説明

車両用シート

【課題】後面衝突時にシートバックフレームに衝撃力が付与された際にサイドフレームが変形しすぎることを抑制する。
【解決手段】車両用シート10では、バックサイドフレーム44にはインナブラケット60が設けられている。シートバックフレーム42に車両後方への衝撃力が付与されてバックサイドフレーム44が変形して、バックサイドフレーム44の変位量が基準量に達した際に、コネクティングロッド36にインナブラケット60の溝部66が当接することで、バックサイドフレーム44の変形が抑制される。これにより、バックサイドフレーム44が変形しすぎることを抑制できる。しかも、バックサイドフレーム44がコネクティングロッド36に当接した際には、バックサイドフレーム44に付与された衝撃力がインナブラケット60を介してコネクティングロッド36へも伝達される。このため、リクライナ32へ衝撃力が入力されることも抑制できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変形起点部が設けられたサイドフレームを備えた車両用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
車両用シートでは、シートバックフレームの一部を構成するサイドフレームに溝部(変形起点部)が設けられたものがある。この溝部(変形起点部)は、例えば下記特許文献1の図2に示されるように、サイドフレームの下端部に設けられると共に、略C字形状に形成されて、車両後方へ開放されている。そして、車両の後突時にシートバックフレームに衝撃力が付与された際には、サイドフレームが当該溝部を起点として変形することで、シートバックフレームに付与された衝撃力が吸収される。これにより、例えば、サイドフレームに設けられるリクライニングユニットへ衝撃力が入力されることを抑制できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−347436号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の車両用シートでは、サイドフレームが変形する部位を溝部によって設定できるものの、溝部のみでサイドフレームの変形量を調整することは困難である。特に、サイドフレームが変形しすぎると、サイドフレームが破断する可能性がある。
【0005】
本発明は、上記事実を考慮し、後面衝突時にシートバックフレームに衝撃力が付与された際にサイドフレームが変形しすぎることを抑制できる車両用シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の車両用シートは、シートバックの骨格となるシートバックフレームの一部を構成する一対のサイドフレームと、一対の前記サイドフレームの少なくとも一方に設けられ、後面衝突時に前記シートバックフレームに付与された衝撃力によって前記サイドフレームが変形する際の起点となる変形起点部と、この変形起点部が設けられた前記サイドフレームに設けられ、当該サイドフレームの前記変形起点部を起点とした変形を許容すると共に、当該サイドフレームの変位量が基準量に達した際に前記シートバックフレームに設けられた被当接部材に当接することで前記サイドフレームの基準量以上の変形を抑制する変形抑制手段と、を備えている。
【0007】
請求項1に記載の車両用シートでは、シートバックフレームが一対のサイドフレームを含んで構成されている。一対のサイドフレームの少なくとも一方には変形起点部が設けられており、後面衝突時にシートバックフレームに衝撃力が付与された際に、変形起点部を起点としてサイドフレームが変形する。
【0008】
ここで、変形起点部が設けられたサイドフレームには、変形抑制手段が設けられており、変形抑制手段は、サイドフレームの変形起点部を起点とした変形を許容する。このため、後面衝突時にシートバックフレームに付与された衝撃エネルギーがサイドフレームの変形に用いられるため、シートバックフレームに付与された衝撃力を吸収できる。これにより、例えば、サイドフレームに設けられるリクライニングユニットに衝撃力が入力されることを抑制できる。
【0009】
また、サイドフレームの変位量が基準値に達した際に、シートバックフレームに設けられた被当接部材に変形抑制手段が当接することで、サイドフレームの変形が抑制される。これにより、サイドフレームが変形しすぎることを抑制できる。しかも、変形抑制手段が被当接部材に当接した際には、サイドフレームに付与された衝撃力が変形抑制手段を介して被当接接部材にも伝達される。このため、この際においても、リクライニングユニットに衝撃力が入力されることを抑制できる。
【0010】
請求項2に記載の車両用シートは、請求項1に記載の車両用シートにおいて、前記変形抑制手段は、前記サイドフレームの変形に追従して前記サイドフレームに対して相対移動可能に連結されている。
【0011】
請求項2に記載の車両用シートでは、サイドフレームの変形に追従して変形抑制手段がサイドフレームに対して相対移動可能に連結されているため、サイドフレームが変形する際には、変形抑制手段がサイドフレームの変形に従ってサイドフレームに対して相対移動する。これにより、設定された変形抑制手段の移動軌跡に沿って変形抑制手段が移動されるため、変形抑制手段を被当接部材に確実に当接させることができる。
【0012】
請求項3に記載の車両用シートは、請求項1又は請求項2に記載の車両用シートにおいて、前記変形抑制手段は、前記サイドフレームに回動可能に連結されると共に、前記サイドフレームに係合される係合部と前記被当接部材に当接可能に構成された当接部とを含んで構成され、前記サイドフレームの変形に追従して前記係合部が移動することで前記変形抑制手段が回動されて前記当接部が前記被当接部材に当接される。
【0013】
請求項3に記載の車両用シートでは、サイドフレームに変形抑制手段が回動可能に連結されている。また、変形抑制手段は、係合部と当接部とを含んで構成されている。係合部は、サイドフレームに係合されて、サイドフレームの変形に追従して移動する。また、当接部は被当接部材に当接可能に構成されており、係合部が移動することで、変形抑制手段が回動されて、当接部が被当接部材に当接する。
【0014】
このため、当接部が被当接部材に当接した際には、被当接部材から変形抑制手段に作用する反力によって変形抑制手段に回動力が作用して、当該回動力によってサイドフレームの変形を抑制できる。これにより、例えば、変形抑制手段の回動中心から係合部までの長さ、及び変形抑制手段の回動中心から当接部までの長さによって、変形抑制手段及び被当接部材に作用する応力値が変わるため、変形抑制手段及び被当接部材の曲げ強度に対応した変形抑制手段の設計を容易にすることができる。
【0015】
請求項4に記載の車両用シートは、請求項3に記載の車両用シートにおいて、前記変形抑制手段の回動中心から前記係合部までの長さが、前記変形抑制手段の回動中心から前記当接部までの長さに比して短く設定されている。
【0016】
請求項4に記載の車両用シートでは、変形抑制手段の回動中心から変形抑制手段の係合部までの長さが、変形抑制手段の回動中心から変形抑制手段の当接部までの長さに比して短く設定されているため、当接部が被当接部材に当接した際の当接部から被当接部材に作用する力を小さくできる。これにより、サイドフレームの変形を効率よく抑制できる。
【0017】
請求項5に記載の車両用シートは、請求項3又は請求項4に記載の車両用シートにおいて、前記変形抑制手段の回動中心部が締結部材により前記サイドフレームに締結されている。
【0018】
請求項5に記載の車両用シートでは、変形抑制手段の回動中心部が締結部材によりサイドフレームに締結されているため、シートバックフレームに付与された衝撃力が、締結部材による変形抑制手段とサイドフレームとの間の締結力及びサイドフームの曲げ強度より大きい場合に、サイドフレームの変形が開始される。これにより、シートバックフレームに付与された衝撃エネルギーが、当該締結力に抗する変形抑制手段の回動、及び、サイドフレームの変形に用いられるため、シートバックフレームに付与された衝撃力を効果的に吸収できる。したがって、例えば、リクライニングユニットへ衝撃力が入力されることを効果的に抑制できる。
【0019】
請求項6に記載の車両用シートは、請求項1〜請求項5の何れか1項に記載の車両用シートにおいて、一対の前記サイドフレームの下端部にそれぞれ設けられ、前記シートバックを傾倒可能に支持する一対のリクライニングユニットと、一対の前記リクライニングユニットを連結する連結軸と、を備え、前記被当接部材が前記連結軸とされている。
【0020】
請求項6に記載の車両用シートでは、一対のサイドフレームの下端部にリクライニングユニットがそれぞれ設けられており、リクライニングユニットは連結軸によって連結されている。ここで、この連結軸が被当接部材とされている。これにより、比較的曲げ強度の高い連結軸を利用して、サイドフレームが変形しすぎることを抑制できる。
【0021】
請求項7に記載の車両用シートは、請求項6に記載の車両用シートにおいて、前記変形抑制手段が前記サイドフレームの下端部に設けられている。
【0022】
請求項7に記載の車両用シートでは、変形抑制手段が前記サイドフレームの下端部に設けられているため、変形抑制手段を小型化できる。
【発明の効果】
【0023】
請求項1に記載の車両用シートによれば、後面衝突時にシートバックフレームに衝撃力が付与された際にサイドフレームが変形しすぎることを抑制できる。
【0024】
請求項2に記載の車両用シートによれば、変形抑制手段を被当接部材に確実に当接させることができる。
【0025】
請求項3に記載の車両用シートによれば、変形抑制手段の設計自由度を広げることができる。
【0026】
請求項4に記載の車両用シートによれば、サイドフレームの変形を効率よく抑制できる。
【0027】
請求項5に記載の車両用シートによれば、例えば、シートバックフレームに連結されるリクライニングユニットへ衝撃力が入力されることを効果的に抑制できる。
【0028】
請求項6に記載の車両用シートによれば、リクライニング機構の連結軸を利用して、サイドフレームが変形しすぎることを抑制できる。
【0029】
請求項7に記載の車両用シートによれば、変形抑制手段を小型化できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施の形態に係る車両用シートに用いられるシートバックフレームの車両右方部分の下端部を示す斜視図である。
【図2】図1に示される車両用シートをシート左方から見た側面図である。
【図3】図1に示されるシートバックフレームの車両右方部分の下端部をインナブラケットの一部を破断した状態で示す斜視図である。
【図4】図1に示されるシートバックフレームの車両右方部分の下端部を車幅方向内側から見た一部破断した側面図である。
【図5】車両の後突時においてシートバックフレームが変形した際のシートバックフレームの車両右方部分の下端部を示す車幅方向内側から見た側面図である。
【図6】図1に示されるシートバックフレームに締結されるインナブラケットを示す車幅方向内側から見た一部破断した側面図である。
【図7】図1に示されるシートバックフレームに締結されるインナブラケットを示す車幅方向内側から見た一部破断した側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
図2には、本発明の実施の形態に係る車両用シート10の全体が車両左方から見た側面図にて示されている。なお、図面に適宜示される矢印FRは車両前方を示し、矢印RHは車両右方(車幅方向一側)を示し、矢印UPは上方を示す。
【0032】
この図に示されるように、車両用シート10は、乗員Pが着座するシートクッション20と、乗員Pの背部を支えるシートバック40と、シートクッション20を車両の車体フロアに連結するためのスライドレール12と、シートクッション20に対してシートバック40を傾倒可能に支持するリクライニング機構30と、を含んで構成されている。
【0033】
スライドレール12は、車両用シート10の下部を構成している。スライドレール12は、一対の長尺状のロアレール14を有しており、一対のロアレール14は、シート前後方向に沿って平行に配置されている。ロアレール14は、車両前端部及び車両後端部において、それぞれレッグブラケット18を介して車体フロアに固定されている。各ロアレール14内には、アッパーレール16がそれぞれ設けられており、アッパーレール16はロアレール14に対してシート前後方向にスライド可能に支持されている。
【0034】
シートクッション20は、ロアレール14の上方に設けられている。シートクッション20は、車両後方に向かうに従い水平もしくは下向に傾斜して配置されており、シートクッション20の上部に乗員Pが着座する。シートクッション20の内部には、クッションフレーム22が設けられており、クッションフレーム22はシートクッション20の骨格を構成している。クッションフレーム22は、シート幅方向両側部において、一対のクッションサイドフレーム24を有しており、クッションサイドフレーム24はそれぞれアッパーレール16に固定されている。
【0035】
一対のクッションサイドフレーム24の車両後方端部には、それぞれヒンジブラケット26が設けられている。ヒンジブラケット26は、板金により製作されると共に略三角形状に形成されており、ヒンジブラケット26の下部が、図示しないボルト及びナット等の締結部材によってクッションサイドフレーム24に締結されている。また、ヒンジブラケット26には、上部において、後述するリクライニング機構30のリクライナ32を組付けるための組付部28が設けられている。
【0036】
図1に示すように、リクライニング機構30は、「リクライニングユニット」としての一対のリクライナ32と、「被当接部材」及び「連結軸」としてのコネクティングロッド36と、を含んで構成されている。なお、図1では、車両右方のリクライナ32のみ示されている。
【0037】
リクライナ32は、略円盤状に形成されると共に、ヒンジブラケット26と後述するバックサイドフレーム44の下端部との間に配置されて、両者を連結している。このリクライナ32は、後述するシートバック40を傾倒可能に支持すると共に、シートクッション20に対するシートバック40の傾斜角度(リクライニング角度)を調節可能に構成されている。また、リクライナ32の中央部には、シャフト状の連結シャフト34が設けられており、連結シャフト34はリクライナ32から車幅方向内側(一対のリクライナ32が対向する方向)へ突出されている。
【0038】
コネクティングロッド36は、金属のパイプ材により製作されている。コネクティングロッド36は、一対のリクライナ32の間において、車幅方向に沿って延設されると共に、連結シャフト34と同軸上に配置されている。コネクティングロッド36の車幅方向両端部には、連結部38が設けられており、連結部38は、プレス加工等によって断面略C字形状に形成されている。この連結部38は、溶接等によってリクライナ32の連結シャフト34と結合されており、これにより、一対のリクライナ32が連結されている。
【0039】
また、リクライニング機構30は、周知のロック機構(図示省略)を備えており、ロック機構が後述するシートバック40を傾倒不能にロック(拘束)することで、シートバック40が、調節された位置に保持される。
【0040】
図2に示すように、シートバック40は、シートクッション20の車両後方端部に起立した状態で設けられている。シートバック40の内部には、シートバックフレーム42が設けられており、シートバックフレーム42はシートバック40の骨格を構成している。
【0041】
図1にも示すように、シートバックフレーム42には、車幅方向両側部において、「サイドフレーム」としての一対のバックサイドフレーム44が設けられている。バックサイドフレーム44は、高張力鋼板により製作されると共に、略上下方向に沿って延設されている。バックサイドフレーム44の下端部には、前述したリクライナ32が設けられており、これにより、シートバック40(シートバックフレーム42)が、リクライナ32によってコネクティングロッド36の軸心回りに傾倒可能にされている。
【0042】
図3に示すように、バックサイドフレーム44の外周部には、上端部を除く部分において、周縁壁46が一体に設けられており、周縁壁46はバックサイドフレーム44から車幅方向内側(一対のバックサイドフレーム44が対向する方向)に突出されている。
【0043】
この周縁壁46とバックサイドフレーム44との境界部分における車両後方部分には、バックサイドフレーム44の下端部において、「変形起点部」としての脆弱部48(図3において2点鎖線で囲まれた部分)が設けられている。この脆弱部48には4箇所の曲げ稜線50が形成されて、脆弱部48が車両後方へ突出されるように形成されている。
【0044】
ここで、車両の後突時にシートバックフレーム42に衝撃力(衝撃荷重)が付与された際には、バックサイドフレーム44に車両後方への衝撃力が作用する。そして、バックサイドフレーム44の下端部には、上述の曲げ稜線50が形成されているため、この衝撃力によってバックサイドフレーム44に生じる応力は各曲げ稜線50の部位に集中する。これにより、バックサイドフレーム44は、脆弱部48の曲げ稜線50部位において、曲がり易く構成されている。このため、シートバックフレーム42に車両後方の衝撃力(衝撃荷重)が付与された際には、バックサイドフレーム44が脆弱部48を起点として車両後方(図4の矢印A方向)へ変形するように構成されている。
【0045】
また、バックサイドフレーム44には、脆弱部48の車両前方において、円形状の被係合孔52(広義には、「被係合部」として把握される要素である)が貫通形成されている。さらに、バックサイドフレーム44には、被係合孔52の下方において、挿通孔53が貫通形成されており、挿通孔53内に、後述するインナブラケット60をバックサイドフレーム44に締結させるための締結ボルト70が挿通されている(図1参照)。なお、この挿通孔53は脆弱部48に対しても下方に配置されている。またさらに、バックサイドフレーム44の車幅方向外側面には、図示しないウェルドナットが固定されており、ウェルドナットは挿通孔53と同軸上に配置されている。
【0046】
図2に示すように、シートバックフレーム42には、上部において、アッパーフレーム54が設けられている。アッパーフレーム54は、車両前方から見て略逆U字形状に形成されており、アッパーフレーム54の両端部が、バックサイドフレーム44の上部に溶接等で結合されている。
【0047】
次に本発明の要部である「変形抑制手段」としての一対のインナブラケット60について説明する。図1及び図4に示すように、インナブラケット60は、一対のバックサイドフレーム44の車幅方向内側(バックサイドフレーム44が互いに対向する方向)かつリクライニング機構30のコネクティングロッド36の上方にそれぞれ設けられている。このインナブラケット60は、板金により製作されると共に、側面視において略矩形状に形成されている。なお、図1及び図4は、車両右方におけるインナブラケット60のみ示している。
【0048】
インナブラケット60の略中央部には、締結部62が設けられており、締結部62は、凹状に形成されて、インナブラケット60からバックサイドフレーム44側へ突出されている。この締結部62の中央部には、図示しない締結孔が貫通形成されており、締結孔はバックサイドフレーム44の挿通孔53と同軸上に配置されている。この締結孔内及び挿通孔53内には、「締結部材」としての締結ボルト70が挿通されており、締結ボルト70はウェルドナットに螺合されている。これにより、締結ボルト70によって、インナブラケット60がバックサイドフレーム44に締結(連結)されている。
【0049】
インナブラケット60には、上端部(一端部)において、「係合部」としてのフック部64が設けられている。フック部64は、バックサイドフレーム44側へ屈曲されて、バックサイドフレーム44の被係合孔52内に挿入されており、これにより、インナブラケット60の上端部がバックサイドフレーム44に回動可能に係合されている。
【0050】
インナブラケット60には、下端部(他端部)において、「当接部」としての溝部66が設けられている。溝部66は、側面視において略逆U字形状に形成されると共に、下方へ開放されており、溝部66内にリクライニング機構30のコネクティングロッド36が配置されている。
【0051】
ここで、インナブラケット60は、締結ボルト70によってバックサイドフレーム44に締結されているため、通常時では、インナブラケット60はバックサイドフレーム44に回動不能に締結(連結)されている。そして、バックサイドフレーム44が脆弱部48を起点として車両後方へ変形した場合には、バックサイドフレーム44の被係合孔52が車両後方へ変位することで、インナブラケット60のフック部64が被係合孔52の変位に追従して移動すると共に、インナブラケット60が、締結ボルト70を中心に図4における矢印B方向へバックサイドフレーム44に対して相対回動(移動)するように構成されている。さらに、バックサイドフレーム44の変位量が基準量に達した際(被係合孔52の変位量が基準量に達した際)に、溝部66の内周部の車両後方部分がコネクティングロッド36の連結部38の外周部に当接するように設定されている(図5参照)。なお、図5では、被係合孔52が変位する前の位置を2点鎖線で示している。
【0052】
また、図5に示すように、インナブラケット60の回動中心(締結ボルト70の軸心)からフック部64(フック部64における被係合孔52との当接部位)までの長さL1が、インナブラケット60の回動中心から溝部66におけるコネクティングロッド36との当接部位までの長さL2に比べて、短く設定されている。
【0053】
さらに、インナブラケット60の外周部には、上端部及び下端部を除く部分において、フランジ部68が一体に設けられている。フランジ部68はインナブラケット60からバックサイドフレーム44とは反対側へ突出されており、これにより、インナブラケット60の強度が確保されている。
【0054】
次に、本実施の形態における作用及び効果について説明する。
【0055】
上述のように構成された車両用シート10では、車両用シート10に乗員Pが着座している状態で、車両後方から他の車両によって車両が衝突(後突)された場合(後面衝突された場合)や車両が後方へ走行している際に他の車両等に車両が衝突した場合には、乗員Pに車両後方への慣性力が作用する。この際には、この慣性力によって、乗員Pがシートバック40側(車両後方)へ移動することで、乗員Pからシートバック40(シートバックフレーム42)に車両後方への衝撃力(衝撃荷重)が付与されて、この衝撃力がバックサイドフレーム44に伝達される(作用する)。
【0056】
そして、バックサイドフレーム44には、脆弱部48の部位において、曲げ稜線50が設けられているため、当該衝撃力によるバックサイドフレーム44に生じる応力が各曲げ稜線50の部位に集中する。これにより、バックサイドフレーム44が脆弱部48を起点として車両後方(図4の矢印A方向)へ変形しようとする。
【0057】
また、バックサイドフレーム44には、締結ボルト70によってインナブラケット60が締結されており、インナブラケット60のフック部64がバックサイドフレーム44の被係合孔52に係合されている。このため、バックサイドフレーム44が脆弱部48を起点として車両後方へ変形しようとすると、この変形に従って被係合孔52が車両後方へ変位しようとするため、被係合孔52の内周部がフック部64に当接して、被係合孔52からフック部64(インナブラケット60)へ衝撃力が伝達される。
【0058】
そして、バックサイドフレーム44に作用する衝撃力が、バックサイドフレーム44の曲げ強度及び締結ボルト70によるインナブラケット60とバックサイドフレーム44との間の締結力より大きい場合に、脆弱部48を起点としたバックサイドフレーム44の変形が開始される。
【0059】
この際には、バックサイドフレーム44における脆弱部48の車両前方部分から上方の部分が、主に変形する。換言すると、バックサイドフレーム44における脆弱部48の車両前方部分に対して下方の部分は、ほとんど変形しない。そして、バックサイドフレーム44が変形すると、この変形に従って被係合孔52が車両後方へ変位するため、インナブラケット60のフック部64が被係合孔52の変位に追従して車両後方へ移動される。このため、インナブラケット60が締結ボルト70を中心に図4の矢印B方向へ回動される。
【0060】
そして、バックサイドフレーム44の変位量が基準量に達した際(被係合孔52の変位量が基準量に達した際)には、溝部66の内周部の車両後方部分がコネクティングロッド36の連結部38の外周部に当接する。これにより、バックサイドフレーム44がインナブラケット60及びコネクティングロッド36に支持されて、バックサイドフレーム44の変形が抑制される。
【0061】
ここで、上述したように、バックサイドフレーム44にはインナブラケット60が設けられている。また、シートバックフレーム42に車両後方への衝撃力が付与されてバックサイドフレーム44が変形する際には、バックサイドフレーム44の変形に追従してインナブラケット60が回動される。このため、バックサイドフレーム44の脆弱部48を起点とした変形が許容される。これにより、後面衝突時にシートバックフレーム42に付与された衝撃エネルギーがバックサイドフレーム44の変形に用いられるため、シートバックフレーム42に付与された衝撃力を吸収できる。したがって、リクライナ32へ衝撃力が入力されることを抑制(低減)できる。
【0062】
また、バックサイドフレーム44の変位量が基準量に達した際(被係合孔52の変位量が基準量に達した際)に、リクライニング機構30のコネクティングロッド36にインナブラケット60の溝部66が当接することで、バックサイドフレーム44の変形が抑制される。これにより、バックサイドフレーム44が変形しすぎることを抑制できる。しかも、バックサイドフレーム44がコネクティングロッド36に当接した際には、バックサイドフレーム44に付与(伝達)された衝撃力がインナブラケット60を介してコネクティングロッド36へも伝達される。このため、この際においてもリクライナ32へ衝撃力が入力されることを抑制(低減)できる。以上により、後面衝突時にシートバックフレーム42に衝撃力が付与された際にバックサイドフレーム44が変形しすぎることを抑制できる。
【0063】
さらに、インナブラケット60がバックサイドフレーム44に相対移動(回動)可能に締結(連結)されており、バックサイドフレーム44の変形に追従してインナブラケット60が締結ボルト70回りに移動(回動)される。このため、バックサイドフレーム44が変形する際には、設定されたインナブラケット60の移動(回動)軌跡に沿って溝部66が移動(回動)されるため、溝部66の内周部をコネクティングロッド36の外周部に確実に当接させることができる。
【0064】
また、インナブラケット60のフック部64は、バックサイドフレーム44の被係合孔52に係合されて、バックサイドフレーム44の変形に追従して移動される。また、インナブラケット60のフック部64が移動することで、インナブラケット60が回動されて、溝部66がコネクティングロッド36に当接する。
【0065】
このため、溝部66の内周部がコネクティングロッド36の外周部に当接した際には、コネクティングロッド36からインナブラケット60に作用する反力によってインナブラケット60に回動力が作用して、当該回動力によってバックサイドフレーム44の変形を抑制できる。これにより、インナブラケット60の回動中心からフック部64までの長さL1、及びインナブラケット60の回動中心から溝部66までの長さL2によって、インナブラケット60及びコネクティングロッド36に作用する応力値が変わるため、インナブラケット60及びコネクティングロッド36の曲げ強度に対応してインナブラケット60を容易に設計することができる。
【0066】
さらに、インナブラケット60の回動中心からフック部64までの長さL1が、インナブラケット60の回動中心から溝部66のコネクティングロッド36との当接部位までの長さL2に比して短く設定されている。このため、インナブラケット60の溝部66がコネクティングロッド36に当接した際の溝部66(インナブラケット60)からコネクティングロッド36に作用する力を小さくできる。これにより、バックサイドフレーム44の変形を効率よく抑制できる。
【0067】
また、締結ボルト70によりインナブラケット60がバックサイドフレーム44に締結されている。このため、バックサイドフレーム44に伝達された衝撃力が、締結ボルト70によるインナブラケット60とバックサイドフレーム44との間の締結力及びバックサイドフレーム44の曲げ強度より大きい場合に、バックサイドフレーム44の変形が開始される。これにより、シートバックフレーム42に付与された衝撃エネルギーが、当該締結力に抗するインナブラケット60の回動及びバックサイドフレーム44の変形に用いられるため、シートバックフレーム42に付与された衝撃力を効果的に吸収できる。したがって、リクライナ32に衝撃力が入力されることを効果的に抑制できる。
【0068】
さらに、インナブラケット60の溝部66がコネクティングロッド36に当接する。これにより、比較的曲げ強度の高いコネクティングロッド36を利用して、バックサイドフレーム44が変形しすぎることを抑制できる。しかも、バックサイドフレーム44は、コネクティングロッド36の軸心回りに傾倒されるため、シートクッション20に対してバックサイドフレーム44が傾倒されても、バックサイドフレーム44に対するコネクティングロッド36の相対位置が変化しない。これにより、インナブラケット60の設計を一層容易にすることができる。
【0069】
また、インナブラケット60が、バックサイドフレーム44の下端部に設けられている。このため、インナブラケット60のフック部64から溝部66までの距離を短くできるため、インナブラケット60を小型化できる。
【0070】
さらに、インナブラケット60の溝部66が側面視において逆U字形状に形成されており、溝部66内にコネクティングロッド36が配置されている。これにより、車両の前突時においてバックサイドフレーム44が変形する際にも、インナブラケット60が締結ボルト70の軸心を中心に図4に示す矢印B方向とは反対方向へ回動されて、溝部66の内周部の車両前方部分がコネクティングロッド36に当接する。したがって、車両の前突時においてもコネクティングロッド36にインナブラケット60を当接させることができるため、車両の前突時におけるシートバック40の車両前方への移動量を抑制できる。
【0071】
また、挿通孔53(締結ボルト70)が脆弱部48に対して下方に配置されている。これにより、バックサイドフレーム44が変形する際にインナブラケット60の回動中心の位置がほとんど変位しないため、コネクティングロッド36に対するインナブラケット60の回動軌跡を安定化でき、インナブラケット60をコネクティングロッド36に一層確実に当接させることができる。
【0072】
なお、本実施の形態では、バックサイドフレーム44が脆弱部48を起点として変形する際に、バックサイドフレーム44の被係合孔52の変位に追従してインナブラケット60のフック部64が移動するように構成されている。これに替えて、バックサイドフレーム44が脆弱部48を起点として変形する際に、フック部64が被係合孔52から多少引き抜かれながら、インナブラケット60が締結ボルト70回りに回動されるように、フック部64を構成してもよい。これにより、例えば、インナブラケット60の回動中心から被係合孔52の変位後の位置までの長さが、インナブラケット60の回動中心からフック部64までの長さL1より長くなるように、被係合孔52が変位する場合でも、インナブラケット60をバックサイドフレーム44に対して相対回動させることができる。
【0073】
また、本実施の形態では、バックサイドフレーム44の被係合孔52内にインナブラケット60のフック部64が挿入されて、インナブラケット60の上端部とバックサイドフレーム44とが係合されているが、インナブラケット60の上端部とバックサイドフレーム44との係合はこれに限らない。例えば、図6に示すように、フック部64における屈曲を省略して、被係合孔52の代わりに車幅方向内側へ突出された凸部80をバックサイドフレーム44に設けると共に、当該凸部80をフック部64に当接させた状態でフック部64の側方に配置してもよい。これにより、上述と同様に、インナブラケット60の回動中心から被係合孔52の変位後の位置までの長さが、インナブラケット60の回動中心からフック部64までの長さL1より長くなるように、被係合孔52が変位する場合でも、インナブラケット60をバックサイドフレーム44に対して相対回動させることができる。
【0074】
さらに、本実施の形態では、インナブラケット60が板金により製作されている。これに替えて、図7に示すように、インナブラケット60が金属の棒材により製作されてもよい。この場合には、金属の棒材をプレス加工等することにより締結部62を形成すると共に、当該棒材をU字形状に屈曲させることで、溝部66を形成してもよい。
【0075】
また、本実施の形態では、締結ボルト70によってインナブラケット60がバックサイドフレーム44に締結されているが、インナブラケット60がバックサイドフレーム44に回動可能に軸支されてもよい。
【0076】
さらに、本実施の形態では、インナブラケット60の溝部66がコネクティングロッド36の外周部に当接可能に構成されているが、インナブラケット60の溝部66が当接される部材は、これに限らない。例えば、インナブラケット60の溝部66がクッションフレーム22に当接されるように構成してもよい。
【0077】
また、本実施の形態では、インナブラケット60が一対のバックサイドフレーム44にそれぞれ設けられているが、インナブラケット60を一対のバックサイドフレーム44の何れか一方に設けるように構成してよい。例えば、モータの駆動によりシートクッション20に対してシートバック40の傾倒させる所謂パワーリクライニングとしてリクライニング機構30を構成した場合には、一般にモータがバックサイドフレーム44の車幅方向内側に配置されるため、モータの配置されていないバックサイドフレーム44側にインナブラケット60を配置してもよい。
【0078】
さらに、本実施の形態では、リクライニング機構30を備えた車両用シート10にインナブラケット60を適用したが、リクライニング機構30を省略した車両用シート10にインナブラケット60を適用してもよい。この場合には、コネクティングロッド36の位置に、バックサイドフレーム44とクッションサイドフレーム24に連結するための連結パイプを延設させて、この連結パイプにインナブラケット60の溝部66を当接可能に構成してもよい。
【0079】
また、本実施の形態では、インナブラケット60の溝部66の車両後方部分がコネクティングロッド36に当接されるため、インナブラケット60の溝部66の車両前方部分を省略してもよい。これにより、インナブラケット60を一層小型化できる。
【0080】
さらに、本実施の形態では、バックサイドフレーム44が高張力鋼板で製作されている。これに替えて、バックサイドフレーム44を一般の圧延鋼板により製作してもよい。
【符号の説明】
【0081】
10 車両用シート
32 リクライナ(リクライニングユニット)
36 コネクティングロッド(被当接部材)(連結軸)
40 シートバック
42 シートバックフレーム
44 バックサイドフレーム(サイドフレーム)
48 脆弱部(変形起点部)
60 インナブラケット(変形抑制手段)
64 フック部(係合部)
66 溝部(当接部)
L1 長さ
L2 長さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートバックの骨格となるシートバックフレームの一部を構成する一対のサイドフレームと、
一対の前記サイドフレームの少なくとも一方に設けられ、後面衝突時に前記シートバックフレームに付与された衝撃力によって前記サイドフレームが変形する際の起点となる変形起点部と、
この変形起点部が設けられた前記サイドフレームに設けられ、当該サイドフレームの前記変形起点部を起点とした変形を許容すると共に、当該サイドフレームの変位量が基準量に達した際に前記シートバックフレームに設けられた被当接部材に当接することで前記サイドフレームの基準量以上の変形を抑制する変形抑制手段と、
を備えた車両用シート。
【請求項2】
前記変形抑制手段は、前記サイドフレームの変形に追従して前記サイドフレームに対して相対移動可能に連結された請求項1に記載の車両用シート。
【請求項3】
前記変形抑制手段は、前記サイドフレームに回動可能に連結されると共に、前記サイドフレームに係合される係合部と前記被当接部材に当接可能に構成された当接部とを含んで構成され、
前記サイドフレームの変形に追従して前記係合部が移動することで前記変形抑制手段が回動されて前記当接部が前記被当接部材に当接される請求項1又は請求項2に記載の車両用シート。
【請求項4】
前記変形抑制手段の回動中心から前記係合部までの長さが、前記変形抑制手段の回動中心から前記当接部までの長さに比して短く設定された請求項3に記載の車両用シート。
【請求項5】
前記変形抑制手段の回動中心部が締結部材により前記サイドフレームに締結された請求項3又は請求項4に記載の車両用シート。
【請求項6】
一対の前記サイドフレームの下端部にそれぞれ設けられ、前記シートバックを傾倒可能に支持する一対のリクライニングユニットと、
一対の前記リクライニングユニットを連結する連結軸と、
を備え、
前記被当接部材が前記連結軸とされた請求項1〜請求項5の何れか1項に記載の車両用シート。
【請求項7】
前記変形抑制手段が前記サイドフレームの下端部に設けられた請求項6に記載の車両用シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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