該入力軸84の回転力がかさ歯車86、88を介してピニオン90に伝達される。これにより、ピニオン90が回転されると、当該ピニオン90と噛み合ったラック92が駆動軸94と一体でこれらの長手方向に直線的に移動されると共に、当該駆動軸94の長手方向移動が軸62の昇降動作に変換されるようになっている。これにより、連結機構52の一対のリンク58がパンタグラフのように動作し、ヘッドレスト本体22がシートバック14に対して前後方向に相対移動される構成になっている。
【0043】
なお、図7、図8には、シートクッション12に対するシートバック14の傾倒角度(図9に示されるリクライニング角度)と、シートバック14に対するヘッドレスト本体22の移動量(ヘッドレスト作動量)との関係が表、グラフにより示されている。このヘッドレスト作動量の変化により、乗員Pの頭部P1とヘッドレスト本体22との水平方向の距離であるバックセット(バックセットの大きさ)が変更される構成になっている。
【0044】
次に、本実施形態の作用及び効果について説明する。
【0045】
上記構成の車両用シート10では、リクライニング機構18のロックが解除されてシートバック14がシートクッション12に対して傾倒されると、リクライニング機構18に設けられた出力軸48が回転する。この出力軸48と、ヘッドレスト16の移動機構24に設けられた入力軸84との間には、トルクケーブル26が掛け渡されている。このトルクケーブル26は、出力軸48の回転力によって軸線回りに回転されて入力軸84を回転させる。これにより、移動機構24がヘッドレスト本体22をシートバック14に対して前後に移動させる。これにより、バックセットを一定又は最適な範囲に保つことができるので、車両が後面衝突をした際等に乗員Pの頭部P1をヘッドレスト本体22により迅速に支持することができる。したがって、乗員Pの頸部の鞭打ち傷害を防止又は効果的に抑制することができる。
【0046】
ここで、この車両用シート10では、上述の如くリクライニング機構18とヘッドレスト16の移動機構24との間でトルクケーブル26により回転力を伝達するため、背景技術の欄で説明したシートバック構造のように、大きなヘッドレスト支持フレームをシートバックに追加する必要がない。これにより、質量の増加を抑制することができると共に低コスト化を図ることができる。また、単にトルクケーブル26をシートバック14の上下にわたって配設すればよいため、シートバック14内のスペースがトルクケーブル26の配設スペースによって不要に侵食されることがない。これにより、シートバック14の大型化を回避することができる。
【0047】
しかも、この車両用シート10では、シートバック14の傾倒に連動してリクライニング機構18のリクライニングロッド34が回転されると、当該リクライニングロッド34の回転力がリクライニング機構18の出力軸48に伝達されて出力軸48が回転される。このように、リクライニング機構18に既設されたリクライニングロッド34の回転力を利用して出力軸48を回転させるため、リクライニング機構18(下側回転力伝達機構36)の構成を簡単なものにすることができる。
【0048】
また、この車両用シート10では、シートクッション12に対するシートバック14の傾倒角度(リクライニング角度)が15度以上で40度未満の範囲では、リクライニングロッド34の回転力が、大径ギヤ38、小径ギヤ42、かさ歯車44、及びかさ歯車46を介して出力軸48に伝達され、出力軸48が軸線回りに回転される。出力軸48の回転力は、前述したように、トルクケーブル26を介して移動機構24の入力軸84に伝達され、移動機構24がヘッドレスト本体22をシートバック14に対して前後に移動させる。
【0049】
一方、シートクッション12に対するシートバック14の傾倒角度が0度以上で15度未満の範囲及び40度以上の範囲では、リクライニングロッド34に取り付けられた偏心カム50によってかさ歯車44とかさ歯車46との噛み合い状態が解除される。これにより、リクライニングロッド34から出力軸48への回転力の伝達が遮断され、トルクケーブル26を介した入力軸84(移動機構24)への回転力の伝達が遮断される。これにより、ヘッドレスト本体22がシートバック14に対して移動しなくなる。
【0050】
つまり、この車両用シート10では、シートクッション12に対するシートバック14のリクライニング角度に応じて、シートバック14に対するヘッドレスト本体22の移動をキャンセルすることができる。このため、ヘッドレスト本体22の不必要な移動により、乗員Pの快適性が阻害されることを防止又は低減することができる。
【0051】
さらに、この車両用シート10のヘッドレスト16では、ヘッドレスト本体22がX字状のリンク58を有する連結機構52を介してヘッドレストフレーム20に連結されており、当該リンク58がパンタグラフのように動作することにより、ヘッドレスト本体22がシートバック14に対して前後に移動される。これにより、簡単な構成で連結機構52を成立させることができる。また、ヘッドレストフレーム20側に支持されたピニオン90が入力軸84の回転力によって回転されることにより、当該ピニオン90に噛合されたラック92が駆動軸94と共に直線的に移動されて、連結機構52が駆動される。このように、ラックアンドピニオンによって入力軸84の回転運動が直線運動に変換される構成であるため、移動機構24を簡単な構成にすることができる。
【0052】
またさらに、この車両用シート10では、シートバック14の上端側に配置されたカップリング51において、トルクケーブル26を上部26A(ヘッドレスト16側)と下部26B(シートバック14側)とに分離することができる。これにより、シートバック14からのヘッドレスト16の取り外しを容易に行うことが可能になる。
【0053】
なお、上記実施形態では、トルクケーブル26の上部26Aと下部26Bとがカップリング51によって連結された構成にしたが、請求項1〜請求項5に係る発明はこれに限らず、カップリング51が省略され、上部26Aと下部26Bとが一体に形成された構成にしてもよい。
【0054】
また、上記実施形態では、移動機構24が、X状のリンク58を有する連結機構52、ピニオン90、ラック92等を備えた構成にしたが、請求項1〜請求項4に係る発明はこれに限らず、移動機構は、入力軸が回転された際にヘッドレスト本体22をシートバック14の上端側に対して前後に移動させるものであればよく、その構成は適宜変更することができる。例えば、前記第1実施形態に係る連結機構52の代わりに、ヘッドレスト本体22をヘッドレストフレーム20に対して前後方向にスライド可能に連結するスライド式の連結機構を採用してもよい。
【0055】
また例えば、前記第1実施形態に係る移動機構24の代わりに、図10に示される移動機構102を採用してもよい。この移動機構102は、シートバックフレームの上端部に連結されるヘッドレストフレーム20(ベース部)と、当該ヘッドレストフレーム20に対してシート幅方向に沿った軸線回りに回転可能に支持された回転軸104とを備えている。この回転軸104には、左右一対のブラケット106を介してヘッドレスト本体22が取り付けられている。この回転軸104は、ヘッドレストフレーム20に支持された図示しない入力軸の回転力が図示しないギヤを介して伝達されることにより軸線回りに回転されるようになっている。これにより、回転軸104に取り付けられたヘッドレスト本体22がヘッドレストフレーム20すなわちシートバックに対して前後に移動(回動)される構成になっている(図10の矢印R参照)。これにより、極めて簡単な構成で移動機構を成立させることができる。
【0056】
また、上記実施形態では、シートクッション12に対するシートバック14の傾倒角度(リクライニング角度)が所定の範囲(0度以上で15度未満の範囲及び40度以上の範囲)にあるときには、リクライニングロッド34に取り付けられた偏心カム50によってかさ歯車44がかさ歯車46から離間されることにより、リクライニングロッド34から出力軸48への回転力の伝達が遮断される構成(すなわちクラッチ機構が設けられた構成)にしたが、請求項1及び請求項2に係る発明はこれに限らず、クラッチ機構が省略された構成にしてもよい。また、クラッチ機構の構成、及びクラッチ機構により上記回転力の伝達が遮断されるリクライニング角度の範囲は、上記実施形態に係る構成に限定されるものではなく、適宜変更することができる。
【0057】
さらに、上記実施形態では、リクライニングロッド34の回転力がリクライニング機構18の出力軸48に伝達されて出力軸48が回転される構成にしたが、請求項1に係る発明はこれに限らず、リクライナ32を構成する歯車の回転力が出力軸に伝達されて出力軸が回転される構成にしてもよい。また、トルクケーブル26がリクライニングロッド34に直結された構成、すなわちリクライニングロッド34自体が出力軸とされた構成にしてもよい。
【0058】
また、上記実施形態では、ヘッドレスト16のヘッドレストフレーム20がシートバック14の上端部に連結された構成にしたが、請求項1〜請求項6に係る発明はこれに限らず、ヘッドレストフレームとシートバックフレームとが一体又は一体的に形成された構成にしてもよい。換言すれば、シートバックフレームが上方側に延長され、当該シートバックフレームの上端側(ベース部)にヘッドレスト本体が移動機構を介して連結された構成にしてもよい。
【0059】
また、上記実施形態では、リクライニング機構18に設けられた下側回転力伝達機構36が、大径ギヤ38、小径ギヤ42、かさ歯車44、46、及び出力軸48を備えた構成にしたが、請求項1〜請求項6に係る発明はこれに限らず、ギヤ(歯車)などの回転体(回転力伝達部材)の数や構造は適宜変更することができる。例えば、かさ歯車44、46の代わりにはずばギヤ等を適用してもよい。この点は、ヘッドレスト16側の上側回転力伝達機構74についても同様である。
【0060】
その他、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更して実施できる。また、本発明の権利範囲が上記各実施形態に限定されないことはいうまでもない。
【符号の説明】
【0061】
10 車両用シート
12 シートクッション
14 シートバック
16 ヘッドレスト
18 リクライニング機構
20 ヘッドレストフレーム(ベース部)
22 ヘッドレスト本体
24 移動機構
26 トルクケーブル
26A 上部
26B 下部
34 リクライニングロッド
38 大径ギヤ(回転体)
42 小径ギヤ(回転体)
44 かさ歯車(回転体)
46 かさ歯車(回転体)
48 出力軸
50 偏心カム(カム)
51 カップリング
52 連結機構
84 入力軸
90 ピニオン
92 ラック
102 移動機構
104 回転軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートバックの下端側に設けられ、前記シートバックを前記シートクッションに対して傾倒角度を調節可能に連結すると共に、前記シートバックの傾倒に連動して回転される出力軸が設けられたリクライニング機構と、
ヘッドレスト本体が移動機構を介して前記シートバックの上端側に連結されると共に、前記移動機構に設けられた入力軸が回転されることにより前記ヘッドレスト本体が前記シートバックに対して前後に移動されるヘッドレストと、
前記出力軸と前記入力軸との間に掛け渡され、前記出力軸の回転力により軸線回りに回転されて前記入力軸を回転させるトルクケーブルと、
を備えた車両用シート。
【請求項2】
前記出力軸は、前記リクライニング機構に設けられたリクライニングロッドの回転力が伝達されて回転されることを特徴とする請求項1に記載の車両用シート。
【請求項3】
前記リクライニングロッドの回転力は、複数の回転体を介して前記トルクケーブルに伝達されると共に、前記シートクッションに対する前記シートバックの傾倒角度が所定の範囲にあるときには、前記リクライニングロッドに取り付けられたカムによって前記複数の回転体のうちの一つ又は複数が他の回転体から離間されることにより前記リクライニングロッドから前記出力軸への回転力の伝達が遮断されるように構成されたことを特徴とする請求項2に記載の車両用シート。
【請求項4】
前記移動機構は、
前記シートバックの上端側に設けられたベース部と、
前記ベース部に対して前記ヘッドレスト本体を相対移動可能に連結した連結機構と、
前記ベース部側に支持され、前記入力軸の回転力により回転されるピニオンと、
前記ピニオンに噛合されると共に前記ヘッドレスト本体側に連結されたラックと、
を有することを特徴とする請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の車両用シート。
【請求項5】
前記移動機構は、
前記シートバックの上端部側に設けられたベース部と、
前記ベース部に対してシート幅方向に沿った軸線回りに回転可能に支持され、前記ヘッドレスト本体が取り付けられると共に、前記入力軸の回転力により回転される回転軸と、
を有することを特徴とする請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の車両用シート。
【請求項6】
前記トルクケーブルは、前記シートバックの上端側に配置されたカップリングを介して上部と下部が分離可能に連結されていることを特徴とする請求項1〜請求項5の何れか1項に記載の車両用シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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